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グローバル人材

文部科学教育通信 No.278 2011-10-24に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(9)をご紹介します。

 

ハーバード教育大学院主催の勉強会において紹介されたアジア・ソサエティの提唱する「グローバルコンピテンス教育~新しい時代に備えた教育を子どもたちに~」をご紹介します。

なぜ今グローバルコンピテンス教育が必要か?

私たちが子どもたちを育てている今日の社会は、私たちが生まれ育った頃の工業化社会とは質的に大きく異なっています。今日の社会は、グロ-バル経済や文化、新しいデジタル技術や不安定な地球環境に影響を受けやすく、社会の変化のめまぐるしさは産業革命初期に匹敵するものがあります。

今後、ますます、世界のグローバル化が子どもたちの生活に大きな影響を与え、仕事の内容、市民参加、自己表現、社会生活、健康問題等全てがグローバルな視点で扱われるようになります。「環境保護」「移民の問題」「貧困問題」「グローバルな健康問題」「人権問題」「デジタル革命」というような差し迫った問題を解決するには、国境を越えて協力することのできる強い能力を持った人々が必要です。また、職場で、プライベートな場で、インターネット上で、グローバルな問題を解決できる人材が必要になってきています。

このような変化の中で、21世紀を豊かに生きるために子供たちにとって何が最も重要であるかを考慮し、新しい時代に備えた教育を行わなければなりません。世界中の国々が新しいニーズを認識し、新しい時代に沿った教育政策を始めています。ひとりの若者が世の中に貢献できるかどうかは21世紀の社会が必要とするニーズや機会を理解し、それにうまく対応できるかどうかにかかっています。

 

新たなニーズの発生

平坦化するグローバル経済と変化する仕事のニーズ
グローバル化とルーチンワークの急速な自動化により、21世紀の労働環境は大きく変化しました。ルーチンワークやマニュアル通りに行う仕事はコンピューターにとって代わられるか、賃金の安い途上国の労働者によって行われるようになりました。新しいグローバルな労働市場で生き抜く”鍵”は、これまでに存在しなかった独創的な市場・もの・サービスを生み出すことです。それには高いレベルの読解力、作文力、数学、科学、文学、歴史、美術の学習が必要になります。準備のできている若者はどのような時代が到来しても、情報に明るく、思慮深く、有能な働き手となります。

○不安定な気候とグローバルな環境管理
この数十年、地球上では干ばつ、異常気象、温暖化などが続いており、今後もこの傾向は続くものと予測されています。地球の気候変化がなぜ、どのように起こり、どんな結果をもたらすかを子供たちに理解させることはグローバルコンピテンス教育の重要な要素の一つです。地球の変化に対し、正確な知識を持つことが必要です。知識を持った人材は科学的な意見や予測が根拠のあるものかどうかを判断し、クリティカルに問題を解釈できます。今後ますます、気候の変化や世界の環境システムを理解する人材が重宝されるようになります。

○前例のないグローバルな移住
前例のない割合とスピードでグローバルな移住が起こっています。日本では、あまり実感がありませんが、全世界には日本の人口よりも多い、2億1400万人の移民がいます。これは世界人口の3%に匹敵し、国に例えると、世界で5番目に人口の多い国になります。移民の増加は新しい教育の必要性を生み出しています。「違う」ことが当たり前の教室で生徒にどのように世界のことを教えるべきか?複雑な多文化の中でうまくやっていける生徒をどうやって育てるか?先生にとっても新たな課題が生まれています。ますますグローバル化する社会でうまくやっていくためには、お互いの違いをよく理解し、相手に共感し、敬意を払いながら相手と効果的に対話することが必要になります。

 

グローバルコンピテンスとは何か?

グローバルコンピテンスとは、グローバルに重要な問題を理解し、行動できる能力と性質を指します。情報とスキルを生かし、現在の世界を理解し、どんな状況でも臆することなく柔軟に対処できる能力です。

世界をよく理解することは、グローバルコンピテンスの基礎です。グローバルに有能な人材は、地球は一つのシステムであることを理解し、グローバルに重要な問題を認識し、世界各地の様々な事情についても精通しています。グローバルに有能な生徒は以下の4つのコンピタンスを実行できます。グローバルコンピテンス2.png

 

1. 世界を調査する
グローバルに重要な問題を発見して提起します。様々なソースから信頼できる情報を収集し、分析します。

2. 様々な視点を検討する
他者の視点を理解し、その視点のもたらす見方や考え方について説明できます。また、入手できる知識、技術、リソースの格差が人々の視点に影響を与えることも理解しています。

3. 考えを伝えあう
文化、言語、信仰などの要因に基づく人々の考え方の違いを理解し、それに基づいてコミュニケーションをとることができます。適切な言語や言語外のコミュニケーションを用いて様々な相手と効果的に会話します。

4. 行動する
一人でまたは仲間と、状況を改善するために取り組む機会を探し、創り出します。事実や影響度を考えて選択肢や計画を検討し、行動に移します。行動の結果については情報に基づいて倫理的に評価します。

グローバルコンピテンスを育てるためには教育界全体のコミットメントと支援が必要です。教師だけでなく、学校管理者や政策立案者、両親等、子どもたちに関わるすべての人々が質の高い、意義のある学びのために重要な役割を担っています。

 

体験学習の重要性

ハーバード教育大学院で行われた模擬授業では、南カリフォルニアに住む中産階級の高校生サラの作成したドキュメンタリーフイルム「ナマステ」(途上国ネパールの暮らしをカリフォルニアの若者の視点で紹介)を視聴しました。サラは、初めて訪れた途上国、ネパールで、人々の温かい心と素朴な暮らし、貧しいが、にぎやかで笑いの絶えない生活に触れ、人間にとって本当に必要なものは何か、豊かさとは何か、幸せとは何か、について考えさせられます。21世紀を幸福に生きるためには、サラのように、自ら考える、感じ取り、行動することが大切です。グローバルコンピテンスを身につけた人材を育てるためには、体験学習が最も効果的です。そこで、ICTを活用し、世界の教室をつなぐ授業の実現に向けて企画を推進しています。

参考文献: Asia Society: Preparing Our Youth to Engage the World

Namaste の動画は こちらからご覧ください

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