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オランダ教育視察報告

文部科学教育通信 No.277 2011-10-10に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(8)をご紹介します。

オランダの教育が世界で注目されています。ユニセフの「先進国の子供の幸福度調査(2007年)」では、オランダが総合一位に選ばれました。これをもとにアメリカの雑誌ニューズウィーク(2008年12月10日号)は「オランダの子供たちが世界一幸せな理由」という特集記事を掲載しました。無論、子どもたちの幸福は、ワークシェアリングの制度によって、親子が接触する機会が多いという家庭事情にもよりますが、それだけではなく、学校のあり方、子どもの生活空間としての学校づくりが、大きく影響しています。

 

オランダの教育制度
オランダの義務教育は5歳から16歳までの12年間です。初等教育は12歳までの8年間で(4歳から入学可)、初等教育課程の卒業年次には、全員が「CITOテスト」と呼ばれる全国テストを受けることが義務付けられています。基本的にその結果を参考に、進学する中等教育学校を選択します。中等教育は、生徒の能力や興味・関心に基づき、3つのコース(大学進学中等教育:VWO6年間、上級一般中等教育:HAVO5年間、または職業訓練中等教育:VMBO:4年間)で行われます。 高等教育は、大学および実務専門大学校で行われ、それぞれVWO、HAVOの修了者が主として進学します。

小学校の段階で飛び級する生徒もいる反面、他の子供より時間をかけなければ習得できない子供ももちろんいて、そのために小学校でも落第があります。個々の子供が独自のスピードで学べるように、と考えるオランダでは、飛び級も落第も、子供にとって最も相応しい方法で、と言う見方による、ものです。

初等教育・中等教育全体のおよそ7割の学校が、「私立校」で、授業時間の約3割を利用して、独自の理念に基づく教育が行われている他、学級編制や方法の面でも多様性に富む学校がいくつも存在しています。また、保護者は多様な選択肢から学校を選べるため、保護者の5人に4人までが子どもの学校に満足しているという結果も出ています。何よりも、子供たちが、楽しく積極的に勉強し、学校を通して自律の感覚と社会性を身につけています。

実際、教育の自由が確立し、教育内容・方法面での自由競争が認められている上、国から資金面の保障があるため、世界中の先端の教育方法を取り入れやすくなっています。また、教員間の交流と研修事業が発達しているので、取り入れられた教育方法をさらに発展させる活動も非常に盛んです。このオールタナティブ・スクールの教育が、一般校、公立校の授業にも大きな影響を与え、「個別の発達」を重視した、「共同性」「社会性」を尊重した教育が行われていることにもつながっています。 

今回の視察では、オランダの学校教育の牽引力となった、オールタナティブ・スクールと、発達保障のためのモニター制度、この10年間の間に急速に広がり2007年以降に義務化された「シチズンシップ教育」の3点に焦点を置き、視察を行いました。

 

主な訪問先

 

●ドクター・スハエプマン小学校(イエナプラン教育の小学校)
カトリックの私立校、2010年のオランダ・イエナプラン教育大会で、約220のイエナプラン校の中から最優秀校に選ばれた学校です。現職教員のトレーナーであり、カトリック私立校協会で秀才児指導研究も行なっているヴァン・デン・ヒューベル校長先生からのプレゼンテーションを受けました。イエナプラン教育とは、子どもたちを異年齢のグループにしてクラスを編制することに大きな特徴があります。年齢差による立場の違いを体験することを、イエナプランでは、将来、社会に出たときに相手の場を理解して行動するための準備、と考えています。また、こうすることによって、同年齢学年クラスに起こりがちな、できる子・できない子の固定化を防ぎ、子供の個性や真の意味のリーダーシップが生まれる、という利点があります。

イエナプラン教育リフレクション.JPGイエナプラン教育の小学校では、5歳児が3ヶ月の
学習の振り返りを行い、先生がPCで記録をとります。

 

 ●ダルトン教育の中等学校
1999年に導入された「スタディハウス」は、高校生が、大学のように個別に自分のプランに従って学習し単位を取っていくという手法に基づいていますが、それにはダルトン教育はじめオールタナティブ教育の影響が大きかったと思われます。スタディハウスに最も適合して発達したのは、ダルトン教育の中学校で、以後、ダルトン教育は、公立校としても増加してきています。子どもたちは、それぞれ、日の課題、週の課題など一人ひとり個別の課題をもらい、先生との契約に基づいて、責任を持って学習を進めます。1ヵ月間にどの科目をどこまで学習を進めるかという契約で、コントラクト(Contract) と呼びます。生徒はPCを使って自分の学習を管理します。

PCを使って学習管理.JPGダルトン教育の中学校では、生徒がPCを使って学習を管理します。

 

●CITO
CITOは、オランダを拠点とするテスト・測定分野のリーディングカンパニーのひとつです。1968年にオランダ政府により、設立され、1999年に民営化されました。人の潜在能力を観察・測定することを事業のコアとしています。教育テスト開発の中でも85%のオランダの小学生が利用するテストが有名で、子供たち一人ひとりの習熟度を調べています。(試験内容は、言語・算数/数学・学習スキル・ワールドオリエンテーション(地理・歴史・生物・物理・市民科・宗教活動の教科で学んだ知識の応用))。CITOは、PISAの問題作成でも中核的な役割を果たしており、ヨーロッパの他の諸国にもほとんど類例がないユニークな機関です。現在、民営化により、諸外国へのプログラム輸出を目指し、ビジネスパートナーを世界各地に開発中です。

 

●「ピースフルスクール」採用小学校とエデュニク社専門家との交流
「ピースフルスクール」は、すでに10年間の経験を持つシチズンシップ教育のプログラムで、オランダで最も成功しており、約600校の学校で採用されています。オランダでは、秩序の崩壊や生徒の行動面での問題により授業が妨害されることが度重なり、1999年にエデュニク社が学校風土や教室の雰囲気の改善を目標に、プログラムを開発しました。生徒によるコンフリクトの解決と仲間による仲裁が特徴で、コンフリクトの解決を発端として、学校やクラスを民主的な共同体へ変えていくことを目標としています。誰もが問題の当時者であり、問題に責任を持ち、暴力(身体的・言語的)以外の方法でコンフリクトを解決することを学びます。生徒だけでなく、教師、両親などもコンフリクトの解決スキルを学ぶことができます。このプログラムで学ぶ人々は、コンフリクトの解決スキルを学ぶ以外にも、人生に高い行動基準を設定し、積極的に生きる方法を学びます。

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