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ソーシャルアントレプレナーシップ

昨年より青山ビジネススクールでスタートしたソーシャルアントレプレナーの授業について、受講生の細谷哲也さんが受講の感想を、青山ビジネススクールのHPで紹介してくださいました。 以下にその内容を転記いたします。

★さまざまな社会問題の解決に取り組み、ソーシャルビジネスの潮流を学ぶ           細谷哲也

ある日、深夜のTV番組をつけると、インドネシアの貧しい地域の村人たちに、彼らの生活を改善できそうな機器を紹介する一人の日本人が取り上げられていた。NPO法人コペルニクCEOの中村俊裕氏であった。電気の引かれていない地域の住民たちは比較的高価で、煙を発する灯油ランプの代替品として紹介されたソーラーバッテリーライトに大いに関心を寄せていた。他にも眼科医にかからずとも自ら度を合わせられる眼鏡などが紹介されていたが、住民たちがこれらの機器を手に取った時の非常に喜んでいる姿が実に印象的であった。途上国の貧困という社会問題解決のためのアプローチがユニークであったことが心に残り、これが伏線となってABSで昨年初めて開講された「ソーシャル・アントレプレナー」クラスを受講するきっかけとなった。

このクラスでは様々な社会問題の解決に取り組むソーシャル・アントレプレナーとその起業戦略が紹介され、いくつものケースメソッドを通じて世界のソーシャルビジネスの潮流を学ぶ。上記のコペルニクの取り組みもケースとしてクラスで取り上げられたが、コペルニクの場合は、オンラインマーケットプレイスを通じて、先進国の寄付をしたい個人や企業、技術保有者、そして、発展途上国のローカルNGOをつなぎ、途上国の人々に革新的な技術を効果的に届ける活動をするというビジネスモデルを有する。ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスのグラミン銀行もそうであるが、行政の一方的な支援によらずに、これまで貧困の連鎖から抜け出せなかった人々の真の自立支援を促す新たな仕組みをつくり出した点にこのソーシャルビジネスモデルのおもしろみを感じる。

しかしながら、国内外における政治・経済・社会情勢が急激に変化する中、貧困・格差・環境問題などの社会問題はますます多様化しており、それぞれの解決方法も従来の方法では解決できなくなってきているとも言える。「ソーシャル・アントレプレナー」クラスでは、実際に日本でNPO法人を立ち上げたばかりのゲストからその取り組みを伺い、受講者がチームを組んでコンサルティングもさせていただくという貴重な機会にも恵まれた。日本の教育格差サイクルの改善という社会問題に挑むNPO法人Teach For Japanの取り組みを4回に渡るコンサルティング・ワークショップで課題分析と解決策をチームごとに発表し、最終回には実際に同NPO法人代表である松田悠介氏に対してプレゼンをさせていただいた。

こうした授業全体を通じて得た感想としては、豊富なケース紹介と質の高い情報提供や説明をインプットしていただく一方で、コンサルティング・ワークショップやケース分析の課題提出といったアウトプットする要素も十分に与えていただき、ソーシャルビジネスに関する理解が時間の経過と共に深まっていくような授業構成を組んでいただいたと感じる。

現代は重い社会問題を抱える時代であると言えるが、それはMBAで学んだ様々な経営手法やフレームワークを用いての問題解決がこれまで以上に期待されている時代であるとも言うことができる。現にソーシャルビジネスは、ハーバードビジネススクール卒業生の最も人気のある就職先にもなっていると聞く。今後は日本でもソーシャルビジネスのニーズが認知されていくにつれ、民間企業とソーシャルビジネスの経営の垣根も段々となくなっていくことであろう。「ソーシャル・アントレプレナー」クラス受講者たちが「チェンジメーカー」となって、日本の社会問題の解決をリードしていく日もそう遠くないことかもしれない。

青山ビジネススクールのソーシャルアントレプレナーシップの授業については、こちら をご覧ください。

キャリア開発最前線

文部科学教育通信 No.313 2013-4-8に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る25をご紹介します。

今、学校に通う子どもたちが成人する頃に、今ある仕事の6割はなくなっているというダイナミックな予測が、海外ではなされています。グローバル競争の時代、企業は持続的な成長を実現するために、絶え間ない進化を続けています。経済の変動、技術革新、少子・高齢化の進行、顧客ニーズの変化など企業を取り巻く様々な環境の変化に対し、職場環境も変化を続けています。スリム化や効率化により組織のフラット化が進んでおり、仕事のスピード、意思決定のプロセス、昇進昇格の機会など、様々な形で人の働き方に影響が出ています。激動の時代に、自分のキャリアを守り、フラット化する組織の中で、自己成長し続けることは困難なことです。その現実を直視し、自己のキャリア開発にどう取り組むかを教えているのが、ノベーションズ社*1の開発した「タレントディべロップメント」プログラムです。

「タレントディベロップメント」には、キャリア開発のためのたくさんのヒントと使いやすいフレームワークが盛り込まれています。その中で、最も重要な教えは、キャリア開発のイニシアティブは、自分にあり、自分でその機会を創造していかなければいけないという考え方です。上司や会社が何かをしてくれるのを待つという考え方ではなく、自ら、道を切り開いていくという考え方です。フレームワークを用いてそのいくつかをご紹介しましょう。

 

● 【フレームワーク1】貢献の4ステージ®

1960年頃、ハーバード・ビジネス・スクールのダルトン教授とトンプソン教授は2000人の技師を対象に組織への貢献度調査を行い、この結果を元に「貢献の4ステージ®」というフレームワークを開発しました。二人は、技師の貢献度が35歳頃までは上昇するのにそれ以降は退職まで徐々に下降すること、同じように貢献度が高くても、若い世代と中堅世代と後年世代では全く違った行動や役割を果たしていることを発見しました。対象者の行動を時間軸に沿って捉えると、4つの異なるステージがあり、このステージをきちんと「移行」することで、いつまでも貢献者であり続けられることがわかりました。(出典:「Novations:Strategies for Career Management, Gene Dalton, Paul Thompson, Novations Group 1993)

ステージ1: 指示監督下での貢献

新入社員を想像してください。上司や先輩の指示監督の下、責任のある仕事を遂行するステージです。転職や部署を移動した直後、自立できるまでの学習期間もこれに当たります。

ステージ2: 自立的な貢献

上司や先輩の指示監督を必要とせず、自立的に仕事ができる状態です。上司や先輩も安心して仕事が任せられる状態と判断し、当人も、1人で職務を全うすることに不安はありません。もちろん、全ての仕事がこの状態にあるとは限らず、ある仕事ではステージ2でも、別の仕事では、ステージ1の場合があります。

ステージ3: 他の人を通しての貢献

有能な一個人から他者を活用して成果を出すステージに「移行」します。部下や後輩だけでなく、同僚や他部署の人たちや顧客や提携先など組織の壁を越えた人たちとの協働が求められるステージです。有能な個人から、他者を通して成果を出す人へと「移行」するには、職務遂行能力だけでなく、対人関係能力、交渉力、リーダーシップなど多くの力を必要とします。

ステージ4: 戦略的な貢献

第4のステージは、経営者目線で物事を捉え、戦略的なレベルで組織にインパクトを出すことができる状態です。第3のステージに求められる力に加え、視野の広さ、戦略立案力、中・長期的な視点などが求められます。

変化の激しい時代には、あなたの価値は地位ではなく貢献度で決まります。このため、キャリア開発において重要なことは、常に貢献者でいられるように貢献の『仕方』を変えていくことです。

 

●【フレームワーク2】キャリア・ベスト

キャリア開発において、キャリアベストと呼ばれる仕事を手に入れることが重要です。キャリア・ベスト(Career Best)とは、能力(Talent)、情熱(Passion)、組織のニーズ(Organization)

の3つの要素が全て揃った仕事のことです。自分の能力に適していて、情熱が注げる仕事であり、組織にとっても重要な仕事のことを指します。組織のニーズに該当しなくても、自分の情熱を捧げられて、能力が発揮できれば十分、と考える人もいるかもしれませんが、どれだけ頑張っても、周囲に評価されず、感謝されることのない仕事から、本当の意味での達成感を得られることはありません。能力、情熱、組織のニーズの3つが揃った時、人は良い仕事をしているという実感を持ち、やりがいを感じ、より真剣に仕事に取り組むことになり、その結果、自己成長を遂げます。

しかし、組織や上司が常にこのような状態を用意してくれることを期待するのは現実的ではなく、プログラムでは、自らがこのような環境を手に入れるために計画的に行動することを教えます。

 

●【フレームワーク3】キャリア志向

仕事に対する個人の動機・価値観を説明するのに、キャリア志向という考え方を用います。キャリア志向とは生まれ持った志向ではなく、仕事の経験により確立していく志向です。職業体験を通して、自分なりの心地よさを見出していくもので、人生の節目などにおいて変化していくものと考えられます。プログラムでは、次の5つの志向に分類しています。

◎上昇志向(アドバンスメント)・・・影響力、インパクト、上昇を求める

◎安定志向(セキュリティ)・・・認知、安定した仕事、尊敬、組織からの忠誠を求める

◎自由志向(フリーダム)・・・自分の仕事を行う上で、最大限の自由裁量を得ることを求める

◎バランス志向(バランス)・・・仕事、人間関係と自己開発の有意義なバランスを求める。
夢中になりすぎる仕事や興味が持てない仕事は避ける

◎挑戦志向(チャレンジ)・・・興奮、冒険そして『先端を行く』機会を求める

 

キャリア志向は、人の有能さを表すものではありません。研修プログラムは、それぞれのキャリア志向の強みとともに潜在的な落とし穴にも目を向けるよう教えます。例えば、上昇志向の人は、大きな仕事に対して責任を持つことやリーダーシップを発揮することを厭わず、結果を出すために最善を尽くす一方で、自己中心的になり、孤立してしまう可能性があります。バランス志向の人は、仕事にエネルギーを注がないわけではなく、仕事以外のことに費やす時間を捻出するために、計画的に仕事を組み立て、効率的に仕事をこなします。安定志向の人は、リスクを取る挑戦的な仕事を好まない代わりに、組織に対する忠誠心が高く、企業理念を体現するよき先輩役を担うことができます。それぞれの良いところを活かし、弱点を克服することにより、自らの個性を最大化することができます。

誰もが同じ志向であることを求めるのではなく、多様な志向が存在することを理解し、尊重することで、個人のやりがいと組織の成果を結びつけるという考え方は、これからのキャリア開発において大変興味深いものです。

学校教育を終え、企業に入っても、人は成長し続けることを求められます。変化の激しい時代に、組織に貢献できない人は求められなくなるという厳しい時代でもあります。植木仁氏が、「サラリーマンほど気楽な商売はない・・」と歌った時代は、はるか遠い昔のことです。 自律的学習力、主体的に道を切り開く力を、大学を卒業するまでに身に付けておくために、学校に何ができるのかを考えていく必要があります。(2996字)

 

*1 現在、「タレントディベロップメント」は、ノベーションズ社の買収先のコーン・フェリー社(グローバルな大手のエグゼクティブ・サーチ会社)が所有するプログラムとなっています。この記事はプログラムの内容を参考に書いております。

教師のタイムマネジメント

文部科学教育通信 No.312 2013-3-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る24をご紹介します。

ティーチフォージャパンは「すべての子どもたちが、環境や経済的事情に左右されることなく、必要な教育を受けられる社会、一人ひとりの可能性が最大限に活かされる社会の実現」をビジョンとして活動を行っています。4月から各地の小・中学校に16名のフェロー(教員)を2年間にわたり派遣予定です。このフェローを対象にティーチフォージャパンが行う研修はティーチフォーオールの全26加盟国の研修から良いものを採択して行われます。研修内容には、ビジネス界の知見を利用した内容もありますが、今回はその中で取り上げられている教師のタイムマネジメントについてご紹介します。

 

● 80-20の法則

成果や結果の8割は、その要素や要因の2割に基づくという一般法則をご存知ですか。「80:20の法則」「80-20ルール」とも言われ、経済学者のパレートが発見した経験に基づく法則であり、仕事や経済で良く使われています。「全所得の8割は、人口の2割の富裕層が持つ」(パレートの法則)、「故障の8割は、全部品の2割に起因する」(パレート原則)、「文章で使われる単語の8割は、全単語数の2割に当たる頻出単語である」(ジップの法則)、「売り上げの8割は、全顧客の2割に依存している」、「蟻の群れのうち、真面目に働いているのが80%、働かないのが20%」など、さまざまな現象・場面に見られます。仕事の成果の8割は、費やした時間全体の2割によって生み出されるのだとしたら、努力の平均水準を上げるのではなく、努力を1点に集中する方が効果的とも言えます。仕事をリスト化し、成果を生み出す20%の仕事は何かを見つけるという考え方が「多忙な」日本の教師に必要なスキルです。

 

● 仕事に優先順位をつける

優先順位をつける目的は、自分の仕事の中で「80-20の法則」に当てはまるものを見つけ、教室で優先的に行うことを特定することです。あなたが優先順位づけを行う際の基準は、これまで行ってきた仕事にどんな影響を与えてきたでしょうか。

私たちは、通常、1)緊急の仕事、2)自分が得意な仕事、3)好きな仕事、4)一番気にかかる仕事、に時間を使うものですが、実際に最も重要なのはどの仕事でしょうか。

ティーチフォージャパンでは、以下のような4つの優先順位づけのフレームワークをご紹介しています。

 

【フレームワーク1】5つのD

教師の職務は多岐にわたり、限られた時間の中で全ての仕事を完璧に行うことは不可能です。5つのDを使うことにより、仕事の優先順位を明らかにしましょう。

・Do (最優先課題)・・・今、すべき仕事、あなたのエネルギーと注意を最も必要としている仕事

・Delegate (委譲可能)・・・他の人に任せることができる、または誰かに手伝ってもらえる仕事

・Downgrade (下方修正)・・・する必要があるが、完璧にこなさなくてもよい仕事

・Delay (延期可能)・・・する必要があるが、今すぐにしなくてもよい仕事

・Drop (放棄)・・・する必要がない仕事

 

【フレームワーク2】時間管理のマトリックス

スティーブン・コヴィー氏は、著書「七つの習慣」で時間管理のマトリックスを述べています。全ての仕事は、重要度と緊急度に応じて以下の4つの領域に分けることができます。

緊急度 重要度.png

 

①重要かつ緊急な仕事:締め切りが近付いている仕事や宿題、クレームの処理、病気や事故など、つまり「危機」。
②緊急でないが重要な仕事:健康維持、人間関係づくり、自己啓発、勉強、準備や計画。多くの活動がこの領域にある人は健康で生活のバランスがとれているといえます。ちゃんと準備と計画を行っているので危機は比較的少ないと言えます。
③緊急だが重要でない仕事:多くの電話や横やり、突然の来訪や要求。緊急なので、相手にとっては重要かもしれませんが、自分にとってはそれほど重要でない仕事。「ノー」と言えない人はこの領域に時間を取られてしまいます。
④緊急でもなく重要でもない仕事:暇つぶし、些細なこと、テレビ、ゲームなど。多くの活動が③と④の領域にある人は無責任で他人に依存した状態になりがちです。これらの領域の活動に多くの時間を使うことをやめ、②の活動にもっと多くの時間を注ぐようにしましょう。

 

【フレームワーク3】 エネルギーとインパクトのマトリックス

仕事を注ぐエネルギーとインパクト(影響力)の観点から次の4領域に分けて考えます。

エネルギー インパクト.png

あまりエネルギーがいらないのに、インパクト(影響力)の高い仕事に力を注ぎましょう。逆に、エネルギーが必要な割にインパクト(影響力)の少ない仕事は避けましょう。

 

【フレームワーク4】

仕事を以下の3つに分類してみましょう。

1.      重要な仕事:絶対に必要な仕事、比較的早期に達成可能。

2.      可能な仕事:緊急性はないが長期で目標達成が可能な仕事

3.      できればやりたい仕事:改善につながる仕事、行うことによって、物事が簡単に、早く、良くなるが今すぐには必要でない仕事

 

● 優先順位を見直す

フレームワークを当てはめたら、もう一度、以下の観点から見直してみることが大切です。

・そもそも正しく仕事を分類していると言えますか?

・あなたが現在自分の仕事として行っていることは本当にあなたが適任でしょうか?

・優先順位づけを行った結果、効果の高い上位2割の仕事に時間とエネルギーを注いでいると言えますか?

 

● 優先順位を実行に移す

1)優先順位の高い仕事を「聖域」として扱い、その仕事に取り組んでいる時間は邪魔されないように時間を確保しましょう。

2)仕事とミッション(教師としての自分の使命)を結びつける次のような質問を自分に問いかけ、答えを書いてみましょう。

s   ミッションという観点から考えた時に今週、真っ先に私が取り組まなければならない最も重要な仕事は何だろうか?

s   その仕事を成し遂げるためにどのように時間を使ったらよいだろうか?

s   子どもたちの学習のために、この仕事は今すぐにやる必要があるだろうか?

s   もしそうだとしたら、そのために時間をどう使っていったらいいのだろうか?

3)タイムマネジメントのための時間をとりましょう。定期的に、フレームワークを使って優先順位の観点から前の週の仕事を振り返り、翌週の計画を立てましょう。

 

● タイムマネジメントを継続するヒント

タイムマネジメントを継続するためには、時間を取って毎週計画したことと、実際に実行に移したことを比較することが大切です。予期しない出来事が起きた時のために、自分の時間の2割を空けておきましょう。また、口頭や電話で済むことは手短に済まし、過剰にメールに頼ることは避けましょう。

新しい仕事が入ってきたら、その仕事が1)あなたの優先順位の観点からどの程度大事か、2)その仕事の時間の流れはどうなると予測できるか、3)現状のやり方よりも簡単な方法で仕事を行うことができないか、をまず考えてみましょう。

タイムマネジメントを徹底し、児童・生徒と向き合う時間や授業準備の時間をどれだけ捻出できるかが、教員としての成功のカギを握ります。教員にはタイムマネジメントの達人になって欲しいと思います。

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