教師のタイムマネジメント
文部科学教育通信 No.312 2013-3-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る24をご紹介します。
ティーチフォージャパンは「すべての子どもたちが、環境や経済的事情に左右されることなく、必要な教育を受けられる社会、一人ひとりの可能性が最大限に活かされる社会の実現」をビジョンとして活動を行っています。4月から各地の小・中学校に16名のフェロー(教員)を2年間にわたり派遣予定です。このフェローを対象にティーチフォージャパンが行う研修はティーチフォーオールの全26加盟国の研修から良いものを採択して行われます。研修内容には、ビジネス界の知見を利用した内容もありますが、今回はその中で取り上げられている教師のタイムマネジメントについてご紹介します。
● 80-20の法則
成果や結果の8割は、その要素や要因の2割に基づくという一般法則をご存知ですか。「80:20の法則」「80-20ルール」とも言われ、経済学者のパレートが発見した経験に基づく法則であり、仕事や経済で良く使われています。「全所得の8割は、人口の2割の富裕層が持つ」(パレートの法則)、「故障の8割は、全部品の2割に起因する」(パレート原則)、「文章で使われる単語の8割は、全単語数の2割に当たる頻出単語である」(ジップの法則)、「売り上げの8割は、全顧客の2割に依存している」、「蟻の群れのうち、真面目に働いているのが80%、働かないのが20%」など、さまざまな現象・場面に見られます。仕事の成果の8割は、費やした時間全体の2割によって生み出されるのだとしたら、努力の平均水準を上げるのではなく、努力を1点に集中する方が効果的とも言えます。仕事をリスト化し、成果を生み出す20%の仕事は何かを見つけるという考え方が「多忙な」日本の教師に必要なスキルです。
● 仕事に優先順位をつける
優先順位をつける目的は、自分の仕事の中で「80-20の法則」に当てはまるものを見つけ、教室で優先的に行うことを特定することです。あなたが優先順位づけを行う際の基準は、これまで行ってきた仕事にどんな影響を与えてきたでしょうか。
私たちは、通常、1)緊急の仕事、2)自分が得意な仕事、3)好きな仕事、4)一番気にかかる仕事、に時間を使うものですが、実際に最も重要なのはどの仕事でしょうか。
ティーチフォージャパンでは、以下のような4つの優先順位づけのフレームワークをご紹介しています。
【フレームワーク1】5つのD
教師の職務は多岐にわたり、限られた時間の中で全ての仕事を完璧に行うことは不可能です。5つのDを使うことにより、仕事の優先順位を明らかにしましょう。
・Do (最優先課題)・・・今、すべき仕事、あなたのエネルギーと注意を最も必要としている仕事
・Delegate (委譲可能)・・・他の人に任せることができる、または誰かに手伝ってもらえる仕事
・Downgrade (下方修正)・・・する必要があるが、完璧にこなさなくてもよい仕事
・Delay (延期可能)・・・する必要があるが、今すぐにしなくてもよい仕事
・Drop (放棄)・・・する必要がない仕事
【フレームワーク2】時間管理のマトリックス
スティーブン・コヴィー氏は、著書「七つの習慣」で時間管理のマトリックスを述べています。全ての仕事は、重要度と緊急度に応じて以下の4つの領域に分けることができます。
①重要かつ緊急な仕事:締め切りが近付いている仕事や宿題、クレームの処理、病気や事故など、つまり「危機」。
②緊急でないが重要な仕事:健康維持、人間関係づくり、自己啓発、勉強、準備や計画。多くの活動がこの領域にある人は健康で生活のバランスがとれているといえます。ちゃんと準備と計画を行っているので危機は比較的少ないと言えます。
③緊急だが重要でない仕事:多くの電話や横やり、突然の来訪や要求。緊急なので、相手にとっては重要かもしれませんが、自分にとってはそれほど重要でない仕事。「ノー」と言えない人はこの領域に時間を取られてしまいます。
④緊急でもなく重要でもない仕事:暇つぶし、些細なこと、テレビ、ゲームなど。多くの活動が③と④の領域にある人は無責任で他人に依存した状態になりがちです。これらの領域の活動に多くの時間を使うことをやめ、②の活動にもっと多くの時間を注ぐようにしましょう。
【フレームワーク3】 エネルギーとインパクトのマトリックス
仕事を注ぐエネルギーとインパクト(影響力)の観点から次の4領域に分けて考えます。
あまりエネルギーがいらないのに、インパクト(影響力)の高い仕事に力を注ぎましょう。逆に、エネルギーが必要な割にインパクト(影響力)の少ない仕事は避けましょう。
【フレームワーク4】
仕事を以下の3つに分類してみましょう。
1. 重要な仕事:絶対に必要な仕事、比較的早期に達成可能。
2. 可能な仕事:緊急性はないが長期で目標達成が可能な仕事
3. できればやりたい仕事:改善につながる仕事、行うことによって、物事が簡単に、早く、良くなるが今すぐには必要でない仕事
● 優先順位を見直す
フレームワークを当てはめたら、もう一度、以下の観点から見直してみることが大切です。
・そもそも正しく仕事を分類していると言えますか?
・あなたが現在自分の仕事として行っていることは本当にあなたが適任でしょうか?
・優先順位づけを行った結果、効果の高い上位2割の仕事に時間とエネルギーを注いでいると言えますか?
● 優先順位を実行に移す
1)優先順位の高い仕事を「聖域」として扱い、その仕事に取り組んでいる時間は邪魔されないように時間を確保しましょう。
2)仕事とミッション(教師としての自分の使命)を結びつける次のような質問を自分に問いかけ、答えを書いてみましょう。
s ミッションという観点から考えた時に今週、真っ先に私が取り組まなければならない最も重要な仕事は何だろうか?
s その仕事を成し遂げるためにどのように時間を使ったらよいだろうか?
s 子どもたちの学習のために、この仕事は今すぐにやる必要があるだろうか?
s もしそうだとしたら、そのために時間をどう使っていったらいいのだろうか?
3)タイムマネジメントのための時間をとりましょう。定期的に、フレームワークを使って優先順位の観点から前の週の仕事を振り返り、翌週の計画を立てましょう。
● タイムマネジメントを継続するヒント
タイムマネジメントを継続するためには、時間を取って毎週計画したことと、実際に実行に移したことを比較することが大切です。予期しない出来事が起きた時のために、自分の時間の2割を空けておきましょう。また、口頭や電話で済むことは手短に済まし、過剰にメールに頼ることは避けましょう。
新しい仕事が入ってきたら、その仕事が1)あなたの優先順位の観点からどの程度大事か、2)その仕事の時間の流れはどうなると予測できるか、3)現状のやり方よりも簡単な方法で仕事を行うことができないか、をまず考えてみましょう。
タイムマネジメントを徹底し、児童・生徒と向き合う時間や授業準備の時間をどれだけ捻出できるかが、教員としての成功のカギを握ります。教員にはタイムマネジメントの達人になって欲しいと思います。