skip to Main Content

進化し続けるハーバード・ビジネススクール

文部科学教育通信2022.11.28掲載

ハーバード・ビジネススクールは、今年、スリカント・ダター氏を第11代目の学長として迎えました。2年に一度、ビジネススクールで開催される、グローバルアドバイザリーボード会議に参加し、初めて、ダター学長にお会いし、学長の話を聞く機会を得ました。

グローバルアドバイザリーボード

グローバルアドバイザリーボードの仕組みは、ニティン・ノーリア前学長の時代に始まりました。ハーバード・ビジネススクールの授業は、ケーススタディを中心に行われ、教授たちは、世界のビジネスの実事例をテーマに、ケーススタディのための教材としてケースを書いています。このため、ハーバード・ビジネススクールは、世界に、11の拠点となるリサーチセンターを有しています。アドバイザリーボードメンバーは、各地域のリサーチセンターから推薦されたメンバーで構成されており、このため、会議には、世界中からメンバーが選出されたメンバーが集まります。

ニティン・ノーリア前学長は、5つのIを柱に、約10年間の任期中に、HBS改革を行いました。

グローバルアドバイザリーボードは、国際化の取り組みの一つです。

ビジネススクールは、進化し続けるビジネスの世界と共に生きる宿命を持っているということもあり、自らをアップデートしていく力がとても強いです。このため、リフレクションを欠かすことがありません。過去から、これまでの取り組みを振り返り、今の自分たちのあり方を直視することで、自らの強みと、変えたほうが良いことが鮮明になります。

前学長の時代に、ハーバード・ビジネススクールの授業をオンラインで実施できるケーススタディ用のオンラインシステムを開発する際にも、一ミリも妥協せず、リアルな授業を、オンラインで再現することに成功しました。それは、リアルな授業の素晴らしさを、クラスで起きるディスカッションの偶発性や良質な教授の属人性に依存するのでなく、科学的に説明できる意図的なものであったことを意味します。

前学長の時代に、ダイバーシティ・イクイティ・インクルージョンの取り組みも大きく進みました。それまで、ケーススタディの登場人物の多くが、白人の男性のリーダーであることが、無意識の偏見につながると考え、女性や黒人のリーダーが登場するケースの数を増やす取り組みを行いました。また、クラスでの発言が、成績に占めるウエイトが大きいために、男子学生の方が、女子学生よりも、よい成績を取るという傾向がありました。これが、正しい評価なのか、無意識の偏見によるものなのかを分析し、無意識の偏見を取り除くことにも成功しています。その結果、成績トップ5%に与えられる女性のベーカースカラーが、一気に増えました。

 

ダタール新学長

ダタール新学長は、ノーリア学長の時代にスタートしたハーバード・イノベーション・ラボの立ち上げに貢献した方です。ハーバード大学のファウスト学長が提唱したワン・ハーバードというビジョンの元、イノベーション・ラボは、立ち上がりました。ラボの目的は、学部を超えて、ハーバードの学生や教員、起業家、地域コミュニティが共に、イノベーションを生み出す拠点となることです。イノベーション・ラボの施設は、ビジネススクールに隣接した敷地に立っており、ビジネススクールが、ラボに果たす役割は大きいです。

ダタール新学長は、また、MBA教育を見直す必要性についても、その著書で論じています。彼が主張する「MBAは、よい社会や企業活動に貢献するリーダーを育てることに成功していないのではないか」という問題定義に、私も賛同します。同時に、このクリティカル思考を元に、今後、ダタール新学長が、どのような新しい戦略を打ち出し、これから10年の間に、どのようにハーバード・ビジネススクールの教育をアップデートしていくのかがとても楽しみです。

3Dインスティチュート

ハーバード・ビジネススクールは、7月に、3D(デジタル、データ、デザイン)インスティチュートを立ち上げ、この領域でのイノベーションを加速させる取り組みをはじめています。加速するテクノロジー革新を活かし、ビジネスを再発明することを目指しています。ここにも、ワン・ハーバードの思想が生かされています。複雑な課題解決に求められる学際を超えた協働リサーチやデータ活用が加速していくことで、どのような成果が生まれていくのか、とても楽しみです。

ケースメソッド100周年

今年は、ケースメソッド100周年に当たり、図書館には、100周年を祝う展示がありました。

ハーバード・ビジネススクールの設立は1908年です。スタートした当初は、今日のようなケースメソッドを活用した、学習者中心の指導法ではなく、教授による講義形式で行われていたそうです。

ビジネスを学ぶ上で、講義形式の授業に限界を感じた教授たちが、最初に始めたのは、企業のエグゼクティブを授業に招き、生の課題について語ってもらい、その課題を題材に、ディスカションを通して、ビジネスにおける意思決定を学ぶ授業の形式でした。

この授業を通して、ビジネスにおいては、マーケティングや、戦略、人事、生産管理などを、バラバラの科目として学ぶことにあまり意味がなく、意思決定は、常に、複合的な要素を統合するものであるという認識に発展していきます。こうして、ジェネラルマネジメントとリーダーシップを教えることに主眼を置くハーバード・ビジネススククールの原型が作られていきます。同時に、バラバラの要素を統合する戦略という概念の重要性が鮮明になります。

このような進化の中で、1922年に、最初のケースが作成されました。マサチューセッツは、全米で、最も多くの靴を製造している地域であったため、最初のケースは、靴メーカーが題材でした。そして、驚くことに、最初のケースは、A41枚です。我々が入学した頃には、20、30、40ページのケースもありましたので、少し羨ましくも思いました。

最初のケースを読んでみると、そこには、ケースの原型が見られます。

  • 経営者が直面している課題
  • 課題に関する背景情報
  • 会社や組織に関する背景情報
  • 経営者が応えなければならない重要な問い

 

ケーススタディの質を高めるためには、よいケースの存在がかかせません。そこで、1922年には、ハーバード・ビジネススクールは、ジェネラルエレクトロニクス社と提携し、同社の実課題をもとに、ケースライティングを行います。テーマは、多岐にわたり、マーケティング、ファイナンス、貿易、生産管理、広告、PRなどの領域で、同社の協力を得て、ケースを作成していきました。ジェネラルエレクトロニクスは、人材育成およびリーダー養成にとても力を入れる会社としても有名ですが、すでにその思想は、100年前に存在していたことがわかります。ケースライティングに協力したことは、ジェネラルエレクトロニクスの人材育成にも大きく貢献したといいます。

このような先人の努力が積み重なり、今日では、そのティーチングメソッドも確立し、ハーバード・ビジネススクールが主催するケーススタディの教授法を教員が学ぶためのプログラムには、世界中の教授が参加しています。

このような進化は、一人では成し遂げられるものではなく、「なにが大切なことなのか」を継承し続けていくことが、革新の土台となっていることも、重要な気づきでした。

 

Back To Top