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SDGsのロールモデル

文部科学教育通信2022.11.14掲載

2015年にスタートしたSDGsの社会への浸透は、目を見張るものがあります。初等中等教育から高等教育まで、SDGsに関する教育プログラムが展開されています。また、企業のホームページを訪れれば、SDGsの17項目に貢献する様々な取り組みが公開されています。政府が掲げる2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指す目標に向けての取り組みも加速しています。

そんな中、今年も、青山ビジネススクールでソーシャルアントレプレナー(社会起業家)の講義が始まりました。2012年にスタートしたこの講義では、目まぐるしい時代の変化に合わせて、毎年、講義内容がアップデートされることになります。スタート当初は、東北大震災の翌年ということもあり、日本でも盛り上がりを見せたNPO活動が研究の中心でした。しかし、今日では、企業のサステナビリティに向けた取り組みに大きな進展が見られ、研究テーマに、非営利団体のみならず、営利団体が含まれるようになりました。

企業のロールモデル

サステナビリティの取り組みにおいて、ロールモデルとなる企業がいくつもありますが、その中の代表的な存在がユニリーバです。

ユニリーバの起源

ユニリーバは、1985年にイギリスで誕生した石鹸を製造販売する企業です。ユニリーバは、それまで、切り分けて販売されていた石鹸を、単品で購入できる石鹸に切り分け梱包し販売を始めます。そして、イギリス人が手洗いの習慣を定着させることに大きな貢献をします。これが、サステナビリティの取り組みで世界をリードするユニリーバの起源です。

サステナブル・リビング・プラン

ユニリーバは、2010年から2020年の10年間の計画として、サステナブル・リビング・プランに取り組みました。この期間、ユニリーバは、売上を2倍にすることを目指す一方で、環境負荷を半減すること、そして、10億人の豊かな生活を実現することを目標に掲げて、様々な取り組みを行いました。

私が、この活動の存在を知ったのは、2015年です。当時は、まだ、SDGsが始まる前で、企業は収益を目的としているというマインドセットが主流でしたので、ユニリーバの取り組みを知り、驚いたことを思い出します。

ハーバードビジネススクールのケーススタディで紹介されたのは、彼らの紅茶事業の取り組みでした。ユニリーバのゴールは、紅茶事業において、100%の茶葉をレインフォレスト・アライアンスという団体の認証を受けた農家から購入するというものでした。認証を受けた農家は、ある一定レベルの生活水準を維持していることを意味します。レインフォレスト・アライアンスの認証を受けるためには、一定水準の経済レベルに到達していることや、教育を始めとする社会インフラが整備されていることなどが求められます。ユニリーバは、茶葉の調達だけではなく、農家のコミュニティの発展に寄与することも、調達という仕事に含まれることになります。その結果、私達が、リプトン紅茶を飲むことで、私達も、海の向こうにある大地で茶葉を育てる農家の人たちの豊かな生活に貢献することができる仕組みになっています。ユニリーバは、79万軒以上の小規模農家の支援を行ったそうです。

サステナブル・リビング・プランの意義

このプランにより、79万軒以上の小規模農家の豊かさが実現し、工場からのCO2排出量は65%、水使用量を47%、廃棄物量を96%削減したそうです。2010年頃は、株式市場が全くサステナビリティに興味を示しておらず、彼らの注目は、企業の収益でしたから、ユニリーバは、株式市場の批判の的でした。しかし、その批判にも負けず、プランをやり遂げたユニリーバの経営陣を心より尊敬したいと思います。

ユニリーバのメッセージ

私たちは、2010年、成長とサステナビリティを両立するビジネスプランとして「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」(USLP)を導入しました。それから10年以上が経ち、世界は大きく変わりました。環境や社会の課題はますます複雑に、深刻になっています。企業のサステナビリティへの取り組みは「したほうがよいもの」ではなく「していて“あたりまえ”」になりつつあります。

USLPの10年間で、多くの成果がありました。世界で13億人以上の人々に石鹸を使った手洗いや朝晩の歯みがきなどの衛生的な生活習慣を身に着けていただき、常にうまくいっていたとは言えませんが、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」したいという想いを常に持ちつづけ、行動しつづけてきました。その原動力となった3つの信念があります。「パーパス(目的・存在意義)を持つブランドは成長する」、「パーパスを持つ人々は成功する」、「パーパスを持つ企業は存続する」ということです。

 

SDGsの素案作成

SDGsに先行して、企業としてサステナビリティに取り組む経験を蓄積してたユニリーバは、SDGsに草案作成の段階から関わっています。

2012年には、 ユニリーバのポール・ポールマン前CEOが国連の「ポスト2015年開発アジェンダに関する事務総長有識者ハイレベル・パネル」の一員として、SDGsに産業界の意見が反映されるよう努めたそうです。そして、2014年には、ユニリーバは「ポスト2015ビジネス・マニフェスト」 」を策定し、20社以上の国際的な企業の合意を得ました。これは、産業界がSDGsの達成を支援するための能力を強化するというビジョンを掲げています。そして、2015年に、国連総会で17の持続可能な開発目標(SDGs)を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された翌年には、ポール・ポールマン前CEOが国連グローバル目標の事務総長アドボカシー・グループの一員となりました。

ユニリーバ、そして、ポール・ポールマンがいなければ、今日のような企業によるSDGsの取り組みの発展は無いのではないかと思います。

市民セクター

社会問題の解決に大きな力を注いでいるもう一つの団体が、アメリカの団体アショカです。

アショカの創業者ビル・ドレイトンは、長くマッキンゼーで政府や企業のコンサルティングを行った後に、その知見を活かし、世界の社会起業家の活動を支援するためにアショカを立ち上げます。最初に支援した団体は、インドの起業家ですが、今では、世界中に存在する3000人以上もの社会起業家の巨大ネットワークに発展しています。

社機会起業家という言葉の生みの親でもあるビル・ドレイトンは、市民セクターという言葉を使い、新しい時代を予測しています。これまでの時代には、営利、非営利あるいは、政府、非政府とう区分が存在しましたが、これからの時代は、市民セクター、非市民セクターの区分になるという予測です。

営利企業を中心に社会が発展したアメリカでは、非営利企業が生まれ、営利企業が担うことのできない社会課題に取り組んで来ました。同様に、ヨーロッパでは、政府が担うことのできない社会課題に非政府団体が取り組んできました。しかし、これからの時代に、この「非」という言葉のつく存在は消えていき、すべての団体と個人が市民セクターの一員として、社会問題の解決に取り組む時代が到来しているといいます。この視点に立てば、営利企業にも関わらず、サステナビリティに取り組んだユニリーバは、市民セクターの一員としてやるべきことに取り組んだといえます。

 

 

 

 

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