skip to Main Content

発達障害を持つ子どもたち

2021.10.25 文部科学教育通信掲載

発達わんぱく会というNPO法人を立ち上げ、理事長として活躍されている小田知宏氏との出会いがあり、現在、発達障害を持つ子どもたちの発達のために、社会に何ができるのかについて議論を重ねています。

早期療育の機会

発達障害を持つ子どもたちは、全体の6.5%ですが、その多くは、早期療育を受けないまま、幼児期を過ごし小学校に入学します。早期療育を受けていない子どもたちの中には、親が、子どもの個性を理解し、子育ての中で療育の考え方を取り入れている場合もあります。しかし、発達障害を持つ子どもたちの多くは、早期療育の機会を得ず、幼児期を終えています。私は、この議論に参画し、早期療育が9割近くの発達障害を持つ子どもたちに届けられていないという事実に衝撃を受けました。

なぜ、そうなのか

発達障害の有無については、1歳半検診の段階で、診断可能です。しかし、検診で、保護者に、発達障害に触れられるのは、親が、その事に気づいていて、親から質問が出る時のみです。このため、多くの親は、1歳半検診で、子どもの発達障害のことを知らされることなく、子育てを行っています。その理由は、保護者が、発達障害を知ることで不安になってしまうからなのだそうです。

子ども不在

いつも、そう思うのですが、教育の議論は、子ども不在になることが多いです。1歳半検診で子どもの状況を保護者に伝えない方がよいという考えも、子ども不在のものです。子どもの脳は、私達の想像を超えるスピードで発達します。特に、五感(視る、聴く、触る、嗅ぐ、味わう)の脳は、3歳頃までに大人と同じ位まで発達します。この時期に、子どもに適した発達環境を用意してあげることで、発達障害を持つ子どもたちも、自分に必要な発達を苦労なく実現することが出来ます。1歳半の子どもには、療育の必要性を親に訴える力はありませんが、もし、子どもにその力があったなら「自分の一生の事を考えた時に、今が一番効率的に発達できるのだから、この時期に療育を受けさせてほしい」そう言うに違いありません。しかし、多くの子どもたちは、療育を受けず、幼稚園、小学校への進み、集団生活の中でその特性が健在化した時に始めて、自分の個性にあった学びの環境の必要性に気づくことになります。

 子育ての専門性

この議論をしながら、改めて、自分の子育てを振り返っても、素人だったなと反省することばかりです。私達は、誰からも、子育てについて教わることなく、大人になると親になります。常に、手探りで、アクションラーニングしながら、人間を大人に育て上げるのですから、とてもリスキーな話です。私も、幼児期の脳の発達について教わったのは、子育てを終えた後でした。日本には、「三つ子の魂百まで」という言葉があるので、昔の人の智慧はすごいと改めて驚いた記憶があります。核家族化し、子育ての先輩が近くにいない子育てが当たり前になった今日、誰もが親になる前に、子育ての基礎知識を持つことができるとよいのではないかと思います。

すべての子どもの発達の遅れ

発達障害の子どもたちの発達の機会についての議論を進める中で、今、すべての子どもたちの発達に遅れが出始めているという話題が出ました。宮城県の小学校1年生の体力・運動能力の経年変化を見ると、子どもたちの50メートル走のタイムは年々下がり続けていて、昭和57年から平成24年の10年間に、1秒の差が出ています。また、直近では、英ガーディアンが、ブラウン大学の研究結果を引用し、「パンデミック以前に生まれた3ヶ月~3歳の幼児の平均IQは100前後だった一方、パンデミック期間に生まれた幼児の平均IQは78だった」と報告しています。(プレジデント・オンライン2021.9.6) パンデミックにより、子どもたちが、外で遊ぶことや、親以外のいろいろな人、もの、出来事に出会う機会が減り、脳が発達する機会を奪われてしまっているのだろうと想像します。

就学前教育機関に対する予算

世界との比較でみると、日本の就学前教育に対する予算は圧倒的に低く、このテーマに対する国の優先度の違いに驚きます。【図1】子育ての専門知識が広がらない背景にもなっていると思います。ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学の労働経済学者、ジェームズ・J・ヘックマンは、「ペリー就学前プロジェクト」の結果を踏まえて、就学前教育の重要性を説いています。日本では、共働き社会への移行が進む中で、家族の子育てを支える社会への移行も不可欠です。就学前教育に対する予算が増えることを期待したいです。

  • ありたい姿についての仮説

議論を通して作成した「ありたい姿」は以下の通りです。

  • 社会全体が、幼児期の子どもの発達について基礎となる知識を持ち、子どもの個性にあった発達環境を、すべての子どもが得られるようになる。(無知や偏見がなくなる)
  • 親も安心して、幼児期の子どもの発達に向きあえるようになる。(親の安心)
  • 専門家も、子どもの個性について、親とオープンに話せるようになる。(専門知識の活用)
  • 発達障害を持つ子どもも健常児も、すべての子どもが自分の個性に合った発達の機会を得ることができる。
  • 国の支援/予算が充実する。
  • セオリーオブチェンについての仮説

社会課題を解決するために使用されるセオリーオブチェンジに当てはめて考えていました。

ステップ1:誰の課題なのか

ステップ2:どのようなニーズが満たされていないことが課題なのか

ステップ3:なぜ、ニーズが満たされていないのか、この課題が存在する背景はなにか

ステップ4:どのような課題に取り組むのか

このフレームワークを活用すると、人間を中心に、課題を再整理することができます。

 

なぜこうなのだろうか

多様なステイクホルダーと「なぜこうなのだろうか」について議論を始めています。

課題が生まれる/存在する理由

  • 専門家が不足している。
  • 親に専門性がない。
  • 発達障害に対する無知と偏見がある。
  • インスタグラムが親の教科書になっている。
  • 幼児教育における国・行政の予算が圧倒的に低い。
  • 親、子育て支援者、その関係性等、大人のニーズが優先され、子どものニーズが後回しになる。
  • 子どものためにという思いと、実際の行動に乖離があることに、気づけない。

皆さんに尋ねている問い

  • どのような社会通念や人々のもの見方が、この現実を支えていると思いますか。
  • この現実を創り出している「システム」の関係者はだれでしょうか。(例:子ども、親、・・・・・・)

 

まだ、答えは見えていませんが、引き続き、議論を続けていこうと思います。皆さんは、どうお考えになりますか。

Back To Top