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学習する学校

2021.09.27文部科学通信掲載

最近、学校教育の世界で、学習する学校という言葉をよく耳にするようになりました。8月に開催された「未来の先生フォーラム2021」においても、学習する学校が紹介されていました。

 

学習する学校は、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院上級講師ピーター・センゲ氏が、その著書 『学習する学校』(英治出版)で紹介した学校のための組織論です。今日では、世界中の学校で実践されています。

 

ピーター・センゲ氏の著書では、『学習する組織 システムで未来を創造する』(英治出版)の方が有名で、この本は、世界100万部を突破し、ビジネス界に一大ムーブメントを巻き起こしました。海外では、1990年代に多くの企業や団体が、その導入を進め、GEのジャック・ウェルチ氏が、企業変革を推進する際に、学習する組織論を実践したことは、ビジネス界ではよく知られています。

 

学習する組織論

学習する学校という言葉を初めて聞かれる方は、学校が学習する場なのは当たり前なのに、なぜ、改めて学習する学校という言葉を使うのだろうという疑問を持たれる方がいるかも知れません。そこで、学習する組織論の特徴についてご紹介してみたいと思います。

 

学習する組織とは、起こりうる最良の未来を実現する組織です。起こりうる最良の未来を実現するためには、2つのことが必要です。組織が最良の未来が何かを知っていること、そして、もう一つは、そこに向かう力を、組織の構成員が持っていることです。実は、学習する組織になるということは、それほど簡単なことではないということを、皆さんもお解りいただけると思います。日本企業の多くも、バブル崩壊後の2000年代に、その導入を試みましたが、そのほとんどは、失敗に終わっています。

 

学習する組織になるために

学習する組織になるために必要なこと、それは、5つの規律だとピーター・センゲ氏は言います。

1)メンタルモデル (認知の4点セット)
「メンタルモデル」とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。自らのメンタルモデルとその影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルの欠陥を探求する。

 

2)チーム学習/ダイアログ 対話
「チーム学習」とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスである。中でも、「本音で腹を割って話す」ことに主眼を置き、集団で気づきの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する一連の手法を「ダイアログ」という。

 

3)システム思考
「システム思考」とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用され、「生きているシステム」の考え方の根幹をなす考えでもある。

 

4)パーソナルマスタリー 動機の源、クリエイティブテンション
「パーソナルマスタリー」とは、自分が「どのようにありたいのか」 「何を創り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を、創造的な力に変えて、内発的な動機を築くプロセスである。

 

5)共有ビジョン
「共有ビジョン」とは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針をコンパスのように示す。

 

15年前に、この5つの規律に出会った時には、私自身、なぜ、この5つなのかが分かりませんでした。しかし、実践を繰り返す中で、今では、この5つの規律の一つでも欠けていると、集団として最良の未来を実現することは不可能だという確信に至っています。

 

本日のテーマは、学校組織ですが、世界では、持続可能な発展を遂げている企業、行政、非営利組織、国すべてに、学習する組織論が導入されていると言っても過言ではありません。

 

組織論から見た学校

企業の組織論からみた学校は、「組織ではない」というのが、初めて学校組織を分析した際の率直な感想でした。

学習する組織では、組織を眺める際にも、システム思考を応用します。システムは、目的と要素と要素同士のつながりの3つで構成されています。学校には、学校の目的があり、児童・生徒、保護者、先生、管理職、地域住民、教育委員会、文科省、(メディア)等の様々な要素があり、その要素同士が繋がることで、学校が、その存在目的を実現するのが、「組織である」という意味です。

企業組織を例にとれば、とてもわかりやすいと思います。企業には、その存在理由があり、サービスや製品をお客様に提供しています。企業には、社員、管理職、経営者がいて、その先にはお客様、取引先、株主、社会があります。これらのステイクホルダー全てに対して、その役割を果たしていないと、企業は存在することができません。誰かが不満を抱えている状態は、長期間継続出来ない仕組みになっています。

学校はどうでしょうか。児童・生徒、親、先生、管理職は、同じ目的を共有しているのでしょうか。学校と教育委員会、教育委員会と文科省は、同じ目的を共有しているのでしょうか。学校と地域社会はどうでしょうか。残念ながら、今日の学校に対するものの見方は様々で、その目的に対しても、統一見解は存在しないのではないかと思います。

学習する組織の規律 共有ビジョン、対話、システム思考は、学校という組織(コミュニティ)には、存在しません。

 

共同エージェンシー

OECD学びの羅針盤2030は、共同エージェンシーの実践を提唱しています。これは、学習する学校を前提とした考え方です。共同エージェンシーの前提には、生徒の主体性があります。先生や親、社会が、生徒は、よりよい未来を創造する主体であると捉えることが、共同エージェンシーの前提です。また、生徒と協働する先生も、エージェンシーであることが期待されます。一人の人間として、一人の先生として、エンパワーされた(権限や力を与えられた)状態であることが、その前提です。先生と生徒は、立場は違いますが、協働する際には、共に学習者であるという姿勢で、フラットであることが期待されます。

学校教育を支えるすべての関係者が、この前提で合意した時に、初めて、学習する学校も、共同エージェンシーも、本物になります。

 

どこから始める?

学習する学校づくりには、対話が欠かせません。生徒と先生、先生同士、先生と管理職、学校と教育委員会、教育委員会と文科省、社会と学校、親子、親と先生、親と学校 立場の違う人たちが対話を通して相互理解を深めることができれば、学習する学校を実現することができます。また、その中で、願いやありたい姿を共有していくことがとても大事です。このような対話を経て、関係者すべてが、ありたい姿を具体的にイメージすることが出来たら、学習する学校としての一歩を踏み出す事ができます。

対話では、意見の交換にとどまらず、夫々の経験や気持ち、大切にしている価値観まで共有することが鍵を握ります。認知の4点セット(①自分の考え、②考えの背景にある経験、③気持ち、④考えの背景にある判断の尺度)を伝え、聴き合う対話から始めてみてはいかがでしょうか。

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