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 五蘊と認知の4点セット

2021.05.10文部科学教育通信掲載

4月3日に、法隆寺で開催された 聖徳太子没後1400年の特別法要に参列しました。聖徳太子のご遺徳を忍び、功績を敬讃する法要では、雅楽に合わせて華麗な舞を奉納する様子もあり、神仏が融和した当時の仏教の姿を垣間見ることができました。

お寺で雅楽?

今年は、聖徳太子没後1400年の御恩忌とされ、法隆寺では、3日間 特別法要が行われます。私が参列した法要は、その初日で、西院伽藍で営まれ、450人が参列しました。法要では、雅楽に合わせて、子どもたちが、極楽にいるとわれていると鳥の衣装に身を飾り、華麗な舞の奉納を行いました。神仏が融合する様子に、仏教が日本に紹介され、日本社会の一部になり始めた頃の日本を想像し、祖先の皆様に感謝の気もちを抱きました。和を重んじる聖徳太子の教えが、神仏融合の姿にも表れていると感じました。

法隆寺では、毎月3日に命日の法要「お会式」を営み、10年に一度、大講堂の前に部隊を設けて大きな法要を行うそうですが、今回は、100年に一度の特に大きな法要でしたので、とても貴重な機会となりました。100年前の法要は、大正時代に行われ、新しい一万円札の顔となる渋沢栄一氏が尽力して、国を挙げての法要であったというのも、何か不思議なご縁を感じます。

五蘊(ごうん)

さて、ここからは、仏教の五蘊について触れてみたいと思います。最近、出版した「リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」で紹介しているメタ認知のための手法 認知の4点セットを開発する際に、マインドフルネスについて調べている時に、仏教の五蘊という言葉に出会い、とても感動しました。

お釈迦様の教えの中でも、最も、私たちに馴染みのあるのが般若心経です。その中にも、五蘊は、登場します。般若心経では、色即是空の方が、五蘊よりも有名かもしれませんが、五蘊は、色即是空とも関連のある言葉です。

色は、物質的存在のことで、色即是空は、この世の万物、形あるものの本質は、空(くう)であり、普遍のものはないという般若心経の教えです。

五蘊の5つの構成要素

五蘊は、人間を5つの構成要素で表しています。その一つが、色であり、ここでは人間の肉体を指します。残りの4つ 受想行識 は、精神に関するものです。形のない精神の世界を、4つに分類していることと、その視点にとても驚きました。

事例と共に、五蘊を紹介してみたいと思います。

色:物質的存在 

人間の肉体は、空です。人間の体は、赤ちゃんから大人になり、やがては老いて土にかえるので、空であることは納得できます。

では、受想行識はどうでしょうか。

雨の事例で紹介してみたいと思います。

受:感受 

水滴が頭に落ちたことを知覚します。

想:表象

空から水滴が頭に落ちがことを知覚し、雨が降ってきたと判断します。

行:意思

雨を認識したので、雨に濡れたくない(という意思が現れ、次に行動へ)、傘を取り出し、傘をさします。

識:認識

この経験では、傘を持っていたので、雨に濡れずにすみました。そこで、「いつでも傘を持ち歩こう」と考えます。

一般的には、「雨が降ってきたので、傘をさした」と考えがちです。受想行識では、水滴の存在⇒雨と気づき⇒濡れないようにという意思があるから⇒傘をさすという行動を選択し⇒この一連の経験から「いつでも傘を持ち歩こう」という知識を形成する という風に、自分の内面で起きていることを、大きく4つに分類しています。

特に興味深かった所は、行は、意思であるという点です。意思を持つことは、同時に、行動することを意味するという点です。例えば、物事を他責で考えている時でも、そこには、「行」が常に存在することになります。

五蘊に出会い、お釈迦様の深い悟りから生まれた「メタ認知」の世界の奥深さに驚きました。自分の内面を深く理解することが可能になります。

知覚と判断

ユングの心理学を学んでいた際に、人間は生きているすべての時間において、知覚と判断を繰り返しているということを教わりました。そして、知覚と判断は心の機能であるという説明を受けました。五蘊の「受」と「想」が、知覚と判断に当たります。

私たちは、たくさんの経験を積み重ねると、この「受」と「想」を分けられなくなります。頭の上に、水滴が落ちたら、すぐに「雨だ」と気付きます。この水滴は何だろうと疑問に思う人はいないでしょう。私たちが、常識だと考えること、多くの人が当たり前と考える社会通念、無意識の偏見等は、すべて、知覚と判断、「受」と「想」が切り分けられていない状態です。

五蘊を知っていれば、自らの行動の前提には、「受」と「想」があると考えることができるので、「私は、何を知覚し、どのような判断を下し、今の行動を選択したのか」 と自分に問いかけることができます。

学習する組織論

学習する組織論は、MITのピーター・センゲ氏によって構築された理論です。この理論の背景には、西洋的なものの見方だけではなく、東洋的な要素がたくさん入っています。センゲ氏も、理論の構築に当たり、西洋の心理学の世界だけではなく、東洋の思想や哲学に学んだと述べていました。おそらく、メンタルモデルという手法を確立する際に、五蘊も参考にしたのではないかと思います。

メンタルモデルとは、人が物事を捉えるレンズです。人間は、誰もが、物事を捉える際に、過去の経験によって形成されたものの見方を活用します。これは、私たち人間が、危険から身を守るためには、大切な習慣です。ところが、仕事においては、この習慣が、逆に、危険を意味することになります。特に、変化の激しい時代には、過去の前例を踏襲することは、大きなリスクになっています。

そこで、学習する組織では、自分の内面を俯瞰するために、自身のメンタルモデルをメタ認知することを奨励しています。

自分のメンタルモデルは何か。(判断の尺度・価値観・ものの見方)自分はどのようなレンズ(判断の尺度・価値観・ものの見方)で物事を捉えているのか。そのレンズは、どのような経験により形成されたものなのか。

ピーター・センゲの弟子たちは、この問いに答えることで、次のアクションを見出す習慣を持ちます。私自身も、ずっと、メンタルモデルを意識する習慣を持ち、日々の生活や仕事に臨んできました。

五蘊は、今、この瞬間に自分の内面に起きていることをメタ認知する手法であり、メンタルモデルは、自分の判断を起点に、その背景を分析するアプローチを取ります。

認知の4点セット

メンタルモデルを参考にして生まれた認知の4点セットでは、意見、経験、感情、価値観とメタ認知の対象を、4つの要素に分解しています。

認知の4点セットでは、意見(自分の考え)と、感情(自分の気持ち)という、自分でも認識し易い事柄を中心に、それが、どのような背景によって生まれたのかを、経験(過去の経験を通して知っていること)と、価値観(意見や感情に繋がる判断の尺度やものの見方)の2つの観点で探求します。特に、ポジティブ/ネガティブな感情は、価値観と繋がっているので、感情をメタ認知することで、自分の内面を俯瞰し易くなります。

本来は、今、この瞬間の自分の内面を、受想行識で捉えられることが理想です。そのためにも、日々、自己の内面をメタ認知する訓練を続けてみたいと思います。

 

 

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