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AI/データー活用と人材育成

2021.05.24 文部科学教育通信掲載

VUCA時代に突入し、社会人の学び直しが、大きなテーマになっています。その中で、リスキリングという言葉まで登場しました。

リスキリングとは

英語では、職業能力の再開発、再教育という言葉です。社会のデジタル化や、企業のDX(デジタルトランスフォメーション)が進む中で、欧米では、新たに生まれた職を得るための職業能力開発のことを、リスキリングと呼び、従来の職業開発とは切り分けているようです。リスキリングは、既存の職業能力のスキルアップに比べると、個人にとっても、企業にとっても、チャレンジ度が大きい能力開発です。

AI(人口知能)

2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が2014年に発表した「雇用の未来―コンピューター化によって仕事が失われるのか」という論文が、話題になりました。この論文では、将来、AI(人工知能)に代替される可能性の高い職業・仕事が紹介されています。野村総合研究所が、オズボーン博士と共同研究を行い、日本の労働人口の約49%が、人工知能やロボット等に代替される可能性が高いことが予測されました。多くの企業と個人が、リスキリングを必要とするのはこのためです。

 AI/ データ活用人材育成

このような背景から、私自身も、AI /データ活用人材の育成に挑戦することになりました。学芸大学教育研究科AI研究プログラム准教授の遠藤太一郎先生と、日本アクションラーニング協会の清宮普美さんとご一緒に、プログラム開発を進めています。これまでの経験を生かしつつ、未知の世界に挑戦することは、私自身のリスキリングへの挑戦でもあります。一方、リフレクションは、リスキリングにとても親和性が高く、これからの展開がとても楽しみです。

全ての人のためのAI

AI /データ活用を推進するために、スタンフォード大学教授で、グーグルブレイン(人工知能の専門家による研究チーム)を立ち上げたアンドリュー・ンのコーセラの講座「すべての人のためのAI」に学びました。世界をリードするアンドリュー先生は、とてもソフトな口調で、簡単に分かりやすく、AIと機械学習の違いや、AI企業になるために何をすればよいかなどを説明してくれています。

AI/データ活用企業になるステップ

アンドリュー先生の講座では、ステップ1 パイロットプロジェクトを複数走らせて見る、ステップ2 社内でAIチームを創る、ステップ3 経営者、マネージャーを含む幅広いしゃいんに、AIトレーニングを行う、ステップ4 AI戦略を構築する が望ましいと教えています。

一方、日本で、多くの企業の取り組みは、アンドリュー先生の提案とは真逆のステップです。ステップ1 AI戦略を構築する、ステップ2 マネージャーや社員にAIトレーニングを行う、ステップ3 社内にAIチームを創る、ステップ4 パイロットプロジェクトを複数走らせる です。

AI /データ活用のできる組織に生まれ変わるために、日本の大企業は、コンサルタントを採用し、戦略を構築し、数千人規模でAI人材育成の教育を行っています。しかし、アンデリュー先生の講座では、最初に行うことは、AI /データ活用のパイロットプロジェクトを複数は知らせて見ることだと言います。私は、この違いは、とても深刻なものと受け止めています。

なぜ、真逆なのか

アプローチが真逆であることも問題ですが、それ以上に問題なのは、真逆のアプローチが望ましいと考えてしまうことです。なぜ、日本企業は、アンドリュー先生の講座とは真逆のアプローチを取ってしまうのでしょうか。それは、日本企業が、いまだに、答えのある時代のアプローチを踏襲しているからだと思います。答えのある時代には、トップが戦略を打ち出し、人的資源を結集しチーム編成を行い、物事をトップダウンで推進することができます。

しかし、前例のない時代には、やってみなければわからないことが多く、トップの意思決定を中心に、計画に従って物事を進めることは難しく、トップダウンでは、理想の姿を作ることが困難です。

前例の見えない時代には、プロトタイプを創り、仮説を持って試していることが大事です。また、試した結果のフィードバックを受けて、軌道修正をかける権限を、現場が持つことも大事です。上位社が意思決定をして、現場が実行するというヒエラルキー的な役割分担も、あまり効果的な手段ではありません。前例の見えない時代には、仮説検証の質とスピードをどれだけ上げられるかが問題なのですが、トップダウンでは、定期的な報告で、仮説検証の手を止めることになります。報告の結果、担当者ではなく、経営が軌道修正に関与し始めると、担当者の主体性も奪われて行きます。

アジャイルが進まないことと同じ

この現象は、以前から、世界で進むアジャイル型の開発プロセスが、日本で進まず、日本では、ウォーターフォル型の開発プロセスが今日でも主流であるという事象とも繋がる現象だと思いました。

アジャイル開発は、10名未満の小さいチームで行う開発プロセスです。チームメンバーは、自分たちのプロジェクトに関する意思決定を行う全権を持ちます。メンバーは、1日、1週間、1ヶ月の単位で、リフレクションを行い、プロジェクトを推し進めます。プロジェクトには、様々な部署を代表するメンバーが参加していますが、部署に戻り、上長の意向を確認することは不要です。だから、機動的に、プロジェクトを前進させることができます。また、意思決定にも慣れているので、スピードを維持することができます。

意思決定力と学習力

仮説検証を良質なものにするためには、仮説を持つタイミングでの意思決定と、検証の過程での学習が重要な役割を果たします。良質な仮説検証には、良質な意思決定力と学習力が必要になります。この二つは、主体性が欠如する環境の中では、磨くことができないもので、これが、日本企業が、正解のない時代に成功を手に入れるために生まれている様々な手法を活かすことができない背景なのではないかと思います。

正解のない時代の学校

正解があることを前提に学習を設計することが得意な学校教育の中で育ち、裁量権のない環境で仕事をし続けると、誰もが、本来持っている主体性を眠らせることになります。正解のない時代には、トップダウンで打ち出された方針に従って、主体的に動く優秀な人材が歓迎されました。これからの時代に生き残る社会と組織は、一人ひとりの仮説検証力に支えられるとすれば、教育も大きく変わらなければならないと言えます。OECDが提唱するA(見通し)A(アクション)R(リフレクション)モデルは、このことを、教育界に伝えようとしているのだと思います。

 

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