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メタ認知力の普及活動

2018.07.23  文部科学教育通信掲載

21世紀学び研究所を立ち上げ、メタ認知力の普及活動を行っています。具体的には、自分がなぜそう考えるのかを、認知の枠の4点セットで捕らえる習慣です。意見の背景を、前提となる経験や知識、判断基準、経験や知識に紐づく感情の記憶と合わせて捕らえることで、メタ認知力を高めることが可能になります。前例のない時代に、自らの意思で判断し、その行動に責任を持つために必要な力。そう考え、活動に取り組んでいます。

 

時代の求める教育の核となるリフレクション

変化・複雑・相互依存の時代に合わせて、2003年にOECDが発表した教育指針キーコンピテンシーでは、これまでの学校教育の中心である学力の向上に加え、問題を解決する力、テクノロジーを活用する力、異質な人々と共生する力、自律的に人生を生きる力などの重要性が加わり、教育の新たな時代の幕開けとなりました。日本でも、プログラミング教育や、語学教育など、時代の要請により、新たな動きが始まっています。

 

OECDの発表した教育指針キーコンピテンシーの中で、私が注目したのは、その核心となるリフレクションの重要性です。教育指針の中で、リフレクションは、状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する能力だけでなく、変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動く能力と定義されています。

 

ドミニク・S・ライチェン氏の著書キーコンピテンシーでは、以下のような説明があります。

リフレクション(思慮深さ)とは、個人がどうのように考えるかということだけではなく、その思想、感情、社会的関係を含めながら、その経験をどのように一般化するように構成するかということでもある。個人に要求されるのは一定の距離を置くようにし、異なった視点をもち、自主的な判断をし、自分の行ないに責任をとるようになることである。

 

この説明からも、リフレクションを行う上で、メタ認知力が必要であることがわかります。

 

シチズンシップ教育とメタ認知力

オランダに行くと、市民のメタ認知力の高さに圧倒されます。対立を恐れず、異質な人々がともに社会を創り上げることを大切にする市民にとって、多様性を尊重することや、対立を話し合いで解決することは、当たり前のようです。最近では、テクノロジーを積極的に活用し、社会をよくするための協動が進んでおり、市民(シチズン)という名称が、スマートシチズンに発展しています。そのような国オランダで生まれたシチズンシップ教育に学んだのは、メタ認知力の重要性です。

 

シチズンシップ教育の中核は、自立と共生に必要なマインドとスキルを習得することの2つです。オランダでは、幼児期から、自分の経験を振り返るリフレクションを行い、メタ認知力を育む教育がはじまります。自分の考えを述べることや、自分の気持ちに意識を向けること、自分で決めることなどを通して、自分を知り、他人を知り、多様性を知る経験を積み重ねていきます。メタ認知力が、自立と共生の土台であることが解ります。

 

日本でも、円になり対話を通して学ぶピースフルスクールで、子どもたちは、自分の考えや気持ちを語り、聴き合います。その中で、自然に、メタ認知力が育まれていくのが分かります。1年もレッスンを続ければ、子どもたちは、自分の考えを自然に語れるようになります。「お祭りは楽しかったですか」という先生の問いに、10人の子どもたちが、全員違う理由で楽しかったと語った時は、本当に驚きました。子どもは、お友達の意見を真似る傾向がありますが、「私も」ではなく、「私は」と、それぞれが違う理由を語りました。自分の気持ちと考えをしっかりと結びつけることができることが、自分の考えを持つ主体性につながります。

 

感情をメタ認知する子どもたち

ピースフルスクールを通して、メタ認知力を支えるのは感情の力であるという気づきもありました。オランダに視察に行き、ピースフルスクールで、校内のけんかの仲介を行うメディエーターという役割を担う小学5,6年生の子どもたちに、お話を伺った時の衝撃が、今でも忘れられません。「仲介を行う時、私たちは、中立な立場でいなければなりません。私たちが、問題を解決するのではありません。けんかが起きた時の状況についての理解をお互いが述べ、状況に対する認識を一致させることが大切です。その上で、問題を解決するために、何をするかを話し合い決めてもらいます」こんな風に話してくれました。

 

けんかの仲介では、感情的になっている時、怒りが静まっていない時には、話し合いを行わないというルールがあります。このため、子どもたちは、それぞれ、怒りという気持ちをコントロールする手段を持っています。10数えて心を落ち着けるという子どももいれば、楽しいことを思い出し気持ちを切り替える子どももいます。その前提には、自分の感情をメタ認知する力があります。オランダの子どもたちの様子に、感情をメタ認知する重要性を学びました。

 

大人にメタ認知力が必要な理由

メタ認知力は、人生のあらゆる場面で有益なものであると感じます。以下に、その代用例を挙げてみます。

 

  1. リーダーに必要なメタ認知力
  2. リーダーになるということは、自分の意のままにならないことを引き受けること。変革の推進には、反対者は必ずいますし、すべての事柄に、全員が賛成するというハッピーな状態など期待することはできません。そんな中でも、平静でハッピーでいなければ、最良の判断はできません。自分の感情をコントロールする力がなければ、人もついて来ません。優れたリーダーには、自分の思考と感情をメタ認知する習慣があります。
  3. 決断に必要なメタ認知力
  4. 仕事や人生において難しい決断を迫られた時に最良の判断を行う上で、メタ認知力が必要です。自分はなぜそう考えるのか。その考えを支える経験や知識は何か。どのような判断の尺度を用いているのか。自分の感情が、判断にどのような影響を与えているのか。どのような経験や知識、判断の尺度を用いると、考えは変るのか。メタ認知力を高めることで、ひとつの判断に固執するのではなく、多面的に考えることも容易になります。
  5. 複雑な問題解決に必要なメタ認知力
  6. 複雑な問題解決には、ストレスが伴います。失敗や行き詰まりに直面した際に、ストレスに押しつぶされることなく、自分の思考や感情を客観視し、冷静に、経験学習に向かうために、メタ認知力が必要になります。課題を直視する勇気にもつながると感じます。我々が解決しなければならない課題が複雑になる中で、トライ&エラーから学ぶためには、分析力のみならず、課題に直面している自分自身をメタ認知する力が必須です。
  7. 協動に必要なメタ認知力
  8. 協動においても、多様な意見に遭遇しストレスを感じる人は多いのではないかと思います。異なる意見に直面した際にも、困るのではなく、対話を通して合意形成を行うために、お互いが自分の考えの背景にある経験や知識、判断の尺度を共有することが大切です。メタ認知力の高い人々が集まれば、意見の対立が、創造に向かうエネルギーに転換され、化学反応が生まれます。メタ認知力は、イノベーションを生み出す力ともいえます。

 

認知の枠の4点セットを活用すれば、簡単にメタ認知力が高まります。ぜひ、活用してみてください。

 

メタ認知力を高める認知の枠の4点セット

  1. 意見 あなたの意見は何ですか。
  2. 経験 その意見の背景には、どのような経験や知識がありますか。
  3. 価値観 どのような判断基準を用いていますか。(その意見から、あなたが、何を大切にしていることが解りますか)
  4. 感情 その経験や判断基準には、どのような感情の記憶が紐づいていますか。
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