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システミック・チェンジ

文部科学教育通信 2018.07.9掲載

社会起業家、チェンジメーカー、新しい時代の市民セクターなど、時代が求める新たな概念を次々と生み出している米国の非営利団体アショカは、世界の社会起業家3,500人を、アショカフェローに認定し、ネットワークを構築しています。アショカフェローには、ノーベル平和賞を受賞したムハメド・ユヌス氏のような有名な方もいますが、その多くは無名の社会起業家です。しかし、その多くが、政策を変えるインパクトを実現し、社会システムの変化を実現しています。アショカは、これを、システミック・チェンジと名付けました。

 

システミック・チェンジは、1970年以降のトレンドで、それまでは、社会を変えたいと思う市民は、ストライキやデモ、あるいは慈善事業を行うしかありませんでした。そんな中、アショカの創立者ビル・ドレイントン氏は、システミック・チェンジという新しい概念を生み出しました。課題を発見したら、応急措置や状況の緩和ではなく、それを生み出している根本的な原因を探り、新しい仕組みを生み出す個人をシステミック・チェンジメーカーと定義し、アショカ・フェローとして認定する活動を始めました。

 

アショカは、現在、世界40カ国にオフィスを起き、93カ国で、アショカフェローを発掘する活動を行なっています。アショカは、また、大学で社会起業家を育てる活動も進めており、今日では、世界の40大学が、チェンジメーカーキャンパスに認定され、社会イノベーションを促進するエコシステムを実現しています。

 

社会変革の取り組み

アショカは、社会変革の取り組みには、いくつかの種類があると言います。

子どもの貧困と教育格差問題を例に、その種類を説明します。

 

ダイレクト・サービス

助けを必要としている人に直接関わる取り組み。

助けの必要な子どもに直接関わり、学習支援を行う、食事を提供する等。

 

大規模なダイレクト・サービス

ダイレクトサービスの規模が拡大し、広範囲で展開されているもの。

子どもの学習支援事業、子ども食堂などに発展する等。

 

システミック・チェンジ

アメリカで生まれたティーチフォーアメリカは、優秀な大学生を貧困地域の学校に派遣し、貧困による教育格差の問題解決に取り組む仕組みを開発。現在、全米53の地域に活動を広げ、活動に参加した55,000人をネットワークしています。

 

フレームワーク・チェンジ

システミック・チェンジによって仕組みと基準が変わった後、より大きな意識の変革が起こること。

テーチフォーアメリカは、現在、日本をはじめとする世界48カ国に広がり、行政ではなく市民が教育を変える仕組みと基準が各国で生まれています。日本でも、非営利団体が教育改革に貢献する取り組みが拡大しています。

社会課題先進国の日本から、社会課題解決先進国の日本になるためにも、システミック・チェンジの発想は欠かせないと感じています。

 

日本にも普及

このシステミック・チェンジを日本でも広めたいと考え、今年、2名のアショカ・フェローを招聘し、ワークショップを開催します。

アショカフェローのお話を伺い、ビジネスモデル、バリュープロポジション、セオリー・オブ・チェンジ、システム思考や氷山モデル、リーンキャンパスなどの分析ツールを活用し、アショカ・フェローがどのようにシステミック・チェンジを実現しているのかを学びます。参加する皆さんには、その学びを、自ら解決したい社会課題の解決に、生かして欲しいと思います。日本でも、社会問題の解決に貢献したいと思う若者や大人が増えています。しかし、残念ながら、その多くがダイレクト・サービスに集中しています。日本でも、システミック・チェンジにも目を向ける人々が増えることを願ってワークショプに挑戦してみます。

 

シティマート

7月に招聘するのはシティマートの創立者サシャ・ハゼルマイヤー氏です。シティマートは、市町村の新しい調達方法を生み出した団体です。自治体の調達は、世界のGDPの10%に当たります。しかし、その実態は、旧態依然としていて、税金が最も効果的に活用されているとは言えません。

 

自治体の調達は、既存の製品やサービスを前提に細かな仕様が決められており今あるものよりももっと優れた新しいアイディアは排除され、優れた能力を持つ小規模業者を排除する仕組みになっていることに気づいたサシャは、課題解決を対象にした調達というアイディアを生み出しました。細かい仕様に基づく調達ではなく、提示した課題に対する解決策を調達する仕組みです。信号機を調達するのはなく、「道路を人々が安心して歩ける方法」を募集し、その中からベストな製品・サービスを調達するというイメージです。

 

すでに、シティマートは、ニューヨーク(米)、フィラデルフィア(米)、バルセロナ(スペイン)、ストックホルム(デンマーク)、ケープタン(南ア)、ラゴス(ナイジェリア)、シカゴ(米)、メキシコシティ(メキシコ)、ノーフォーク(英国)など100以上の市町村が活用し、26,000の解決策が生み出されています。現在、シティマートのサービスは全てインターネット上で提供されており、日本の自治体も、参画することが可能です。

 

シティマートを活用した成功事例の一つに、フィラデルフィアで使われた市民の交通行動データ分析があります。フィラデルイアは数十年間、交通事故の死亡率を下げるために、都市のインフラに、数千万ドルの資金を投下してきました。しかし、交通事故がなぜ起こるのかという、人々の交通行動に関するデータ収集を行なっていなかったのです。フィラデルフィアから依頼を受けたシティマートは、数日間で、交通事故の原因分析に必要なデータを入手することができました。そのコストは、わずか3,200ドルです。データ分析の結果は、その後の交通事故対策の投資決定の基準となりました。世界中で、このような事例がたくさん生まれています。

 

シティマートのシステミック・チェンジ

「社会起業家は魚を与えたり、魚の釣り方を教えるだけでは満足しない。

漁業全体に革命を起こすまで、手を休めることはない」とビル・ドレイトン氏は言います。

 

社会問題を取り巻くシステムを根本的に変えることが成功の定義です。システムは、「構成する要素」、」「要素の相互関係」、「目的」の3つで構成されます。例えば、フットボールをシステムとして考えると、構成する要素は、選手、コーチ、フィールド、ボールです。相互関係は、ゲームのルールであり、目的は試合に勝つことです。システムの要素を変えることは最もシステムに及ぼす影響が小さいです。しかし、システムの相互関係を変えると、システムに大きな影響を及ぼします。例えば、フットボールのルールを変えれば、バスケットボールの試合にすることも可能です。システムの目的を変えると、システムに深い影響を及ぼします。

 

サシャは、調達というシステムの目的を、課題に対する解決策の調達に再定義し、自治体が、幅広い解決策を世界中から集め、選択することを可能にしました。国境を越えて、同じ課題を持つ自治体が繋がり、相互に学び合う環境も作り出しました。

 

どのようにサシャがこのアイディアに到達したのか、お話を伺うのが今から楽しみです。

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