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システムシンカーズカフェ

文部科学教育通信 No.309 2013-2-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る21をご紹介します。

昨年12月から、月1回のペースでシステムシンカーズカフェというワークショップを実施しています。1月22日に行われた第2回のテーマは、教育です。教育に強い関心を持つ社会人、学校関係者が20名集まり、システム思考を活用した対話を通して、教育の課題認識を深めました。

 

なぜシステムシンカーズカフェを始めたのか

システム思考を活用した対話の場をスタートさせた背景には、子ども達にシステム思考を身に付けて欲しいという強い願いがあります。このシリーズでも、システム思考については、これまで4回に亘ってご紹介させていただきましたが、システム思考は、21世紀を生きる子どもたちに必須の思考法です。

 

システム思考のメリット

システム思考で考えることのメリットは、たくさんありますが、カフェでは、代表的な3つの力をご紹介しました。

● 問題解決力
環境問題をはじめとする複雑な社会問題の解決に、システム思考は不可欠です。2008年に起きた金融危機は、グローバル化した金融システムの一部に起きた信用不安が、世界経済に連鎖を及ぼした代表的な例です。環境問題においても、経済発展が進む中国やインドにおける自動車の普及は自動車産業の成長の機会である一方、地球環境に深刻な影響を及ぼしています。

● ソーシャルチェンジやイノベーションを起こす力
社会起業家の父と言われるアショカ財団の創立者であるビル・ドレイトン氏は、チェンジメーカーを育てることを使命とし、活動をしています。彼は、社会システムを変えることを提唱しています。「魚を与えるのではなく、魚釣りを教えよ」という諺は、誰もが知っていますが、ビル・ドレイトン氏が提唱するチェンジメーカーとは、釣りを教える人ではなく、漁業システムを変える人を指します。
金融システムを変えたムハマド・ユヌス氏の事例をご紹介しましょう。バングラディッシュでマイクロクレジットと呼ばれる少額のお金を貸すグラミン銀行を始めたユヌス氏は、経済学者として貧困問題を解決したいと考えていました。調査の結果、明らかになったのは、貧困から抜け出せない人々の実態です。7ドルのお金がないために、竹細工を創る材料を買うことができず、貧困から抜け出せない多くの人々がいました。彼は銀行にお金を貸すように依頼しますが、銀行は契約書も読めない人々に、たった7ドルを貸し付けてもビジネスにならないと言い、ユヌスさんの要求を断ります。そこで、ユヌス氏は、システムを変えることを決意します。お金を貸し付ける目的は、自立の実現です。貸し付ける相手は、働く意欲のある女性たちで、契約書を交わさない代わりに、女性たちに仲間を作って相互支援を行うことを約束させ、銀行にも指導に入ってもらいます。ユヌス氏が作った新たな金融システムは、現在、世界中の貧困問題の解決に生かされています。契約書もないのに、返済率が97%という事実には、従来の銀行システムに身を置く人たちには信じられないかもしれません。このようなシステムチェンジを起こす人々が、今、世界中に増えています。これまでの延長線では解決できない問題を解決するためにシステム思考は必須です。

● リフレクション力
昨年6月に参加した「学校教育にシステム思考を導入する研究会」で紹介されたのは、小学一年生の行ったリフレクションの例です。3人の男の子たちが、僕たちはなぜケンカをするのかというテーマで、システム思考を活用しリフレクションを行っている映像を見せてもらいました。彼らは、時系列で何が起きたのかを振り返り、そこにはどのような要素があるのかを考えました。その結果、一つの自己強化ループを発見しました。悪い言葉を相手に言うと、相手は嫌な気持ちになる、嫌な気持ちになると、相手はさらに悪い言葉を返してくる、この連鎖が繰り返され、怒りが爆発すると、喧嘩になるというシステムを発見しました。次は、解決策です。どこに介入すれば、このループを断ち切ることができるのかを考えた末に、明らかになったのは、ポジティブな自己強化ループの存在です。良い言葉を相手に伝えると、相手は気持ちが良くなる、気持ちが良くなると、相手もまた、良い言葉を返してくるというシステムです。こうして、システム思考を活用しリフレクションを行うことで、自己の言動をメタ認知する習慣を身に付けることができます。

 

システム思考を活用した実際の対話の例システムシンカーズカフェ.jpg

【ステップ1】

最初にテーマ設定を行います。4~5人のグループを作り、テーマを決めてもらいます。テーマは、「なぜ○○○なのか」という表現で設定します。今回、4つのグループが設定したテーマは、以下の通りです。

1.なぜ当事者は気づいているのに、偏差値教育から脱却できないのか。

2.なぜ一斉授業形態はなくならないのか。

3.なぜ教師のモチベーションは下がってしまうのか。

4.なぜ教員の地位が低下して(し続けて)いるのか。

 

【ステップ2】

各グループは、ステップ1で決めたテーマに基づいて時系列に何が変化したのかを洗い出します。教員をテーマにしたチームでは、変化したこととして、次のような意見が出されました。報告書などの雑務の増加、通塾する子ども達の増加、教育NPOの増加、インターネットの普及による知識の希少価値の低下、教育課題が社会問題になることによる学校への圧力の増加、教育委員会による管理の強化、ゆとり教育からの揺り戻しによる授業時間数の増加、教員批判の増加、共働き家庭の増加、親の労働時間の増加、兄弟数の減少、教育格差の拡大、社会不安の増加などです。多様な人々が集まることにより、このように多数の意見が出て、広範囲にテーマを捉えることができます。(写真挿入)

 

【ステップ3】

時系列で変化する要素の中から、重要と思われるものを洗い出し、丸い円の周囲にポストイットを使い、張り付けていきます。次に、要素の中から原因と結果という関係性を見つけ、モールを使い、つなぎ合わせて行きます。

 

【ステップ4】

原因と結果を結びつけた要素が、それぞれどのような関係になっているかを見出す作業を行います。4つのテーマを統合してわかったことは次のような連鎖関係です。親の多忙や共働き家族の増加は、子どもに掛ける時間の減少を生み、家庭教育の質に低下につながります。家庭教育の質が低下すると、社会の学校教育への期待が高まります。学校教育への期待が高まり、その期待に学校が答えられないと、社会の教育への不満が高まり、教育批判が増加します。教育への批判が高まると、教員の不安感が高まり、教員の変化対応力は低下します。モチベーションの低下にもつながります。メディアは、良い先生や学校の心温まるストーリーを報道することが少なく、いじめや体罰事件の報道や教員批判は、教員希望者の減少につながり、学校教育の質の低下は止まりそうにありません。このようにシステムを描いてみると、企業における社員の働き方や、学校批判を繰り広げるマスメディアも、教育の質の低下の要因の一部を担っていることがわかります。

 

参加者からは、「教育における課題が俯瞰して捉えられるようになった」という声が寄せられています。システムシンカーズカフェは、今後も月1回のペースで続けて行きます。今後も、教育をテーマにした対話を続けていきたいと思います。

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