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オランダ教育視察(1) ピースフルスクールとピースフルコミュニティ

文部科学教育通信 No.334 2014-2-24に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(44)をご紹介します。


20142月中旬、ピースフルスクール、ピースフルコミュニティ、スティーブジョブズスクールといった今注目されている新しい教育を視察するためにオランダを訪問しました。

今回から5回にわたり、オランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

第1回目は、ピースフルスクールとピースフルコミュニティについてご紹介いたします。

 

ピースフルスクールとピースフルコミュニティ

ピースフルスクールとは、建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸にした教育プログラムであり、民主的な社会の担い手となる平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。

このプログラムを採用している学校で学んでいる子どもたちは、自分の意見を持つこと、その意見を相手にきちんと伝えること、相手の話をよく聞くこと、自分の感情を認識すること、相手の立場に立って物事を考えること、対立は意見が異なることが原因で起きるので悪いものではないと理解すること、対立をケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決すること、多様性を尊重すること、といった幸せに生きるために必要な力を身につけています。誰かからの指示でしか行動できないソルジャーではなく、自分の頭で考え、答えを導く人になります。 

このプログラムは、1999年、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標に、オランダのエデュニク社が、ユトレヒト大学のミシャ・デ・ウィンター教授の協力のもと、学校教育として開発されました。当時のオランダも今の日本と同様に、学級崩壊やいじめの問題を抱えていたのです。また、オランダ国内に移民が増えたため、共存し共生する力を身につけなくてはコミュニティが崩壊してしまう危機にも直面していました。開発者であるレオ・パウ氏は、当時のオランダは民主主義が姿を消し始めていた、と表現されていました。

プログラム開発後、最初の一校に導入する際に、2年間の教員のトレーニングを行ったそうです。このトレーニングでは、教員はピースフルスクールで子どもたちに教えることを学ぶだけではなく、子どもたちがどういう人間に育ってほしいのか、学校をどのようなコミュニティにしたいのか、どういった社会を実現したいのかといったことを何度も対話をとおして考えます。このプログラムの成功の鍵は、ピースフルスクールを学校文化として根付かせ、あらゆる場面で学習することにあります。そのため、教員全員がこのプログラムの本質を理解し、自らがロールモデルとなり、学習者となる必要があります。

その後、ピースフルスクールを導入する学校が増え、現在では、オランダ全土で700校以上の学校が採用しています。また、導入から10年以上経った今では、学校の文化としてこのプログラムが完全に根付いています。子どもたちは、単なるレッスンを受けるだけでなく、学校のあらゆる場面で学ぶことができるのです。

ピースフルスクールが教えていることは、子どもだけでなく大人にとっても必要な学習であるため、今では学校教育にとどまらず、地域社会におけるコミュニティ教育としても広がりをみせており、ピースフルコミュニティと呼ばれています。また、学校で子どもたちがこのプログラムを学び、体現できるようになると、学校以外の場所(家庭や地域の活動、登下校の道など)でもプログラムの学びを実践します。そのため、大人もこのプログラムを学ぶことができるようにと、保護者や様々な職業に就いている大人対象のワークショップが開発されています。 

日本では、学校・地域・家庭は分断して語られることが多いですが、子どもは学校だけでなく、地域や家庭でも活動しているので、一貫して学べる環境を整えることが大切です。家庭や地域社会は学校を批判するのではなく、理解して支えます。学校での子どもの成長は、家庭や地域社会に良い影響を与えます。国全体が子どもたちに大きな関心を向け、学びが循環している安心できる環境で、子どもたちは育てられるのです。

このように年々広がりを見せているピースフルスクールでは、何を教えているのでしょうか。

 

5つの学習目標とベースとなる2つの力オランダ教育視察①.JPG

ピースフルスクールには5つの学習目標があります。

  1. 建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶ
  2. コンフリクト(対立)を自分で解決する
  3. 社会の一員としての責任感を持つ
  4. 他者を思いやり、多様性を尊重する
  5. 社会の仕組みの中での自分の役割を知る

オランダ教育視察②.JPG子どもたちは、この学習目標に向かって設計された6つのユニットを各学年で学習しています。ひとつのユニットは、5~10レッスンで構成され、各レッスンには、「自分の意見を持つこと」や「感情を認識すること」といった具体的なゴールがとりあげられています。

また、これら5つの学習目標のベースとなる2つの力があります。

  1. リフレクション(内省)と学習
  2. エンパシー(共感)

子どもたちは自らを内省するため、成功からも失敗からも学ぶことが出来ます。そしてその内省を通して気付いたことや学んだことを次に活かすことが出来ます。

また、エンパシーを高めることで、他者の感情を理解し寄り添うことができるようになります。

このように、ピースフルスクールは心の成長に大きく影響しますが、学力の向上にも大きく寄与しています。子どもたちはプログラムを通して自ら安心できる環境をつくることで、勉強や課外学習に力を注ぐことができるのです。

それでは、学校で行っているレッスンを具体的に説明しましょう。

 

ピースフルスクールのレッスン

ピースフルスクールでは、5つの学習目標に応じたプログラムを、各学年で繰り返し学習します。小さなステップを反復して練習することで、社会に出るまでに、ベースとなる力と学習目標を自然と身につけることができるのです。 

学習目標のひとつである、「建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶ」に関するレッスンをご紹介します。このプログラムでは、いきなり建設的な議論の仕方や、民主的な意思決定の方法を教えません。それらの前提となる力を身につけることを重視します。例えば、建設的な議論をするためには、まず、自分の意見をしっかり持つことが重要です。ある事柄について、自分はどのような意見をもつのか。また、他の人はどのような意見を持っているのかをさまざまなアクティビティを通して理解します。自分の意見を持てるようになり、相手の意見にも落ち着いて耳を傾けることができるようになったら、何らかの意思決定をするために議論をします。意見を持って議論に参加することで、例え自分の思いが意思決定に直接反映されなかったとしても、決定したことに対しては責任を持って行動できるようになるのです。このように、「建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶ」という学習目標に対して、数多くのステップを重ねていきます。

次回は、ピースフルスクール採用校での子どもたち、先生の様子をお伝えいたします。

ピースフルスクールのウェブサイト: http://peacefulschool.kumahira.org/

 

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マルチステークホルダーで教育の未来をつくる 未来教育会議

文部科学教育通信 No.333 2014-2-10に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(43)をご紹介します。

 

2008年以降、世界では教育改革が猛スピードで進んでいます。

‘グローバル化”複雑化”相互依存性’がキーワードとなる新しい時代において、人々に求められる能力が従来とは異なるということがその背景にあります。

教育を改革するために、教育現場、企業、行政、NPO/NGOといった様々な立場にいる人々がそれぞれ教育や社会のあり方について議論しています。しかし、皆望んでいることや願っていることを突き詰めると非常に近いことを思っているにもかかわらず、立場や所属が違うがゆえになかなか協働することができずにいます。

そのため、時間をかけているにもかかわらず、学校教育と社会全体の連携がうまくとれておらず、飛躍的に教育改革が進んでいるという実感はありません。

このような状況を解決し、より良い未来に全員で向かっていけるよう、株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に、マルチステークホルダーからなる多様な人々と未来について話し合い、より良い教育、より良い社会を実現することを目的とした「未来教育会議」を立ち上げました。

今回は、未来教育会議立ち上げの背景を追いながらその魅力をお伝えいたします。

 

未来教育会議とは

 未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を、多様なマルチステークホルダーで共に考え、共に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトです。

急速にパラダイムシフトする社会の中では、教育のあり方と社会のあり方を同時に進化させることが大事です。この二つを別のこととして捉え、それぞれにおいて議論していては、子どもたちが受ける教育と社会において必要とされる力が大きくずれてしまう恐れがあります。実際、社会で必要とされるコラボレーション力やリーダーシップ、課題解決力などは、学校教育で教えていません。教育現場と社会に大きな隔たりがあることがわかります。

そこで、様々な立場の人と一緒に、私たちが創るべき未来の社会の姿とはどのようなものか、そこで生きる人々はどのような力を持っているのか、そのような人びとを育てるための教育はどのようなものか、といった論点で話し合って共有ビジョンをつくり、そのビジョンに向かってそれぞれの立場で前進することが必要であると考えています。

学校、家庭、企業、地域が共に連携して、豊かな未来の実現に向けたアクションを創造できるよう、未来教育会議は活動を始めています。

それでは、このプロジェクトを立ち上げた背景はどのようなものだったのでしょうか。

 

シフト化する社会と価値観

大きな時代のシフトの中で、社会システムとその社会を支える人の価値観も変容しています。20世紀に重視されていた’効率”画一性”確実性”規制”使い捨て’といった価値観は、21世紀の今では’効果”創造性”不確実性”開放”循環’に変化しています。

子どもたちが大人になった時、複雑化した課題を解決し、イノベーションを起こすために創造性や国境を越えた思考を求められるのにもかかわらず、いまだに教育現場は画一性や国内完結の思考から抜け出せていません。テストや入試の在り方も、いかに短時間で間違いなく高得点があげられるかが重視されています。そのため、子どもたちは小さな頃から自由に発想したり、コラボレーションすることよりも、一問一答式の問題をいかに早く、正確に解けるようになるかを繰り返し練習する傾向にあるのです。

高度経済成長期であれば、こういった効率や画一性を重視するやり方が合っていたのかもしれませんが、現代において本当にこのままで良いのでしょうか。

このような現実と向き合い、学校教育の領域の外にある知慧や経験を教育に取り入れる必要があると考えています。

 

現代の教育が抱える問題点現代の教育が抱える問題点

 大きく時代が変化する中、教育が迷走していることはお伝えしましたが、もう一つ残念な現象があります。

子どものことを思う大人たちの善意と懸命の頑張りが、結果として子どもたちを苦しめるという悪循環を生んでいることです。

どうしてこのようなことが起きているのか、システム図を書いて分析しました。

目指す社会のイメージが立場によって異なるため、課題に対して個別の対処療法をとっています。そうすることで教育現場への指示や圧力が増すため、現場に対する負荷が増加します。教育システムはますます複雑化し、教員や子どもに対する負荷が拡大します。結果として、子どもたちの本来の力である主体性や創造性の開花が損なわれてしまいます。

最初は個別の課題を解決するために善意で始まったにもかかわらず、最終的に教員や子どもたちといった教育現場に対する圧力となってしまっているケースが多いことをふまえ、部分最適を求めるのではなく全体で考えて動くために、マルチステークホルダーで教育の未来や社会の未来について話し合い、共有ビジョンを打ち出すことが必要であると考えています。

 

未来教育会議で私たちができること

 それでは、未来教育会議で何ができるのでしょうか。未来教育会議のあり方.png

もともと未来教育会議は株式会社博報堂が開発した「bemo(ベモ)」という手法を用いて立ち上がりました。bemoとは、様々なステークホルダーと一台のバスに乗り込み、「旅」をしながらリサーチをし、「システム全体」を見据えて、そこから解決策や未来へのアクションを創造していく手法を指します。

bemoの魅力は、多様な人々との話し合いや、様々な現場を実際に見ることで、自分たちに一番適した行先を決めることにあると思います。

そのため、未来教育会議が何かを必ず行うといったことは名言できないのですが、そこを参加する人々と一緒に考えていくことができます。

この活動の皮切りとして、2014316日(日)にキックオフシンポジウムを開催する予定です。シンポジウムでは、平田オリザ先生や米倉誠一郎先生をはじめ、高校生や大学生といった若者、新しい教育にチャレンジしている教育現場の方、企業の方によるスピーチを聞き、参加者も「私たちが目指す未来の社会とは」というテーマでダイアログ(対話)をします。誰かを責めたり、何かのせいにするのではなく、未来を見つめて「願い」について話し合う機会としたいと考えています。そして、その話し合いを通して、これからの道筋が見えてくることを信じています。

ぜひこの活動にご興味のある方は、こちらのサイトをご覧ください。

URL:http://miraikk.jp/

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