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学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(3)

文部科学教育通信 No.329 2013-12-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(39)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(以下、LFA)の魅力をご紹介しています。

今回は、LFAのプログラム中の学生教師やスタッフの学び、子どもたちの変化についてお伝えします。

 

● 学生教師の学びについて

LFAの学生教師は、3カ月という短い期間で子どもたちとの信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるため、自らの学びを最大化します。

現場では常にPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回します。

学生教師は、初回授業の前に実施される「事前テスト」を穴が空くほど確認し、子どもたちの学力や学習意欲をチェックします。学生教師の中には、子どもが消しゴムで消した跡まで見て、どのような過程で問題を解いたかを確認している人もいます。

この事前テストと前回担当していた学生教師からの情報を元に、初回授業の準備をします。

この準備段階では、その子どもにあわせた指導案を書くこと、教材を準備するだけでなく、どのような声掛けをするかまで綿密に考えます。

また、指導のロールプレイを行い、スタッフからフィードバックを受けます。そのフィードバックを元に、様々な状況をシュミレーションし、授業に臨みます。

指導中は、子どもたちの反応を見ながら授業を展開します。準備していた内容では授業が上手くいかない場合は、その内容を一旦置いて、その子どもにあった指導を行います。この時に焦らずに対応できるのも、何度もロールプレイを行い、様々な状況をシュミレーションしているからです。

また、指導中、LFAスタッフが学生教師の指導を細かくチェックします。指導終了後、学生教師はスタッフからフィードバックを受けます。学生教師、スタッフを含むチーム全員が、子どもたちの成長を心から望んでいるので、お互いにフィードバックし合うことも厭わないオープンな関係が築かれています。

学生教師自身もその日の指導をリフレクション(内省)します。子どもたちの反応はどうだったか、想定していた授業とどこが違っていたか等、徹底的に振り返ります。

スタッフからのフィードバック、自身のリフレクション、他の教師のグッドプラクティスを元に、学生教師は次の指導準備を開始します。

学生教師が、私に以下のことを教えてくれました。

「子どもたち向き合うことを通じて、常に自分自身も学習し続けなければならないということを実感しました。以前と同じ授業をするだけでは、子どもたちの成長はありません。子どもの成長を絶えず実現するためには、自分の行動を変え続ける必要があります。」

この通り、学生教師は全力で子どもたちと向き合います。とてもエネルギーの要ることですが、LFAで学生教師を経験した学生は、次のプログラムでも再度採用教師となる者や、スタッフになって子どもと学生教師を支える者がとても多いです。

長期間LFAに携わる理由は、子どもたちの成長を身近で感じることができること、学生が学んでいるという実感が持てるところにあると聞きます。

学生教師の学びがLFAの活動を支えていることがわかります。

LFA画像.jpg

 

● LFAスタッフの学びについて

それでは、LFAスタッフはどのようなことを学んでいるのでしょうか。

あるLFAスタッフは、以下のことを私に話してくれました。

「学生教師をしていた時は、子どもの成長だけを考えて行動していました。プログラム終了後、どうしても子どもたちと関わっていたかったため、LFAスタッフになりました。

最初、子どもたちから遠くなってしまい、少し残念な気持ちもありましたが、現場で子どもたちを指導している学生教師の成長を支えることで、スタッフは、子どもから学生教師までの成長を考えられるポジションだと気が付きました。

また、スタッフ歴が長くなってくると、新しいスタッフの成長も考えることができます。プロジェクトマネージャーは、子どもたち・学生教師・スタッフの成長を促すことができるので、私自身もさらに成長できたと思います。」

LFAスタッフも、学生教師と同様、子どもたちの成長のために何ができるのかを自身に問い続けています。スタッフは、子どもが成長するためには学生教師が成長しなければならないことを知っているため、学生教師の成長を全力で促します。同じロジックで、学生教師が成長するためにはスタッフが成長し続ける必要があるため、スタッフも日々リフレクションし、自らの学びを最大化させる努力をしています。

また、LFAはスタッフ向けの研修も行っていて、新しい知識や情報をインプットすることも怠っていません。

このように、スタッフも学習し続けることが、LFAの強みであると考えます。

 

● 子どもたちの変化について

LFAの活動も、今年で3年以上となっています。継続的に学習支援を受けている子どもたちも複数います。その子どもたちの変化を一部ご紹介します。

LFAのアラムナイ(卒業生)から以下の報告を受けました。

「3年前に私が指導していた子どもは、小学6年生の女の子でした。当時、2~3学年の学習遅滞を抱えていたと思います。算数の事前テストを確認したところ、ほぼ白紙でした。よく答案を見ていると、計算をして答えを出しているのに、消しゴムで消してしまっている跡が見つかりました。その答えは正解だったのですが、消してしまっているため、点数になりません。私は、彼女がなぜ答えを消してしまったのかよく考えました。もしかしたら、自信がないのかもしれない。点数がつくことが恥ずかしいと思っているのかもしれない。点数が低いことで叱られると思っているのかも…。

色々と状況を想像して指導初日を迎えました。子どもたちに、『は苦手だけど、これから得意になりたい教科は何ですか?』と質問したところ、事前テストを白紙で提出した彼女が『算数が得意になりたい』と答えました。私はその答えにとても驚きましたが、彼女のその思いを叶えたいと強く思いました。

授業中、『なぜテストを白紙で提出したの?』とは聞かず、『間違えても大丈夫だよ。間違えたら、なぜ間違ったのかを考えて、次からできるようになれば良いんだからね』『計算の過程は消さずに残しておくと、後から自分がどう解いたのか確認できるよ。最後まで答えが出せなくても、途中の計算は残しておこうね』といった声掛けをしました。最初白紙だった問題用紙は、指導の回を重ねるごとに、力強い計算で埋まり始めました。授業中に質問する回数も増え、学習意欲が向上していることを感じました。

指導最終日に実施した事後テストでは、9割近い点数をあげることができました。このことが彼女にとってとても自信につながったようで、算数以外の教科も真剣に取り組むようになりました。」

3カ月という短いプログラム期間でここまで子どもの成長を促すことができるのは、学生教師とLFAスタッフの子どもたちに対する深い愛情と自らが学習し続ける姿勢があるからだと思います。

LFAは、これからも日本の子どもたちのために活動を続けます。ウェブサイトがありますので、ぜひご覧ください。

http://learningforall.or.jp/

 

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学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(2)

文部科学教育通信 No.328 2013-11-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(38)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をご紹介しています。

第37回は、ラーニング フォー オール(以下、LFA)が「学習する組織」であることをお伝えしました。

今回は、LFAが提供している研修の魅力をお伝えいたします。

 

● LFAの学習支援の特徴

LFAは、春季・夏季・秋季・冬季のプログラムに分かれて、通年で学習支援を継続しています。これは、より多くの学生に困難を抱えた子ども達と向き合ってほしいというLFAの願いはあるものの、1年中学習支援に参加するという長期間のコミットメントを学生に強いると、参加できる学生が減ってしまう懸念があるからです。

そのため、LFAはプログラムごとに学生教師を採用しています。

そうすると、一人の教師が子ども達と向き合える期間は、長くても3カ月となります。

この3カ月という短い期間で、子ども達との信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるためには、現場に入る前に相当な準備をしておく必要があります。

そこでLFAは、過去の学生教師のナレッジ(経験知)や、子ども達とのコミュニケーションの取り方、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を上手く回す方法などを、研修を通して学生教師に伝えています。

学習支援の質を担保し、学生教師が無駄な時間を過ごすことなく効率的に指導に集中できるようにするため、研修は外すことの出来ないLFAの強みであると言えます。

 

● LFAの研修について

LFAは、2010年に学習支援の活動を開始して以来、採用した学生教師に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。

以下、LFAの研修が大切にしていることをまとめました。

1.子ども目線であること

全ての研修は、学生教師を通して子ども達に届けられるため、子どものことをよく考えた内容であることを重視しています。

LFAが学習支援をしている対象は、様々な困難を抱えている子ども達です。そのため、コミュニケーションの取り方や使用する言葉についても、その子ども達に受け入れられるものである必要があります。研修では、これらの情報を共有し、子ども達と学生教師がより良い関係を築けるベースをつくっています。

2.学生教師がすぐに実践できる内容であること

初めて現場で指導をする教師がぶつかる壁は、以前に別の教師もぶつかった壁であることが多いです。そのため、過去の教師がどういった工夫をして壁を乗り越えたか、どのようなやり取りをすることで子どもの学習意欲が向上したかといったナレッジ(経験知)を共有し、同じことで躓かないようにしています。

また、子どもとのコミュニケーションや指導の練習を、ロールプレイで実践します。
そのロールプレイに対して、過去の教師やスタッフがフィードバックをします。学生教師は、そのフィードバックをふまえ、より良いコミュニケーションや指導の仕方を習得していきます。何度も繰り返し練習することで、初回の指導でも緊張することなく、子ども達とのコミュニケーションがとれるようになります。

このような研修をすることで、継続して高いレベルの指導を子ども達にできるようになるため、子どもにとっても、学生教師にとっても有意義だと考えています

3.長期にわたって活用できる内容であること

2.では、すぐに使用できる実践的な研修の必要性を説明しましたが、それと同じぐらい重要なのが、時間をかけて学生教師に浸透し、LFAでの活動後にも使える内容であることです

例えば、LFAの研修では、リフレクション(内省)の重要性を何度も繰り返して伝えています。具体的には、研修後や指導後にリフレクションをして、次に活かす方法を考えるのですが、これはLFAのプログラムだけでなく、これからの人生のあらゆる場面で使うことのできるアクションです。

LFAは、学習支援を通して学生のリーダーとしての成長を支援していますので、プログラム後や学生が社会人になってからもLFAでの経験を活かせるように研修をデザインしています。☆使用 LFA研修画像2.jpg
 

● 研修での取り組みについて

LFAが研修でどのようなことをしているのか、一部ご紹介いたします。
指導前に行われる事前研修は、2日間で20時間、計18コマのレッスンを実施します。
各レッスンの内容を充実させることはもちろん、全研修を通して学習のサイクルにつながるように綿密にデザインされています。

事前研修1日目の前半は、学生教師もスタッフも初対面であることが多いので、チームビルディングやビジョン・ミッション・課題意識の共有を行います。

後半は、「LFAの研修について」でも挙げたように、学生教師としてのコミュニケーションの取り方や、リーダー/学習者としての教師の在り方についてなど、より実践的な内容を学びます。私が担当している研修は、この「リーダー/学習者としての教師」です。

事前研修2日目は、指導に直結する内容の研修を行います。

学生教師が担当する子どもの詳しい情報の共有や、指導案の作成法、学習習慣定着のための指導法、学習者目線の教授法、学習過程分析と仮説検証のための指導実践、そして指導のロールプレイを行います。

このように、研修初日には感情やマインドといったハートに働きかける内容の研修を多く行い、2日目は指導力を上げるための具体的な研修を集中して行っています。

初回の指導が終わったのち、中間研修という機会を設けています。

中間研修では、指導前に考えていたイメージと、実際に指導を行った時のギャップをどう埋めるのかを考えるため、課題解決のトレーニングを行います。

この課題解決の研修は、2011年頃までは事前研修に組み込まれていたのですが、実際に指導した経験がない状態(課題のない状態)でレッスンを受けても、なかなか定着しないため、初回指導後に研修を行うというシステムに修正されました。

前回、LFAが「学習する組織」であるとお伝えしましたが、このように、学生教師や子ども達のためにより役立つように、研修の構成も内容も常に磨き上げ続けています。既存の研修を見直し、新しい情報を取り入れることで、子ども達により良い学習支援を続けているのです。

 

● 「リーダー/学習者としての教師」という研修について

私は、2010年以降、事前研修の「リーダー/学習者としての教師」というパートを担当していますが、この内容も進化し続けています。その一部をご紹介します。

LFAと私は、リーダーを以下のように定義しています。

◇ 起こりうる最良の未来を実現するために、必要な気づきや能力を高め続ける「学習する組織」を創ることができる人

子ども達を導く教師こそ、リーダーであり、自らが学習者でなければなりません。

学生教師が上記のリーダーとなって子ども達と向き合うことができるよう、研修では、学生教師のロールモデルとなる「リーダーの物語」を共有します。

また、リーダーは文化を味方にし、学習する組織をつくることが必要であるため、ダイアログ(対話)の重要性やメンタルモデル(色眼鏡)に縛られないことの大切さ、チームビルディングについて詳しく説明します。

そして、学習者のリフレクションの大切さについても話しています。

今後も、子ども達へのより良い学習支援を目指し、研修内容を磨き上げていこうと思っています。

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