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市民の力で社会を変えていく

文部教育科学通信No.402 2016.12.26掲載

今回は先日、ワークショップに参加したコミュニティ・オーガナイジング(Community Organizing、以下CO)についてご紹介したいと思います。  COとは、市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり考え方です。オーガナイジングとは、人々と関係を作り、物語を語り立ち向かう勇気をえて、人々の資源をパワーに変える戦略をもってアクションを起こし、広がりのある組織を作りあげていくことで社会に変化を起こすことです。キング牧師による公民権運動、ガンジーによる独立運動、どれも数えきれないほど多くの人々が参加し、結束することで社会を変えてきました。

 

そして、普通の市民が立ち上がり、それぞれが持っている力を結集して、コミュニティの力で社会の仕組みを変えていくのが、COです。市民主導で政府、企業などさまざまな関係者を巻き込みながら、自分たちのコミュニティを根本からよくすることを目指します。

 

COは、「先行き不透明な状況の中、人々が目的を達成できるよう責任を引き受けるリーダーシップ」と言うこともできます。リーダーシップと言うと、カリスマ性のある限られた人にだけ与えられた特別なものと思われがちです。しかし、COでは、人は誰でもリーダーであると考えます。子どもの頃に何度も転びながら自転車の乗り方を覚えたように、行動を起こし、何度も失敗しながら学んでいくのです。 (コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンWEBサイトより抜粋)

 

COのイメージ

スイミーという絵本をご存知でしょうか。小さな魚たちが集まり、大きな魚の振りをすることで、大きなマグロに対抗します。スイミーは他の魚が赤い色をしている中で、黒い色をしています。その特長を活かして目の役割をするという物語です。COはこのイメージです。一般市民がそれぞれの個性を活かし合いながら共生し、社会に変革を起こすことができます。

 

COの第一人者は30年以上アメリカの市民活動に関わってきたマーシャル・ガンツ博士(ハーバード大) です。COの手法を活用し、オバマ氏を米国初の黒人大統領に導いたことでも有名です。ガンツ博士は自身の長年の経験を理論的に体系化しました。米国では市民運動が盛んで、COのように体系的に学ぶ機会があります。日本でも過去を遡れば一揆のような、農民や信徒が立ち上がって圧政に対抗したような事例もあります。これからの時代は社会課題が多様で複雑化しています。一人のリーダーが先頭に立って解決するだけでなく、市民一人ひとりが自分事として社会づくりに参画していく基盤づくりが必要です。日本の中でもその動きはより求められるものとなるでしょう。

COに学ぶリーダーシップ

COのワークショップの中で、リーダーシップを考える3つの質問があります。

①私が私自身のために存在しなければ、私は誰なのか?

→まずは自分自身の価値観を理解することが大切である

②私が私のためだけにあるのなら、私は「どういう物」なのか?

→あなたがあなたのためだけに生きているのであればただの物である。人間は相互に依存しあって生きており、他者の力を最大限に引き出して社会をつくっていく必要がある

③今でなければいつのなのか?

→失敗を恐れて行動しないのではなく、やってみて失敗を重ねて学んでいく

 

この質問は限られたカリスマだけでなく、誰しもがリーダーになれることを示しています。自分の価値を認識し、他者を巻き込みながら、自己内省を重ねて行動していく、これがリーダーに必要なことです。これらの能力を高めながら、リーダーは自分と他者が共有した目的を達成していくのです。

 

COでは自分の3つの資源を同時に使っていく必要性を掲げています。その3つとはこちらです。

1.頭 HOW 戦略

2.心 WHY 動機

3.手 ACTION 知識・スキル

その中でも、頭と心が重要であり、状況に応じて柔軟に戦略を組み立てながら、自分と人をモチベイトして組織化していくことが求められます。

 

では、具体的にCOの実践法についてお伝えしていきます。大まかな流れはこのようになります。

 

ステップ1:「同志」を見つける

ステップ2:アクションを起こしながらゴールを達成する

ステップ3:組織化する

 

ステップ1の「同志」を見つけるために、有効な問いがあります。
同士は誰か?

➔自分が解決したいと考える課題に直面している当事者

同士が直面している困難は何か?

➔同志との対話を通して真の困難を導き出す

同志の資源をどう創造的に使い、困難に立ち向かえるパワーに変えられるか?

➔限られた資源をいかに有効化し、変化へとつなげる

 

同志となるには、自身のもつ想いをストーリーとして語り、相手の心を動かしていくことができるかが鍵となります。これをCOではナラティブと呼んでいます。表面的な同意ではなく、相手が共有する目標を心から達成したいと願い、自発的に行動していく真のコミットメントを得ることができなれば意味はありません。共感を得るためには、自身の経験や価値観、お互いの共通項を踏まえて、聴き手が自分事として捉えられるよう伝えていくことです。  同志とコミットメントができた後、自分たちの資源を使って戦略をたてていきます。資源とは、時間、勇気、スキル、創造力など広義の意味での資源を指します。変革を起こすための十分なパワーとなる資源をどのように集めれば良いのでしょうか。必要とする資源を自分たちがすでに持っているのであれば、協力し、資源を使っていくだけです。これをパワー・ウィズと言います。他の人から得なければいけない資源があれば、これはパワー・オーバーと言います。必要な資源をもつ他の関係者を見つけ、その人や組織が必要とする自分たちがもつ資源を考えます。自分たちの資源を最大限活用し、関係者の資源にどうやってアクセスできるかを追求するのです。

戦略が機能するためには、強い動機、不利な状況も有利に変える創造性、常に適応し変化できることが大切です。戦略の最終ゴールを達成するため、具体的な戦術が必要です。戦術にも関係を構築する戦術とキャンペーンとしての戦術があります。リーダーが同志と関係を構築していくためには、指示命令ではなく、同志の自発的な行動を促す戦術が必要です。そのためには十分な時間と意欲を投資していかなければなりません。オープンでフラットな関係を築き、真の自分でいられる環境づくりがかかせません。

一方キャンペーン戦術とは、人を集め注目を高めていくために仕掛けるイベントのようなものです。最終的に達成したいゴールの助けとなり、同志の資源をうまく活用できるものでなければいけません。またこのキャンペーンを通じて、組織や参加メンバーを成長させることにもつながります。

 

戦略をたてるポイント

同志:困難を抱えその問題のために立ち上がってほしい同志は誰か?明確か?

 ゴール:変化を起こすゴールか?同志が変化を感じ、達成に向けて動機が上がるものか?

変革の仮説:パワー・ウィズとパワー・オーバーが十分に分析できているか。同志の資源を生かしてパワーを作り出しているか?

タイムライン:いつが基礎づくりで何をするか?キャンペーンのキックオフ、ピークと最終ピークは何か?

戦術:メインの戦術は何か?「変革の仮説」を実行する同志の資源を結果に繋げる活動は何か?同志の資源を使えているか?

 キックオフ:できるだけ具体的につくる

 

次回はCOが提唱するパブリックナラティブと組織構造についてご紹介したいと思います。

※本内容はCOワークショップガイドより一部流用させていただきました。

 

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