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学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(1)

文部科学教育通信 No.327 2013-11-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(37)をご紹介します。

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をお伝えしたいと思います。

私は、2010年のラーニング フォー オール(以下、LFA)の活動開始時から、研修や組織開発の面で継続的にサポートしています。LFAの組織としての成長を見守るとともに、常にLFAの運営に携わっている学生からも学んできました。今回は、これまでの活動を振り返りつつ、ラーニング フォー オールをご紹介する機会にしたいと思います。

シリーズ第1回は、LFAの概要をご紹介いたします。第2回では、LFAの独自の研修プログラムについて、第3回は、プログラム中の学習サイクルとプログラム後のリフレクションについてお伝えいたします。

ラーニング フォー オールについて

LFAは、学習支援を通して困難を抱える子ども達の可能性を広げるとともに、将来、教育現場や社会でリーダーシップを発揮する人材を育成する大学生向けのプログラムです。

団体のミッションは、次の3つです。

  1. 困難を抱えた子ども達の可能性を最大化する
  2. 参加した学生のリーダーとしての成長を実現する
  3. 卒業生による“社会全体で教育を変える”システムを創る

2010年夏より活動を開始し、今では関東・関西・東北・九州に拠点が広がっています。
2012年度までに、延べ1337人の子ども達に学習支援を行いました。プログラムに参加した学生教師は延べ445名、LFAのスタッフとして活動している人は述べ152名となっています。また、2013年は既に春季、夏季のプログラムが終了し、現在は秋季のプログラムが始まっています。

LFAの学習支援を受けた子どもの中には、学力的に高校への進学が厳しいと言われていたのに、学生教師がその子どもの躓いているところを一つずつ丁寧に指導し続けたことで、志望校に推薦合格した子どももいます。

持続可能な学習支援に向けて第37回 掲載写真.jpg

LFAは学生が運営している組織です。採用や研修をデザインする際に、私のような社会人がアドバイスすることもありますが、組織を成長させ、子ども達により良い学習の機会を提供するために活動しているのは、情熱をもった学生たちです。

学習支援を持続可能な活動にするため、LFAは子ども達のおかれている状況に共感し、自ら学習し続けることのできる人材を仲間にしています。

学生教師とLFAスタッフの情熱や子ども達の変化を知ってもらうための説明会といった広報活動も、全て学生が行っています。説明会でのプレゼンテーションひとつを挙げても、初めてLFAに接した人々に彼らの思いが伝わるように、何度も練習し、フィードバックしあい、改善しています。

学生教師を採用する際にも、どのような思いを持っているのか、たとえ困難な状況に置かれても責任をもって子ども達を支援することができるのか、教師自身が学び続けることができるのかを確認するために、エントリーシートの提出や面接を実施しています。指導の経験やスキルだけでなく、子どもの目線で物事を考えることができるかどうかも重要な採用基準です。

LFAは、採用した学生に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。また、指導期間中は教師に対して指導のフィードバックを行い、教師自身がPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回して、より良い指導ができるようにサポートします。プログラム終了後には「大リフレクション大会」という、活動を振り返って次の行動につなげる機会を設けています。このように、LFAは、子ども達の成長のために個人と組織の学習サイクルを綿密にデザインしています。

 

学習する組織としてのラーニング フォー オール

LFAの一貫した活動についてふれましたが、団体設立時からこのような流れがあったわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、成功や失敗から学び続けた結果、現在のスタイルが確立されたのです。また、今でも常に子どもと教師にとってより価値のあるやり方を模索し続けています。
私はLFAを学習する組織であると考えています。LFAは、学習する組織の5つの規律を活動全体で体現しています。

学習する組織の5つの規律とは、以下の5点です。

①パーソナルマスタリー
パーソナルマスタリーパーソナルマスタリーとは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンをもち、ビジョンと現実との間のギャップを埋めるために、創造的な力を発揮するプロセスである。

②共有ビジョン
共有ビジョンとは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針を羅針盤のように示す。

③メンタルモデル
メンタルモデルとは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。自らのメンタルモデルとそれが周りに及ぼす影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルを見直す。

④チーム学習
チーム学習とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスである。メンバーは、ダイアログ(対話)を通して本音で腹を割って話をし、集団で気づきの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する。

⑤システム思考
システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用される。

 

私は、LFAのスタッフや学生教師向けの研修を担当する際、学習する組織の話をしています。なぜこれら5つの規律が大切なのか、とLFAに携わる学生達が繰り返し考えることが、組織が成長していくための土壌づくりになると考えています。

 

LFAに参加している学生は皆、なぜLFAで活動するのか、どのような思いから参加しているのか、この先LFAでの経験を何に活かしたいのかといった①パーソナルマスタリーをもっています。個人の願いを叶える手段が、LFAでの活動である場合が多いのです。

また、LFAの活動を通して個人が成し遂げたいことと、団体のビジョンが一致しています。研修では、LFAのスタッフが団体のビジョンを学生教師に共有する機会がありますが、この②共有ビジョンと個人のビジョンをすり合わせることを目的としています。

LFAに携わる学生は、③メンタルモデルという色眼鏡が自らの学習を妨げる原因となることを理解しているので、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、反発するのではなく、歩み寄ってそこから学ぼうとします。

また、個人がそれぞれPDCAサイクルを回して学習しますが、④チーム学習も盛んです。ナレッジと呼ばれる経験知をお互いに共有し、自分の指導に活かせるものは進んで取り入れることもできます。また、チーム全体で課題を解決することも行います。その際、ダイアログ(対話)という手法で、お互いの意見を尊重しながら、より良い答えを求めます。

学習支援に力を注いでいると部分的な課題にとらわれがちですが、⑤システム思考を用いて、全体を眺めた時にどこが問題なのか、どのような因果関係でその問題が起きているのかを捉え、アプローチします。

このように、子ども達の学習機会を最大化するために、LFAの学生教師やスタッフは、自ら学習し続けています。

アショカ・ユースベンチャラー活動報告会「We are the Change」

文部科学教育通信 No.326 2013-10-28に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(36)をご紹介します。

 

アショカ・ジャパンの活動の一つに「社会のために行動を起こしたい」という想いを持ち、若者自らが始める活動を支援するアショカ・ユースベンチャーという取り組みがあります。ユースベンチャーの目的は、「参加する若者を将来のチェンジメーカーとして育てること」です。若者が日常で感じる「こんなことがおかしい」という気づきに対し、若者自らが起こす取組みを支援しています。この活動は、1996年に本国アメリカで始まり、今では日本を含む世界17か国に広がっています。日本での活動は2011年にスタートしました。通常のアショカ・ユースベンチャーのほかに、2011年3月の震災の後、「東北の未来のために何かしたい」と、立ち上がった若者を支援する東北地域限定の東北ユースベンチャーもあります。東北ユースベンチャーでは、2016年までに150人の東北ユースベンチャラーのネットワーク作りを計画しています。

アショカ・ユースベンチャー/東北ユースベンチャーの対象は自らがチェンジメーカーになって社会を変えたいと願う12歳〜20歳の若者です。候補者は、自分自身が具体的に取り組むアイデアを「活動プラン」にまとめ、パネル審査会で発表します。選考された若者は「アショカ/東北・ユースベンチャラー」として認定され、アショカ・ジャパンから10万円のシードマネー(活動立ち上げ資金)と社会人メンターからの活動アドバイスを受け、1年間、責任を持って活動プランを継続します。

 

●We are the Change

2012年9月から2013年8月までに合計28組、約140人の若いベンチャラ―が認定され、活動を続けています。先日、この若いチェンジメーカーが一同に会する第1回の大集会「We are the Change」が品川にて開催され、参加してまいりました。当日は、1年間の活動を終えた第1期・第2期ベンチャラ―による最終報告と第4期ベンチャラ―による中間報告が行われました。若いベンチャラ―の熱い思いがまっすぐに心に伝わる素敵なイベントでした。報告の中から印象に残ったベンチャラ―の活動をいくつかご紹介させていただきます。

◎堀池美里さん
「被爆ピアノ」のコンサート

被爆ピアノとは、1945年に広島と長崎に落とされた原子爆弾によって被爆したピアノです。堀池さんは、中学生の時に生徒会の一員として平和学習のために広島を訪れ、河本明子さんの被爆ピアノに出会いました。19歳の時、学徒動員中に被爆して亡くなった明子さんのピアノは、それから弾かれることのないまま眠っていましたが、平和を伝えるために修復され、展示やコンサートで使用されるようになりました。毎年、8月6日には原爆ドーム前でコンサートが開かれます。堀池さんは2003年のコンサートに参加し、明子さんのピアノとその音色に感動し、学校のみんなにも聞いて欲しいと思い、コンサートを企画しました。翌年、学校のホールで明子さんの物語を描いた劇とともに被爆ピアノコンサートを開催したところ、たくさんの生徒がピアノの音色と話に感動し、すばらしいコンサートになりました。 この感動を一人でも多くの人に味わってもらうために、堀池さんは学校という枠を超えて被爆ピアノコンサートを行っています。若者が「被爆」のことを知り、平和を考えるきっかけになるよう、今後もコンサートを行うだけではなく、意見や感想を共有する交流会も企画しています。

◎田畑 祐梨さん
震災の経験を伝える「語り部」活動

宮城県南三陸町の仮設住宅に住む田畑さんは、一向に進まない復興に、いら立ちを覚え、大人達に失望します。しかし、そんな大人達に頼り、何もしてこなかった自分にも怒りを感じ、自ら行動することを決めます。2013年3月11日から約半年間に日本の若者と外国の方々約2000人に対し、震災の経験を話す「語りべ」活動を行ってきました。

半年間の語りべ活動を通して、田畑さんはこれからの支援活動について考えるようになりました。東日本大震災から2年半たった今も、被害を受けた地域の人々は、漠然とした未来への不安や、なかなか進まない復興活動に対する葛藤と戦い続けています。そして、「2年半たった今、支援者が被災地にいつまで来てくれるのだろうか」と忘れ去られることを不安に思っています。そこで、田畑さんは、これからは「支援」という形ではなく、「語ること」を通して支援者と「つながる」ことを目標に、今後も活動を続けていくことにしました。田畑さんの語りべを聞いた多くの人が、「また、会いに来るね」と言って自分の故郷に帰っていきます。そのたった一言が、町の人たちの「次に来てもらえる時までに、この街を良くしておこう」という、今後も踏ん張る力になっています。田畑さんは、南三陸町の語りべ活動のほかに、遠方からでも活動に参加できる新プロジェクトを企画中です。

◎大前拓哉さん
被災地を訪れるバスツアーを企画

大前拓哉さんは、Investorという団体を作り、関西の学生を対象に東北地方を巡る「バスツアー」を運営しています。このツアーでは、観光地のほか被災地を訪れて、被災者の方々から直接体験談を聞いたり、地元の小学校で行われるスポーツ教室や運動会などを手伝って、実際の支援活動を行ないます。東北地方の「今」を知り、地元の方々と密接に触れ合える体験型のバスツアーです。ツアーを通じて参加者の学生に被災地を知ってもらい、東北を大好きになってもらおうという狙いです。

また、大前さんは、このツアーを通じて出会った気仙沼の高校生を彼が住んでいる大阪や京都に連れてきて、大阪を好きになってもらう「逆ツアー」も企画しました。実施した関西ツアーを振り返り、「関西の良さを知ってもらう楽しい旅を企画できたことはよかったが、関西にも問題はあるし、良くない所もある。良い面ばかりではなく、関西の課題も共有することで、より深い繋がりを実現できるツアーになるのでは・・・」と次のツアーに向けて、改善点を挙げていました。

 

●魚釣りを教えるのでなく、漁業全体に革命を起こす
アショカは、1981年に、ビル・ドレイトン氏により創立されたチェンジメーカーを育てる活動を行っている財団です。ビル・ドレイトン氏が、この活動を始めたきっかけは、19歳の時、2か月間インドを旅し、どうしようもない貧困を目の当たりにしたことでした。この問題を解決したいと考えましたが、その当時の彼には、何もすることができませんでした。まず、世の中を動かす仕組みを知ろうとハーバード、オックスフォード、エールの各大学に学び、大手経営コンサルタント会社のマッキンゼーで、官民両方の顧客を担当し幅広い経験を積みました。人づてに、インドで教育に取り組むグロリア・デ・ソウザという女性のことを知り、彼女の活動に資金的な支援を行うことを始めたこと(アショカフェロー第1号)が、アショカの始まりです。ビル・ドレイトン氏は、「魚釣りを教えるのではなく、漁業全体に革命を起こす」つまり、システム変革を起こす人を育て、活動を支援することを目指しています。

日本では、アショカ・ユースベンチャーの他にも、高校生や大学生を巻き込んだ多くの取り組みが行われています。それらの取り組みと、アショカの大きな違いは、「大人が取り組みに介入し、成功に導く支援をしないこと」です。若者が、自分の力で取り組み、成功や失敗の中から学び、目標を達成することで、チェンジメーカーになるための心の習慣とスキルを共に習得することがアショカ・ユースベンチャーの狙いです。アショカという文化の中で育った若者が、これからの社会にどのようなインパクトを与えてくれるのか、本当に楽しみです。

 

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