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人間性も教育のゴール

2017.09.11 文部科学教育通信掲載

初めてのアフリカで

8月にはじめてザンビアを訪問しました。初めてのアフリカ訪問で訪れたザンビアは、政治的にも安定していて、人柄も温和で勤勉な国民性を持っており、とても日本人と気質が似ています。一日、1ドル90セントで生きている人々がいる国を訪れたのは初めてでしたが、主とルサカには、ゴルフ場もカジノもあり、経済格差の課題は、先進諸国と途上国の間だけでなく、国の中にも存在することがわかりました。ザンビアでは、国連や国際協力機構で働く日本人や、現地の企業人、農家の人々など様々な方々のお話を伺うことができました。なかでも、最も印象的だったのは、農家のお母さんたちのお話です。決して豊かではないお母さんたちが、家族の健康と子どもの教育をとても大事に考えていることを知りました。ザンビアには、小学校が8000校存在するのに対して、中学校が800校しかなく、日本のように全員が中学校に通う環境ではありません。小学校までは無料で、中学校からはお金がかかることもあり、子ども達全員が中学校に通う日は、すぐにはやって来そうにはありません。私たちがお話を伺うことができたのは、ザンビアの中でも、意識の高い親たちですが、決して豊かな訳ではありません。それでも、子どもの教育を大切に考える親たちの心に触れ、改めて教育の大切さを実感しました。

 

ザンビアでは、15歳以下の人口が、人口の5割を占めています。以前訪問したサウジアラビア同様に、若者の多い国には、独特のエネルギーがあります。ザンビアでは、起業に挑戦する10名の若者のお話を伺う機会がありました。その中でも、20代でフィットネスの会社を営む若者のお話がとても興味深かったです。彼は、親の期待に答えて公認会計士になり2年間働いた後、自分の本当に好きな仕事がしたいと考え、南アフリカに留学し、スポーツや健康に関する資格を習得し、フィットネスの会社を始めたといいます。一度は、お母さんの期待通り公認会計士になったけれど、2年間働きて、これが自分の本当にしたいことではないと気づき、お母さんに許可をもらい、今の仕事を選んだといいます。彼の企業は、とても成功しており、将来は、スポーツや健康に関する専門家を育てるビジネスにも拡大させていきたいと語っていました。公認会計士になって欲しいと願いお母さんは、日本で、安定した就職を願う親の心にも通じるものだと感じました。

見えてきた日本の教育課題

教育が幸な人生を手に入れるために必要なものであることは、改めていうまでもないことですが、ザンビアを訪問し、先進国日本には、別の教育課題があると感じました。3年前に訪れたオランダで、教育コンサルタントの方から、親が子どもの教育のゴールをどのように考えているかについてお話を伺いました。ザンビアを訪問し、その統計を見てびっくりしたことを思い出しました。オランダの親たちが考える教育のゴールのトップ5に学力が入っておらず、トップ5はすべて人間性に関わることでした。一番目が、強い責任感を持つこと、2番目が自分を大切にすること、3番目に他者を思いやること、4番目は行儀正しいこと、5番目は親やお年寄りに敬意を払うこと、そして、6番目に初めて、よい成績をとることがあがっていました。7番目は、物事に対して「なぜ」という疑問を持つこと、8番目が、高い目標を掲げることです。日本の親に関する同様のアンケートを見たことはありませんが、トップ5の上位に成績や学力が含まれることが容易に想像されます。

数値で測定できない大切なこと

日本は、世界2位の経済大国に上り詰め、豊かになったのですが、その中で、子ども達の人間性を育む機会を失ってきたのかもしれないと感じています。受験戦争に勝ち抜いてきた親たちが、子どもの幸せを願い、子どもたちにも、よい成績をとることを期待します。そこには、よい成績をとり、よい就職をし、幸せに生きて欲しいと願う親の思いがあります。また、時代の変化により、先行きが不透明になればなるほど、子どもには安定した職業について欲しいという親の願いがあります。親が教育熱心になればなるほど、国や行政、学校現場は、親の評価の目に晒されます。そんな中、学力テストの結果は数値で測定できるため、親も学校も、教育のゴールを評価するものさしとして当たり前のように学力を最優先してしまいます。世界中の先進国では教育のインフレが起きてないとも言われていますので、学力が必要なことも事実です。しかし、社会に出れば、学力がすべてではないことは明らかです。自己肯定感や自己効力感、社会に貢献する心やコミュニケーション能力など、学力では測定できないたくさんの大切なことがあります。

子どもの成長を見守る社会を実現する

少子高齢化社会の日本では、10代の子どもは、9人の大人に囲まれているという計算になります。社会の宝物である子どもに、9人の大人が何を願い、どのような成長を見守るのかが、その成長に大きな影響を持っていると考えることができます。教育は、親や学校が行うことと考えがちですが、実は、高齢化社会では、一人ひとりの大人の生き方が子どもの成長に大きく影響しているといえるのではないでしょうか。だからこそ、子どもたちの教育を、親や学校任せにするのではなく、社会全体で見守っていくことが大きな力になり得ると思います。そこで、我々も、オランダの親に見習い、教育のゴールに、学力だけでなく人間性を含め、子どもたちが自己を確立していく発達が可能となる環境を整備していくことができれば、本当の意味で子どもたちの成長を見守る社会を実現することが可能になります。学校では学力をしっかり伸ばし、同時に、社会全体が子どもたちの人間性を育むために貢献するというのは、とてもよいアイディアのように思います。

 

共働き社会に移行しつつある日本では、子ども達が、家庭で人間性や健全な心を育む環境や機会は今以上に減少する可能性が大きいです。教育を学校に任せるのではなく、社会全体で子どもを育てる社会を実現していくことが、これまで以上に大切です。子どもの人間性を育むために大切なことは、大人が子どものお手本になることです。3人に一人が高齢化する社会に生まれてくる子どもたちが、幸せに生きるために、私たち大人は、常に自分のあり方を振り返り、自分の人間性を高めていく努力を怠ってはいけないと思います。子どもは大人を映す鏡であるということを忘れずに、日々、自分の人間性を少しでも高められるように生きて生きたいです。

 

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