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2024.05.13文部化科学教育通信掲載

オランダで生まれたシチズンシップ教育ピースフルスクールを日本に広める活動を始めて10年になります。このプログラムと出会ったが、大人に向けてリフレクションとダイアローグを広めるきっかけにもなりました。

メディエーター

3月にオランダを訪問し、久しぶりにオランダの小学生とお話をしました。ピースフルスクールを導入している学校で、メディエーター(仲介役)を担う児童です。ピースフルスクールでは、5,6年生の中から選ばれた児童が、けんかの仲介役を担います。お昼休みの校庭で、彼らはみんなの遊ぶ様子を見ながら、お話をしてくれました。「サッカーのスペースはよくけんかが起きる場所なの」等と話しながらも、みんなが平和に遊んでいることを目で追い確認している様子は、『プロ』のメディエーターの姿です。ピースフルスクールでは、対立は民主的な社会では起きること。しかし、対立を喧嘩に発展させることはいけないことであるという教えが徹底されており、「けんかは話し合いで解決すること」が約束です。このため、喧嘩をした子どもたちは、多くの場合、みずから、メディエーターを探し、一緒に話し合うことが習慣になっています。

 

報告書

私が見学をした日のお昼休みは喧嘩が起きませんでしたが、メディエーターの子どもたちから、報告書のファイルを見せてもらいました。そして、「喧嘩の仲介をしたら、報告書を書きます。担当者の名前、喧嘩の概要、仲直りの内容を書きます。この報告書をもとに私達は、1ヶ月に一度会議を行い、全体的な傾向と対策を考えます。例えば、あるゲームで、いつも喧嘩が起きる場合には、ゲームのルールを見直すことを提案することもあります」と解説してくれました。メディエーターの指導に当たる専門家も同席していたのですが、その方からは、先生も同様に、この報告書を見て、頻繁に喧嘩する子どもに対しては個別に対応を考えることもあると伺いました。児童も先生も一緒になって、喧嘩を話し合いで解決する学校作りに取り組んでいます。

人間の成熟度

私が始めて小学生のメディエーターに出会ったのは、2011年でした。とても落ち着いた様子で、「メディエーターは、喧嘩の仲介を担います。喧嘩をしている子が、話し合う支援を行います。お互いが、何が起きたのか、どんな気持ちなのかを伝え、聞き合うお手伝いをします。メディエーターは、どちらかの味方になってはいけません。あくまでも、中立な立場で、当事者が話し合うことを支援します。そして、起きたことについての認識が一致したら、問題解決のために何をするのかを話し合う支援をします。この際にも、私達が解決策を考えるのではなく、当事者同士で、解決策を考えることが大事なんです」このような解説をしてくれました。この小学校6年生の話してくれた内容が、本当に素晴らしく、私の頭の中には、「人間の成熟度」という言葉が浮かびました。同時に、眼の前にいる小学生と私の成熟度を比較し、「負けた!」と思ったことが、今でもはっきりと思い出されます。もちろん、彼らは、小学生なので、当番以外の日で、元気に校庭で遊ぶ様子は、普通の小学生と変わりありません。

鍵は感情とコミュニティ

ピースフルスクールプログラムで、子どもたちはたくさんのことを学びますが、核となるのは『感情とコミュニティ』であると思います。子どもたちは、今の自分の気持ちを言葉で語ることができるようになります。嬉しい、悲しい、頭にきた、恥ずかしい等の気持ちを言葉にします。また、同時に、その理由を語る練習をします。「おかあさんに叱られたから、悲しかった」、「おばあちゃんが田舎に帰ったから寂しかった」等、ネガティブな感情についても、たくさん言葉にして話す機会を得ます。『今の自分がどんな気持ちなのか、なぜそうなのか』を、語り聞き合うことで、心と心がつながるコミュニティを形成していきます。

違うことが当たり前

気持ちを語り、聞き合う教室で育つ子どもたちは、その結果、『お友だちと私は、同じことに対して同じ気持ちではない』ことを学びます。サッカーが楽しい子もいれば、お絵描きが苦手な子もいます。「自分が好きだから、自分が楽しいから、みんなも同じ」と考えるのではなく、お互いのことを尊重できるようになります。また、子どもたちは、みんなの今の気持ちは同じではないということを学びます。朝の会では、今日の気持ちを語り、聞き合うのですが、そのとき先生は、「今日 ピースフルでない人はいますか」と尋ねます。お兄ちゃんとの喧嘩の話や、朝寝坊した話など、一人ひとりの物語と残念な気持ちを共有し合う時間を通して、子どもたちは、自分の気持ちを言葉にする練習をしながら、「人の気持ちは、同じではない」ことを学びます。また、ネガティブな気持ちついても、ポジティブな気持ちと同じように、自然に言葉にすることができるようになります。

 

他人の気持ちを評価しない

自分の気持ちをメタ認知し、その理由を理解することができるようになると、「自分は何者か」について学べるようになります。また、このプロセスをコミュニティの中で経験することができるので、他者との違いから「自分は何者か」を考えることもできます。また、ポジティブな側面だけではなく、ネガティブな感情にも目を向けることができるので、良いことも、そうでないことも含めて「自分は何者か」を知ることができるようになります。

ポジティブな気持ちも、ネガティブな気持ちも語り、聞き合う教室では、弱みを出すことは恥ずかしいことではありません。なぜなら、誰にとっても、それは当たり前だからです。それが人間というものだという前提を、自然に学ぶことができます。しかし、もし、誰もが口にださなければ、「自分だけがだめなんだ」等と落ち込んでしまうことになります。

また、もう一つ大切なことは、「他人の気持ちを評価しない」コミュニティであることです。弱みを口にした瞬間に「だめなやつだ」、「弱いやつだ」と言われたとしたら、誰も、本当の気持ちを語れなくなります。小さい頃から、人の気持ちは同じではないこと、人の気持ちを評価する権利は誰にもないことを子どもたちは自然に身に着けていますが、これが、とても重要なポイントだと思います。

心理的安全性と自己受容

自分の気持ちに対して評価されないコミュニティには、心理的安全性があります。心理的安全性のある状態は、素の自分をだすことを自分が受けいれられる状態であり、素の自分を出しても、他者に受け入れてもらえる安心感がある状態のことです。ピースフルスクールのレッスンを通して、子どもたちは、心理的安全性のある教室を作ることができます。

その結果、子どもたちは、自分の気持ちを言葉にし、安心して、日々の生活や経験をリフレクションすることで自分について学んでいきます。その結果、「自分に対する確からしさ」を持つことができるため、自然に、自己を受容することを学ぶことができます。

誰もがオープンに自己の内面を語ることができる教室では、多様性に対する理解が深まり、同時に、自分が多様性の一部であることも学んでいきます。

久しぶりに訪れたオランダで、「人間は対話を通して学ぶのです」というピースフルスクール開発者の言葉を思い出しました。対話のできる学校を増やしていきたいです。