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システム思考

文部科学教育通信 No.275 2011-9ー12に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(6)をご紹介します。

 

システム・リテラシー
複雑な社会に生きる子供たちの問題解決力を向上するために、欧米では、システム思考の教育が始まっています。

 システム思考教育の専門家リンダ・ブース・スィーニー氏は、世界が今求めているのは、21世紀を生きるために必要となる「システム・リテラシー(複雑なシステムを理解する知識・能力)であると言います。食料問題、経済危機、貿易・財政問題、エネルギー問題、温暖化の危機などに共通して言えることは、問題を作っているのは個々の要素ではなく、さまざまな要素の相互依存的な関係であるということです。このような問題には、問題の原因となる要素を特定して解決するアプローチでは、問題はなくなりません。問題の起きている状況をシステムとしてとらえ、システムそのものの構造変革を行う必要があります。

 昨年、ボストンで開催されたシステム・リテラシー教育(対象は幼稚園児から高校生)の研究会に参加しました。主催は、NPOウォーターズ・ファンデーションです。3日間に亘り開催された研究会には、システムダイナミックスの生みの親であるジェイ・フォレスター教授や「学習する組織」の提唱者であるピーター・センゲ氏も、アドバイザーとして同席くださいました。

 研究会では、教師による実践報告が行われました。幼稚園では、生態系など自然の中にあるシステムを学びます。「雪だるまが斜面を転がり落ちて大きくなっていくように、何かが蓄積しているのか?」(拡張ループ)、「ヨーヨーのように、上下に動いて、バランスしているのか?」(バランスループ)、「どのように、ある生物の排出物が、ほかのプロセスの食糧となっているのか?」など、子供たちは、システム・リテラシーを身につけると、ものごとの相互の関わりに関心を持つようになります。また、物事には、「パターン」があることに気付き、「今、起こっていることと似たような状況は何だろうか?」と考えるようになります。実際に、幼稚園児や小学生にシステム思考を教えている先生方のお話を伺うと、子どもはシステム思考がとても得意だと言います。赤ちゃんは、言葉がしゃべれなくても、親の関心を引くことができるのは、システム思考を活用しているからだと説明を受け、なるほどと思いました。

 

シミュレーション学習

中高生になると、コンピューターシミュレーションを使い、経済問題や環境問題などの構造をシステムと捉え、分析を行う授業も行われています。研究会で紹介された2つの事例をご紹介します。

アリゾナ州ツーソンにある公立中学校では、10年以上も前からシステム思考を取り入れた授業を行っています。システム思考のツールを駆使して、システムの複雑さを紐解き、他のシステムとの関わりを調べるというプロジェクトです。プロジェクトでは、「自分の運命をコントロールする方法」「原子力発電所の設置場所を考える」「国定公園のデザインを考える」「飢饉を克服する方法を探る」「景気後退の原因を探る」「金銭を管理する」などの現実社会と密接に関連したテーマが取り上げられます。「金銭管理システム」のシミュレーション学習では、生徒たちは限られた予算の中で、請求書の支払いを済ませ、残ったお金の中から、部屋の家具を買い揃える、という実生活に基づくシミュレーションゲームを行います。口座が赤字にならないように気をつけながら、クレジットカードを用いて買い物をして、月々の請求金額を支払うというゲームを行いながら、生徒たちは生活で使われる小数点の計算や掛け算を実際に学んでいきます。「国立公園のデザインを考える」などのテーマは、コミュニティの人々との恊働プロジェクトです。コミュニティ活動への参画および、実践的なプロジェクトへの参画は、生徒にとって貴重な体験学習となります。ツーソンでは、卒業生を対象に、システム思考を活用した学習が、どのように彼らの人生に役立っているかを調査しました。その結果、学生達が感じた興奮、培った自信、他者の視点を理解する共感性、そして答えのわからない問題へ対処するための行動習慣は、成長して若者になった彼らの中に生き続けていることが明らかになりました。ツーソンの取り組みは、教育界において、システム・リテラシー教育のモデル事例として高い評価を得ており、世界中の学校関係者が年間を通じて見学に訪れています。

 

サステナブル・スクール・プロジェクト

バーモント州バーリントンの小学校では、システム思考を活用した「サステナブル・スクール・プロジェクト」が展開されています。「サステナビリティ(持続可能性)」をテーマに学校改革とコミュニティとの協働活動を行うプロジェクトです。コミュニティのサステナブルな未来に向けて、学校とコミュニティが連携して活動を行います。カリキュラムを通して、生徒がコミュニティの中での役割を認識し、将来的には、地球規模で影響を及ぼす一人ひとりの判断と行動の重要性を学びます。環境サミットの地球温暖化シミュレーションにも活用されているシステム思考は、持続可能性を考える上で、不可欠な思考です。工業化社会を中心とした経済活動の発展というシステムは、環境を破壊するシステムを作り上げました。経済活動が環境に与える作用を無視した環境保護の取り組みは功を奏しません。現在の豊かさと、子孫のために地球環境を守ることを同時に実現するためには、システム全体を俯瞰した判断が求められます。サステナブル・スクール・プロジェクトは、21世紀を生きる子どもにたちに必要なシステム・リテラシー教育と環境教育をともに学べる最適な実践学習の機会となっています。

 

ビジネスや学校改革にも活用

システム思考は、子どもの教育のみならず、学校改革にも活用されています。オランダでシステム・リテラシー教育を学校に導入したユッテン校長先生は、教師がそのスタイルを50年間変えていないことを問題視しています。学校は環境の変化に適応し、社会の中で重要な役割を果たす存在を目指すべきであるという強い信念を持ち、学校改革に取り組まれています。学校は、子供たちがテストだけではなく、人生でも成功を収めるために不可欠な存在であるべきだと彼は主張します。そのために、教室と学校システムの全体像を理解し、望む方向に変化を促すために、システム思考が有効であると言います。ユッテン氏は、チーム学習を通じて、教師がシステムの全体像を理解することにより、改革が可能になると言います。ユッテン氏は、ピーター・センゲ氏の著書「学習する学校」にも紹介されており、現在、オランダにおけるシステム思考の第一人者として、教育における新しい取組みを実践されています。

                オランダの小学校版「システム思考者の習慣」オランダのシステム思考者の習慣.png

                  オランダでは4歳で始まるシステム・リテラシー教育

 

日本では、ビジネス界を中心に、システム・リテラシー教育が始まっています。ビジネス界も、欧米に比べると20年位遅れての導入です。教育界にも、ぜひ、システム・リテラシー教育を導入していただきたいです。

ティーチフォーアメリカ

文部科学教育通信 No.274 2011-8ー22に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(5)をご紹介します。

 

今回は、アメリカの教育改革に取り組むティーチフォーアメリカの紹介をします。ティーチフォーアメリカは、教育格差の進む貧困地域の学校に、優秀な学部卒業生や若年層の社会人を、2年間、常勤講師として赴任させる事業を行っているNPO団体です。1990年に設立されたティーチフォーアメリカは、現在、9000名の教師を派遣するNPO団体に成長しています。団体のビジョンは、「いつか、すべての子供達に優れた教育を享受する機会が与えられること」です。 

ティーチフォーアメリカの始まりは、当時、プリンストン大学に在籍していた創立者ウェンディ・コップ氏の教育格差に関する卒業論文です。恵まれた環境で教育を受けてきたウェンディは、貧困地域における教育格差の現状を知り衝撃を受けます。教育格差により、将来の可能性を失っていく子どもたちをアメリカからなくしたいという強い思いで、卒業論文を片手に、投資会社をはじめとする大企業の門をたたきます。ウェンディの熱意とビジョンに共感した経営者たちの支援を受け、彼女は卒業と同時に、ティーチフォーアメリカを立ち上げました。そして、これまでに、300万人を超える生徒の人生に影響を与えてきました。

 

優秀な人材が集まる

ティーチフォーアメリカは、グーグルやアップルを凌ぎ、米国文科系学生就職ランキングナンバーワンの団体です。ティーチフォーアメリカが就職ランキングナンバーワンである理由は、2年間の教師経験による成長機会にあります。生徒や同僚、親やコミュニティに対するリーダーシップの発揮や、数々の困難な問題を解決した経験は、人生において換えがたい貴重な経験となります。2年間の派遣を終えた段階で、66%の教師たちが、引き続き教育に関わる決意をします。派遣前には、教育の世界で働くことに関心を持つ教師は、6%足らずですから、いかに、2年間の教師経験が人生にインパクトを与える、充実した体験であるかが伺えます。34%の教師は、2年間の教師経験をしたのち企業などに就職します。彼らは、教育以外の道を選択しますが、教育課題に対する認識を持ち、団体の外から、ティーチフォーアメリカの活動を支援しています。 

ティーチフォーアメリカの応募者は大変優秀です。ハーバード大学の18%の学生、アイビーリーグ全体でも12%の学生が応募しています。毎年行われる4500名の採用には、十倍を超える46,000名以上の学生や社会人が応募します。優秀な応募者たちの中から選ばれるのは、困難を乗り越え問題を解決する力と他者に影響力を与えるリーダーシップを持つ人たちです。彼らが派遣される学校は、環境も悪く、生徒には学ぶ意欲はなく、親の多くは十分な教育を受けていません。このような中で、生徒たちに、学ぶことの大切さを教え、学ぶ習慣を身につけさせることは容易なことではありません。問題解決力や強いリーダーシップを持つ教師のみが、2年間の使命を果たすことができるのです。このような環境下においても、ティーチフォーアメリカの教師は、他の教師と比べて1.2~1.3倍、子どもの成績を伸ばしています。 

採用された4500名の教師には五週間に渡る研修が用意されています。研修のハイライトは、サマースクールでの教師体験です。サマースクールでは、授業中に、教師にフィードバックをするコーチの姿が見られます。イヤフォンを付けた教師の耳元には、「右2列目の後ろから3番目の席の子どもが寝ている」、「黒板に向いて話さない」など、コーチからリアルタイムにフィードバックが届きます。教師は、フィードバックにより、自己の言動が生徒に与えている効果を認識し、行動変容を行うことが可能になります。この他にも、ビデオ収録による授業分析などを通じて、学校現場で、スタート時から効果的な授業を行える力を身につけます。さらに、学校に赴任した後も、定期的にコーチが学校現場に出向き、授業見学およびフィードバックを行います。このような指導を通じて、現状に決して満足しないティーチフォーアメリカの教師へと成長していきます。

 

ベストプラクティスを集約

現場での教師の取り組みは、ベストプラクティスとして集約され、誰もが使用できるナレッジとして共有されています。ベストプラクティスの一つとして「教師のリーダーシップ」を紹介します。「教師のリーダーシップ」は、過去に目覚ましい功績を残した教師たちの共通点を分析した結果明らかになった成功の法則であり、教師の行動指針となるもので、ティーチフォーアメリカの教師像を端的に表しています。多くの教師を派遣する中で、成功する教師に共通の特徴があることが明らかになりました。この特徴が、「教師のリーダーシップ」の六つの特徴として整理され、判断基準表も用意されています。常に、子どもの視点で自己の言動を振り返り、すべての取り組みは、子どもの「できる」という自信と、「挑戦したい」という思いを高めることを目的とします。教師は、子どもが、勉強に取り組むために、あらゆる課題を取り除き、教室に、お互いを高め合う文化を醸成していきます。教師には、どのような困難も解決できる問題として捉え、創造的に問題を解決することが求められます。

 

【参照】「教師のリーダーシップ」の6つの実践項目 

  • 子供たちの学力向上に対して大きなビジョンを掲げる
  • そのビジョンの達成に向けて、子供と保護者を本気で取り組ませる
  • 目標達成のために立てた計画を、最後まで徹底的かつ効果的に実行する
  • 困難に直面しても自らできることを考え、ビジョンを達成するために弛まぬ努力をする
  • 常に内省し、リーダーシップや効果を上げる力を改善し続ける
  • 学力向上の目標を達成するために戦略的かつ緻密な計画を立てる
  •  

 2011年に20周年を迎えたティーチフォーアメリカは、アメリカで、最も解決が困難であると考えられていた教育問題の解決に寄与した団体と、オバマ大統領からも賞賛されました。ティーチフォーアメリカは、今後、1年間に採用する教師の数を4,500名から2倍の9,000名にする計画を持っています。

 

モデルとして世界中に広がる

ティーチフォーアメリカの教師養成および派遣モデルは、アメリカ以外の国においても、その有効性が認められ、現在では、世界標準モデルに発展しています。グローバル展開は、ティーチフォーオールが中心となり、現在では、イギリス、ドイツ、ブラジル、インド、中国をはじめ、約20カ国に広がっています。教育における優先課題は、各国で異なりますが、子どもたちの可能性を広げるために教育の果たす役割は共通です。1人でも多くの子どもたちに、より良い教育の機会を与えることを目指し、ティーチフォーアメリカのモデルを活用した教育改革が、世界に広がっています。

現在、日本においても、NPOラーニングフォーオールが、1人ひとりの子どもたちの可能性を信じる社会の実現を目指し、ティーチフォーアメリカ・モデルの日本における展開を準備しています。昨年7月にスタートしたこのNPO団体にも、アメリカ同様、優秀な若者が集い、現在、寺子屋を中心とした教育支援活動を行っています。3.11の大地震以降は、被災した子供たちの寺子屋も始めています。教育改革は、1人の力では実現しません。日本においても、教育に関心を持つ優秀な若者が増えることを心から願っています。

シチズンシップ教育

文部教育科学通信 No.273 2011-8-8 に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(4)をご紹介します。

 

シリーズ第4回は、オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」のご紹介です。 

ピースフルスクールは、1999年にオランダのエデュニクス社により開発され、現在、約350校に導入されているシチズンシップ教育です。ピースフルスクールという名前のとおり、学校をひとつのコミュニティと捉え、先生と子供たちが一緒に考え、行動する民主的な共同体を実現することを狙いとしています。

ピースフルスクールに通う子供たちは、主体性と社会性を身につけます。 

 

他者理解と課題解決

今年4月、オランダ、ユトレヒト市にあるピースフルスクールを訪問した際に体験した事例をご紹介しましょう。

小学校3年生のクラスでは、先生を囲み、家族についての授業が行われていました。授業の始めに、先生は、単元の目的と流れを子供たちと共有します。授業のスタートはアイスブレイクから始めます。この日のテーマは、感情表現です。先生の「悲しい人はいますか?」との問いに、何人かの子供が手を上げました。「お兄ちゃんが、怪我をして入院をしているので悲しいです。」「おじいちゃんが明日、モロッコに帰るので悲しいです。」各自、その理由を語ります。このようにして、子供たちが、自分の感情を他者に伝えることや、他者の気持ちを理解することを学びます。その後、少しだけ先生による講義があり、すぐにグループワークが始まりました。グループワークのテーマは、自分の家族について、相互にヒアリングをする内容でした。「あなたのおうちでは、誰がお料理を作りますか?」など、家族に対する質問をし、記入用紙を埋めていきます。グループワークが終わると生徒は席に戻り、先生との対話が始まります。 

これから発表があるのだろうと予測していた私は、次の展開に驚きました。先生は、「今、ピースフルでない人は?」という質問を生徒に問いかけました。一人の子供が手を上げました。「なぜですか?」と先生が聞くと、「グループワークにうまく参加できなかった。」と答えます。「あなたは自分の気持ちを述べ、グループのお友達は、そのことに対処したのですか?」と先生は聞きます。「いいえ」と答えると、「授業が終わったらちゃんと話し合いをしてくださいね。」と先生が言います。先生は、仲良くグループワークができなかったことを注意するのではなく、問題に対処していないことを注意します。子供たちは、自分たちで課題解決をするという考え方が徹底されていました。 

低学年のクラスでは、文字では理解できない子供もいるため、掲示板に行動規範が写真で掲示されていました。「一緒に遊び分かち合う」「勉強は静かに行う」「悲しい人を見つけたら励ます」「かたづけは一緒にする」「お互いに親切にする」「順番を守る」「約束を全員が共有する」などです。クラスのポジティブな発言をハートのカードに記入した掲示からは、褒めることを奨励していることが見てとれました。

 

 仲裁役から学ぶこと

ピースフルスクールでは、喧嘩の仲裁役を子供たち自身が担っています。仲裁役は上級生の12名が担当します。毎日、男子1人と女子1人の2名が仲裁役を務めます。仲裁役に選ばれるためには、「なぜ私は仲裁役を務めたいのか?」というレポートを書く必要があります。審査により選ばれた仲裁役には、特別なトレーニングが用意されています。 

1階のロビーには今日の仲裁役の写真が掲示され、仲裁役は、休み時間に仲裁役の帽子をかぶり、校庭に立ちます。そして、喧嘩をしている子供たちを見つけたら、仲裁を行うという仕組みです。仲裁役は当事者を座らせると、まず、仲裁の流れとルールを説明します。当事者同士が、とても感情的になっている時には話を始めず待ちます。感情が落ち着いたら、一人ずつに何が起きたのかという事実関係を話してもらいます。話し終えたら、その内容を要約し、自分たちが正しく理解しているかを当事者に確認します。そして、次に、当事者が相手の意見を聞き、お互いの気持ちを理解する時間を作ります。「相手は今どんな気持ちだと思うのか?」に答えられないと、席を移動して、相手の座っていた椅子に座り、相手の立場を想像してもらいます。 

このようにして、お互いの考えや気持ちを理解する過程を通じて、感情や対立に対処する方法を習得します。この際、仲裁役は、どちらにも公平に関わることが重要です。学校訪問時、2人の優秀な仲裁役にインタビューをさせていただきました。子供らしい笑顔を見せながらも、落ち着いて静かに話す様子は、小学5年生とは思えない落ち着きです。 

ピースフルスクールによるシチズンシップ教育の魅力的なところは、スキルや知識としてシチズンシップを学ぶのではなく、学校の文化として先生と生徒が、それを体現しているところです。さらに、親や地域にまでこの活動が発展していることも特徴です。子供たちは、家庭で親が喧嘩をしていると、「仲裁役をやりましょうか?」と真顔で聞くそうです。以前は、街の中で喧嘩を見つけると、「どうしたのですか?」と、仲裁に入ろうとしたそうですが、大人の喧嘩に介入するのはとても危険なことなので、現在では、自分より年下の子供に対してのみ、学校の外では仲裁をしてよいというルールを作りました。また、最近では、学校の外にあるコミュニティ全体にも、ピースフルスクールの仕組みを導入する試みがスタートしています。

 

主体性・社会性を育む教育

子供たちは、シチズンシップ教育を通じて、集団活動において、対立が起きることは自然なことであり、決定の際には、全員の希望は通らないことを学びます。日本では、空気を読んで発言をとどめることや、我慢することで調和を保つという共同体におけるマナーを習得するのに対して、ピースフルスクールの子供たちは、自らの意見を明確に持ち、悲しい時には自分の気持ちを伝え、いやな時にはノーと言う練習をします。また、他者の気持ちに共感することや、他者の話を聞く練習をします。そのうえで、対立に対しては主体的に問題解決をすることを学びます。このような練習をしているので、子供同士のいじめの問題解決の仕方も日本とは様子が違います。いじめられていると感じた子供は、自らそのことを相手や先生に伝えます。そのうえで、どのように接してほしいのかを明らかにし、自ら、自己を守る練習をします。先生も、その様子を常に見守ります。

 

ピースフルスクールを見学し、オランダの民主的な社会は子供の頃からの主体性を育む教育の上に成り立っていることを学びました。また、子供たちに、社会性を教えることで初めて、主体性が生かされることも理解しました。社会性も主体性も、私たち日本人が、歴史的、文化的に適合しないという理由から避けてきたテーマです。 21世紀を生きる子どもたちは、日本人としての誇りを持つとともに、地球市民として社会に貢献することが求められます。そう考えると、日本においても、新しい視点で主体性や社会性を育む必要があるのではないでしょうか。学校という安全な場で、主体性と社会性を身につけるシチズンシップ教育を日本でも始められるように準備を進めています。ご興味のある方は、日本教育大学院大学まで連絡をください。

 

ピースフルスクール.png

フューチャー オブ ラーニング

文部科学教育通信No.272 2011-7-25 に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(3)をご紹介します。

 

昨年8月、第1回 フューチャーオブ ラーニング(学習の未来) 研究会がハーバード教育大学院にて開催されました。主催者は、マルチプルインテリジェンス論の提唱者として著名なハワード・ガードナー教授や、デビッド・パーキンズ教授です。研究会には、米国を筆頭に、アジア・ヨーロッパ・南米などの各国から約200名の教育関係者が参加しました。主な参加者は、現職の教師、教師育成者、教育監督者、教育カリキュラム作成者、教材開発者、情報教育現場で働く専門家などです。 

教育は、急速に変化する環境の中で、倫理観を持ち、自己を内省しながら生きることを教えなければなりません。そのためには、全ての教育関係者は、社会の変化が世界中の若者の生活をどのように変えているかを理解する必要があります。「ますますグローバル化する未来に備えて子供たちに何を教えればいいのか?クリック一つで膨大な情報が手に入る世の中で、教える価値のあることとは何か?学習や生物学における新しい研究成果を教育者が生かすにはどうしたらいいか?子供と大人が希望を持って21世紀を生きられるように、何を、どこで、どのように学ぶべきか?」 研究会で掲げられた問いは、すべて日本の教育においても当てはまるものでした。 

講義やワークショップは、以下の4つの基本となる問いを中心に展開されました。

基本の問い1】 すでに明らかなことはなにか?

私達はグローバル化、デジタル革命、心/脳の働きの調査結果やそれらが学習や教育に与える影響について何を知っているだろうか?

基本の問い2】 何を見直す必要があるのか?
これらの変化の結果として学習の何を、誰が、どのように見直さなければいけないだろうか?

基本の問い3】 学習の何を変える必要があるか?
未来の学習に必要なニーズに答えるために私たちは実際に何をするべきか?

基本の問い4】 変化のもたらすインパクトは何か?
教育上の変化は学習者や社会に対してどのような結果をもたらすか? 21世紀の責任ある教育者としての我々の役割は何か?

 

研究会は、参加者によるチーム学習を中心に設計されています。参加者は、各自、テーマごとに開催される分科会に参加し、その後、学習チームにおいて、分科会の内容について話し合います。さらに、4つの基本となる問いを通じて学びや気づきを深めていきます。正解が一つではない未来の教育についての答えを探すためには、多くの人々が正しい情報に触れ、対話を通じて正解を見出していくプロセスが重要であることを改めて認識しました。日本では、教育関係者は、未来の教育についてしっかりと議論しなければならないと思いました。

 

★研究会で学んだこと

この研究会で、学んだことの中から印象に残ったことをいくつかご紹介します。 

【ICT(情報通信技術)活用の可能性】

ICT活用の可能性については、幅広い議論がありました。WEB2.0 デジタル時代の学習は、『情報獲得者・知識構築者としての学習者』から『新世紀の学習者』への転換を意味します。メディアに関する多様な知識を持つことで、模擬体験学習や共同調査などの学習の仕方が大きく変化します。これまで、ICTは、教育現場において情報を蓄積することや、分配することに活用されてきました。今後は、表現することや、協働や参加の手段として活用されるようになります。また、ICTを使用することにより、個人のアセスメント結果を集約し、フィードバックを行う事も容易になります。ドッグイヤーで進化するデジタル革命は、教育現場よりはるかに速いスピードで進化しています。教育現場の時間軸と親和性がありません。ICTの教育現場における有効活用の推進には、産学連携が不可欠ではないでしょうか。 

【達成ギャップと関係性ギャップ】

2つのギャップについて、どのように考えるべきかという課題提起がありました。

『達成ギャップ』とは、性別、人種、社会・経済的地位などの異なる生徒をグループに分けると、学習の達成結果に相違があることを指します。 『達成ギャップ』は、米国の教育改革の重要な焦点のひとつです。『関係性ギャップ』とは、複雑で、変化する社会において、意義ある人生を送るために価値ある学びと、実際に子どもたちが学んでいることとのギャップを指します。『関係性ギャップ』は、これからの教育改革の主要なテーマとなります。 

【グローバル学習】

これまで教養として扱われてきたグローバル学習が、教育の主要なテーマになってきました。これからの子どもたちは、グローバルに活躍できる人材になることが必須のコンピタンシーとなります。ますますグローバル化し、相互依存が進む世界において、グローバルに情報を収集する地球市民となることを教えることが大切です。ローカルに暮らす日本の子供たちに、グローバルに活躍できるコンピタンシーを身につけてもらうためには、私たち大人が変わる必要があります。 

【科学技術の発展と学習】

神経科学やバイオテクノロジー革命は、学習に大きな影響を与えています。神経科学は、複雑な心と脳の現象に焦点を当てる科学へと発展し、感情や芸術活動が脳の機能や発達にどのような影響を持つのかを解明するために様々な研究が行われています。科学技術の教育への適用についての論争よりも、学校のポリシーを明確に伝える思慮深い生命倫理の確立が重要であるというガードナー教授の言葉がとても印象的でした。 

【大人の生涯学習】

新たな学習観も生まれています。社会の変化においては、成人も、発展途中の大人として、継続的に学習することが求められます。学習においては、スキルや知識の習得を目的とした学習から、実践的で変化への対応が可能な学習に変わります。

Future of Learning 2010 写真.JPG

                            Future of Learning 2010

 

★終わりに

研究会では、学習の未来というテーマの奥深さを改めて認識しました。新しい時代に適合した教育を構築するためには、一人の専門家ではなく、多方面の専門家の叡智を集約させなければなりません。学習の未来を創造するために、叡智が集約され、共有される場としてこのような研究会を立ち上げたハワード・ガードナー教授をはじめとする主催者のリーダーシップにも感銘を受けました。 

今年も、ハーバード教育大学院において、『フューチャー オブ ラーニング  2011』(2011年8月1日~4日)が開催されます。今年で、2回目となるこの研究会は、未来の学習をどのように発展させていけばよいのかを明らかにすることを目的にしています。2011年はデジタル分野により大きな重点が置かれ、クリエイティブで知識豊富なアクティビティに参加しながら、新しいプログラム教材・商品・解決方法などを学びます。 

急速に変化する環境の中で、子供たちに「倫理的に内省しながら“未来を生きる力”を身に付けさせる」ために、フューチャーオブ ラーニングの新しい取組みは大きなヒントになります。未来の学習を構築することに取り組んでいる皆さんに、ぜひ、ご参加いただきたい研究会です。

                           (出典: 文部教育科学通信 No.272 2011・7・25)

学習を継続する能力を育む

文部教育科学通信No.271 2011-7-11に掲載された脱工業化社会の教育の役割とあり方を探る(2)をご紹介します。

 

2000年に発表されたOECDの「生徒の知識と技術の測定(PISA)」の報告書の序文に、Prepared for Life(人生の準備は万全か)というタイトルで以下の通り書かれてあります。

「若い成人が未来の挑戦に対処すべく、はたして十分に準備されているだろうか。彼らは分析し、推論し、自分の考えを意思疎通できるであろうか。彼らは生涯を通じての学習を継続できる能力を身につけているだろうか。父母、生徒、広く国民、そして教育のシステムを運用する人々は、こうした疑問に対して解答を知っておく必要がある」  

未知の挑戦に対処するために、子どもたちが身につける必要のある力の一つに、学習を継続する能力があります。今回は、学習者を育む「学習する学校」(Schools That Learn: A Fifth Discipline Fieldbook for Educators, Parents and Everyone Who Cares About Education, Peter M. Senge)についてご紹介します。

 

「学習する学校」は、「学習する組織」(The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization, Peter M. Senge)の提唱者であるMITスローンビジネススクールの上級講師であるピーター・センゲ氏のイニシアティブにより始まり、米国、欧州、そして最近では中国においても、展開されています。「学習する組織」は、1990年より企業や団体の組織・人材開発の手法として活用されてきました。多くの教育者が「学習する組織」理論に注目し、学校現場においても広く展開されるようになりました。その実践事例は、「学習する学校」においても紹介されています。 

「学習する学校」では、子供達だけでなく、周囲の大人までも含めてすべてを主体的な「学習者」として捉えます。子どもたちは、学習者になるための指導を受け、先生をはじめとする大人の学習を見聞し、学習者の心得を体得します。「学習する学校」においては、学習は、指導内容であるだけでなく、文化そのものなのです。

 

「学習する組織」は、「チーム(組織)が、起こりうる最良の未来を実現するための能力と気づきを高め続ける組織」のことを指します。そのために、学習者は5つの力を習得する必要があります。「学習する学校」では、この5つの力を習得することができます。 

1)パーソナルマスタリー
パーソナルマスタリーとは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確な意思を持ちながら、その実現のために行動できることです。「学習する組織」の要は、自己を知り、主体的に生きる人です。人は、自己の動機の源泉や、自分の存在意義を明らかにすることより、自己の潜在的な力をより多く発揮することができます。そのためには、自己の探求が不可欠です。パーソナルマスタリーは、人生の目的であり、将来キャリアを考える上で指針となります。「学習する学校」では、子どもたちが、自己の興味・関心、自己の魅力や才能を見出す機会を提供します。そして、子どもたちが、パーソナルマスタリーに対する正しい自己認識をもつことを支援します。 

2)システム思考
システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方です。「ひとつの現象を点として捉えるのでなく、全体における構成要素」として捉えます。システム思考は、MITのジョン・フォレスター名誉教授が開発したシステムダイナミックスがその原型となっています。システムダイナミックスとは、数値シミュレーションを行い、将来予測や考察対象の特徴を把握するものです。システムダイナミックスが今日、活用されている代表的な例が環境問題です。未来の地球環境について在りたい姿を描き、その実現のために何に取り組めば良いのかを明らかにすることや、現状の延長線において未来の地球はどのようになっているのかを予測するために、システムダイナミックスは活用されています。米国やオランダでは、システム思考を学校教育の中に取り入れています。システムダイナミックスを科学の授業に導入している学校や、問題解決の授業で活用しているケースもあります。 

3)メンタルモデル
メンタルモデルとは、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」です。私たちは、目の前に見えている事柄(事実や経験)から、評価や判断を下し、それを判断の尺度や確信につなげますが、見えている事柄は氷山の一角でしかありません。自分のメンタルモデルによって固定した見方をしないために、学習者は、自分の評価や判断を保留し、相手の話を聴き、多様な意見から多くのことを学びます。メンタルモデルは、推論の梯子で表すことができます。(図)「学習する学校」では、自己のメンタルモデルに縛られることなく、新しい情報を受け入れる訓練を行います。既知の情報に縛られない思考の確立は、不確実で変化の激しい時代において、今後ますます重要になるでしょう。

メンタルモデルと推論の梯子.png

         ピーター・センゲ他著 『フィールドブック 学習する組織『5つの能力」
  (The Fifth Discipline Fieldbook)』に紹介されている派生モデルに少し修正を加えたモデル 

4)チーム学習/ダイアログ
チーム学習とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスです。「なぜ相手はそう思うのか」、「相手には、どのようなメンタルモデルがあるのか」を理解し、自己の主張を第3者的に捉えることで、学習者は、「私の意見の背景にはどのようなメンタルモデルがあるのか」を整理します。このようなチーム学習的なダイアログは、チームを最良の答えへと導きます。「学習する組織」において、多様な意見が出ることは、意思決定のプロセスを混乱させる要因ではありません。チーム(組織)に、ダイアログを通じてのチーム学習力があれば、ダイアログを通じて皆が納得のいく決定をすることができます。学習するチームは、失敗したことに対しても、本来期待されていた姿と現実にはどのようなGAPがあったのかなどをリフレクションし、未来への糧とします。 

ダイアログによるチーム学習は、専門性の基礎となる学力を身につけることと同様に重要です。問題解決や価値創造は、一人で行えないからです。環境問題を例にとっても解る通り、解決しなければならない問題はより複雑になってきており、一つの専門領域で解決できるものではありません。グローバル時代においては、日本人だけのチームで問題解決を行うことは困難でしょう。「学習する学校」では、先生が一方的に話す授業ではなく、ダイアログによるチーム学習を多く取り入れています。 

5)共有ビジョン
「共有ビジョン」とは、組織の人が創造しようとしている「共通の将来像」、つまり「将来のありたい姿」のことです。「学習する組織」における共有ビジョンは、組織の達成目標、価値観、使命感を包含する概念となります。「学習する学校」では、子どもたち、親、教職員を、組織の構成員と捉えます。構成員全員で、学校のビジョンを共有し、全員で取り組みます。このような組織に身を置く子どもたちは、一体感のある「学習する学校」において安心して学び、生活することができます。 

「学習する学校」の5つの力についてご紹介しました。「学習する学校」を実現するためには、教職員が5つの力において手本を見せることが大切です。何か一つでも、できるところから実践してみてはいかがでしょうか。 

                          (出典: 文部科学教育通信 No.271 2011・7・11)

教育の未来を創るワークショップの取り組み

文部教育科学通信 No.270 2011-6-27に掲載された脱工業化社会の役割とあり方を探る(1)をご紹介します。

 

日本の教育システムには、輝かしい成功体験があります。多くの子どもたちを工業化社会の有能な人材に育て、日本の発展と経済成長を支えてきました。日本の教育システムは、世界的にも高い評価を得て、アメリカをはじめとする多くの国々が日本の教育システムに学びました。 

一方、教育システムを取り巻く環境は大きく変化しています。産業構造が製造業からサービス業中心に変化し、各国の経済はグローバル化し、教育の国際比較や競争も熾烈化しています。家庭やコミュニティなどの社会構造も大きく変化しています。人同士、地域、あるいは自然とのつながりが希薄化しています。多くの単純労働は途上国に移行し、人々に求められる仕事は以前に比べ、はるかに高度な知識を要求します。 

このような状況を鑑みると、時代背景や環境の変化に合わせて、日本も、教育システムを変えなければなりません。誰ひとりとして、今の幼稚園生が大学を卒業する16年後に、世界がどうなっているのか、文明や文化がどのようになっているのか、あるいは、どのような職業選択ができるのか、解っていません。このような中で教育システムを変えていかなければならないのです。 

それでは、何を変えればよいのですかと疑問に思われる方もいるでしょう。本連載では、何を変えればよいのか、何は守り続けなければならないのか、教育システムの不易と流行について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

本日ご紹介するのは、「教育の未来を創るワークショップ」についてです。昨年から始めたこのワークショップには、教育に対して熱い思いを持ち、共に教育の未来を創ることに貢献したいという方々にご参加頂いています。 

ワークショップでは、社会変革モデル「チェンジラボ」やU理論を活用しています。「チェンジラボ」は、南アフリカのアパルトヘイトから流血なき民主化を実現する際に導入され、今日では、環境問題や紛争、人口問題、教育問題など、複雑な社会問題の解決に世界中で活用されているモデルです。「チェンジラボ」やU理論には、数々の社会変革のプロセスを経験した先人たちの智慧が詰まっています。今年は、オーストラリア政府が、「チェンジラボ」を活用し、国のビジョン構築を推進しています。 

図1.png

                                U理論
 

社会変革には、多くの人々がビジョンを共有し、その実現のためにエネルギーを注ぐ必要があります。社会問題を、一つのシステムとして捉え、一部を担っている人々が、全体を俯瞰し、自分にできることを明確にすることが解決を成功させる鍵です。 

教育も、多様なステイクホルダーが関わる一つのシステムです。誰もが部分的な貢献をしており、部分の繋がりが全体を創り上げています。教育を変えたいと考える時、私たちは、その一部を変えようとしますが、自分の立っている場所から全体を眺めており、多くの場合、全体像を把握してはいません。教育システムはとても大きく、全体を俯瞰できる立場にいる誰かは存在しません。教育を進化させるためには、教育システムの担い手が繋がり、一貫性のあるシナリオを持ち、改革に取り組むことが必要です。しかし、残念ながら、現在、教育システムは分断されており、決して強い繋がりをもっているとは言えません。このような問題意識を持つ仲間が集まり、ワークショップを開催しました。

図2 熊平withスフィアボール.JPG

                『ワークショップで教育をスフィアボールに例えて説明する。
                 教育は一つの繋がりを持つシステムである』

 

5月7日に開催したワークショップには、学校、幼稚園の先生・職員、フリースクールに関わっている方、教育委員会のリーダー、子供を持つ親で教育に関心のある方、先生を目指している方、教育関係NPOの方、塾関係の方、教育関係の企業で働いている方、学生など多様な立場で教育システムに関わる人々約60名が集まりました。今回は、U理論の「センシング(聴く、見る、感じること)」をテーマに、元教育長の方、文科省の方、学校の先生など多様な立場で教育に関わる方々のお話を伺い、教育システムを俯瞰し、そのうえで、改めて、自分に何ができるのかを考えることを狙いとしました。「センシング」では、自己の評価判断を保留にして聴くことがとても大切であり、参加者全員にとって、とても大きなチャレンジとなりました。

 

8月20日~21日には、教育の未来を創るワークショップ2011サマー合宿を予定しています。http://www.kyoikunomirai.org/教育の未来を創るワークショップ2011summer/ 合宿では、「氷山モデル」を使い、教育に何が起きているのかを俯瞰することに挑戦します。氷山モデルでは、今起きていることを支えている要因を3つの視点で捉えます。(図3)第1の視点は、過去・現在・未来の時間軸における傾向です。今起きていることが、時間軸で見た場合、改善されているのか、悪化しているのかを捉えます。第2の視点は、今起きていることを支える仕組みや構造が何であるかを特定します。第3の視点では、人々のどのような価値観や信念、社会通念などが、今起きていることを支えているのかを把握します。変化を起こすためには、この3つの要因に働きかける必要があるからです。いじめや不登校、学力低下、学ぶ意欲の低下などの教育課題、グローバルやICTなどの新しい教育ニーズについても、氷山モデルを使い分析をすることにより、変化のレバレッジポイントが明らかになるはずです。さまざまな立場で教育システムに関わる人々が共に、氷山モデルを描くことにより、教育システムの全容が明らかになると確信しています。氷山モデルを描いてみたいという方は、ぜひ、合宿にご参加ください。

図3.png

                      『氷山モデル:今、教育で起きていること』

                                                (出典: 文部科学教育通信 No.270 2011・6・27)

学長インタビュー ”次代の教育を創る”株式会社による挑戦

文部科学教育通信 NO.2689 2011-5-23 に掲載された熊平美香学長インタビューをご紹介します。

 

日本教育大学院大学は2006年4月、構造改革特別区域法に基づき、千代田区「キャリア教育推進特区」認定の株式会社による専門職大学院として設立されました。

 わが国で最初の教師育成の専門職大学院大学として開講して五年目を迎え、この間に巣立った3期の修了生のほとんどが教職で活躍しています。

 今回のインタビューは、日本教育大学院大学の使命と将来構想を中心にお話を伺いました。

 

閉塞感を打破する教師を育てたい

――日本教育大学院大学の使命についてお伺いします。

 学長 本学の使命をお話するために、設立の背景からお話したいと思います。本学は株式会社立の大学院です。設置母体は、栄光ゼミナールという学習塾・進学塾を経営している(株)栄光です。栄光は株式会社ですが、塾経営を通じて子どもたちと関わっていますから、子どもたちの変化や学校における課題がとても身近な問題としてあります。その中で、教育における閉塞感をじかに感じた創業者が、何かできることがあるのではないかということから始まったのが本学です。自らも創業時代、教師として塾に通う子どもたちの指導に当たった創業者は、教育における諸問題を解決するためにはよい先生が必要であるという信念がありました。教員養成を目的とする大学院が存在していなかった当時、教員養成を目的とした大学院を創ろうと考えた背景には、このような問題意識がありました。塾経営の中で先生と子どもの関係の重要性を強く認識し、先生に力を与えれば教育が変わり、学校が変わるのではないかと考えたようです。教員にもっとパワーを持ってもらいたい、という願いから株式会社による大学経営という未知の世界に挑戦しているわけです。

 本学のテーマは、次代の教育を創るということです。そのための教師をつくることを強く意識しています。新しい風を吹かせ、閉塞感を打破してくれるような教師を育てたいと思っています。 

 次代の教育を考える上で、まず考えなければならないのは、現在、学校に通う生徒や児童が社会で活躍する時代に、彼らにどのような力が求められるかということです。子どもたちに未来の挑戦に対処できる力を身につけさせることが、教育の使命であると考えるからです。日本においては戦後の経済復興の時代、世界的には産業革命を核とした工業化時代に築かれた繁栄の法則に変化が表れています。彼らが社会で活躍する時代には、競争から共生による繁栄の時代、グローバルにフラット化する社会と、これまでとは全く異なるパラダイムの時代に突入しています。その中で、子どもたちが、未来の挑戦に対処する力を学ぶために、効果的な指導に当たれる教師を育てることが、私たちの教師育成の目指すところです。 

本学が、社会人経験者を教員にすることを狙ったのも、社会人経験者であれば、このような時代の潮流を感じる経験を持ち、次代の教育創りに大きく寄与できると考えたからです。

 

次代に求められる「グローバル人材」の育成を 

 私は、これまで企業を対象に人材育成やリーダーシップ養成のコンサルテーションを行うなど様々なかたちで人材育成に関わってきました。その中で「グローバル人材」というキーワードが鮮明になってきました。グローバル人材とは、単に英語が話せるというだけではなく、「生きる力」や「社会人基礎力」の土台をしっかりと持った人材であると思います。

そのためには、(1)パーソナルマスタリー(客観的自己認知に基づく一貫性のある生き方)と人生の目的(2)軸となる倫理観や信念、(3)専門性の土台となる基礎学力と思考力、(4)他者との対話を通じての問題解決や価値創造、(5)主体性と協調性の融合を、子どもたちは、学校生活を通じて学ぶ必要があります。もちろん、このような力をすべて、成人する前に習得することはできませんから、人生を通じて学習し、成長し続けることが必要です。これが、OECDが提唱している継続的に学習し続けることの重要性だと思います。

 社会起業家の父でアショカ財団の創設者であるビル・ドレイトン氏が、昨年、早稲田大学で講演した際に、日本の高校生や大学生に伝えたメッセージが、グローバル人材の育成には重要だと思います。「世界はとても速いスピードで変化している。君たちがこれから生きる時代がどうなるかを大人たちは解っていない。大人は、正解を持っていない。そんな時代に生きているのだ。」教育に携わる我々は、次代を生きる子どもたちが、自ら、正解を見つけられる人材、継続的に学習することができる人材に育成しなければなりません。

  次代の教育を創る教師は、自らがロールモデルとなり、「生きる力」、「社会人基礎力」、「学習し続ける力」を高め続けることが大切だと思います。子どもたちは、そのような生き方から、たくさんの学びを感じ取ってくれるに違いないと思います。

 グローバル人材に話を戻しますと、英語で自己の考えを述べる力も大切です。ダボス会議などの国際会議では、ここ二、三年、韓国人や中国人が自分の意見を率直に述べて存在感を増す一方で、日本人はその場にいるにもかかわらず、発言をしません。国際的にも日本人の存在感が低下しています。

 

 自己主張について新しい視点を身に付ける

――よく言われるのは、日本人は自己主張を好まないということですね。

 学長 私自身は高校と大学院でアメリカに留学していますし、諸外国の方々とかかわりを持っています。しかし、日本人ほど知識や教養のレベルが高いにもかかわらず、自己主張しない国民はいません。これは、日本の教育の大きな課題だと思います。 

自己主張をしない傾向は、日本の文化とも関係があり、自己主張よりも和を重んじることは日本人の美徳でもあります。今度の東日本大震災でも被災者の方々の協調性や忍耐強さが海外から賞賛されているように、日本人は、みんなでやっていかなければならないときに、対立をどう調和させるかというところに素晴らしいものを持っていると思います。しかし、グローバル社会においては、自己主張について新しい視点を身につける必要があります。(1)意見の違いは対立ではない、(2)正解は、多様な意見交換により生まれる、(3)主張しないことはその場に存在していないことに等しい、このような視点を持ち、意見を述べ合う訓練を学校で行う必要があります。1つの正解を中心とした教科指導とは別に、このような対話を促進することができる教師が求められます。 

 最近、ベストプラクティスの一つとして、オランダの教育に関心を持っています。オランダでは市民教育がしっかりしていて、民主主義において一人一人の国民が身に付けていなければならないことをしっかりと教えています。その前提となる学校教育では「自主性」と「共生」が二つの軸になっています。共生というのは主体性なしには実現しない、共生の前提となるのが主体性だといわれて、なるほどと思いました。オランダの国民性は主張が強いと言われていますが、主張のないところに共生は生まれないというのです。

 

――日本でも個の優先ということが言われていますね。

 学長 日本で言われている個の優先では、残念ながら間違った理解が広まっているのではないでしょうか。例えばオランダでは子どもたちは幼稚園のころから遊びの予定を自分で決めて壁に表示します。つまり、遊ぶこと一つをとっても幼稚園のころから自分で予定を決めて遊びます。個が自由であるということは、自分で決めて行動することが基本です。そして、決めたことに責任を持つということです。その訓練を、オランダの子どもは、幼稚園から始めているのです。

 ところが、日本では学校にいる間に子どもたちが、自ら意思決定する、選択を迫られることはほとんどないのではないでしょうか。授業時間内にやることは明確で、先生がきめ細やかに指示を出しますから、言われた通りにしていれば、学校の一日を無事に終えることができます。個を尊重すると言いながら、日本の子どもたちは個を尊重された体験を持っていないのではないでしょうか。 

 ただ、私は日本の教育の緻密さや丁寧さなどは大変素晴らしいと感じています。それは学校の仕組みや学習指導要領も含めて、様々なものがきめ細やかに緻密につくり込まれていることによって可能になっているわけですから、そこは尊重したいと思います。ですから、日本の教育がいけないということではありません。日本の社会の中で、「個人」とか「自由」とか「生徒主体」といった言葉が、とても歪められたものになっていることを危惧しているのです。「社会人基礎力」にしても、言葉だけが先行して魂が置いていかれないか、とても危惧しています。 

本学では、2013年の改定を目指して新しいカリキュラムを作成しているところです。改定においては、これまでにお話してきたような課題認識のもと、次代の教育の担い手となる教員養成を目指しています。

 

――日本教育大学院大学の強みについてお伺いします。

 学長 私たち強みは次代の教育創りに対する「志」と子どもを軸とした「教育観」です。本学は世の中の必要にせまられてできたわけではありませんから、志以上でも以下でもありません。また、株式会社立であり、学校法人でもありませんので、国の援助も一切受けていません。自らの意志と教育に対する熱い思いだけでここに立っています。ですから、すべてのことを子ども中心に考えて進めることができます。子ども中心というのはもちろん子どもを自由気ままにさせることではありません。子どもたちがそれぞれの力を伸ばして、それを生かして社会に貢献し、有意義な人生を送り、自分なりの幸せを掴むために教育は貢献しなければなりません。そのために子どもたちに何を教えなければならないのか、そのために学校はどうあるべきか、教員はどうあるべきか、何を変えなければならないのか、そういう視点から考えられることが何よりも本学の強みだと思っています。既成の枠やしがらみがありませんので、様々なことに柔軟に対応できることも強みです。

本学のカリキュラムは「人間力」「社会力」「教育力」という三つの柱を立てています。教育力だけでなく、人間力と社会力を挙げているところが重要です。子どもたちは、読んだり聞いたりしたものではなくて、見たものや経験したことから最大に学びます。つまり、教員の人間力や社会力がしっかりしていれば、そういう集団に身をおいた子どもたちは、そこから人間力や社会力を学ぶわけです。ですから、人間力や社会力を持った教員をしっかりと育てていきたいと思います。

教育においても、「生きる力」や「社会人基礎力」が重要となる今日、ビジネス界を経験した教授陣がいることも強みだと考えます。ビジネス界の人材育成においては、グローバル化が進んでおり、世界のベストプラクティスが、日本企業においても展開されています。リーダーシップの養成一つをとっても、この20年間に、その定義や育成方法に大きな変化が見られます。子どもたちが将来、社会で活躍するためにどのような力が必要かを理解した上で、学校教育を考えることができるのも、本学の強みであると考えます。

 

 ディベートや対話をファシリテートできる教員を育てる

――特色ある教育・研究についてお伺いします。

学長

理論と実践の融合をコンセプトに教育に当たっています。このため、教科指導のカリキュラムにおいては、専門知識の習得とともに、実践的な授業指導の在り方を学ぶ機会を提供しています。授業においては、講義中心ではなく、ディベートや対話をファシリテートできる教員の養成も目指しています。

現場で問題解決に取り組める教師になるために、現代の子どもや教育を取り巻く社会・文化的な状況を正しく把握することが大切であると考えています。教員経験を持つ教授陣を中心に、学校現場に対する理解を深める指導を行っています。発達障害をはじめとする子どもの多様性についても理論と実践の両面から指導に当たっています。

ICTおよび教育心理学は、次代の教育を創る上で重要な役割を果たします。現場で実戦応用できるよう基礎知識を習得してもらうことを目指しています。

この他、創造的問題解決やプレゼンテーションなど、社会人基礎力に繋がるカリキュラムも充実しています。

 教授陣の多様性は、研究の幅の広さにも反映しています。テーマは、キャリア教育、参画教育、発達障害、株式会社立の学校教育など広範囲にわたります。

 

――教授陣に多彩な方を集めていますね。

 学長 多彩で多様な教授陣は、本学の強みです。教員経験者、校長経験者、研究者、そして私のような民間教育機関出身者もおります。教員および校長経験者は、教師として子どもの指導に当たる上で、教師として学校の一員となる上で必要な知識やスキルを、理論と実践を交えて指導しています。研究者は、教員として継続的に成長する上で土台であり基礎となる理論と学習方法を指導します。民間教育機関出身者は、有能な社会人、組織人、そして次代の教育を創るリーダーに求められる実践的な力を習得することに貢献しています。多様な専門性が融合することにより、新たな価値が生まれることを期待し、教授陣同士が、お互いの専門性を学ぶ機会も設けています。様々な人材が揃うことで、ダイナミズムが生まれています。それぞれの教員が様々な強みを持っていますので、次代の教育を一緒に創りあげるためには最高の人たちが揃っていると思っています。

 

グローバルな視点から注目団体と交流を進める

――他機関との連携や国際交流についてお伺いします。

 学長 

グローバルにフラット化する社会だからこそ、今、世界で次代の教育を創る人たちと繋がることが大切であると考え、積極的に国際交流を進めています。その中でも、ベストプラクティスとして注目している団体は、以下の5つです。

  • 複雑化する社会に生きる力を育てることを使命にシステム思考教育を推進する米国に拠点を置くWaters Foundation
  • ハーバード教育大学院のハワード・ガードナー教授が主宰するFuture of Learning
  • 社会人基礎力教育を推進するThe Partnership for 21st Century Skills
  • 米国の教育問題への対処に貢献するTeach for America
  • オランダで市民教育を推進するPeaceful School
  • 社会起業家の育成を手掛けるAshoka財団

 

英語教育においても、提携しているアライアント国際大学や、グループ会社であるカプランなどとも連携し、教員養成に特化した英語教育を準備しているところです。

 

国内においても、次代の教育創りを目指している自治体やNPOなどとも積極的に交流を進めています。自治体では、「島まるごと人づくり」をコンセプトに、教育を柱とした持続可能な地域の発展を企画推進している隠岐國海士町の実践から多くのことを学んでいます。

 

設置母体である株式会社栄光も、次代の教育を創造する気概を持っており、昨年、他の塾と連合し、「次代の教育を共に拓く会」を結成しています。多くの子どもたちにとって不可欠である学校と塾という2つの学びの場に深く関われることも我々の強みであると考えています。

 

 

――学生生活支援の取り組みについてお伺いします。

 学長 ゼミ教官がメンターとなり、事務局と連携をとり、学生の学生生活、履修、就職までの相談に応じています。教員の面倒見がよいのは、設置母体の栄光ゼミナールとも共通する理念です。教員は、かなり濃密に関係を築いて、丁寧な対応をしています。そのせいか、修了生も研究室によく顔を出してくれます。

 

創立以来、本学は、教員と学生がともに創り上げるという校風もあり、学生委員会を設置し、学生とともにソフトボール大会や、ホームカミングデーの企画推進を行っています。ホームカミングデーでは、修了生が、教員生活や学校での経験を、後輩と共有し、実践的な学びの重要性を促してくれます。

 

 在学中は、栄光ゼミナールでの塾教師として勤務する学生や、非常勤講師として学校で指導に当たる学生もおります。就職に関しては母体である株式会社栄光による支援がありますし、学生の心の問題については、学校心理士の資格認定にも関わる専門家の教員を中心に対応すると同時に、提携先のアライアント国際大学臨床心理大学院にも支援していただく体制を整えています。

 

――広報活動の取り組みについてお伺いします。

 学長 本学に来る学生は電車の中の広告やホームページをきっかけに本学のことを知るようです。世代が変わってほとんどの学生がホームページを見ますので、今後も情報を充実させていきたいと思っています。本学の理念に共感する学生に来ていただきたいと思っていますので、広報については私たちの行っていることを正しく伝えることに注力しています。

 それから、グループ会社で複数の塾と連携して「次代の教育を共に拓く会」を結成していますので、私たちの考える「次代の教育」についても、もっと発信していきたいと思っています。

 

リーダー自身が学習者としての手本を示す

――リーダーシップについて先生のお考えを伺います。

 学長 私は「学習する組織」をテーマにしています。学習する組織というのは、起こり得る最良の未来を実現するために、メンバーの一人一人が継続的に必要な気付きや能力を高めていくことのできる組織のことを言います。学習する組織、つまり各人が主体的にやりがいを持って活躍できる集合体をつくっていくということが、私の目指しているリーダーシップです。一人一人の教員や学生が最大限に生かされる状態をつくるために、私に何ができるかということを常に考えています。

そのためには、リーダー自身が、学習者としての手本を示すことが大切です。私の尊敬する学習する組織の提唱者のピーター・センゲ先生は、毎日、瞑想をし、常に、開かれた思考、心、行動の観点から、自己の思考、心、行動を行えるように、自己の立ち位置を整えているそうです。また、その日の終わりには、一日のラーニングを内省しているそうです。このような在り方が、私の目指すリーダー像です。

――男女共同参画社会の推進のために、女性リーダーについて先生のお考えをお伺いします。

 学長 女性も、家庭や子供を持っても働き続けることが当たり前の社会になったことを大変うれしく思います。

私は女性の活躍を支援する活動を続けています。男性と女性を比べたときに大学生までは私の方が優れていたとか負けていなかったという女性が多いのですが、いったん社会に出るとなかなかそうならないということがあります。経営幹部の研修においては、女性がゼロのことも多いですし、女性がいたとしても明らかに少数派です。経営幹部の半数が女性となるにはもう少し時間がかかりそうです。

 以前、アメリカで活躍している女性リーダーたちにインタビューをしたことがあります。その中のお一人、NYの大手広告代理店で役員をされた女性のコメントには、女性リーダーが成功するうえでの秘訣が満載でしたので、彼女の言葉をご紹介したいと思います。

「私は、戦略を考えることと、言葉で表現することが大好きだったので、広告という仕事を選びました。好きな仕事でなければ、こんなに大変な仕事を続けられませんでした。仕事は、短距離走ではなく長距離走と考えていましたので、子育ての時期はスローダウンしました。昇進しようと思っていたのではなく、チームを成功に導こうと思っていたら、いつの間にかこんなポジションにいました。」

女性には、男性より人生の選択肢が多く存在します。働き続けることもその一つです。そのため、自分なりの「働く理由」を明確に持つことが大切です。子育てをハンディと捉えず、子育ても人生における貴重な体験と考え楽しむこと、男性のまねをするのではなく、チームを大切にする女性らしいリーダーシップで組織をけん引していくこと――私も、彼女に習い、実践学習中です。

Future of Learning 2011

 今年もハーバード教育大学院でFuture of Learning 2011が開催されます。

【日時】   2011年8月1日~4日
【参加費】 US$2,300
【場所】   Harvard教育大学院
【対象者】 現職の教師、教育監督者、教師育成者、教材開発者など
【教授陣】 Howard Gardner, Veronica Boix Mansilla, David Perkins
       (全てハーバード大学院教授)
【概要】
 ますますグローバル化する社会において学校は子供たちに何を教えればいいのでしょうか?クリック一つで前例のないほど莫大な量の情報が手に入れる社会で教える価値のあることとは何でしょうか? 
 Future of Learning 2011では、子供たちが21世紀を上手に生きるために、何を、どこで、どのように学ぶべきかを検討します。教師にとっての未来の学習とは、専門知識、コラボレーション力、企業家精神のような能力を子供たちの中に育み、異文化間理解や、環境への責務、グローバル市民としての考え方を教えることです。子供たちが複雑な問題を理解し、質の高い仕事をこなし、様々なメディアを通して自己表現することを教えることです。究極のゴールは、急速に変化する環境で、子供たちが倫理観を失わずに、常に自己を省みながら生きることを教えることです。
 2011年のFuture of Learningでは、昨年よりもデジタル分野に重点が置かれます。プログラム参加後にも役に立つような、アクティブで、クリエイティブで、道徳的で、知識豊富なアクティビティに参加することで、受講者は、新しいプログラム教材の活用方法を学びます。新しい知識を手に入れ、商品開発や問題解決につなげることができます。
 
お申込み、詳しい情報については、こちらからPeaceful School.jpg
 

学習理論

ラーニングフォーオールの活動を通じて、TFAが蓄積した教師育成のナレッジを学んでいます。

その中の一つが、学習理論です。教師は、学習者の学習を支援する役割を担います。効果的な教師になるためには、学習者と学習についての正しい認識を持つことがとても大切です。学習理論を知っていると、授業や指導を工夫する際にも、科学的に行うことができます。 

以下の内容は、Teaching as Leadershiphttp://www.teachingasleadership.org/ の情報を抜粋したものです。詳細は、上記サイトをご覧ください。

 

【学習理論キーコンセプト】

①ブルーム理論、②マルチプルインテリジェンスと学習様式、③記憶理論、④認知発達の4つが学習計画、教育設計を考える上での基礎になります。
①ブルーム理論(認知理解を分類する6段階の階層)
1.知識 Knowledge
2.理解 Comprehension
3.適用 Application
4.分析 Analysis
5.統合 Synthesis
6.評価 Evaluation
②マルチプルインテリジェンスと学習スタイル
マルチプルインテリジェンスとは、生徒には多様な知性(言語的知性、論理・数学的知性、空間的知性、音楽的知性、身体的知性、対人的知性、内省的知性)があり、その知性の強弱と組み合わせが生徒の個性であるという考え方です。学習スタイルとは、新しい知識を取り入れるのに生徒によって学びやすいスタイル(視覚型、聴覚型、接触/運動感覚型)が異なるということです。
③記憶理論
生徒の知識を短期記憶から長期記憶に移動させる方法。鍵となるやり方は、繰り返し、以前の知識への紐づけ、記憶の整理、新しい情報の加工 などです。
④認知発達
全ての子供たちが、同じ速さで発達するわけではありませんが、生徒のスキルや能力は、学年ごとに、認知、身体、社会面でほぼ同じような経路をたどり発達していきます。
【ブルーム理論(認知理解の6レベル)】
ブルーム理論6.gif
【ブルーム理論を教室でどう用いるか】
一般的に言って、ブルーム理論は、学習目的を構築するために有効な考え方です。具体的には、(1)ブルーム理論を使って生徒に深い理解を促すことができる、(2)学習目的を整理するヒントが得られる、(3)学習目的を教えるベストな方法がわかる。 以上のような利点があります。
(1)ブルーム理論の6段階を、学習目的の達成難易度を量る判断基準として用いることができます。この分類法を用いれば、あるテーマや科目について、生徒を全てのレベルでの深い理解に導くことができます。 
生徒に高い階層の知識を学ばせることが有効な理由は、
・ 学校の先生が作るテストは階層の低い部分(知識、理解、適用)での理解を評価するものですが、生徒は高いレベル(分析、統合、評価)の内容を学習することにより、学んだことの記憶を長期間保持できます。
・ 高い階層での知識の方が他の階層にも応用が可能です(丸暗記は役に立ちません)。
・ 低い階層での学習は実社会では、あまり役に立ちません。
(2)ブルーム理論の階層に従うことにより、少しずつ認知理解の階層のはしごを登っていくことができます。
生徒が、抽象的な概念を作り上げ、知識を完璧にマスターするには、何度となく具体的な内容に触れ、問題を解く必要があります。低学年で低い階層の能力を扱うことは問題にはなりませんが、学年が上がっても事実の学習にのみ終始する先生がいることは、問題となります。
(3)ブルーム理論は先生が具体的な教授目標を考えるのに有効なツールです。ブルーム理論を用い、適切な難易度の学習目的を設定し、授業を展開することができます。
例) 知識レベルでの情報を覚える ⇒ ドリルと練習のアプローチ
   理解レベルの情報を知る ⇒ 例を挙げるなど、理解がより深まるアプローチ
   情報を適用する ⇒ 情報の適用方法を教え、例を豊富に挙げる
事実を教えられただけでは、生徒はその情報を実際に適用することができません。民主主義の概念を教えられただけでは、実際に民主主義がどのようなものか、理解できません。民主主義を学ぶためには、反民主主義の例を学ぶ必要があります。

【マルチプル・インテリジェンス】

①言語的知性(Word)
   言語を巧みに操作し、効果的に表現する力。
   スピーチやディベート、言葉遊び、詩作などが得意。

②論理・数学的知性(Logic and Maths)
   数を操作したり、論理的に考える力。
   数学、計算、分析、分類など、論理的思考を必要とする問題が得意。
③身体的知性(Body)
   身体を巧みに操作し、表現する力。
   運動、ダンス、演技などが得意。
④音楽的知性(Music)
   音楽を使って巧みに表現できる力。
   作曲、歌が得意。
⑤空間的知性(Space)
   ものごとをイメージしたり表現できる力。
   絵画、彫刻、映像化が得意。
⑥対人的知性(People)
   他人の感情や考えを理解し人間関係を築く力。
⑦内省的知性(Self)
   自分自身を理解し、感情、思想、思考、価値観などを認識できる力。
⑧自然認識知性(Nature)
   自然を認知し共存できる力。
   動物の飼育、植物の栽培、自然観察などへの関心が高い。
【学習スタイル】
生徒は自分に最も合ったやり方で情報を取り入れます。全ての生徒のスタイルに合わせようとすると、授業が混乱してしまうのではないか、と心配する声もありますが、先生は一つのスタイルに固執することなく、様々なスタイルを取り入れることが、生徒の理解や記憶の向上につながります。
例えば、植物の細胞の説明を読むよりも実際に顕微鏡で細胞を観察する、シンフォニーについての文章を読むよりも、実際にシンフォニーの音楽を聞いてみる、分数を教えるのに、オレンジを切り分けてみるというようなやり方が実際に有効です。
■ 視覚型
・・・”見て”情報を取り入れます。視覚学習者は、教科書や板書を思い出して事実やコンセプトを覚えます。教科書、図、写真、地図なども、視覚学習者を助けるよいツールです。
- 視覚型の強み

  • 読み書きしたことを覚えている
  • 目で見ることのできるプロジェクトやプレゼンを喜ぶ
  • 図、チャート、マップをよく覚えている
  • 見たときに最も良く情報を理解する
■ 聴覚型
・・・”聞いて”情報を取り入れます。聴覚学習者は、先生が話している時、声を出している時、音楽を奏でている時、集中できるように能力開発する必要があります。中には音に敏感すぎて、静かでないと集中できない生徒もいます。
- 聴覚型の強み
  • 聞いたこと、言ったことを覚えている
  • 教室や小グループでの話し合いが好き
  • 口頭での指示を良く理解する
  • 聞いたときに最も良く情報を理解する 
■ 接触/運動感覚型
・・・ものにさわったり、身体を動かしたりして情報を取り入れます。しばしば、このタイプの生徒がいることが忘れられがちです。
- 接触/運動感覚型の強み
  • 手や身体を使って自分で経験したことを覚えている
  • 道具を使ったり、実際に身体を使って参加できる授業を喜ぶ
  • 一度やってみて、やり方を覚える
  • 運動神経がいい
【記憶理論】
人間の記憶について理解しておくことは教師にとって、とても役に立つ知識の一つです。理解させるということは、生徒に単に情報を与えるだけでなく、短期記憶から長期記憶へと移す手助けをすることです。
- ワーキングメモリ(作業記憶)・・・短期記憶、新しい情報をしばらくの間とどめておきます。情報がワーキングメモリにとどまっていられるのは、積極的に活用されている間だけです。
- 長期記憶・・・情報を日、週、月、年、生涯という単位でとどめておける記憶の倉庫です。
- 短期記憶を長期記憶に変える有効な方法としては、次のようなものがあります。
  • 様々なやり方で、繰り返し唱えさせます。
  • 以前の知識に紐づけさせます。
  • 記憶の整理・・・新しい情報を覚える過程と覚えるために整理したものの両方が記憶に役立ちます。
  • 情報の加工・・・分析したり、批判したりすることによって情報が長期記憶に移動しやすくなります。

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【認知発達】
認知発達の核となる考え方は、「全ての子供たちが、同じ速さで発達するわけではないが、成長の過程は予測可能であり、生徒のスキルや能力は学年ごとに、ほぼ同じような経路をたどりながら、認知、身体、社会面での発達を遂げていく」です。
1. 年齢により、生徒の思考は変化する
一般的には生徒はだんだんと複雑な考えや抽象的な考えを理解できるようになります。低学年では、比ゆ的な表現は理解が難しいですが、思春期を経て複雑な問題解決ができるようになります。
2.生徒は積極的に意味づけをする
生徒は、知識を消極的に受け入れるのでなく、積極的な意味づけを行います。生徒は、新しい知識を学ぶとすぐに分類したり、既に知っている知識と結びつけたり、身近な世界にあてはめて考えます。
3.生徒の認知発達は以前に得た知識を土台とする
新しい知識は、生徒が以前に得た知識を土台として積み上げられます。生徒が説明の基礎となる知識を持たない限り、新しい知識の説明は役に立ちません。それゆえ、教師は、生徒に様々な経験や考え方に触れさせなければなりません。
4.チャレンジングな課題を与えて認知発達を促進させる
生徒の認知経験を上げることは、生徒の一般的な認知発達に影響を及ぼします。生徒によって知識レベル、受け入れレベルに違いはありますが、全ての生徒がチャレンジングと感じる授業を構成するのが教師の使命です。
5.社会的関わりが認知成長を促す
生徒が社会学習や観察から学ぶことは数多くあります。生徒は自分の考え、見方、信念、思考過程を仲間や周りの大人たちと共有することによって、多様な見方や考えが身につき、自分の理解の欠点や欠落部分がわかるようになります。
【小学校低学年の認知発達(Pre K~3年)】
  • 小学校低学年(年長~3年生)の生徒は読み・書きを覚え、急速に概念、言語理解が発達します。
  • 身体の発達には個人差があり、運動神経が急速に発達しますが、細かい運動神経の発達と言語面では、男子より女子の方が、成長が早いです。
  • エネルギーが高く、自己規制能力がまだ発達していないので、興味のないことに集中するのは難しい年頃です。
  • 社会的に自立することを覚えます。社会性を育み、新しい経験を模索するためのいろいろな「遊び」は重要です。
  • ある時期になると状況を他人の目で観察できるようになりますが、年少~1年生の間は難しいです。
  • 大人の考える理屈が、だんだんとわかるようになります。

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【小学校高学年の認知発達(3年~6年)】

  • 小学校高学年(3年-6年)では、以前よりも頻繁に抽象的概念(例:初歩的な代数)を扱うようになりますが、まだそれほど多くはありません。一方で、生徒のコミュニケーションスキルは書き言葉、話し言葉、共に急速に発達し、生徒の発達障害などの認知スタイルの違いが顕著になります。
  • 身体の成長もゆっくりと着実に現れ、外見を気にするようになり、大人ではなく仲間が関心の中心になります。高学年になると特に女子生徒で思春期が始まり、急に成長をしたり、初潮が始まる生徒もいます。この学年では、身体の健康が一つの鍵となります。
  • 小学校高学年でのつきあいはグループ内での自分の立場によって支配されるようになります。自分の学業成績を客観視できるようになり、通常、それは、学生の間、続きます。

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【中学生の認知発達】

  • 中学生(7年生ー9年生)になると、生徒は抽象的・体系的に、仮説を立てたり、推論できるようになり、認知スキルは質的に変化します。思春期を経て身体が飛躍的に成熟します。
  • 自分の仲間との付き合いが深まり、同性の友人グループを作り行動するようになります。服装や外見に対する個人の好みやアイデンティティが芽生え、人目を意識するようになります。
  • 自分らしさ(個性)が現れ、周りから見られている自分のイメージを意識するようになります(例: 活発、人気者、変り者など)。
  • 男子生徒と女子生徒の違いが現れ出します。学業においても女子生徒の数学と理科の成績が男子生徒に比べて下降し始めます。

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【高校生の認知発達】  

  • 高校生(10年生ー12年生)になると、大人と全く同じ、抽象的な理屈で考えるようになります。
  • 一部男子を除き、身体的にも完全に成熟します。
  • 引き続き仲間との関係を重視し、個人的な親しいつきあいに興味を示します。
  • 仲間になるグループは社会的・経済的地位と関連し、将来のことを考え始めます。
  • 感情的・心理的に激変しやすく、まれですが、摂食障害、統合失調症、うつ病などの身体の不調を訴える生徒もいます。

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Namaste:One teen’s look at Nepal

毎年、ゴールドマン・サックス基金とアジア財団は重要な国際問題に深い理解を示した高校生に一万ドルの奨学金を与えています。2008年の受賞作は、南カリフォルニアに住む中産階級の高校生、サラが作成した「Namaste*」というドキュメンタリーフィルムでした。このショートフィルムは、グローバル社会を考える時に私たちが忘れてはならない視点を捉えおり、グローバル教育の授業で活用されています。 

サラは、初めて訪れた途上国、ネパールで、人々の温かい心と素朴な暮らし、貧しいが、にぎやかで笑いの絶えない生活に触れ、人間にとって本当に必要なものは何か、豊かさとは何か、幸せとは何か、について考えさせられます。「アメリカの若者は物質的には豊かで何不自由ない暮らしをしているが、隣近所とのつながりもなく、心を病んだ人々も大勢いる。誰もが食料や家などの基本的人権と共に、商業主義の犠牲にならない権利、自分の時間や家族と一緒の時間を手に入れる権利がある。グローバル市民になるために必要なのはたいしたことではない。幸せへの鍵はピカピカのおもちゃではなく、他の人々や文化と繋がることであり、『分け与えること』である。愛する人々と共に過ごす時間を持つことであり、世界のどこかでそういう場所を見つけることである。先進国に住む全ての若者に途上国での生活を体験してほしい、そこから気づくことがたくさんあるから。」とサラは結んでいます。
 
 *Namaste:インドやネパールで交わされる挨拶の言葉。会ったときだけでなく、別れの挨拶もナマステである。単なる挨拶の言葉ではなく、「あなたの内なる光り輝く世界を讃え、一礼!そして、互いの出会いに感謝!」という意味。
 
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