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未来を切り開くアントレプレナー ライフイズテック(Life is Tech!)の挑戦

文部科学教育通信 No.332 2014-1-27に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(42)をご紹介します。

21世紀という複雑かつ難解な問題が山積する時代において、今までにない仕事を生み出し、新しいスタイルで働いている若者の姿が目立つようになりました。また、その仕事は単純なお金儲けのためだけではなく、社会における様々な問題を解決することに通じているケースが多いです。今回は、アントレプレナー(起業家)とその力について学ぶ機会としたいと思います。

 

アントレプレナー

今までにない仕事を生み出しているアントレプレナーとは、どのようなことを行っているのでしょうか。アントレプレナーを多く生み出しているアメリカで、起業に関するノウハウ本が多く出版されています。その中の一つRobert Toru Kiyosakiの著書『Rich Dad’s Before You Quit Your Job』に、以下のようなことが書かれています。

「起業とは、パラシュートが開くかどうかわからないのに、飛行機から飛び降り、下降しながらパラシュートを開くようなもの。パラシュートが開かなければ、地面に衝突し、跳ね上がる。」このように、アントレプレナーは正解だとわかってから動き出すのではなく、動き出してから出来事を振り返り、より良い方向へ走り続けるというリスクを取ります。

リスクを取って動き始めると、上手くいくこともあれば、困難な状況に陥ることもありますが、彼らは小さな成功で満足したり、壁を乗り越えるのを諦めてしまうのではなく、ビジョンを達成するために、創造的問題解決に取り組みます。

とても大変そうと思われる方もいるかもしれませんが、アントレプレナー本人は、そのことを大変だとは思っていません。夢や目標を実現することの方に夢中なため、大変さよりも、実現欲求の方が勝っているというのが、より正しい表現かもしれません。苦悩よりも、夢の方が、心の中で占める割合が多いのです。

アントレプレナーは自己マスタリー(自分が「どのようにありたいのか」、「何をつくり出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を創造的な力に変えて、内発的な同期を築くプロセスのこと。)を持っています。Appleの生みの親であるスティーブ・ジョブズは、「フォルクスワーゲンのようなPCがほしい!」という強い願いを持っていました。DELLの創設者であるマイケル・デルは、「IBMに勝ちたい!」と強く願っていました。ジョブズもデルも、どちらも素晴らしいアントレプレナーですが、ジョブズにはデルのように安価なPCを大量生産することはできないですし、デルにはジョブズのような美しいデザインのPCをつくることはできません。これは、能力的にできないのではなく、自己マスタリーが異なっているためです。このように、アントレプレナーはどのような世界をつくり出したいのか、何を生み出したいのかという明確なビジョンを持ち、対象に対して多大なエネルギーを注ぎながら、自己マスタリーに忠実に生きているのです。

 

今までにない仕事を生み出すために必要な力

それでは、アントレプレナーの「今までにない仕事を生み出す力」とは具体的にどのような力を指すのでしょうか。

私は、大きく3つの力が必要だと考えています。

 ①リフレクション(内省)力

率先して行動を起こし、その結果を振り返り、ビジョンや目標に向かうより良い方法を探し続けるアントレプレナーは、学習者そのものです。

学習し続けるという行為において重要なのは、新たな知識を増やすだけでなく、自らの行動や思考を内省することです。この内省も、ただ闇雲に振り返るのではなく、ビジョンやありたい姿と比較して現状がどうなのか、何を行えば目標に違づけるのかを考えることが大切です。

 ②コラボレーション力

新しい仕事を生み出す時に、自分と似た思考、経験を持っている人とだけ関わるのではなく、様々な考え方や経験をもった多様な人々と協力することが大切です。

目標を達成するために、どのようなメンバーのいるチームをつくるべきかを考え、多様な人々から学び、自分一人では考えつかないアイデアを出せることがアントレプレナーには必要です。 

③創造的問題解決力

前述した通り、新たなことに挑戦する時、前例のないことに挑戦する時には、実現に向けたステップは、どこにも存在しません。自分で、ステップを創るしかないのです。現状と有りたい姿とのギャップを埋めるために、解決策を創造することが大切です。システム思考やクリティカル思考など、さまざまな思考法が、創造的問題解決を支援するために用意されています。

 

日本のアントレプレナー ライフイズテック(Life is Tech!)の挑戦

日本にも素晴らしいアントレプレナーはたくさんいます。その中でも、ITの分野において新たなムーブメントをつくっているのがライフイズテックです。Life is Tech!1.JPGのサムネイル画像Life is Tech!2.jpg

ライフイズテックは、ITに興味を持つ人口を増やし、日本からもジョブズやデルのようなIT業界のスターを生み出すために、「中高生のためのプログラミング・ITキャンプ」といったアプリケーションやプログラミングに触れる機会を提供しています。

創設者である水野雄介氏は、「子どもひとりひとりが持つ可能性を、最大限伸ばせる社会をつくりたい。」と願い、ライフイズテックを立ち上げました。

水野氏はライフイズテック立ち上げ前に「野球だとイチローのようなスター選手がいるが、ITの分野だと日本にはスターはいない。なぜだろう?」と考えたそうです。考えをすすめていくと、野球は子どもの頃からクラブ活動などで取り組んでいる人が多いことに対して、プログラミングやアプリケーションの作成は大学で専攻しなければ触れる機会がほぼないということに気付きました。野球のように、プログラミングやITに対しても子どもの頃から慣れ親しむことができると、子どもの可能性を広げることができると水野氏は語ります。

ライフイズテックが開催するプログラミング・ITキャンプの参加者は年々増加しています。増加の要因は、子どもの頃からプログラミングを学ぶ機会の重要さに保護者が気付きはじめたということだけでなく、キャンプに参加する子どもたちの成長が他の子どもたちを惹きつけていることも大切なポイントになっています。

キャンプに参加する子どもたちは、様々な視点でどのようなアプリを開発すると良いか考え、他の子どもや大学生のインストラクターと共に学び、時に協力し、時に競いながら学習のサイクルを回します。キャンプに参加した子どもたちは、プログラミングの技術だけでなく、課題解決力やリーダーシップを身につけることもできます。このような力を身につけた子どもたちが、新たな時代を担うアントレプレナーとなっていくのだろうと考えています。

 

全ての方がアントレプレナーになることは難しいと思いますが、どのような場所においても、アントレプレナーの持つ力を意識して活動することが21世紀を幸せにいきるために必要であると考えます。

未来をつくるリーダーになるワークショップ 海陽学園での取り組み

先日、愛知県蒲郡市の海陽学園で高校生を対象としたリーダーシップワークショップを開催いたしました。
自己マスタリー(自分が「どのようにありたいのか」、「何を作り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を創造的な力に変えて、内発的な同期を築くプロセスのこと。)に忠実に生き、周囲の人を上手に巻き込み、主体的に自らの人生を切り開いていく力を中高校生のうちに身につけることが、未来をつくるリーダーになる第一歩です。
終日ワークショップを行い、私も生徒や先生方からたくさんの気づきと学びをいただきました。

今回は、ワークショップの様子とそこでの学びをご紹介いたします。

 

海陽学園について

「将来の日本を牽引する、明るく希望に満ちた人材の育成」という建学の精神を掲げ、平成18年に設立された全寮制学校(ボーディングスクール)です。ウェブサイトには、「ここはリーダーの出発点。そして、社会への入口。」という文言が書かれており、まさに21世紀のリーダーを養成し、世の中に送り出す役割を担う学校であると言えます。
全寮制であるため、生徒はハウスと呼ばれる寮で生活します。ハウスには、ハウスマスターと呼ばれるベテランの先生が常駐していて、日々の生活や将来のことまで様々な面で生徒の相談に乗り、成長を全面的にサポートしています。また、日本を代表する各分野の企業から派遣されたフロアマスターと呼ばれる社会人の先輩も常駐しているため、生徒は身近な大人との交流を日常的に経験することができます。

私が訪問した際、フロアマスターが生徒達にコーチングを行っているところを見学させていただきました。生徒達は、将来やりたいことを中心に、なぜそれをやりたいのか、自分の強みや弱みは何かなど、真剣に語り合っていました。フロアマスターと生徒達も打ち解けあっており、具体的な質問やフィードバックが行われていることに驚きました。日頃、ハウスでの活動を通してこうした経験を積めるのは、自分のリーダーシップを磨く良い機会になると思います。

 

リーダーシップワークショップについて海陽学園ワークショップ

リーダーの土台を日常で身につけている生徒に、より体系だったリーダーシップを学ぶ機会を提供したいと願うハウスマスターの先生にお声をかけていただき、今回このワークショップを開催することになりました。

参加を希望する生徒から事前にエントリーシートを集め、面談を実施していただきました。エントリーシートには、今までのリーダーの経験をもとに、気づいたことや失敗から学んだことがぎっしりと書かれており、参加する生徒の望みや課題を知ることが出来て良かったです。

ワークショップに先立って、「ライフライン」という、今までの人生を振り返ってどのような時にモチベーションが上下したかを記したグラフを作成してもらいました。

当日は、以下のアジェンダにそってワークショップを実施しました。

  1. アイスブレイク(自己紹介)その日の気持ちを表す写真を一枚選び、他のメンバーになぜその写真を選んだのか、また、その写真が自分に「リーダーシップとは何か」問いかけていると思うかを共有します。
  2. リーダーの物語自己マスタリーに忠実に生き、対話を通して共感者をつくり、共有ビジョンに向かってPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回し、失敗からも成功からも学習し続け、課題にぶつかった時は創造的問題解決を行うリーダーの物語を共有します。メンタルモデル(物の見方、色眼鏡)や自己マスタリーといった大切なキーワードを説明し、理解を深めます。
  3. 学習する組織のリーダーに必要な力私たちが目指すリーダーは、「一人のリーダー」や「偉大な戦略家」ではなく、起こりうる最良の未来を実現するために、能力と気づきの状態を高め続けることのできるリーダーであることを共有します。学習する組織のリーダーは、自己マスタリーを持っていて、共有ビジョンに向かって進んでおり、メンタルモデルに縛られずに様々な人や出来事から学び、個人だけでなくチームでの学習を進め、部分にとらわれずシステムで物事を考えることのできるリーダーのことです。
  4. 自己マスタリーの探求事前に作成してきた「ライフライン」をもとに、ペアになって自分がどのような時にモチベーションが上がるか、何をしている時に充実していると感じるかなどを話し合い、自己マスタリーを探求します。

    また、「ビジネスモデル・キャンバス」を作成し、自分のキーパートナーや他の人に与えられる価値などを洗い出します。そのキャンバスをもとに、これから何を行えば良いかを考えます。

    ライフラインとキャンバスを参考に、「目的宣言文」を作成します。目的宣言文は、活動・人・支援というグループに分けて、最も楽しみながら注力できる活動は何か、一緒に時間を過ごしたい人は誰か、どのように人を助けているか、また具体的にどのように役立っているかを考えます。

  5. チームビルディング学習する組織のリーダーは、単独で行動するのではなくチームで活動し学習します。その際に必要なチームビルディングの方法や文化の作り方を学びます。また、良いチームをつくるためにはダイアログ(対話)をすることが必要になるため、話すことと聞くことのポイントも学び、実践します。
  6. 共有ビジョンとアクションプラン共有ビジョンの原点は一人ひとりの思い(願い)であること、その思いがダイアログを通して一つになる時に大きな力を持つ共有ビジョンが生まれることを学びます。

    また、生徒達は自身の短期的ゴールとその評価軸、主なアクションとアクションの結果(成功の評価軸)を考えます。

  7. リフレクション(内省)本日のワークショップを通して気づいたことや学んだことを振り返ります。

 

参加された生徒さん、フロアマスターの方からは以下の感想をいただきました。

・ 生徒1

リーダーシップワークショップという名称のもと、私は興味を惹かれて参加しましたが、リーダーシップについての様々な考え方とともに、自分を追求する新たな方法も同時に学ぶことができ、一番知っているようで知らない自分を追求することの大切さを改めて実感しました。

・ 生徒2

ワークショップでは頭の中でもやもやしていたことが晴れ、整理されたのですごく良かったです。自分のことを話し、それについて意見を言ってもらうことで、自分のこともわかっていき、自信を持てるようになった気がします。リーダーシップの説明では自分の課題がよく分かり、次からはどうすればいいかという希望も持てました。

・ フロアマスター

自分自身について深く考える時間を作ることが出来たと思います。特に2段階のワークを行なうことでより深く自分自身を知ることが出来たと思います。具体的にはライフラインシートを作る際に自分自身で振り返り、それをワークショップで共有化することで、他者からも多くの気づきを得られたと思っています。自分のことを知ることが、他者との関わりを深めていく出発点だと改めて感じましたので、今度も定期的に自分自身について考える時間を作っていきたいと思います。

 

今までを振り返り、自分の強みやもっと伸ばしていけるところを認識し、今後どのようなことに従事したいかを考え、そのために必要なリーダーシップを身につけるために何ができるかを考える機会となったと思います。

より多くの人が学習する組織のリーダーとなることを、わたしたちはこれからも応援し続けます。

 

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タブレットを用いた反転授業 佐賀県武雄市の取り組み

文部科学教育通信 No.330 2013-12-23に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(40)をご紹介します。

 

先日、佐賀県武雄市の公立小学校で実施されている「タブレットを用いた反転授業」の公開授業を見学してきました。

子どもたちの「明日の授業、楽しみ!」という声や、授業中にまったく途切れることのない集中力に大変驚きました。
また、反転授業の醍醐味である「話し合いによる学びあい」といった21世紀の学校教育の様子を実際に見ることができ、多くの気付きや学びがありましたので、ご紹介します。

なお、細かな文言は武雄市で用いられているものと異なる場合がございます。

 

タブレットを用いた反転授業

タブレットを用いた反転授業とは、どのような授業を行うのでしょうか。20131121_武雄市反転授業3.JPG
授業前の準備、授業中、授業後に分けてポイントを示しました。

 ■ 授業前の準備

  <子ども>

タブレットを用いて次の授業に関する動画コンテンツを見る+手を動かして問題を解くという、二つの事前学習(予習)を行う。

 <先生>

集計システムを利用して子どもたちが事前学習で行った小テストの結果と感想を確認し、授業前に子どもたちの理解の度合いや苦手箇所を把握する。その情報を元に、授業をデザインする。

20131121_武雄市反転授業2.JPG

 <保護者>

子どもと一緒に動画コンテンツを見て、子どもたちがどのようなことを学習しているかを具体的に知る。

■ 授業中

 <子ども>

  • 事前に自分はどこがわからないかを把握しているため、意欲的に授業に臨める。
  • 「一人で考える時間」や「話し合いで学びあう時間」といった変化に飛んだ授業に、集中力が途切れることなく参加できる。

 

 <先生>

  • 従来の黒板や教科書、ドリルといった教材に加え、電子黒板・タブレットを駆使して授業を行う(*)。
  • 子どもそれぞれの進度に合わせた指導を行うことができる(躓いてしまった子どもをフォローし、理解が進んでいる子どもには更に理解を深める問題にチャレンジするように促す)。
  • 「子ども同士の話し合いによる学びあい」を聞いて、子どもたちが本当に理解しているのかをその場で確認できる。
  • 授業の最後に集計システムを用いて、子どもたちが授業中に行った確認問題や授業に対するアンケート結果を集計する。クラス全体の理解度や授業に対する子どもの意見を知り、授業後にリフレクション(内省)して、次の授業に活かすことができる。

 

■ 授業後

 <子ども>

  • 気になる箇所の動画コンテンツをもう一度見て(復習)、再度理解を深める。
  • 達成度テストを受けて、本当に理解できているかを確認する。

 

<先生>

  • 宿題の集計などをシステムで管理し、丸付けや点数入力といった作業に割く時間を減らすことができる。

 

今後改善することのできる課題点

子どもたちの学習意欲を向上し、主体的に学ぶことを促進する反転授業を、より多くの子どもが経験できるようになることが望ましいです。
その際、以下の課題を解決する必要があると考えます。

  1. タブレットや電子黒板といった新しいツールやシステムを、より多くの先生が使いこなすこと
  2. 導入や維持のコストを下げ、より多くの学校が捻出できるようにすること
  3. 動画コンテンツなどの教材を一般化すること

武雄市のように、公立の学校でも導入や維持のコストを捻出でき、ツールを用いて効果的な指導ができる先生のいる学校では問題ないのですが、そうでない学校も多いです。
たまたま反転授業を導入している学校に入学できたから良かったということでは、格差が広がってしまう可能性があります。生まれた地域や進学する学校を子どもが選択することは難しいので、学校単位での差が広がらないようにする必要性を感じます。

また、現時点では担当の先生と民間企業が協力して、担当の先生にあった教材を作っています。タブレットを用いた反転授業を広く展開する場合、より一般化された教材を準備する必要が出てきます。武雄市の教育関係の方々は、教材を一般化する策を考えているようですので、これからの動きに注目していきたいと思います。

 

反転授業を見学した感想

今回初めてタブレットを用いた反転授業を見学し、様々な発見と学びがありました。
 

①予習の有効活用

授業前の家庭学習時に、動画コンテンツで学習内容を先取りするため、授業に対する子どもたちのモチベーションが上がることがわかりました。どこが理解できて、どこがわからないかを子ども自身が把握することで、ただ漫然と授業を受けるよりも効果的であると考えます。「明日の授業、楽しみ!」という子どもの声を聞くことは、教育に携わる者にとって、かけがえのない喜びになると思います。

②特性に合わせた多様な学び

私が実際に見た算数の動画コンテンツ(台形の面積の求め方)は、画面上で図形が動き、音声での解説があるため、目と耳を使って理解を深めることができました。従来の教科書やドリルといった静的コンテンツではなかなか理解できなかった子どもにも効果があると思います。授業でも「一人で学ぶ時間」や「話し合いで学ぶ時間」が設けられているため、子どもそれぞれの特性(マルチプルインテリジェンス)に上手く働きかけることができます。子どもだけの話し合いで「台形の公式」を導き出しているのを見て、先生からの一方通行の授業ではなかなか実現できない学びが生まれていることを実感しました。

③進度に合わせた指導

授業の理解が追い付いていない子どもには、「一人で学ぶ時間」などを使って先生がサポートしていました。また、理解が進んでいる子どもには、よりチャレンジングな問題に挑戦するように促し、教室にいる子どもが誰一人として暇を持て余すことがなかったのが印象的です。普段の授業でこのような時間を設けることができると、落ちこぼれてしまう子どもを減らすことができると思います。

④授業効率の向上

従来の黒板や教科書といった静的コンテンツに電子黒板やタブレットなどの動的コンテンツやアイテムを組み合わせることで、授業の効率が上がると感じました。

算数の授業では、電子黒板に子どものノートを投影し、投影した映像の一部分を切り取り、他の子どものノートを投影したものと比較していました。先生が黒板に書き写すといった作業が発生しないため、効率よく授業が展開できていたのが印象的です。間延びしてしまう時間を極力つくらず、子どもが主体的に学ぶ時間を多く設けることで、集中力が続くことに感動しました。
 

反転授業は子どもの学習意欲を上げるための一つのソリューションとして、これからの教育に必要な視点であると思います。学習の楽しさを知れば、子どもたちは自主的に学習し続けます。

新しい取り組みのため、展開に際しての課題もあると思いますが、ひとつずつクリアすることで21世紀の学校教育をより良くしていけると確信しました。

学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(3)

文部科学教育通信 No.329 2013-12-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(39)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(以下、LFA)の魅力をご紹介しています。

今回は、LFAのプログラム中の学生教師やスタッフの学び、子どもたちの変化についてお伝えします。

 

● 学生教師の学びについて

LFAの学生教師は、3カ月という短い期間で子どもたちとの信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるため、自らの学びを最大化します。

現場では常にPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回します。

学生教師は、初回授業の前に実施される「事前テスト」を穴が空くほど確認し、子どもたちの学力や学習意欲をチェックします。学生教師の中には、子どもが消しゴムで消した跡まで見て、どのような過程で問題を解いたかを確認している人もいます。

この事前テストと前回担当していた学生教師からの情報を元に、初回授業の準備をします。

この準備段階では、その子どもにあわせた指導案を書くこと、教材を準備するだけでなく、どのような声掛けをするかまで綿密に考えます。

また、指導のロールプレイを行い、スタッフからフィードバックを受けます。そのフィードバックを元に、様々な状況をシュミレーションし、授業に臨みます。

指導中は、子どもたちの反応を見ながら授業を展開します。準備していた内容では授業が上手くいかない場合は、その内容を一旦置いて、その子どもにあった指導を行います。この時に焦らずに対応できるのも、何度もロールプレイを行い、様々な状況をシュミレーションしているからです。

また、指導中、LFAスタッフが学生教師の指導を細かくチェックします。指導終了後、学生教師はスタッフからフィードバックを受けます。学生教師、スタッフを含むチーム全員が、子どもたちの成長を心から望んでいるので、お互いにフィードバックし合うことも厭わないオープンな関係が築かれています。

学生教師自身もその日の指導をリフレクション(内省)します。子どもたちの反応はどうだったか、想定していた授業とどこが違っていたか等、徹底的に振り返ります。

スタッフからのフィードバック、自身のリフレクション、他の教師のグッドプラクティスを元に、学生教師は次の指導準備を開始します。

学生教師が、私に以下のことを教えてくれました。

「子どもたち向き合うことを通じて、常に自分自身も学習し続けなければならないということを実感しました。以前と同じ授業をするだけでは、子どもたちの成長はありません。子どもの成長を絶えず実現するためには、自分の行動を変え続ける必要があります。」

この通り、学生教師は全力で子どもたちと向き合います。とてもエネルギーの要ることですが、LFAで学生教師を経験した学生は、次のプログラムでも再度採用教師となる者や、スタッフになって子どもと学生教師を支える者がとても多いです。

長期間LFAに携わる理由は、子どもたちの成長を身近で感じることができること、学生が学んでいるという実感が持てるところにあると聞きます。

学生教師の学びがLFAの活動を支えていることがわかります。

LFA画像.jpg

 

● LFAスタッフの学びについて

それでは、LFAスタッフはどのようなことを学んでいるのでしょうか。

あるLFAスタッフは、以下のことを私に話してくれました。

「学生教師をしていた時は、子どもの成長だけを考えて行動していました。プログラム終了後、どうしても子どもたちと関わっていたかったため、LFAスタッフになりました。

最初、子どもたちから遠くなってしまい、少し残念な気持ちもありましたが、現場で子どもたちを指導している学生教師の成長を支えることで、スタッフは、子どもから学生教師までの成長を考えられるポジションだと気が付きました。

また、スタッフ歴が長くなってくると、新しいスタッフの成長も考えることができます。プロジェクトマネージャーは、子どもたち・学生教師・スタッフの成長を促すことができるので、私自身もさらに成長できたと思います。」

LFAスタッフも、学生教師と同様、子どもたちの成長のために何ができるのかを自身に問い続けています。スタッフは、子どもが成長するためには学生教師が成長しなければならないことを知っているため、学生教師の成長を全力で促します。同じロジックで、学生教師が成長するためにはスタッフが成長し続ける必要があるため、スタッフも日々リフレクションし、自らの学びを最大化させる努力をしています。

また、LFAはスタッフ向けの研修も行っていて、新しい知識や情報をインプットすることも怠っていません。

このように、スタッフも学習し続けることが、LFAの強みであると考えます。

 

● 子どもたちの変化について

LFAの活動も、今年で3年以上となっています。継続的に学習支援を受けている子どもたちも複数います。その子どもたちの変化を一部ご紹介します。

LFAのアラムナイ(卒業生)から以下の報告を受けました。

「3年前に私が指導していた子どもは、小学6年生の女の子でした。当時、2~3学年の学習遅滞を抱えていたと思います。算数の事前テストを確認したところ、ほぼ白紙でした。よく答案を見ていると、計算をして答えを出しているのに、消しゴムで消してしまっている跡が見つかりました。その答えは正解だったのですが、消してしまっているため、点数になりません。私は、彼女がなぜ答えを消してしまったのかよく考えました。もしかしたら、自信がないのかもしれない。点数がつくことが恥ずかしいと思っているのかもしれない。点数が低いことで叱られると思っているのかも…。

色々と状況を想像して指導初日を迎えました。子どもたちに、『は苦手だけど、これから得意になりたい教科は何ですか?』と質問したところ、事前テストを白紙で提出した彼女が『算数が得意になりたい』と答えました。私はその答えにとても驚きましたが、彼女のその思いを叶えたいと強く思いました。

授業中、『なぜテストを白紙で提出したの?』とは聞かず、『間違えても大丈夫だよ。間違えたら、なぜ間違ったのかを考えて、次からできるようになれば良いんだからね』『計算の過程は消さずに残しておくと、後から自分がどう解いたのか確認できるよ。最後まで答えが出せなくても、途中の計算は残しておこうね』といった声掛けをしました。最初白紙だった問題用紙は、指導の回を重ねるごとに、力強い計算で埋まり始めました。授業中に質問する回数も増え、学習意欲が向上していることを感じました。

指導最終日に実施した事後テストでは、9割近い点数をあげることができました。このことが彼女にとってとても自信につながったようで、算数以外の教科も真剣に取り組むようになりました。」

3カ月という短いプログラム期間でここまで子どもの成長を促すことができるのは、学生教師とLFAスタッフの子どもたちに対する深い愛情と自らが学習し続ける姿勢があるからだと思います。

LFAは、これからも日本の子どもたちのために活動を続けます。ウェブサイトがありますので、ぜひご覧ください。

http://learningforall.or.jp/

 

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学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(2)

文部科学教育通信 No.328 2013-11-25に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(38)をご紹介します。

 

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をご紹介しています。

第37回は、ラーニング フォー オール(以下、LFA)が「学習する組織」であることをお伝えしました。

今回は、LFAが提供している研修の魅力をお伝えいたします。

 

● LFAの学習支援の特徴

LFAは、春季・夏季・秋季・冬季のプログラムに分かれて、通年で学習支援を継続しています。これは、より多くの学生に困難を抱えた子ども達と向き合ってほしいというLFAの願いはあるものの、1年中学習支援に参加するという長期間のコミットメントを学生に強いると、参加できる学生が減ってしまう懸念があるからです。

そのため、LFAはプログラムごとに学生教師を採用しています。

そうすると、一人の教師が子ども達と向き合える期間は、長くても3カ月となります。

この3カ月という短い期間で、子ども達との信頼関係を築き、学力を向上させ、学習習慣を定着させるためには、現場に入る前に相当な準備をしておく必要があります。

そこでLFAは、過去の学生教師のナレッジ(経験知)や、子ども達とのコミュニケーションの取り方、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を上手く回す方法などを、研修を通して学生教師に伝えています。

学習支援の質を担保し、学生教師が無駄な時間を過ごすことなく効率的に指導に集中できるようにするため、研修は外すことの出来ないLFAの強みであると言えます。

 

● LFAの研修について

LFAは、2010年に学習支援の活動を開始して以来、採用した学生教師に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。

以下、LFAの研修が大切にしていることをまとめました。

1.子ども目線であること

全ての研修は、学生教師を通して子ども達に届けられるため、子どものことをよく考えた内容であることを重視しています。

LFAが学習支援をしている対象は、様々な困難を抱えている子ども達です。そのため、コミュニケーションの取り方や使用する言葉についても、その子ども達に受け入れられるものである必要があります。研修では、これらの情報を共有し、子ども達と学生教師がより良い関係を築けるベースをつくっています。

2.学生教師がすぐに実践できる内容であること

初めて現場で指導をする教師がぶつかる壁は、以前に別の教師もぶつかった壁であることが多いです。そのため、過去の教師がどういった工夫をして壁を乗り越えたか、どのようなやり取りをすることで子どもの学習意欲が向上したかといったナレッジ(経験知)を共有し、同じことで躓かないようにしています。

また、子どもとのコミュニケーションや指導の練習を、ロールプレイで実践します。
そのロールプレイに対して、過去の教師やスタッフがフィードバックをします。学生教師は、そのフィードバックをふまえ、より良いコミュニケーションや指導の仕方を習得していきます。何度も繰り返し練習することで、初回の指導でも緊張することなく、子ども達とのコミュニケーションがとれるようになります。

このような研修をすることで、継続して高いレベルの指導を子ども達にできるようになるため、子どもにとっても、学生教師にとっても有意義だと考えています

3.長期にわたって活用できる内容であること

2.では、すぐに使用できる実践的な研修の必要性を説明しましたが、それと同じぐらい重要なのが、時間をかけて学生教師に浸透し、LFAでの活動後にも使える内容であることです

例えば、LFAの研修では、リフレクション(内省)の重要性を何度も繰り返して伝えています。具体的には、研修後や指導後にリフレクションをして、次に活かす方法を考えるのですが、これはLFAのプログラムだけでなく、これからの人生のあらゆる場面で使うことのできるアクションです。

LFAは、学習支援を通して学生のリーダーとしての成長を支援していますので、プログラム後や学生が社会人になってからもLFAでの経験を活かせるように研修をデザインしています。☆使用 LFA研修画像2.jpg
 

● 研修での取り組みについて

LFAが研修でどのようなことをしているのか、一部ご紹介いたします。
指導前に行われる事前研修は、2日間で20時間、計18コマのレッスンを実施します。
各レッスンの内容を充実させることはもちろん、全研修を通して学習のサイクルにつながるように綿密にデザインされています。

事前研修1日目の前半は、学生教師もスタッフも初対面であることが多いので、チームビルディングやビジョン・ミッション・課題意識の共有を行います。

後半は、「LFAの研修について」でも挙げたように、学生教師としてのコミュニケーションの取り方や、リーダー/学習者としての教師の在り方についてなど、より実践的な内容を学びます。私が担当している研修は、この「リーダー/学習者としての教師」です。

事前研修2日目は、指導に直結する内容の研修を行います。

学生教師が担当する子どもの詳しい情報の共有や、指導案の作成法、学習習慣定着のための指導法、学習者目線の教授法、学習過程分析と仮説検証のための指導実践、そして指導のロールプレイを行います。

このように、研修初日には感情やマインドといったハートに働きかける内容の研修を多く行い、2日目は指導力を上げるための具体的な研修を集中して行っています。

初回の指導が終わったのち、中間研修という機会を設けています。

中間研修では、指導前に考えていたイメージと、実際に指導を行った時のギャップをどう埋めるのかを考えるため、課題解決のトレーニングを行います。

この課題解決の研修は、2011年頃までは事前研修に組み込まれていたのですが、実際に指導した経験がない状態(課題のない状態)でレッスンを受けても、なかなか定着しないため、初回指導後に研修を行うというシステムに修正されました。

前回、LFAが「学習する組織」であるとお伝えしましたが、このように、学生教師や子ども達のためにより役立つように、研修の構成も内容も常に磨き上げ続けています。既存の研修を見直し、新しい情報を取り入れることで、子ども達により良い学習支援を続けているのです。

 

● 「リーダー/学習者としての教師」という研修について

私は、2010年以降、事前研修の「リーダー/学習者としての教師」というパートを担当していますが、この内容も進化し続けています。その一部をご紹介します。

LFAと私は、リーダーを以下のように定義しています。

◇ 起こりうる最良の未来を実現するために、必要な気づきや能力を高め続ける「学習する組織」を創ることができる人

子ども達を導く教師こそ、リーダーであり、自らが学習者でなければなりません。

学生教師が上記のリーダーとなって子ども達と向き合うことができるよう、研修では、学生教師のロールモデルとなる「リーダーの物語」を共有します。

また、リーダーは文化を味方にし、学習する組織をつくることが必要であるため、ダイアログ(対話)の重要性やメンタルモデル(色眼鏡)に縛られないことの大切さ、チームビルディングについて詳しく説明します。

そして、学習者のリフレクションの大切さについても話しています。

今後も、子ども達へのより良い学習支援を目指し、研修内容を磨き上げていこうと思っています。

学習する組織 ラーニング フォー オールの魅力(1)

文部科学教育通信 No.327 2013-11-11に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(37)をご紹介します。

第37回より3回連続で、NPO法人ティーチ フォー ジャパンの学習支援事業であるラーニング フォー オール(旧称:寺子屋くらぶ)の魅力をお伝えしたいと思います。

私は、2010年のラーニング フォー オール(以下、LFA)の活動開始時から、研修や組織開発の面で継続的にサポートしています。LFAの組織としての成長を見守るとともに、常にLFAの運営に携わっている学生からも学んできました。今回は、これまでの活動を振り返りつつ、ラーニング フォー オールをご紹介する機会にしたいと思います。

シリーズ第1回は、LFAの概要をご紹介いたします。第2回では、LFAの独自の研修プログラムについて、第3回は、プログラム中の学習サイクルとプログラム後のリフレクションについてお伝えいたします。

ラーニング フォー オールについて

LFAは、学習支援を通して困難を抱える子ども達の可能性を広げるとともに、将来、教育現場や社会でリーダーシップを発揮する人材を育成する大学生向けのプログラムです。

団体のミッションは、次の3つです。

  1. 困難を抱えた子ども達の可能性を最大化する
  2. 参加した学生のリーダーとしての成長を実現する
  3. 卒業生による“社会全体で教育を変える”システムを創る

2010年夏より活動を開始し、今では関東・関西・東北・九州に拠点が広がっています。
2012年度までに、延べ1337人の子ども達に学習支援を行いました。プログラムに参加した学生教師は延べ445名、LFAのスタッフとして活動している人は述べ152名となっています。また、2013年は既に春季、夏季のプログラムが終了し、現在は秋季のプログラムが始まっています。

LFAの学習支援を受けた子どもの中には、学力的に高校への進学が厳しいと言われていたのに、学生教師がその子どもの躓いているところを一つずつ丁寧に指導し続けたことで、志望校に推薦合格した子どももいます。

持続可能な学習支援に向けて第37回 掲載写真.jpg

LFAは学生が運営している組織です。採用や研修をデザインする際に、私のような社会人がアドバイスすることもありますが、組織を成長させ、子ども達により良い学習の機会を提供するために活動しているのは、情熱をもった学生たちです。

学習支援を持続可能な活動にするため、LFAは子ども達のおかれている状況に共感し、自ら学習し続けることのできる人材を仲間にしています。

学生教師とLFAスタッフの情熱や子ども達の変化を知ってもらうための説明会といった広報活動も、全て学生が行っています。説明会でのプレゼンテーションひとつを挙げても、初めてLFAに接した人々に彼らの思いが伝わるように、何度も練習し、フィードバックしあい、改善しています。

学生教師を採用する際にも、どのような思いを持っているのか、たとえ困難な状況に置かれても責任をもって子ども達を支援することができるのか、教師自身が学び続けることができるのかを確認するために、エントリーシートの提出や面接を実施しています。指導の経験やスキルだけでなく、子どもの目線で物事を考えることができるかどうかも重要な採用基準です。

LFAは、採用した学生に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。また、指導期間中は教師に対して指導のフィードバックを行い、教師自身がPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回して、より良い指導ができるようにサポートします。プログラム終了後には「大リフレクション大会」という、活動を振り返って次の行動につなげる機会を設けています。このように、LFAは、子ども達の成長のために個人と組織の学習サイクルを綿密にデザインしています。

 

学習する組織としてのラーニング フォー オール

LFAの一貫した活動についてふれましたが、団体設立時からこのような流れがあったわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、成功や失敗から学び続けた結果、現在のスタイルが確立されたのです。また、今でも常に子どもと教師にとってより価値のあるやり方を模索し続けています。
私はLFAを学習する組織であると考えています。LFAは、学習する組織の5つの規律を活動全体で体現しています。

学習する組織の5つの規律とは、以下の5点です。

①パーソナルマスタリー
パーソナルマスタリーパーソナルマスタリーとは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンをもち、ビジョンと現実との間のギャップを埋めるために、創造的な力を発揮するプロセスである。

②共有ビジョン
共有ビジョンとは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針を羅針盤のように示す。

③メンタルモデル
メンタルモデルとは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。自らのメンタルモデルとそれが周りに及ぼす影響に注意を払い、うまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルを見直す。

④チーム学習
チーム学習とは、チーム・組織内外の人たちとの対話を通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスである。メンバーは、ダイアログ(対話)を通して本音で腹を割って話をし、集団で気づきの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する。

⑤システム思考
システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用される。

 

私は、LFAのスタッフや学生教師向けの研修を担当する際、学習する組織の話をしています。なぜこれら5つの規律が大切なのか、とLFAに携わる学生達が繰り返し考えることが、組織が成長していくための土壌づくりになると考えています。

 

LFAに参加している学生は皆、なぜLFAで活動するのか、どのような思いから参加しているのか、この先LFAでの経験を何に活かしたいのかといった①パーソナルマスタリーをもっています。個人の願いを叶える手段が、LFAでの活動である場合が多いのです。

また、LFAの活動を通して個人が成し遂げたいことと、団体のビジョンが一致しています。研修では、LFAのスタッフが団体のビジョンを学生教師に共有する機会がありますが、この②共有ビジョンと個人のビジョンをすり合わせることを目的としています。

LFAに携わる学生は、③メンタルモデルという色眼鏡が自らの学習を妨げる原因となることを理解しているので、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、反発するのではなく、歩み寄ってそこから学ぼうとします。

また、個人がそれぞれPDCAサイクルを回して学習しますが、④チーム学習も盛んです。ナレッジと呼ばれる経験知をお互いに共有し、自分の指導に活かせるものは進んで取り入れることもできます。また、チーム全体で課題を解決することも行います。その際、ダイアログ(対話)という手法で、お互いの意見を尊重しながら、より良い答えを求めます。

学習支援に力を注いでいると部分的な課題にとらわれがちですが、⑤システム思考を用いて、全体を眺めた時にどこが問題なのか、どのような因果関係でその問題が起きているのかを捉え、アプローチします。

このように、子ども達の学習機会を最大化するために、LFAの学生教師やスタッフは、自ら学習し続けています。

いじめサミット

文部科学教育通信 No.325 2013-10-14に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(35)をご紹介します。

生徒会活動をする中学生が意見交換する「全国生徒会サミット2013~いじめ撲滅宣言」が9月24日、オリンピック記念青少年総合センターで開かれました。全国から43中学校の生徒45人が参加し、8グループに分かれて、いじめの事例やいじめの防止策について話し合いました。作成したアクションプランを翌日、下村文部科学大臣の前で発表し、いじめ撲滅宣言を行いました。

 

●いじめに関するアンケート

サミットの開会に先立ち、参加者はNHKのハーバード白熱教室、マイケル・サンデル教授の「15歳の君たちと学校のことを考える」というTV番組のDVDを見て、次の質問に答えました。

1)DVDを見て共感したことは何ですか?

2)DVDを見て違和感を感じたことは何ですか?

3)いじめはなぜ起こると思いますか?撲滅することはできると思いますか?

4)自分はいじめる方ですか?いじめられる方ですか?傍観者ですか?また、なぜそう思うのですか?

生徒のアンケートを分析してまとめたところ、以下のようないじめの原因、継続する理由が明らかになりました。

<いじめの原因>

  • 多様性を認めない文化(外見、行動など自分たちと違うところがある人や自分より劣っている人を認めない)
  • 嫌われることや孤独になることへの恐怖感(自分がいじめられたくないからいじめる)
  • 先輩・後輩などの上下関係
  • ストレスの発散の場(受験のストレス、恋愛問題、学力・運動能力の差、自分に対する自身の欠如、認められないことに慣れていない)
  • 共感力の欠如(相手の気持ちを知らないし、知ろうともしない)
  • コミュニケーション力の欠如(言葉にしないで、自分の中で納めておけばよいことを言葉にしてしまう)
  • いじめの陰湿化(通常は普通に接しているのに、陰でこそこそいじめる ⇒ 陰湿化しているので周りが気づきにくい)
  • インターネット上のいじめ(ネット上でのいじめは周りから見えにくい)

<いじめが継続する理由>

1.相談できない

  • いじめられていると認めるのは負けを認めること
  • いじめられていると認めるのは恥ずかしいこと
  • 学校、先生は信用できない
  • 相談しても解決したことがない
  • 親を心配させたり、がっかりさせたくない

2.傍観者の存在

  • 告げ口をして、次のターゲットになることへの恐れ
  • 面倒な事に巻き込まれたくない
  • いじめている友人との関係性を壊したくないから注意できない
  • いじめに気づけない結果、傍観者になっている


●問題解決的アプローチ

生徒たちに、いじめ問題に対して問題解決的なアプローチで、取り組んで欲しいと願い、オランダとアメリカの子どもたちの問題解決事例を紹介しました。

 

<オランダのピースフルスクール>

日本のいじめ問題の状況は、1990年代初頭、いじめが大きな社会問題となったオランダの状況と似ています。大人の介入が逆効果だったことから、生徒全員に当事者として問題の解決に関わってもらい、学校全体の文化を民主的なものに改善していくためのプログラムが開発されました。このプログラムでは、いじめの構造を以下のように説明しています。

 

・いじめの構造いじめの構造

お互いが、からかいを楽しいと感じている間は、いじめではありません。しかし、からかわれている側が不快だと感じた時点で、遊びではなくなり、いじめの構造が生まれます(図)。いじめには、いじめている生徒に加わっていじめを拡大する‘加担者’といじめを見て見ぬふりをする‘傍観者’という存在があります。傍観者は、いじめに加担はしませんが、いじめを解決する手助けもしません。いじめがある環境が嫌だと感じつつも、いじめられている側を助けて、巻き込まれないように、傍観者となっているのです。そのため、それほど悪いことをしているという感覚がなく、集団圧力となっていじめを支えています。

 

・生徒による仲裁

このプログラムでは、喧嘩や問題が起きると、学校内の仲裁役のところに行き、大人の力を借りずに自分たちで問題を解決するという仕組みがあります。仲裁役を希望する生徒が自ら立候補し、クラスの承認を受けた後に、数回の研修を受けて、仲裁役としてスタートします。今回はサミットの参加者に、生徒自らが仲裁を行ない、問題を解決している動画を見てもらいました。

 

<システム思考による問題解決>

米国アリゾナ州のツーソンでは、3人の小学1年生がシステム思考を使って、校庭での喧嘩を分析していました。喧嘩は、相手に対するちょっとした悪口から始まりました。発した言葉が相手を傷つけ、傷ついた相手がさらにひどい言葉を返してきて、お互いの関係がどんどん悪化していったのです。子どもたちは、この関係性をシステム思考の自己強化型ループであると理解し、ループを断ち切る方法を考えました。たとえ、相手にひどいことを言われても、ひどい言葉で返さない(良い言葉で返す)ということで、悪循環のループを断ち切ることができることを、子どもたち自身が発見しました。

 

●現代のいじめのあいまいさ

いじめの実態を正しく理解した上でアクションプランを考えようということで、生徒たちはグループに分かれていじめの事例を洗い出しました。そこで、明らかになったのは、現代のいじめのあいまいさです。椅子に画びょうを置くとか、下駄箱の靴を隠すというような明らかないじめであれば、本人も周りもそれと気付き、誰かに相談することができます。でも、実際には、最初はいじめかどうかも気が付かないグレーゾーンのいじめが多いのが現実です。単なる不快な出来事が、いじめのような状況にまで発展してしまうのは、言いたいことを相手に面と向かって伝えることができないコミュニケーション力の不足が背景にあります。

 

 

●いじめ問題解決のためのアクションプラン

最後に、生徒たちが下村大臣に提出したアクションプランをご紹介させていただきます。

・いじめ討論会などイベント化して定期的な話し合いの場を持つ(全校で考え、解決、防止する)

・いじめ問題を解決する仲裁者育成プロジェクトを始める

・道徳や学活の時間を使い、いじめについての授業を設ける

・事例やいじめの構造を考えたり、みんなで話し合いの場を持つ

・意見箱を設置し、テーマを決めて投稿してもらい、それをもとにクラスで話し合う。結果をクラスの代表が報告し合う

・いじめについてのアンケートを取り、アンケートを基にクラスで話し合う。意見をまとめて集会や校内新聞で発表する

・悪いことは悪いと言える環境作りをする

・クラス、学校、地域でお互いのことをよく知る

アクションプランを見ていただければわかるように、ほとんどが先生や親に頼らず、自分たちの力でいじめ問題を解決しようとする意見です。自分たちで問題を解決するための仲裁者の導入や生徒同士の話し合いや交流を通じて、クラスや学校の雰囲気を改善しようする考え方は、まさにピースフルスクールの目指すところと一致しています。生徒同士が互いに敬意を持ち、独立心と責任感を持って安心して過ごせる学校こそがいじめ問題の解決につながるという確信を得ました。

 

 

 

保存

保存

子どもたちの未来とシチズンシップ教育

文部科学教育通信 No.324 2013-9-23に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る34をご紹介します。

 

先日、ビジネス社会に生きる方々を対象に、オランダのシチズンシップ教育についての講演を行いました。ビジネス社会の視点で、シチズンシップ教育をご紹介してみたいと思います。

 

ご紹介の機会をいただいたのは、KAE(山城経営研究所)が主催する実践経営大学です。山城経営研究所は、世界に通用する「日本経営学」の確立に情熱を注いできた山城章(一橋大学名誉教授)によって、1972年に創立されました。こちらの主催する「経営道フォーラム」に以前、参加させていただいたご縁で、講演の機会を頂戴いたしました。

 

いうまでもなく、ビジネスと教育には、強い関係があります。戦後、日本の経済復興を猛スピードで成功に導いた背景には、日本の教育の強さがありました。日本の教育は、工業化社会を支える質の高い画一的な人々を大量に生産することに成功し、有能な人々が、工場の品質を支えました。緻密で正確な情報処理能力を持つ日本人は、その勤勉さにおいても、世界に誇れる能力を持っていました。ビジネスと教育が一体となり、日本の高度経済成長を支えてきたのです。

 

ところが、今日、ビジネスと教育は、その一体感を失いました。時代の変化とともに、ビジネス社会が求めているものが変わり、日本企業の世界における役割が変わりました。豊かな社会に生きる個人においても、多様な生き方の選択肢が生まれました。もし、教育の真の目的が、「人生の準備をすること」であるならば、このような時代にこれまでと同様の教育を行うことが、間違いであることは明らかです。我々、大人たちは自分たちが受けてこなかった教育を、子どもたちに提供する必要があります。それが、21世紀に生きる子どもたちが、「人生の準備をすること」だからです。

 

子どもたちが生きる未来

子どもたちが生きる未来は、私たちが生きてきた時代とどのように違うのでしょうか。

 

第1に、難しい問題を解決しなければ、幸せを手に入れることができない時代になりました。地球温暖化をはじめとする環境問題は、20世紀を駆け上ってきた我々が、自然資本を我が物として活用してきた結果、生まれた課題です。そして、地球規模に広がった経済成長熱を誰も止めることができません。地球は、管財人なしに、子どもたちの未来をより難しくする方向に向かっています。

 

第2に、日本では、安全神話に支えられた原発が、前例のない事故に見舞われ、その当事者すら対処することができない状態にあります。国会事故調査報告書が作成された後も、基本となる透明性はあいまいで、本質的な問題解決は始まっていません。失敗を認めることができない日本の文化は、21世紀の学習能力の要と言われているリフレクション(内省)の力を有しておらず、日本の子どもたちは、リフレクションを学ぶ機会すらないのです。リフレクションができないことが、21世紀において致命的である理由は、100%正しい答えを見つけるまで行動できないか、失敗してあきらめるかのいずれかの選択肢しか持てないからです。勇気を持って行動し、行動の結果を振り返り、再び学び直して、目的に到達するという学習能力を持たない大人になるのです。

 

第3に、世界では、紛争が絶えません。20世紀は戦争の時代と言われ、21世紀は平和の時代になることを期待していましたが、紛争のなくなる兆しはありません。一方、インターネットの普及により世界が繋がり、経済活動のグローバル化が進展する中で、世界の移民の数は2億1千万人以上に膨れ上がりました。子どもたちは、自国の平和のみならず、世界の平和に貢献するという役割を果たすことが求められます。

 

第4に、WHOの調べによりますと、2000年に、世界全体の年間自殺者数は戦争犠牲者の2倍以上となっており、私たちの創り出した社会は、多くの人々にとって生きにくい状態になっています。今後、ますます激化するグローバル経済活動は、社会や家族、人々の人生に大きな影響を与えます。持続可能な経済成長と、心の平和を同時に実現する社会を創るという、新たな社会創りも、子どもたちの未来の仕事なのです。

 

現在、グローバル人材の育成において、英語力の向上がうたわれていますが、英語力と同時に、人々と対話を通して意思疎通し、アイディアを創造していくプロセスに参画する力が不可欠です。もちろん、このことは、日本語におけるディスカッションにおいても同様に必要な力です。

多様な人々と話し合いにより問題を解決する力がなければ、今日のほとんどの問題は解決することができません。地球の自然資本をどのように分け合うのか、原発事故から何を学ぶのか、エネルギー政策をどのように考えるのか、紛争ではなく平和にどのように導くのか、国内に広がる富の格差にどう対処するのか、経済の発展と子どもたちと未来の幸福をどうすれば共に実現できるのか。

 

まだまだリストを増やすことができますが、このような時代だからこそ、日本の子どもたちにも「地球市民として生きる」教育を届けたいという強い衝動に駆られ、オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」を日本語化し、世の中に広める活動をしています。

 

オランダの「ピースフルスクール」

オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」では、小学校5、6年生が仲裁役として喧嘩の仲裁ができるまでに成長します。仲裁役の子どもたちの様子を見ると、その成熟した様子に、自分が恥ずかしくなるほどです。仲裁役には、以下のような力がしっかりと身についていました。

  • 主体的にそこに立つことができる
  • 客観的に、自分自身を見つめることができる
  • 自分の感情をコントロールすることができる
  • 他者の気持ちを理解することができる
  • 他者の気持ちに共感することができる

 

このような力を身につけた仲裁役は、温かく、冷静に、包容力を持ち、喧嘩で感情のコントロール能力を失っている子どもたちの間に立ち、当事者同士が、喧嘩の問題解決を進めるプロセスを支援することができます。

 

小学6年生では、世界で起きている紛争について学びます。紛争も結局は、3つの理由が原因で起きています。1つは、価値観の違い、2つ目は、不足しているものの取り合い、3つ目は、相手への迷惑。 その対応策にも3つあることを学びます。第1は攻撃する、第2は交渉する、第3は譲歩する、です。 小学校1年生の時から、子どもたちは、赤い帽子(攻撃)、青い帽子(言いなり)、黄色い帽子(話し合い)という対立への3つの対処方法の違いを学び、黄色い帽子で対処する練習を繰り返します。子どもたちが、「子どもたちの社会」である学校において、話し合いで紛争の解決をするという経験とスキルを習得することで、将来、話し合いにより対立を解決することができる大人へと成長する、という確信を持ち、教育に取り組んでいます。このような力を持って初めて、学習した知識が問題解決に活かされるのです。これが、21世紀を幸せに生きるための「人生の準備」となる教育の一つであると確信しています。

 

2013年の先進国における子どもの幸福度を調査したレポート*1で、オランダは2007年に引き続き、子どもの幸福度が総合1位であると評価されました。オランダの子どもたちが幸せであることの一つは、大人たちが、子どもの未来に必要な「人生の準備」をする教育を考えていることだと思います。

 

日本の教育改革の最重要課題

子どもたちは、大人以上に、学びの達人です。日本では、子どもたちの学ぶ意欲の低下が問題であると言われていますが、それは、子どもたちの問題ではなく、学びを提供する大人側の問題です。自分にとって本当の学びを得る機会をもつことができれば、子どもたちの学ぶ意欲はすぐに目を覚ますでしょう。21世紀という時代を見つめ、子どもたちに本当に必要な学びは何かについて、社会における合意形成を確立することが、今、日本の教育改革において最も重要な課題であると思います。

 

*1 UNICEF 「Child well-being in rich countries」 Report Card11(2013)

フューチャー オブ ラーニング 2013

文部科学教育通信 No.323 2013-9-9に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る33をご紹介します。

本年も7月30日~8月2日までハーバード教育大学院で開催されたフューチャー・オブ・ラーニング(学習の未来)研究会に参加して参りました。このプログラムは子どもたちが21世紀を幸せに生きるために何を、どこで、どのように学ぶべきかを検討する場として、2010年から毎夏、開催されており、本年度は4度目の開催となります。教育界における世界の最新トレンドが紹介されるとともに、ワークショップでは学校長、現職の教員、教育関係者を中心に活発な意見交換が行われました。本年度の参加者146名のうち84名がアメリカ国内からの参加者ですが、初年度に比べて海外からの参加者の割合が増加しています。今年度の特徴として、カナダ、オーストラリアなどの常連国に加えて、アルゼンチン、コロンビア、チリなどの中南米諸国からの参加が増加したこと、エチオピア、エジプト、セネガルなどのアフリカ諸国からの参加者があったことが挙げられます。また、参加者の内訳として、学校関係以外の教育機関や一般企業、心理学者等の割合が増加しており、学習のイノベーションへの取り組みが欧米のみならず、世界レベルで広がっていることを実感致しました。本年度の研究会も昨年同様、学習の未来に大きく影響を及ぼす 1.脳科学の発達、2.技術革命、3.グローバル化の3大テーマを中心にプログラムが組み立てられていました。

 

今回はグローバル化についてのテーマについてご紹介させていただきます。

 

●多様性の尊重と共生

移民が増えるグローバル社会において、違いをどのように定義するか、違いにどう対処するのかが学校教育において大きなテーマになっています。2011年には欧米の多くの国々で、移民の割合が人口の10%以上に達し、その割合は今もなお増加傾向です。異なった宗教、文化、価値観を持つ人々を尊重し、どのように共存していくかが今回のフーチャー・オブ・ラーニングの大きなテーマでした。

 

グローバル化と多様性の問題を考える時、以下の3つの問いが基本の設問になります。

 

  • グローバル化は、人々の自分自身や他人に対する見方にどのような影響を与えるか?
  • 人々の間のどのような多様性が民主主義において問題になるだろうか?
  • 人々の多様性を尊重しながら国家への帰属意識を創り出すために、国家は何をすればよいか?

 

一口に多様性と言っても、国や地域により問題とされる多様性の側面が異なります。また、多様性に対する考えは時代とともに変化し、20世紀の多様性の問題は、人種差別と性差別の問題に焦点が当てられてきましたが、近年は宗教が絡んだ人々の多様性が問題になっています。未知の宗教に対する無知や誤解が恐れを生み、宗教絡みの多様性の問題を取り扱うのは簡単ではありません。多くの場所で宗教に関する論議が移民の問題と混同され、あいまいになっています。

 

●フランスの「スカーフ法」

学校における移民と宗教の問題を考える代表的な例としてフランスの「スカーフ法」がとりあげられました。

フランスでは、2004年に公立学校において、イスラム教徒の生徒がヘッドスカーフを着用して登校することを禁ずる法律が公布され、法案の是非がフランス内外で論議を呼びました。この法案はイスラム教徒を特定して差別しているのではありませんが、法案を支持する人々は、「信仰は個人の問題であり、公共の場所である学校に宗教を持ち込むべきではない」と主張しています。一方で、新たに移住してきたイスラム教徒は自分の意思でヘッドスカーフ着用を望む生徒も多くいて、「人権無視!」と強く反発し、デモを起こして抗議しています。「目を覆うベールは頭を覆うベールよりも危険である」というプラカードを持ち、3色旗で作ったヘッドスカーフを頭に巻いてデモ行進するイスラム教徒の女性の写真が紹介されました。教師の中には少数ながら、法案反対派もおり、「これはイスラム教徒への人種差別ではないか、かぶりたいと自分から望む生徒を犠牲にするのか」と疑問を投げかけています。フランスの大多数の教師、教員組合が法案の推進派ですが、この背景には、フランス革命以来、200年間に亘るフランスの国是である宗教と社会の分離という原則があります。

「スカーフ法」の論争はフランス固有のものでしょうか。多様性というテーマを考える時に普遍的なことは何でしょう?この論争をディスカッションのテーマとして学校で取り上げる時に伴う時にどのようなことを考えさせる良い機会となりますか。逆に、危険性はないでしょうか。このテーマを取り扱う時にどんなスキルや情報が必要になると思いますか。

 

●グローバル人材の育成:ロス・インスティテュート

国、団体、学校レベルでグローバル人材育成の様々な試みが行われています。日本でも文部科学省が昨年度から、グローバルな舞台に積極的に挑戦し、活躍できる人材の育成のためにグローバル人材育成推進事業に取り組んでいます。

グローバル人材を育てる1つの先進的な事例としてスウェーデンのROSS Institute*1(ロス・インスティテュート)の例が紹介されました。ロス・インスティテュートは、21世紀を生きる子どもたちが新しいグローバル社会で成功するために必要なスキル・価値観・考え方を提供することを使命としています。スウェーデン・北米にグローバル人材育成のための学校を経営し、最新のリサーチ及び研修に基づいた21世紀型スキルの学習カリキュラムを子どもたちに提供しています。子どもたちは、クリティカルな思考力、創造力、異文化の尊重、グローバルな視点、リーダーシップ力、効果的な技術運用力、健康な生活、生涯学習能力を身に付け、グローバル社会の一員としての自覚を持ち、学校を巣立っていきます。また、ロス・インスティテュートは学校で実践している21世紀型学習カリキュラムを導入したいと考えている学校や自治体に対してコンサルティングを行ない、ロス・モデルの普及に励んでいます。

 

ロス・インスティテュートでは、グローバル人材育成のカリキュラムを作成するに当たり、以下の3つの点を念頭に置いています。1.グローバルコンピテンスとは何か?2.グローバルなシチズンシップをどう定義するか?3.グローバルコンピテンスとグローバルなシチズンシップを育む環境をどう作っていくか?

グローバルなシチズンシップを育むためには、グローバルな自己を認識することが大切です。グローバルな自己を認識するためには、図1のように、他者のいろいろな考えや価値観に触れて、わが身を振り返りながら自分について再び考え直すプロセス、そして、再び、エンパシー(共感力)や文化的な感受性を用いて、別の他者を理解するというサイクルが必要になってきます。自分と他者の文化やアイデンティティを考えながら、自分はどう生きるべきか?ということを見つめ直すプロセスの中にグローバルな自己認識を育てる鍵があります。

 

グローバル化が、かつてない勢いで進む中、個人のアイデンティティの追及と、多様性が共存する社会の実現、そして国家としての人材育成のあり方をどのように変えていくべきか、世界中の国々で、新たな挑戦が始まっています。我が国でも、グローバル人材育成のさまざまな取り組みが推進されています。国により、優先課題は異なりますが、世界の取り組みにも学ぶ点がたくさんあることを確信しました。

 

*1 ROSS Institute: http://rossinstitute.org/#/Resources/Adopt-the-Ross-Model/Consulting

ティーチ・フォー・ジャパン フェロー研修

文部科学教育通信 No.322 2013-8-26に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る32をご紹介します。

 

先日、NPO法人ティーチ・フォー・ジャパンのネクスト・ティーチャー・プログラムで、2年間教師として国内の小・中・高に赴任しているフェローを対象とした研修を実施しました。現場で日々児童・生徒と向き合うフェローが、どのような理想を掲げ、どのような課題に挑戦しているのかをご紹介します。

 

●NPO法人ティーチ・フォー・ジャパンについて

ティーチ・フォー・ジャパンは、リーダーシップを備えた優れた教師を育成・輩出することで、すべての子ども達が、「夢中になれる力」「考える力」「チームで達成する力」などを身につけ、正解がない中で、新しい時代を切り拓くことのできる教育を目指しています。

その目標を達成するためにティーチ・フォー・ジャパンが大切にしているマインドセットは、革新的であること、学習者であること、お互いを尊重すること、可能性を信じることです。

 

●ネクスト・ティーチャー・プログラムについて

ティーチ・フォー・ジャパンのプログラム「ネクスト・ティーチャー・プログラム」は、成長意欲が高く、熱意のある若者を、フェロー(教師)として育成しています。

フェローは、様々な事情で十分な教育が受けられない児童・生徒と向き合い、指導を通して児童・生徒を導くために、国内の小・中・高に2年間赴任します。

彼らは、児童・生徒に高い期待を抱き、大きな理想を掲げます。その理想を実現するために、日々現実とのギャップを埋めるべく学習し、課題を解決し続けます。時に問題にぶつかることもありますが、諦めてしまうのではなく、児童・生徒のために何ができるのか、どうしたら少しでも理想に近づくことができるのかを、常に考えて行動します。

 

今回は、今年度からフェローとして活躍している教師達の研修の様子をお伝えします。

 

7月後半の暑い日、日本全国の学校で児童・生徒と向き合っているティーチ・フォー・ジャパンのフェローが集まりました。

このように定期的にフェローが集まる理由は、自分の立てた目標や、良いと思って実行していることが、本当に児童・生徒のためになっているのかを、フェロー同士の意見交換を通じて客観的に判断するためです。日々リフレクションをし、課題解決にチャレンジしていても、一人では思いこみや先入観を払拭することが困難ですが、こうして同じ目標に向かっている者同士でリフレクションをすると、より多くのことに気づくのです。また、異なった赴任先の仲間から違った視点での意見をもらえる利点もあります。

 

リフレクションの流れは、

  • 現在、自分が理想としている「自分」「児童・生徒」「同僚」「学校システム」のあり方は何か
  • 1学期を振り返り、現状や自分が抱えている課題は何か
  • ②で挙げた課題を解決するためには、何ができるか

です。

それぞれの過程で、フェローがどのようなことを考え、話し合っていたのかを共有します。

 

●「自分」「児童・生徒」「同僚」「学校システム」の理想的な状態は?

まずフェローは、「自分」「児童・生徒」「同僚」「学校システム」の理想的な状態を洗い出しました。

この時、必ず「自分」に関することから考えはじめます。現状がうまくいっていない場合、「周りの人」や「環境」に関することを考えてしまうことが多いのですが、まずは「自分」についてリフレクションしていきます。

「自分」についての理想状態として、

  • 課題解決思考の持てる自分
  • 生徒の話を受けとめられる自分
  • 明確な目標と評価軸を立てられる自分

といった意見があがりました。

「日々の業務に追われ、目標や目的を見失いそうになったこともあるが、理想状態と現実のギャップを認識し、そのギャップを埋めるために今何をすべきか、常に考えて行動した」というフェローもいました。

「児童・生徒」の理想的な状態として、

  • 主体的に学ぶことができる
  • 疑問を持ち、それを伝えることができる
  • 目標をもって、努力することができる
  • 成功体験を積むことができる

といった意見があがりました。

フェロー全員が、児童・生徒としっかり向き合っているからこそ出てくる意見が多かったように思います。

「同僚」に関しては、

  • 教師同士がフィードバックし合える関係
  • 教師全員が生徒の可能性を信じている
  • 安心・安全な学校づくりに励んでいる

といった意見があがりました。

教師全員がチームとなって、一人ひとりがリーダーシップを発揮することの重要性と、その実現の難しさを感じているフェローもいました。

「学校システム」の理想として、

  • 納得感のある教員研修
  • メンター制度の導入
  • 外部フィードバック制度の導入
  • 改善案を伝えることのできる公開授業

といった意見があがりました。

多くのフェローが、学校全体の児童・生徒に対する影響力を知り、どのようにしたら学校が全ての児童・生徒をサポートできるのかを考えていました。

 

●現実をクリティカルに評価し、振り返るDSC00420.JPG

理想状態を洗い出した後は、現実を見つめ直す時間をもちました。

フェローは、静かに一学期の自分や児童・生徒、周囲のことを振り返りました。

学校に入る前、どのような期待と希望を抱いていたのか。4月に初めて学校に入った時、何を見て、何を感じ、何を考えたのか。目標設定は正しかったのか。その目標を実現するために、何を行ったのか。実行したことは、本当に児童・生徒のためになっているのか。目標や理想とのギャップはどのようなものか。問題を解決するために、何ができたのか。                                      

「自分が期待していた2割ぐらいしか、生徒が 勉強できていない現実を目の当たりにした。  自信を失い、学ぶ好奇心がなく、目の前の短絡的な楽しみに向かってしまう生徒と向き合い、自分に何ができるのかと、毎日考えた。」

「8割はとれると思い作ったテストの平均点が、2割を下回り、自分が生徒のことをしっかりと理解できていなかったことに気付いた。」

「生徒達に、のびのびと学習してほしいと願っているのに、厳しく叱ってしまい、教室の空気を委縮させてしまったことがあった。教師のもつ影響力の大きさを思い知った。」

といったフェローの話を聞きました。

フェローは、理想を実現するために自分が実行していることを改めて見つめ直し、本当にそれが正しいのか、どのような効果が出ているのかを、振り返りました。

 

●同じ志をもった仲間と打ち手について話し合う

理想と現実を振り返った後は、フェロー同士ペアになり、課題を克服する適切な方法を探りました。異なる学校に勤務しているフェローですが、児童・生徒のことを思う心は皆同じです。

ある高校で指導しているフェローの話がありました。彼女は、どの生徒にも同じように高い期待をもち、しっかりと向き合うことが大切だと考えています。そのため、全ての生徒に対して同じように接していたところ、彼女の予想通りうまくいく生徒と、なかなか思っていたような成果が出ない生徒がいたと言います。なぜうまくいかないのかをリフレクションしていく中で、長期的には、彼女の掲げている目標や大事にしている価値観は間違っていないが、短期的に生徒と関わるという点において、全ての生徒に対して同じように接するのではなく、生徒ごとに効果的なアプローチの仕方があることに気づきました。その後、彼女は生徒を思い浮かべながら、それぞれに効果があるアプローチの案を出していました。

 

リフレクションを通して、目標を再確認し、現実をしっかりと見つめ、今行っている指導が本当に効果的かどうかを検証している教師を見て、教師が学習者であることが大切だということを、再認識しました。児童・生徒と向き合う教師が学び続けることで、より良い教育を児童・生徒に届けることができる、と私たちは考えています。

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