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大人の共感する心

2017.7.10 文部科学教育通信掲載

今年も、品川女子学院でリーダーシップ講座が始まりました。今年は、国連の持続可能開発目標(SDGs)とリーダーシップを組み合わせたプログラムを実施します。2015年にスタートしたSDGsのゴールは、2030年です。現在、高校生の皆さんも、社会人としてそのゴールの達成に寄与することを願っています。残念ながら、SDGsは日本の高校生にはまだ知られていないのが現状ですが、このクラスを通して、世界とともに社会問題を解決する意識を持っていただければと思います。

SDGsの理念は、「誰も置き去りにしない」というものです。環境のみならず、貧困も大きなテーマです。また、途上国だけを対象とした目標ではなく、先進国の課題にも目を向けています。日本においても、子どもの貧困が最近盛んに議論されるようになりました。SDGsの目標達成とともに、日本でも、子どもの貧困がなくなることを願っています。

社会起業家という言葉の生みの親といわれているアショカの創立者ビルドレイトンは、大学生のときにインドに行き、言葉にできない貧困の存在を知ったことが、今日の活動の原点だといいます。大学生の自分には到底解決できない大きな問題であると認識したビルは、その後、ハーバード大学を卒業し、マッキンゼーに勤め、力を蓄えます。そして、アショカを立ち上げ、現在では、3000人を超える世界の社会起業家をネットワークし、社会起業家の問題解決を支援しています。世界のネットワークがあることにより、同じ課題に対しても、様々な課題解決のアプローチが共有され、相互に学びあうことが可能となります。そのネットワークを活かしアショカは、世界中の社会問題の解決を促進することができます。

歴史に学ぶビルは、社会課題を俯瞰し、未来を予言します。1980年代には誰もがチェンジメーカーになれる時代を予言し、今日は、新たな市民セクターが生まれる時代だといいます。これまで、私たちが普通であると考えていた営利・非営利や、政府・非政府という考え方から、SDGsが示すような善い未来を創るために存在するか、社会課題を生み出し続ける存在であり続けるのかに組織も2分されていくといいます。すでに、ユニリーバのように、事業の成長と、10億人の貧困問題の解決を同時に実現する事業計画を持つ会社が生まれており、まさに、新たな市民セクターのモデルを示しています。

品川女子学院でのリーダーシップ講座には、生徒の皆さんが、チェンジメーカーであり、新たに生まれつつある市民セクターに参画する人であって欲しいという願いを込めています。

ビルドレイトンは、チェンジメーカーになくてはならないのが、共感力といいます。自分とは異なる人が置かれている状況を自分事のように感じることができ、真の課題を捉えることができなければ、よいチェンジを起こすことができないからです。高校生は、感受性が高く、大人よりも共感力も高いと感じます。リーダーシップに必要なことは様々ありますが、本プログラムではその根っことなる共感力に意識を向けて欲しいと思います。

日本の子どもの貧困の原因のひとつが、私たち大人の共感力欠如だと考えています。

日本の子どもたちの6人に1人が貧困といわれていますが、その子達のほとんどが、学校に行っています。インドやアフリカなどの話を聞くと、貧しい子どもたちが学校に来ないことが課題だといいます。教育に対する知識が親にもなく、その必要性をまったく感じないというのです。アフリカでは、給食を食べることを目的に学校に来てもらう取り組みがあるといいます。あるインドの社会起業家は、鉄道の駅のホームで授業を始めたという話も聞きました。子どもたちが学校に来てくれないので、子どもたちが集まる場所で授業をやろうと考えたそうです。しかし、日本の場合、貧しい子どもたちも学校に行くのです。ところが、貧しい子どもたちの多くは、学校の授業についていくことができず、落ちこぼれていきます。ベネッセ教育研究所の調査によると、15%の子どもは授業が難しく理解できないといいます。教室には、塾に通う子どもたちもいて、13.4%の子どもたちは、授業が簡単すぎると感じているそうです。そんな中で、小学校の6年間を過ごし、学力が不足しているまま中学生にはり、3年間の中学生活を終えると、多くの場合、彼らは定時制高校に行き、義務教育ではない高校を中退するというのが一般的なルートのようです。このような事実を私が知ったのは、今から、6年前です。ラーニングフォーオールというNPO活動を通して、子どもたちの現実を知りました。ラーニングフォーオールは、困難な状況にある中学生の学力向上の支援を行っていますが、子どもたちの多くは、小学校の勉強をやり直さなければならない状況です。同時に、小学校6年間の生活の中で、勉強に対する苦手意識を確立しており、勉強に向かう心を育むところから始めなければなりません。この現実を始めて見たときに、私たち大人はなんて残酷なことをしているのかと思いました。大人を信じて、学校に6年間通い、その結果、自己肯定感も自己効力感も持てない状態に追い込んでいるのです。子どもの貧困対策として放課後に勉強を教えることを国も押し進めていますが、一方、彼らは、学校では落ちこぼれとして処理されているのです。原点に戻って、学校の授業が、一人ひとりの学力の向上、自己肯定感や自己効力感の向上につながるものにできないでないものでしょうか。「お前は、役に立たない」と毎日会社で言われ続けて、6年間、大人は耐えられるのでしょうか。子どもだって我慢しているのです。そこに大人が甘えていてはいけないと思います。そして何よりも悲しいのは、こうした子どもたちが自立する力を持たないまま成人することです。彼らが社会保障の対象になると批判の目が当人に向けられます。勉強しなかったのだからしかたないと、すべてを自己責任かのように扱われることはとても悲しいことです。もっと、子どもたちの現実を知り、彼らの立場を理解することができれば、問題解決のアプローチも変わるのではないかと思います。SDGsが日本で広まると同時に、大人の共感する力が高まっていくことを願っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京学芸大学 ピースフルスクール

2017.06.26 文部科学教育通信掲載

東京学芸大学のカリキュラムデザイン基礎にて、ピースフルスクールプログラムをご紹介させていただく機会を頂戴致しました。

道徳の学習内容との共通点

ピースフルスクールは、オランダで生まれ現在800校の幼稚園・小学校に導入されているシチズンシップ教育です。多様な人々が共生する民主的な社会を実現する人になることを目指すピースフルスクールの学習内容を、道徳の学習内容に照らしてみると多くの共通点があることが解ります。道徳の教育内容は、大きく4つの要素に分かれています。A主として自分自身に関すること、B主として人との関わりに関すること、C主として集団や社会との関わりに関すること、D主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関することの中で、Dに含まれる自然愛護のみピースフルスクールが扱っていない項目です。このため、ピースフルスクールを、次期学習指導要領で始まる道徳の教科化における実践的プログラムとして位置づけていただけるのではないかと思います。

主体的・対話的で深い学びの実践

ピースフルスクールプログラムは、授業で知識や技能を習得し、学校生活の中での実践を通して、思考力、判断力、表現力を磨き、自らの意志で民主的な社会に貢献する人になることを目指すカリキュラムデザインになっています。このため、次期学習指導要領が求める主体的・対話的で深い学びを実践できるプログラムであると言えます。多面的・多角的に深く考えたり、議論したりする道徳教育の充実を狙いとした道徳の教科化に当たり先生の負担の増加が懸念される中、ピースフルスクールプログラムが、先生の負担を軽減ことに貢献できれば幸いです。

ウィギンズの理解の6側面

東京学芸大学での特別講義を実施するにあたりご指導いただきました成田喜一郎先生から、ウィギンズの提唱する理解の6側面について教えて頂きました。

【理解の6側面】

1.説明  現象、事実、データについて、一般化や原理を媒介として、正当化された体系的な説明を提供する。洞察に富んだ関連づけを行い、啓発するような実例や例証を提供する。

2.解釈  意味のある物語を語る。適切な言い換えをする。観念や出来事についての深奥を明らかにするような、歴史的次元または個人的次元を提示する。イメージ、逸話、アナロジー、モデルを用いて、理解の対象を個人的なものにしたり、近づきやすいものにしたりする。

3.応用  多様な、またリアルな文脈において、私たちが知っている事を効果的に活用し、適応させる。

4.パースペクティブ           批判的な目や耳を用いて、複数の視点から見たり聞いたりする。全体像を見る。

5.共感  他の人が奇妙だ、異質だ、またはありそうもないと思うようなものに価値観を見出す。先行する直接経験にもとづいて、敏感に知覚する。

6.自己認識      メタ認知的な自覚を示す。私たち自身の理解を形づくりも妨げもするような個人的なスタイル、偏見、投影、知性の習慣を知覚する。自分は何を理解していないのかに気づく。学習と経験の意味について省察する。

(引用:「理解をもたらすカリキュラム設計」 G.ウィギンズ/J.マクタイ著)

次期学習指導要領が期待する主体的・対話的で深い学びを理解する上で、とても重要な理論であることが解ります。

自己認識のための学び

ピースフルスクールプログラムでは、授業で学んだことを実社会で実践し、自己内省を通して学びを自分事化して行きます。子どもたち一人ひとりが、民主的な学校社会を形成するために貢献し、共に文化を創り上げることにより、授業での学びを、子どもたちが自らの生き方に繋げていくプログラムとなっています。ウィギンズの理解の6側面における自己認識を目指すプログラムであると言えます。

自立と共生を学ぶプログラムにおいて、自己認識に到達するために大切なことは、一人ひとりが授業での学びを実践し、みんなで取り組むことです。そのために、先生も理念レベルでプログラムの目指す世界に共感し、子どもたちの実践を見守ることが大切になります。それは、別の言い方をすれば、先生も実践者となることが求められるということです。本プログラムを日本で実施してくださっている武雄市武内小学校の先生たちからは、子どもたちに怒りの温度計の授業を行ってからは、先生たち同士でも、「怒りの温度計が上がっているよ」などと声かけをするようになったというお話を伺いました。このように、生徒に求めることを、先生も実施するということが、自己認識レベルの学びにおいてとても大切な事なのだと思います。

子どもたちは、授業の中だけで学ぶのではなく学校生活のすべてに学び、学校の外での子どもたち同士の付き合いや、家庭での対話からも学ぶことになります。このため、家庭と学校の連携も重要ということになります。子どもたちに関わる大人たちが、先生も親も、地域の人も一緒に取り組むことで、子どもたちの学びはより深いものになるはずです。その意味で、次期学習指導要領の目指す教育を実現するために、学校や先生だけに任せるのではなく、社会が協力することがとても大切な事だと感じます。

ピースフルスクールプログラムでは、小学校5、6年生が、学校中のけんかの仲介を行います。子どもたちは、民主的な社会には対立があることが当たり前だけれども、それをけんかに発展させることは間違っていることを学んでいます。そして、対立は話し合いにより問題を解決する責任が一人ひとりにあることを学んでいます。この学びが自分事化しているオランダの子どもたちの多くは家庭で夫婦喧嘩を目撃すると、「仲介しましょうか」と親に申し出るそうです。こうして、親が今度は子どもから話し合いの大切さを学ぶという相互学習の機会も生まれています。

 

 

 

 

 

いじめの構造から学ぶ

ピースフルスクールのいじめに関する授業もとても興味深いです。まず、はじめにからかいについて学びます。友達をからかい、ふざけることは日本同様オランダでもよくあることのようです。このからかいは、最初のうちは楽しいのに、やがて、からかわれている方が楽しくないと感じると、そこが境界線となりいじめに発展するというのです。しかし、からかっている方は楽しいので、止める理由はありません。だから、不快に思ったら、「もう楽しくないので、止めて欲しい」と伝えることや、そう伝えられたら、楽しくてもからかいを止めることを授業で学びます。次に傍観者の存在についても学びます。いじめにおいて、傍観者が重要な役割を果たすことを知ります。そして、いじめを発見したら、問題を解決するために行動することが大事だと学びます。同時に、集団圧力というものを学び、みんなが傍観している時に、いじめを止めるためにアクションを取る事はとても勇気がいることだということを教わります。こうした学びは、日々の生活の中で起きる出来事の中で、自分や他者の立ち振る舞いを振り返る際に役立ちます。

ピースフルスクールのカリキュラムデザイン/マネジメントが、次期学習指導要領における授業実践に活かされることで、先生の負担が軽減されることを心から願っています。

 

学習する組織だけが生き残る

2017.6.17 文部科学教育通信掲載

2008年に出版した本「チーム・ダーウィン 学習する組織だけが生き残る」に込めた思いは今も変わらない。優秀な人材の宝庫である大企業がなぜ課題解決に向かわないのか、その原因が教育にあるのではないかという仮説を持ち教育の世界に入った。大人が変わらない限り教育は変わらないというのが、その結論だった。今回は、今も変わらないチーム・ダーウィンを執筆した当時の思いを共有したい。

【2008年当時の思い】

企業変革は90%失敗する

学習する組織におけるラーニングとは、ありたい姿と現状のギャップを明らかにし、そのギャップを埋めることをいう。企業変革への取り組みは、まず、ありたい姿を描くことから始まる。たとえば、企業が市場の変化に直面したとき、どうするか。市場のニーズや競合の動きを正しく分析し、進むべき方向性や戦略が構築されると、その実現は組織に委ねられる。ところが、新しい取り組みは、100%といっていいほど従来とは異なる思考や行動様式を組織に要求する。そのため、多くの企業はこの変化に適応できず、変革への取り組みは暗礁に乗り上げる。一方、学習する組織は、変化の要請に応えることができる。ありたい姿を実現するために変化に適応することを、学習する組織では〈学習〉と定義しているからだ。学習する組織の特性を備えている企業だけが、企業変革を成功に導くことができる。

欧米において、企業変革が盛んに行われるようなったのは1980年代である。その背景には、技術革新や熾烈なグローバル競争といった経営環境の変化があった。多くの企業は、競争優位性を維持するために、企業変革への取り組みを開始する。だが、その成功率は10%と言われており、90%の企業の取り組みは失敗する。こうした状況で、〈学習する組織〉の考え方を導入し、企業変革を成功に導いた代表例がGEである。

ウェルチが放った爆弾

GEの企業変革は、ジャック・ウェルチがCEOに就任した1981年にスタートした。当時のGEは、40万人の従業員を抱え、売上272億ドル、利益16億ドル、ROE18%の優良企業だった。だが、ウェルチは、現状に甘んじなかった。なかでも、GEの看板である家電製品事業は、グローバル競争の波にさらされ、競争力を持続することが困難な状況にあった。

そこで、ウェルチは、「各事業において、その業界でナンバーワンかナンンバーツーの企業にならなければ撤退する」というビジョンを打ち出し、事業再編をスタートさせた。まず、200以上の事業の売却を進めた。GEの看板とされていた家電製品事業の売却は大きな反発を呼び、ウェルチは、中性子爆弾にたとえられ、ニュートロン・ジャックと呼ばれるようになった。

このころからウェルチは、官僚的な社員の思考や行動様式を排除し、GEを柔軟かつスピーディに変化に適応できる組織に変えようと決意する。そして、さまざまな取り組みが開始された。戦略計画策定プロセスを簡素化し、戦略計画スタッフを半分に削減し、ワークアウトやベストプラクティスなどの新しいツールを導入した。また、人材育成についても、クロトンビルのリーダーシップ開発研究所で、学習する組織のリーダー育成が始まった。

リーダーを量産するリーダー

知的創造社会(進化・学習する組織)が求めるリーダーは、「一人ひとりに内在する動機の源泉を活かし」「参加意欲や学習能力を高め」「共有ビジョンを軸に強い連携を築き」「共有ビジョンを達成する組織を作る」人である。一人のカリスマ的なリーダーあるいは一人の偉大な戦略家の号令だけで動く組織を作ることではない。

クロトンビルのリーダーシップ開発研究所長を務めたミシガン大学のノエル・M・ティシー教授は、成長する企業には、リーダーが次々と生み出される仕組みがあると言い、この仕組みを、リーダーシップ・エンジンと名づけた。

ウェルチは、そのカリスマ的なリーダーシップによって評価されることも多いが、むしろ、リーダーシップ開発研究所を核に、次々と有能なリーダーを生み出すリーダーシップ・エンジンを 作り上げたことに注目したい。ウェルチの〈ナンバーワン・ナンンバーツー戦略〉は功を奏し、1998年にGEは、売上1,000億ドル、利益92億ドル、ROE25%の企業へと成長した。時価総額は、CEO就任当初の約8.5倍となった。

 

大きな壁を前にして

日本における企業変革への取り組みは、1990年代にスタートする。当時の企業変革は、リストラを連想させる言葉として、ネガティブに捉えられていた。また、リーダーについても、カリスマ的な存在という定義づけが主流であったため、多くの人々が自分はリーダーではないと考えていた。リーダーシップとは後天的に育てられるものではないという固定観念も根強かった。とはいえ、90年代の日本は、ようやくMBAの講座が企業研修の一貫として普及しはじめた時期で、企業変革が思うように進まなかったのも仕方のない話かもしれない。

人が変わらなければ会社も変わらない

2000年、私は、GEのリーダーシップ開発プログラムの開発チームに参画したアレックス・グリムシャウ氏と出会い、「学習する組織」の考え方を学んで、長年にわたる謎が解けた。企業変革を成功させるには、変化を受け入れる企業風土を作る必要がある。すなわち、「学習する組織」を確立する必要があるのだ。そのためには、リーダー自らが、学習者であることが求められる。リーダーには、ビジョンを持ち、未来と現状のギャップを埋めるために、自ら学習者となって行動することが求められる。

ウェルチは、自らが学習者であり、組織にも学習者であることを求めた。そして、学習する企業文化を構築する第一歩として、まず150人を選抜し、一年間かけて学習するリーダーを作り上げた。ロールモデルとなるリーダーが存在しなければ、学習を企業文化にすることが不可能であることを、ウェルチは身をもって理解していたからだ。

「学習する組織」が地球を変える

2008年4月13日にオマーンで開かれた第三回「〈組織学習協会(SoL)〉の世界フォーラム」に参加する機会があった。今回のテーマは、「文化の亀裂を学習で乗り越える」である。グローバルに存在するキャズムを解決するために、組織学習をどう生かすかについて、活発な議論がなされた。

このように、組織学習は、もはや企業の存続のためだけでなく、地球の存続のために、営利団体、非営利団体、政府機関、教育機関、コミュニティなど多様な組織が、対話(ダイアローグ)により相互理解を深め、システム思考を生かし、問題解決を促すことを狙いとしている。組織学習の手法を、社会的なキャズムに応用して成功した代表例が、1992年のモン・フルール・シナリオである。モン・フルール・シナリオは、南アフリカの対立する立場のリーダーたちが、ロイヤル・ダッチ・シェルのシナリオライティング手法を活用し作成したシナリオで、南アフリカの流血なき民主化への道筋を作ったといわれている。

モン・フルールの成功は、キャズムに直面している多くの人々に勇気を与え、世界中の対立や紛争の解決や、地球の存続という複雑な問題に対しても、多くの人々が組織学習の手法を活用しはじめている。

【2017年現在の思い】

夢は、日本が学習する国になること。学校も、企業も、社会も、時代の要請に基づき柔軟に変できる国、多様な人たちが恊働して善い未来を創る国、短期・中期・長期の視点で判断し、変化の中で不遇な状況に陥る人を互助する国となること。そのために、微力ながら活動を続けます。

 

ニッポンの学ぶ力

2017.5.27 文部科学教育通信掲載

昨年より、ニッポンの学ぶ力を変える活動に取り組んでいます。21世紀は、誰もが善い未来を創造する力をもち、イノベーターやチェンジメーカーになることが許される時代です。テクノロジー革新が進み、人類が国境を越えて地球課題の解決に取り組むことができる前例のない時代です。その環境を活かすために、私たち大人も変わることが求められています。

企業と教育のエコシステムをつくる

21世紀を生きる子どもたちに必要な力は、2002年にOECDがキーコンピテンシーとして世界に発信しています。21世紀未来研究所では、キーコンピテンシーの中でも、特に日本の教育に欠落している3つの力に焦点をあてワークショップを実施しています。自分を知る力、多様性を包摂する力、前例を踏襲しない学力の3つの力は、誰もがイノベーターになるために必須の力になります。また、言うまでもなく、この力は子どもだけでなく21世紀に生きる大人も身に付けておくことが大切な力です。

ニッポンの学ぶ力を変えるために私たちが最初に対象と考えたのは企業です。企業で働く多くの人たちは親なので、親を通して子どもたちに学ぶ力を届けてもらおうと考えました。また、子どもたちは、文化の中で育つので、親がロールモデルとなることが最も教育効果を高めます。このため、親に実践者になってもらうことも狙いとしています。そして、多くの親たちが新しい教育観を持つことで、学校現場が安心して変わることができる環境がつくれると考えています。多くの企業の皆様とお話をさせて頂く中で、たくさんの共感を頂いています。

なぜ学ぶ力を変える必要があるか

21世紀に入り変化のスピードが加速しています。指数関数的に進む技術革新は、ドックイヤー、マウス(鼠)イヤーに例えられます。また、AIの進化の結果、人間の仕事の約半分を機械が担う時代が到来します。

国連も持続可能な開発に向けて、2015年にSDGs(持続可能開発目標)を発表しました。2030年をゴールに17の目標を達成するために、世界中の政府、企業、NGO、NPOがアクションを起こしています。これにより、企業の活動目的に収益と成長以外にも、持続可能開発目標が加わることになります。

かつては先進国を中心に発展した経済の主役が、途上国に移る時代です。2017年1月に行われたダボス会議では、イギリスやアメリカの保護主義が世界情勢の不安要因になる中、中国の習近平氏が、持続可能な経済成長のために世界が共に歩む重要性を語りました。世界のリーダーに相応しい習氏のメッセージは、欧米諸国のリーダーたちの共感を得ました。

世界の移民総数は、日本の人口をはるかに上回り、現在、2億4000万人を超えています。そのコストの増大は政治の世界にも影響を与え、イギリスがEUを離脱し、先進国のリーダーたちの足並みにもばらつきが出始めます。しかし地球がフラットに繋がる時代には、他国の紛争や対立を他人事と考えることはできません。

この4つの要素は、相互に関連し私たちの社会のあり方を変える働きをしています。これまでと同じ考え方では、平和を維持することも、経済の発展を維持することも、幸せを維持することもできません。

このため、世界では、国境を越えて人類が共生する新たな社会創りに向けて、人々のイノベーション力を高めていく動きが加速しています。その際に強い味方になるのがテクノロジーです。オランダでは、市民がテクノロジーを活かすための支援を行いスマートシチズン(先端技術を用いる市民)を育む取り組みが進んでいます。ドイツでは、第4次産業革命という国家戦略を掲げ、大学、企業、行政が一体となり、テクノロジー教育を始めています。

時代錯誤の教育改革

そんな中、日本の教育改革が時代錯誤であることに危機感を覚えます。これは、行政だけでなく、市民の時代感覚のズレが大きな原因であると思われます。雑誌の記事を見ても「食える子どもの育て方」といった表題が目に付きます。子どもの幸せを願う親たちは、当然、AI時代にも、我が子が職業を持ち、幸せに暮らすことを望みます。しかし、これまでのように偏差値の最も高い大学に合格すれば幸せが保証される時代ではなく、親の不安は募るばかりです。こうした不安を商業主義が煽り、教育は更に破壊に向かいます。

これからの時代の教育は、ジョブシーカーではなく、ジョブメーカーを育てなければならないといわれています。そのためには、真の主体性、前例を踏襲しない学び、コラボレーション力など、これまでとは異なる力が必要となります。

時代が大きく変わる中、子どもたちの未来の幸せは、私たち大人が何を軸にどのような選択をしていくのかに大きく左右されると感じます。そんな中、世界では、大人が学ぶ努力を懸命にしている様子を垣間見ることができます。

例えば、問題を起こした時と同じ思考では問題を解決することができないというアインシュタインの言葉を引用し、前例を踏襲しない学びを奨励しています。また、誰もが予測できないことがあるという事例として、1980年代に「パソコンのメモリーは、640KB以上を必要としない」と発言したビル・ゲイツ氏の言葉を引用しています。こうして、前例を踏襲する考えは未来を正しく反映しないことを示し枠にはまらない発想を奨励しています。

20世紀の人類が作り上げた社会・経済・生き方が大きく変わろうとしている21世紀に、善いインパクトを与えるイノベーションを生み出す日本であって欲しいと願っています。

イノベーションを生み出す“ベース”を鍛える教育プログラム「OS21」で、大人の「学ぶ力」を変えていきます。

これまでの固定観念を壊し、柔軟な思考と能動的な学びの姿勢を育てる6つのワークによって

ビジネスパーソンの思考をベースアップします。

個人の変化が他者の変化や成長を促し、組織の力が上がっていきます。この「大人の変化」を、会社や家庭や学校へと広げ創造と自発的な学習を促す新しいニッポンの「学ぶ力」を育てていく。それが、私たちの使命です。

子どもたちの未来のために、大人も変わる時代です。みんなで一緒に変わっていきましょう。

 

輪の広がり

2017.5.15 文部科学教育通信掲載

今回は、2つのうれしい出来事をご紹介します。

2011年から取り組んでいるピースフルスクールが4月18日の朝日新聞 オピニオン&フォーラムに紹介されました。ピースフルスクールは、クマヒラセキュリティ財団で取り組む幼稚園、小学校を対象としたグローバルシチズン教育です。新聞を読み共感したというメールもたくさん頂きました。もう一つは、4月22日に開催されたバディウォークinヨコハマに参加したことです。2つの出来事を通して共感の輪が広がる実感を持つ事が出来ました。この輪が日本中に広まることを夢見て、活動を加速させていきたいと思います。

相手の話、聞こうよ

記事のテーマは、「相手の話、聞こうよ」です。前衆議院議員の佐々木憲昭さん、落語家の三遊亭白鳥さんと私の3名が、政治、落語、教育と3つの異なる世界から、対話の大切さを語りました。

総理との対話

佐々木憲昭さんは、1996年から18年間にわたり、橋本龍太郎氏から安倍晋三氏まで10人の総理に質問をした経験をお持ちです。その中で、多くの首相とは意見が違っても議論を重ねるうちにかみ合ってくる感じがあったそうです。激しい議論を通して、気心が知れて、お互いに尊敬の念が芽生えたそうです。国会でも、リーダーたちが対立を乗り越える対話をしていたことを知り、とてもうれしい気持ちになりました。しかし、残念ながら、現在の総理は質問に対しても自分の主張を繰り返すことが多く、人の話を聞かない姿勢がより強まっています。政治の世界にも、対話を取り戻して欲しいと思いました。

お客様との対話

三遊亭白鳥さんは、落語においても対話が大切で、それはお客様を知ろうとすることだといいます。お客様にネタをぶつけても笑いを取ることはできず、お客様が受け入れ易いように話すことが大切だと言います。白鳥さんは、今でも高座を全部録音し笑いが取れなかった部分については、手直しを続けているそうです。政治家のお客様は国民であり、政治家は国民のことを知らないのではないかと指摘しています。さらに、寄席のお客様なら寝てもよいが、国民が政治家に任せて居眠りをしているようではだめで、国民も対話に関心を持つ必要があると述べています。国民も、政治と対話をすることを諦めてしまっているのかもしれません。その結果、政治と対話をやめてしまったとしたら、国民にも責任の一端があります。

三色の帽子と国会

次は、いよいよ私の番です。私は、3色の帽子を紹介しました。赤い帽子は、自分の意見ばかりを押し付ける動物。青い帽子は自分の意見を口にせず、言いなりになる動物。黄色い帽子は、意見を言ってお互いに話し合う動物。ピースフルスクールで子どもたちは、けんかをしたり、人の言いなりになるのではなく、話し合う黄色い帽子がみんなを幸せにすることを学びます。意見が違うのは悪いことではなく、当たり前のことだから、意見が違っても怒らないようにすることが大事だと教わります。子どもたちは、怒ったときには深呼吸したり、ぬいぐるみを抱いたりして心を静めることができることを知り、日々の暮らしの中で実践しています。この手法は、そのまま国会にも活用いただけるのではないかと提案しました。大人もまず深呼吸して心を落ち着け、違う人の意見を聴く所から始めれば、きっと対話力を上達させることができます。

対話が近道

みんなで一緒に何かに取り組んでいく際に対話が大切な役割を担います。はじめは違う意見を持つ人たちも、相手の意見に耳を傾け学びあう姿勢があれば共に歩む方策を見出すことができます。社会が大きく変化する今、政治が国民との対話を避けて物事を強行に推し進めても、ありたい姿に到達することはできません。複雑に絡み合った社会の形を変えるには、判断をすり合わせていく必要があるからです。国が大きな方針を打ち出しても、改革を伴う取り組みを実践するのは現場であり国民です。ビジョンなき取り組みがどのような結果になるのかは、誰もが経験済みではないでしょうか。対話は避けて通れない道であり、本当は近道であることに気づいて欲しいです。

日本の未来と対話

オリンピック後の日本にどれだけの選択肢があり、我々はどんな未来の日本を望むのか、よい事も悪い事も両方話すことができる社会が実現することを願っています。そのためには、誰もが、黄色い帽子になり、感情をコントロールして話を聞く力を磨くことが大切です。私が、ピースフルスクールを日本で広める活動を始めたのはこのためです。戦後の日本と違い、今日では企業や団体、個人の置かれている状況は多様です。夫々が声をあげる社会が共生に向かう姿は想像しにくいかもしれませんが、対立を恐れず対話することを通して見えてくる共通点がもたらす力は想像以上に大きいものです。解り合えないとあきらめるのではなく、対話を始める努力をしたいです。

 

バディウォークin ヨコハマ

4月22日に、育ちあう バディウォークin ヨコハマにボランティア参加しました。

主催は、一般社団法人ヨコハマプロジェクトです。ヨコハマプロジェクトの代表 近藤寛子さんはダウン症のお子さんを持ったことをきっかけに、この団体を立ち上げました。団体の目的は、ダウン症のある子どもとの出会いを通して、多様性に関心を持つ人たちを増やすことです。今年1月に、尊敬する経産省の知人から、「熊平さんと同じようなことを言っている人がいるから会ってみてはどうか」とご紹介いただき近藤さんにお会いして、すぐに意気投合しました。ヨコハマプロジェクトは、ダウン症を持つ子どもの親が不安にならないように、国内外の専門家の指導を仰ぎ、冊子「ダウン症のあるくらし」を作成し配布しています。最初は、ダウン症の子どもの育て方についての情報が不足していて、近藤さん自身が不安になり情報を集めたそうです。その知識を自分のためだけに活用するのではなく、みんなに共有していく姿もとても素敵です。こうして、彼女は、ダウン症の子どもを持つ家族との対話を始めます。そして、バディウークin ヨコハマでは、家族同士の繋がりや、社会が多様性を理解するきっかけづくりに挑戦しています。

今年で3年目となる山下公園でのイベントには2000人近くの人が参加しました。ダウン症の子どもたちも元気いっぱいに楽しみ、ご家族の皆さんも素敵な笑顔でした。このイベントに参加し、心の繋がりのある家庭やコミュニティの輪が広がることが、多様性を包摂する世の中になる近道だと感じました。そこに対話力が加われば、誰もが幸せに生きる社会をともに創ることができるのではないかと思います。

【ダウン症とは】

私たちの体の細胞には、合計23対46の染色体が備わっています。このうち、21番目の染色体が2本ではなく3本あることからおこる症状をダウン症といいます。その理由は解っていないのですが、その出生率は民族によらず、だいたい1000人に1人だといわれています。

【バディウォークとは】

ダウン症のある人と一緒に歩く、世界的なチャリティーウォーキングイベントで、全米ダウン症協会が1995年にニューヨークで行ったのが始まりです。現在は世界中に取り組みが広がっています。昨年11月には、渋谷でも開催されたそうです

冊子「ダウン症のあるくらし」に関するお問い合わせ先 info@yokohamapj.org

ものの見方をかえる学び

2017.04.24 文部科学教育通信掲載

昨年から、21世紀学び研究所を立ち上げ、21世紀の学び方を広げる活動を始めました。変化する時代の中で、生存し続けるために我々大人が学ぶことがとても重要だと考えたからです。21世紀の学びにおいて、重要なことの一つが、ものの見方を変える学びです。

 

学習する組織論との出会い

未来を創造するために、ものの見方を変える必要があるという考えを世の中に広めたのは、『学習する組織 システム思考で未来を創造する』(英治出版)の著者ピーター・M・センゲ氏です。1990年代に、世界のリーダーに大きな影響を与えた学習する組織論は、今日、環境問題をはじめとする複雑な問題解決に活かされています。

 

学習する組織の課題解決

ピーター・M・センゲ氏は、課題を氷山の一角に例えて、課題を現象として捉えるだけでは問題を解決することはできないと説明しています。よい事も悪い事も現象として起きていることを支えている氷山があるというのです。氷山を分析し、理解するための視点は3つあります。一つ目は、時系列で見た傾向です。過去から現在を振り返り、どのような傾向があるのか、特徴的な変化があるのかを分析します。二つ目は、構造や仕組みの視点です。現象を支えている構造や仕組みを明らかにするだけでなく、どのようなつながりを持っているのかを捉えるのが特徴です。3つ目の視点が、現象を支えているものの見方です。3つの視点の中でも、最も大きな変化をもたらす要因となるのが、ものの見方と言われています。人々が信じていること、慣習や文化、社会通念等がこれに当たります。現象を変えたければ、人々がものの見方を変える必要があります。

 

なぜものの見方を変える必要があるのか

一言で言えば、世界が大きく変化しているからです。世界では、持続可能な地球の未来を確実なものにするために、様々な新しい取り組みが生まれています。

代表例として頻繁に取り上げられるのは、多国籍企業ユニリーバ社の事業計画です。従来の事業計画に含まれる売上、利益、成長に関する計画以外に、2020年までに、10億人の人々の暮らしを豊かにするという目標をかかげています。売上を2倍にし、10億人の暮らしを豊かにする目標と計画「サスティナブルリビングプラン」と呼ばれる事業計画が策定されたのは2010年です。すでに7年が経過していますが、プランは着実に成果を上げています。

 

貧困を無くすことが営利組織の目標になるのかという疑問がわいてきませんか。

実際に、このテーマでハーバードビジネススクールの卒業生とディスカッションをしたのは、今から3年前の2014年のことです。当時、多くの年配の卒業生が、営利目的にそぐわない取り組みだとサステイナブルリビングプランを批判したのがとても印象的でした。

 

これまでのものの見方では、営利企業は、営利の追求をすることが目的で、社会問題を解決することは、その使命ではないということになります。一方、これまでと同じ経済活動を続けていたのでは、地球が3個必要という未来予測も常識になりつつあります。それは今日の問題ではないと捉えるのか、未来のために今変わる必要があると捉えるのかは、個人の自由です。しかし、残念ながら、地球の未来は、我々一人ひとりのものの見方と優先付けにより決まるとことも事実です。持続可能な未来を実現するために、多くの人々がものの見方を変えて欲しいと願っています。

 

ものの見方はどのように形成されるのか

どうすれば、ものの見方は変わるのでしょうか。その問いに答える前に、まず、私たちのものの見方がどのように形成されるのかを理解する必要があります。

例えば、私たちは、営利団体、非営利団体という2つの団体に対するイメージを持っています。株式会社は営利団体で、NPOは非営利団体と認識しています。このようなものの見方は世の中の常識になっており、そのことに疑問を持つ必要はありません。このため、NPOが営利追求を始めると違和感を覚えるし、営利団体が社会問題の解決に夢中になることは許されないと考えます。このように、私たちのものの見方は、経験や知識を通して確立された価値基準や判断の尺度に支えられています。こうして、私たちは、日々の生活や経験を通して、あらゆる事柄に対してものの見方を形成します。特に、社会の通念として誰もが共通に持っているものの見方の場合、私たちは疑問を持つことや、批判的に考えることを忘れがちです。しかし、今のように変化の激しい時代には、自分のものの見方の前提に意識を向ける必要があります。

 

ものの見方を変える方法

学習する組織では、ものの見方のことをメンタルモデルと呼び、その形成の仕方を、推論の梯子で説明しています。私たちは、経験や知識を通して形成される判断軸や価値基準を使い、新しい情報を吸収します。この学びのステップを推論の梯子で表しています。

 

ものの見方を変えるためには、推論の梯子を降りる必要があります。そのためには、まず、自分がどのような経験や知識と価値基準で物事とを捉えているのかを内省する必要があります。その上で、自分のものの見方の土台となる経験や知識、判断軸や価値基準が、自分の判断の根拠として妥当なのかを評価する必要があります。このプロセスを豊かなものにしてくれるのが、自分とは異なるものの見方をもつ他者の存在です。対話が学びにとって重要な役割を果たすのはこのためです。

 

日本でも必要な理由

少子高齢化社会の到来、新興国の台頭、AIと人間の恊働、ミレニアム世代の台頭と変化を求める要因で溢れる中、教育改革や働き方改革が始まっています。この変化を乗り切るためには、社会全体がものの見方を変える必要があります。

部分的な変化では、改革が成功しないからです。

働き方改革を例にとってみましょう。労働人口の減少により、働く女性を増やそうという動きがあります。その結果、保育園が不足します。その結果、長時間労働がボトルネックになります。奥さんが働き始めると、夫の子育て参加率が上がります。転勤や単身赴任を当たり前に受け入れる社員は減少します。このように、一つの変化は、次々と新たな変化のニーズを生み出します。もし、私たちがものの見方を変えることができれば、このような一連の変化を先読みして、みんなで協力して、善い変化を創りだすことができます。働き方改革には、この他にも3つの重要なファクターが影響を及ぼします。一つは、テクノロジーが約半分の人間の仕事を代替する時代になるということ。二つ目は、企業の永続を前提にした社会保障システムでは雇用の安定が実現しないこと。三つ目は、生涯働き続けるために、学び直しが必要になるということ。これら全てを前提に、新しいものの見方で、理想の姿を描き、その実現に向けて社会全体が取り組むことが必要です。

 

これまでの常識で物事を捉えるのではなく、新しいものの見方を手に入れるために、ぜひ、皆さんも、自分のものの見方に意識を向けてください。その考えは、どのような経験や知識、価値基準を前提にしているのか。その前提は、未来に向かう判断に本当に有益なのか。そう問いかけることが明るい未来に繋がる方法です。

〔推論のはしご〕

 

学びの環境

2017.04.10 文部科学教育通信掲載

久しぶりに、理事をしているNPO法人ラーニングフォーオールの研修を行い、2日間、メンバーと一緒に過ごしました

 

2010年に、認定NPO法人ティーチフォージャパンの最初の事業としてスタートした寺子屋事業が発展し、現在は、ティーチフォージャパンから分離独立し、ラーニングフォーオールとして活躍しています。主たる事業は、困難を抱える子どもたちの学習支援で、長期では週1回、2から3ヶ月間の指導、短期では、5日間連続で指導に当たります。また、昨年より、日本財団が手がける貧困対策事業モデル「子どもの家」の運営も受託し活動を広げています。

 

ラーニングフォーオールの魅力は、学習する組織を実践しているところです。研修を通して、彼らの真摯な学ぶ姿勢と文化に触れながら、スタートの頃の辛い経験を思い出しました。

 

7年前の残念な寺子屋からの学び

2010年8月に実施した今から7年前の寺子屋のリフレクションを通して、学習する組織のリーダーを育てることが、子どもたちの学びを最大化する唯一の道であると確信したことが、学習する組織づくりのスタートでした。今でも、その時に、教師として参加してくれた学生さん(現在は社会人)とも交流があり、とても思い出に残る経験でした。寺子屋には、難関大学の大学生を選抜し、教師を依頼しました。ところが、子どもたちとの関係構築がうまくできず、成果を上げることができませんでした。その結果をリフレクションした結果、いくつかのことが明らかになりました。①先生たちは、子どもたちがやってきても挨拶をしていません。子どもたちを歓迎する姿勢にかけていました。②生徒たちの話を聴く姿勢がなく、自分の話を聞いてくれない生徒への不満を訴えました。③生徒の間違いに対しても、なぜ間違ってしまうのかを一緒に考えるのではなく、すぐに修正してしまいます。間違ってしまう子どもに対する共感を持つことができません。④生徒たちのやる気のなさを、自分の問題ではなく、生徒の問題と捉えてしまいます。このような状態では、どんなに優秀な大学生を集めても、最適な学習環境を構築することができないことは明らかでした。この苦い経験から、教師教育プログラムを開発し、正しいマインドを持ち、子どもたちに向き合う寺子屋作りを始めました。こうして、子どもたちの可能性を心から信じ、子どもたちのパスチェンジ(人生を変える)のための寺子屋事業が始まりました。

 

リフレクションが子どもの学びを決める

寺子屋には、大きな学習遅滞を抱えていても、経済的な要因で塾にも通えず、一年以上の学力の遅延を抱える子友達も大勢やってきます。50時間の研修を受けた大学生が子どもたちの指導に当たります。授業は個別指導型で、一人ひとりの学習状況に適した教材を用意し行います。小さいステップで学び、実力をつけ、自信を積み上げていく指導には根気が必要です。そして、成長が見られない時も、決して子どものせいにせず、期待値を下げることなく、真摯に子どもと向き合う姿勢を崩しません。毎回の授業終了後に、リフレクションを行い、子どもの様子、教師の様子の両面から効果的な学習機会を提供できていたかを振り返ります。教室に配置されたマネージャーは、授業の様子を観察し、フィードバックのポイントを洗い出します。このリフレクションを日々繰り返すと共に、全体での大リフレクション大会も行い、相互学習や、組織学習へと発展させていきます。この中で、重要となる学びは、次の教師研修にも反映されることで、学びが次の世代に反映されていきます。

 

これほど、学びを徹底しているのは、すべて子どもたちのためです。我々が寺子屋の経験を通して確信しているのは、教師の学びが、子どもの学びを決めるということです。子どもがどこでつまずいているのか、子どもがどのような精神状態なのか、子どもの様子や反応、ペンの動かし方、止まり方から、子どもについて学ぶことができる先生が、子どもの学力を上げることができます。そして、一人ひとりの先生の学びを、組織が吸収し次の寺子屋に反映することで、寺子屋全体の質を高め続けることができます。

 

学びの環境

ラーニングフォーオールは、こうして学びを愛する集団になりました。今回の研修には、本部、寺子屋、子どもの家の大きく3部門の方たちが参加しました。寺子屋チームは、7年間学習する組織を実践しているのですが、本部の一部の方々や子どもの家の方々にとっては、学習する組織の研修は始めての体験です。はじめは、どうなるか少し心配でしたが、すでに確立している学びの文化に、皆さん共感し、たくさんのことを吸収してくれました。

 

学びには安心安全な環境が必要であるといいます。誰もが疑問を声に出すことができ、お互いの理解を深めるための対話が起こり、実際に活用することを考えながら、学びを深める様子は、通常の企業研修とは大きく異なります。解らないことを解らないと誰もが言えたり、自分の理解が合っているか否かを声に出して確認するといった学びの環境を、もっとあちらこちらにふやして行きたいと思いました。そのためには、受講生だけでなく、講師側も安心安全と感じる必要があります。せっかくの学びの場にもかかわらず、多くの研修では、このような条件が揃う場がとても少ないように思います。ラーニングフォールの皆さんと学び合いながら、「日本中が、こんなスペースになればよいのに」と思わず願ってしまいました。

 

ビジョン・ミッション・バリューを持つ

プログラムの中でのハイライトの一つが、ビジョン、ミッション、バリュー、文化、行動基準についての学びです。一人ひとりが主体的に物事を考えて行動し、ばらばらにならないための指針として、リーダーはこの5つを明確にしておく必要があります。ビジョンとは、期限付きのゴールのことで、その実現した姿を誰もがイメージでき、わくわくすることが大切です。ミッションは、我々が存在する理由。バリューは、大切にしたい価値観で、それを行動様式で表現したものが行動基準です。リーダーは、信念、感情、思考、行動の一貫性を通して、臨む文化を形成します。ラーニングフォーオールは、子どもを中心に物事を考え、学びを大切にし、「教育格差を終わらせる」ミッションのために一人ひとりが持ち場で使命を果たす組織を目指しています。

 

全国に寺子屋を広げる夢

困難な環境に育つ子どもたちの多くは、学習遅滞により、自己肯定感を失い、中学生の頃には人生をあきらめています。高校に行っても、中退してしまうケースも多く、職業の選択を広く持つことも難しいのが現実です。しかし、残念ながら現在の学校教育では彼らを救うことができず、経済的な理由から、塾に通うこともできない彼らは、社会弱者となってしまいます。

 

ラーニングフォーオールの取り組みを通して、真摯に向き合うことで、多くの子どもたちが学力を向上させ、自分に自信を持ち、将来の夢を見つけていくことができることを知りました。教師の学びが、子どもたちを成長に導くことも確信しました。日本中の全ての困難を抱える子どもたちに、ラーニングフォーオールの寺子屋を届けられる日が来ることを強く願っています。

 

シチズンシップを養う「みんなのみらいをつくる保育園」の誕生

文部科学教育通信No.407 217.3.13 掲載

認定NPO法人フローレンスが、2017年4月1日に法人として初めての0~5歳児までの認可保育園「みんなのみらいをつくる保育園」を江東区・東雲に開園します。フローレンスが2010年に待機児童問題の解決のために同地域で0~2歳児を対象とした小規模保育園「おうち保育園」を開園して約6年。2017年3月現在、都内に小規模保育園を13園運営しています。「みんなのみらいをつくる保育園」では、3歳児以降の待機児童問題「3歳の壁」の解決とともに、「自分たちのみらいは自分たちで創りだす」子どもたちのシチズンシップを養います。

今回は、この「みんなのみらいをつくる保育園」をご紹介いたします。

 

シチズンシップを育む新しい保育園

「みんなのみらいをつくる保育園」では、クマヒラセキュリティ財団が開発・展開をしているオランダ発祥のピースフルスクールプログラムを導入し、保育理念である「みんなのみらいをつくることに自ら参加し貢献しそして楽しむ心を育みます」のもと、シチズンシップ保育に挑戦します。さらに「今日やりたい遊びは?」「遠足はどこに行く?」など子どもたちだけで話し合い、意思決定をする「こどもミーティング」や、自分の気持ちを認識し表現する「感情カード」を取り入れ、好奇心や冒険心のある自分らしい子ども・他者を思いやることのできる子ども・自分で考え、表現し、行動できる子どもを育てます。

 

感情カード」で子どもの感情に寄り添う

朝、子どもたちが登園したら、その時の自分の気持ちを考えてもらう時間をとります。「今日もお友達とたくさん遊べるからたのしい気持ち」「お兄ちゃんとけんかしたからおこっている気持ち」「先生からほめてもらえたからうれしい気持ち」など、自分の感情を認識して、表現することを大切にしています。最初のうちはうまく気持ちを認識することができないこともあるかもしれませんが、毎日繰り返すことで自分には感情があること、お友達にも感情があること、そしてそれを尊重し合えることを経験していきます。「うれしい」「楽しい」などのポジティブな感情だけでなく、「かなしい」「おこっている」「つかれた」などのネガティブな感情も表現してかまわないという文化をつくることは、子どもたちの自己肯定感を高め、園がより安心で安全な場にすることができます。

まだ上手に話すことのできない小さな子どもたちにとって、感情カードを選んで表明することは、自分と他者が違うということを知ることにもつながります。仲の良いお友達であっても、感じ方は人ぞれぞれであること。自分に感情があるように、お友達にもお友達の感情がある。みんなそれぞれの感情を持っていることを知ることで、多様性にふれることができます。

みんなのみらいをつくる保育園では、他者を思いやることのできる子どもへの一歩は、自分と他者が違うことを知ることから始まると考えています。気持ちや意見が違うからといって、お友達でいられなくなるわけではないこと。周りにあわせようとして我慢したり、隠したりしなくていいことを日々の経験を通して学んでいきます。

 

子どもが今日の予定もみらいも決める「こどもミーティング」

みんなのみらいをつくる保育園では、輪になってお話をするサークルタイムの時間を大切にします。日本の学校では、スクール形式で先生の話を聴いたり、自分の意見を発表することがほとんどで、サークルになってみんなで話すという経験をすることがあまりありません。みんなのみらいをつくる保育園では、子どもたちの主体性を最大限伸ばすために、与えられた予定や未来ではなく、自分たちで考えて決めていくことを大切にしています。そのため「こどもミーティング」を毎日行うことで、みんなの顔を見ながら話し、考え、自分の意見を言い、お友達の意見を聴く経験を積んでいきます。

こどもミーティングで何が話し合われるのかはその日次第です。予めテーマを決めることはせず、保育者がファシリテーターとなって、自然に話し合いが進むようにサポートします。うまく話すのではなく、みんなの意見に耳を傾け、自分の意見も伝える経験を積むことで、子どもたちの共感性や内発性、創造性を高めていきます。

 

子どもたちの解決する力を培う「ピースフルスクールプログラム」

【「好奇心」「冒険心」のある自分らしい子ども・他者を思いやることのできる子ども・自分で考え、表現し、そして行動できる子ども】が、みんなのみらいをつくる保育園の保育目標です。その目標を達成するための手段として、シチズンシップ教育のピースフルスクールプログラムを導入します。

ピースフルスクールプログラムはオランダ発祥のプログラムで、5つの目標があります。

1.建設的に議論して意思決定をする

2.コンフリクト(対立)を自分で解決する

3.社会の一員としての責任感を持つ

4.他者を思いやり、多様性を尊重する

5.社会における自分の役割を知る

この5つの目標は、「みんなのみらいをつくる心」を育む上で非常に大切であると考え、4歳児・5歳児クラスを中心に取り入れていくことになりました。

 

ピースフルスクールプログラムの特徴的な学び

①自分の意見を持つ責任がある

子どもたちは、どんな時でも自分の意見を持つように努めます。たとえ「わからない」であっても、自分の意見を持つことに挑戦します。

②対立は悪くない

民主的な社会とは、多様な意見が存在する社会です。そのため、意見が対立することが前提となります。子どもたちは、自分の意見を持つこと、人の意見に対して反対の意見を持つことは悪くないこと(意見が違っていてもお友達でいられること)を学びます。

③コミュニティには共感がある

周囲の人に対して、素の自分を見せることを自分自身が受け入れられている状態を目指します。素の自分を見せても、周囲の人に受け入れてもらえる安心感があります。また、園やクラスといったコミュニティに共感があり、心と心がつながっていると感じられる状態を目指します。

④問題解決に取り組む

けんかは話し合いで仲直りすることを大切にしています。けんかしないように抑制するのではなく、けんかが起きた時に、自分たちで落ち着いて話し合って解決できるようになることを目指します。また、園やクラスの課題についても話し合って、より良くなるための方法をみんなで考えます。

 

導入前の研修

プログラムを子どもたちに実施する前に、みんなのみらいをつくる保育園の保育士やスタッフ対象に研修を実施しました。

研修では、「みんなのみらいをつくる保育園に通う子どもたちにどんな人に育ってほしいか」「園の保育方針とピースフルスクールプログラムにはどのような関係があるのか」「なぜピースフルスクールプログラムを園で実施するのか」について深く考え、対話しました。

また、模擬レッスンを行い、実際に子どもたちにレッスンを行う際にどのようなことに気をつけて実施すればいいのかも学びました。

いよいよ4月から開園の「みんなのみらいをつくる保育園」。この園に通う子どもたちがどのような人に育っていくのかをしっかりと追っていきたいと思います。

未来教育会議のアクティブラーニング

文部科学教育通信No.406 2017.02.27 掲載

「なぜ」から考える

今年で3年目となる未来教育会議の最後の2日間のワークショップ(2月16日と17日)の準備を進めている。参加者は、約半年の活動を振り返り、自らのアクションに繋げるアクティブラーニングを行う2日間となる。

社会人の人材育成に関わり、学びの場を設計する際に心がけているのは、「なぜ」から考えることである。

  1. 参加者に必要な学びは何か。
  2. その学びは、参加者の人生にとってなぜ必要なのか。どのような意味を持つのか。
  3. 参加者は、その学びにおいて、今、どの辺りにいるのだろうか。(当たり前に知っている。すぐに理解できる。想像もしていない。真逆のことを信じている。)
  4. 参加者にとって、最も、自然な学びのプロセスはどのようなものか。
  5. 参加者の多様性をどのように扱うか。(多様な学びを設計できるか。出来ない場合に、一人ひとりの学びをどのように担保するのか。)
  6. 参加者は、どのように学びを刈り取るのか。
  7. 参加者は、自分の学びにどのように気づくのか。
  8. 参加者は、どのように学びを自分の人生や仕事に結びつけるのか。
  9. 参加者には、どのようなマインドの変化が起きるのか。
  10. 参加者には、どのような行動の変化が起きるのか。

一つのアクティブラーニングを設計するにあたり、最低でも、前述の10の問いについて考える。そして、一旦、プログラムが完成した後は、ワークを頭の中で実施してみる。

  1. 参加者の思考が混乱したり、参加者が戸惑う流れになっていないか。
  2. 参加者が、期待通りの学びを得る事ができるか。
  3. 講師側が困ってしまう場面がないか。(説明が理解してもらえない。グループワークが想定のように進まない。問いや指示が不明瞭で参加者が混乱する等。)

ここまで確認して、資料づくりに入る。

  1. 学びの効果が高く、効率よく時間を活用するために、投影資料には、どのようなメッセージを含めるか。
  2. メッセージをより確実に届けるために、文字情報に加えてどのような絵や写真を加えるか。

こうして、資料を完成させ、説明とワークの両面から、プログラム全体の流れを確認し、意図とずれている事や、効果的でない所がないかを確認して行く。そして、最後にもう一度、自分に問いかけてみる。

  1. 私は、このプログラムを通して何を実現しようとしているのか。
  2. 私にとって、それはなぜ重要なのか。
  3. 受講者にとって、それはなぜ重要なのか。

ここで、プログラムの核となる学び、価値観レベルでの狙いを自分の中に落とし込み、プログラム作成が完了する。

 

プログラムについて自ら問う

こうして出来上がった2日間のワークショップのプログラムについて、自分に問いかけてみる。

1.私は、このプログラムを通して、何を実現しようとしているのか。

その上で、自分の人生や仕事に学びを結びつけ、自らの内発的な動機に基づき、アクションを考えて欲しい。そのアクションを実現する上で直面する困難を想像し、あらかじめ対応を考えて欲しい。 約半年、国内外で行ったスタディツアーから明らかになった2030年未来シナリオの世界を、自分事として理解して欲しい。ブルーム理論で言う所の知識、理解ではなく、適応、分析、統合、評価の深いレベルでの認知に至って欲しい

2.私にとって、それはなぜ重要なのか。

未来教育会議をはじめて、今年で3年目になる。一年目は、2030年の未来を想像し、教育の未来シナリオを描いた。その時に、明らかになったことは、大人が変わらなければ教育は変わらないという事実。そこで、昨年は、大人がどう変わる必要があるのかを考え、2030年の企業と社会未来シナリオを描いた。この2年間の活動を通して、日本の社会の現実と教育は鶏と卵の関係にあることを知る。受け身に学ぶ学校で習得した習慣は、企業で活かされる。学校でも、企業でも、余計な事を言わないで、先生や上司に従う有能な人材が大量生産されている。個人になると、「私はこう思う」と雄弁に語る彼らも、組織人になると、その事を口にしない。

結局のところ、学校や職場で、個人として生きることを放棄する。その方が、最小限のエネルギーで最大の報酬を得られるのだ。このモデルは高度経済成長の時代には有益だった。しかし、今日のように複雑で混沌とした社会の中で、変化やイノベーションを起こす時代には機能しない。リスクを取る人がいないからだ。この状態が続くと、失われた20年が、失われた半世紀になることが予測される。それを避けるために、気付きと行動を促すことを狙いとして、3年目の未来教育会議を設計した。

 

参加者には、日本の人口は世界の2%であり、98%の世界が何を考え、どのようなアクションに取り組み、どのような未来を創ろうとしているのかを理解することを求めた。これが、海外スタディツアーだ。

今年は、ドイツとオランダを訪問した。ドイツでは、インダストリー4.0に取り組む関係者の話を聴いた。オランダでは、デジタル技術や科学を活用しイノベーションを起こす市民の力や、社会資本を活用するシェア経済の実践に学んだ。EU諸国では、市民、政治、企業、アカデミアの4つのセクターが四十螺旋的に未来を創造するクワトロヘリックスという考えに基づき社会が創られている。オランダでは、強い市民力が四十螺旋を牽引しているように見えた。

ドイツでは、企業、政府、アカデミアの連携とリーダーシップに学んだ。日本の四十螺旋は、どのように実現するのか。企業、政府、アカデミア、市民はどのようにして連携したアクションを実現することができるのか。参加者である企業人、官僚、学生夫々の立場で考えて欲しい。自分が実現したい未来。その未来のために、個人、組織人としてやれる事.個人や組織の枠を超えて連携が必要なこと。そして、ゴールを設定し、具体的なアクションと、ゴールに到達するシナリオを描く。失われた半世紀ではない未来に向けて、一人ひとりが動き始める。これが私の願いだ。

3.受講者にとって、それはなぜ重要なのか。

システム思考には、「ぼくたちは大丈夫」と、今が上手く行っていても、壊れた船に乗っていれば、やがては沈んで行くことを説明する絵がある。先に沈むのはどちらかというだけの話だ。激動する世界の中で、日本らしく存在し続けるために、今、変わることを選択できることはとても幸せなことだ。

テレビをつけると日々報道されるトランプ大統領のニュース。その度に、トランプ大統領のニュースを対岸の火事と思わない方がよいと思う。日本の社会と教育は、欧州モデルではなく米国モデルなのだ。共生ではなく競争を前提とし、人間づくりも、よき労働者を育てることを優先する。学校も親も教育の目的が受験戦争に勝ち抜き良い職を手に入れることだ。経済活動に参加できず貧困から抜け出せない人々も多くいる。PISAテストでレベル1を取る子どもの数が13.8%であることは語られず、読み書きそろばんができないまま大人になることを黙認する社会になっている。ミニ・アメリカ化は至る所に見られる。

未来教育会議の2日間のワークショップを通して、自分と自分の周辺の未来をよくするアクションを明確にし、多様なステイクホルダーが協力して良い未来に向かう社会を実現することは、参加者にとっても損な話ではない。

 

 

なぜOECDキーコンピテンシーなのか

文部科学教育通信No.405 2017.2.13

未来に責任を持たない大人たち

教育改革がスタートし、約15年が経過し、その効果は、ミレニアム世代の持つ価値観や思考特性にも反映されています。最近の若者は、消費の意欲がないとか、野心がないという否定的な意見を持つのは古いパラダイムに生きる大人たちです。ミレニアム世代は、地球の未来を考え、持続可能な経済活動に関心を持ち、困っている人たちを助けたい、みんなが幸せに生きる社会を創りたいと言います。やさしく弱いメッセージに聞こえるかもしれませんが、それが本当に難しい時代になっているという現実を彼らが自分事としてとられていると考えるべきでしょう。しかし、大人の多くは、「私はその前に死ぬから」「それは君たちの問題だ」という態度です。「戦争が無い時代はない」とか、「中国をはじめとする新興国が協力しない限り環境問題は解決できない」等と言う人もいます。難しいからあきらめるという態度は、OECDの教育観の真逆です。未来に責任を持たない大人たちの更に残念なことは、若者が自らの意志で行動することを許可しないことです。

 

ミレニアム世代に学ぶ大人たち

一方、世界はどのようにミレニアム世代を見ているのでしょうか。欧米の多国籍企業の多くは、ミレニアムをエンパワーし(信じて任せること)、管理職がミレニアムに学ぼうとしています。ミレニアムに仕事をしている様子を観察してもらい、彼らの目に、管理職の人々の仕事がどのように映っているのかをフィードバックしてもらうのです。「なぜ、そこで紙が必要なのですか」等、デジタルネイティブの彼らのフィードバックを通して、ミレニアム世代の常識に学びます。日本のように、上位者が全て正しいという考えはありません。

 

時代の先頭を走るリーダー

世界には、ミレニアム世代とともに、善い未来を創るために挑戦するリーダーの姿もあります。ユニリーバ社のCEOポール・ポルマン氏はその代表的な存在です。環境負荷を半減させ、10億人の生活を豊かにするという目標を掲げるポルマン氏は、これまでの大人の常識に挑戦しています。四半期ごとに決算を報告するために使う時間とコストを、この目標を具現化するために使うと宣言し、四半期決算を廃止しました。この話を聴き、年齢の高い人たちの多くは、10億人の生活を豊かにするために、経営資源を使うのは経営の目的に反していると言います。若者の多くは、ポルマン氏の挑戦に賛同し、可能ならば自分もそのような取り組みに参画したいと考えます。

 

なぜキーコンピテンシーなのか

OECDのキーコンピテンシーは、これまでの学力を中心とした教育の何を変えることを求めたのでしょうか。複数の要因が複雑に絡まり、決して一人では解決できない問題を解決する力を育む事です。ポール・ポルマン氏のように、誰もが不可能だと思う目標を掲げ、その実現のために、解決策を見いだし多様な利害関係者を説得し、巻込み、その実現のために行動する力を育む事です。情報収集や分析にIT技術を活用し、テクノロジーを活用し、解決策を創造する力です。問題はより深刻化・複雑化していますが、テクノロジーにより、歴史上類を見ないレベルで、私たち一人ひとりが、エンパワーされているところに大きな可能性があります。これまでは、大企業にしかアクセス出来なかった情報も技術もすべて無料あるいは低コストで手に入ります。イノベーションを、誰もがとても簡単に行うことが可能になりました。教育の枠組みに学力のみでなくテクロノジーを活用し、イノベーションを起こす力が加わったのはこのためです。

 

OECDが主導する世界の教育改革がスタートし15年が経過しましたが、日本では、まだ、この改革は始まっていません。21世紀学び研究所を立ち上げ、大人にキーコンピテンシーを広める活動を始めています。

 

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