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自分を知ることから始めるシェアド・リーダーの育成 -星美学園高等学校でのワークショップ-

文部科学教育通信No.388 2016.5.30掲載

今回は、星美学園で実施しているワークショップについてご紹介いたします。

国際社会に喜んで貢献できるシェアド・リーダーの育成

星美学園では、個々の強みを生かしつつ、諸外国との互恵的な連携を促進する人を育てるために、高校3年間を通したシェアド・リーダーシッププログラムを開発し、実施しています。

シェアド・リーダーとは、一人の優秀なリーダーのことではなく、それぞれの持ち味を活かす形でチームに貢献するリーダーのことを指しています。シェアド・リーダーに必要な力として、

  1. Intelligence(知性を磨き、活用し、正しく判断する力)
  2. Toughness(困難にも粘り強く立ち向かう精神力)
  3. Contribution(周囲を観察し、協働する力)

を掲げ、これらの力を高校3年間で培うことを目標としています。

生徒たちは、高校1年生の3月にフィリピン・韓国・香港の三カ国でフィールドワークを行いますが、フィールドワークまでの期間に、チームビルディングや対話の方法を学び、国際社会への貢献をテーマにした課題研究や多様な人と協働するための力をみがくワークなどを行います。クマヒラセキュリティ財団は、多様な人と協働するための力を身につけるためのワークショップを先生方と開発いたしました。

リーダーシップを発揮するためには、自分を知ることが大切

「それぞれの持ち味を活かして、リーダーシップを発揮してください」と言われたところで、自分がどのような人間かがわかっていないと、どうしたらいいのかわかりません。そこで、第1回ワークショップでは、まずは自分を知り、自分を定義する時間を持つことにしました。

自分を知る過程で、クラスメートとの対話を行い、多様性にも気が付いていくように設計しています。

事前課題として、「自分史」を作成しました。過去15年ほどの中で、テンションが上がった時、下がった時を記録していきます。

ワークショップ開始後の個人ワークで、「自分史」で抜き出した一番テンションが上がった時と下がった時の理由を考えます。例えば、一番テンションが上がった出来事が「水泳の大会で入賞したこと」である場合、「勝負に勝ったこと」なのか「先生や親から褒められたこと」なのか、それとも「自分の目標をクリアしたこと」が理由でテンションが上がったのかを追求します。

その後、さらに自己理解を深めるために、個性や価値観を掘り下げる質問をペアで行います。質問の例は、以下です。

  • 一番夢中になった経験は何か。なぜ夢中になったのか。
  • 頭にきた経験は何か。何が頭にきたのか。
  • 悲しかった経験は何か。なぜ悲しかったのか。
  • 仲の良い友達はどんな人か。どんなところが好きなのか。
  • チームや仲間の中で、どんな役割を果たすことが多いのか。それはなぜか。
  • 部活や学級活動で楽しい事ことは何か。どんなところが楽しいのか。
  • マイブームは何か。なぜはまっているのか。
  • 自分を動物に例えると何か。それはどうしてか。

質問をする中で、生徒同士の対話が進み、今まで知らなかった相手のことがわかると同時に、今まで意識しなかった自分のことにも気が付く時間となりました。

質問例以外に、お互いのことをより知ることができると思う質問事項を考え、質問し合う時間も設けました、海外でのフィールドワークを行う際、現地の人と対話をしながら進めるので、質問を考えて対話を続ける力を養うことも大切です。

ひとしきり質問をしあった後は、自分を定義するワークを行いました。

まずは、先ほどの対話を通してわかったペアのことについてシートに記入します。対話をする前には書けなかったことが書けるようになったとの声もありました。

  • ペアが好きなこと
  • ペアが得意なこと
  • ペアが大切にしている価値観
  • ペアの魅力

記入が済んだらシートをペアと交換し、ペアから見た自分を知ります。どうしてそう思ったのかを質問し合い、理解を深めます。

ペアから見た自分を知った後は、自分で自分の好きなこと、得意なこと、大切にしている価値観、魅力を言語化します。ペアからの意見との相違点を知ることで、他者から見た自分と自分自身で思っている自分に差があることにも気が付きました。自分では「他の人からもこう思われているだろう」と思っていたことが、そうではない事実を知る機会でした。

最後に、「自分は〇〇〇〇〇」という表現を考え、自分を定義します。その際、自分からこの要素がなくなると自分でなくなることを意識しました。

身近な多様性を知ること

第2回ワークショップでは、メンタルモデルを理解することで身近な多様性を知る時間を持ちました。

最初に、みんなで同じ動画を見ます。今回は、アメリカの都市部に住む10代の女の子がインドに初めて訪れた時の6分程度のショートムービーを見ました。それぞれの生活や人々が抱えている課題の違いに焦点をあてた動画です。

動画を見た後は、以下の問いが書かれたシートに記入します。

  1. 最も印象に残ったところ
  2. そのことに関連した過去の出来事と感情の記憶
  3. そこから見えてきた大切にしている価値観

動画の感想を共有するだけでは、似たような感想になる可能性がありますが、最も印象に残ったところは、ほぼ全員異なる場面を選択しています。

次に、グループで、シートに記入したことやどうしてそう思ったのかを対話を通して共有しました。全員が同じ動画を見ても、印象に残ったことやその理由、関連する過去の出来事などは異なるということを知りました。

その後の講義では、人にはそれぞれメンタルモデル(ものの見方)があること、メンタルモデルは過去の経験や感情から生まれるので、同じ環境で学んでいる生徒たちであっても、それぞれ異なること、メンタルモデルを通して相手のことを理解しているので、対話を通して「なぜそう思うのか」「どんな価値観があるのか」を話し合うことで、お互いをより深く理解できることを学びました。

これからの3年間でシェアド・リーダーシップを磨いていく生徒たちにとって、自分を知り、多様性から学び続けることがその第一歩となったと考えています。

今回ご紹介したワークは、大人が体験しても学びがあると言えますので、ぜひ実施していただければと思います。

教育への感謝

文部科学教育通信No.387 2016.5.16掲載

2010年から教育をテーマに、様々な活動を行ってきました。当時は、日本教育大学院大学の学長として、教員養成に関わり、同時に、ティーチフォージャパンの準備会にボランティアとして参加していました。現在は、昭和女子大学キャリアカレッジ学院長、未来教育会議実行委員会代表、認定NPO法人ティーチフォージャパン理事など幅広い立場で、教育に関わる活動に取り組んでいます。

1987年から89年の2年間ハーバードビジネススクール(HBS)に学びました。この2年間の経験が、私の人生を変えました。教育に貢献したいと思う背景には、教育への感謝の気持ちと、教育の持つ力に対する確信があるからです。

 

問いに対する答えを見つける

感謝の一つ目は、家業の存続のために、我々が何をすればよいのかを学んだことでした。

私が、ビジネススクールに留学した目的は、自社の事業が、将来は衰退産業となることが明らかな時、企業が存続するために経営者にはどのような選択肢があるのかという問いに対する答えを見つけることでした。当時はバブルの絶頂期。金融機関に金庫設備を販売する我が社の業績は上り調子でした。しかし、電子マネーの時代の到来は明らかで、将来的には、銀行の支店はATMに取って代わることが予測されました。どうすれば、我が社が100年企業として生き残れるのか。その答えを求めて、私はビジネススクールに留学しました。HBSでは、自社の社会における存在意義を軸に経営を行う大切さを学びました。存在意義とは、製品やサービスそのものではなく、それら通して会社がお客様に提供している価値のことでした。それまで、私は、金庫ではなく、どんな製品を売ればよいのかという視点で答えを探していましたが、存在意義に立ちかえれば、答えが捜しやすくなります。

帰国後は、HBSでの学びを活かし、金庫に縛られず、建物や空間全体のセキュリティを提供する事業へとシフトすることができ、電子マネーの時代にも、世の中に貢献できる企業として存続することが出来ました。

 

リフレクションの意味を学ぶ

第2の感謝は、OECDが21世紀を幸せに生きる力の要と定めるリフレクションを、大人が行う場に立ち会うことができたことです。当時の日本企業は、世界のスターでした。グローバル競争とは、欧米企業が、日本企業の脅威に立ち向かうことを意味していました。このため、私たち日本人は、日本企業のありようを説明する重要なリソースパーソンとしての役割を果たしていました。アメリカ人の学生は、アメリカの企業が日本から何を学ぶべきなのかを真摯に追及していました。後に、私の上司になる日本マクドナルドの創立者藤田田氏なども、インタビュー映像で授業に登場していました。アメリカ人が、素直に敗北を認め、勝者に学ぶ姿は真摯であり、また、これが終わりではないという自信を感じさせるものでした。リフレクションを行い、よいものからは学びとり、間違いは正し、更に先に発展していくという姿勢は、学生、教授、学校全体に共通するものでした。日本では、残念ながら、一度も、このような場面に遭遇したことはありません。

 

未来を予測する力を身に付ける

当時のビジネススクールには、すでに、中国や東欧などの共産圏から一人、二人と留学生が来ていました。アドミッションオフィスの責任者は、電話回線も安定していない国々から学生を入学させるために奔走していました。共産圏の人たちに、なぜビジネススクールの学びが必要なのだろうかと疑問を抱いていた所、1989年、ビジネススクールを卒業する年に、ベルリンの壁が崩壊しました。その時、私は始めて彼らが未来を創る動きに参画していたことを知ります。この出来事を機に、未来を予測したければ未来を創る人になるか、未来を創る人の動きを見るか、いずれかであるということを再認識しました。それ以来、ハーバードビジネススクールの動向を常に追いかけています。ビジネススクールの教育は、残念ながらビジネスの先に行くことはありません。常に、ビジネスが先を走り、その研究を通して成功の法則や新たな方向性を示してくれるのがビジネススクールです。

HBSは、進むべき方向性を判断するために、今日においても重要な役割を果たします。

2008年に100周年を迎えてHBSの記念イベントに参加し、大きな時代の変化を感じ取ることが出来ました。リーマンショックの直後、10月に行われた100周年員ベントは、混乱と混沌の中で進められましたが、講演者たちのメッセージには共通性があり、ビジネスの世界のパラダイムが変わることを実感することが出来ました。その事例をいくつかご紹介したいと思います。

 

公教育がビジネススクールのテーマとなる

人材育成に関する分科会のパネラーにはティーチフォーアメリカの創立者ウェンディコップ氏をはじめとする公教育の改革に取り組む社会起業家たちが登壇していました。あれから、8年が経過した今日、ティーチフォーアメリカの卒業生(ティーチフォーアメリカとは、アイビーリーグなどの大学を卒業した優秀な若者を2年間、貧困地域の学校の教師として派遣する団体。派遣数は年間1万人を超える)の多くがハーバードビジネススクールに学んでいます。

 

社会問題の解決が主要なテーマになる

当時も、すでに、ノーベル平和賞を受賞したモハメドユヌス氏をはじめとする社会起業家が世の中にたくさん生まれていましたが、当時、私は、この流れはまだビジネスの本流ではないという認識でした。しかし、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を創立したゲイツ氏が、ロックフェラーのことを徹底的に研究し、マイクロソフトを卒業した今、人生で何を成し遂げるのかを考え、「マラリアを無くした男として歴史に名を残す」と述べたことを聴き、社会問題の解決が、これから最も優秀な人材を魅了する付加価値の高い事業領域になっていくことを確信しました。また、リーマンショックを受け、クリントン政権時の元財務長官のローレンス・サマーズ氏が、解決すべき課題として富の格差に言及する様子からビジネススクールの役割が変わり始める予兆を感じました。

 

善い人を育てることがリーダーの仕事である

2014年には、同窓会に参加しイノベーションのジレンマで著名なクレイトン・クリステンセン先生の講演を聴く機会を持ちました。彼は同窓生に向かい、リーダーの究極の仕事は善い人を育てることではないかと語りました。善い目的を持つビジネスを創造する善きリーダーのもと、仕事を通して善い人は育ちます。

 

事業を通して貧困をなくす

2014年からは、ハーバードビジネススクールのグローバルアドバイザリーボードの一員として、最新のケーススタディを研究する会合に参加しています。参加した研究会で世界190カ国に事業を展開するユニリーバ社のリプトン紅茶事業が目指す持続可能な経営についてのケーススタディを行いました。ユニリーバ社は、2020年までに10億人の貧困をなくすことを事業目標に掲げています。この事業目標を達成するために、紅茶事業では、茶葉の調達活動の一環として、貧しい農家の生活環境の改善に取り組んでいます。このような最先端の取り組みについても、HBSの研究を通して学ぶことができます。

HBSは、卒業した後も、こうして常に私に未来の世界を指し示してくれる教育機関です。この学びを活かし、世の中に還元して行きたいと思います。

対話を通して相互学習する方法を学ぶ -神奈川県箱根町での実践-

文部科学教育通信NO.385 2016.4.11掲載

平成27年度より、神奈川県箱根町の幼稚園、保育園、認定こども園の全5園にピースフルスクールプログラム(以下PSP)を導入しています。

PSPは子どもたちの主体性と共生する力を伸ばすプログラムですが、レッスンを実施する大人も共に学び、実際にできるようになることを目指しています。

子どもと関わる大人の学習力が高く、PSPが教えることを体現できていると効果的であるため、導入園の先生方を対象とした研修も実施しており、3月には大人の学習に関する研修を行いました。

今回はその研修で学んだ「対話を通して相互学習する方法」について紹介いたします。

 

 メンタルモデル(ものの見方)を理解する

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「対話を通して互いに学ぶために必要なスキルは何でしょうか」と聞かれた時に、どのようなことを思い浮かべますか。

相手の話を落ち着いて聴くこと、自分とは異なる意見だと思っても否定せずに最後まで話を聴いてみること、よく理解できないことを質問すること、相手の発言を自分の言葉で言い換えることなど、コミュニケーションの仕方を意識する方が多いのではないでしょうか。

きちんと聴くことや質問することも対話を深めるためには必要なことですが、より大きな効果が見込めるのはお互いのメンタルモデルを知ることです。

メンタルモデルとは、一人ひとりがもつ「世の中の人や物事に関する前提」のことで、経験・感情・思考というステップがあります。
何かを経験すると、感情が芽生えます。その感情によって、その経験をしたことを意味づけ、評価判断や価値観に影響を与えます。
例えば、「教室をきれいに掃除したら先生から褒められた」という経験をした時に、褒められて嬉しかったというポジティブな感情が芽生えると、「きれいに掃除をすることは良いことだ」という価値観ができ、掃除をきれいにしているかどうかが評価判断の軸となります。

このように、メンタルモデルは過去の経験によって形成されるのです。

そして、私たちはこのメンタルモデルに当てはめて物事を理解しようとするので、「きれいに掃除をすることは良いことだ」というメンタルモデルを持っている人は、掃除を適当にしている人に対して「だめな人だ」という評価を下します。

しかし、掃除を適当にしている人が本当にだめな人なのでしょうか。もしかしたら、今日は体調が悪くて掃除ができないのかもしれません。何か悲しいことがあって掃除どころではない可能性もあります。

メンタルモデルは、見えるものや聞こえるものを限定してしまうので、「本当はどうなのか?」「なぜ、そう思うのか?」を考えることから私たちを遠ざけてしまうことがあるのです。

対話をする時に、自分と相手のメンタルモデルを意識すると、思い込みで判断することが減り、学びを広げることができます。

 

 同じ問いについて考えることで、自分と相手のメンタルモデルを知る

研修では「PSPが、園の子どもたちの成長にどのように役立つと思いますか?」という問いをもとに、自分と他者のメンタルモデルを探求しました。

まずは、問いに対して自分の考えをポストイットに書き出していきました。このような意見が出てきました。

 

・相手を受け止められる自分になる

・相手の立場で考えられるようになる

・相手の話をきちんと聴く

・自分の意見や気持ちを伝える

・自分自身を表現する

・嫌な時は嫌だと伝えることができる

・自分の価値観を押し付けすぎない

・みんな違ってみんな良いことを知る

・お互いに認め合う

・「自分」に囚われられない

 

研修には16名の先生が参加していましたが、同じようにPSPを実践していても異なるところに価値を見出していることがわかりました。

書き出した後、どのようなことを考えているのかを園ごとのグループで話し合いました。

そして、メンタルモデルを探求するために以下の問いが書かれたシートに自分の考えを記入しました。

 

1.話し合いを通して、最も強く印象に残ったこと

2.そのことに関連した過去の経験

3.そこから見えてきた、あなたが大切にしている価値観

 

シートに記入した後、1と2についてグループで意見を共有しました。この時間で、同じ話し合いの場にいても印象に残ることは人によって異なるということ、関連した過去の経験がその印象に残ることに影響を与えていること、経験は人それぞれ異なることを知ります。

その後、3の価値観について話し合う前に、対話の方法について学びました。

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対話をする時は、「なぜ、そう思うのか?」を常に意識することが大切です。相手がその意見を持つ背景には、どのような経験があるのでしょうか。そして、その人が大切にしている価値観は何なのでしょうか。相手に共感しながら尋ねることで、思い込みを手放して、新たな視点を得ることができます。これは相手に対してだけでなく、自分自身にとっても必要な問いです。自分がこの意見を持つ背景には、どんな経験があったのか。自分が大切にしている価値観って何だろう。常に内省しながら対話をすることが重要です。相手に共感し、自分自身を振り返りながら対話すると、意見の違いという表面上のことに縛られずにすむのです。

対話の方法について学んだ後、3の自分が大切にしている価値観をポストイットに書いて、グループで共有しました。日頃から一緒に仕事をしている間柄であっても、相手がどのようなことを考えているのか、さらにはどんな価値観を持っているのかまで理解する機会はなかなかありません。研修でも、「なるほど、だからそう思っていたのね」「意見は違っても、価値観は似ているね」といった新たな発見の声があがっていました。

このような対話を繰り返すことで、自分にはなかった新たな視点を手に入れ、学びを得ることができます。そのためには、評価判断を保留にする必要があります。

つい意見が異なると「あの人と私は合わない」「理解できない」と判断してコミュニケーションをとることを止めてしまうことがあると思いますが、「なぜ、そう思うのか?」とメンタルモデルに意識を向けることで、学びの機会とすることができます。このように評価判断を保留にして相手の話を聴くことができるチームは、多様性から多くのことを学ぶことができます。自分と相手のメンタルモデルを探求する対話は、新しい価値創造へと私たちを導いてくれるのです。このことがわかっていれば、異なる意見を持つ人や自分とは違った価値観を持つ人と何かを行うことを楽しむことができるようになります。多様な意見や価値観があるほど、学ぶ機会が増えるのです。

ぜひ日常の中で対話から相互学習する機会を増やしていただけると幸いです。

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原発事故から5年目のリフレクション

文部科学教育通信No.384 2016.3.28掲載

2012年9月に、「わかりやすい国会事故調プロジェクト」を発足して活動を始めました。当時プロジェクトに参加したのは、国会事故調報告書作成に従事した若手プロ集団と、大学生、社会人の18名です。現在、その活動は、高校生が中心となり行っています。ホームページでは、600ページにも及ぶ報告書を、15分の映像で解りやすく解説しています。東北大震災から5年が経過した今、この活動を振り返りたいと思います。

プロジェクト起ち上げ時の想い

私たちは、おそらく将来も世界史の教科書に残る福島原発事故の教訓から学ぶことが、これからの日本のために、とても大切なことであると考えています。
私たちは、原発事故の事実をまっすぐに見つめ、議論と対話を積み重ねることで、未来に関わる選択と意思決定を行いたいと考える良識ある人々が繋がることが、日本の未来にとって、とても大切なことだと考えています。
私たちは、以下の5つの問いに対する対話が、日本中で行われることを願っています。

  1. 福島原発事故では何が起こったのか。
  2. 福島原発事故の教訓とは何か。
  3. 何を残し、何をどう変えていかなければならないのか。
  4. どれだけの選択肢があり、選択肢がもたらす価値は何か。
  5. 短期的な視点と、長期的な視点で、私たちは個々人として何をするのか。

私たちは、最初の2つの問い「福島原発事故では何が起こったのか」「福島原発事故の教訓とは何か」を、一人でも多くの方たちと共有するために、情報発信や対話の場づくりを始めています。対話に参加して欲しいのは、未来を担う中学生、高校生、大学生、社会人です。 国会事故調報告書はこう述べています。「福島原子力発電所事故は終わっていない。不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員、国民一人一人の使命であると当委員会は確信する。」
一人一人の使命とは何かを一緒に考えませんか

プロジェクト発足の背景と私の願い

国会事故調査報告書は、その難解さにもかかわらず、私にとっては親しみのある存在でした。ティーチフォージャパンでお世話になってる黒川清先生と、10年来の友人の石橋哲さんが取り組まれたからです。このプロジェクトを立ち上げる決意をしたのは、石橋さんの慰労会と称して友人達が集まった2012年9月11日のこと。立派な報告書が完成し、これから、原発事故に関する国家レベルでのリフレクションが始まるものと思っていた私は、慰労会でお会いした石橋さんから想定外のお話を伺いました。霞ヶ関は、2011年12月16日に、すでに収束宣言を出しており、この報告書も、「無かったもの」になりそうだというのです。大人が、このような状態では、日本の子ども達は幸せになることができないという強い危機感を持ちました。世界の教育界では、21世紀を生きる子ども達にとって、核となる力が、リフレクションとメタ認知力と言われています。もし、大人が、原発事故の教訓から学ぶことができなければ、日本の子ども達は、リフレクションの意味を永遠に理解する事はできないでしょう。リフレクションは、責任の追及では有りません。報告書を過去のものとして忘却に帰するのではなく、そこを出発点としてこの問題をいかに解決していくかを議論し、今後の日本のあり方に反映していくことです。このテーマを身近に感じ、主体的に関わろうと考えてくださる方が増えることを心から願っています。

活動の思い出

この活動の中で最も心に残る活動は、高校生との活動でした。

2014年10月に、福島市で行われた第三回原子力対策関係国赤十字社会議赤十字国際会議で、各国赤十字社・赤新月社の関係者の皆様に対して、「わかりやすいプロジェクト」高校生チームが「1st STEP From Fukushima」をテーマに特別プレゼンテーションの機会をいただきました。

高校生のプレゼンテーションサマリ

今年6月、日本赤十字社と共同で「The 1st Step from Fukushima Project」を立ち上げました。このプロジェクトの一環として、8月に原発事故を福島からみた視点と「国会事故調報告書」には書かれていない事実 を理解するために、3.11に実際に関わった方たちのお話を聞くワークショップを福島で開催しました。ワークショップではいろいろな事実を聞くことができました。多くのお話が、原子力災害に対する事前の備えがなかったことが、結果として原発事故直後の被害と混乱をより大きくする原因につながったことを物語っていました。例えば、日本赤十字社の災害医療救護チームは、原子力災害時の活動ガイドラインがなかったため、被災者に十分な救護活動を提供することができませんでした。

また、福島の方たちが現在直面している多くの困難な状況も聞くことができました。震災関連死者数が地震や津波を直接の原因とする死者の数を上回ったことを知りショックを受けました。いつ帰れるか見通しがつかない中での仮設住宅での長い生活が、被災者の生活を脅かしています。他にも福島での複雑で難しい状況を知ることになりました。福島では、人間関係を壊しかねないことから3.11について話さないことが当たり前になっています。そして3.11について関心が無くほとんど忘れられつつある日本のほかの地域と同じように、福島においても3.11は人々の記憶から消えつつあります。福島の方々が3.11に関する話題を避けたい気持ちは理解できます。でも同時に、同様の事故を繰り返さないためには、事故のことを忘れないようにすることが大切です。福島第一原発事故の教訓をすべての人類が共有できる遺産とするためには、私たちの経験を話し合い伝えることが必要だと考えます。

また、発電所内での作業リスクが非常に高くなった3.11以降においても、高校を卒業した私たちと同世代の若者が、福島第一原発での仕事を選んでいることを聞いてショックを受けました。

なぜ?

事故は(私たちの同世代の)彼らのせいではないではないか?

大人の世代がやるべきなのではないのか?

「大人ができないなら、自分たちがやるしかない。」と、若い作業員が話していたと聞きました。

この言葉に私たちは目が覚めました。そして、私たちも福島における問題を「自分事」として考えるべきなんだと気づきました。私たち若い世代も、目の前の課題と向き合い始めなければならないのです。

今日の発表の目的は、福島の経験を説明することだけではなく、「The 1st Step from Fukushima Project」によって私たちのマインドセットがどのように変わったのかを伝えることです。福島での問題は、もう「他⼈事」として無視することはできない問題だと考えるようになったのです。

国際赤十字・赤新月社の皆さんに、原子力災害に対しての備えをお願いしたいと思います。皆さんが紛争や自然災害で人々を助けてきた経験や積み重ねてきた専門知識を、ガイドラインの作成に活かしてください。世界を変えていく連鎖を起す上で、皆さんがリーダーシップを発揮されることを期待しています。私たち高校生は、今私たちにできることをします。私たちはこれからも、私たちや私たちの将来、そして世界に対して責任を持つために、自分たちは何ができるのかを考えて行動していきます。

さいごに

今年、国会事故調元委員長黒川清先生が「規制の虜 グループシンクが日本を滅ぼす」という著書を出版されました。ぜひ、多くの皆様に読んでいただきたいです。

 

お茶の水女子大学附属小学校 第78回教育実際指導研究会 学びをひらく -”てつがくすること”を始めた子どもと教師-

文部科学教育通信No.383 2016.03.14掲載

2016年219日に、お茶の水女子大学附属小学校の第七十八回教育実際指導研究会が開催されました。
お茶の水女子大学附属小学校は、2015年度から四年間、文部科学省の研究開発指定を受けて、「教育課程全体で、人間性・道徳性と思考力とを関連づけて育む研究開発」を行っています。2008年以降は、公共性を育むための「シティズンシップ教育」の研究開発をベースに、子ども一人ひとりを尊重し、主体性を発揮できる環境をつくること、他者との相互作用によって生まれる共同的な学びを追求すること、民主主義の質を問い続ける市民を育成することを研究の目的とした実践を進め、2014年度からは「学びをひらく」をテーマとして、子どもと教師が思考し続けるための環境や方法を開発しています。

今年度は、新教科「てつがく」科の創設に向けた研修を進めています。
「てつがく」科とは、自明と思われる価値や事柄を「対話」や「討議」などの多様な言語活動を通して問い直し考える教科をめざしています。お互いの考えを聴き、しっかりと受け止めたうえで、自分の考えを問い直し、思考し続けることを大切にした”てつがくすること”を取り入れた授業を様々な教科の中で行っているのです。

このような研究の一環として、一年生の子どもたちにピースフルスクールプログラムを実践するという試みを201510月から始めています。一年生の段階で、自分の意見をお友達に伝えること、お友達の意見を聴くこと、意見の対立を恐れないことなどの”てつがくする”ために必要な力を育むことで、子どもたちが安心してじっくりと「人・モノ・こと」と関わることができるようになると考えています。

今回の教育実際指導研究会にて、一年生のクラスでピースフルスクールプログラムの公開研究授業を行いました。

今回はその様子をお伝えいたします。

 

 研究会までの取り組みについて

二月の研究会までに週二回程度ピースフルスクールプログラムを扱った授業を行ってきました。
一年生の子どもたちは、入学した四月から「サークル対話」や「共同推敲」などを行っているため、自分の意見を伝えること、お友達の意見を聴くこと、みんなで何かについて考えることといった経験を積んでいます。
このプログラムを通して、子どもたちがこれまでに学んできたことや経験してきたことを意味づけ、メタ認知すること。そして、自分たちの手で学級の諸問題を解決し、子どもたちにとっての社会である学級をつくる力を育てていきたいと担任の先生と共に考えています。

十月にピースフルスクールプログラムを開始した時、「わたしたちのクラスのルール」について考える授業を四回程度行いました。

自分が過去に通っていた園やおうちでのルールにはどのようなものがあるか。今通っている小学校のルール、クラスのルールにはどのようなものがあるかを振り返ります。そして、なぜそのルールがあるのかを考えます。子どもたちは自分の意見をみんなの前で発表し、他のお友達の意見に対して、さらに発言をすることを繰り返します。先生がフォローすることはありますが、先生からの問いに対して、自分たちで考える時間を大切にしています。ルールがなぜあるのかについて理解が進んだ時点で、自分たちのクラスをもっと居心地の良いクラスにするために、どのようなルールがあると良いかについて話し合います。

子どもたちは、自分の都合だけでなく、みんなの視点に立って考えることができていました。また、自分たちに守ることのできるルールの数やみんなが守ることのできるルールという観点でも話し合っていました。
ピースフルスクールの授業を通して、子どもたちひとり一人が、クラスに所属している以上、自分にできることをして貢献する必要があると理解していることがわかりました。そして、「今」と「大人になってから」をつなげて考えることができている子どももいました。自分だけが良くても、他の人が嫌な気持ちになることもあるということも理解できています。

次に、けなし言葉がもたらす影響について学びました。けなし言葉を言われるとどのような気持ちになるかを想像し、もしけなし言葉を使ってお友達と仲が悪くなってしまった時にどうしたら良いかを考えました。

また、相手から嫌なことを言われたり、された時に、「いやだから、やめてほしい」と自ら伝える必要があることも学びました。子どもたちは、よく「○○くんが私のことをからかってきます」と先生に言います。どのようなことが「からかい」なのか、子どもたちの考えを聴き、そのような時にどうしたら良いのか話し合いました。

子どもたちからは、以下の感想があがりました。

・嫌な気持ちになった時は、ちゃんと「やめて!」と言う。私がいやだと思うことはしない。

・「ばか」や「あほ」と言われるとすごく傷つく。誰かがけなし言葉を言ってきたら「いやだから、やめて!」と言うことを心がける。あと、私がわざとじゃなくてもけなし言葉を言ってしまったら、ちゃんと「ごめんね」と許してくれるまで言うし、けなし言葉はもう言わない。

・からかうことをよく考えたことはなかったけど、今日、私に「いやだから、やめて」と言ってきたら、「ごめんね」と言ってやめることがわかった。

その他に、自分とお友達の似ているところと違うところについてアクティビティを通して話し合ったり、先生が出した質問についてクラス全員で答えを考えることを通してお話をしっかり聴く練習をしています。答えがわかった時に「自分が答えたい!」という気持ちをセーブして、みんながわかるための質問をするのです。このようなレッスンを繰り返すことで、「何を大事にしたら良いのか」「何をしてはいけないのか」という価値観を子どもたちが納得したうえで身につけることができると考えています。

 

 対立とけんかの違いについて学ぶ

子どもたちは、ピースフルスクールのレッスンを通して、それぞれ意見を持つことの大切さや、お友達と意見が違っていても問題のないことを理解しています。

公開研究授業では、対立は意見が違うことが原因で起きるので悪いことではないこと、その対立をけんかやいじめに発展させず、対立を自分たちで建設的に解決するために何ができるのかについて学びました。
子どもたちが話し合う題材として、ライオンとウサギのパペットを使って、子どもたちの身近に起きる対立の事例を扱いました。

ウサギが子どもたちに「好きな遊び」について質問したいと言い、ライオンは「好きな食べ物」について質問したいと言います。どちらが先に質問するかを巡って、お互いに暴力をふるいけんかしてしまいました。

先生は子どもたちに、何が起きたのか、ウサギとライオンはどのような気持ちになっているか、どうしたら解決できるのかを質問します。

子どもたちは自分の考えをお友達に伝え、お友達の考えを聴くことで、なぜけんかになってしまったのか、どうしたら解決できるのかを考えていました。

自分の頭で考えることで、対立とけんかの違いについて納得することができます。このレッスンを通して、対立は生じて当たり前であるが、その後に言葉や力で攻撃を加えると、けんかになってしまうことを理解していました。

今までの自分たちに起きた対立とけんかの経験を思い出し、今後どうしたらいいのかについても考えます。

このように、意見やものの見方、考え方がそれぞれ違うこと、違っていることは当たり前であることを理解し、学んだことを日常生活で活かしていくことが、”てつがくすること”の基礎となると考えています。

引き続き、ピースフルスクールプログラムの学びが子どもたちにどのような影響を与えるかについて研究を進めたいと思います。

ピースフルスクールとアクティブ・ラーニングとの関係性 -佐賀県武雄市立武内小学校での公開授業-

文部科学教育通信No.382 2016.2.22掲載

2016年123日に、佐賀県武雄市立武内小学校(代田昭久校長)にてピースフルスクールプログラムの公開授業を行いました。

今回はその様子をお伝えいたします。

 

 なぜ、小学校にピースフルスクールプログラムを導入するのか

日本でのプログラムの開発と展開をスタートした二〇一三年に、佐賀県武雄市の教育監に就任された代田昭久先生とお話する機会があり、ピースフルスクールの特徴や魅力をお伝えしたところ、対立を恐れることなく自分の意見を伝え、話し合いで問題を解決する力を身につけるといったプログラムの特徴に共感いただきました。

その後、二〇一四年度から代田先生が校長を務められる武雄市立武内小学校の先生方にプログラムをご紹介いただき、子ども同士の対話力の向上を目指している学校の実態や先生方のお話を受けて、二〇一四年度より導入することが決まりました。

小学校を見学した際、好奇心が旺盛で、他者と関わることを前向きに捉えている子どもが多いと感じました。異質な人や事柄を排除し、誰かをいじめるといった課題も見受けられませんでした。しかし、先生方とお話していると、各学年二十人程といった少人数の限られたコミュニティのなかで、同調圧力がかかりやすく、多様化しにくいという課題があることがわかりました。人間関係が固定化しやすく、異なる意見や考えを持っていても、それを相手に伝えることが苦手である児童が多かったのです。

また、武内小学校ではアクティブ・ラーニングの一種であるスマイル学習(武雄式反転授業)を導入しているので、子ども同士の協同学習(学び合い)がさかんです。この協同学習では、話し合いがベースとなっているため、より学習効果を高めるためにも、ピースフルスクールプログラムを通して、同調圧力に負けず自分の意見を伝え、意見が対立した時は話し合いでより良い答えを探す力を身につけることが大切になります。このような願いがあり、プログラムの導入が始まりました。

 

 対立をどのように解決したら良いのか、子どもたちが考える時間

この日、武内小学校の三年生はウィンとルーズの関係について学びました。
これまでの授業で子どもたちは、自分の意見を持つことの大切さ、価値観や今までの経験がみんな異なるため意見が一人ひとり異なることは当たり前だということ、お友達と対立した時にはケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決した方が良いことなどを学んでいます。

今回の授業では、対立を話し合いで解決する時のパターンについて扱いました。
まずは、対立している双方がどちらも満足する「ウィン・ウィン解決」、双方が不満足の「ルーズ・ルーズ解決」、どちらか一方だけが満足しもう一方の人は不満足な「ウィン・ルーズ解決」があることを認識させるために、トラとサルのパペットを使って一台のすべり台を巡って言い争うシーンを子どもたちに見せます。

言い争いが続いてどちらもすべり台を滑ることができなかったら「ルーズ・ルーズ解決」であること。一方だけが滑ってもう一方が我慢していたら「ウィン・ルーズ解決」であること。二人が話し合って交互に滑ることができたら「ウィン・ウィン解決」であること。

ただ単に用語を説明するのではなく、子どもたちの身近に起きる事例をもとに3つの解決方法について理解を深めます。

その後、どう頑張ってみても「ウィン・ウィン解決」ができないケースを扱いました。

ちょうど子どもたちが来年度からのクラブについて考える時期であることから、一人しか入れないクラブに二人が一緒に入りたいというシチュエーションについて考えます。

トラとサルは二人で一緒にクラブに入りたいので、どのようなクラブがあるのか検討していたところ、スポーツクラブだったら二人が満足できるという話になりました。しかし、スポーツクラブは一人分の空きしかなく、二人同時に入ることはできません。

この時のウィン・ウィン解決は、二人で一緒にスポーツクラブに入ることですが、それができないため、どうしたら良いかを考えます。

子どもたちは二人組になって解決策について話し合います。「トラとサルは、”二人で一緒に”クラブに入りたいのだから、スポーツクラブは無理でも、違うクラブに二人で入ったら少しは満足できるかも」、「話し合って、どちらかだけでもスポーツクラブに入るとどうだろう?」といった話し合いがなされていました。

その後の発表では「我慢して一年後にスポーツクラブに入る」や「一人が譲って、別のクラブに入る」などの意見が出ました。ここで、先生は子どもたちに「妥協」という解決の仕方を教えます。「今年はスポーツクラブに入るのを我慢して別のクラブに二人で入って、一年後に二人でスポーツクラブに一緒に入る」という妥協案も出ました。

先生は、子どもたちの日常で起きている対立を例に挙げ、その時の解決の仕方が「妥協」であったことを指摘します。子どもたちからは「どちらか一方だけが満足して、もう一方が残念な気持ちになるよりも、お互いが少しずつ満足になる”妥協”も時には大事なんだね」や、「”妥協”はどうしたら良いかわからない時のお助けの役割みたいだね」という発言がありました。

このように、子どもたちの日常で起きることを丁寧に紐解いて、どのようにしていくのが良いかを子ども自身に考えさせ、考えたことや学んだことを授業や日常生活で活かすということを繰り返し行っています。

 

 ピースフルスクールはアクティブ・ラーニングの基礎である

武内小学校の先生からは、「ピースフルスクールプログラムはアクティブ・ラーニングの基礎であり前提です。アクティブ・ラーニングの中心は子ども同士の話し合い、学び合いですが、積極的に意見を言えば対立が起こります。時にそれは相手の人格否定にまで達しますが、それでは協働学習は成り立ちません。ピースフルスクールプログラムを通して、一人ひとりの顔が違うように意見も違って当たり前だということ、お友達と意見が違っていてもお友達でいられること、意見の対立は話し合いでわかり合うことができ、より理解を深めることにつながるので、むしろ素晴らしいことを子どもたちに認識させ、対立を乗り越える具体的なスキルを教えています」と評価いただいています。

アクティブ・ラーニングのように学びの手法と併せて、ピースフルスクールのような考えが教育現場に広がることを願っています。


21世紀学び研究所

文部科学教育通信No.381 2016.2.8掲載

昨年、未来教育会議という活動を通して、2030年の教育の未来シナリオを描きました。

学習指導要領の改訂や、大学受験改革など教育を変える大きなうねりが生まれていると感じます。しかし、未来教育会議で作成した教育の未来シナリオはあまりポジティブな未来の姿になりませんでした。21世紀スキルを画一的に学ぶ学校という姿は当分変わりそうにありません。21世紀の学びの要は主体性です。しかし、画一的に学ぶ学校では、主体性を育むことがとても困難です。このような矛盾を抱えた教育では、子どもたちに21世紀スキルを届けることができないと考え、21世紀学び研究所を起ち上げることになりました。

 

 教育と社会(企業)は双子

教育の未来シナリオを描く過程でもう1つ明らかになった重要なことは、教育と社会が双子の関係にあるという事実でした。特に、社会に大きな影響力を持つ企業の姿が教育にそっくりなのです。指示命令と評価を重視し、上下関係を重んじ、物事を数値で測定し、マニュアルで管理し、生産性と効率を追求します。これらは、企業活動のある側面においては重要であることは間違いないのですが、人が個人として意思を持つことや、意見を述べることがなく、経営目標を到達するために期待に応えることが全てという環境下では、本来誰もが持っている創造性や革新性を活かす機会がありません。社会は、若者にリスクをとる勇気を求めますが、企業においてリスクをとる事は賢い人間の選択する道ではないのです。

 

 企業にはイノベーションが求められる時代

企業にはイノベーションが求められる時代です。グローバル経済の発展により、ビジネスチャンスが広がりを見せたと同時に、企業間の競争は激化しています。ITや人工知能の発展により、約50%の仕事が消滅すると言われています。会計士や弁護士、医師といった専門性の高い職業においても、部分的な仕事は機械に取って代わると言われています。テクノロジーと人間の境界線が消滅し、テクノロジーがルーティン業務を引き受け、人間は創造性が必要な業務に携わるといった時代が到来します。

 

 日本企業のイノベーション力

日本企業のイノベーション力を時価総額で眺めてみましょう。グーグル一社の時価総額579000ドルに対して、ソフトバンクを筆頭に日本のIT企業トップ10社の時価総額を併せても、168476ドルと約3分の1の規模であることが解ります。時価総額だけがイノベーション力を評価する物差しではないかもしれませんが、産業構造が転換する今、新しいビジネスを創出することが日本の未来を明るくすることに繋がります。

 

 クリエイティビティに自信がもてない

日本のクリエイティビティは世界でも高い評価を得ています。アニメや和食、ファッションなど日本人の感性が世界で高く評価される中、日本人の44%が、自分は創造する人ではないと考えています。アメリカでは71%の人が自分は創造する人だと考えているそうです。

 

21世紀の学び

21世紀の学びは、主体性を土台としています。自らの意志で問題を発見し、知識を活かし、試行錯誤を通して創造的に問題を解決していく力を身に付けることを狙いとしています。イノベーションや変化を起こす力、複雑な問題を解決する力が必要になります。そのために、世界ではさまざまな教材が用意されています。代表例としては、デザイン思考やシステム思考があります。世界では、学校教育への導入とともに、社会でも幅広い問題解決に活用されています。日本にも、関連する書籍が多く販売されていますが、なぜか世界で広がりを見せているこの2つの思考法がなかなか広がりをみせません。

そこで、21世紀学び研究所では、「21世紀のOS」というものを広める活動をスタートすることにしました。デザイン思考やシステム思考がアプリケーションだとすれば、そのアプリケーションを活用するためのOSが必要だという発想です。デザイン思考もシステム思考も、問題を解決するためのプロセスを示し、思考の枠組みを示しているのですが、それをどう活用するかについては、本を読むだけでは理解することができません。目的に併せて自ら活用方法を考えて活用し、その成果を振り返り、活用方法を開発していく必要があります。自ら考え、実践し、試行錯誤を繰り返すという21世紀の学び方よりも、20世紀のように「答えを示してもらえばその通り反復します」という学び方の方が心地良いというのが本音でしょうか。しかし、その考えでは21世紀を生き抜くことはできないのです。

 

 6つの力を「OS21]と定義する

 

1)動機の源を活かす

2)深く考える

3)感情をメタ認知する

4)内省する

5)多様性から学ぶ

6)人を育てる

 

6つの力の解説については、20世紀型のOSと対比した表を作成しましたので、こちらを参照してください。

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 OS21の特徴

OS21は、誰もが潜在的に持っている力であり、一人ひとり異なります。OS21は、動的であり、人生を通して変化していくものです。

OS21は、自分についての理解を深める力でもあります。自分の知っていること、知らないことを認知する力であり、知らない世界と積極的に対話をする力です。自分を知ろうとしない人が対話をしても、それほど多くの学びがありません。すべては自分を知るところから始まります。

 

どんな人に役に立つプログラムか

  • セルフラーナー(自律的学習者)になりたい人

  • 人として成熟を目指したい人

  • 前例を踏襲しない、新たな視点を持ちたい人

  • イノベーションを起こしたい人

  • 複雑な問題を解決したい人

  • 学習する組織を創りたい人

  • アントレプレナーシップやリーダーシップを磨きたい人

  • 100年に一度のパラダイムシフトの時代を楽しみたい人

 

今、世界では100年に一度のパラダイムシフトが起きていると言います。20世紀とは全く異なる21世紀の世界を創ろうと多くの人たちがイノベーションに参画しています。

アインシュタインは、「問題を起こした時の思考では、その問題を解決することができない」と言います。そういう意味では、このパラダイムシフトを受け身ではなく、能動的に生き抜きたいと思うすべての人にとってOS21は有益ではないかと思います。

未来教育会議 二十一世紀未来企業プロジェクトワークショップ

文部科学教育通信No.380 2016.1.25掲載

「未来教育会議」という未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を、多様なマルチステークホルダーで共に考え、共に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトを、2013年に株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に立ち上げました。

2014年度は教育の未来について考え、「2030年の社会と教育のシナリオ」を作成しました。(第33回、第34回参照)

2015年度は、企業・行政・先生・NPO・学生などのマルチステークホルダーで、「不確実な未来への準備として2030年の社会・企業・人のあり方を考える」をテーマに、2030年にはどのような社会が訪れるのか、2030年に賞賛され、生き残る企業とはどのような企業か、2030年の未来企業の働き方はどのようになっているのか、未来企業のもつべき価値観とはどんな価値観かを考えるプロジェクトをスタートいたしました。(第35回参照)

10月にキックオフワークショップ、11月に第2回ワークショップ、12月に第3回ワークショップを実施しています。ワークショップまでの期間は、キックオフで表明したそれぞれの興味ごとに分かれてスタディツアーを行いました。

「テクノロジー、サステナビリティ・自然環境、労働・雇用・ダイバーシティ、イノベーション・起業、経済・産業構造、政治・安全保障」のチームに分かれています。

今回は、このプロジェクトで実施したワークショップについてご紹介いたします。

未来をつくるのは私たち自身である

このプロジェクトでは、キーノートスピーチや国内外のスタディツアー、メンバー同士のダイアログを通して、最終的には2030年に生き残る社会、企業、人のあり方のベースシナリオを描き、各企業への戦略的示唆を得ることを目標としています。そのために、今見えていることと見えていないことの両方から2030年の未来を考え、「未来は誰かに与えられるものではない。未来をつくるのは、私たち自身である」ことに気が付き、アクションを起こしていくことを大切にしています。

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ベースシナリオとは、未来予測の正しい答えではありません。未来の変化に対応できるかどうかの問いです。今後の世界を動かす重要な政治、経済的なイベント、主要な登場人物や組織、彼らの意図、世界を動かすロジックを抽出し、そこから複数の未来像を描きます。その過程では、確実なことは共通させるが、不確実な要素によってシナリオを分岐させ、違った未来を描いていくのです。

ベースシナリオを描く時の三つの視点は、以下の通りです。

  • 未来の社会
    ・今後、世界を動かしうる要因となるだろう政治・経済のトビックス、地球イシューとそこに流れるロジックとは
    ・ITによるイノベーションはどんな未来社会をもたらすか
    ・人口動態はどんな未来社会をもたらすか

  • 未来の企業
    ・21世紀に賞賛されるグローバル企業が果たすべき役割とは
    ・中長期視点をどのように経営に取り入れるか
    ・持続可能性と成長を実現するための視点とは

  • 未来の人
    ・21世紀未来企業の新しい「働き方」とは
    ・21世紀型グローバルリーダーシップ人材とは
    ・そうした人材を育てるための教育のあり方とは

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これらの視点をもとに、キーノートスピーチやスタディツアーなどを行っています。

シナリオをつくる過程も特徴的です。これまでのシナリオプランニングは、単一の企業が外部環境変化に対応し、生き残るためのアプローチとして行われることがほとんどでした。今回は、マルチステークホルダーと共にシナリオを描くプロセスことで、外部環境を対象化して見る世界観から外部環境自体に関わり、さらには創りだしていくアプローチへと移行しています。

ロイヤル・ダッチ・シェル社が行っているシナリオプランニングが、後者の例として適切です。生き馬の目を抜く「知略」と大局に立った「筋書き」が求められるエネルギー業界において、ロイヤル・ダッチ・シェル社が世界屈指のエネルギーメジャーであり続けられる理由のひとつとして挙げられる「シナリオプランニング」。最新のシナリオプランニングは、「単一の企業やセクター」での実施から、関連するステークホルダーと共にしたプロセスで

シナリオを描くことで、より深く精緻な探究と、さらには外部環境自体に働きかけ創りだしていくことへと発展を遂げています。

このように、一社だけの生き残りに焦点をあてるのではなく、大きな視野と種類の異なる視点を持ち合わせることで、より現実的なシナリオをつくることができるのです。

また、未来のベースシナリオをより豊かに描くには、影響力のある主体者による、多様な視点でつくることが不可欠であるため、未来教育会議では共創型でシナリオプランニングを行うことを大切にしており、企業、行政、学生、メディア、NPONGOなど、様々なセクターの方にご参加いただいています。

3.jpgスタディーツアーで学んだことの共有

12月に実施したワークショップでは、それぞれのチームが実施したスタディツアーで学んだことを他のメンバーに共有し、未来の社会・企業・人を洞察するにあたって、大切だと感じられる”問い”を考える時間を持ちました。

 

新しい働き方(イノベーション)についての班では、古い組織が変わるチャンスがイノベーションにはあるのではないか、時代に早からず遅からず、よいタイミングでついていくのが難しいのでは、会社として目の前の課題に対応しつつ、どこにリソースを投資していくかを考える必要性があるといった話がでました。

テクノロジーの班では、今の教育でICTを使いこなせる人材ができるはずなのに、現場の状態と乖離しているために浸透できていないこと、子ども同士がコミュニケーションとれず自分たちの問題を解決できない子が増えているのに、この部分を育てずに人工知能などの話が進むのはどうなのか、といった話があがりました。

現時点では、外部からのインプットを受けて発散と収束を繰り返しているフェーズですが、今後は未来の社会・企業人にインパクトを与える要因をシステムで捉えるために構造化し、シナリオプランニングへ移行する予定です。

ミネルバ大学 -100%アクティブ・ラーニングを提供する未来の大学-

文部教育科学通信No.379 2016.1.11掲載

複雑性・相互依存・テクノロジーの変化がキーワードとなる21世紀において、従来のインプット中心の授業ではなく、学習者が主体的に学ぶことのできる授業をデザインしている学校が増えています。

世界中から集まったクラスメイトと一緒に、四年間、世界の七つの国際都市に住みながら、現地の企業や行政機関、NPO等でのインターンを実施しているMinerva School at KGI(ミネルバ大学)という大学がアメリカにあり、100%アクティブ・ラーニングを提供している未来の大学として注目を集めています。

今回はミネルバ大学の日本での認知活動に携わっていらっしゃる山本秀樹さんにお話を伺ったのでご紹介いたします。

 

ミネルバ大学とは

 ミネルバ大学は、2014年9月にサンフランシスコで開校した全寮制の4年制総合大学です。1年目の授業は約3040%が最新のITプラットフォームを活用した反転授業形式のクラス、残りは現地の行政機関や企業、NPO等でのプロジェクト学習やインターンで行われます。

カリキュラム設計を担当したStephen Kosslyn教授は前ハーバード大学社会科学学部長で、認知科学と脳科学の分野で30年以上の研究実績があります。Kosslyn 教授は、カリキュラム設計にあたり、学部卒業生に求められる技能は、特定分野の専門知識ではなく、むしろその学生が将来どんな職業に就いても、活躍できる「学び方」だと考えました。そして、その4つの技能である、クリティカル思考、クリエイティブ思考、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力は知識のインプットではなく、継続的な実践とフィードバックによる鍛錬で習得できるとの考えに基づき、学生がこれらの技能を効果的に習得できる学習ツールの開発を依頼しました。

 

 Active Learning Formという新しい学習ツール

ミネルバ大学での授業(午前中に2コマ実施)は、全て18人以下のセミナー形式で行われます。学生は事前課題を提出した後に授業に臨みますが、授業の進行は従来の大学とは大きく異なります。

授業はActive Learning Formと呼ばれるオンラインプラットフォームを通じて行われます。この授業の特徴は、以下の特徴があります。

  1. 教師はファシリテーションに徹し、10分以上話していけない

  2. リアルのクラスでできる作業をより効率的に実施できる

  3. 全ての授業が記録され、何度でも見返すことができる

  4. 教師と学生の関係をより緊密にできる

    授業は議論を喚起するような質問から始まり、即座に全ての学生がどの主張を選択したかが共有され、スムーズにディベートに移行できます。少人数のグループワークも時間をロスすることなく、作業に移ることができます。

    さらに、教師はどの学生がどれだけ発言しているかを瞬時に把握できるため、全ての学生が参加する授業を提供できます。

    また、全ての授業が録画されており、学生一人ひとりに各授業での技能レベルをフィードバックすることができます。

    このように、Active Learning Formは従来のクラスではできなかった一人ひとりの学生の技能レベルや特徴を教師が把握し、記録された情報に基づき、教師間で共有することができます。これにより、教師は毎回の授業で学生により適切な質問を出すことができるのです。

    ツールを駆使して授業の質を向上させることで、全ての時間を学びに繋げることができていると言えます。

7つの国際都市で生活し、異文化を体感する

学生達は、事前学習やオンライン授業だけでなく、獲得した技能を実践し体得する機会を与えられます。彼らが滞在する各都市で、様々な提携団体とのプロジェクト学習や識者へのインタビュー、インターンが行われます。

サンフランシスコでは、マイクロファイナンスの会社や人権擁護団体のアクティビスト、自然科学博物館やサンフランシスコ市長室、ベンチャー・キャピタル等でのワークショップを経験し、1年生の最終プロジェクト(期末試験に代わるもの)ではWikipediaの新しいサービスを提案するというコンペティションが行われ、実際に同社の重役の前で成果発表を行いました。こうした授業は2年生以後、各滞在都市(ベルリン・ブエノスアイレス・ソウル・バンガロール・イスタンブール・ロンドン)で実施され、学生はプロジェクトに加え、それぞれの地域での働き方や文化の違いに柔軟に対応しながら成果を出す方法を体得します。

 

 多様性を確保するための仕組み

21世紀を幸せに生きるためには、多様性を尊重し、そこから学ぶことが必要です。

ミネルバ大学は学生が4つの技能を獲得する上で、国際性と多様性のある環境を重視しています。ある環境でとても有効である方法が別の環境では全く逆効果であるような体験をすること、異なる思想の下で育った者同士が同じ寮に住み、授業だけでなく生活を共にすることで、お互いの違いを乗り越える努力を継続する力を身につけることができると考えています。
キャンパスを持たず、最先端の施設を持つ機関と提携し、「学生に最良の機会」を提供するミネルバ大学の運営方針は、学校運営費を大幅に圧縮でき、学費を主な米国の私立大学の1/4程度である10,000ドル(約120万円)を実現し、多くの所得階層の学生が過度の学生ローンを負担することなく、就学することを可能にしました。

また、従来の米国の大学ではほとんど実施されていない、親の経済状況に応じた授業料全額免除制度を米国籍に限らず、留学生にも適用しています。さらに、入学審査を無料にし、SATや事前課題エッセイを採用しないことで、多様な国からの学生に受験機会を与えています。一切の枠(国籍、性別、人種他)を廃止し、試験を受けるための制約を低くしています。

入学審査は厳しく、2015年は世界160ヶ国から11,000名以上の受験者がおり、220名が合格、111名の第二期生が入学しましたが、これらの施策の結果、一期生と合わせた全学生の78%が米国籍以外の学生で、30ヶ国の出身という多様性を実現しています。

 

キャリアではなくプロフェッショナルとしての成長を

ミネルバ大学には高校時代に優秀な成績を収めているだけでなく、積極的に地域コミュニティに貢献してきた学生が少なくありません。各学生は、3~4年生の多くの時間を自分の卒業プロジェクトに費やします。学習メンターは、どのような職業に就いてもリーダーとしての役割を果たせるよう、様々なパブリックスピーキングの機会や地域コミュニティへの貢献を始めとする活動を自ら企画することを奨励します。

ミネルバ大学の一期生はこの夏、アショカ財団、MITメディアラボ、UBERといった各分野の最先端の研究機関、NPOや企業でインターンを行いました。

ミネルバ大学は、一期生の卒業後の進路について、欧米の様々な機関からアイドバイザーとして参画したい旨の打診を受けており、ミネルバ大学の教育方針に賛同する機関はますます増えていくと思います。

 

日本の大学教育への示唆

ミネルバ大学は、21世紀の社会に合った実学重視のカリキュラムのあり方、効率的な大学運営方法、グローバルレベルで起きている人材獲得競争という様々な観点で、日本の大学に参考になる点があると思います。

“93%の学部卒業生の雇用主が、学生がどんな学位を取得しているかよりも、複雑な問題をクリアできる素養である、クリティカル思考力と効果的なコミュニケーションを駆使し、人々を動かすことができる技能の方が重要だと考えている”という米国での調査結果は、日本でも外れていないと思います。

また、変化が早く、見通しを立てにくい国際社会の中で、独特の文化を発信していくこと、より緊密に繋がった周辺国や人の移動の低コスト化による異文化の相互理解の促進は、日本にとって2020年までの重要課題です。本記事が様々な教育分野の皆様の参考になれば幸いです。


幼児期から子どもたちの心を育てる -神奈川県箱根町の幼稚園でのピースフルスクールの実践-

文部科学教育通信No.377 2015.12.14掲載

平成27年度より、神奈川県箱根町の温泉幼稚園と箱根幼稚園でシチズンシップ教育ピースフルスクールプログラムの導入が始まりました。

幼稚園や保育園にプログラムを紹介する時、園の先生から、「遊びの中で子どもたちに必要なことは教えているから、レッスンの重要性がわからない」「幼稚園や保育園の子どもたちは特に問題があるわけではないから、なぜプログラムを導入する必要があるのかわからない」といったコメントをいただくことがあります。

今回、なぜピースフルスクールプログラムのような子どもたちの心を育てるプログラムが幼児期の子どもに必要なのか、文章にまとめたいと思います。

ぜひ、未就学児の姿だけでなく、彼らが小学生、中学生、高校生…大人になった時のことを想像しながら読んでいただけると幸いです。

 

非認知能力を伸ばすことができる

人間には、認知能力と非認知能力があります。IQに代表される認知能力に対して、非認知能力とは、主体性や共感力、自制心、コミュニケーション力などといったソーシャルスキルのことを指します。

米国経済学者であるジェームズ・ヘックマンが、「5歳までの教育が人の一生を左右する」と指摘しているように、就学後の教育の効率性を決めるのは就学前の教育にあるという研究があります。

IQなどで示されるテストを解く知能は、日々の生活の諸問題を解決する能力と必ずしも一緒ではありません。現実に起こる小さな問題や課題は状況によって変化するので、多様な側面に対応できる力が必要です。
そのため、主体性や共感力といった非認知能力、つまり子どもたちの心を育てることが大切なのです。

ピースフルスクールプログラムは、子どもたちの自尊心と自制心を育て、他者への共感力を高めることで、対立を子ども自身で解決するコミュニケーション力を養います。

 

安心安全な環境をつくることができる

子どもたちが主体的に学び、積極的に他者と関わるためには、安心できる環境と心の繋がりが必要です。子どもたちが「こんなことを言ったら、誰かに陰口(悪口)を言われるかもしれない」「失敗したら恥ずかしい」「目立ってしまったら、批判されるかも」といった不安や過度の緊張感を持つような環境では、子どもたちの主体性を育むことはできません。

子どもたちの心を育てることで、園や学校が安心安全な環境となり、勉強や課外活動に注力できるようになります。心の成長と学力は連動しているのです。

 

体系立っているから、抜け漏れなく学ぶことができる

ピースフルスクールは6つのユニットからなるプログラムで、「21世紀を幸せに生きるために必要な力」を抜けもれなく伸ばすことができます。

「遊びや日常生活の中で争いや問題が起きた時に都度子どもたちに大切なことを教えているので、レッスンをしなくても構わないのでは?」とおっしゃる先生がいらっしゃいます。これはとても大切なことであり、素晴らしいことだと思いますが、必ずしもそれだけで事足りるとは考えていません。
なぜなら、たまたま何も起こらないと大切なことを伝える機会が生じず、子どもたちが大切なことに気付かないままになっていることがあるからです。
つまり、抜け漏れが生じるリスクがあるのです。

また、けんかやいじめといった争いや問題が起きた時は、問題への対処に意識がいきがちなので、落ち着いてどうしたらよいのかを学ぶことができません。
人間は安心安全な環境でないと主体的に学ぶことができないので、あえてレッスンの時間を設け、落ち着いて学ぶ機会をつくることが大切です。 

遊びの中で大切なことを都度教えるという習慣に加えて、レッスンを学びの指針とすることが大事です。
ピースフルスクールでも、レッスンで「何がよいことなのか、何が悪いことなのか」「どうしていけばよいのか」を確認した後は、遊びを含む日常生活で学びを実践しています。

レッスン内容を子どもたちに教えながら、「うちの子どもたちは、これはできている子が多いな」 「ここは今までに教えたことがなかったな」 「これは苦手な子が多いな」などと、今までのことを振り返っていただき、遊びを含む日常生活に活かしていただきたいです。

 

得意な子だけではなく、みんなができるようになる

どの園や学校にも、コミュニケーション力が高く、ピースフルスクールが教えることが既にできている子どもがいます。このような子どもがクラスの問題解決に貢献し、いじめられているお友達のことを助けるケースもありますが、このようなことが苦手な子を含む全員ができるようになることが必要だと考えています。

もちろん、苦手な子がすぐに何でもできるようになるわけではありません。小さなステップを踏んで、繰り返し学ぶことが必要です。このプログラムは、子どもたちに必要な力を小さなステップで教えています。そして、日常の遊びの中でレッスンでの学びを思い出して使ってみることで、繰り返し学ぶことができます。そうすると、最初は苦手だった子も、少しずつできるようになるのです。

得意な子どもにはその能力を伸ばす機会となるように。苦手な子どもは、少しずつでもできるようになるために。

プログラムを開始してすぐに効果が表れるわけではありませんが、継続して行うことで、子どもたちが大きくなった時に違いが出てくると思います。

 

いじめなどの問題に対して対処療法ではなく根本的な対策ができる

問題が起きてから対策をするのでは、対処療法となってしまいます。
残念ながら、中学校や高校でピースフルスクールの授業をしていると、「本音と建て前」が当たり前になっている状況に出くわすことがあります。授業では、「いじめはよくないから、話し合いで解決できるようにしたい」 「傍観者になるのではなく、問題を解決できる人になる」という発言があるにも関わらず、実際は「いじめがよくないことは頭では理解できるけれど、解決するために行動したら、次は自分が標的になるかもしれないから、関わらない方が安全だ」という思いがあるのです。

子どもたちが「もうどうしようもない」という無力感に苛まれ、不安な思いで学校に通う日が来る前に、今できることを少しずつ積み重ねて、大人になっても困らないようにできるとよいと考えています。

多くの場合、けんかなどの問題解決に大人が介入している(「そんなことをしてはいけません」「○○ちゃんが悪いから、ごめんなさいって謝らないといけないよ」などの発言が、どの園や学校でも多いです)ので、子どもたち自身で問題を解決する力が養われません。
悪いことをした子がいたとしても、何がよくて、何が悪いのかを教わっていないから、何度も同じような問題を繰り返してしまいます。

子どもたちの心を育てることで対処療法ではなく根本的な対策をとることができます。

 

大人になるための準備ができる

ひとりの子どもが大人になるまでの間に、様々な教育機関に通います。
それぞれの園や学校に在籍している間は、その園や学校の先生が子どもたちの成長を見守り、指導します。表面上は、子どもたちに対する責任をその園や学校が担っているからです。

園や学校を卒業すると、子どもたちに対する責任は次の進学先にうつりますが、子どもはひとりの人間として大人になります。

青年へと成長して無責任な言動を起こす前に、子どもたちにとって必要な力を身につけるために働きかけることは重要です。幼稚園や保育園の子どもだけをイメージしているとわかりにくいのですが、小学生や中学生の子どもを想像してください。
今、多くの小学校や中学校では、いじめ・孤独感・主体性の低下・キレる・無力感・不登校といった問題が起きています。これらの問題は小学校や中学校だけの責任ではなく、子どもが生まれてから関わる全ての人の責任であると考えています。
小学校や中学校に進学する前の幼児期から継続的に子どもたちの心を育てることで、小学校以上で起きる問題を防止することができるのです。

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