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ホラクラシーⓇ研修

文部教育科学通信 2017.12.11掲載

非管理型組織の創り方を学ぶホラクラシー研修に参加しました。2日間の研修の講師は、ホラクラシーという組織運営法を開発したアメリカ人のトム・トミソンさんと、ヨーロッパでホラクラシーを広めているオーストリア人のクリスティアーネ・ソイス・シェッラーさんです。この研修を通して、改めて時代の変化が着実に起きていることを実感しました。

 

ホラクラシーが生まれた背景

変化する時代の中で、100年以上前と変わらないヒエラルキー組織に限界が来ているというのが、開発者であるトムの課題認識です。起業家でもあるトムは、過去に6社の起業をしており、その経験を通して、従来型の組織の限界を感じたそうです。同時に、21世紀に入り、経営環境が大きく変化する中で、ヒエラルキー組織で働く人々は、自分の仕事に高いモチベーションを保つことが困難であると感じていたり、メンタルの問題を抱えていると言います。ヒエラルキー組織で人々が感じる窮屈さや不自由さから人々を解放し、組織としてもよい成果を出すことができる新しい組織のあり方を追求した結果生まれたのが、非管理型組織ホラクラシーです。これまでも、ティールをはじめとする様々な非管理型組織の形式が生まれています。トムは、これらの先行事例から学び、それをフレームワークに落とし込み、誰もが学び、実践することを可能にしました。

 

テクノロジー革新による民主化の流れ

インターネットの時代になり、世界の民主化は進みました。インターネットにアクセスすることができれば、年齢や階層、性別に関わらず、すべての情報にアクセスすることができ、同時に、誰もが媒体広告の枠を購入しなくても世界に発信することが可能になりました。

 

メインフレームの時代からパソコンの時代に変わり、情報格差が権威を支える時代が終わったと言われました。しかし、企業における情報共有は、当初想定していたほど進まなかったというのが実情ではないかと思います。ヒエラルキー構造で権威を持つ人々にとって、情報共有を行うメリットは限定的で、テクノロジー革新を100%経営に生かす経営者は、現れませんでした。経営者の多くが、デジタルネイティブ(生まれた時からネット環境がある世代)ではないことも理由かもしれません。

 

ホラクラシー経営は、テクノロジー革新の恩恵を100%活かし、情報の透明性を目指します。その意味で、ホラクラシー経営は、企業経営の「民主化」とも言えます。

 

学習する組織

ホラクラシー組織の根底には、学習する組織論があります。学習する組織とは、1990年にマサチューセッツ工科大学のピーター・センゲ氏による著書”The Fifth Discipline”(邦題「最強組織の法則」)で紹介され、世界中の経営に大きな影響を与えた組織論です。長年、私の信条とも言える学習する組織は、起こりうる最良の未来を実現するために人々が気づきと能力を高め続ける組織です。人々が高い目的意識と学習能力を持つことで、学習する組織が実現します。ホラクラシー組織においても、学習する組織の手法が生かされています。

 

パーソナルマスタリー

「私はなぜここにいるのか」「私は何を実現したいのか」それが仕事であっても、オートパイロットで仕事に没入するのではなく、自分自身のあり方を問い、心の声に耳を傾け、自分なりに明確な目的意識を持ち、物事に向かうという主体性を求めます。これを、学習する組織では、パーソナルマスタリーと呼びます。学習する組織の始まりは、パーソナルマスタリーを持つ個人であり、受身で動く人々の集団が学習する組織を実現することはできません。このため、従来のヒエラルキー組織が、学習する組織になるためには様々な工夫が必要になります。米国のGEは、30万人近い従業員を持つヒエラルキー組織で学習する組織を実現していますので、それは、決して不可能なことではありません。

 

共有ビジョン

学習する組織では、どの単位でも人が集団で物事を進める上で、ビジョンが共有されています。ビジョンは、厳密には3つの要素に、分かれます。①我々の使命は何か、②我々は、何を実現したいのか(ゴール)、③我々が大事にしている価値観は何か この3つのことについて誰もが合意をした形で物事が動きます。そのためには、集団のものであるビジョンが、個人のものになる必要があります。学習する組織では、集団のビジョンが、自分にとってなぜ大切なのか、そのために自分は何に取り組むのかを、誰もが私を主語に語ることができます。

 

クリエイティブテンション

学習する組織は、クリエイティブテンションで動きます。クリエイティブテンションとは、現状と有りたい姿にギャップが存在する時に生まれる緊張感のことです。理想の状態でない現状に対して、イラッとしたり、不満やストレスを感じることがあります。これは、理想の姿に向かいたいという欲求がもたらす緊張感の表れです。その際に、しかたがないと考え、その緊張感を開放するという処理の仕方もありますが、学習する組織では、どうすれば理想を創れるかを人々が考え始めます。我々が自ら課題を発見し、課題解決に向かう行為の前提には、必ずこのクリエイティブテンションがあります。

 

ホラクラシーとは

ホラクラシーは、非管理型組織を実現したい人々が、管理型組織からどのように移行すれば良いのかをガイドする手法です。最近では、起業の段階から、非管理型組織を目指す人々も現れていて、その場合には、出資者やオーナーという概念まで取り除き、既存の会社組織に存在する全ての潜在的なヒエラルキー概念を取除く法人運営を実現しています。

 

トムに、既存の企業の中でどのような企業が非管理型組織を選択するのかと尋ねたところ、従来型のヒエラルキー組織では、企業の成長に限界があり、同時に、個人も強いストレスにさらされている組織だそうです。非管理型組織に移行することにより、企業は高い生産性と持続可能な成長を手に入れ、個人は、自由と安心を手に入れるというのです。

 

ボスはパーパス(目的)

従来の管理型組織では、ボスは上司である管理者ということになりますが、非管理型組織には、上司が存在しません。全ての人々が自分の役割に対して、権限を持ち、主体的に考え行動することができます。その際に、指針となるのが、組織のパーパスであり、組織における自分の役割のパーパスです。何のために存在するのか、何を実現するのか、成功の評価軸は何かは、全てパーパスを指針に判断することになります。

 

役割と権威

非管理型組織では、一人ひとりが、役割と権限を持ち、自分の役割においての意思決定は全て行います。それでは、間違ってしまうことがあるのではという不安を感じる方もいるもしれませんが、心配には及びません。課題があると、誰かが気づき声をあげます。一人ひとりが、パーパス(目的)に意識を向けて入れば、理想の姿とは違う現状を発見すると、クリエイティブテンションが生まれ、課題を解決する方向に組織は向います。ホラクラシーは個人の主体性が開花する21世紀型組織の一つの強力なモデルではないかと思います。

非管理型組織の創り方を学ぶ ホラクラシーR研修資料より引用

 

 

 

 

 

 

リーン・イン・東京のイベント

文部教育科学通信 2017.11.27掲載

11月12日にリーン・イン・東京が主催するスペシャルイベントにファシリテーターとして参加いたしました。

 

リーン・インとは

リーン・インとは、「勇気を持って一歩踏み出そう」という意味で、この言葉を世界に広めたのは、現在フェイスブックのCOOを勤めるシェリル・サンドバーグ氏です。2013年に出版された著書「リーン・イン」に、世界中の若者が賛同し、各地で、リーン・イン・コミュニティが生まれています。リーン・イン・東京も、その団体のひとつです。

 

アメリカの女性活躍の現実

サンドバーグ氏が出版を決意した背景には、アメリカでも女性活躍が進まないという現実があります。フォーチュン500企業のうち女性が最高経営責任者(CEO)の座に就いているのは23社のみで、役員クラスの役職に占める女性の割合は14%です。国会議員に占める女性の割合は18%です。

 

アメリカで女性活躍が進まない理由に、ガラスの天井などの外的要因もありますが、サンドバーグ氏は、その著書の中で、女性の社会進出が進まない理由に、女性自身が持つ心の壁があると指摘しました。「私達女性は、自信に欠けていたり、手を挙げなかったり、乗り出すべきときに身を引いたりと、大なり小なり自制して行動してしまっている」と、ご自身の体験も踏まえて語りました。そこで、女性が社会で活躍するためには、女性も勇気を持って、一歩踏み出そう(リーン・イン)というメッセージを発信しています。

 

理想の世界の実現に向けて

サンドバーク氏が女性の弱みについてオープンに語ってくれたことに、私は心より感謝しています。社会的に成功した女性は、これまで女性の弱みを口にすることはありませんでした。

女性が国や企業の半分の舵取りをし、男性が家庭の半分を代表する存在となる、真の平等が実現すれば、社会は人的資本と才能の全てを取り込むことができ、国家や企業全体としてのパフォーマンスが上がるというのが彼女の考えです。そのためには、社会のあり方も変わる必要があるが、女性自身も変わる必要があるというのが彼女の提案です。

 

興味深いのは、このような女性の心の壁の背景には、たとえば、「気が強い」という言葉で傷ついた経験などがあります。同じ発言をしても、男性であれば高く評価され、女性だと否定的に受け止められてしまう経験です。その結果、女性は、主張や要求をすることを控えてしまう傾向が強いというのです。そこで、彼女は、若いカップルが子育てを行う際に、女の子に、このような言葉がけをしないことも奨励しています。

 

国際男性デーのイベント

リーン・インの活動のファンである私にとって、そのイベントでのファシリテーションを行えることはとても幸せなことでした。11月19日の国際男性デーに合わせて行われたイベントには、蓮舫議員の夫であり、双子のお父さんでもある早稲田大学客員准教授の田村信之先生、サイボウズ株式会社人事マーネジャーとして100人100通りの働き方を推進し、家庭では子育に参画する青野誠さん、リーン・イン・東京の立ち上げから参画している20代の松本大地さん、みずほ銀行執行役員国際営業部長の有馬充美さん、kay me株式会社を起業した代表取締役の毛見純子さん、ユニリーバにお勤めで、リーン・イン・東京のメンバーである高尾美江さんの6名のパネリストの皆さんにご参加いただきました。

 

田村先生、青野さん、松本さんは、世代も背景も異なりますが、3人に共通していたのは、身近にいる女性のリーン・インを応援し、女性はこうあるべきであると決めつけるのではなく、一人の人間としての選択を尊重するという考えをお持ちだったことです。

 

有馬さん、毛見さん、高尾さんに共通なことは、自分らしさを大切に、一歩踏み出さないで後悔するよりも、行動することを選んでこられたことです。まさに、リーン・インのモデルです。

 

イベントには、90名近くの方々にお集まりいただき、パネルの後の会場でのディスカッションも盛り上がりました。参加者は、社会人と大学生が中心ですが、中には高校生の参加者もいらっしゃいました。ディスカッションの最後に、一人ひとりが、自分のリーンイン目標を設定し共有しました。このような活動を通して、一人ひとりの心の持ち方を変わり、社会が変わっていくのだと、実感することができました。

 

リーン・イン・東京を立ち上げてくれた鈴木玲奈さんとその活動をサポートしてくださっているパートナーのフェリックスさんにも心から感謝いたします。

 

 

 

 

 

 

人一生の育ちプロジェクト

文部科学教育通信 No.423 2017.11.13掲載

2014年に立ち上げた未来教育会議では、教育がよい方向に変わるために何ができるのかを考え、毎年活動方針を決めています。今年は、「人一生の育ち」プロジェクトに取り組むことになりました。この2年間、ずっと温めていた企画です。人が生まれてから死ぬまでの育ちについて考えるというプロジェクトで、とても難易度が高く躊躇していたのですが、勇気を持ってプロジェクトを開始することにしました。

 

大きな志を持って

未来教育会議は、行政でも、教育機関でも、教育サービス業者でもない一市民団体ですが、志は大きく、日本の教育に貢献できると信じて活動を進めてきました。学校や行政の教育関係者、生徒や学生、保護者、塾関係者と対話を繰り返し、教育の現実を正しく捉える努力を積み重ねてきました。同時に、企業の経営者、人事や人材育成に関わる人たちとも対話を行い、経済と教育を結びつける努力もしてきました。そんな中で、経済と教育の間に大きな分断があることに気づきました。この分析を埋めることができれば教育改革がより大きな成果につながると考え「人一生の育ち」プロジェクトを始めました。

 

教育が日本を変える

今日の日本企業は様々な課題を抱えています。失われた20年は、大人の実行力の問題でもありますが、それは、高度経済成長を支えてきた様々な仕組みや構造が、成熟に向かう社会において機能しなくなっていることを意味しています。教育もその一つです。戦後の工業化社会を支えてきた教育は、正確な情報処理を行う有能な人材を大量に排出し、高品質な製品を世界で販売し、日本製品の信頼とブランドを築き上げました。しかし、時代は移り変わり、日本が先進国の仲間入りをした今日では、これまでの日本の役割は後進に譲り、さらに高付加価値な製品やサービスを生み出していくことが求められるようになります。これまでと同じことをやっていても、その価値は同じように認められることはなく、世界経済の発展により、その価値は下がってしまいます。このような時代の変化に対応し、日本がその存在価値を維持し続けるためには、不易と流行に注意を払い教育を正しく変えていくことが鍵を握ると信じています。

 

危機は創造の原動力である

21世紀に入り、世界のイノベーション力が大きく飛躍しています。その背景には、サイエンスとテクノロジーの発展とともに、人類が直面する危機の存在があります。環境破壊、人口の増加、貧困と経済格差の拡大、民主社会の崩壊といった課題は、世界中の人々のイノベーションに向かう意欲を掻き立て、人類がこの危機を乗り越えるために、これまでとは異なる発想が次々と生まれています。チェンジメーカーにとっては、危機はチャンスであり、創造の母です。「楽天主義者の未来予測」の著者でシリコンバレーにシンギュラリティ大学を創設したピーター・H・ディアンマディス氏は、テクノロジーの指数関数的発達や、メーカーズ・ムーブメント、テクノフィランソロピストの活躍などによって、世界には近い将来、必要なものが全ての人に行き渡る時代がやってくると予測しています。社会起業家の父と言われるビルドレイトン氏は、世界中の3000人を超える社会起業家をネットワークし、誰もがチェンジメーカーとして身近な問題を解決するために行動することができる時代が到来したと言います。ディアンマディス氏は、サイエンスやテクノロジーの世界から世の中を見ており、ドレイトン氏は、社会問題を創造的に解決する力を持つ起業家に焦点を当てています。二人は違うところから世界を見ていますが、共通していることは、より良い世界を実現するために、創造的な問題解決に人々が参加することを歓迎していることです。世界中の若者たちが、この空気を吸い、自分の可能性に気づき、様々な問題解決に挑戦し始めています。就職に対する考え方も変化し、企業に属するのではなく、プロジェクトベースで仕事をしたり、起業する若者も増えています。

 

このような時代の変化は、高度経済成長の成功モデルが手放せない高齢化社会では感じ取りにくく、優秀な日本の若者は、一歩前に踏み出すことを自分に許可することを躊躇しているというのが現実ではないでしょうか。若者に勇気を与え、若者が困難な問題を解決することを楽しみ、自己の成長を自ら促進できる教育に変えることが必要です。このような教育のシフトを起こしたいと思い、人一生の育ちプロジェクトを始めました。

 

教育にも分断がある

二つ目に、教育の分断という構造的な問題の解決策の一つとして本プロジェクトが役に立つのではないかと考えました。クマヒラセキュリティ財団では、オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを幼稚園、小学校、中学校、高校に紹介する取り組みを行なっています。この活動を通して見えてきたことは、教育も分業になっていて、幼稚園の先生には、中学校の様子が想像しにくいというものでした。ピースフルスクールでは、お友達と喧嘩をするのは良くないことで、喧嘩をしたら話し合いを行い仲直りすることが決まりです。幼児の喧嘩は、先生が介入するとすぐに仲直りを促すことができます。このため、先生は、喧嘩を見つけると、「◯◯ちゃんが悲しいといっているよ」などと、お友達の気持ちを代弁し、仲直りを促したりします。しかし、中学生になると、喧嘩やいじめに先生が介入することが難しく自分で問題を解決しなければなりません。お友達を助けることについても、同様に、幼稚園では、喧嘩に気づいたお友達が、「◯◯ちゃんに謝って」などと介入することができますが、中学生になると、いじめに気づいても介入すると、自分がいじめの対象になる可能性があるため、誰もが傍観者でいることを選択します。この現実を打破するためには、幼稚園、小学校と連続性を持って、子どもたちが自らいじめのない社会を実現する力を磨く必要があるのです。幼稚園から練習を続け、習慣化することができると、中学生になっても、いじめが起き難く、いじめが起きても話し合いで問題解決するコミュニテを創る力を磨くことができます。幼稚園の先生の子どもへの関わりが、将来、中学生になった時のいじめ問題への対処につながっているということを知っていただきたいです。また、財界は、教育の問題を、大学や高校の教育と紐付けて考える傾向があります。しかし、例えば、イノベーションを実現する上で重要な役割を果たす自己肯定感や自己効力感の発達には、高校以前の教育が重要な役割を果たします。発達を理解しない経済界の要求に合わせて教育を設計してしまうと、成果が上がらないのみならず、子ども達のストレスの原因にもなりかねません。このような教育改革を避けるために、本プロジェクトが役に立つことを願っています。

 

一生育ち続ける

3番目は、人生100年時代の学びです。ライフシフトの著者リンダ・グラットン氏は、誰もが同じタイミングで学校を卒業し、就職し、定年退職するという画一的な生き方の時代が終わり、社会人も何度か学びなおすことが当たり前の時代になると言います。変化する時代の中で、幸せに生きるために、老若男女誰もが学び、育ち続ける日本になることを願ってプロジェクトを進めます。

 

 

 

保護者の皆様との対話

文部科学教育通信 No.422 2017.10.23掲載

先日、小学1年生の保護者の皆様に、クマヒラセキュリティ財団で展開しているシチズンシップ教育ピースフルスクールについて講演を行う機会を頂戴しました。オランダで生まれたピースフルスクールは、幼稚園、小学校で子どもたちが自立する力と共生する力を育む教育プログラムです。保護者の皆様に、熱心にお話を伺っていただき、とても貴重な機会となりました。

 

小学生への期待

保護者の皆様にお話をすることで、2011年震災直後の4月に、始めてピースフルスクールに出会い感動した思い出が蘇りました。世界一こどもが幸せな国オランダの教育を知りたいと思い、オランダ教育視察ツアーを企画していたのですが、東北大震災が起き、視察ツアーは中止になりました。そこで意を決し、一人で視察に行くことにしました。ちょうど、その時、大学に入学したばかりの息子を誘い、2人での視察となりました。

 

ピースフルスクールでは、小学5、6年生が、学校中のけんかのメディエーションを行います。民主性を教える教育ですから、人と意見が違うことは当然で、対立は当たり前であることを子どもたちは教わります。その上で、対立をけんかに発展させてはいけないし、けんかをしたら必ず話し合いにより仲直りすることが必要であるということを子どもたちは学びます。

 

訪問した小学校では、メディエーターを担当する6年生の男の子と女の子の2人にインタビューもさせてもらいました。その時の衝撃は、今でも忘れることができません。「私たちは、問題を解決するのではありません。けんかをしている当事者が、話し合い問題を解決することを支援します。私たちは、どちらの立場に立ってもいけません。中立の立場で、お互いの言い分をお互いが聞き合い、理解することを助けます。状況に関して、お互いの理解が一致したら、当事者が問題を解決することを支援します」メディエーターの説明を聞きながら、自分が恥ずかしくなったことを今でもはっきりと覚えています。私は、小学生に負けていると正直思いました。

 

メディエーターは日替わりの当番制になっており、一日2名が担当するので、ひとつの学校には、10名から12名のメディエーターがいます。メディエーターに志願をし、なぜメディエーターになりたいのかについて作文を書き、選抜された方たちのお話を聞いた訳ですから、すべての子ども達が、彼らと同じという訳ではありません。しかし、メディエーターの子どもたちは、とても落ち着いていて、人間としての成熟度がとても高いと感じました。

 

同時に、私は、小学6年生にこのような姿を期待していただろうかと自分の子育てを振り返りとても反省しました。対立を話し合いで問題解決するという姿勢を十分もっているだろうかと、私自身のあり方を振り返りました。そして、ピースフルスクールを日本で広めようという決意を固めました。

 

一緒に視察に行っていた息子には、まず謝罪をしました。「私は、小学生のあなたに、ここまでの期待をしていませんでした。本当は、期待することができて、期待をすれば、あなたもここまでできたのですね」息子は大学1年生で、私の子育てがちょうど終了した年に、このような対話を息子とすることになるというのも、なんだか複雑な思いでした。一生懸命子育てしたはずなのにというとても残念な気持ちです。

 

日本で、メディエーターのお話をすると、なんだか子どもらしくないという印象を持たれる方が多いのですが、決して、オランダの子どもたちが、子どもらしくない訳ではありません。校庭で元気に遊ぶ様子は、日本の子どもたちと一緒で、あどけない笑顔がとてもかわいいです。しかし、幼稚園児も小学生も、教室に入るととても落ち着いています。社会における責任というものを学んでおり、教室は学ぶ場所ということを理解しているからの様です。

 

社会的情緒的発達

日本にピースフルスクールを紹介するために、教材を翻訳し、何を教えたら、あのメディエーターのような子どもが育つのかを学びました。たくさん驚いたことがありましたが、最も大きな驚きは、子どもたちがとてもたくさんの小さいことを学んでいることでした。日本では、いきなりメディエーターの手法を学び、話し合いで問題を解決することを促すというのが普通だと思いますが、ピースフルスクールでは、その前提としてたくさんの学びがデザインされています。

 

一番大切なことは、社会的情緒的な発達の支援です。子どもたちは、幼稚園の頃から、うれしい、悲しい、怒るなどの基本となる気持ちについて学びます。顔の絵をみて気持ちを当てたり、人形劇に出てくるトラやサルがどんな気持ちなのかを考えます。そして、自分がどんな時にうれしい気持ちになるのか、悲しい気持ちになるのかを考えたり、同じ状況でも、お友達と自分の感じ方が違うことを学びます。こうして、子どもたちは、自分の気持ちを知り、言葉にすることができるように成長します。

 

授業のはじめには、先生が、「今日ピースフルではない人はいますか」と子どもたちに尋ねます。すると、「おばあちゃんが田舎に帰って寂しい」「お兄ちゃんとけんかをした」など、次々とピースフルではない話をしてくれます。先生は、その話に深く入り込むわけではありませんが、会話を通して、今、一緒にいるみんながどんな気持ちなのかをお互いに知ることができます。このようにして、子どもたちは、目に見えない「気持ち」を認知する力を磨きます。メディエーションの手法を学んでも、冷静ではない子どもたちを相手に話し合いを行うことはできません。自分の気持ちを認識することができ、怒りをコントロールする力を磨くことによってはじめて、けんかをしている相手と落ち着いて話し合うことが可能になります。

 

ピースフルスクールでは、日々心の扱い方を磨いているのです。自分の気持ちを知り、自分の気持ちを言葉にすること、そして、怒っている時は、その気持ちを自己認知し、冷静になることができるための訓練を、普段から行っています。ピースフルスクールを学び始めてから、私も、怒りをコントロールする力が以前よりも磨かれたと思います。

 

保護者の皆さんには、お内でできることとして、お話をする際に、出来事の共有だけでなく、気持ちにも触れる習慣を持つと良いとお伝えしました。大人の多くが、「今の気持ちを教えてください」といわれても、すぐに答えられないというのが現実ではないでしょうか。自分の気持ちを認識することを習慣化し、その気持ちを伝え合うことができるようになることが、ピースフルな社会を創る上でとても大切です。

 

自己肯定感

質疑応答では、自己肯定感がどうすればあがるのかという質問がありました。親の愛情が一番というお話をしました。自分の存在が歓迎されているという実感があると、自分の存在そのものに対する自信を持つことができます。人生には、うまく行かないこともあり、社会にでれば、自分の意見や存在を否定されたと感じるような場面もあります。そんな時でも、自分で自分を肯定的に受け止めることができる背景には、親や家族から愛情を受けた経験があります。

 

ピースフルスクールでは、先生が朝、教室の入り口に立ち、子どもたちを歓迎する習慣があります。家族の中で育った子どもたちがはじめて参加する社会である学校でも歓迎されているという実感を持ってもらうためだそうです。こうして、学校でも自己肯定感を育めるように配慮をしています。

 

すべての子どもたちにピースフルスクールが届けられるように頑張って行きたいと思います。

 

 

21世紀の思考法 セオリー・オブ・チェンジ

2017.10.09 文部科学教育通信掲載

2010年に、ティーチフォージャパンを立ち上げる準備会に参加し、この7年間、多くの時間をNPO活動に費やしてきました。それはたくさんの学びの機会となりました。大学生の若者たちとの交流を通して、デジタルネイティブに学ぶことも多くあります。また、ティーチフォーオールという世界45カ国に広がる教育NPOのネットワークに参加することで、NPO運営について多くのことを学びました。特に、驚いたのは、ネットワークの起源でもあるティーチフォーアメリカにおける仕事の仕方が、企業の手法ととても似ていることです。大手のコンサルティング会社がボランティアでNPOの指導に当たることも多く、課題の整理の仕方もビジネスの世界と同じです。

 

社会問題に取り組むNPOは、多くの場合、とても複雑な問題に関わっています。子どもの貧困を例にとっても、一昼夜で解決するような問題ではありません。また、収益を生まない社会問題の解決には、資金が必要であり、資金調達はNPOにとって、とても大きな課題です。NPO活動とは、日々難問を解く挑戦の連続であるともいえます。そんな中で、この数年間、世界中でより大きな広がりを見せているのが、セオリー・オブ・チェンジなのではないかと思います。

 

セオリー・オブ・チェンジ

セオリー・オブ・チェンジとは、変化を起こすために必要な理論です。その理論は、どこかに存在するのではなく、セオリー・オブ・チェンジは、変化を起こすために必要な理論を、自らデザインするためのツールです。多くの場合、その理論は一人で作り上げることは難しく、仲間とともに協働して、ロジックを組み立てていくことになります。このフレームワークを活用することにより、ロジックが可視化され、さらに多くの協力者を得るために必要なストーリー作りに生かされます。セオリー・オブ・チェンジは、また、アクションを通して明らかになった事柄により、塗り替えられていきます。正解が最初から完璧に描かれることはありません。

 

セオリー・オブ・チェンジは、6段階のステップで考える思考法です。

  1. 長期的なゴールを明らかにする。
  1. ゴールを達成するために必要な前提条件と、その前提条件が必要な理由を明らかにする。
    1. テーマに関する(前提となる)仮説を明確にする。
    2. 望んでいる結果を出すために、どのような介入(アクション)が有効かを明らかにする。
    3. 介入(アクション)の成果や効果を測定するインディケーターを作る。
    4. 介入(アクション)との有益性についてストーリーを描く。

 

セオリー・オブ・チェンジの事例

Center for Theory of change(http://www.theoryofchange.org/what-is-theory-of-change/)というサイトに行くと、DV被害のサバイバーの経済的自立を支援するある団体の取り組みが、紹介されています。セオリー・オブ・チェンジでは、ゴールを実現するために出したい結果をアウトカムとして定義し、そのために必要なアクションを描きます。DV被害のサバイバーの事例では、女性に電気や水道工事など、通常では選択しない領域での雇用を促進するアイディアが提示されています。その理由は、比較的給与が高く、スキルの習得によりステップアップが可能で、労働組合もあるため安定した経済基盤を確立できるからだといいます。海外の事例なので、日本でこのモデルが当てはまるかはわかりませんが、セオリー・オブ・チェンジとしては、とても分かり易い事例です。

 

【ゴール・アウトカム・アクション 3つのくくり】

 

前提となる仮説

セオリー・オブ・チェンジでは、自ら描いたアクション項目には、どのような前提があるのかを明らかにし、その仮説を検証することを重要視しています。先の事例には、どのような前提となる仮説があるのでしょうか。

〔前提となる仮説①〕 「DV被害サバイバーが電気や水道業で安定した雇用の機会を得る」について

  • この領域で、女性も採用される。
  • 電気、水道、建設業などは、比較的給与が高く、労働組合があり雇用が安定している。また、スキルを習得することでステップアップが可能となる。

〔前提となる仮説②〕 「サバイバーが状況に対処するスキルを習得する」について

  • DV被害にあった女性は、職務上のスキルの習得以外にも、心の面でも状況に対処する必要がある。

〔前提となる仮説③〕 「サバイバーが、電気・水道・建設業で仕事に就くために必要なスキルを習得する」について

  • 女性でも この領域でスキルを習得し、市場競争力を持つことができる。

 

インディケーター

セオリー・オブ・チェンジは、アウトカムを実現するために、数値目標を設定することを大切にしています。アウトカムを評価する軸は何かを特定し、それを測定するインディケーターを定義します。

〔アウトカム1〕 雇用の機会を得る。 ①採用数 ②プログラム卒業生の数 ③定義:6ヶ月以上働き続け、最低でも自給12ドルを得ている

〔アウトカム2〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①電気、水道、建設業のいずれかのスキルを習得した人の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:インターンシップを完了する

〔アウトカム3〕 仕事に就くために必要なスキルを習得する。 ①プログラム卒業生の数 ②プログラム参加者の数 ③定義:卒業する

〔アウトカム4〕 仕事に就くために必要なスキル研修に参加する。 ①参加の数 ②研修参加者 ③3日以上欠席しない

 

 

よいセオリーか

一旦、セオリーが完成したら、それがよいセオリーか否かを見定める必要があります。最終的には、望んでいる結果が出るかどうかということで評価されるべきですが、大きな課題解決に臨む時には、そこまでの道のりは遠く、一歩ずつゴールに近づくアクションを正しく行うことが不可欠です。そこで、専門家は、まずは実現性があり、多くの人々の目で眺めてみても理にかなっているセオリーを信じて行動することが重要だと言います。計画を実行し、その成果を分析することにより、セオリーに新たな知恵が加わることで、セオリーがどんどん進化し、ゴールに近づくというのです。このため、試せるセオリーを描くことが大切であるといいます。デザイン思考のプロトタイピングによく似た発想です。21世紀は、試して正解を見つけるという思考法がなによりも大事だと感じます。行動することと、思考することが切り離せない時代であることを、セオリー・オブ・チェンジを通して、再確認しました。

 

ホラクラシー経営と教育改革

2017.09.25 文部科学教育通信掲載

先日、ホラクラシー経営の勉強会を実施しました。ホラクラシー経営には様々な形態がありますが、共通しているのは管理をしない非管理組織を目指していることです。従来の組織は、管理型、ヒエラルキー型が一般的です。経営責任者がいて、役員、本部長、部長等々と、階層が続きます。階層には権限と責任が結びついていて、部下は上長から管理される仕組みの中で役割を果たします。報酬は、階層に紐付き、上長の評価により決まります。ホラクラシー経営には、このような概念がなく、人々は、組織に属していますが、管理されず自立的に行動し責任を全うします。

 

社長も選挙できめる会社

今回の勉強会では、日本で、ホラクラシー経営の最先端を歩んでいるダイヤモンドメディア社の武井社長をお迎えして行いました。武井さんのホラクラシー経営では、毎年、社長も選挙で決める仕組みになっており、社員の給与も社員が自分たちで決めます。権限等の規定もなく、使っていい経費の上限額もありません。ヒエラルキー組織で育った経営者や会社員からすると、とても信じられない経営のあり方です。

 

ホラクラシー経営が実現できる背景には、テクノロジーの存在があります。究極の民主的な企業組織を実現する前提には、情報の透明性があります。企業活動がどれだけ社会に貢献するよいサービスや製品を提供していたとしても、収入を得て、その収入を分配するという機能が有る限り、そこに民主的な意思決定を行ううえでの難しさが残ります。その意思決定を協働で行い、誰もが納得感を持つためには、社員がお金周りの情報もすべて共有し、自分の判断がどのような結果につながるのかを理解することができる環境を整える必要があります。ダイヤモンドメディア社では、10年の歳月をかけて、様々な試行錯誤を繰り返し、この環境と経営スタイルを確立していきました。

 

自立と共生が鍵を握る

私が、武井さんの経営に興味を持った理由は3つありました。

一つ目は、武井さんのお話を以前伺い、ホラクラシー経営という前例のない組織創りを、コンセプトも含めて、ゼロから組み立て創造しているところに魅了されたからです。組織のあり方を創造する過程では、トライ&エラーがあり、その過程で武井さんが学び続けた結果が、今日の姿です。これは、まさに、「学習する組織」のお手本だと思いました。たとえば、民主的な社会なので合議制が前提です。しかし、みんなの意見を尊重するというやり方では、永遠に議論が終わらないという経験を繰り返す中で、最良の意思決定が議論の目的であり、だれの意見も受け入れること自体が議論の目的ではないという結論に至ったそうです。システムを活用し、最良の意思決定に必要は判断材料としてのデータを全員が共有することで、判断軸が共通言語化され、みんなで議論をしても、かなりスピーディに合理的な判断に到達するようになったそうです。武井さんのお話を伺っていると、まさに、デザイン思考の発想で、組織創りに挑戦されていると感じます。一般人なら、うまくいかなければ「やっぱりだめか」とあきらめてしまうようなことでも、武井さんにとっては、次の実験のための材料でしかないという感覚です。最初から正解を提示する従来型の問題解決の発想ではなく、仮説を検証し完成に近づくプロトタイプ型の発展の仕方は、まさに、デザイン思考そのものです。同時に、このアプローチは、学習する組織型のスタイルとも言えます。常に、現状に満足せず、チームで学習し、理想の姿に近づくことは、そこに参加する一人ひとりが主体的に考え、行動しているから可能なのです。一人でも組織にぶら下がっている人がいるとホラクラシー組織は実現しないという点も、学習する組織と共通している点です。

二つ目は、働き方改革の観点から、ホラクラシーが未来の会社と個人の姿を現していると感じたからです。先日、スタンフォード大学を訪問した知人からこんな話を聞きました。優秀な学生たちに、「皆さんのように優秀な学生は、卒業したらやはりグーグルのような会社に就職するのでしょうね」と話したところ、「とんでもない。スローでたいくつな会社になんか就職しないよ」という反応が返ってきたそうです。自分の能力に自身があり、大きな価値を生み出す力を持つ優秀な若者は、自らの力を存分に発揮できる難しいプロジェクトを探し、仕事を通しての知的な挑戦を楽しみます。また、1年中だらだらと働くことも望んでおらず、年に数ヶ月は自由な時間を過ごすといったスタイルが当たり前のようなのです。このように、優秀な若者の中は、組織に帰属せず、プロジェクトベースで仕事を請け負うという人たちも増えていますが、企業に属している若者も、従来型のヒエラルキー組織に魅力を感じない傾向は、世界共通のトレンドです。高齢化社会の日本にいると、このような若者の感性が、社会に反映され難いのですが、日本の若者も、同様の感覚を持ち始めているように感じます。

三番目は、教育改革の観点からも共通点があると感じるからです。私は、日本の教育が変わる事を願って、未来教育会議、ピースフルスクール、21世紀学び研究所と3つの取り組みにチャレンジしています。未来教育会議では、社会の未来、未来の人、未来の教育の3点で教育ビジョンを誰もが共有する社会が実現し、先生も親も地域社会もみんなで、21世紀にふさわしい学びを子どもたちが得る環境を創っていくことを願い、様々な活動に取り組んでいます。ピースフルスクールでは、幼稚園や小学校でのシチズンシップ教育を促進し、子どもたちが自らの力で社会を創る体験を通して学ぶ環境を先生や保護者と一緒に作ることに挑戦しています。21世紀学び研究所では、21世紀の学び方を大人が実践し、時代の変化に併せて、企業や社会のあり方が変わることを目的に活動しています。

 

3つの取り組みに共通なことは、主体性と共生の2つが欠かせないということです。この概念は、視察に訪問したデンマークやオランダ、ドイツでは社会の常識ですが、日本では常識ではないと感じます。国と国民、上司と部下、先生と生徒、親と子と、どこに行ってもヒエラルキー概念が前提にあり、上位下達、指示命令を中心に物事が進みます。そこには、ビジョンは存在せず、受身に従う個人や集団が存在します。ホラクラシー組織は、究極のデモクラシーを企業組織で体現するのですから、主体性と共生が前提となります。武井さんのお話を伺いながら、シチズンシップ教育ピースフルスクールは、実は、ホラクラシー教育でもあると気づきました。

アフター・インターネット時代

武井さんのお話を伺った後の質疑応答では、目標を設定しないで、業績には悪い影響はでないのか、管理しないで怠ける人が出ないのかなどの質問があがります。小学生の頃から、人は管理しないと怠けるという管理者の論理、同時に、先生がいない時は騒いでも良い(?)という考えという受身の論理を持ち、大人になっていった我々にとって、管理しない、されないという環境を想像するだけで、危険な匂いがするというのが正直な感覚のようです。しかし、その考えは、ビフォアー・インターネット(BI)の発想で、究極の民主化に向かうアフター・インターネット(AI)の世界の常識とは異なるのではないでしょうか。自律的学習者を育む教育改革が急がれる理由もここにあります。

 

 

 

人間性も教育のゴール

2017.09.11 文部科学教育通信掲載

初めてのアフリカで

8月にはじめてザンビアを訪問しました。初めてのアフリカ訪問で訪れたザンビアは、政治的にも安定していて、人柄も温和で勤勉な国民性を持っており、とても日本人と気質が似ています。一日、1ドル90セントで生きている人々がいる国を訪れたのは初めてでしたが、主とルサカには、ゴルフ場もカジノもあり、経済格差の課題は、先進諸国と途上国の間だけでなく、国の中にも存在することがわかりました。ザンビアでは、国連や国際協力機構で働く日本人や、現地の企業人、農家の人々など様々な方々のお話を伺うことができました。なかでも、最も印象的だったのは、農家のお母さんたちのお話です。決して豊かではないお母さんたちが、家族の健康と子どもの教育をとても大事に考えていることを知りました。ザンビアには、小学校が8000校存在するのに対して、中学校が800校しかなく、日本のように全員が中学校に通う環境ではありません。小学校までは無料で、中学校からはお金がかかることもあり、子ども達全員が中学校に通う日は、すぐにはやって来そうにはありません。私たちがお話を伺うことができたのは、ザンビアの中でも、意識の高い親たちですが、決して豊かな訳ではありません。それでも、子どもの教育を大切に考える親たちの心に触れ、改めて教育の大切さを実感しました。

 

ザンビアでは、15歳以下の人口が、人口の5割を占めています。以前訪問したサウジアラビア同様に、若者の多い国には、独特のエネルギーがあります。ザンビアでは、起業に挑戦する10名の若者のお話を伺う機会がありました。その中でも、20代でフィットネスの会社を営む若者のお話がとても興味深かったです。彼は、親の期待に答えて公認会計士になり2年間働いた後、自分の本当に好きな仕事がしたいと考え、南アフリカに留学し、スポーツや健康に関する資格を習得し、フィットネスの会社を始めたといいます。一度は、お母さんの期待通り公認会計士になったけれど、2年間働きて、これが自分の本当にしたいことではないと気づき、お母さんに許可をもらい、今の仕事を選んだといいます。彼の企業は、とても成功しており、将来は、スポーツや健康に関する専門家を育てるビジネスにも拡大させていきたいと語っていました。公認会計士になって欲しいと願いお母さんは、日本で、安定した就職を願う親の心にも通じるものだと感じました。

見えてきた日本の教育課題

教育が幸な人生を手に入れるために必要なものであることは、改めていうまでもないことですが、ザンビアを訪問し、先進国日本には、別の教育課題があると感じました。3年前に訪れたオランダで、教育コンサルタントの方から、親が子どもの教育のゴールをどのように考えているかについてお話を伺いました。ザンビアを訪問し、その統計を見てびっくりしたことを思い出しました。オランダの親たちが考える教育のゴールのトップ5に学力が入っておらず、トップ5はすべて人間性に関わることでした。一番目が、強い責任感を持つこと、2番目が自分を大切にすること、3番目に他者を思いやること、4番目は行儀正しいこと、5番目は親やお年寄りに敬意を払うこと、そして、6番目に初めて、よい成績をとることがあがっていました。7番目は、物事に対して「なぜ」という疑問を持つこと、8番目が、高い目標を掲げることです。日本の親に関する同様のアンケートを見たことはありませんが、トップ5の上位に成績や学力が含まれることが容易に想像されます。

数値で測定できない大切なこと

日本は、世界2位の経済大国に上り詰め、豊かになったのですが、その中で、子ども達の人間性を育む機会を失ってきたのかもしれないと感じています。受験戦争に勝ち抜いてきた親たちが、子どもの幸せを願い、子どもたちにも、よい成績をとることを期待します。そこには、よい成績をとり、よい就職をし、幸せに生きて欲しいと願う親の思いがあります。また、時代の変化により、先行きが不透明になればなるほど、子どもには安定した職業について欲しいという親の願いがあります。親が教育熱心になればなるほど、国や行政、学校現場は、親の評価の目に晒されます。そんな中、学力テストの結果は数値で測定できるため、親も学校も、教育のゴールを評価するものさしとして当たり前のように学力を最優先してしまいます。世界中の先進国では教育のインフレが起きてないとも言われていますので、学力が必要なことも事実です。しかし、社会に出れば、学力がすべてではないことは明らかです。自己肯定感や自己効力感、社会に貢献する心やコミュニケーション能力など、学力では測定できないたくさんの大切なことがあります。

子どもの成長を見守る社会を実現する

少子高齢化社会の日本では、10代の子どもは、9人の大人に囲まれているという計算になります。社会の宝物である子どもに、9人の大人が何を願い、どのような成長を見守るのかが、その成長に大きな影響を持っていると考えることができます。教育は、親や学校が行うことと考えがちですが、実は、高齢化社会では、一人ひとりの大人の生き方が子どもの成長に大きく影響しているといえるのではないでしょうか。だからこそ、子どもたちの教育を、親や学校任せにするのではなく、社会全体で見守っていくことが大きな力になり得ると思います。そこで、我々も、オランダの親に見習い、教育のゴールに、学力だけでなく人間性を含め、子どもたちが自己を確立していく発達が可能となる環境を整備していくことができれば、本当の意味で子どもたちの成長を見守る社会を実現することが可能になります。学校では学力をしっかり伸ばし、同時に、社会全体が子どもたちの人間性を育むために貢献するというのは、とてもよいアイディアのように思います。

 

共働き社会に移行しつつある日本では、子ども達が、家庭で人間性や健全な心を育む環境や機会は今以上に減少する可能性が大きいです。教育を学校に任せるのではなく、社会全体で子どもを育てる社会を実現していくことが、これまで以上に大切です。子どもの人間性を育むために大切なことは、大人が子どものお手本になることです。3人に一人が高齢化する社会に生まれてくる子どもたちが、幸せに生きるために、私たち大人は、常に自分のあり方を振り返り、自分の人間性を高めていく努力を怠ってはいけないと思います。子どもは大人を映す鏡であるということを忘れずに、日々、自分の人間性を少しでも高められるように生きて生きたいです。

 

働き方改革と教育改革

2017.8.28 文部科学教育通信掲載

政府主導で推し進められている働き方改革と教育改革には多くの共通点があります。どちらも、人の人生に大きな影響を及ぼすテーマであり、どちらも、変革ニーズが生まれた背景には、時代の要請があります。

私は、未来教育会議で教育をテーマに、昭和女子大学キャリアカレッジで働き方改革をテーマに、改革の促進に尽力していますが、どちらも政府主導で改革が推し進められている中、多くの人々がなぜ改革が必要なのかを本当に理解している取り組みではないことに危機感を覚えます。

働き方改革が進まない理由

この国では、政府主導で変化が推し進められることが多く、企業や国民は、「なぜ」を理解しなくても、「何」をやれば良いのかがわかる仕組みになっています。2013年の安倍総理の「2020年に女性管理職比率を30%にする」という発言でスタートした女性活躍推進は、2014年の女性活躍推進法施行に発展しました。企業は、女性活躍推進の行動計画を明確にし、女性管理職比率を高めるために行動します。しかし、企業の現場に出向くと、「女性管理職をなぜ、そこまで増やさなければならないのかわからない」、「すでに我が社では女性が活躍していて、なぜこれ以上女性が活躍しなければならないのか解らない」という声が聞かれます。上司が、子育てをしながら活躍する女性に対して、「こどもが小さいのに、出張に行かせるのはかわいそうだ」とか、バリバリ働く女性部下に対して、「うちの娘には、お前のようには働かせたくない」などと発言することもあります。最近では、女性活躍推進を羨ましく思う男性が増え、「女性ばかり特別扱いで面白くない」「あの女性の昇格は、下駄を履かせた昇格だ」などという声も聞かれるようです。こうして、日本の危機を回避するためにスタートした女性活躍推進は、誰にとっても心地の良くない職場環境を作り出していることはとても残念なことです。

管理職研修で受講者に考えを尋ねても、多くの人々が『?』マークのついた状態で、女性活躍推進に取り組んでいることがわかります。女性活躍推進に続き取り組みが活発化しているのが、働き方改革です。この改革も、女性活躍推進同様に、多くの企業戦士にとって不可解なものです。昨日まで、高く評価された長時間労働が、突然、「罪」になるのですから、このパラダイムシフトを受け入れ難いのは自然なことです。しかし、それでも、残業を減らし、コンプライアンスを徹底する改革が多くの企業で推し進めらています。しかし、この取り組みも、その狙いを全うするための道のりは険しく遠いと感じます。

教育改革が成果を出せない理由

教育改革はどうでしょうか。2020年に予定している学習指導要領が提唱する教育改革の始まりは、1992年に遡ります。時代の変化に合わせて、新学力観が提唱され、生涯を通して学ぶ力や時代の変化に適応する力を育む教育へのシフトが始まりました。しかし、ゆとり教育の失敗というラベルを貼られ、今日も教育は混迷をきたしています。2020年の教育改革の代名詞となったアクティブラーニングが、昨年は、教育関係者の強い関心事となりましたが、そのブームも一段落しています。教育が変わらなければならない、英語も、プロググラミングも必要で、当然学力も大事という総花的な学習指導要領の期待を託されているのは、世界一多忙な先生方です。中でも、部活を担当される中学校の先生たちの労働環境は悲惨で、働き方改革も必要です。政府が主導する教育改革が目指す姿は決して間違っていないと思いますが、その推進と運用において、常に、期待通りの成果に繋がらない状況を繰り返しています。掲げた理想と、現場の現実を結びつけるためのリソースは限られており、最終的には、学校現場でできることが教育改革の現実を投影します。そして、教育改革の成果は問われず、全国学力テストの成績や国際学力調査PISAの結果による評価を軸とした教育評価に着地します。このような改革を続けていても、労多くして成果なしの状態で、まさに、生産性が問われる働き方につながっていると感じます。

主体性がパラダイムシフトを支える

なぜ、政府主導の改革は、このように空回りしてしまうのでしょうか。その答えが、ビジョンの存在です。ビジョンが存在している状況とは、取り組みに参画しているすべての人たちが、自らの意思で取り組みに参画し、かつ、すべての人々の取り組みが、一つの目指す姿に向かって進められている状態です。このような状態になるためには、一人ひとりがあることに責任をもつ必要があります。それは、なぜその取り組みが必要かを納得するまで考え抜く責任です。

指示に受け身で答えてはいけないと考える主体性を一人ひとりが持つ必要があります。残念ながら、現在の教育では、この主体性を育むことができないというのが、この国の教育の最大の課題とも言えます。日本の教育は、指示に従い期待に答える有能さを育みます。しかし、この有能さは、変化が求められ、多様なステイクホルダーが共同してパラダイムシフトを実現することが必要な時代には、役に立ちません。なぜなら、為政者も、パラダイムシフトのすべてのシナリオを描き、指示命令に組み込むことが不可能だからです。パラダイムシフトが成功するためには、現場での実践の中で、答えを見出し、正解を創造する必要があるからです。

主体性がビジョンを生み出す

教育改革が成功するためには、教育に関わるすべての人が、以下の問いに対する答える責任を持つ社会を実現する必要があります。

  • なぜ、21世紀に入り教育が変わる必要が生まれたのか。
  • 21世紀の教育は、今と何が違うのか。
  • 21世紀の教育が実現すると、その先にはどのような未来があるのか。
  • 20世紀の教育の何を変えれば21世紀の教育に近づくのか。
  • どこから変えていけば良いのか。
  • 正解に近づいていることをどのように確かめれば良いのか。
  • 私は、なぜ、21世紀教育に取り組みたいのか。

 

働き方改革が成功するためには、その改革を推進するすべての人が、以下の問いに対する答える責任を持つ社会を実現する必要があります。

  • なぜ、21世紀に入り働き方が変わる必要が生まれたのか。
  • 21世紀の働き方は、今と何が違うのか。
  • 21世紀の働き方が実現すると、その先にはどのような未来があるのか。
  • 20世紀の働き方の何を変えれば21世紀の働き方に近づくのか。
  • どこから変えていけば良いのか。
  • 正解に近づいていることをどのように確かめれば良いのか。
  • 私は、なぜ、働き方改革に取り組みたいのか。

このような問いを自ら用意することができる人材を教育が育てるためには、「何を」「どのように」解くのかを教え、学ぶ今日の教育に加えて、生徒が、「なぜ」から考える教育を始める必要があります。正解のない授業ではなく、自ら正解を決める教育です。そして、自ら決めた正解に対しても批判的なスタンスで思考し、多様な視点を取り入れ、考え発展させる力を磨く教育が必要です。このプロセスには、対話が不可欠であり、このような思考力を磨く過程で、多様な考えから学ぶ力も磨かれていきます。その結果、多様なステイクホルダーとの対話を通して合意形成する力も育まれていきます。

 

多様な働き方・生き方と主体性

2017.8.14 文部科学教育通信掲載

政府主導で始まった働き方改革を、多くの人は長時間労働の改革と捉えているようですが、それは、働き方改革の目指すことのほんの一部です。しかし、政府主導の画一的な働き方改革に、明確な目的意識を持ち取り組んでいる企業人に会うことは稀です。そんな中、先日、公益資本主義研修の講師として、ロート製薬株式会社の山田邦雄代表取締役会長とワンジャパン共同発起人・代表の濱松誠氏をお招きし、お話を伺う機会がありました。

ロート製薬株式会社では、昨年、「社外チャレンジワーク制度・社内ダブルジョブ制度」という2つのユニークな人事制度を導入しました。

パナソニック株式会社にお勤めの濱松誠氏は、昨年、ワンジャパンという団体を、富士ゼロックスや東日本電信電話株式会社で働く仲間と一緒に立ち上げました。

ワンジャパンのミッション

ワンジャパンは大企業の若手有志団体のプラットフォームです。現在、大企業で働く多くの若手社員は、所属する組織内に存在する新しいことをやってはいけない空気、イノベーションを起こせない空気の中でさまざまな困難や、障壁、悩みを抱えています。そして、私たちは挑戦すべき世代である若手社員が、この「空気」を読んでしまっている状態を大きな課題だと考えます。ワンジャパンは大企業の有志団体が集まり、一人ひとりが刺激を受け、勇気を得て希望を見出し、行動するプラットフォームです。挑戦する空気をつくり、組織を活性化し、社会をより良くするために活動を行います。

ワンジャパンの取り組み

ワンジャパンでは、働き方の提案・実践、若手社員に関する調査とレポートの発信、新規事業開発、企業内及び企業間横断プロジェクト企画・実行を通して、大企業に所属する若手社員が挑戦できる土壌を作ること、そして参加団体が協働・共創しながら以下を実践することで日本から世界を良くする活動を行なっています。現在、36社の大企業で働く若者たちが、ワンジャパンに参画しています。

オーナー企業のロート製薬株式会社では、トップ自らが企業変革を推進し、大企業では、若者たちが、企業変革にチャレンジしています。

講義を受けた後、受講生とのディスカッションを通して、この2つの取り組みが、多くの人々の目には奇異に映るということが解りました。しかし、この2つの取り組みは、政府主導で行われている残業削減や、プレミアムフライデーよりも、もっと本質的で、働き方改革の核心を突いた取り組みです。

世界がイノベーションに向かう中、硬直化した日本企業に未来があるとすれば、山田会長や濱松氏が提唱するように企業に働く人々のあり方を変えていく必要があります。日本の一歩外に出れば、企業が自ら変化を推進し、時代の変化を牽引している姿しか目に入りません。しかし、残念ながら、多くの日本企業では、過去の踏襲に従うことをよしとしているようです。

多様性の時代

テクノロジーの進化により、すべてのルーチンワークは人工知能や機械が担う時代が到来するといわれています。日本の労働人口の約49%が人口知能に代替されるという予測があります。テクノロジーの進化は、人間をルーティンから開放し、クリエイティブな仕事に向かわせます。そんな時代には、「何をやるのか」ではなく「なぜやるのか」という問いを持ち、自らの個性や強みを活かし、社会に貢献することが人間の新たな役割になります。そんな社会では、一人ひとりの主体性の高まりと多様性の融合が新たな価値を創造する原動力となります。

多様性の時代には、一人ひとりが自分の個性や強みを磨き、自己認識する必要があります。他人と同じであることよりも違うことが大切です。同じ人間であることを求めるとすれば、人間はロボット以下になってしまいます。しかし、残念ながら日本の社会も教育も、人間の主体性よりも、組織人であることや、空気を読むことなど、何かに合わせることを求めます。まるで、ロボットのように、人間にも、仕様が決められていて、その仕様に合致すると良質、当てはまらないと不良品扱いになります。

学習指導要領で画一的に整備された教育では、一人ひとりの興味関心とは無関係に授業が進みます。しかし、そのことに疑問を持つと脱落者のレッテルを貼られるので、多くの子どもたちは思考停止という道を選択します。こうして、受身に生きる術を習得し、企業に入り、同様の生き方を選択します。このあり方は、高度経済成長の時代には、企業と個人のウィン・ウィンをもたらしたのですが、残念ながら、今日は、ルーズ・ルーズの結果をもたらします。誰もが、創意工夫し、善い変化を創造していく必要があるからです。その解決策のひとつが、働き方改革ですが、これも、政府主導になると、残業削減が目的化してしまい、企業の競争力をさらに弱める結果になっています。

画一的教育の仕上げが、日本の雇用慣行である新卒一括採用です。最近では、終身雇用の概念は崩壊しつつありますが、親は、子どもが潰れない会社に就職し、安定した生活の基盤を創ることを願います。新卒一括採用という働き方が存在するのは、世界でも韓国と日本のみと聞いていますが、今後は、この就職のあり方も改革することになるでしょう。

経済活動がすべてではありませんが、高齢化する社会の中で、経済の持続可能な成長が、国民の幸福を支えることに異論を唱える人はいないでしょう。良い製品やサービスを世の中に提供することで、社会に貢献する企業で働くことは、幸せなことです。そのためには、一人ひとりが、自分の主体性を開花させることを許す教育と社会をみんなで創っていく必要があります。優秀な人材を眠らせるのではなく、善い未来を創る価値創造に参画する国になるために、働き方改革は重要な役割を果たします。

オランダやデンマークでは、幼児期から主体性を育む教育が主流です。自分の考えを持ち、考えを人に伝え、聴き合うことを幼稚園の頃からはじめます。教育者は、幅広い遊びの選択肢を用意し、自分で遊びを選ぶ中で、自分を知る機会を提供します。こうして、幼稚園の頃から、主体性の核となる、自己を知る機会を持ちます。同時に、社会とのつながりについても、幼児期から学んでいます。このような環境で育つ子どもたちは、社会の中で自分を活かし、他者とともに幸せに生きることができる主体性を自ら育むことができます。主体性を育む教育に成功している国では、子どもを画一的なものとして捉えることはありません。戦後の経済復興に必要な厚い中間層を育てることに成功した日本教育は、複雑で変化の激しい時代では機能しないことを認め、必要な変化を推進することが大切です。

働き方改革は、生き方改革でもあります。一人ひとりが、自分の生き方を選択し、自ら幸せな人生を創造する中で、職業があり、家庭があり、社会とつながりがあります。一人ひとりが選択する力を持たない働き方改革は、人々を不安にし、画一的な改革に陥り易く、その結果、組織の力を殺ぐ結果になります。企業が変わり始める今、教育がその阻害要因とならないために変わることを強く願います。

 

 

 

 

 

世界は多様性で溢れています

2017.7.24 文部科学教育通信掲載

世界は多様性で溢れています。世界中が、多様性を意識しはじめたのは2001年頃でしょうか。この年、アメリカのドネラ・メドウス教授が、1990年に書いた「村の現状の報告」が、「世界がもし100人の村だったら」として世界中に、インターネット状のチェーンメールで広がりました。世界の人口の61人がアジアに住んでいて、世界の31人がキリスト教を信じています。2006年現在も、文字を読めない人たちが世界には14人いて、きれいな水にアクセスできない人が9人います。100人の村は、世界の多様性をとてもシンプルに表し、同時に、誰もが自分の置かれている立場が、「普通」というわけではないということを知ります。若者の中には、このような情報に刺激され、世界の課題解決に挑戦するキャリアを選ぶ人たちも現れてきました。

多様性の時代は、対立の時代でもあります。世界に広がるテロリズムや、イギリスのEU離脱とトランプ氏のアメリカ大統領就任などと、対立が顕在化しています。

しかし、同質性の高い日本では、多様性はあまり関係ないと考えている人が多いのではないでしょうか。そで、今日は皆さんの身近な所にある多様性について考えて戴きたいと思います。

皆さんは、日々の生活の中で、誰かにイラッとしたり、理解できないと感じることはありませんか。そこには多様性があります。相手は日本人で日本語を話し、もしかすると同じ組織に属する人や家族の一員かも知れません。しかし、あなたは、相手の意見に同意できません。そんな時、そこには必ず多様性があります。その多様性は、立場や経験の違いにより生まれるものです。世代ギャップなども、その代表例です。

身近な多様性の例

例えば、皆さんがバブル以前にも仕事をした経験をもっているとしましょう。最近入社した若者に、飲み会を断られた時、「上司の誘いを断るなんてあり得ない」と考えたのではないでしょうか。自分が若い時の事を思い出しても、上司の誘いを断った経験がありません。それが常識でしたし、その事に疑問を持った事はありません。しかし、新人の部下は、すでに先約があると言い、あっさりとあなたの誘いを断るのです。こうして、あなたは、「最近の若者は理解できない」と感じてしまいます。

親子でも、こんな話をよく耳にします。ベンチャー企業に就職を望む子どもに、そんな不安定な会社に入るより、しっかりとした大企業に務めなさいと親が言うというのです。親は、子どもの幸せを考え、自分の時代の就職と幸せの法則を前提に、アドバイスを行います。自分の経験に基づくと、ベンチャー企業に行くと子どもが幸せにならない可能性が高いと考えるのです。会社が倒産したりしたら、幸せになれないと心配します。

このように、私たちの判断の多くは、過去の経験に縛られています。部下に飲み会を断られた上司も、子どものベンチャーへの就職を反対する親も、その意見の背景には、過去の経験に基づき、大切にしている価値観があります。同様に、若者の意見の背景にも、経験と価値観があるのです。

意見の対立は、説得できないなら、放置しておくしかないと考える人が多いように感じます。しかし、その考えは、正しくありません。なぜなら、21世紀は、多様性を見方につける必要があるからです。変化の激しい今日では、過去の経験に基づく判断が、未来の成功を約束するとは限りません。世の中の複雑化は進み、自分の限られた経験が普遍的に正しいという保障はありません。だから、私たちは、異なる意見に遭遇したら、イラッとしても、すぐに気持ちを切り替えて、多様性に学ぶ姿勢を持つ必要があります。

多様性の放置は非効率にも繋がります。今の時代は、1+1を0.5にするのではなく、多様性を味方にすることで、1+1を10にすることが求められるのです。

多様な意見に耳を傾けることにより、相手のことをより深く理解することができます。相手に対するより深い理解により、信頼関係を高まるだけでなく、対立をインスピレーションに変えることができるのです。異なる意見と対話する中で、自分とは異なる世界を想像し、共に新しいものを造り上げることができるのです。

4点セットの思考法

対立する意見に遭遇した時、説得する以外にどのような方法があるのでしょうか。それが、対話のアプローチです。対話では、4点セットの思考法を使うことが大切です。

【4点セットの思考法】

意見:あなたはどんな意見を持っていますか。

経験:その意見に関連する過去の経験は何ですか。過去の経験には、実体験以外にも、本で学んだこと、TVや新聞で知ったことも含みます。

価値観:その意見や経験から見えてくるあなたが大切にしていることは何ですか。

感情:その経験や価値観にはどのような感情が紐づいていますか。

なぜ4点セットなのか

私たちの思考の前提には、過去の経験があり、経験に結びつく感情があります。同時に、経験を通して形成された価値観が存在します。私たちが何かを考えたり、学んだりする時には、意識していても、していなくてもこの4点セットが存在するのです。

例えば、晴天の日に、小さな携帯傘を持ち歩いている人を知りませんか。その人は、晴天の日も傘を携帯することが賢明であると考えています。その人にはどんな経験があると思いますか。晴天の日、傘を持たずに外出をした所、午後から大雨になりずぶぬれになってしまった経験があります。近くにコンビニも無く、駅まで雨の中歩く以外に手段がなく、ずぶぬれになり、その後、仕事にならなかったという経験です。そこで形成された価値観は、いつ天気が変わっても困らないように傘を携帯すること。この経験に紐づく感情は、惨め、悲しい、残念などでしょうか。

あなたは、荷物は少ないほうがよいという意見の持ち主かもしれませんが、ずぶぬれになった話しを聞けば、小さい傘を持ち歩く人の気持ちも理解できるのではないでしょうか。

先の親子の例をとって、4点セットの思考法で対話をしてみましょう。

親の意見:ベンチャー企業ではなく、大企業に就職する方がよい。

親の経験:就職した会社で定年まで働き続けられる事で、人生の幸せが実現する。就職した会社が倒産した人たちは、幸せにならなかった。

親の大切にしていること:大企業への信頼、子どもの安定的な生活と幸せ

親の気持ち:安心、不安

子どもの意見:挑戦と成長の機会の多いベンチャー企業で働きたい。

子どもの経験:不確実な時代、大企業でも倒産するし、リストラもある。自己責任の時代、世界の若者と勝負しなければならない時代だと教わってきた。

価値観:自分の実力、幸せな人生

感情:リスクとワクワク

異なる意見の背景には、必ず、あなたの知らない世界があります。多様性に遭遇し、イラっとしたり、理解できないと思った時に、思い出してください。そして、相手の経験に付いて尋ねてみてください。

あなたの意見に反対している人からも学ぶことができる、素敵な体験があなたを待っています。

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