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VUCA時代の学習する組織

2019.10.28 文部科学教育通信 掲載

経営者が学習する組織を学ぶ

学習する組織を、企業経営者の皆様に紹介する機会をいただくことになりました。学習する組織に魅了されて、20年の歳月が過ぎてしまいましたが、時代の変化を感じることができる出来事です。

2008年に、日本を学習する国にしたいと思い、「チーム・ダーウィン 学習する組織だけが生き残る」(英治出版)という本を書きました。本の出版から11年の時を経て、経営者の皆さんにも、学習する組織をご紹介することができることをとても嬉しく思います。

英語には、Nothing is free in this world(この世にただのものは一つもない)という言葉があります。努力しないで手に入るものはないことを説明する時にも、この言葉を使います。学習する組織を実現する際にも、この言葉が当てはまり、努力しないで学習する組織は手に入りません。おそらく、そこが、学習する組織が、これまでブームにならなかった原因ではないかと思います。

学習する組織は、起こりうる最良の未来を実現するために、誰もが、学び、変わることができる組織なのです。ただし、それは、誰もが、学び、変わることを意味しており、誰かが、学習する組織を届けてくれる訳ではありません。学習する組織を創るコンサルティングを行うにしても、外部の人間にできることは限られており、経営者をはじめとするすべての構成員が、学び、変わる必要があります。

VUCA時代に突入した

VUCA(不安定で変化が激しい、先が読めず不確実、複雑、曖昧)時代に突入した今日、変わらないことは、死を意味するという説明も、やっと説得力を増してきました。誰もが、変わろうという機運が高まっていることは、学習する組織を提唱する私にとっては、とても嬉しいことです。

もちろん、どんな時代にも、変わらないで欲しいことはあります。人の優しさや思いやり、自分を大事にする心、誰かのためになることを嬉しく思える心などは、いつまでも、変わらない方が良いです。しかし、多くの事柄は、過去を踏襲するのではなく、時代に合わせて変化することが求められる時代です。特に経営者にとっては、過去を踏襲する思考では、企業の存続が危うくなる時代でもあります。

変化する時代の中で、若者の雇用に対する考え方も変わり始めています。友人が、スタンフォード大学を訪れて、優秀な若者たちに、「あなたたちは、グーグルに就職するの?」と尋ねたところ、「あんなつまらない会社にはいかないよ」という返事が返ってきてびっくりしたという話をしてくれました。「それでは、どこで働くの?」という質問に、若者たちは、「僕たちは、プロジェクトベースでチャレンジングな仕事をするんだ。半年働いて、半年は休む。そんな働き方がいい」と語ったそうです。彼らには、グーグルが、退屈な大企業に見えるのですね。

日本でも、働き方改革の波は少しずつではありますが、大きくなってきています。若者の転職は、当たり前になりつつありますし、大企業ではなくベンチャー企業を選ぶ若者や、起業を選択する若者も増えています。企業で働く若者も、「市場価値」を意識し始めています。会社に人生を託す終身雇用に安住することができなくなってきていると感じているからでしょうか。だから、愛社精神がないかというと、そういう訳ではありません。誰もが、自分の仕事には誇りを持ちたいし、好きな製品やサービスを通して、世の中に貢献したいと思っています。

経営者は、新しい時代に即した、従業員と会社の関係を構築していく必要があります。お給料を払っていれば、どんな仕事を頼んでも良いという考え方では、これからの時代に、優秀な若者を魅了することはできないということを肝に銘じる必要があります。共働き夫婦が働き手の中心になると、辞令で転勤が確定するという働き方も、通用しなくなるでしょう。経営者には、たくさんのマインドの切り替えが求められます。

学習する組織では、このような変化に対応するために、5つの規律(メンタルモデル、システム思考、共有ビジョン、自己マスタリー、対話)が必要だと言います。その中の一つの規律がメンタルモデルを意識することです。メンタルモデルとは、我々のものの味方や判断軸のようなもので、通常は、過去の経験によって形成されます。

 

(これまでのメンタルモデル)

人事は会社が決めるもの

従業員は、人事の発令に従って、職務や職場を異動することが普通

従業員には、人事の発令に文句を言う権利はない

 

(VUCA時代のメンタルモデル)

キャリア選択は自分で決めるもの

職務や職場の異動は、会社都合だけではなく、個人の要望も反映されるのが普通

従業員は、自分のキャリア開発に責任を持つ

 

メンタルモデルの違いから理解する

メンタルモデルの違いを眺めることで、時代の変化を理解していくことが容易になります。

最近では、いつでも、どこでも働けるというリモートワークが流行り始めています。オリンピックの時期に向けて、都庁でも取り組みが進められているリモートワークですが、完全に市民権を手に入れているわけではありません。特に、過去のメンタルモデルを持ったまま、リモートワークを推進すると、「リモートワークをいかに管理するか」という思考になりやすいです。PCにカメラをつけて、データ入力のログを取り、管理するという発想もあります。

一方で、ユニリーバ社のように、朝5時から夜10時までの間、いつ、どこで働いても良いという制度も始まっています。ユニリーバ社は、この働き方を導入した結果、生産性が3割向上したと報告しています。そして、「自分の生産性は、自分で管理するのが一番である。なぜなら、自分の生産性がどのような状態で最も高まるのかを誰よりも知っているのは自分だから」と言います。

過去の前例を踏襲していたのでは、このような発想には行けないですね。

最近では、エンゲージメントという言葉も流行っています。ワーク・エンゲージメントとは、一言で言うと仕事の恋をしていること。その状態において、人は、活力と熱意を持ち、仕事に没頭することができると言います。最近では、エンゲージメントサーベイが流行っていて、経営者も、従業員のエンゲージメントを高めるために創意工夫を求められます。衛生面などの物理的環境を整備し給与を支払うことで、従業員満足を維持することができた時代もありましたが、今日は、精神的な満足度を高めることで、生産性を高め、人々の有能さを引き出すことができると考えられるようになりました。

経営者にとって大変な時代とも言えますが、学習する組織を作りやすい時代とも言えます。学習する組織は、すべての構成員に、主体性を発揮することを求めます。それが、会社の仕事であっても、自らの意思で、仕事に取り組む個人であることを要求します。「あなたは、なぜ、この仕事に取り組むのか」この問いに、自分の言葉で答えることができない集団には、学習する組織は作れないと言われています。

指示命令と管理で動く集団が、これまでの企業組織の常識でしたが、一人ひとりのワーク・エンゲージメントに意識を向ける組織は、一人ひとりの主体性を活かす組織になります。そうなると、学習する組織の規律の一つである自己マスタリー(自分が何者かを知っている、自分がなぜ、そのことに取り組むのかを知っている、自分が何を実現したいのかを知っている)を誰もが実践することになります。

日本が学習する国になる可能性は、日々高まっている。そんな時代がやってきました。

大学院の同窓会

2019.10.14 文部科学教育通信 掲載

ハーバードビジネススクールの30周年の同窓会に参加するために、9月に、ボストンを訪れました。この時期のボストンは、天候も良く、とても過ごしやすいです。今年は、温暖化の影響か、まだ、秋の紅葉は見ることはできませんでしたが、爽やかな気候の中、芝生の広がるキャンパスで、懐かしい同級生との再会を祝い、楽しい時間を過ごしました。

同級生の様子は様々で、現役で活躍している人もいれば、リタイアモードの人もいます。最近、ますます増えているのは、非営利団体の活用を支援し、社会貢献に従事する人たちです。

私のように、教育に熱い思いを持つ人たちも、たくさんいます。

 

オンライン・スクールリーダープログラム

とても嬉しかったのは、One Harvardの理念のもと、教育大学院とビジネススクールが協働して、オンラインのスクールリーダープログラムのデモを体験できたことです。ケースメソッドのカリキュラムは、とても実践的です。例えば、「荒れた学校に校長として赴任した際に、取り組むアクションの優先順位は何か」といった問いを中心に、学校改革について考えます。実際に、変革を成功させた校長先生へのインタビューも視聴することができるので、自己のリーダーシップを振り返り、アクションプランを考えることができます。

グローバルアドバイザリーボードとして、HBSの未来について考える会議に参加しているのですが、私も、教育大学院とのコラボで、公教育の質の向上にHBSが貢献するとよいと提案をした一人なので、プログラムを体験できて本当に嬉しく思いました。

HBSの進化

同窓会の最大の魅力は、最新の学びに触れる機会になることです。同窓会は、5年ごとに行われていますが、最近は、グローバルアドバイザリーボードとして、隔年、母校を訪れているので、最新の学びに触れる機会は増えています。それでも、1年ごとに、進化を遂げる学校の様子を知ることは、大きな刺激になります。

学長が素敵すぎる

ノリア・ニッティン学長はインド人。学長になられて10年になります。その間、母校は、大きな変容を遂げました。時代に合わせて、歴史のある大学院が、進化し続けることは、日本にいると考えられません。ニッティン学長のリーダーシップとイノベーションの推進は、まるで教科書通りです。そのひとつが、オンライン・ケースメソッド・クラスルームの実現です。今回初めて、オンライン授業が行われるスタジオを訪れ、想像を超える学習体験の質の高さに圧倒されました。

5年前のアドバイザリーボードでは、クラスの臨場感をオンラインで再現できないのではないかという懸念点が多く出ていたので、実際に出来上がった素晴らしいオンライン授業を体験し、自分の想像力のなさを反省しました。

ハーバードビジネススクールの特徴は、ケーススタディにあります。1年目は、九十人のグラスメートが、ケースをもとに議論を繰り返すことで、学生は、多面的、多角的な判断軸を手に入れ、同時に、ビジネスを成功に導くための法則を学びます。場を共有することが大切だから、教室のオンライン化は難しいと誰もが思っていました。

テクノロジーをどう生かすのか

日本でも、テクノロジーを教育に生かすEdtechが花盛りです。テクノロジーを教育に生かすという発想自体は、全く、目新しいものではありません。しかし、ハーバードビジネススクールのオンライン教室は、少し様子が異なり、ケーススタディという学習メソッドと教室環境をすべてオンラインに置き換えることに挑戦しました。オンラインになっても、リアルな教室で学ぶ体験と学習効果を一ミリも損なうことなく授業を再現することは、大きな挑戦でした。

クラスのスタートは、いつも、コールドコールで始まります。誰が、指名されるかわからないため、常に、クラスのスタートは緊張感から始まります。この緊張感がなければ、ケーススタディではないと、体験した誰もが思うほど、コールドコールは、ケーススタディに欠かせません。それをオンラインでも再現したのです!

オンラインでは、ランプを使って、最初の発表者が指名されます。指名された学生は、決めれた時間内にコメントをすることが求められます。実際のクラスでは、時間管理はそこまで厳しくないのですが、オンライになり、時間管理が加わりました。教室では、どんな発言も、時間とともに消えるのですが、オンラインでは、発言はデータとして残ります。結果的には、オンラインの方が、教室よりも、厳しい環境になりました。

テクノロジーと人間が臨場感を作り出す

壁中に映し出されている60名の参加者は、一人ひとりがテレビスクリーンのようなサイズで、とてもはっきりと顔が見える状態です。オンラインなので、世界中の人たちが、授業に参加することが可能です。

次に、驚いたのはカメラの数です。60人の参加者の顔が投影されているスクリーンの下には、60台のカメラが設置されています。教授が、誰かを指名したり、誰かと対話する際には、そのカメラを通して語りかける様子が投影されるため、本当に教授が自分に語りかけていることを実感することができます。あまりの臨場感に、スクリーンを介しての教室なのに、教授が近づいてきて、慌てて、後ろに退く人もいるそうです。

そのほかにも、何台ものカメラが、教授の様子を多方面から撮影し、教授の動きをリアルに感じられるように工夫しています。これらは、現在、人間の力に依存していますが、いずれ機会に代替される日が来るでしょう。

さらに、音声にも、細部へのこだわりが見られます。通常、オンライン会議を行う際には、話をする人以外が、音声を切っておくのが一般的です。 ところが、オンライン教室で音声を切ってしまうと、教授がジョークを言っても、誰も笑わない不自然な雰囲気になります。そこで、少し小さめの音で音声が常に聞こえる環境にしているそうです。 そして、誰かが話す時だけ、その人のマイクの音量を高めるのだそうです。市販の会議システムとは、大違いです。

今回、実際に、オンライン教室を見学し、テクノロジーを活用するためには、2つのことが大事であることを学びました。一つは、自分は何者かということをちゃんとしていることです。この事例では、教室で実施されるケーススタディという学びの体験です。それは、受講生と先生のやりとり、受講生同士のやりとりによって作り上げられています。どのクラスも、議論が中心であるため、同じになることはありませんが、そこには確立されたメソッドがあり、成功の法則があります。この法則を知り尽くしているからこそ、オンラインでも、教室同様の学びを提供することができる環境を作り上げることができました。

二つ目は、妥協を許さない、エクセレンスの追求です。彼らに、もし、オンラインだから仕方がないという思いがあれば、これくらいで良しにしようということになるでしょう。しかし、彼らは、オンライン教室での学習体験が、リアルな教室と同じになることを求めました。それが、開発チームにも伝わり、ここまでのプログラムに発展したのだと思います。

ハーバードビジネススクールの進化から、目が離せません。

ダイバージティ経営研究会

2019.09.23 文部科学教育通信 掲載

昭和女子大学ダイバーシティ推進機構では、ダイバーシティの推進と働き方改革をテーマに、企業の皆さんと共に研究会を実施しています。本日は、働き方改革をテーマに、八代尚宏先生のお話を伺いました。

少子高齢化により加速する女性活躍促進の鍵を握るのは、実は、女性ではなく男性の働き方改革であるということを、どれだけの人が理解しているのでしょうか。八代先生のお話を伺い、そんな問いが頭に浮かびました。

 

世界が絶賛した働き方

八代尚宏先生は、「80年代には、日本の働き方が世界で絶賛され、世界から多くの視察団が日本に訪れた」というお話をされました。高度経済成長を支えた男性社会の働き方が、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時代を作り上げ、高く評価されていたそうです。しかし、残念ながら、成長が鈍化した今、同様の働き方を続けることはできません。そう言葉にするのは簡単ですが、人々のマインドセットや行動様式に組み込まれた働き方に関する価値観を変えることは、それほど簡単なことではありません。

変えると一言で言っても、「何を変えるのか」をこの国の誰が本当に整理できているのでしょうか。そんな疑問も沸いてきます。実際の所、多くの人たちが、半信半疑の中、ダイバーシティ推進と働き方改革に取り組んでいるというのが現実かもしれません。

2020年女性管理職比率30%

2013年に、安陪総理が、2020年に女性管理職比率30%を目指すという方針を打ち出し、スタートした成長戦略としての女性活躍推進は、女性活躍推進法や働き方改革関連法の施行により、異例のスピードで進んでいると感じます。若い男女は、高齢化する社会の中で、子育てをしながら夫婦共に働く社会環境が整いはじめていることに安心感を抱いている様子です。一方、男性社会で活躍してきた人々にとっては、出産後も働き続ける時短社員をはじめとする制約人材の登場に、戸惑いを抱いているというのが正直な感想ではないでしょうか。

時短社員の出現

出産後、時短で働く女性たちは、5年前に比べれば確実に増えています。女性を対象にした管理職育成研修に参加する女性の中にも、時短の方々がいらっしゃいます。時短でも責任のある仕事がしたい。そう考える女性もたくさんいます。一方、上司の皆さんとお話をすると、時短の女性に何を依頼してよいかわからないという悩みがあるようです。私は、両方の立場を経験しているのでよくわかるのですが、子育て中の最大の問題は、突発的な子どもの病気です。不思議なもので、この日は絶対病気にならないで! と強く願うと、その日に限って、子どもは熱を出します(笑)科学的根拠はありませんが、お母さんの緊張感が、子どもの体調不良の原因で、私自身がリラックスしていれば、子どもは急に熱を出したりしないのではないかという仮説を持ちました。事実、あらかじめ、熱が出た時に、誰に頼むのかを準備しておくと、そんな日に限って、熱が出ないということも、多くありました。「子どもの発熱で休みます」「保育園から電話が入り、お迎えにいきます」という状況では、男性社会では、「当てにならない」ということになりますが、全員が女性なら、お互い様ということになり、助け合いが生まれます。共働きが当たり前になり、夫と妻のどちらが今日休むか、そんな議論が当たり前になれば、男性も、助け合うというイメージを持ってくれるのでしょう。

活躍する時短社員

時短を経験し、管理職になられた女性の多くは、前倒しで仕事に取り組むことや、段取りを考えて動くこと、いざという時に周囲が困らないように情報を整理しておくことなど、とても効率的に仕事を計画し実行しています。ある男性が、夜、予定があると、仕事を積み残さないように、計画的に仕事を処理するという話をされていましたが、時短の女性は、毎日、そのような感覚で仕事をしています。

営業職の女性でも、信頼を勝ち得て、逆に、お客様が、時短の働き方を理解し、4時以降連絡をしないという事例なども、生まれています。2020年に女性管理職比率は30%にはなりませんが、安陪総理の発言を機に始まった女性活躍推進は、現在も推進中ではありますが、確実に実を結びつつあります。

ハンディがある?

女性も男性同様に重要な労働力にするためには、男女の不平等を解消する必要があり、働き方改革が推し進められているという背景があります。しかし、男性社会において、働き方改革の必要性がどこまで理解されているのかは疑問です。長時間働けない女性に基準を合わせて、働き方を変えることにどのような意義があるのか。そう思う人も多いのではないでしょうか。あるいは、女性ばかり活躍が期待され、自分たちの活躍に期待する声が聞こえないと、寂しく感じている男性も多いかもしれません。

八代先生は、講義の中で、「女性には、ハンディがある。シングルの女性であっても、専業主婦を持つ男性と戦わなければならないからだ」と話されました。そこまでは、考えたことがなかったので、私にとっても、このコメントは目から鱗でした。OECDのフランス事務所でお仕事をされた経験のある八代先生ならでのコメントではないかと思います。

共働き社会

女性が男性同様活躍するためには、これまでの当たり前を変えていく必要があります。たとえば、夜の接待ができないと営業担当になれない商習慣は、専業主婦を持つ男性社会を前提にしています。しかし、女性が働くということは、同時に、夫も家庭に協力することになるので、これからは女性だけでなく、男性も、夜遅くまで仕事をすることができないということになります。

現時点では、古い働き方と新たしい働き方が混在した状態ですが、これから、10年もすれば、共働き社会が当たり前になり、新しい働き方が当たり前という時代が到来するのでしょう。

多様な働き方

働き方改革においては、リモートワーク、兼業・副業と新たな制度が次々に始まり、人事担当者は頭を悩ませています。管理する側にとっては、多様性ほどやっかいなものはありません。誰もが、一律、同じような条件で働いてくれることを前提にした制度に、どのように多様性を包摂するのか、柔軟性を実現できるのか。チャレンジは大きいです。

海外では、インターネットの時代になり、ワークとライフの区別をなくす働き方も進んでいます。一日24時間の中で、ワークとライフをどのように区分するのかを自分で決めることができるという考え方です。たとえば、子どもを持つ親にとって、こどものお迎えや保護者会などに自由に参加できて、子どもが寝てからゆっくりと仕事をする方が、人生は充実するし、生産性も高まるという発想です。もちろん、残業という概念も、この働き方にはありません。

イギリスの大手通信会社では、いつ、どこで、どのくらいの時間働くのかを、自己申請できるそうです。そして、上司は、部下が働き方の変更を申請したら、理由を聞かず、その考えを尊重するというのがポリシーだと伺いました。働き方を選ぶ権利は個人に帰属し、個人の生き方に関わる選択は、尊重されるべきものなのだそうです。

本当の働き方改革は、企業が制度をどう変えていくかではなく、個人がどう生き、働くのかを考えることなのかもしれません。みなさんは、どんな働き方を実現したいですか。

彼女の時代

2019.09.09文部科学教育通信 掲載

アリババが主催する2019女性起業家カンフェレンスの基調講演を行いました。「彼女の時代:彼女たちが創り出す世界」というコンセプトで開催されたカンフェレンスは、事業だけでなく、女性が創り出す家族、コミュニティ、会社、商品など、多種多様な世界観で、女性の創り出す世界に注目したものです。新しい創造に踏み出す女性たちの勇気とインスピレーションをシェアし合うことで、お互いをエンパワメントすることを狙いにしています。

 

カンファレンスの趣旨

世界の女性リーダーの知見をシェアする場を提供することで、女性が社会や会社の意思決定に積極的に参加し、新しい価値の創造に主体性と自分らしさを発揮できる世界に貢献することを目指し、このコンフェレンスは、2015年から毎年行われているそうです。そして、日本で初めて開催されたカンフェレンスでは、アリババの創業者ジャック・マー氏のいる広州の会場をカンフェレンスシステム繋ぎ、行われました。

 

ジャック・マー氏の信念

アリババは、女性の活躍が進んでいる企業としても有名です。IT企業には珍しく、創業からしばらく、女性比率は49%だったと伺いました。現在は、規模が拡大し、女性比率は、33%。しかし、女性管理職比率は34%を維持しています。

 

創業者ジャック・マー氏は、女性を選ぶのではなく、女性に選ばれる企業になることを目指すと言います。彼は、あと数週間で経営を後身に譲り、これからは、女性活躍支援や教育の発展に、自分の時間とエネルギーを注ぐ予定です。彼が主催する最後のカンフェレンス、そして日本で初めてのカンフェレンスで、基調講演をさせていただいたことは、とても貴重な思い出になりました。

 

ジャック・マー氏への質問の中でも、「政治家について女性の比率を提示するクォーター制

についてどう思うのか」という質問に対してのジャックの答えでした。今に、「男性のクォーター制、つまり男性の比率を高めないといけないのではないか」という議論が始まるだろうという将来予測を語りました。女性の持つ顧客視点、コミュニケーション力、変化を望むマインドセットなどが、社会をより良い方向に向かわせるというジャックの信念は、とても強く、彼の話を聞きながら、私を含めて日本の女性たちも大変大きな勇気をもらいました。

 

基調講演

基調講演では、以下のようなお話しました。

アントレプレナーの姿

アントレプレナーという言葉で、アップルを創業したスティーブ・ジョブス氏や、アリババを創業したジャック・マー氏をイメージする方も多いと思います。しかし、アントレプレナーは、ビジネスパーソンだけに当てはまる言葉ではありません。ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサも、アントレプレナーです。インドの修道院で豊かなこどもたちの教育に従事していたマザー・テレサは、修道院の外の街に暮らす貧しい人たちを助けるために生きたいと強く思うようになりました。しかし、バチカンは、すぐにテレサの要望を受け入れた訳ではなかったそうです。何度も、お願いをし、許可をももらったテレサは、貧しい人々を助ける活動を始め、やがて、「神と愛の宣教者の会」は、世界123カ国に、四千人のネットワークを持つ宣教者の会に発展します。アントレプレナーは、自分のアイディアと行動で、世の中にポジティブなインパクトを与える人、そう捉えると、マザー・テレサも、偉大なアントレプレナーです。アントレプレナーに一つの形はなく、自分が何を大切にしていて、どんな世界を作り出したいのかが、アントレプレナーの全てです。

 

アントレプレナーとの仕事

私は、マクドナルドの創業者藤田田氏、カルチャーコンビニエンスストアの創業者増田宗昭氏の二人のアントレプレナーと仕事をした経験を持ちます。彼らは、業種業態の異なる事業に従事していますが、アントレプレナーとしての気質には、共通のものがあると感じました。

ビジョンが明確で、独自性があり、決断が早い。そして、何より素敵なことは、夢は実現するということを、私に信じさせてくれたことです。私はそんなアントレプレナーの気質が大好きです。基調講演では、女性アントレプレナーのパネルディスカッションがありましたが、みなさんにも、アントレプレナーの気質を感じることができました。

 

私の独立

私も、独自のアントレプレナーの道を歩む一人の人間です。私が、独立をしたのは、ワークライフバランスを実現するためでした。仕事が大好きだった私は、当時、ワーク・ワークライフを生きていました。そんな私が、子どもの出産を機に、子育てに夢中になり、そこで初めて、ワーク・ライフ・バランスが必要になりました。

仕事はスローダウンしましたが、子育てと、仕事の両立を目指し、実業を離れ、人材育成や組織開発の仕事に取り組む中で、たくさんの学びを得ることができました。

また、子育てを通して、リーダーシップ、タイムマネジメント、チームビルディング、権限委譲のスキルを磨きました。また、子どもの成長に関わることで、人間が本来持っている潜在的能力、成長と学習の可能性を心から信じることができるようになりました。この経験が、今日の仕事の土台になっていると感じます。そして、子どもが成長し、学齢が上がるごとに、仕事の幅を広げ、息子が成人した今日は、再びワーク・ワークバランスの人生を楽しんでいます。

 

女性のリーダーシップ

女性アントレプレナーの皆さんに一つアドバイスをすることを求められたので、私は、リーダーシップの話をしました。

昭和女子大学キャリアカレッジでいつもお話しするのですが、女性はリーダーに最適だということです。リーダーシップとは、影響力のことです。アントレプレナーは、自分の夢を実現するために、他者を巻き込み影響力が必要になります。

リーダーシップの定義は、時代とともに変わり、1980年代は、カリスマ的なリーダーが良いと考えられていましたが、今日では、エンパシーやチームがリーダーシップにおいて重要と考えられるようになりました。多様化する時代の中で、自分と異なる他者の立場や考えを理解することがますます大事になっています。複雑な問題解決にチャレンジすることが求められる時代には、チーム力が欠かせません。グローバルリーダーに最も大切ことは、エンパシーだとも言われる時代です。そして、エンパシーもチームも、女性がとても得意なことです。女性アントレプレナーには、リーダーシップを発揮して、夢を実現して欲しいと思います。

 

世界も日本の女性に注目

残念ながら、ジェンダーギャップレポートによると、日本は、世界149カ国中、114位とう低いランキングです。政治と経済活動に女性が参加していないことが、その理由です。役員会にも国会にも女性がいないため、この国の意思決定は女性抜きで行われています。

もし、女性が意思決定に参加していたら、女性活躍推進ももっとスムーズに行えるし、OECDの平均以下と言われている教育予算も増やすことができるし、意思決定に生活者の視点が生かせるのではないかと思います。一方で、日本は、教育の面で男女平等が実現しています。女性の潜在的な力はまだまだ眠っているままなのではないでしょうか。エコノミストの元編集長ビル・エモット氏が、今年、「日本の未来は女性が決める」という本を出版されたのも、そんな想いがあったからだと思います。

 

自分らしく生きる、働く。それがアントレプレナーの実践。それがやりがいと幸せにもつながっている。自分のアイディアと行動で、社会にポジティブなインパクトを与える女性が増えることが、世界を幸せにする。そう信じて、私も女性アントレプレナーを支援して行きたいと思います。

組織デザイン

2019年8月26日 文部科学教育通信掲載

自律型人材を増やし、自律型組織をつくる活動を加速しています。実はグローバル化する以前の日本企業は、自律型組織でした。しかし、いつのまにか、指示命令・管理型組織に変容してしまいました。その結果、組織は停滞し、人も充実感が得られない そんな状態に陥っていることがとても残念だからです。

牧歌的な日本企業

私が、新入社員だった頃は、まだ、日本型経営の名残あり、人々は愛社精神を持ち、会社には、家族的な雰囲気がありました。日本は、世界的に見ても、経営者と新入社員の給与の差がとても小さく、みんなが同じフロアーで仕事をする、フラットな組織でした。当時は、まだ、終身雇用が当たり前で、会社を売り買いすることも、人が流動することも稀でした。

これが、今から30年前の日本企業の様子です。

指示命令・管理型組織

上下関係がより鮮明になったのは、バブル以降ではないかと思います。特に、業績を上げるために、指示命令・管理を徹底する企業が増え、ポジションパワーで圧をかける組織風土も生まれました。そうなると、終身雇用で流動性がないことが、人を苦しめ、倫理的に間違った指示にも、従わなければならない。上司の評価も、かわいい部下か否か、俺のいうことを聞くか否か、といったとても俗人的な評価でしたから、誰もが、上司の顔色を見ることになります。

バブルの頃から、日本企業にも西洋の制度や仕組みが紹介され、成果主義という考え方が導入されます。それまで、家族的な雰囲気で、年功序列の給与制度だった日本企業にも、成果を挙げている人を高く評価するという考え方が導入されました。成果主義の導入により、指示命令・管理で人を動かす組織風土がより強くなって行きました。

学校

この10年間、学校の教育改革を支援するために、様々な活動に取り組んで来ました。その中で、大きな課題が浮き彫りになりました。それは、指示命令に従う受身な人材を育成する学校文化を変えない限り、日本の教育はよくならないということです。

先生と生徒の上下関係、関心意欲態度の評価のために行動する生徒たち、その様子が、バブル崩壊後の日本企業の姿と重なりました。そこで私は、学校文化を変えるために、企業を自律型組織に変える活動を始めています。

企業と学校の関係

遠回りのようですが、企業が変われば学校も変わると考えました。企業が変わる方が、学校が変わるよりも簡単です。その理由は、2つあります。企業の方が、課題を可視化しやすく、また、組織を変えることによるメリットも評価しやすいからです。業績や、組織風土、人々のやりがいなどとして、変化を誰もが実感することができます。

企業が変われば学校が変わる そう信じて活動にまい進しています。企業が変われば、社会通念が変わり、社会通念が変わると、学校にもその影響が出るからです。また、企業に働く親たちの常識が変われば、学校にもその影響がでます。社会をシステム思考で捉えると、学校は、社会の映し鏡と考えることができるため、企業が変われば学校が変わるはずです。そう信じて、企業の組織改革を支援しています。

OS21

今、日本でも、子どもたちの主体的、対話的で深い学びに重きを置く教育が始まっています。自律型組織を実現するためにも、主体的、対話的で深い学びが必要になるため、大人向けに、リフレクションを広める活動に取り組んでいます。この学び方を、コンピューターのOSと、21世紀を掛け合わせて、OS21と呼んでいます。自分の考えや気持ちをリフレクションし、批判的なスタンスで、振り返ることで、深い学びを得ることが可能になります。OS21を企業で広めることで、親が家庭でも、主体的、対話的深い学びを子どもたちに実践してくれることを期待しています。

文化・風土

教育改革では、常に、何を教えるのかに意識が向いてしまいますが、学びを支える文化・風土の醸成が、何を教えるかと同じ位大事だと考えています。

学びのためには、心理的安全性が担保されていることが必須です。誰もが、安心して巣の自分を出せて、巣の自分を出しても、受け入れてもらえるという安心感です。教育現場に、この心理的安全性がないことはとても大きな課題です。

学校は、先生にとっても、生徒にとっても、安全な場所ではないのではないか、そう考えています。先生と生徒の人間関係、保護者と先生の人間関係、生徒同士の人間関係、どれをとっても、不安な状態ではないかと思います。この環境では、安心して、本音を出すことはできず、誰もが、表層的な関係性の中で、調和を保っているのではないでしょうか。この環境では、主体的、対話的で深い学びを実現することは難しいです。

ピースフルスクール

学校の文化を変えるために、何もしていない訳ではありません。オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールを広める活動が、それにあたります。子どもたちが、自立と共生のために必要な理念とスキルを磨くことで、子どもたちが、自ら心理的な安全性を実現する教育です。

多様な意見があること、多様な気持ちがあることが、当たり前であると考え、対立が起きたら話し合うという行動基準を持つことで、先生が介入しなくても、子どもたちが、自ら社会を作り上げることができます。その結果、子どもたちの主体性も高まり、学校も自律型組織に変わることができます。

学校が自律型組織に変わるためには、先生が指示命令を手放すだけでは充分ではなく、生徒が主体的に問題を解決する力を高めることが必要です。その方法論を提示してくれるのがピースフルスクールなので、日本の教育が、指示命令に従う受け身人材ではなく、自律的な人材を育てる上で、このプログラムが必須ではないかと思い、活動しています。

時代が求める組織

企業経営の世界では、上司のいない、階層のないフラットな組織という概念が生まれています。個人が、組織の存在目的とつながり、自律的に使命を果たす組織です。自律的な個人は、指示命令がなくても、自ら考え動くことができるし、お互いに協力して問題を解決することもできる このような信念を持つ新しいタイプの組織が、世界中で生まれています。

高度成長期の日本企業は、これに近かったのではないかと思います。以前、ある自動車メーカーで管理職研修を行った際に、「日本でも立ち上げたことがない工場を、突然、アメリカで立ち上げてこいといわれ、がむしゃらに頑張った」とか、「いきないり、30代で150人の部下を持ち組織を動かした」というような話がでました。成長のスピードにあわせて、誰もが精一杯チャレンジする世界では、指示命令を待っている社員はいなかったのではないかと思います。

命令に従う受身人材が増えてしまったのは、この数十年の話ではないかと思います。そうであれば、私の仕事は、私たちのDNAにある、自律性を蘇らせるだけでよいはず!そう信じ、自律型人材と自律型組織を増やす活動に取り組んでいます。

そして、学校現場にも、子どもたちの自律性を守り、育む環境が当たり前になる日が来ることを願い、経済と教育の対話を続けていきたいと思います。

 

働き方改革と教育

2019年8月12日 文部科学教育通信掲載

昭和女子大学ダイバーシティ推進機構では、今年、海外の働き方シリーズの講演会を開催しています。7月は、公益財団法人1more Baby応援団 専務理事 秋山 開 氏をお招きし、オランダの働き方のお話を、聴く機会がありました。

 

同一労働、同一条件

オランダには、同一労働・同一条件が実現しており、多様な働き方を誰もが選択できる環境があります。オランダの働き方改革の歴史は短く、この30年間の間に、夫婦で、1.5人働くモデルが確立されました。お父さんも、お母さんも、週4日働くという家庭もあり、平日に公園で子どもと遊ぶお父さんの姿を見ることも珍しくありません。夕食は、家族みんなで食べることが当たり前になっています。家族での食事と対話の時間を大切にしていると言います。世界一子どもが幸せな国のワークライフバランスは、家族の幸せに繋がっています。

 

規則はない

働き方に関する規則はほとんどなく、上司と部下が話し合い、働く時間と役割を決めます。規則があると、一人ひとりのニーズに対応することができないため、規則はない方が良いと言います。また、個人が、目標達成できないときは、目標が間違っていると考えるそうです。目標は、上司と部下がしっかりと話し合い決めているので、それが達成できない時には、目標が間違っていたということになるそうです。

 

チーム

オランダの働き方の話を聞くと、個人がとても自律しているように思いますが、チーム力もとても高いことがわかります。多様な働き方をみんなが選択する一方で、チームが使命を全うするために、お互いの立場を理解した上で、状況に合わせて働き方を変えることもあるようです。こうして、チームで連携することができるのも、何が公正かを共通認識できているからのようです。多様な働き方を各自が選択しても、仕事の偏りや不公平感は問題にならないそうです。

 

日本の働き方改革も自律

日本では、働き方改革が始まったばかりで、画一的な働き方が前提の組織に、産休明けに時短で働く女性が増えたり、リモートワークが始まったりという程度です。しかし、これから先、本当の働き方改革を進めるためには、制度だけでなく、人々の自律がカギを握るのではないかと思います。

 

権限委譲も自律

働き方改革には様々な要素がありますが、権限委譲も大きなテーマです。変化するスピードが加速する中で、現場に裁量権を委譲していく方が、良質な意思決定ができると言われる時代になりました。何階層にも渡り、お伺いや承認をもらう既存の組織の意思決定は、アクションのスピードを遅らせる原因になっています。承認が不要なら、もっと速く意思決定し、先に進むことができます。そのためには、一人ひとりが、自分で考え、行動し、結果を振り返る自律した個人である必要があります。

 

生産性向上も自律

必要な業務か否かを判断したり、必要な連携を積極的に推進する等、生産性向上の機会は、あらゆる業務の中にあります。業務分析を行って、全社的に生産性向上に取り組むことも大事ですが、一人ひとりの生産性に対する自覚と、創意工夫も同じくらい大事なのではないかと思います。不要だと思った業務については、誰かが声をあげ、みんなで合意できたら削除する。そういったイニシアィチブを取ることも、自律した個人でなければできません。

 

働き方改革とピースフルスクール

秋山さんのお話を伺いながら、昭和女子大学で取り組んでいる働き方改革と、クマヒラセキュリティ財団で取り組んでいる自立と共生を育むシチズンシップ教育がつながっていることに気づきました。オランダの働き方の背景には、自律した個人の存在があり、それは、教育の段階からしっかりと育まれているという気づきです。

 

遠慮することなく、自分の意見を理由と事例を添えて述べる。評価判断を保留にして人の意見に耳を傾け、対話する。そういった力が、多様性を前提にした働き方を実現する上で必須ではないかと思います。そして、それは、できれば、大人になってから学ぶのではなく、幼児期から学ぶ方が楽ということです。

 

教育と経済は双子

未来教育会議の活動では、多様なステイクホルダーとの対話を通して、教育と経済が双子であるという結論に至りました。指示命令と評価で人を動かす仕組みは、学校も企業も同じです。主体性の定義も、会社では、指示命令に従い、前向きに行動する人のこと、学校では、勉強しなさいと言わなくても自ら勉学に励む子どもこと、というのも似ています。この主体性で推進できる働き方改革には限界があります。働く時間を管理されるから、長時間労働を削減するという働き方改革では、生産性向上を実現することは難しいです。

 

誰もが誰かの邪魔をする

企業で、女性活躍や働き方改革の推進に取り組む担当者の話を伺うことがよくあります。そんな中で、組織の理解が得られないという話題がよく出ます。

多くの場合、自分の業務に関係のない、新たな取り組みは、女性活躍や働き方改革に関わらず、組織内の人々に理解されることがなく、大抵の場合、担当者が孤軍奮闘するというのが、現実です。トップの強いメッセージがないかぎり、一担当者ではなかなか物事を前に進めることができません。

逆風の中を、担当者が懸命に前進する。この様子を見ながら、ある時、大事なことに気づきました。それは、誰もが誰かの邪魔をしているということです。協力しないという邪魔です。積極的に妨害する訳ではありませんが、推進に協力しないというのは、邪魔していることと同じです。そして、このことは、おそらく全ての人に当てはまるのではないかと思います。その結果、不毛な取り組みが多くなり、当然、生産性も下がってしまいます。

 

オランダの教育

オランダの市民力は、理念と教育によって支えられています。民主的な社会は、対立を前提にするという強い信念を持ち、教育においても、自分の意見を持つこと、意見が違ってもお友達で良いこと、意見が対立することは悪いことではないことを、幼児から教わります。同時に、話し合うことを大事にしていて、喧嘩や我慢という道を選んではいけないと教わります。だから、主体性も高く、同時に、コラボレーション力も高いというのが、オランダの特徴です。この力が、オランダの働き方改革を支えたのではないかと思います。

 

多様性が堂々と存在でき、ちゃんと話し合いをして納得する。この感覚がなければ、多様な働き方を組織で実現することはできないのではないかと思います。これまでは、制度が公正を担保する力を持っていましたが、これからは、個々の多様なニーズを聞き取り、対応していく管理職が、公正を維持し、説明することも大事になります。

 

秋山さんのお話を伺い、改めて、働き方改革や生産性の向上を実現するためにも、子どもが幸せになれるワークライフバランスを実現するためにも、自律と共生の力を育むオランダ教育ピースフルスクールを積極的に広めていこうと思いました。小さいうちから始めることで、子ども達は簡単に、楽しく学べます。子どもに届ければ、保護者にも届きます。保護者に届けば、職場にも届きます。そんな連鎖を創っていきたいと思います。

共働き・共子育て社会

2019年7月22日 文部科学教育通信掲載

月に、3日連続で、渋谷区内を走るミニバスに乗車する機会を持ちました。毎日、朝8時半のバスに乗っていたのですが、驚いたことに車内の8割が子連れの親子でした。私は、3停留所しか乗っていなかったのですが、そのうち2つが、保育園の最寄の停留所なので、子連れの親子は、そのどちらかで全員下車します。

 

私もかつて、子育てをしながら働いていたので、その当時のことを思うと、想像できない光景です。誰もが、当たり前に、出勤前に、子どもを保育園に連れて行く。それが彼らの日常の風景のようです。我々の世代は、「お母さんが働きに出て、子どもがちゃんと育つのか?」と批判されることもありましたが、もうそんな批判を受けることもないのでしょう。

 

昭和女子大学キャリアカレッジ学院長として、女性の活躍支援や、働き方改革等を推し進める活動をしており、その中でも、片働き社会から共働き社会へのシフトが、もっとも大事なテーマであると伝えています。共働き夫婦は、長時間働くことは難しく、ワークライフバランスや多様な働き方が必要になりました。このように伝えてはいましたが、ミニバスの8割が親子連れで、パパとママの割合も半々位という様子から、共働き・共子育て時代がもう始まっていることを改めて認識することができました。

 

新人パパの戦い

2日目の朝、バスの中で、宇宙に響くのではないかというくらい大きな声で、「ママ」と叫ぶ子どもに出会いました。パパとママと一緒に乗っていた子どもが、最初にママが下車する際の出来事です。「ママ、ママ、ママ」と、大きな声で泣きじゃくる子どもを、一生懸命、パパが慰めています。パパは、「ママがいいよね」といいながら、周りに迷惑をかけていて申し訳ないという気持ちとともに、冷静に、対処しようとしています。

 

あまりにも、声が大きいので、もちろん、誰もが、その子がどんな風に落ち着いてくれるのかを気にしています。そんな中、私の目の前にいるお父さんが、ニコニコしながらそのお父さんの様子を見守っているではありませんか! その暖かい眼差しから、「大丈夫だよ。最初は、誰でもこうなんだ」という言葉が聞こえてくるようでした。

 

男性の共感力

昔は、お父さんと幼児が二人だけで道を歩いていたり、お父さんが、子どもを抱っこしていたら、お母さんは病気かしらと心配していました。しかし、お母さんだけが子育てする時代は完全に終わり、お父さんも子育てに参画する時代が確実に到来していることを確信する出来事でした。だからでしょうか。このバスの中の男性の共感力が相当高い! 誰も、子どもの泣き声にイライラしたり、怒ったりする人がいません。

 

私は、子どもが赤ちゃんの頃、何度も飛行機に乗らなければならず、それがとてもストレスでした。赤ちゃんが泣かないように、色々な道具を用意して、それでも、泣いたら、トイレに飛び込むようにしていました。そんな努力をしても、子どもの泣き声を不快に思うおじさんたちから冷たい視線を浴びることもありました。子育ての経験がないおじさんばかりでしたから、共感はゼロです。それに比べると、渋谷区のミニバスの光景は、別世界です。誰もが、「ママ、ママ」と泣き叫ぶ子どもとお父さんを、無言で、暖かく見守っていました。

 

子どもの育ち

ピースフルスクールやシステム思考教育を幼児を対象に行う中で、子どもの発達の可能性について学びました。特に驚いたのは、4歳から5歳の間に、人間の遂行能力は、生涯の中でもっとも成長するという事実です。年中、年長さんの時に、どれだけ、子どもたちが、その能力を高められるかは、生涯の幸せにも影響するという研究発表もあり、幼児期の子どもの発達がとても大事だと知りました。人間の感性は、生まれてから3歳までが、生涯の中でもっとも高いということも知りました。

 

人間の発達という観点からは、保育のあり方がとても大事であることがわかります。共働き社会においても、子どもたちがすくすくと育つように、保育を充実していくことが本当に大切だと感じます。子どもの発達の可能性は、目に見えないものなのですが、それ軽視すると、その代償を、生涯に渡り、個人も社会も負担することになります。高齢化社会への投資と同様に、共働き社会を支えるために、幼児教育への投資がしっかりと行われることを願います。

 

共働き社会

共働き社会を実現する上で、大切な議論がまだ始まっていないことが気がかりです。それは、

「私たちは、どんな共働き社会を実現したいのか」という問いに答えるための議論です。

 

世界一子どもが幸せな国オランダでは、夫婦で、1.5人分働くことが目安となっています。

また、同一労働、同一賃金ではなく、同一労働、同一条件が実現しており、フレキシブルな働き方を選んでも、同じ条件で働くことが可能です。また、部長職でも、ワークシェアリングが可能なので、週3日働く二人の部長さんが、たとえば、人事部長という役職を一緒に全うするということも、珍しくないそうです。

 

このような働き方が当たり前なので、お父さんも、週4日勤務などが可能で、平日、公園で遊んでいるお父さんと子どもの姿を目にすることも珍しくありません。また、家族と過ごす時間を誰もが大事にしていて、夕食は家族と一緒に食べることが当たり前。家族の対話もとても大切にしているようです。

 

今、日本では、女性を活躍させることに必死で、そのわかりやすい取り組みが、女性管理職を増やすという施策です。これまでは、同じ優秀さであれば、家族を養う男性を優先して管理職にするという暗黙のルールがあった日本企業で、女性管理職比率を上げるという取り組みは、革命に近い動きです。しかし、男性も、女性もフルに働くという話になると、子どもがその犠牲になってしまいます。子どもは、そのニーズを声にする力がないので、私たち大人が、子どもの心の声を聴き取る必要があります。

 

企業と家族がウィン・ウィンとなるような働き方を実現することが、共働き社会における働き方改革のゴールです。残念ながら、現時点では、長時間労働を削減する、残業を減らすという試みが中心で、まだまだ、本質的な仕事の見直しには至っていません。また、多くの企業では、残業を減らすために、管理職が仕事を引き取るという話もよく耳にします。女性活躍を推進するための働き方改革が、女性が管理職になりたくない理由になっているという矛盾も生まれています。

 

オランダでは、働き方に関する規則がほとんどないそうです。理由は、規則があると、個別対応ができないからだそうです。一人ひとりが働き方を選び、上司との話し合いを通して、すべて決めていくのだそうです。一方、チームで仕事に取り組むことが一般的で、メンバーの一人が、勤務時間を削減したいということになると、他のメンバーが、その仕事を引き受けるなど、仕事の組み換えを行い、チームで全体の使命を果たすといいます。多様な働き方を推進するということは、こういうことなのかもしれないと思います。

 

職業人としての個人と、家族の一員としての個人がともに幸せを手に入れる共働き社会を目指したいです。

人を育てる喜び

2019.07.08 文部科学教育通信掲載

最近、企業の世界では、1on1(ワンオンワン)ミーティングという1対1の面談が流行っています。ヤフーを始めとするイノベーション戦略を中核に置く企業が、いち早く導入した経緯もあり、1on1ミーティングに注目が集まっている様です。そして、最近では、人事の方が、経営トップの命令で、うちでも1on1ミーティングを始めなければならないと、慌ててご相談を受けることもあります。しかし、そういう企業では、1on1ミーティングをイノベーションが生まれる「打ち手の小槌」と勘違いしている様子で、「あれ? 人を育てたい訳ではないのですか」と質問をお返しすることもあります。

育成は関心の低いテーマ?

日本企業のビジネスパーソンに、これまで多種多様な研修を実施して来たのですが、その中でも、受講者のモチベーションが最も上がらないテーマの一つが、「部下の育成」でした。そんな経験もあり、1on1ミーティングが流行る中、最近のブームを少し、冷めた目で見ている私がいるのかもしれません。

企業が成長していた時代には、次々とチャレンジが目の前に現れ、誰もが、待った無しで成長を求められたのですが、成長が鈍化すると、人にもチャレンジが求められなくなりました。人口減少等の外的要因はありますが、もしかすると、日本企業の成長が止まったのは、人がチャレンジしなくて良くなったからという逆の見方もできます。

 

人を育てる喜び

ビジネスパーソンに部下育成を教え始めた頃、子育てにチャレンジしていました。そこで、私は、ビジネスパーソンに教えることを、次々と子どもにも教えていきました。その結果、人を育てる喜びを知ることができました。教えたことが、生かされ、人が成長していくと、とっても嬉しいです。しかし、逆に、教えや指導が役に立たないと、とても残念な気持ちになります。ビジネスパーソンが、1on1ミーティングを通して、人を育てる喜びを知る機会になれば良いと思います。

 

子どもは学びの達人

ビジネスパーソンは、学んだ知識を知識として収めておくのに対して、子どもは、すぐに使ってみるという違いがありました。

例えば、MBTIというユングの心理学タイプ論に基づく、人の志向を明らかにする理論を大人に教えると、「相手のタイプを理解するのは、難しいですね」とビジネスパーソンはいうのですが、小学生の子どもは、すぐに友達の分析を始めます。「先生は、このタイプだね。だから、僕のことを理解してくれる。あれ、僕は、内向志向だけど、親友には外向志向が多い」と、子どもは、間違ってしまうことを恐れないので、どんどん知識を試していくことができます。

もちろん、人の志向を決めつけてはいけないことは教えた上ですが、子どもは、多様性を理解するために、本当に上手にMBTIを活用するので驚きました。

 

育つ意欲

部下育成にあまり積極的ではない上司は、部下の育つ意欲を信頼していません。これ以上ストレチを求めると、嫌がるのではないか、嫌われるのではないか、パワハラと思われるのではないか そんな風に考えている人もいるようです。そのため、部下がストレッチ経験を持つ機会を提供することができません。その結果、上司は、部下育成の成功体験を手にすることができず、部下も、成長意欲を眠らせたまま、日々の仕事をこなすだけということになります。

成人発達理論では、人は、他者の支援により、潜在的な能力を大きく伸ばすことができることが明らかなようですから、部下育成にチャレンジする上司が増えることを願うばかりです。

同時に、部下の育つ意欲が、どうすれば高まるのか、あるいは、表出するのかにも目を向ける必要があります。

私は、人は誰もが、育つ意欲を持っていると考えています。仕事は、もちろん報酬を得る手段です。しかし、それだけが、仕事の喜びではないはずです。まずは、お客様や周囲の人たちに貢献する、社会に貢献することで喜びを得る。貢献という言葉に魅了されない人も、感謝され、評価されることは嬉しいし、感謝も評価もされない仕事には喜びを感じることができないはずです。また、ストレッチが好きという人は少ないかもしれませんが、マンネリはいやと感じる人は多いはずです。

そんな風に考えれば、人は、他者に貢献するために、あるいは、人々から、存在を喜んでもらえるために、誰もが育つ意欲を持っていると考えても良いのではないでしょうか。もちろん、学習と成長そのものに、強い欲求を持つ人もいます。チャレンジそのものを楽しむ人たちです。

成長と貢献を通して、実力が認められ、報酬も上がる可能性もあります。最近の言葉では、「自己の市場価値が高まる」と言えるのではないでしょうか。人生100年時代のキャリア開発にもつながります。

 

部下が求めると良い

解決策のひとつとして、部下が、このコミュニケーションをリードすれば良いと感じます。成長は、自分のために有益だからです。そのために、どんどん質問をすれば良いのです。フィードバックも、部下が求めれば、上司も伝えやすくなります。特にネガティブなフィードバックを、積極的に求める部下、フィードバックを真摯に受け止め、すぐに改善を図る部下は、上司にとっては最高の部下となります。

リフレクションの習慣を持つことも大事です。経験を振り返り、自分なりの法則を見出す。同時に、過去に縛られてしまう自分の内面を客観視し、変化する時代に合わせて、ものの見方をアップデートしていく、そんな習慣も大事です。

1on1ミーティングの研修も、現在は、上司が中心ですが、部下の学ぶ力を高めることが、上司の指導力を上げていくためにも有効ではないかと思います。学び上手な人と関わるのは楽しいです。

 

一生の育ち

マルチステイクホルダーで未来の社会、未来の人、未来の教育について考える未来教育会議で、昨年、人一生の育ちレポートを作成しました。その中で、私が一番知りたかったことは、「人は、潜在的な能力をどこまで育てることが理想なのか。どこまで育ってば十分なのか」ということでした。

私自身、今もまだ、成長途上にいるという実感があります。時代が変化するので、変化に合わせて学び続ける必要もあり、成長を止められる見通しが立たない感じです。

また、過去を振り返ってみると、修羅場経験が人を育てると言う通り、逃げ場のない中で、溺れないで、岸までたどり着くためにがむしゃらに解決策を探した経験が、自分を大きく成長させたことに気づきます。そして、修羅場経験は、重なれば重ねるほど、前回の修羅場は、今日の普通の経験になってしまうというようなことも体験しました。

もちろん、修羅場経験ばかりの人生というのも幸福と言えないかもしれませんが、修羅場やストレッチ経験を通して、人の潜在的な能力が開花されることは間違いないと思います。

かつて、ローマクラブは、そのレポートで、「自然資本には成長の限界があるが、人間の学習には限界がない」と、人間の限界なき学習が、持続可能な社会を創造する原動力となると主張しました。変化する時代の中で、人類が幸せであり続けるためにも、人間の学習と成長に期待が寄せられています。

「人はどこまで、その潜在的な能力を伸ばせば良いのか」この問いに対する答えをまだ見いだせていませんが、チャレンジの実感を持ち続けて行きたいと思います。

 

北海道湧別町のピースフルスクール

2019.06.24 文部科学教育通信掲載

 

北海道湧別町の教育委員会と連携し、幼児を対象に、自立と共生の力を育むピースフルスクールプログラムの導入を進めています。湧別町は、サロマ湖やオホーツク海の新鮮な海の幸に恵まれた自然豊かな町です。町営の保育所は、園庭も広々としていて、設備もとても充実しており、東京の子ども達には、夢のような園生活です。のびのびと遊び、すくすくと育つ湧別の子ども達の人間力を育みたいという想いを持つ町長、副町長、教育長の三人の強力なリーダーシップのもとで、ピースフルスクールを導入できることは本当にありがたいことです。

 

湧別町での導入開始

湧別では、各拠点のリーダーとなる保育士さんに向けて1日研修を行い、プログラム内容を詳しくご説明させていただきました。そして、全ての保育士さんを対象にした講演会を行い、プログラムの概要をお話させていただきました。また、小学校、中学校、高校の先生方や、保護者の皆さんにも、ピースフルスクールをご紹介する機会を頂きました。

 

講演会には、中国地方からお嬢さんの出産に合わせて湧別に来られている方もご参加くださり、「幼児期から人間教育に力を注いでいる湧別町に育つ子ども達は幸せですね」というコメントも頂戴いたしました。8年前のことを思うと信じられないくらい多くの人たちに共感していただけるようになりました。

 

8年間の経験学習

世界一子どもが幸せな国オランダの教育視察に訪れ、出会ったピースフルスクールを日本に紹介する活動を始めてもう8年になります。最初の3年間は翻訳に苦労しました。オランダ語のテキストを日本語訳にすることも大変でしたが、その内容を日本の風土に合わせて変えていくことも一苦労でした。

やっと、テキストが完成して、もうこれで大丈夫と思ったのですが、そこからは、ピースフルスクールを、教育関係者に説明することが新たな挑戦となりました。

 

当初は、日本の保育のあり方を全否定しているという誤解が生まれたり、日本に合わない異国の教育を押し付けようとしているのではないかと不信に思われたこともありました。もちろん、しっかりとプログラムをご理解いただくと、そのような誤解は消えるのですが、それまでの間、皆さんにストレスを与えてしまいます。こういった過去の経験から、私たちの説明も進化しました。日本の先生方が実践してくださっている素晴らしい保育が大前提であり、その中で、ある部分だけを少し変えていただくだけで良いことを上手に説明できるようになりました。また、それが、なぜ子ども達の幸せに繋がるのかということも、しっかり説明できるようになりました。子ども達の幸せのために、誰もが一生懸命保育に取り組んでいるのですから、ここがしっかりと関係者と握れると安心です。今回、湧別町では、スタート時から、皆さんにプログラム内容に共感していただけたと思います。

 

先生への期待

これからは、導入の準備のお手伝いをどれだけ上手に行えるのかが、私たちの最大のテーマになります。

ピースフルスクールは、21世紀スキルに関わる教育プログラムで、子供達に自立と共生のためのスキルを身につける指導を行うものです。このため、その前提として、先生方にも、同様のスキルを求めることになります。

 

例えば、意見を述べるときには理由を添えるということを子ども達は学びます。子ども達が、この学びを習慣化するためには、日常の中で、意見に理由を添えてお話をしたり、お友達に理由を尋ねたりすることを子ども達に求めます。先生方も、もちろん、意見に理由を添えて話す習慣を持っていただく必要がありますし、子ども達が、意見だけを述べたら、「どうしてそう思うの?」と尋ねていただく必要があります。このため、先生達が、協力して、実践や学びの機会を作ることが大切になります。

 

先生方が自ら実践することを意識していれば、子どもたちのレッスンを簡単に準備することができます。レッスンの準備にあたって、もう一つ大事なことは、子ども達の日常の生活と結びつけて、レッスン内容を企画することです。「どうしてそう思うの?」をお話しするレッスンであれば、どんなテーマを題材にするのかを考えます。好きな遊び、好きな食べ物、好きな季節等 子供達にとって身近なテーマでレッスンを組み立てます。ここは、先生の得意とするところなので、やはり、自ら実践することを意識していただくことが一番大事なことではないかと思います。

 

オランダの子どもたち

ピースフルスクールを、8年前に日本に紹介しようと考えたきっかけは、オランダ視察で出会った小学6年生の子ども達との対話でした。訪れた小学校で、二人のメディエーターにインタビューをさせてもらいました。

 

メディエーターは、小学校(オランダでは、4歳から小学校に通うため、小学校が8年生になっている)で起きる全ての喧嘩の仲介を行う担当者です。毎年、12名が選出され、二人がペアになり、日替わりでメディエーターを担当します。自ら希望し、志望動機を書き選出されます。

メディエーターの一人が、「私たちは、どちらの味方をしてもいけないのです。

メディエーターは、中立な立場で喧嘩の当事者が事実についての理解で合意すること、事実で合意したら、どうすれば仲直りできるかを話し合い決めることをサポートします。」と説明してくれました。

この説明に圧倒された私は、自分の未熟さとともに、自分の子育てを反省しました。

 

小学6年生の子どもに、私はここまでの成熟を求めていませんでした。そして、これが、OECDが提唱する21世紀スキルのレベル感であることを始めて理解しました。

 

人間教育の方法

プログラムが翻訳され、内容についての理解が深まるにつれ、私はますますこのプログラムの偉大さに惚れ込むことになります。人間教育も、このようにすればうまくいくのかと目から鱗でした。自立と共生の力を育むために、何を子ども達に教えれば良いのかが、とても小さなパーツに分解されているのです。喧嘩を話し合いで解決するというスキルを習得するために、子ども達は、たくさんの小さい力を習得していきます。意見に理由を添えるレッスンでは、自分の意見を持つことの大切さを学び、意見を人に理解してもらえるように説明する力や、人の意見を理解する力を実につけます。喧嘩がよくないと知っていても喧嘩になってしまうのは、嫌なことがあったり、面白くなかったり、頭にきたりするからです。このため、自分が負の感情を持ったときに、自分はなぜ今頭にきているのかを理解し、人に説明できることや、負の感情をコントロールする方法を学びます。

 

こういった練習を、ハッピーな時に行うことで、喧嘩の最中にも実践できる力となります。メディエーターも優秀ですが、誰もが喧嘩をしても、冷静に話し合うことができることが、ピースフルスクールで、話し合いで喧嘩の仲直りをすることができる理由です。

 

子どもの心

ピースフルスクールを広める活動を通して、改めて子どもたちは大人よりずっと偉大であるということを知りました。それは、子どもたちのよく生きたい、みんなと仲良く平和に過ごしたい、お友達には笑顔でいて欲しいと願う心が本物であるということです。

 

ピースフルスクールでスキルを習得すれば、その心をあきらめない大人に育つことができると信じて、ピースフルスクールの啓発活動を進めて参ります。

 

 

わくわくする働き方改革とは

2019.06.10 文部科学教育通信掲載

働き方改革関連法が施行され、4月1日より、働き方改革が本格化しています。本年度は、大企業を中心とした取り組みですが、来年度には、中小企業を含めたすべての企業で、働き方改革が義務化されます。

 

政府のホームページには、その目的が以下の様に示されています。「働き方改革の目指すもの」として以下の記述があります。

「働き方改革」は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが必要です。

 

働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指します。

 

共働き社会への移行

働き方改革関連法の改正の背景には、過去30年の女性活躍推進の歩みがあります。男女雇用機会均等法により本格化するはずであった日本の女性活躍は、まったく進まず、その理由が、結婚と出産にありました。私の同期も、すべて退職し家庭に入る道を選んでいます。そこで、政府が選んだ方針が、働き方改革です。労働人口が減少する中、女性の社会進出と、出産をともに加速させるためには、働き方そのものを見直す必要があるという結論にいたります。戦後の高度成長を支えた企業戦士という働き方、良妻賢母という女性像を、共働き夫婦モデルに変えていくという政府の決意が、働き方改革関連法という形で実を結びました。その成果は著しく、今日、子どもを出産しても会社を辞めることを考える女性は減り、出産後、時短で働く女性も増えています。

 

最近では、赤ちゃんを抱いているお父さんの姿や、保育園の送り迎えにいくおとうさんの様子を見ても、お母さんは病気かしらと心配することもなく、当たり前の光景となりました。それでも、平日、お父さんがこどもと公園で遊んでいると、まだ、少し違和感があるかもしれません。この違和感も、男性の育休が当たり前になれば、日常の光景になるのでしょう。若い世代では、夫婦で家事も子育ても一緒にやることが、すでに当たり前になっている様子です。テレビでは、男性向けの料理番組も人気のようで、男性も厨房に入ることに違和感を持ちませんし、妻が働いていることを恥ずかしく思うこともありません。

 

世代間ギャップ

労働人口の減少に伴い、加速する女性活躍ですが、社会全体がすぐに変わる分けではありません。特に、会社では、管理職世代の認識が男女雇用機会均等法時代とそれほど変わっておらず、多くの女性たちは、ミックスメッセージを受け取りながら、日々活躍しているのが現実です。

 

女性活躍というテーマで、様々な企業の方々と意見交換を行いますが、その中で実感するのは、世代間ギャップの大きさです。若者にとって、高齢化社会は、家計問題であり、生活を維持するために共働きは避けられないと考えています。若い女性たちは、どうせ長くはたらくなら、給与も上がった方がよいので、管理職になることも当然と考え始めています。少し年上のミレニアム世代(今年38歳)までは、この感覚を理解することができますが、それ以上の年齢になると、年齢が上がれば上がるほど、過去の経験に基づくものの見方が強くなり、女性活躍を本気で推し進めるという意識は薄くなります。

世界では、Z世代(1990年代後半から2000年代にかけてに生まれた世代)に注目があたっていますが、縦型で高齢化社会の日本では、Z世代はマイノリティであり、年上の大人がZ世代から学ぶという視点が生まれないのも、世代間ギャップが残ってしまう背景です。

 

長時間労働の是正ではない

働き方改革は、このように女性の社会進出を助けるために始まった取り組みなので、長時間労働の是正に意識が向いてしまう傾向がありますが、働き方改革にはより大きな目的があります。それは、働き方そのものを見直すことを目的としています。罰則規定も加わり、厳しく管理される労働時間に人々の意識は向きますが、労働時間の削減は、結果であり、その目的は生産性の向上にあります。そこに踏み込める企業のみが、働き方改革の恩恵を受けることになります。多様な人材が生き生きと活躍し、生産性を高めることができ、顧客価値も企業価値も高まることで初めて、働き方改革は成功したといえます。日本企業の多くが、その第1歩を踏み出しました。始まったばかりの改革では、目に見えた成果は期待できませんが、これから進む改革が楽しみです。

 

多様な働き方の選択

多様な働き方が選択できる時代になり、時差出勤フレックスタイム制度がさらに進化し、時間と場所に縛られない働き方が当たり前になりそうです。生産性が上がるのであれば、カフェで仕事をしてもよいし、会議にはネットを通して遠隔から参加してもよいという職場も増えています。スラック等ネット上のコミュニケーションツールが生まれ、新たなコミュニケーションスキルを身に付けた若者たちのコミュニケーションスタイルは、ネット移民(生まれたときにはネットがなかった世代)とは異なります。顔を合わせて話すことが重要だと叫ぶのは、ミレニアムよりも上の世代でしょうか。

 

管理しなければ人は怠けるという考え方ではなく、自分のモチベーションを自己管理し、仕事の成果にもコミットする自律型人材を目指す若者も増えています。性善説のようにも見えますが、一方、役割期待の明確化や評価やフィードバックの徹底など、厳しさも必要になります。これまでのように、長く働くからやる気があるとか、真剣だという情緒的な評価は通用しなくなるのでしょう。

 

兼業・副業、流動性

サラリーマンが、兼業・副業を行うことや、転職や復職など流動化も当たり前の時代になりそうです。戦後の行動経済成長をささせた新卒一括採用と終身雇用の概念は、工場の熟練工を育てることがその目的でした。高度成長が終わり、転職は進み、今では2人に一人が転職する社会になっていますが、それでも、新卒一括採用の仕組みが継続しています。企業側も大学側も、学生も親も、この制度が当たり前であると信じており、その変更のめどは立っていません。しかし、世界に目を向けると、新卒一括採用を行っているのは韓国と日本の2国のみなです。理論上は、新卒一括採用以外の採用のあり方でも、個人は不幸にならないし、企業も困らないはずです。こういった議論も、これから始まっていくのでしょう。

 

AIと人生100年時代

さらに、働き方改革が進む背景として、AIをはじめとするテクノロジー革新があります。近い将来、人間の仕事の半分は機械に代替されるといわれる中、人間に求められる役割が変わり、雇用のあり方も変化することが予測されています。そんな時代には、学び直しで、柔軟に自分のキャリアをアップデートさせていくことが必要になるようです。人生が100年になることを考えると、そのアップデートは、人生に1度ということはなさそうです。人生を冒険のように捉え、変化を楽しむ心持ちが大事です。

 

世界では、起業家教育が盛んです。デンマークでは、小学生の頃から起業家教育を始めると聞きました。今日の大学では起業家教育は普通のことのようです。その背景には、やはり、テクノロジー革新があります。誰もが、小さい投資ですぐにビジネスを立ち上げることができる時代になり、企業による雇用の創出と同じくらい、個人による自主的な雇用の創出が期待されるようになりました。

 

働き方改革の未来を創造すると、不安もありますが、冒険を楽しむ心で時代の波を楽しくサーフィンしていきたいと思います。

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