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脱工業化社会と教育

日本教育大学大学院 第2回研究大会(2009年11月28日)で講演を致しました。 以下に概要を記します。

【概要】
「2020年に、社会に出る子供たちは、どのような時代に生き、どのような貢献が期待されるのでしょうか。そのために、私たち大人は、何を子供たちに教える必要がありますか。そのために、私たちに何ができますか」皆さんとともに、その答えを見つけ、建学の精神である「教育の次代を創る」に貢献したいという思いから、本テーマを選びました。

2000年に発表されたOECDの「生徒の知識と技術の測定(PISA)」の報告書の序文に、Prepared for Life (人生の準備は万全か)というタイトルで次のように書かれていました。「若い成人が未来の挑戦に対処すべく、はたして十分に準備されているだろうか。彼らは分析し、推論し、自分の考えを意思疎通できるであろうか。彼らは生涯を通じての学習を継続できる能力を身につけているだろうか。父母、生徒、広く国民、そして教育のシステムを運用する人々は、こうした疑問に対して解答を知っておく必要がある」

日本教育大学院大学の学長に就任するまで、私は、企業や組織人を対象とした成人の教育に約15年係わってきました。その結果、いわゆる優等生に共通の2つの課題があることが明らかになりました。一つは、「あなたはどうしたいのか」と聞くと、硬直してしまうことです。小さい時から、親や先生や社会の求めるレールを走る子供たちには、次々とチャレンジが与えられます。良い成績をとる、良い学校に合格する、一流企業に就職するなど、自分がどうしたいのかを考える必要もなくチャレンジテーマが与えられ、そして、それに答えると褒められるのです。その結果、自分は、どうしたいのかという問いかけをすることなく大人になるのでしょうか。二つ目は、正解が一つでない問題に答えられないことです。勉強における問題を解くプロセスは、設問が与えられ、効率的に問題を解き、一つの正解に到達するプロセスです。ところが、正解が一つでない問題の多くは、問いが用意されているわけではありません。自分で、問いを立て、答えを見出さなければなりません。

私は、本学に来るまでOECDの序文の存在を知りませんでした。この序文を読み、先に述べた2つの課題と共通点があることに気付きました。多くの企業は、すでに、前例のない問題解決の力を必要とし、自分の意思でそこに立つリーダーを求めるようになりました。未来の挑戦は、もうすでに始まっているのです。

日本の教育は、工業化社会における日本の経済成長に大きく寄与してきました。工業化社会の幕開けは、1908年にスタートしたT型フォードの大量生産への取り組みです。工業化社会に求められるのは生産性です。日本の学校が教える組織行動は、画一性、効率やスピードによる生産性の向上を支えました。また、質の高い日本人の情報処理能力は、モノづくりの現場における品質管理に大きく寄与しました。

私は、高校の時、NY州の田舎町にあるイサカハイスクールに1年間留学しました。クラスルームはなく、自分の机もありません。履修するクラスは自分で選択します。卒業旅行、キャンプ、運動会など全員参加の行事はありません。このような教育は、集団行動を学ぶには、あまり良い結果をもたらしません。その一例をご紹介しましょう。1989年、100人のハーバードビジネススクールの学生を連れて日本に帰国しました。成功している日本企業を見学しインタビューをするためです。企業訪問の合間に休憩時間を設けましたが、休憩が終わり、歩き始めて10分もたたないうちに、学生が、お手洗いに行きたいというのです。こんなことが、数回続きました。「休憩時間にお手洗いをすませる」日本人にとって当たり前の集団行動を知らないアメリカ人たちは、自分が集団行動に迷惑をかけているという概念すらないようでした。

このように、日本の教育の素晴らしいところはたくさんあります。しかし、脱工業化社会という新しい時代において、新たに求められることがあるはずです。本日の講演内容を日本の教育の未来を考えるきっかけにしていただけたらと思います。これまでの教育では、「生きる準備が万全」と言えない新しい時代とは、どのような時代なのでしょうか。

1989年ベルリンの壁が崩壊し、冷戦時代が終焉します。そして、地球全体が、自由資本主義に基づく経済活動の渦に巻き込まれることになります。国際関係に使われていたインターナショナルという言葉は、ソ連が崩壊した1992年以降、グローバルという言葉に変わります。かつて、グローバル競争の脅威とは、欧米企業が、日本を指す言葉でした。しかし、今日では、日本企業も、欧米や新興国によるグローバル競争の脅威にさらされるようになりました。経済のグローバル化は、実態経済よりも、IT化に支えられた金融経済においてより大きな発展を遂げました。

コンピュータや情報通信分野における技術革新のスピードは、ドッグイヤーと言われています。犬の1年は、人間の7年に相当するのですから、我々は、猛スピードで、技術革新のスピードについていかなければなりません。さらに、インターネットビジネスは、デルのように、購買者が自分のスペックに合わせて購入する商品の仕様を決めることを可能にしました。消費者は、わがままになる一方です。

グローバル競争、技術革新、顧客ニーズの多様化により、競争優位性を維持することがますます大きなチャレンジになってきています。さらに、環境問題や貧困問題などの社会問題も加わり、まさに、OECDの序文にある通り、未来の挑戦が山積している状況です。その結果、個人は、これまでのように良い学校、良い会社という社会の決めたレールに乗るのではなく、自らの意思で、人生を選択するべき、という流れになっています。

ワールドワイドウェッブにより、それ以前の情報量の5000年分の情報が、1年間に生み出されていることを皆さんはご存知でしたか。情報の溢れる時代においては、情報を取捨選択する能力がより重要になります。また、情報を価値に転換する力が求められます。

すでに起きている新しい時代のうねりとして、2つ事例をあげておきます。一つは、社会起業家の流れ、そして、もうひとつは商業主義を超えた新しい経済活動の出現です。

最初の事例は、バングラディシュのグラミン銀行の創立者で、2006年にノーベル平和賞を受賞されたムハメド・ユヌス氏のお話です。ユヌス氏は、経済学者です。「なぜ、経済学を教えているのに、道には貧しい人たちがいるのか」という矛盾を解決するために、彼は、教室の外へ出ます。そして、貧しい人たちの生活が変わらないのは、働く意欲がないからではなく、原材料を買う7ドルのお金がないからだということを知ります。そして、施しではない、自立を促す仕組みとしてマイクロクレジットという新しい金融システムを作り上げます。今日では、世界中に、マイクロクレジットは広がっています。

2つ目の事例は、「邪悪(商業主義)にならない」を信念に持ち、検索の進化を追求するグーグルです。それまでの検索は、テレビコマーシャル同様に、検索結果のランクをお金で買うことができました。しかし、これは、商業主義的発想。「検索結果は、情報の提供者ではなく、情報の検索者にとって最良であるべき」であるという信念を守り、創業から約10年で、2兆円規模のビジネスを作り上げました。日本からも、グラミン銀行やグーグルのように社会的インパクトを与えるイノベーションを実現してくれる若者が出現してくれることを願っています。

日本の人口は、2050年に、約9200万人にまで縮小すると予測されています。もし、工業化社会的なモノづくりに興味・関心を持っているのであれば、これからは、活躍の機会は中国やインドなどの新興国により多くあるでしょう。その場合には、英語や中国語などの第2言語を使いこなせる力が求められます。また、多様性の中で、他者および自分を生かす力も問われるでしょう。

グローバルに目を向けると、環境問題、人口問題、エネルギー問題などの社会問題の解決が大きなテーマです。これらの問題は、一人の専門家で解決することはできません。政治、経済、医療、教育など、多様な専門性を融合させ、問題解決を行う必要があります。社会問題の解決に取り組みたいのであれば、リーダーシップや対話力など、専門性に加えて、チームに貢献する力が求められるでしょう。

倫理観の重要性にも触れておきたいと思います。自由競争社会において、競争優位性や成長のために、あるいは存続のため、リーダーは、あらゆる選択肢の中から、決断することを求められます。その時に、重要になるのが倫理観であり、社会貢献や存在意義の明確化です。これまでお話してきたことは、教育の多様化や自由化、あるいは、個人主義の奨励のように聞こえるかもしれませんが、選択の自由が広がった分、学校における人の道の教育はより重要なものになっていくのではないかと思います。

新しい教育がなぜ求められるのかをお話させていただきました。最後に、一つだけ、確信を持ちお伝えできることがあります。それは、変化の激しい時代において生き延びるためには、「学び続けることのできる人」でなければならないということです。

皆さんも、ぜひ、目の前にいる子どもたちが社会に出る5年後、10年後の時代に思いを巡らしてください。そして、チャンスがあれば、少しでも、人生を生きる準備を万全にするための学習を提供してもらいたいと思います。

未来を生きる力を育む

2000年のOECDの報告書、PISAの序文に、以下の通り書かれています。

How well are young adults prepared to meet the challenges of the future? Are they able to analyse, reason and communicate their ideas effectively? Do they have the capacity to continue learning throughout life? Parents, students, the public and those who run education systems need to know the answers to these questions.

若い成人が未来の挑戦に対処すべく、果たして充分に準備されているだろうか。彼らは分析し、推論し、自分の考えを意思疎通できるであろうか。彼らは生涯を通しての学習を継続できる能力を身につけているだろうか。父母、生徒、広く国民、そして教育システムを運用する人々は、こうした疑問に対して解答を知っておく必要がある。

子どもたちが、潜在的な可能性を伸ばし、世の中に貢献するために必要な能力を身につけ、豊かで幸せな人生を生きて欲しいと願っています。そのために、子どもたちが身につけなければならない力は何かという問いに対する答えを探しています。

この問いに対するヒントとなるアイディアや考え方を紹介します。

NBC講演

日時: 2009年1月27日~29日
中国地方の3都市 ― 松江、山口、広島で、「企業の人材獲得・育成のためのパワーアップゼミ 未来型経営~社員の成長が、会社の未来を作る~」と題する講演をいたしました。今後、企業が発展していくために、優秀な若手人材が必要不可欠です。地域企業が優秀な若手人材を定着させるためには、未来型経営に変革していく必要があります。

【会社を取り巻く環境の変化】
昨年の金融危機の直後、2008年の10月にハーバードビジネススクール(HBS)の創立100周年を祝う記念サミット会議に参加しました。HBSが創立された1908年は、T型フォードの量産がスタートした年であり、大量生産・大量消費の資本主義を象徴する生産システムの始まりの年でした。それから100年後の現在、これまでの収益や成長ばかりを目的としていた企業活動ではない、地球や人類の未来を見据えた新しいパラダイム(ある時代に支配的な物の考え方・認識の枠組み)が発生してきたといえるでしょう。
その新しいパラダイムの象徴ともいえるのが、「“生きている資産”を重視する」という、新しい経営理論です。 “生きている資産”、つまり人間と自然界を重視する経営においては、短期的な経営効率のみを指標とせず、経営が落ち込んだ時にでも持ちこたえることのできる会社こそ、良い会社であると考えます。

【人が未来型経営に求めること】
個人の未来をどう作るか?というのが、現代人(特に若者達)の探している課題です。豊かな社会になったことで、従来のような会社に対する盲目的な忠誠心は無くなり、社会とのつながりの実感、自己実現の実感、組織に対する帰属欲求の高まりなど、精神的な満足度を求める時代になりました。
社員との信頼関係を築くためには、彼らに対してだけでなく、社会や法律、環境などに対しても誠実な対応が求められます。誠実さを伝えるためには、社内コミュニケーションをおろそかにしないことや、経営者を身近に感じ、その思いを知ってもらうために、経営者自身の人となりを伝えることが効果的だと考えます。会社の目標を達成するための駒として社員を動かすのではなく、個人の目標を尊重してゴールを設定することで、仕事を通じての充実感が社員の精神的な報酬となります。

【選ばれる会社の風土を作る】
それでは、選ばれる会社になるにはどうすればいいのでしょうか?まずは、最もシンプルで、お金もかからずすぐできて、効果絶大なことは、「名前を呼びかける・挨拶をする・笑顔でいる」の3つです。これらは当たり前のことですが、デール・カーネギーの『人を動かす』にも書かれているほど普遍的で、重要なことです。この3つを行うことで、パーソナルにつながっているという実感が湧きやすいのです。忙しい時ほど、「ありがとう」という感謝の言葉と、労をねぎらう「ごくろうさま」の一言を、社員や部下にかけることが必要なのです。社員を叱る時は、一つ叱ることが四つ褒めることに相当するという、「4:1の法則」を思い出してください。人を育てるためのインフラ整備だと思って、叱ることの4倍、部下を褒めてみましょう。

【選ばれる会社のリーダー達】
これまでのリーダーといえば、光り輝くカリスマ的な存在でした。しかし、今求められているのは、皆を主役にでき、皆が輝くことを応援できる組織を作れるリーダーです。それが経営者であれば、引退する時に株価が下がらないリーダーです。知的生産社会のリーダーには、実行のスピードと確実性においては、ヒエラルキー型組織として行動し、意思決定の質と合意においては、アメーバ型組織として行動できる両方のことが望まれています。
また、「自分のやる気の10分の1が部下のやる気」ということを自覚し、“自分のやりがい”と“仕事”をどう結び付けるかという方法論を持って、自らのやる気をアップできる人でなければなりません。つい自分の好きなこと(モチベーションの上がること)を皆にも押し付けてしまいがちですが、それが皆のモチベーションを下げる結果とならないよう、一人一人の「好き」の違いを理解することが大切です。 進化型のリーダーは、立場にこだわらず部下からも学ぶことができます。リーダーは、答えを知っている必要はなく、自ら学び、答えを探していくことができればよいのです。メンバーに対してどうなりたいかという方向性のビジョンを語り、1人ひとりのモチベーションを大切にし、対話を通じてメンバーのベクトルを合わせを行うことが出来れば、さらに良いリーダーとなれるでしょう。

【理想のチームと対話】
チームの取り組みが成功するために重要なのは、戦略の質よりメンバーの納得度です。トップダウンで決断してスタートすると、スピードは速いですが、メンバーの納得度は低くなります。厄介で納得が難しいことこそ、構想段階からメンバーを巻き込むことが大切です。 話し合いを行う時は、意見を出し合った後、他者の意見に対する評価を保留にして、「なぜそう思うのか?」という理由を説明する段階を持たなければいけません。メンバーの意見を様々な角度から検討し、重要度に沿って評価し、メンバー全員で決定することによって、決定事項に対するメンバーの納得度が高く、行動のスピードも高くなります。

【手作りの研修が一番】
「手作りのおいしいごはん」と「いい研修」の共通点は、愛情と栄養がたっぷりある点です。いい研修を実施するには、自社に合った手作りの研修を行うのが一番です。多くの人が困っている問題を解決するためのスキルや方法を教えるのが、研修の目的です。例えば、GEでは、新しく赴任してくる上司のために、新任上司融合研修を実施して、チームがスムーズに稼動するまでの期間を短縮しています。研修のプログラム事例を御紹介しますので、参考にしてください。
会社を取り巻く環境が変わり、パラダイムシフトが起こった現在、心の豊かさを求める時代に変わりました。これまで家庭や学校で育ってきた人を、仕事を通して社会で成長させるのは会社の担う役割です。そんな中で選ばれる会社となるために、今回の内容を「未来型経営」へ変化していく際の参考にしていただければと思います。

アントレプレナーの夢

1988年にHBSに入学した私は、アメリカ留学から日本に持ち帰るものを探していた。 ところが、家庭の電化製品は、明らかに日本製の方が優れていたし、日本経済は絶好調であり、日本型経営に世界中が注目している時だった。何も、アメリカから持ち帰るものがないのではないかという疑問を抱いたとき、カリフォルニアを中心に広がるベンチャービジネスの存在を知り魅了される。その結果、卒業後、アメリカに残り、スタンフォード・リサーチ研究所とのコラボレーションを行い、レッドウッドシティにオフィスを構えることになった。

スタンフォード・リサーチ研究所では、国防総省の資金により、さまざまな基礎技術開発が進められていた。アプリケーション開発においては多方面にわたり民間企業とのコラボレーションが行われ、基礎技術の研究においても、その技術をどう世の中に生かすのかという視点で取り組みが行われていた。そこではまるで、10年後の技術の世界が、今すでに実現しているかのような確信に満ちた言葉で語られていた。『未来を予測するためには、未来を作る人になればいい』という言葉を、技術の世界で実現している人たちがいた。

その当時、既に、HPやサン・マイクロシステムズなどのベンチャービジネスが成功し、活気に満ちていたシリコンバレーで最も魅力的なベンチャーといえばアップルだった。 PCのフォルクスワーゲンを目指したアップル。1人に1台のPCを宗教の教義のように唱えたスティーブジョブス。白いシャツとストライプのネクタイに象徴されるIBMとTシャツとジーパン姿のアップル。権威と個人主義、規律と独創性などIBMとアップルの違いは、その製品の違いだけではなく、人生観やライフスタイルの違いでもあった。

残念ながら東海岸のビジネススクールに留学した私が最初に学校から支給されたのはIBMのPCだったが、シリコンバレーに足を踏み入れた後は、周囲のアップル熱に刺激され、直ぐに、アップルのマッキントッシュを購入した。マッキントッシュの使い勝手のよさに驚いた。何も考えずに操作をしても、マシーンが期待通りに動いてくれる。本当に使う人のために作られたPCだった。

1980年代の低迷したアメリカ経済において、ベンチャービジネスは、2,000万人の雇用を創出したといわれる。そして、日本においても、1990年代に入り、ベンチャービジネスを支援する取り組みが国を挙げておこなわれるようになった。2000年に入り、若者にもベンチャーブームが巻き起こり、日本にもいよいよベンチャービジネスの時代がやってくるように思われていた矢先、ライブドアの上場停止をきっかけに、ベンチャービジネスに対する感心が薄れてしまったことはとても残念だ。

起業とは、一言で言えば、自分の夢を企業活動を通じて実現することである。1人では実現できない夢を仲間と実現すること、一人の資本では実現できない夢を資本家を集め実現することである。中でも魅力的な企業を作り上げた起業家たちは、誰もが考えないような夢を描き、それを実現し、世の中の多くの人々に夢や、力、利便性を与え、世の中を変えてしまう。日本において世の中を変えた企業の事例を探すと、ホンダ、ソニー、松下・・・とすでに、設立から50年以上も経過した企業ばかりだ。

長男は、1991年生まれの17歳である。彼らの世代には、世の中を変える夢を実現するような活躍を期待したい。
 

サイバーマネジメント研究会 7年間の歩み

中国地区サイバーセキュリティマネジメント実践研究会

主催  クマヒラセキュリティ財団  http://www.kumahira.or.jp/
発足 2001年5月
活動趣旨
本研究会は情報ネットワーク社会におけるセキュリティ対策について、最先端情報を共有し、動的リスクに対して、常に適切な対策を理解し、脅威より組織及び社会を守ることを目的と、公平な立場で講演聴講、事例研究、情報交換、分科会などを企画・立案・実施します
組織
【会長】熊平 肇
【専務理事】熊平 美香
 

クマヒラセキュリティ財団 「7年間の歩み」(2008年5月1日 発行) より抜粋

「研究会7年の歴史を振り返って」    会長 熊平 肇
当研究会発足以来、ご後援下された諸官庁の皆様方、ご指導下された方々、ご講演下された方々、お世話下された幹事の方々に心よりお礼申し上げます。この研究会の7年の歴史を振り返り、平成18年6月に中国通信懇談会から、平成19年6月に総務省中国総合通信局から表彰を受けることができたことは、この研究会会員、全員の研究の成果であると思っております。

この研究会発足の当時は、日本におけるITセキュリティ研究が始まったばかりで、参加された会員の方々は皆、未知の問題について模索されることの多い時代ではなかったかと思います。
    
この研究会が実りの多い研究成果を生んだ理由については「5年を振り返って」に述べましたが、それに加え研究会の質的向上に貢献したのに、K-SAPの開発があります。
K-SAPは中小企業・団体の情報セキュリティレベルの向上を支援するツールとして開発したものです。中小企業・団体が取り組むべき内容について自己診断を行っていただける設問形式になっています。設問内容については経済産業省のISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)適合性評価制度の要求事項に基づき作成されています。

このプログラム開発には東京で慶応大学の国領二郎情報環境学部長を委員長とする12名のその道に詳しい方々が参加されました。また、ワーキング・グループとして当研究会の池田光孝委員長を含む9名の方々が、実際に運営する場合の問題を煮つめました。こうした未知の問題に対する責任をもった分業開発作業は思考上の困難も生じますが、出来上がって成功した時は自信も生まれます。しかも日本では初めての問題です。この開発作業の結果、立派な研究成果の外に当研究会の会員は中央で活躍されておられる方々の考え方を知り易くなり、中央の方も地方の第一線で起きている問題を知り易くなりました。これは双方によい結果を生んでおります。

もう一つこの研究会がまとまりよく、よい結果を上げられるようになった理由に地の利があります。東京のような大都会だと、人口は多く、ITセキュリティに関するレベルの高い人も、レベルの低い人も多く、それらの人の中から研究活動に適した人を選ぶのは難しいことです。この研究会の場合、多様な方々がおられるが、仕事の上でナマの問題にぶつかっていたり、問題を身近にもっている方々が大半です。そして長年の共同研究の結果、研究能力・知識の差が小さくなっています。しかも、働く職場が違い、働いている土地の違いもあって、お互いに分らないことは、心を開いて相談しあっています。仲のよい仲間意識が生まれています。珍しい研究団体になっています。

ITセキュリティの研究もこの4月から新SOX法が適用されることになりました。新SOX法ではIT部分は少し残りますが主力は内部統制の方へ移っています。これは日本におけるIT対策が初期の目的を一応達成し、次の問題へと移行したことを意味します。

クマヒラセキュリティ財団としては今後どうするかについて色々と考えました。結論として中国地区サイバーセキュリティマネジメント実践研究会としては、設立時の目的は一応達成したので、仲間意識をもち、楽しみながら、真面目に、熱心に研究されておられる会員の集まりである研究会を解散するのは残念であるし心情的にはしのびないが、2008年5月21日に開催する「情報セキュリティの未来」と題する研究会をもって、解散することに致しました。

今まで、ご協力戴いた方々に厚くお礼申し上げます。

 

クマヒラセキュリティ財団 7年間の歩み ご挨拶より抜粋

「セキュリティ文化の醸成」   専務理事 熊平 美香
サイバーセキュリティ実践研究会は、7周年を迎え活動を終えることとなりました。7年間、本研究会をご支援いただきました警察庁、中国管区警察局、中国総合通信局、中国経済産業局、広島県、広島市をはじめ各種団体ならびに幹事会社および参加企業の皆様に心より感謝申し上げます。

2002年8月、OECDの情報セキュリティガイドラインが改定されたことを機に、日本においても情報セキュリティ文化の醸成という言葉が盛んに使われるようになりました。OECDの情報セキュリティガイドラインでは、情報通信システムの提供者である技術開発者ならびに事業者、ユーザーである政府、企業および団体、そして個人が、それぞれの立場で、情報セキュリティの実現において果たすべき責任があると述べています。本研究会においても、OECDの提唱する情報セキュリティ文化の醸成を念頭に、企画を推進してまいりました。

本研究会が発足した2001年には、多くの企業がコードレッド、ニムダによる被害を受け、企業による情報セキュリティ対策が一気に加速することになりました。その後も、新たなウィルスによる脅威は続き、2003年にはSQL Slammer、ブラスターによる大規模ネットワーク障害が発生します。このような脅威に対して、情報通信システム事業者および情報セキュリティ専門家により対策が進められてきました。その結果、情報通信システム提供者による情報セキュリティ文化の醸成はこの7年間に、確実に発展を遂げました。

2005年に個人情報保護法が施行され、企業および団体による情報セキュリティに対する認識は大きく変化しました。それまで、情報セキュリティポリシーを策定していなかった企業も、個人情報取り扱い業者として、個人情報に対するポリシーを明示することが義務付けられました。また、情報漏えいによる訴訟のリスクという観点から、経営者の情報セキュリティに対する当事者意識が高まりました。その結果、2002年に創設されたISMS適性評価制度の認証取得事業者数は増加し、2008年3月現在、2554件となっています。
2008年4月1日以降に開始する事業年度から適用が始まるJ-SOX法においても、ITの利用に関する完全性や不正がないことの証明が統制活動の重要な要素となり、情報セキュリティマネジメントは大きな役割を果たします。個人情報保護法、J-SOX法の施行により、企業における情報セキュリティ文化の醸成は、確実に進展したといえるのではないでしょうか。

一方、個人における情報セキュリティ文化の醸成には、まだまだ課題があります。ウィニーによる情報漏えいがこれほど大きな社会問題になっているにもかかわらず、個人によるウィニーのダウンロード件数は一向に減る様子がありません。 モバイルコンピューティングが企業活動の一部となっている今日、個人の情報セキュリティに対する誤った認識や行動は、企業における情報セキュリティに多大な影響を及ぼします。情報セキュリティマネジメントシステムにおいても、組織構成員である個人の果たす役割は重要です。
情報通信技術の発展により、ビジネス社会および個人生活は、より豊かなものになりました。一方で、情報セキュリティは、情報通信技術の発展を支える必要不可欠なもの、縁の下の力持ち的な存在として発展してきました。今後の情報セキュリティの発展は、情報セキュリティの『見えない化』を目指すのであろうと感じております。水や空気のように安全と安心が存在する社会になることが、真の意味での情報セキュリティ文化の醸成なのではないでしょうか。

当財団におきましても、サイバーセキュリティ実践研究会にご参加いただきました皆様とともに、日本における情報セキュリティへの取り組みおよび情報セキュリティ文化の醸成に、引き続き微力ながら寄与して参りたいと存じます。 7年間のご支援、ご協力誠にありがとうございました。

 

【活動内容】 

2001年度

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2002年度

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2003年度

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2004年度

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2005年度

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2006年度

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2007年度

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グラミン銀行創設者 ムハマド・ユヌス氏

バングラディシュのグラミン銀行の創設者であり、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏のビデオ出演の講演を聞きました。
SoL第3回ワールドカンフェレンス、2008.4.13~17 @オマーン

 

  • 「7ドルあれば借金が返済でき自由を得ることができる人々がいた。解決策はシンプルだった。通常の銀行の逆発想をやればよかった。私たちは、お金のない人々にお金を貸し、弁護士は使わず、女性にも貸した。その90%以上が返済されている。チャリティは一度で終わるが、金融サービスというソーシャルビジネスにすることで、ビジネスとして継続的に価値を提供できる。私たちには、子供たちにとってより安全で住みやすい地球にする責任がある。」
  • ユヌス氏が、グラミン銀行の成功により確立した新たな金融サービスの手法は、マイクロクレジットと呼ばれ、現在、アメリカやフランスをはじめ世界約60カ国で実践されているそうです。
     

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SoL Global Forum

2008年4月13日より4日間オマーンにて開催された第3回SoL Global Forumに参加しました
http://www.solonline.org/events/GlobalForum2008Public/

SoL(Society for Organizational Learning)は、1991年にマサチューセッツ工科大学にて、スタートした組織学習センターの取組みを継続する形で、1997年4月にピーター・センゲ教授により創設された組織です。現在、SoLは、人々・組織・コミュニティの相互発展のために、組織学習の理論と実践についての研究や、現実社会への適用を目的とし、その活動は世界中に広がっています。
第3回Global Forumのテーマは、Bridging the Gulf ~Learning Across Organizations, Sectors, Cultures~でした。グローバルに存在するキャズム(亀裂)への対処に、組織学習を生かすことがテーマでした。このような背景から、中東の地が開催地として選ばれたそうです。組織学習は、もはや企業の存続のためではなく、地球の存続のために、営利団体、非営利団体、政府機関、教育機関、コミュニティなど多様な組織が、対話により、相互理解を深め、メンタルモデル注1)やシステム思考注2)を生かし、問題解決を促すことを狙いとしました。

【南アフリカのMont Fleur シナリオ】
南アフリカの民主化のための対話をファシリテートしたアダム・カヘン氏も、Global Forumに参加し、講演をしてくれました。
組織学習の手法を、社会的な亀裂に応用し、成功した代表例が、1992年のMont Fleur シナリオです。Mont Fleurは、南アフリカケープタウンから約30分離れた街の地名です。1992年Mont Fleurに、南アフリカを代表するリーダーたちが集まり、南アフリカの未来についての対話を持ちました。この対話をファシリテートしたのが、ロイヤル・ダッチ・シェルにおいてシナリオライティングを行っていたAdam Kahane氏でした。Mont Fleurに集まったのは、政治家、経済学者、労働組合、財界人など多様な領域のリーダーたち22名です。メンタルモデルの違う人々が、同じテーブルにつき、南アフリカの未来について話し合った結果、完成したのが、以下のMont Fleurの4つのシナリオです。

【アダム・カヘン氏】
世界的な紛争ファシリテーター。1990年代にロイヤルダッチシェル社においてシナリオプラニングに従事し、チームの責任者として活躍した、シナリオプラニングの権威。SoL活動の実践家であり、U理論の実践者。ロイヤルダッチシェル社でのノウハウを応用して、南アフリカがアパルトヘイトから民主化を実現するためのダイヤローグをファシリテートした。南アフリカの成功体験をもとに、その後、世界の50カ国以上の国々で、複雑な社会問題を解決するためのコンサルタントとして活躍中。

◆Mont Fleurの4つのシナリオ◆
1. Ostrich【ダチョウ・現実逃避者】:アパルトヘイトの持続
2. Lame Duck【破産者】:弱い政府によるスローで決断力のない変革の推進
3. Icarus【イカロス】:民衆中心主義の政府による急激な変革政策の推進と経済の破綻
4. Flight of the Flamingos【フラミンゴの飛行】:成長と民主化を共に実現する持続可能な政府の政策

リーダーたちは、未来が、4番目のFlight of the Flamingosのシナリオのようになることを望み、その実現のために何をするべきかを話し合い、シナリオの実現に向けての活動が始まりました。Mount Fleurシナリオの完成した2年後の1994年、全人種参加の総選挙が実施され、ANCが勝利し、マンデラ議長が大統領に就任しました。こうして、誰も想像し得なかった流血なき民主化の流れが作り上げられたのです。
Mount Fleurの成功事例は、キャズムに直面している多くの人々に勇気を与えたようです。世界中の対立や紛争の解決や、地球の存続という複雑な問題に対しても、システム思考やシナリオライティング、ストーリーテリング、ダイアログといった組織学習の手法が有効に活用されることを大いに期待します。

【ELIAS 新たなリーダー育成プログラム@MIT】
ピーター・センゲ教授は、MITにおいてELIAS(Emerging Leaders Innovate Across Sectors)という30代を対象としたリーダー育成プログラムをスタートさせています。ELIASは、地球の継続的な発展を支えるリーダーとして、多様な立場や役割の人々を巻き込み、創造的に問題解決を推進する力を養成するためのプログラムです。第1期生には、インドネシアや南アフリカからの参加者もおり、実際に、組織学習の手法を使い、国内の問題解決のための活動を行っているという報告がありました。今後は、日本からも参加者が出ることを大いに期待したいです。

【グラミン銀行創設者 ムハメド・ユヌス氏】
バングラディシュのグラミン銀行の創設者であり、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏も、ビデオ出演で講演を行ってくれました。ユヌス氏は語りました。「7ドルあれば借金が返済でき自由を得ることができる人々がいた。解決策はシンプルだった。通常の銀行の逆発想をやればよかった。私たちは、お金のない人々にお金を貸し、弁護士は使わず、女性にも貸した。その90%以上が返済されている。チャリティは一度で終わるが、金融サービスというソーシャルビジネスにすることで、ビジネスとして継続的に価値を提供できる。私たには、子供たちにとってより安全で住みやすい地球にする責任がある。」
ユヌス氏が、グラミン銀行の成功により確立した新たな金融サービスの手法は、マイクロクレジットと呼ばれ、現在、アメリカやフランスをはじめ世界約60カ国で実践されているそうです。

【SoL Global Forum参加者のメンタルモデル】
どうありたいかのシナリオを描き、そのシナリオを実現するために、システム思考を用い、多様な人々の考えを理解するために、メンタルモデルを活用し、対話を通じてチーム学習を行うことができれば、企業変革も、地球上の対立や紛争、複雑な問題への対処も可能であるということを、ピーター・センゲ教授をはじめとするSoL コミュニティの人々は、確信し、行動していたのが、とても印象的でした。

【地球規模での対話】
オマーンという地で開催されたということもあり、米国からの参加者は比較的少なく、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イスラエル、ノルウェー、フィンランド、フランス、スペイン、オランダ、南アフリカ、インドネシアなど世界中から集まった人々との対話を通じて明らかになったことは、世界は、我々日本人が想像する以上に小さくなっているということです。システム思考が示すとおり、我々一人ひとりの考えや行動が、地球、あるいは、地球上のどこかに暮らす人々に、何らかの影響を与えているということです。そして、これからは、無意識の行動ではなく、意識的な働きかけが求められる時代となります。そのような時代には、地球規模で、相互理解のための対話が求められます。

SoL Global Forum参加者の半数以上は、英語以外の言語を話す人達でしたが、対話には、英語が使われました。英語は、地球語でした。今後は、地球人として英語を話さないということは、地球に貢献することを放棄していることを意味する、そんな時代となるでしょう。

注1) メンタルモデル・・・物事の見方や行動に大きく影響を与える固定観念や暗黙の前提
注2) システム思考・・・独立した事象に目を奪われずに各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、 全体像とその動きをとらえる思考方法

 

BT 真のワークライフバランス企業

BTにおけるワークライフバランスは、女性のテーマではない。『人』と『企業』がどのようにワークライフバランスを確立することが両者にとってメリットを最大化することができるのかを追求することを、BTでは、ワークライフバランスと位置づけている。BTは究極のワークライフバランス企業である。BTとは、売上4兆6,000億円、世界に10万人以上の社員のいるイギリスに本社を置く、国際通信事業会社である。

BTには、ワークライフバランスの取り組みに対する3原則がある。すべての取り組みは、この3原則に従って実施されなければならない。

  • 原則1:仕事で大事なことは、どこで働くかという場所ではなく、何をするかという内容である
  • 原則2:ワークライフバランスは、社員および双方にメリットがあり、その効果は常にデジタルで把握すべきである
  • 原則3:ワークライフバランスは、企業が社員に対する福祉のために行うコストではなく、経営戦略上の重要な投資として位置づけられるものである
     

BTでは、これら3つの原則に従い、1986年から、すでに20年以上もワークライフバランスに取り組んでいる。

BTには、在宅勤務をはじめとする多様なフレキシブルワーキングスタイルが用意されている。社員は、自らの意志で、その中から、自分に合ったワーキングスタイルを選ぶことが出来る。

最も驚いたことは、部下が、フレキシブルワーキングを選択したいと上司に伝えた際に、上司は、決して『どのような理由で?』と聞いてはいけないという話だ。ワークライフバランスの選択は、個人のものであり、個人の意志は尊重されるべきものであるから、理由を聞いてはいけないというのである。

【BTのフレキシブルワーキングスタイル 】
真のワークライフバランス企業であるBTのフレキシブルワーキングスタイルをご紹介しよう。

◆集中勤務:総勤務時間は同じだが、勤務日数を減らし、仕事のない日を増やす
例)一日の仕事時間を長くして、月~木曜までの週4日間に集中させ、金曜日は 子供との付き合い、学校サポートに当てる

◆ジョブシェアリング:仕事や個人のニーズに合わせて、複数で仕事を共有する
例)一人は、月・水・金、もう一人は、火・木に同じ仕事をシェアする

◆完全在宅勤務:従業員の10%(13,000名)以上はすでに完全在宅勤務者である

◆部分的な在宅勤務:勤務の一部を在宅で、残りは、BTや顧客のオフィスで行う。従業員の70%(約70,000人)が部分的な在宅勤務を行っている。

◆長期休暇制度:自己啓発、教育、趣味など、特定目的で有給または無給休暇を最長2年間提供する
例)2年間の休暇で、チャールズ皇太子のプライベート秘書を勤めた社員など

◆自由勤務:業績、品質、期間など特定な合意の下で勤務し、勤務パターンや勤務地は固定しない

働くお母さんにとっては、集中勤務や、タイムバンキングなどはとてもありがたい制度だ。自分の24時間をうまく使うことができれば、もっと働けると感じている女性は多いはずである。

【BTのフレックス定年制】
BTのフレキシブルワーキングスタイルには、フレックス定年制が用意されている。 フレックス定年制とは、ライフスタイルに合わせて、退職の12ヶ月前から、働き方を選べる制度である。
◆イーズダウン:仕事の負荷を減らし、一部の責任を移譲する
◆ステップダウン:より責任の軽い職務に異動する
◆ヘルピングハンズ:非営利団体や政府機関に一定期間移籍する
◆ワインドダウン:徐々に仕事の負荷を減らす

また、2007年より年齢による退職は廃止になっている。私には、まだ、定年計画はないが、おそらく、仕事をやめて、第2の人生に入る際に、徐々に体のリズムを変えていくというのが理想ではないかと思われる。退職する人たちまでも、個人として尊重されるというのは、本当にすばらしい。BTは、人を大切にする、人を尊重する企業である。

【BTの取組みによる成果】
BTのワークライフバランスへの取り組みは、コストではなく投資であり、成果はデジタルに測定されるべきであるという大原則がある。では、BTの取り組みはどのような成果が実現しているのだろうか?

◆欠勤の減少
欠勤率は、英国の平均を20%下回り、在宅勤務者の平均年間病欠日数は、わずか 3日である
◆定着率の改善
出産休暇後に、女性の98%がBTに復帰している。フレックス勤務により1,000名以上 の引きとめに成功している
◆生産性の向上
生産性は15~31%向上している。在宅のコールセンター・オペレーターは、センター勤務と比較して20%多くの通話に対応し、質も高い
◆顧客と従業員の満足度向上
顧客の不満度が22%減少した。在宅勤務者の満足度は、通常勤務者よりも7%高い
◆メンタルヘルスの改善
精神的疾患による退職が80%減少した
◆通勤手当の削減
12ヶ月で述べ1800年相当の通勤時間を削減した。通勤手当21億円を削減した
◆事務所費の削減
ロンドン中心部のオフィス勤務者にかかる費用を1人当たり年間約380万円削減した
◆リクルート・採用コストの削減
定着率改善により、年間12億円の採用コストを削減した
◆地球環境への貢献
二酸化炭素排出を54,000トン削減し、燃料消費を1,200万リットル分削減した

BTのワークライフバランスへの取り組みは、20年かけて確立されたそうである。日本企業の取り組みも20年後にはBTのようになっているのだろうか?コストや福祉としてのワークライフバランスへの取り組みは失敗する。また、根底に、個のライフスタイルやワークライフバランスを尊重するという思想がなければ、失敗する。真のワークライフバランスを実現してくれる日本企業の出現を期待したい!

女性のワークライフバランス

【自分の期待に答えるワークライフバランス】
私は2006年から、企業における女性活躍促進の支援を開始した。世の中は、私が新入社員だった1985年とは大きく変わった。社会も企業も女性の社会進出を応援し、子供を生んでも働き続けることを奨励している。また、企業は、女性管理職比率を上げるために、女性が管理職を目指すことを奨励している。働き続けたい女性にとって、すばらしい環境が整いつつある。社会全体が女性の社会進出を応援しているのである。この背景には、人口の減少に伴う労働人口の不足がある。一方で、女性には、少子化問題を解決するために、出産も期待されている。

このような時代に活躍する女性たちにとって大切なことは、トレンドに惑わされることなく、自分にとって最も心地のよいワークライフバランスを知ること、そして、それを実現することである。

女性が、法の下の男女平等を実現したのは、今から約60年前の1946年である。身近なところでは、祖母は、結婚出産後に、母は、中学生のころに、それぞれ平等権を得たことになる。法の下での男女平等は実現しましたが、職場においての不平等は制度として存在していた。例えば、定年年齢は、女性のほうが20歳若く規定されていた。また、結婚をすると退職が義務付けられる結婚退職制度が存在していた。

高度経済成長期に、働く女性の数は1,000万人を越える。そして1960年代になり、職場における男女平等の動きが始まった。定年齢格差が是正され、女性の結婚退職制度が廃止される。女性の社会進出はさらに進み、バブル経済の真っ只中、1986年に男女雇用機会均等法が施行される。その後も、女性の社会進出を支援する制度が導入され、1992年には育児休業法、2005年には次世代育成支援対策推進法が制定された。

ところが、職場における実態はどうだろうか?私自身は1986年の男女雇用機会均等法の世代である。当時は、もちろん、1960年代に見られた結婚退職制度は存在していなかったが、結婚退社は、慣習として確実に残っていた。また、女性は、クリスマスケーキに例えられ25歳を過ぎたら売れ残りだから、1日でも早く結婚をしなければならないと、毎日のように周囲からアドバイスをいただいていた。結婚出産後は、働き続ける母親に対する風当たりも強く、「母親が家にいなくて本当に子供がちゃんと育つのか?」と指摘される三歳児神話の根強い時代でもあった。

そういった時代を経験した世代の女性から見ると、現代の女性を取り巻く環境はうらやましい限りです。企業は、女性の管理職への登用も積極的に行いたいといい、育児休暇も1年以上可能。至れり尽くせりで女性の社会進出やワークライフバランスを社会、そして企業が支えてくれようとしている。

一方で、社会や、周囲の人々はなんと無責任なのだろうと思ってしまう。私自身、「子供がまともに育たない」と脅かされながら、働き続けるのは、正直とても不安だった。現代なら、「なぜ働き続けないの?」と言われてしまうのだろうか。

女性の社会進出は、選択肢の一つなので、世の中や周囲の期待ではなく、自分への期待に答えるワークライフバランスを実現して欲しいと思う。

【不確実なワークバランス議論】
近年、私は、大企業における女性の活躍促進支援を行っている。その際に、事務局の方たちから共通に言われるのは、女性の課題は、『覚悟が足りない』、『立ち居地が違う』などというコメントである。選抜された女性たちは、みな優秀で、やる気もあり、真摯に成長することを望んでいる人たちだ。では、私の認識と、事務局の認識の間にあるギャップは何だろうかと調べてみた。

女性たちが、いまひとつ踏み込んで仕事に取り組めない理由の一つに、ワークライフバランスというテーマがある。未婚の女性、あるいは、既婚で子供のいない女性の場合、人生設計における不確実要素があり、これからの人生が定まらないので、キャリアビジョンが描けない、描けても1年後が精一杯という女性たちが多い。そこで、『覚悟』が持てない状態、一歩引いた状態になってしまう、ということがわかった。

不確実な要素が少なくなったこの年齢で、彼女たちを批判することは意味がないので、当時の自分を思い出してみた。すると、不安であった当時のことが思い出されました。誰と結婚するのか?子供が出来たら仕事が続けられるのか?子供が病弱だったらどうするのか?不確実な要素を次々と並べると、見えない未来に対する不安は増大するばかりである。では、当時考えていた私の未来は、どのような現実となったのか?自分のキャリア人生を振り返ると、いくつかの節目が思い出される。節目には、必ず決断が求められた。決断における優先順位やトレードオフは、その時々により変化し、子育ても、0歳と15歳ではまったく別物である。したがって、ワークライフバランスの取り方も必然的に変わる。結局は、人生を歩きながら、未来を作ってきたということになる。そう考えると、不確実な未来に対して、あまり心配しても意味がない。

不確実な未来について不安をつのらせるよりも大切なことは、どのような未来が自分にとって理想なのかを知ることである。全てが思い通りに行かなくても、自分の意志を明確にしていれば、その時々の選択において最良の決定ができるはずである。自分は、なぜ働き続けたいのか? どのような結婚生活を送りたいのか? どのようなお母さんでありたいのか?などについて、自分の意思を明確にしておくことが、いざと言うときの決断に役立つことは間違いない。

自分の人生を振り返り、私が女性たちに提供できるアドバイスは以下の通りです。
◆不確実な未来に対して完全な計画を立てようとしない
◆優先順位やトレードオフは、人生の段階において変化することを知っておく
◆環境のせいにしないために、優先順位やトレードオフを考える際には、何を選び、 何を捨てるのかを明確にすることが重要である

【あなたのワークライフバランスを見つける】
ワークライフバランスは、100人いれば100通りあるバランスの取り方の話だ。欧米の女性リーダーたちにインタビューした際にも、一人ひとりのワークライフバランスは違っていた。ご主人の価値観や職業、家族構成により、さまざまである。しかし、成功している女性リーダーたちに共通なのは、意図と戦略を持ち、自分流ワークライフバランスを確立していることである。そこで、皆さんに質問してみたい。

あなたの思い描く理想のワークライフバランスは、どのタイプですか?
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もし、あなたがワークライフ両立型なら、あなたの理想のワークライフバランスは、どのタイプですか?
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理想とするワークライフバランスが明らかになったら、その理想を実現するために何をしなければならないのか、何が必要なのかを戦略的に考えてみよう。

【ワークラフバランス戦略】
家庭を持ち、子供を育てながら働き続ける選択をする方たちへアドバイスをしよう。あなたの選んだ人生における優先順位とトレードオフを明確する必要性については、不確実なワークライフバランス議論の中で既に述べた。

理想とするワークライフバランスが明らかになったら、戦略的に臨むのは、ワークライフバランスも仕事と同じである。戦略を持ち、行動し、問題が発生したら、次の解決策を講じる。では、ワークライフバランスには、どのような戦略があるのか?

ワークライフバランスには、4つの戦略が考えられる。
◆戦略その1:工夫する
~ 創意工夫で、仕事や家事を効率的にこなす
◆戦略その2:他者を用いる
~ 自分でなければ出来ないことを明確にし、それ以外のことは他者に任せる
◆戦略その3:切り捨てる(割り切る)
~ 何もかも完璧にしようと考えず、重要度の低いものから切り捨てる
◆戦略その4:幸運を祈る!
~ 冗談のようだが、『人を動かす』の著者デール・カーネギー氏も、奨励している

ワークライフバランスの4つの戦略における1と2については、その日が来る前に準備が進められるテーマである。仕事や家事を効率的にこなす方法を自分なりに開発することは今からでもスタートできる。また、他者を用いるという点では、家族、知人、地域の人々などの選択肢の中から、誰の力を借りることができるのかを考えておくことができるだろう。

そして、その日が来たら、割り切ることも覚えながら、計画的に他者を用い、すべての事柄がスムーズに回転するように、マネジメントするということが大きな仕事となる。段取り、手はず、危機管理能力が求められることとなる。これらは、すべて仕事にも通じるスキルである。いい仕事をして、マネジメント能力を上げると、ワークライフバランス戦略の実践にも役立つのである。

保存

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米国でも、マックスウェルハウスワイフは人気

ハーバードビジネススクールのスターバックス社事例を読んで、とても驚いたのが、マックスウェルハウスワイフという宣伝広告の話だ。ハワード・シュルツ氏のスターバックス成功物語への敬意は別の機会に述べるとして、女性の生き方に大きく関係のあるマックスウェルハウスワイフを話題にしよう。

スターバックスに代表されるスペシャリティ・コーヒーが登場する以前のアメリカでは、コーヒーは、主にスーパーマーケットで大衆向けに販売され、カフェではなく家庭で多く飲まれていた。大手メーカーは、熾烈なシェア争いに勝つために、テレビや新聞に大々的にコマーシャルを打っていた。広告宣伝の対象は主に女性で、キーメッセージは“家族を喜ばせることの重要性と、そのためにおいしいコーヒーを入れることがいかに重要であるか” である。

スターバックス物語には、1960年代のコーヒーのコマーシャル事例がいくつか紹介されているのだが、その事例は何度も読み返さなければならないほど、信じられない内容だった。あの女性活躍先進国のアメリカで、こんなコマーシャルが放映されていたとは...では、そのコマーシャルをご紹介しよう。

あるインスタントコーヒーのポスターでは、頭からコーヒーカップをひっくり返し、顔がコーヒーでびしょぬれになった女性の写真が使われていて、「男性諸君、かんしゃくを起こしてこんなことにならないように、おいしいコーヒーを入れてもらおう!」というメッセージが書かれている。

フォルジャーズのテレビコマーシャルは、オルセン夫人が、まずいコーヒーを出して夫の楽しみを台無しにしている多くの主婦たちにフォルジャーズのコーヒーを勧め、結婚生活の救世主になるというシリーズもの。
http://www.youtube.com/watch?v=Avsp_UJ3mrY&NR=1

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【かわいいマックスウェル ハウスワイフのTVCM】Picture11.jpg

ジェネラルフーズのコマーシャルは、双子を授かって疲れきっている妻においしいインスタントコーヒーを勧める夫が、「いつもご機嫌なマックスウェルハウスワイフでいてくれば、双子がいてもこの結婚生活は大丈夫だよ」というもの。

これらのコマーシャルが米国社会で受けいれられていたのは、今から、50年前の話である。我々の母親世代は、マックスウェルハウスワイフでいることが期待されていたのだ。

そう言えば、2005年に、米国で成功している女性リーダーたちを対象にインタビューを行った際に、1970年半ばにスタンフォードでMBAを取得し、シティバンクでキャリアウーマンを始めた日本人女性が語ってくれた。「1970年代半ばのアメリカには、女性向けのスーツも、ビジネス鞄も無く、その当時、働く女性といえば、秘書や受付業務が中心で、男性と互角に働くという概念は、一般的ではなかった。」そうである。当時の苦労が偲ばれる。アメリカにおいても、女性の社会進出が実現したのは、ここ約30年間の話なのである。

ハウスワイフの人生、バリバリのキャリアウーマンの人生、キャリアと家庭のバランスのとれた人生と、女性には多様な生き方の選択肢が用意されている。その結果、女性には自己責任で自分の生き方を選ぶ力が求められている。

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