skip to Main Content

未来教育会議のアクティブラーニング

文部科学教育通信No.406 2017.02.27 掲載

「なぜ」から考える

今年で3年目となる未来教育会議の最後の2日間のワークショップ(2月16日と17日)の準備を進めている。参加者は、約半年の活動を振り返り、自らのアクションに繋げるアクティブラーニングを行う2日間となる。

社会人の人材育成に関わり、学びの場を設計する際に心がけているのは、「なぜ」から考えることである。

  1. 参加者に必要な学びは何か。
  2. その学びは、参加者の人生にとってなぜ必要なのか。どのような意味を持つのか。
  3. 参加者は、その学びにおいて、今、どの辺りにいるのだろうか。(当たり前に知っている。すぐに理解できる。想像もしていない。真逆のことを信じている。)
  4. 参加者にとって、最も、自然な学びのプロセスはどのようなものか。
  5. 参加者の多様性をどのように扱うか。(多様な学びを設計できるか。出来ない場合に、一人ひとりの学びをどのように担保するのか。)
  6. 参加者は、どのように学びを刈り取るのか。
  7. 参加者は、自分の学びにどのように気づくのか。
  8. 参加者は、どのように学びを自分の人生や仕事に結びつけるのか。
  9. 参加者には、どのようなマインドの変化が起きるのか。
  10. 参加者には、どのような行動の変化が起きるのか。

一つのアクティブラーニングを設計するにあたり、最低でも、前述の10の問いについて考える。そして、一旦、プログラムが完成した後は、ワークを頭の中で実施してみる。

  1. 参加者の思考が混乱したり、参加者が戸惑う流れになっていないか。
  2. 参加者が、期待通りの学びを得る事ができるか。
  3. 講師側が困ってしまう場面がないか。(説明が理解してもらえない。グループワークが想定のように進まない。問いや指示が不明瞭で参加者が混乱する等。)

ここまで確認して、資料づくりに入る。

  1. 学びの効果が高く、効率よく時間を活用するために、投影資料には、どのようなメッセージを含めるか。
  2. メッセージをより確実に届けるために、文字情報に加えてどのような絵や写真を加えるか。

こうして、資料を完成させ、説明とワークの両面から、プログラム全体の流れを確認し、意図とずれている事や、効果的でない所がないかを確認して行く。そして、最後にもう一度、自分に問いかけてみる。

  1. 私は、このプログラムを通して何を実現しようとしているのか。
  2. 私にとって、それはなぜ重要なのか。
  3. 受講者にとって、それはなぜ重要なのか。

ここで、プログラムの核となる学び、価値観レベルでの狙いを自分の中に落とし込み、プログラム作成が完了する。

 

プログラムについて自ら問う

こうして出来上がった2日間のワークショップのプログラムについて、自分に問いかけてみる。

1.私は、このプログラムを通して、何を実現しようとしているのか。

その上で、自分の人生や仕事に学びを結びつけ、自らの内発的な動機に基づき、アクションを考えて欲しい。そのアクションを実現する上で直面する困難を想像し、あらかじめ対応を考えて欲しい。 約半年、国内外で行ったスタディツアーから明らかになった2030年未来シナリオの世界を、自分事として理解して欲しい。ブルーム理論で言う所の知識、理解ではなく、適応、分析、統合、評価の深いレベルでの認知に至って欲しい

2.私にとって、それはなぜ重要なのか。

未来教育会議をはじめて、今年で3年目になる。一年目は、2030年の未来を想像し、教育の未来シナリオを描いた。その時に、明らかになったことは、大人が変わらなければ教育は変わらないという事実。そこで、昨年は、大人がどう変わる必要があるのかを考え、2030年の企業と社会未来シナリオを描いた。この2年間の活動を通して、日本の社会の現実と教育は鶏と卵の関係にあることを知る。受け身に学ぶ学校で習得した習慣は、企業で活かされる。学校でも、企業でも、余計な事を言わないで、先生や上司に従う有能な人材が大量生産されている。個人になると、「私はこう思う」と雄弁に語る彼らも、組織人になると、その事を口にしない。

結局のところ、学校や職場で、個人として生きることを放棄する。その方が、最小限のエネルギーで最大の報酬を得られるのだ。このモデルは高度経済成長の時代には有益だった。しかし、今日のように複雑で混沌とした社会の中で、変化やイノベーションを起こす時代には機能しない。リスクを取る人がいないからだ。この状態が続くと、失われた20年が、失われた半世紀になることが予測される。それを避けるために、気付きと行動を促すことを狙いとして、3年目の未来教育会議を設計した。

 

参加者には、日本の人口は世界の2%であり、98%の世界が何を考え、どのようなアクションに取り組み、どのような未来を創ろうとしているのかを理解することを求めた。これが、海外スタディツアーだ。

今年は、ドイツとオランダを訪問した。ドイツでは、インダストリー4.0に取り組む関係者の話を聴いた。オランダでは、デジタル技術や科学を活用しイノベーションを起こす市民の力や、社会資本を活用するシェア経済の実践に学んだ。EU諸国では、市民、政治、企業、アカデミアの4つのセクターが四十螺旋的に未来を創造するクワトロヘリックスという考えに基づき社会が創られている。オランダでは、強い市民力が四十螺旋を牽引しているように見えた。

ドイツでは、企業、政府、アカデミアの連携とリーダーシップに学んだ。日本の四十螺旋は、どのように実現するのか。企業、政府、アカデミア、市民はどのようにして連携したアクションを実現することができるのか。参加者である企業人、官僚、学生夫々の立場で考えて欲しい。自分が実現したい未来。その未来のために、個人、組織人としてやれる事.個人や組織の枠を超えて連携が必要なこと。そして、ゴールを設定し、具体的なアクションと、ゴールに到達するシナリオを描く。失われた半世紀ではない未来に向けて、一人ひとりが動き始める。これが私の願いだ。

3.受講者にとって、それはなぜ重要なのか。

システム思考には、「ぼくたちは大丈夫」と、今が上手く行っていても、壊れた船に乗っていれば、やがては沈んで行くことを説明する絵がある。先に沈むのはどちらかというだけの話だ。激動する世界の中で、日本らしく存在し続けるために、今、変わることを選択できることはとても幸せなことだ。

テレビをつけると日々報道されるトランプ大統領のニュース。その度に、トランプ大統領のニュースを対岸の火事と思わない方がよいと思う。日本の社会と教育は、欧州モデルではなく米国モデルなのだ。共生ではなく競争を前提とし、人間づくりも、よき労働者を育てることを優先する。学校も親も教育の目的が受験戦争に勝ち抜き良い職を手に入れることだ。経済活動に参加できず貧困から抜け出せない人々も多くいる。PISAテストでレベル1を取る子どもの数が13.8%であることは語られず、読み書きそろばんができないまま大人になることを黙認する社会になっている。ミニ・アメリカ化は至る所に見られる。

未来教育会議の2日間のワークショップを通して、自分と自分の周辺の未来をよくするアクションを明確にし、多様なステイクホルダーが協力して良い未来に向かう社会を実現することは、参加者にとっても損な話ではない。

 

 

なぜOECDキーコンピテンシーなのか

文部科学教育通信No.405 2017.2.13

未来に責任を持たない大人たち

教育改革がスタートし、約15年が経過し、その効果は、ミレニアム世代の持つ価値観や思考特性にも反映されています。最近の若者は、消費の意欲がないとか、野心がないという否定的な意見を持つのは古いパラダイムに生きる大人たちです。ミレニアム世代は、地球の未来を考え、持続可能な経済活動に関心を持ち、困っている人たちを助けたい、みんなが幸せに生きる社会を創りたいと言います。やさしく弱いメッセージに聞こえるかもしれませんが、それが本当に難しい時代になっているという現実を彼らが自分事としてとられていると考えるべきでしょう。しかし、大人の多くは、「私はその前に死ぬから」「それは君たちの問題だ」という態度です。「戦争が無い時代はない」とか、「中国をはじめとする新興国が協力しない限り環境問題は解決できない」等と言う人もいます。難しいからあきらめるという態度は、OECDの教育観の真逆です。未来に責任を持たない大人たちの更に残念なことは、若者が自らの意志で行動することを許可しないことです。

 

ミレニアム世代に学ぶ大人たち

一方、世界はどのようにミレニアム世代を見ているのでしょうか。欧米の多国籍企業の多くは、ミレニアムをエンパワーし(信じて任せること)、管理職がミレニアムに学ぼうとしています。ミレニアムに仕事をしている様子を観察してもらい、彼らの目に、管理職の人々の仕事がどのように映っているのかをフィードバックしてもらうのです。「なぜ、そこで紙が必要なのですか」等、デジタルネイティブの彼らのフィードバックを通して、ミレニアム世代の常識に学びます。日本のように、上位者が全て正しいという考えはありません。

 

時代の先頭を走るリーダー

世界には、ミレニアム世代とともに、善い未来を創るために挑戦するリーダーの姿もあります。ユニリーバ社のCEOポール・ポルマン氏はその代表的な存在です。環境負荷を半減させ、10億人の生活を豊かにするという目標を掲げるポルマン氏は、これまでの大人の常識に挑戦しています。四半期ごとに決算を報告するために使う時間とコストを、この目標を具現化するために使うと宣言し、四半期決算を廃止しました。この話を聴き、年齢の高い人たちの多くは、10億人の生活を豊かにするために、経営資源を使うのは経営の目的に反していると言います。若者の多くは、ポルマン氏の挑戦に賛同し、可能ならば自分もそのような取り組みに参画したいと考えます。

 

なぜキーコンピテンシーなのか

OECDのキーコンピテンシーは、これまでの学力を中心とした教育の何を変えることを求めたのでしょうか。複数の要因が複雑に絡まり、決して一人では解決できない問題を解決する力を育む事です。ポール・ポルマン氏のように、誰もが不可能だと思う目標を掲げ、その実現のために、解決策を見いだし多様な利害関係者を説得し、巻込み、その実現のために行動する力を育む事です。情報収集や分析にIT技術を活用し、テクノロジーを活用し、解決策を創造する力です。問題はより深刻化・複雑化していますが、テクノロジーにより、歴史上類を見ないレベルで、私たち一人ひとりが、エンパワーされているところに大きな可能性があります。これまでは、大企業にしかアクセス出来なかった情報も技術もすべて無料あるいは低コストで手に入ります。イノベーションを、誰もがとても簡単に行うことが可能になりました。教育の枠組みに学力のみでなくテクロノジーを活用し、イノベーションを起こす力が加わったのはこのためです。

 

OECDが主導する世界の教育改革がスタートし15年が経過しましたが、日本では、まだ、この改革は始まっていません。21世紀学び研究所を立ち上げ、大人にキーコンピテンシーを広める活動を始めています。

 

日本の未来を変える力とピースフルスクール

文部科学教育通信No.404 2017.1.30 掲載

箱根町湯本幼稚園の公開授業

1月13日に、箱根町湯本幼稚園で行われたピースフルスクール(PSP)の公開授業を見学しました。3歳児のレッスンのテーマは、「私たちの気持ち」です。子どもたちは、うれしい、かなしい、こわい、いかりの4つの感情について、これまで学んできた総括を行いました。劇を見ながらサルやトラの気持ちを想像します。いかりの感情の番が来ると、幼児の一人が、「深呼吸する」と冷静になるという学びに触れてくれました。また、授業の後半に、テーブル席に座る際に、3人座りをしている子どもたちに、お友達が「3人座りはいけないよ」というと、3人がじゃんけんを始めたり、他の席では、「どうしますか?」と先生が子どもたちに問いを投げかけていました。こうして、子どもたち同志で、誰が席を移るのかを決めていきました。幼稚園児であれば、先生が、「○○ちゃんは、こっちね」と子どもたちを移動させることは本当に簡単です。しかし、主体性と共生力を磨くためには、先生方が見守ることが大切です。そして、移動した子どもには、「席を移ってくれて、ありがとう」と、先生は丁寧な言葉かけをします。2011年にオランダではじめて、PSPの授業を見学し、日本の子どもたちに届けたいという思いで活動し、6年目となります。箱根町では、2105年にスタートした取り組みも、子どもたちの成長に繋がっていることを実感でき、教育委員会や先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。

 

今回は、PSPがなぜ日本の未来を変える力になるのか。2つの事例をご紹介したいと思います。

 

原発事故とPSP

ピースフルスクールとの出会いは2011年4月。東北大震災の直後でした。その後、知人が原発事故の国会事故調査報告書の作成に関わっていたこともあり、わかりやすい国会事故調プロジェクトを立ち上げ、原発事故を振り返る対話会を始めました。その際に、この国の国民が3つに分類されることがわかりました。一つ目は、強く原発反対の意見を持つ人、2つ目は、持続可能な経済の発展には原発が必要だと考える人、そして、3番目は、原発について考えない(ようにしている)人です。3番目の人たちの多くは、原発は自分とは関係のないことで、行政や東電に任せるしかないと思っている様子です。あるいは、賛成反対の議論に関わりたくないので、無関心を装っている様子です。いずれにしても、自分事ではないというスタンスです。

 

原発事故の後、本当は国民全員が議論に参加し、①原発をスタートした時点での我々の選択、②原発のこれまでの貢献、③事故の振り返り、④私たちの未来の選択という4つのテーマについて認識をすり合わせ、合意形成を行う必要があると思います。

しかし、今の私たちの共生力には、この難しい対話に対処することができません。だから、原発は自分とは関係のないこととして封印するしかありません。

ピースフルスクールの「賛成、反対、わからない」のレッスンでは、民主的な社会の一員は、自分の意見を持つ責任があり、わからないでもよいので自分の意見を表明することが大切だと教わります。そして、民主的な社会には多様な意見が存在し、対立が起きることが健全であるという信念を持ちます。「賛成、反対、わからない」のレッスンで子どもたちは、賛成・反対・わからないの3箇所に分かれて立ち、意見を述べます。人の意見を聴いて自分の考えが変わるとすぐに、賛成から反対へと子どもたちは自由に場所を移動します。こうして、多面的に思考する訓練を小学生から行えば、原発のような難しいテーマについて話し合う力が身に付くのではないかと思います。

 

課題先進国の日本の未来は、原発以外にも、都市と地方、老人と若者といった利害の対立が予測されます。その中で最良の解を見出し、善い未来を創造するために、一人ひとりが主体的に考え行動すること、みんなで何を優先するのかを決めることが大切になると思います。高度経済成長期のように、政府に任せておけば未来は良くなるという時代ではないという認識を持ち、意思決定に参加していかなければなりません。

女性活躍推進とPSP

昭和女子大学キャリアカレッジ学院長として女性活躍推進に取り組む中でも、PSPの必要性を実感しています。安倍総理の成長戦略の一貫に組み込まれた女性活躍推進は、政府主導で始まりました。安倍総理の掲げた2020年に管理職比率を30%にするという目標は、すでにトーンダウンしていますが、実は、目標が掲げられた当初から非現実的な目標でした。女性採用比率ならともかく、女性を管理職にするためには、それなりの経験を持つ母集団が必要だからです。そこで、私は、企業の方々に、なぜ、スタート当初から実現しない目標を総理大臣が掲げたのかと尋ねました。すると、「そうでもしないと、この取り組みが進まないからだよ」という返事が返ってきました。「だからといって、国家元首が達成できない目標を掲げるんですか~」と私は思わず叫んでしまいました。女性活躍推進法が制定され、301人以上の社員を持つ企業はすべて、その進捗を報告し開示する義務があります。このうな流れの中で進められる改革では、「なぜ必要なのか」というビジョンを形成する対話は省略され、「これは指示命令ですから、従って頂きます」ということになります。労働人口の減少という課題を解決するために女性の労働比率を上げていくという国家戦略は、片働き・専業主婦社会から、共働き社会への移行を意味します。専業主婦がいない家庭では、夫も子育てや家事に参画する必要が出てきます。そのためには、社会全体で、ワークライフバランスをどのように考えるのかについて合意形成を行う必要があります。PSPが生まれたオランダでは、夫婦で1.5人分働くことを標準にしています。このため、オランダの夫婦は、共働きをしていても、子どもたちがその犠牲になることはりません。そのためには、市民、経営者団体、労働者団体、行政等のマルチステイクホルダーが、「どのような未来の社会を実現したいのか」について合意を形成する必要があります。高度経済成長を支えた雇用慣行についても見直しが必要です。このような大きな社会変革は、一人ひとりの主体的な参画なしに行うのは非常に困難です。ここでも、やはり、「賛成、反対、わからない」の議論をオープンに行える市民の存在が不可欠であると感じます。

 

日本が衰退する理由は、①過去を振り返ること、②オープンに話し合うこと、③話し合いを通して合意形成を行うことができないために、課題が積みあがっていくからだと思います。今日の課題は複雑で、社会に生きる多様な人々が共に未来を選択し、課題解決に参画する必要があります。そのために、市民教育は急務であると感じています。

 

大人向けのPSP

PSPを通して、自分の考えを深く内省できる力が、対話力に不可欠であることがわかりました。そこで、昨年21世紀学び研究所を立ち上げ、PSPの学びを土台に大人向けのプログラムを開発しました。大人にも、子どもにもPSPを広めて行きたいと思います。

市民の力で社会を変えていく 続

文部科学教育通信No.403 2017.1.16 掲載

前回に引き続き、ワークショップに参加したコミュニティ・オーガナイジング(Community Organizing、以下CO)についてご紹介したいと思います。  COとは、市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり考え方であることを前回ご紹介しました。社会を変えていくと言われると大事のように聞こえ、自分には無理だと身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、普通の市民である私たちも、大小の違いはあれど、変えたいと願うことがあるのではないでしょうか。また同じ想いをもつ人のことが思い当たるのではないでしょうか。変革はすべてそこから始まります。COでは、いきなり大きなことを成し遂げようというのではなく、少しずつできることから始め、いずれ影響力を高めていくステップが上手に体系化されています。

今回はCOが提唱するパブリック・ナラティブについてご紹介したいと思います。

 

ストーリで人を動かすパブリック・ナラティブ

パブリック・ナラティブとは、直訳すると公のストーリー、物語となります。なぜ行動する必要があるのか、主体的な行動を他者へ促すために語るストーリーです。主体的に人が動くためには、頭でロジックを考えて納得するのではなく、心が動かされることが必要です。パブリック・ナラティブは心に火をつける着火剤のような役割です。優秀な政治家や経営者、組織のトップは、想いを言葉にのせて伝える力が高い人が多いように感じます。人は言葉とその裏側にある想いや背景に引き寄せられて集まってきます。そのストーリーが本物でパワフルであるほど、より多くの人の心を動かします。では、パワフルなストーリーとはどのようなものでしょうか。

 

ストーリーの中で重要なポイントとなるのが価値観と感情です。価値観とはその人が大切にしていることや信念です。価値観は感情を通じて生まれるものです。同じ経験をしても、その経験が良いものとなるか悪いものとなるかは、感情が決めます。例えば、「先生に叱られた」という経験をしても、「叱られて嫌だった、悲しかった」と思う人と「自分のために叱ってくれた、感謝している」と思う人がいます。その経験に対する印象や、その後に形成される価値観も違うものになるでしょう。価値観を語ることの重要性は、価値観に共感することで関係性が強固なものとなるからです。また、このチームや組織が何を大切に考えるのか、行動するのかという規範にもなります。また、感情を語ることで、聞き手の勇気や希望、連帯感を引き出すのです。恐怖や無関心といった感情は人を萎縮させ、行動を制限します。一方、希望や緊急性、一体感といった感情は行動を促進させていきます。この促進する感情を共有することで、人が一歩踏み出すきっかけとなるのです。

 

パブリック・ナラティブには3つの要素があります。

  1. ストーリー・オプ・セルフ これは自分自身のストーリーです。なぜこの活動を始めようと思い立ったのか、きっかけや自身の経験を語ります。
  2. ストーリー・オプ・アス 組織やコミュニティが共有する価値観を語ります。共有価値観は目に見ない道徳的な資源となり、人のつながりが形成されます。
  3. ストーリー・オプ・ナウ 共通する価値観に反する目の前の問題について語り、今行動することの必要性を促します。

 

セルフ(自分自身)、アス(私たち)、ナウ(今)を含むストーリーを語りながら、聞き手の心を動かし、変化を与えていきます。問題に直面しているとき、そこに留まっているだけでは問題は解決されません。誰かが解決してくれるとも限りません。待ちの姿勢ではなく、自らが問題に挑んでいく勇気やモチベーションを与えるのです。同志となる人は問題に直面している人であることが重要な理由もここにあります。自らの問題を自らが解決できるよう動くことで、自分自身も幸せに、他者も幸せにする大きな効力を発揮します。

 

自分自身のことを語る理由

行動を共にしたいと思う相手に自分のことを理解してもらうためには、ストーリーを語りましょう。これをCOではストーリー・オプ・セルフと呼んでいます。長い付き合いのある関係性であれば、言葉が少なくてもお互いを理解することは可能かもしれません。しかし、限られた時間の中自分を理解してもらい、より多くの人を牽引するためには、ストーリーに自分の価値観や経験をのせて、体験してもらうことが必要になります。直面している困難を変えたいと思ったきっかけが自分の人生の中にあったはずです。感情が大きく動いた経験とそこから生まれた価値観を伝え、聞き手に光景としてイメージさせられる具体性があるかが鍵です。そうすることによって、相手の動機も刺激することになります。また、自分自身を知るきっかけにもなります。自分がどのような価値観を持ち、それがどのような経験から得られたかを知ることで、自分を動かし続けるエンジンになるのです。何かを変えたいと望む理由は、痛みとその先にある希望の両方を持っています。

 

ストーリー・オブ・セルフに盛り込む内容

Challenge:困難   何が困難と思ったのか、なぜそれが困難と感じたのか

Choice:選択

困難に対しどのような選択をして行動をとったのか、なぜその選択をしたのか、その選択をしたまたは選択できなかった動機は何か

Outcome:結果

結果はどうなったのか、そこから何を学んだか、聞き手にその結果をどう感じてほしいのか

 

自分と他者をつなぐ共有価値観とは

ストーリー・オプ・アスとはストーリーを通じでお互いの共通する価値観でつながることを目的とします。予めカテゴライズされたもの、例えば国や性別、地域などではなく、共有できる価値観で人が集まることに意味があります。集団の中で、また始めて会う人や多様な人がいる中では、なかなか難しいと思うかもしれませんが、誰しも共有できる価値観はあります。

参考になる映像があります。日本でも昨今注目されているLGBTに関する活動について、James Croftという若者がハーバード大にて行った演説で、この共有する価値観を見事に語っていました。LGBTの割合は左利きの人と同じ割合で7.6%程いると言われています。かなり多くの人がいることがおわかりいただけると思います。社会の中で、性的マイノリティであることを理由にいじめや差別が根強く残っています。これを理由に自殺をする人があとを絶ちません。James Croftは「もし、自分の家族がLGBTを理由に自殺したら、皆さんはどう感じるか」と訴えています。このメッセージを聞くとこの問題に対して、あまり関心が高くない人でさえ、心に響くものがあるのではないでしょうか。「家族を大切にしたい」という共有価値観が人の心をつなげた良い事例です。このような共通の価値観を映し出す事例は、似たような人生の出来事、社会が動いた歴史的瞬間、同じ場に居合わせた理由の背景など様々でしょう。ストーリーを語るうえで、細部がより細かく描かれているほうが、想像がしやすくパワフルです。

 

緊急性によって行動を促進する

ストーリー・オプ・ナウでは、アクションを促します。どのような緊急な問題であるかを提示し、突き動かすのです。変化を生む必要があり、行動するタイミングは今しかない、行動できる機会は二度と来ないかもしれないと感じられるかどうかです。そのために、次のアクションをどうすれば良いのか、準備しておくことも重要です。

 

このように人を動かし巻き込むためには、ストーリーを語る力が必要です。社会に変化を起こしていくためには、心を動かし共感を得ることによって、自分や仲間が直面する困難をあるべき姿に転換するよう動いていくことが求められます。

※本内容はCOワークショップガイドより一部流用させていただきました。

 

 

市民の力で社会を変えていく

文部教育科学通信No.402 2016.12.26掲載

今回は先日、ワークショップに参加したコミュニティ・オーガナイジング(Community Organizing、以下CO)についてご紹介したいと思います。  COとは、市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり考え方です。オーガナイジングとは、人々と関係を作り、物語を語り立ち向かう勇気をえて、人々の資源をパワーに変える戦略をもってアクションを起こし、広がりのある組織を作りあげていくことで社会に変化を起こすことです。キング牧師による公民権運動、ガンジーによる独立運動、どれも数えきれないほど多くの人々が参加し、結束することで社会を変えてきました。

 

そして、普通の市民が立ち上がり、それぞれが持っている力を結集して、コミュニティの力で社会の仕組みを変えていくのが、COです。市民主導で政府、企業などさまざまな関係者を巻き込みながら、自分たちのコミュニティを根本からよくすることを目指します。

 

COは、「先行き不透明な状況の中、人々が目的を達成できるよう責任を引き受けるリーダーシップ」と言うこともできます。リーダーシップと言うと、カリスマ性のある限られた人にだけ与えられた特別なものと思われがちです。しかし、COでは、人は誰でもリーダーであると考えます。子どもの頃に何度も転びながら自転車の乗り方を覚えたように、行動を起こし、何度も失敗しながら学んでいくのです。 (コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンWEBサイトより抜粋)

 

COのイメージ

スイミーという絵本をご存知でしょうか。小さな魚たちが集まり、大きな魚の振りをすることで、大きなマグロに対抗します。スイミーは他の魚が赤い色をしている中で、黒い色をしています。その特長を活かして目の役割をするという物語です。COはこのイメージです。一般市民がそれぞれの個性を活かし合いながら共生し、社会に変革を起こすことができます。

 

COの第一人者は30年以上アメリカの市民活動に関わってきたマーシャル・ガンツ博士(ハーバード大) です。COの手法を活用し、オバマ氏を米国初の黒人大統領に導いたことでも有名です。ガンツ博士は自身の長年の経験を理論的に体系化しました。米国では市民運動が盛んで、COのように体系的に学ぶ機会があります。日本でも過去を遡れば一揆のような、農民や信徒が立ち上がって圧政に対抗したような事例もあります。これからの時代は社会課題が多様で複雑化しています。一人のリーダーが先頭に立って解決するだけでなく、市民一人ひとりが自分事として社会づくりに参画していく基盤づくりが必要です。日本の中でもその動きはより求められるものとなるでしょう。

COに学ぶリーダーシップ

COのワークショップの中で、リーダーシップを考える3つの質問があります。

①私が私自身のために存在しなければ、私は誰なのか?

→まずは自分自身の価値観を理解することが大切である

②私が私のためだけにあるのなら、私は「どういう物」なのか?

→あなたがあなたのためだけに生きているのであればただの物である。人間は相互に依存しあって生きており、他者の力を最大限に引き出して社会をつくっていく必要がある

③今でなければいつのなのか?

→失敗を恐れて行動しないのではなく、やってみて失敗を重ねて学んでいく

 

この質問は限られたカリスマだけでなく、誰しもがリーダーになれることを示しています。自分の価値を認識し、他者を巻き込みながら、自己内省を重ねて行動していく、これがリーダーに必要なことです。これらの能力を高めながら、リーダーは自分と他者が共有した目的を達成していくのです。

 

COでは自分の3つの資源を同時に使っていく必要性を掲げています。その3つとはこちらです。

1.頭 HOW 戦略

2.心 WHY 動機

3.手 ACTION 知識・スキル

その中でも、頭と心が重要であり、状況に応じて柔軟に戦略を組み立てながら、自分と人をモチベイトして組織化していくことが求められます。

 

では、具体的にCOの実践法についてお伝えしていきます。大まかな流れはこのようになります。

 

ステップ1:「同志」を見つける

ステップ2:アクションを起こしながらゴールを達成する

ステップ3:組織化する

 

ステップ1の「同志」を見つけるために、有効な問いがあります。
同士は誰か?

➔自分が解決したいと考える課題に直面している当事者

同士が直面している困難は何か?

➔同志との対話を通して真の困難を導き出す

同志の資源をどう創造的に使い、困難に立ち向かえるパワーに変えられるか?

➔限られた資源をいかに有効化し、変化へとつなげる

 

同志となるには、自身のもつ想いをストーリーとして語り、相手の心を動かしていくことができるかが鍵となります。これをCOではナラティブと呼んでいます。表面的な同意ではなく、相手が共有する目標を心から達成したいと願い、自発的に行動していく真のコミットメントを得ることができなれば意味はありません。共感を得るためには、自身の経験や価値観、お互いの共通項を踏まえて、聴き手が自分事として捉えられるよう伝えていくことです。  同志とコミットメントができた後、自分たちの資源を使って戦略をたてていきます。資源とは、時間、勇気、スキル、創造力など広義の意味での資源を指します。変革を起こすための十分なパワーとなる資源をどのように集めれば良いのでしょうか。必要とする資源を自分たちがすでに持っているのであれば、協力し、資源を使っていくだけです。これをパワー・ウィズと言います。他の人から得なければいけない資源があれば、これはパワー・オーバーと言います。必要な資源をもつ他の関係者を見つけ、その人や組織が必要とする自分たちがもつ資源を考えます。自分たちの資源を最大限活用し、関係者の資源にどうやってアクセスできるかを追求するのです。

戦略が機能するためには、強い動機、不利な状況も有利に変える創造性、常に適応し変化できることが大切です。戦略の最終ゴールを達成するため、具体的な戦術が必要です。戦術にも関係を構築する戦術とキャンペーンとしての戦術があります。リーダーが同志と関係を構築していくためには、指示命令ではなく、同志の自発的な行動を促す戦術が必要です。そのためには十分な時間と意欲を投資していかなければなりません。オープンでフラットな関係を築き、真の自分でいられる環境づくりがかかせません。

一方キャンペーン戦術とは、人を集め注目を高めていくために仕掛けるイベントのようなものです。最終的に達成したいゴールの助けとなり、同志の資源をうまく活用できるものでなければいけません。またこのキャンペーンを通じて、組織や参加メンバーを成長させることにもつながります。

 

戦略をたてるポイント

同志:困難を抱えその問題のために立ち上がってほしい同志は誰か?明確か?

 ゴール:変化を起こすゴールか?同志が変化を感じ、達成に向けて動機が上がるものか?

変革の仮説:パワー・ウィズとパワー・オーバーが十分に分析できているか。同志の資源を生かしてパワーを作り出しているか?

タイムライン:いつが基礎づくりで何をするか?キャンペーンのキックオフ、ピークと最終ピークは何か?

戦術:メインの戦術は何か?「変革の仮説」を実行する同志の資源を結果に繋げる活動は何か?同志の資源を使えているか?

 キックオフ:できるだけ具体的につくる

 

次回はCOが提唱するパブリックナラティブと組織構造についてご紹介したいと思います。

※本内容はCOワークショップガイドより一部流用させていただきました。

 

脳科学を学びに活かす

文部科学教育通信No.401 2016.12.12掲載

近頃は、教育やビジネスの世界でも脳科学の研究内容を活かす取り組みが進んでいます。日常の中でも「脳トレ」「左脳と右脳」など脳科学に関するキーワードを聞く方も多いのではないでしょうか。先日「Neuroscience of Learning」という脳科学の勉強会に参加をしてきました。今回は脳科学の世界で現在明らかになってきたことと、その活用法についてお伝えしたいと思います。

 

脳科学と創造性

脳科学が重要視されている理由の一つに、人工知能(AI)の存在があります。今後はルーチンワークと呼ばれる単純作業はどんどん機械に移行していくことでしょう。人工知能が人間の仕事を奪い、敵対する脅威と捉える方も多いのですが、本来、人間の生活を快適かつ豊かにする存在として開発されています。最近では日本人の約半分の仕事が人工知能に移行すると言われていますが、その時、人間に残されるものは何でしょうか。それは、新しいものを取り入れる創造性だと言われています。創造性を生み出す元となるのが脳です。脳科学が注目されているのは、脳の仕組みを知ることで、より効果的に使っていくことができると考えられているからです。脳科学は医療の世界だけでなくリーダーシップ開発やマーケティング、子育てなど幅広い分野で活用されています。マーケティングで活用される事例を一つご紹介します。病院で使用される備品や設備には青色のものが良く売れるそうです。脳科学の観点から見ると、青色は自律神経を安定されるセロトニンという分泌を促進する効果があるからです。このように脳がどのように判断や思考に影響しているかを知ることで、人の購買活動に応用するという活用方法もあります。

 

創造性の必要性は世界中でも謳われています。これからの時代に必要な能力として世界経済フォーラムで掲げられた能力のうち、2015年と2020年で大きく変化がありました。

 

これからの時代に必要になる能力


2015年

  1. 複雑な問題解決
  2. 他者との協同
  3. マネジメント力
  4. クリティカルシンキング
  5. 交渉力
  6. 品質管理
  7. サービス指向
  8. 判断力と決断力
  9. 傾聴力
  10. 創造性

 

2020年

  1. 複雑な問題解決
  2. クリティカルシンキング
  3. 創造性
  4. マネジメント力
  5. 他者との協同
  6. エモーショナルインテリジェンス(こころの知能指数)
  7. 判断力と決断力
  8. サービス指向
  9. 交渉力
  10. 認知の柔軟性

 

(参照元:Neuro-Link Global「Neuroscience of Learning」)
2015年は創造性は10位でした。しかし、2020年では3位まで上昇しています。この5年で、創造性の重要性が高まっているのです。また、2020年の1位〜3位にランクされているものは、脳の仕組みと非常に関連性の高い能力になっています。

 

脳科学とEQ

2020年6位のエモーショナルインテリジェンスも脳科学の発展により解明されてきた能力です。日本では「EQ」と表記されており、1996年に心理学者のダニエル・ゴールマン氏の著書『EQ こころの知能指数』がベストセラーとなったことで注目されました。一般的に言われている知能指数「IQ」に対し「EQ」は感情と思考をコントロールする情動指数です。

 

最近では、感情が行動を支配していると言われています。長年にわたって、行動を支配するのは論理であり、感情は秩序を乱す邪魔なものと考えられてきました。1980年代になってアントニオ・ダマシオ博士(南カリフォルニア大学Brain and Creativity Institute所長)が、感情に関連する脳の前頭前皮質腹内側部(vm-PFC)に損傷を受けた患者は自分のとった行動を忘れ、他人の感情に無関心になってしまう、ということを発見したのです。これらの患者は、理論や社会的ルールを理解し、将来の計画やビジネス上の決定について知的にスピーチをすることはできても、過去の経験から学んで自ら正しい決定を下したり、現在の行動に生かすことはできなくなっていました。つまり感情が判断や行動を決めているということです。

 

私たちは、生活をする上で様々な決定を下します。その際に指針となるのが過去の経験です。自分のとった行動の結果を、その時に味わった感情から「知恵」と「愚行」に区分して知識として脳の中に蓄え、次に決定を下す際の指針にします。また、行動の結果を予測した時に起きる感情も決定を下す際の指針となります。

 

自分の感情を認識し、上手に向き合うことで、ものごとへの柔軟な対応力が身につき、他者を理解することができます。感情を扱うことは、人生を豊かにするうえで欠かせない能力なのです。企業や学校でもEQ教育が注目され始めています。これからの社会ではEQを育むことが高い人間力を養う上で必須となることでしょう。

 

脳科学で潜在能力を高める

脳科学の世界では、一人ひとりがもつ脳の特性を診断し、潜在的な能力を高めることで自分を活かすことができると考えられています。自分の能力を開発していくためにはまず自分を知ることから始まるということです。脳診断における専門のアセスメントを受けると、脳のパフォーマンス状況、特性、好みといった診断結果が出ます。脳のパフォーマンスでは、右脳と左脳の使われ方、ストレス対応力、ポジティブ思考かネガティブ思考、睡眠、健康、食事といった内容が明らかになります。

 

左脳と右脳に関しても研究が進んでいます。単純に左脳は論理性、右脳は創造性と言われていますが、それだけではないようです。ほとんどの人が両脳を使っていますが、人によって優先的に使う脳が異なります。物事を考えるときに左脳を使って考え始める人と右脳を使って考え始める人がおり、人それぞれより強く働く脳があるのです。本来はバランス良く両脳を使っていくことが理想とされています。両脳を柔軟に使うことによって、より賢く、早く自分の能力を発揮することができます。自分の脳のどちらが支配的なのかを知ることによって、どちらの脳を活性化していく必要があるのかを理解できます。脳の活性化方法には、運動、食事、芸術鑑賞、楽器を弾く、瞑想など様々な方法があるようですので、自分に合った方法を試してみると良いでしょう。

 

ストレスと脳

脳の働きに大きく影響を与える要素のひとつとしてストレスがあります。マイナスの感情をもつと脳神経内のセルとセルの伝達が遮断され、脳の働きが鈍くなります。その結果、悲観的になりモチベーションが下がるといったネガティブな気持ちや行動を促進させてしまうのです。逆に「楽しい」「幸せ」といったポジティブな気持ちをもったり、リラックスすることにより脳内伝達物質が多く放出され、脳がよく働くようになります。ポジティブ思考により生産性が上がっていくのです。学校や職場の環境でも、育成者や上司の発言ひとつで気持ちがネガティブな方向に働いてしまうことがあります。汚い水にスポンジをいれると汚い水に染まってしまうのと一緒で、周囲の環境によりネガティブ強化が進むとより促進されます。ゲームなどで暴力的なコンテンツにさらされている子供は脳にネガティブな影響を受けやすいと言われています。また困難な状況に落ちいったときの対応力も脳に影響を与えます。自分自身で問題に向き合い、建設的な対応をできるようにならなければ、マイナスの影響を受けやすくなります。考え方が変わると感情が変わり、行動、パフォーマンスが変わってきます。子供は特に学びが多い時期ですので、脳に良い刺激を与える学びの環境を増やしてあげましょう。誰かの真似をするのが最もパワフルな学びです。子供が「お父さんのようになりたい! 」といった憧れの人を身近にもつことも良い影響を与えます。学びが必要な環境には心理的に安心し脳がポジティブな影響を受けられる環境が必要なのです。

 

誰にとっても無縁じゃないリーダーシップ

文部教育科学通信No.400 2016.11.28掲載

先月から品川女子学院の高校生を対象に「リーダーシップ講座」を実施しています。リーダーシップとは、自分の言葉や行動、存在を通して、自分以外の人も主体的に動くようにしてしまう影響力のことです。リーダーシップは特別な人のものと思われがちですが、誰にとっても必要な力です。これは大人だから、子どもだからということは関係なく、高校生でも幼稚園児でもリーダーシップを発揮することは可能です。

 

品川女子学院では、このような内容で「リーダーシップ講座」を進めています。

第1回:誰にとっても無縁じゃないリーダーシップ

第2回:自分の強みを活かしたリーダーシップ

第3回:対話、メンタルモデル 第4回:リフレクション

第5回:未来のためのリーダーシップ論・学びの振返り

 

今回は第1回と第2回の内容について触れていきたいと思います。
第1回:誰にとっても無縁じゃないリーダーシップ

 初回はリーダーシップとは何かを知り、自分のリーダーシップを振り返ることを目的に授業を実施しました。

 

まずは、皆さんが憧れる身近なリーダーを具体的にイメージしてもらいました。部活の部長や先輩、校長先生、スティーブ・ジョブス、孫正義、SMAPの中居正広など高校生のイメージするリーダーは多種多様ですが、高校生も自分なりのリーダーのイメージはきちんと持っています。ここで、リーダーシップは誰もが持つ力であり、潜在的な力であることを伝えました。さらに、誰もが持つ力であることの理解を深めるために、「赤ちゃんには、どんなリーダーシップ(影響力)があるでしょうか。」と質問をしました。リーダーシップは影響力であると捉えれば、赤ちゃんにもリーダーシップがあるのです。赤ちゃんには人に「見てるだけで幸せな気持ちになる」「何かしたあげたくなる」といった感情を抱かせます。これもリーダーシップの一つであり、赤ちゃんにもできるのだから自分にもその力があることを気づいてもらいました。

 

リーダーは常に未来に対する意図を持っています。ありたい未来を描き、それを実現したいと思う意図があるのです。その意図が強ければ強いほど、ありたい未来の実現に向けてリーダーシップは向上します。人の言動には必ず意図があります。意図とはどのようなものかを理解してもらうために、このような問いについて考えてもらいました。
問い:どんな意図をもっている?

  • そのアクションにはどのような想いが込められていますか。
  1. 話し合いが煮詰まった時、気分転換を提案する。
  2. お母さんが不機嫌だと解ったら、「お母さんのおいしいご飯が食べたいな」と言ってみる。
  3. みんなのノリが悪い時、自らテンションをあげて頑張る。
  • そんな時、どのようなアクションをとりますか。その意図は。
  1. 友達が悲しんでいる時、どんなアクションをとりますか。その意図は。
  2. みんながやる気をなくした時、どんなアクションをとりますか。その意図は。
  3. お父さんが疲れていると思ったら、どんなアクションをとりますか。その意図は。

 

さらに「どんな時に、誰に対して、身近なリーダーシップ行動をとっていますか。」という問いを投げかけ、自身がリーダーシップを発揮したいと感じるときの意図は何かを考えてみます。この意図を考えることがリーダーシップの始まりです。自分はどのようなときにモチベーションや行動力が上がるのかを知り、その力を原動力にすることが困難と向き合いながら、推進していく根源となるからです。

 

第2回:自分の強みを活かしたリーダーシップ

第1回の未来に対する意図を発展させ、あなたの心を突き動かす動機の源をテーマに実施しました。意図の段階では、まだ自分に対しての理解が漠然としており深掘りできていません。誰のために、どんな役に立ちたいのか、社会にどんな価値を提供したいのかを追求し、自分の判断基準や信念としてありたい未来のために活用できるのが動機の源です。  自分の動機の源を知るために、気になるテーマとそれはなぜか、自分の価値観と紐付けて拾ってもらうことにしました。ここで使用したテーマは、SDGsという国連が提唱する持続可能な開発目標です。SDGには人間、地球及び繁栄のための行動計画に対し、17の目標があります。貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のためのテーマからひとつ、自分の興味があるテーマを選択し、その理由を探ってもらいました。いずれのテーマもこれからの時代を生きる高校生にとっては、避けては通れない、世界共通の課題です。同じものを見ても、人それぞれ興味をもつものは異なります。そこには自分が大切にしている価値観や信念とつながる理由があるからです。自分が興味のある領域と理由を見出し、動機の源とつなげることで、自分が進みたい将来の道やありたい姿も明らかにすることができます。多くの高校生が悩む自分の進む方向性を探すきっかけづくりにもなるのです。 動機の源とリーダーシップ ・人は、複数(たくさん)の動機の源を持っている。人それぞれの個性や専門性が多様なリーダーを存在させ、問題解決の幅が広がる。

・動機の源を知るには、ポジティブ、ネガティブな感情の声に意識を向け、その感情の理由を探る。

・動機の源を記録しリスト化し、モチベーションやビジョンとつなげることで、自分を活かしたリーダーシップを発揮できる

・日々の生活で、意識的に動機の源を活用することで、学習意欲や解決力が高まり、能力が最大化する。

 

現代は、子どもたちが社会の中でリーダーシップを伸ばす機会が減っていると言われています。核家族化や地域との関わりの減少で、異年齢の集団に属したり、多様な背景をもつ人とのふれあいが減っているのです。学校生活の中では、リーダーの不在により、子ども同志でコミュニケーションが上手に取れない、学校行事の推進役不足など影響が出始めています。また集団の中で発生するトラブルの仲裁役がおらず、不登校やいじめにもつながることがあります。子ども達自身が自分たちの遊び場や学び場をより良い環境へと変化させていくことができれば、充実感、満足感の高い豊かな子ども時代をおくることができます。子どもの頃からリーダーの経験を積み重ねることは、社会に出て活躍する良い練習となることでしょう。  リーダーシップは他者をリードし導く印象が強いですが、自分に対するセルフリーダーシップの意味合いも含まれています。自分の個性や能力を活かしながら、これからの人生を切り開いていくためにも、自分自身をリードしていくことが必要です。このためには様々な体験の中から自己肯定感を高め、「自分はできる」と自信を持たせることです。また、新しい体験の中では、異なる考え方の友達と話をしたり、ロールモデルとなる先輩や大人と触れ合う機会も増えるでしょう。その中から自分は何者なのか、どんな強みや弱みを持っているのか、自分を知る機会を得ることにもなります。

様々な体験の中には、失敗をしたり、挫折を味わうこともあるでしょう。「失敗したらどうしよう」「失敗したら恥ずかしい」といった気持ちが先行してしまうとせっかくの成長の機会を逃してしまうことになります。このように子どもが困難にぶつかったときには大人の適切なサポートが必要になります。何よりも失敗をしたことを怒らないことです。まずは挑戦したことを褒めてあげましょう。その上で「なぜ失敗をしたのか」「次はどうすれば良いのか」を子どもが考えるサポートをしてあげましょう。その時、大人が答えを与えてはいけません。子ども自身で考え、持論を持つことで主体性が育まれます。

「失敗は誰にでもある。乗り越えることが大切なんだ」ということを子どもが理解すれば、いろいろとなことに興味を持ち、挑戦する行動力が芽生えることでしょう。こういった日々の積み重ねがリーダーシップを育むのです。

 

 

幼児期からはじめるシチズンシップ教育 ~神奈川県箱根町でのピースフルスクールの実践~

文部科学教育通信No.398 2016.10.24掲載

平成27年度より神奈川県箱根町の幼稚園・保育園・認定こども園計5園でシチズンシップ教育ピースフルスクールプログラムの導入が開始しました。

今回は、ピースフルスクールのような子どもたちの心を育てるシチズンシップ教育プログラムが幼児期の子どもになぜ必要なのかをご説明し、箱根町での取り組みをご紹介いたします。

ぜひ、未就学児の姿だけでなく、彼らが小学生、中学生、高校生、大人になった時のことを想像しながら読んでいただけると幸いです。

 ピースフルスクールプログラムとは

子どもたちの主体性を伸ばし、共生社会を実現する力を磨く幼児・小学生を対象としたシチズンシップ教育プログラムです。多様化する社会において、子どもたちが主体的に共生社会に参画し貢献する大人に成長することを願って開発されました。

子どもたちは、レッスンと日常での実践を通して、多様な人々が共生する社会を実現するために必要なマインドと行動を身につけます。プログラムを通して、対立を話し合いによって子どもたち自身で解決することや、建設的な議論をして合意形成すること、自分とは異なる他者を尊重し共生すること等を小さなステップで学んでいきます。レッスンでの学びを学校生活の中で起きる他者とのトラブルに活かし、問題解決に取り組みます。このため、プログラム導入により、けんかやいじめのトラブルは減少し、子どもたちは安心して学校生活を送ることが可能になります。
また、お友達と一緒に問題を解決し、よりよい学級創りに貢献した経験を積むことで、子どもたちの自己肯定感や効力感が高まります。
このように、子どもたちはプログラムを通して「みんなが幸せになるために一人ひとりにできること」を学びます。具体的には、以下の項目に集約されます。

  1. 自分を幸せにすること
  2. 家族やお友達を幸せにすること
  3. みんなが幸せになるコミュニティづくりに参加すること

教育の役割の増大

家庭や社会が多様化している中で、子どもたちが育つ環境も大きく変化しています。心を育む機会やコミュニティでの生き方を学ぶ機会が子どもによって担保されないことがあります。教育の機会が得られないまま、子どもたちは経験を通して、裏切られ、傷つき、平和の実現や善く生きることを諦め、時には怒りや悲しみから平和を破壊するエネルギーを高めてしまうこともあります。

そのため、教育の役割に、「話す・聴く」といったコミュニケーションの基礎や、感情を認識し言葉で伝えること、怒りの感情をコントロールすること、多様な人を尊重し共生するための方法、問題が起きた時にどう解決するのかといった知識を得ることが求められるようになりました。
ピースフルスクールプログラムを幼児期から実施することで、平和を好み、善く生きようとする子どもたちの心が育つので、理想を諦めず、平和を守る人・善く生きる人に成長する確率が高まります。

 子どもたちの知っていることと知らないこと

園で、「いやな時は”いやだ、やめて”と言おう」というレッスンを行いました。トラとサルのパペットを使い、サルがお絵かきをしている時にトラがサルのクレヨンを奪ってしまうというシチュエーションの劇を演じます。

子どもたちに、こんな時どうしたらいいのかを尋ねたところ、多くの子どもが「謝ればいいんだよ」と答えてくれました。子どもたちは、お友達を傷つけるのはよくないこと、よくないことをした時は謝るということは既に知っています。

しかし、「嫌なことをされたサルは、”いやだから、やめて”とトラに言えばいいんだよ」と答える子どもはいませんでした。この実践から、子どもたちがお友達に「いやだ、やめて」と言うことに慣れていないことがわかります。

幼児期の間であれば、お友達から嫌なことをされても先生に助けを求めることができます。「先生、Aくんに嫌なことをされたの」「先生、BちゃんとCちゃんから仲間はずれにされた」という風に先生に報告し、助けを求めることは園の生活でよくあることです。

このように、嫌なことをされた時にその気持ちを伝える経験を積まないまま大きくなると、いつか先生に助けを求められなくなった時に、嫌な気持ちを抱えたまま我慢することになります。先生に助けを求めると、けんかやいじめが悪化してしまうからです。

また、からかい(おふざけ)からいじめに発展することもあります。それを防ぐためには、コミュニティに約束が必要です。

・楽しくない、いやだと感じた時に、自分の気持ちに気付いて「いやだ、やめて」と相手に伝えること

・どんなに楽しくても、お友達が「いやだ、やめて」と言った時は止めること

この二点をコミュニティ(この場合、園全体やクラス)の約束事とし、日常で実践することで、自分の限界を知り自分を守る力、相手の気持ちに気付き共感する力を磨くことができます。このような経験を幼児期から積むことで、お友達とのトラブルが増える年代になった時に、自分たちでどうしたら良いのかを考え、行動することができるのです。

 幼児のころから共に生きる善い経験を積む

幼児のころから、自分の心の声と相手の心の声を聴き、誰もが心地よい状態をみんなでつくるために行動する経験は、生涯の財産になります。

また、子どもたちが主体的に学び、積極的に他者と関わるためには、安心できる環境と心の繋がりが必要です。子どもたちが「こんなことを言ったら、誰かに悪口を言われるかもしれない」「目立ってしまったら、批判されるかもしれない」といった不安や過度の緊張感を持つような環境では、子どもたちの主体性を育むことはできません。

複雑で解決することが難しい問題が起きる前に、幼児のころから子どもたちの心を育て、共に生きる善い経験を積むことで、コミュニティがより安心安全な環境となり、より主体的に活動できるようになります。

箱根町の園では、月に二回ピースフルスクールプログラムのレッスンを実施しています。上記の「いやな時は”いやだ、やめて”と言おう」のレッスン以外にも、「ほめ言葉とけなし言葉」や「自分の気持ちを言葉で表現しよう」「相手のためになる助け方をしよう」「怒りの気持ちをコントロールしよう」「対立した時の助け方」などのレッスンと日常での実践を行い、多様な人々が共生する社会を実現するために必要なマインドと行動を身につけています。今は幼児である子どもたちが小学生、中高生、社会人になった時に、この学びがより活かせるようになることを願っています。

組織の気づきや学びを高めるリーダーシップ(後)

文部科学教育通信No.398 2016.10.24掲載

リーダーの大きな役割のひとつとして他者の「育成」があります。リーダー自身がリーダーシップを発揮することはもちろんですが、リーダーシップを発揮してくれる他者を育て、次世代のリーダーが生まれることで組織は強くなります。他者の育成においてリーダーが行うことのひとつにフィードバックがあります。組織のメンバーを成長させたいと思うのであれば、”気づきを与える”適切なフィードバックは欠かせない育成の手法です。フィードバックは現状とありたい姿のギャップを伝えることで、相手の気づきや学びを引き出すことです。これにより私たちは考えや行動を改善し、モチベーションや自信をもって次の行動に取り組むことができます。

ストレートで適切なフィードバック

フィードバックは目的を達成し、善い組織や未来をつくるために欠かせない要素です。リーダーがフィードバックをする前提として心構えがあります。それは、相手の無限の可能性を信じるということです。最初から、「この人には無理かも。」「面倒だな、厄介だな。」という気持ちで相手と関わっても結果は出ません。自分の考えを決めつけたままで思考停止していては、相手の真の気持ちや行動を捉えることができませんし、相手からの信用を得ることもできません。いつまでたっても行動が変わらず「なぜ変わらないんだ」と不満や怒りをもったままです。

適切なフィードバックを行うためには、観察や対話を通して、フィードバックをする相手のデータを収集しておくことも重要です。

結果:あるべき姿に対して、どのような結果なのか。

行動:どのような行動を取っているか。

 思考、感情:何を考えて、どのような気持ちなのか。

 スキル、能力:どのようなスキル、能力を持っているのか。

 傾向、パターン:どのような傾向やパターンが見受けられるか。

フィードバックに対して誤解している人も多くいます。よくある事例として、「よく頑張ったね」「よかったよ」などの曖昧なフィードバックです。これでは何に対して頑張ったのか、何を強化すれば良いのか抽象的で次の行動に活かす再現性がありません。フィードバックで重要な点は、行動と結果の関係が明らかになることです。そのために、前述のデータ収集が必要になります。事前の観察や対話ができていないと、フィードバックを行うリーダー自身が相手の何を振り返り、伝えれば良いのか曖昧になってしまいます。行動と結果の関係が明らかになり認識できると、行動の何を変えることで(理想の行動)、望んでいる結果を出せるのか、その答えを見出すことができます。これをトリプルフィードバックと言います。トリプルフィードバックで明らかにする要素はこの3点です。

行動を変えるトリプルフィードバック

①実際の行動

②その結果

③理想の行動

行動による結果を、具体的に伝えることがフィードバックの本来の意義なのです。

 フィードバックの基本的な流れ

トリプルフィードバックを踏まえた、フィードバックの基本的な流れを見てみましょう。

  1. 話し合うテーマを共有する
  2. 本人の自己認識(良い点・改善点)を共有する
  3. 本人の自己認識を育成者の言葉で要約し認識の共有を確認する
  4. トリプルフィードバックで良い点を伝える
  5. トリプルフィードバックで改善点を伝える
  6. フィードバックに対するリフレクションと相互理解の対話を持つ
  7. 合意したことを整理する
  8. アクションプランを構築する
  9. 期待値に対する相互理解を確認する
  10. フォローアップスケジュールを決める
  11. 謝辞を述べて終了する

④と⑤にトリプルフィードバックが出てきますが、トリプルフィードバックは改善点を伝えるだけでなく、良い点を伝えるときにも使えます。その際、先に良い点を伝えるようにしましょう。褒めるだけでは人は育ちませんが、褒めないと人は育ちません。褒めることによって信頼関係が生まれ、フィードバックを聞いてもらえるようになるからです。普段から、オープンな状態で話ができるコミュニケーションの土台づくりを行っておくことが重要です。その一つの方法として相手を褒めるということがあります。褒められて嫌な気分になる人はいません。相手は褒めてくれたあなたに対して「自分を理解してくれる人だ」と信頼感を寄せることになります。通常のフィードバックは相手の失敗や不足している点に対して行うため、ネガティブな要素が強くなってしまいます。しかし、日頃からしっかりと信頼関係ができていれば、ストレートな発言を伝えても相手は冷静に受け入れることができます。

⑥に「リフレクションと相互理解の対話を持つ」とあります。リフレクションとは前例を踏襲する(状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する)だけでなく変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動くために必要な力です。リフレクションは自分の気づきや能力を高める非常に重要な要素ですが、そこに他者が入り、フィードバックをもらうことで、より効果を高めることができます。自分一人では自覚できない曖昧なことへの認識が高まり、他者の意見を取り入れることで新しい発想が生まれます。相手のリフレクションを促すにはいくつかポイントがあります。リーダーは経験が豊富なため自分の意見を主張し指導してしまいがちです。しかし、それでは相手は自分で考えることをやめてしまいます。リーダーは自分の意見を出さずに、質問と反映を繰り返しながら、相手の顕在化している意見や課題の背景にある潜在的な意識を探求してください。

反映

話し手の言葉と気持ちを聴き取り、聞き手がその内容を話し手に伝えること。「○○なのですね。」「○○という気持ちなのですね。」

質問

YES、NOで答えられるクローズ質問よりも、自由に答えを考えられるオープン質問の方が思考を刺激する。

顕在化していることよりも、その奥にある潜在的な部分に本当の課題が潜んでいる可能性があります。答えを渡すのではなく、本人が深く考え、気づきを得ることが重要です。解決策を決めていく上で、アドバイスをあまり具体的にしてしまうと主体性を阻害することになってしまいます。解決策を与えると課題に取り組むモチベーションを上げる機会を逃し、アドバイス通りに課題に取り組んで上手く行かなかったら、他者のせいにできてしまうのです。答えを渡していると、相手が自立的に問題解決することができません。長期的にはリーダーの助けを最小限として一人でリフレクションし成長することがゴールです。

⑧でアクションプランを構築する、⑨期待値に関してもできるだけ本人に計画を立ててもらうようにしましょう。アクションプラン構築時には目標を明確に定義します。そのためにSMARTゴールのフレームワークを活用することができます。

  • Specific【具体的】
    ゴールが具体的に表現されている
  • Measurable【測定可能】
    ゴールの達成が、測定可能である
  • Achievable【実現性】
    チャレンジングなゴールであるとともに、実現可能である
  •  Relevant 【企業・組織目標との整合性】
    企業や組織の目標と整合性が明らかである
  • Time-bound【スケジュール】
    期限が明確である目標に対する理解を一致させるためにはSMARTゴールを意識してみましょう。

フィードバックを一度すれば終わりということではなく、⑪フォローアップスケジュールを決め、進捗確認を継続していきましょう。フィードバックの時間が終わっても相手を観察し、必要に応じで適切に介入していくことが重要です。

組織の気づきや学びを高めるリーダーシップ(前)

文部教育科学通信 No.397 2016.10.10掲載

リーダーシップとはリーダー的立場の人だけが備えるべきものではありません。リーダーシップが特別な能力だと勘違いされることが多いのですが、リーダーとメンバーは役割の違いであり、能力の違いではありません。メンバーであってもリーダーシップは必要なのです。メンバーでもリーダーシップが求められる理由は何でしょうか。これからの時代の価値創造は、スピードや正確性だけではなく、個々の能力を活かし多様な人たちの掛け算で生まれる創造性が鍵となるためです。そのためには、個人が自律し主体的であることが求められます。リーダーの指示を待つのではなく、自ら考え行動していくことそのものがリーダーシップのはじまりなのです。

リーダーシップとマネジメントの違い

 よく混同されるのがリーダーシップとマネジメントの能力です。マネジメントとは、目標を実現するために、資源配分を行い計画を策定すること、また作成した計画に基づきPDCAサイクルを管理する力を指します。一方、リーダーシップとは自分の言葉や行動、存在を通して、自分以外の人も主体的に動くようにしてしまう影響力のことを言います。つまり、自分自身がリーダーであるとともに、周囲の人もリーダーにしてしまうということです。

リーダーシップに対しての誤解

 1930年代は、リーダーシップと高い相関関係のある特性として、想像力、人気、社交性、判断力、説得力、優越力、ユーモア、協調性、活発性、運動能力などが挙げられていました。リーダーは生まれ持ったもの、能力のある人だけのものという認識があったのです。しかし、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは「リーダーシップは、学べる時代になった。」と語り、今までの概念を覆しました。ドラッカーはまた「リーダーシップに適した性格、スタイル特性などは存在しない。優秀なリーダーたちに共通な特徴は、カリスマ性を持っていないことだ。」とリーダーシップについて言及しています。リーダー像もひとつではなく、一人ひとりの個性を土台に、人の数だけ存在して良いのです。誰かの真似をしても、理想のリーダーにはなれません。自らを知り、自分らしいリーダーシップを構築していくものなのです。これからはチームの時代となりました。リーダーは一人で良いというわけではありません。個性を活かすリーダーシップを、全員が発揮することで、最強のチームをつくることが可能となります。

チームのはじまり

 それでは、リーダーして良いチームをつくるために、どうすれば良いでしょうか。チームづくりにもまずは準備が必要になります。チームメンバー一人ひとりの心の中にあるビジョンを共有することから始めましょう。個人のビジョンから対話を通して、チームのビジョンを創造します。このとき個人のビジョンとチームのビジョンがつながっていることが重要です。この対話を繰り返し、チームで共有することは簡単なことではありませんが、重要なプロセスです。個人とチームのビジョンがつながることで、チームのビジョンが一人ひとりの心の中に存在し、実現したい願う強固なビジョンとなります。これを共有ビジョンと言います。共有ビジョンを創造する際に大切な問いがこちらです。

  1. あなたは何を実現したいのか?(ビジョン)
  2. 何を大切にする仲間なのか?(価値観)
  3. 私たちは、何のために存在するのか?(ミッション)

どれだけメンバーの心を動かし、行動を引き出すことができるかが共有ビジョンの良し悪しを決めます。大きな変化を創り出したいときや、困難が大きいときなどは、評価や対価だけで人動かすことができません。チームに根付いた共有ビジョンが、原動力となり目標達成に向け、人は動き出すのです。

2.png

文化をつくる

 多くの組織で独自の文化が存在し、そこにいる人々の行動や価値観に影響を与えています。この組織文化こそが、望む結果や未来を得るために重要な基盤となります。組織文化を創るには、ある程度長い期間が必要になりますが、ここでも鍵を握るのがリーダーの存在です。リーダーの一貫性のある言動が、仲間に浸透することで、文化となるのです。一貫性のある言動と一言に言っても、その階層は多岐に渡ります。根底にある信念や価値観、それに紐づく感情、思考、態度、行動すべてにおいて一貫性が求められます。これは容易なことではありません。例えば、いくら素晴らしい信念や価値観を語っても、行動が伴わない人は誰も信用しません。リーダーはロールモデルとなるために、自らを冷静に客観視し、振り返る必要があります。

チームビルディング

 チームは、以下のような流れを経て成長していきます。

  1. 信頼関係の確立
    お互いの信頼関係ができている
  2. 自然な対立の発生
    メンバーの意見に対して自然な対立が起こる。
  3. コミットする姿勢
    メンバーは決定事項や行動計画に対してコミットする姿勢ができている。
  4. 実行に対する責任感
    一人ひとりが計画の実行に対して責任を負っている。
  5. 結果の達成
    チーム全体の結果の達成に注意が払われる。

(引用:The Five DYSFUNCTIONS of a TEAM Patrick Lencioni

 まずは信頼関係の構築がベースとなります。チームのメンバーがお互いの弱点や失敗に対して、心からオープンになれなければ、信頼関係は築けません。メンバー一人ひとりが周囲の人に対して、素の自分を見せることができる状態であり、周囲の人に受け入れてもらえる安心感が信頼につながります。信頼を欠いたチームでは、自分の意見を出せず、チームの決定にコミットすることも難しくなるでしょう。

 複数の人が集まれば、自然な対立が起こります。対立と言うとネガティブな印象がありますが、決して悪いことではありません。対立が起こることで問題が顕在化し、変化や改善へのきっかけとなるのです。対立することへの恐怖を克服し、受け入れることが重要です。率直に意見交換をし、価値観ベースで対話を行えば、対立を乗り越え、新たな発想が生まれます。これが一人では生まれないチームであることの効果となります。

 前述した共有ビジョンがしっかりと握れていれば、コミットする姿勢や責任感も増していくことでしょう。ただし、最初に握れば後は放置しても良いということはなく、メンバーの状況を常に観察し、支援していくことが重要です。

保存

Back To Top