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リーダーシップ開発

2021.06.28文部科学教育通信掲載

変化する時代の中で、リーダーシップ開発の在り方が変わり始めています。海外の様子を調べてみると、2008年のリーマンショックをきっかけに、新しいリーダーの在り方に関する議論が一機に進んだようです。

 

学習する組織

ピーターセンゲの提唱する学習する組織は、30年前に紹介された理論ですが、今日のリーダーシップにおいても、外せない考え方です。センゲの提唱する学習は、机上の勉強ではなく、変化を創る過程で、人間や組織が実践しなければならないアクションラーニングです。

変化を創る過程では、これまでのやり方を変える、これまでの目標を変える、これまでのものの見方を変えるなど、様々な「変える」を実行しなければならず、そのためには、ビフォアー・アフターのギャップを埋める必要があります。そのため、学習力が鍵を握ります。

多くの企業が、変革に失敗するのは、この学習をうまく設計し、駆動することができないからです。経営トップが変革を推進しようとしても、組織には、現状を維持する大きな力が働いており、変革を前進させられないという事例は、誰もが耳にしたことがあると思います。

センゲは、組織が変わるためには、5つの規律を組織にインストールする必要があると言いました。

 

メンタルモデル:センゲは、変化を実現するためには、誰もが、自らのものの見方をメタ認知する必要があると言います。ものの見方とは、私たちが、物事を捉えるために活用している「レンズ」のことです。私たちは、物事を捉える際に、自分が特別なレンズを掛けているとは考えません。しかし、実は、誰もが、特別なレンズで物事を捉えています。このレンズは、過去の経験に基づき形成されるものなので、経験が違えば、モノの見方は違います。

深いレベルでの変化が期待される時には、行動を変えることが期待されるだけはなく、このレンズを新たにする必要が出てきます。そのためには、自分が今掛けているレンズが何かをメタ認知する必要があります。

システム思考:センゲは、組織や社会といった大きな単位で変化を実現するためには、システム思考が必要であると言います。物事が単純ではない時、そこには、システムが存在します。物事をシステムとして捉える際には、目的と要素と要素の繋がりを理解する必要があります。組織には、果たす目的があり、そこには多様な人々、多様な機能、多様は仕組みや制度等々、様々な要素が存在します。このため、何か一つの要素を変える際には、システム全体に目を向ける必要があるといいます。システムは、蜘蛛の巣と同じで、どこか一か所に触れると、全体の形状に影響を及ぼします。このため、組織変革を行う際には、システム全体を俯瞰し、自らが望む変化を設計していく必要があります。

チーム学習:システム全体を俯瞰する際に、欠かせないのがチーム学習です。例えば、研究開発チームが仕事の仕方を変えることが、マーケティングにどう影響するのかを、研究開発チームがすべて把握できる訳ではありません。対話と通して、相互学習することができれば、連携しながら、よい方向に変化を創り上げることができます。人々が集う組織や社会に変化を起こすために対話が欠かせないのはこのためです。

ビジョン形成:人々が集う組織や社会が変化を推し進めるためには、理由と方向性が必要になります。そこで大切なのが、ビジョン形成です。現状維持を望む大きなエネルギーに反して、変化を推し進めるためには、「変わるとよいことがある」と誰もが信じる必要があります。また、大きな改革に際しては、どこに向かうのかを見える化する必要があります。ビジョンが、人々の心に存在する状態になることで、変化が始まります。

パーソナルマスタリー:最後に紹介するのが、パーソナルマスタリーです。センゲは、パーソナルマスタリーは学習する組織の要であり、パーソナルマスタリーを持つ集団だけが、学習する組織を実現できると言います。パーソナルマスタリーとは、人のBeingを表す言葉です。

「どこからやってきて、今どこにいて、次にどこに向かうのか」という問いに対して答えを持つ人のことを、パーソナルマスタリーがあると言います。自己認識を深め、自らの内発的動機を活かし、自ら目的を持って行動する自律型学習者の集団だけが、学習する組織を実現することができます。

適応型リーダーシップ

適応型リーダーシップを提唱するのは、ハーバード・ケネディスクールのロナルド・A・ハイフィッツです。

ハイフィッツは、今日のリーダーが直面する課題を、適応課題と呼び、適応課題を解決するために、リーダーも、適応型になる必要があると言います。これまでの課題は、技術的に解決できるものだったが、今日の課題は、スキルや知識を増やすだけでは解決できず、リーダーは、過去の経験に基づくものの見方そのものを見直さなければ、課題に対処することができないと言います。

ハイフィッツは、また、リーダーは、バルコニーの上にたち、自らが働きかけているシステム全体を俯瞰する重要性にも触れています。その際に、自らも、介入しているシステムの一部であると捉え、システムを俯瞰することが大事であると言います。センゲの提唱するシステム思考、メンタルモデルは、適応型リーダーシップにおいても、重要な役割を果たします。また、バルコニーに立てない人は、リーダーとして機能しないのであれば、メタ認知力を持たない人はリーダーになることができないと言えます。

 

課題と能力のギャップ

『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版)の著者ロバート・キーガンは、我々が適応課題に直面している様子を以下のように述べています。

  • 世界が「複雑になりすぎている」と感じるのは、世界の複雑さと自分の能力の複雑性(能力のレベル)の間にギャップが生まれているからだ。
  • あなたが、今日と明日の世界で直面する課題の多くは、既存の思考様式のままで新しい技術をいくらか身に付けるだけでは対応できない。
  • 知性のレベルを高めることで、思考様式を変容させなくてはならない。

ロバート・キーガン著『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版)より引用

キーガンは、大人の知性には3つの段階があり、今日求められる知性は、自己変容型知性であると述べています。

 

ロバート・キーガンは、成人発達理論の視点から、ハイフィッツは、リーダーシップ開発の視点から、適応課題に向き合うために、リーダーに必要な成長について述べています。

教育改革を推し進めるリーダーシップにおいても、センゲ、キーガン、ハイフィッツの理論が役立つのではないかと思います。

 

人の幸福と教育の関係

2021.06.14文部科学教育通信掲載

教育の究極の目的は、ウェルビーイング(幸福)であるという考えが広がりを見せています。

その観点から、教育について考えてみたいと思います。

なぜ教育が変わらなければならないのか

教育改革が進む中、未来教育会議という団体を立ち上げ活動しています。教育のあるべき姿を正しく見極めるためには、未来の社会、未来の人、未来の教育の3つの視点で語れることが大事であることをOECDのレポートより学び、ラーニングジャーニーと対話を繰り返しています。

OECDのレポートでは、「なぜ、教育が変わらなければならないのか」がとても明確です。

OECDから学んだこと

これまでの教育では、子どもたちは、人生の準備をすることができない。変化、複雑、相互依存が進む社会の中で、子どもたちが幸せに生きるために、問題を解決する力が必要になる。そのためには、学力だけに焦点を当てるのではなく、自ら仮説を立てて検証し、問題を解決していく力が必要になる。その過程では、一人で問題を解くのではなく、多様な利害関係者や専門家と協働して問題を解決する力が必要になる。

テクノロジーの進化は、人間の仕事の再定義を促進し、ホワイトカラーの定型的な業務は、ほぼすべて機械に代替される中、人間には、テクノロジーを活かし、創造する力が必要になる。テクノロジーの進化は、人々をエンパワーし、企業への帰属という職業観を前提としたジョブ・シーカーという生き方から、ジョブ・メーカーという生き方へのシフトが進む。その結果、学校を卒業し、就職して定年まで働き続けるという3部構成の人生ではなく、学び直しが人生の中で何度か訪れることが人生の当たり前になる。従来の行き方を前提とするのであれば、誰もが、不安定(変化)な人生を生きることになる。

子どもたちは、また、グローバル化した社会に生き、持続可能な経済成長という新たな命題に立ち向かわなければならない。

OECDは、このような前提にたち、ウェルビーイングのための教育指針として、学びの羅針盤2030を発表しています。子どもたちには、受け身で学ぶ生徒ではなく、より良い未来を創る主体であることが期待されています。

全ての答えは教室にある

ウェルビーイングにつながる教育の答えは、教室にあるのではないかという仮説を持ちました。多くの教室には、吹きこぼれと、落ちこぼれと、中間層が存在します。

落ちこぼれる子どもたち

子どもの貧困問題に取り組むNPO法人ラーニングフォーオールの活動を通して、落ちこぼれている子どもたちの現実について知りました。子どもの貧困は、多くの場合、金銭的問題だけではなく、発達の遅れという課題も伴います。子どもたちの多くは、小学校入学時にすでに発達の遅れを抱えており、最初は生活面に現れます。次に、発達の遅れは、勉強面に現れます。義務教育の恩恵を受け、子どもたちは、学校に通うことができますが、残念なことに、教室では、彼らに必要な学びの機会を得ることができません。一斉授業を行なうことを使命とする教員は、中間層に当てた授業を行うことしかできないからです。多忙な先生が、放課後に、彼らに、授業以外の指導を行うことも難しいため、彼らの遅れは、日々蓄積してきます。

幸福につながらない教室

学びの最近接領域とは程遠い授業内容に参加し、理解が進まない授業に参加することで、彼らは、2つの被害を被っています。一つは、自分に必要な学びを得ることができず、義務教育を終えても、社会人になるために必要な学力を身につけることができないという被害。もう一つは、9年間学校に通い続けても学力が身につかないことにより、自分は社会の落ちこぼれであると思い込み、中学生の段階で人生を諦めてしまうという被害です。その結果、自立できず、生活保護を必要とする社会人を輩出するのですから、社会も被害を被っています。環境さえ異なれば、社会に貢献できる大人になれたはずの子どもたちを、なぜ、日本の教育は救えないのでしょうか。

吹きこぼれる子どもたち

どうすれば、この問題を解決できるのかを考える中で、フィンランドの教育について専門家の話を伺い、ハッとさせられることがありました。吹きこぼれの子どもたちの話をしていた時です。フィンランドでは、すべての子どもたちは違うということを前提に、教育が進められています。教室には、ものすごく理解の早い子もいれば、遅い子もいます。先生たちは、常に、子どもたちの様子を観察し、必要に合わせて、小さい島を作り、異なる学習内容に子どもたちが取り組めるようにします。そういうお話の中で、フィンランドでは、理解の早い子も、アクティブラーナーとして、自分に必要な学びを追求することが期待されていることを教わりました。理解の早い子は、自分にとって意味のない授業を受け身でやり過ごすのではなく、自分にとって必要な学びを求めることが、自律的に学ぶアクティブラーナーに求められる姿勢であるという説明を受けました。日本では、吹きこぼれの子どもたちの多くは、昼間は、学校で受動的ラーナーとして授業に参加し、夜に塾でアクティブラーナーになっているのかもしれません。

経済(社会)と教育は双子

高度経済成長の時代に、均一的な労働者を育成する学校教育の使命が終わり、多様で、複雑化する社会に合わせて、学校教育には、新たな使命が求められるようになりました。また、いじめや不登校、学級崩壊、子どもの貧困、家庭の教育力の低下、塾等の教育サービスの発展等 様々な変化があり、その全てが、学校現場での教員の仕事の難易度を上げていきました。そこに、21世紀型教育の要請が加わり、教員への期待は、高まる一方です。学校は、先生にとっても、幸せを実感し難い職場になっているのではないかと思います。

教育システムの時代との乖離は、企業にも負の影響を及ぼします。企業には、認知能力が高く、非認知能力が低い人材が多く、DXをはじめとする創造的な活動を活性化させる人材が圧倒的に不足しています。

一方、企業側も、ジョブ型とメンバーシップ型、キャリアビジョン形成等、変化の時代に対応する雇用の在り方を見直しているように見えて、根本から変えて行くという気概は見られません。中途半端に揺れる企業都合での雇用の在り方の見直しでは、若者に夢も希望も与えることができません。

人を幸せにする教育と社会

子どもたちがアクティブラーナーになり、先生たちも、安心して子どもたちの最近接領域の学びをデザインできる教室を実現することができ、子どもたちが未来に夢を持つことができる社会を実現できれば、幸せな人生に寄与する教育が実現できるのではないかと思います。

企業も、教育も、お互いを批判するのではなく、自らの在り方をリフレクションし、共に変わっていくことが本当に必要だと思います。そこで、私たち大人が、自己都合にならず、簡単な道を選ばないために必要なことは、子どもたちが生きる未来の社会を想像し、子どもたちに共感し、子どもたちが少しでも困らないように、不安に押しつぶされないように、そして、幸せな人生を実現できるように、何が出来るのかを考えることが大事ではないかと思います。そのためには、「何かを変えると、自分が何かを失うかもしれない」という恐怖心から思考停止になるのではなく、ゼロベースで、あるべき姿を再構築する勇気が必要です。

 

AI/データー活用と人材育成

2021.05.24 文部科学教育通信掲載

VUCA時代に突入し、社会人の学び直しが、大きなテーマになっています。その中で、リスキリングという言葉まで登場しました。

リスキリングとは

英語では、職業能力の再開発、再教育という言葉です。社会のデジタル化や、企業のDX(デジタルトランスフォメーション)が進む中で、欧米では、新たに生まれた職を得るための職業能力開発のことを、リスキリングと呼び、従来の職業開発とは切り分けているようです。リスキリングは、既存の職業能力のスキルアップに比べると、個人にとっても、企業にとっても、チャレンジ度が大きい能力開発です。

AI(人口知能)

2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が2014年に発表した「雇用の未来―コンピューター化によって仕事が失われるのか」という論文が、話題になりました。この論文では、将来、AI(人工知能)に代替される可能性の高い職業・仕事が紹介されています。野村総合研究所が、オズボーン博士と共同研究を行い、日本の労働人口の約49%が、人工知能やロボット等に代替される可能性が高いことが予測されました。多くの企業と個人が、リスキリングを必要とするのはこのためです。

 AI/ データ活用人材育成

このような背景から、私自身も、AI /データ活用人材の育成に挑戦することになりました。学芸大学教育研究科AI研究プログラム准教授の遠藤太一郎先生と、日本アクションラーニング協会の清宮普美さんとご一緒に、プログラム開発を進めています。これまでの経験を生かしつつ、未知の世界に挑戦することは、私自身のリスキリングへの挑戦でもあります。一方、リフレクションは、リスキリングにとても親和性が高く、これからの展開がとても楽しみです。

全ての人のためのAI

AI /データ活用を推進するために、スタンフォード大学教授で、グーグルブレイン(人工知能の専門家による研究チーム)を立ち上げたアンドリュー・ンのコーセラの講座「すべての人のためのAI」に学びました。世界をリードするアンドリュー先生は、とてもソフトな口調で、簡単に分かりやすく、AIと機械学習の違いや、AI企業になるために何をすればよいかなどを説明してくれています。

AI/データ活用企業になるステップ

アンドリュー先生の講座では、ステップ1 パイロットプロジェクトを複数走らせて見る、ステップ2 社内でAIチームを創る、ステップ3 経営者、マネージャーを含む幅広いしゃいんに、AIトレーニングを行う、ステップ4 AI戦略を構築する が望ましいと教えています。

一方、日本で、多くの企業の取り組みは、アンドリュー先生の提案とは真逆のステップです。ステップ1 AI戦略を構築する、ステップ2 マネージャーや社員にAIトレーニングを行う、ステップ3 社内にAIチームを創る、ステップ4 パイロットプロジェクトを複数走らせる です。

AI /データ活用のできる組織に生まれ変わるために、日本の大企業は、コンサルタントを採用し、戦略を構築し、数千人規模でAI人材育成の教育を行っています。しかし、アンデリュー先生の講座では、最初に行うことは、AI /データ活用のパイロットプロジェクトを複数は知らせて見ることだと言います。私は、この違いは、とても深刻なものと受け止めています。

なぜ、真逆なのか

アプローチが真逆であることも問題ですが、それ以上に問題なのは、真逆のアプローチが望ましいと考えてしまうことです。なぜ、日本企業は、アンドリュー先生の講座とは真逆のアプローチを取ってしまうのでしょうか。それは、日本企業が、いまだに、答えのある時代のアプローチを踏襲しているからだと思います。答えのある時代には、トップが戦略を打ち出し、人的資源を結集しチーム編成を行い、物事をトップダウンで推進することができます。

しかし、前例のない時代には、やってみなければわからないことが多く、トップの意思決定を中心に、計画に従って物事を進めることは難しく、トップダウンでは、理想の姿を作ることが困難です。

前例の見えない時代には、プロトタイプを創り、仮説を持って試していることが大事です。また、試した結果のフィードバックを受けて、軌道修正をかける権限を、現場が持つことも大事です。上位社が意思決定をして、現場が実行するというヒエラルキー的な役割分担も、あまり効果的な手段ではありません。前例の見えない時代には、仮説検証の質とスピードをどれだけ上げられるかが問題なのですが、トップダウンでは、定期的な報告で、仮説検証の手を止めることになります。報告の結果、担当者ではなく、経営が軌道修正に関与し始めると、担当者の主体性も奪われて行きます。

アジャイルが進まないことと同じ

この現象は、以前から、世界で進むアジャイル型の開発プロセスが、日本で進まず、日本では、ウォーターフォル型の開発プロセスが今日でも主流であるという事象とも繋がる現象だと思いました。

アジャイル開発は、10名未満の小さいチームで行う開発プロセスです。チームメンバーは、自分たちのプロジェクトに関する意思決定を行う全権を持ちます。メンバーは、1日、1週間、1ヶ月の単位で、リフレクションを行い、プロジェクトを推し進めます。プロジェクトには、様々な部署を代表するメンバーが参加していますが、部署に戻り、上長の意向を確認することは不要です。だから、機動的に、プロジェクトを前進させることができます。また、意思決定にも慣れているので、スピードを維持することができます。

意思決定力と学習力

仮説検証を良質なものにするためには、仮説を持つタイミングでの意思決定と、検証の過程での学習が重要な役割を果たします。良質な仮説検証には、良質な意思決定力と学習力が必要になります。この二つは、主体性が欠如する環境の中では、磨くことができないもので、これが、日本企業が、正解のない時代に成功を手に入れるために生まれている様々な手法を活かすことができない背景なのではないかと思います。

正解のない時代の学校

正解があることを前提に学習を設計することが得意な学校教育の中で育ち、裁量権のない環境で仕事をし続けると、誰もが、本来持っている主体性を眠らせることになります。正解のない時代には、トップダウンで打ち出された方針に従って、主体的に動く優秀な人材が歓迎されました。これからの時代に生き残る社会と組織は、一人ひとりの仮説検証力に支えられるとすれば、教育も大きく変わらなければならないと言えます。OECDが提唱するA(見通し)A(アクション)R(リフレクション)モデルは、このことを、教育界に伝えようとしているのだと思います。

 

 五蘊と認知の4点セット

2021.05.10文部科学教育通信掲載

4月3日に、法隆寺で開催された 聖徳太子没後1400年の特別法要に参列しました。聖徳太子のご遺徳を忍び、功績を敬讃する法要では、雅楽に合わせて華麗な舞を奉納する様子もあり、神仏が融和した当時の仏教の姿を垣間見ることができました。

お寺で雅楽?

今年は、聖徳太子没後1400年の御恩忌とされ、法隆寺では、3日間 特別法要が行われます。私が参列した法要は、その初日で、西院伽藍で営まれ、450人が参列しました。法要では、雅楽に合わせて、子どもたちが、極楽にいるとわれていると鳥の衣装に身を飾り、華麗な舞の奉納を行いました。神仏が融合する様子に、仏教が日本に紹介され、日本社会の一部になり始めた頃の日本を想像し、祖先の皆様に感謝の気もちを抱きました。和を重んじる聖徳太子の教えが、神仏融合の姿にも表れていると感じました。

法隆寺では、毎月3日に命日の法要「お会式」を営み、10年に一度、大講堂の前に部隊を設けて大きな法要を行うそうですが、今回は、100年に一度の特に大きな法要でしたので、とても貴重な機会となりました。100年前の法要は、大正時代に行われ、新しい一万円札の顔となる渋沢栄一氏が尽力して、国を挙げての法要であったというのも、何か不思議なご縁を感じます。

五蘊(ごうん)

さて、ここからは、仏教の五蘊について触れてみたいと思います。最近、出版した「リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」で紹介しているメタ認知のための手法 認知の4点セットを開発する際に、マインドフルネスについて調べている時に、仏教の五蘊という言葉に出会い、とても感動しました。

お釈迦様の教えの中でも、最も、私たちに馴染みのあるのが般若心経です。その中にも、五蘊は、登場します。般若心経では、色即是空の方が、五蘊よりも有名かもしれませんが、五蘊は、色即是空とも関連のある言葉です。

色は、物質的存在のことで、色即是空は、この世の万物、形あるものの本質は、空(くう)であり、普遍のものはないという般若心経の教えです。

五蘊の5つの構成要素

五蘊は、人間を5つの構成要素で表しています。その一つが、色であり、ここでは人間の肉体を指します。残りの4つ 受想行識 は、精神に関するものです。形のない精神の世界を、4つに分類していることと、その視点にとても驚きました。

事例と共に、五蘊を紹介してみたいと思います。

色:物質的存在 

人間の肉体は、空です。人間の体は、赤ちゃんから大人になり、やがては老いて土にかえるので、空であることは納得できます。

では、受想行識はどうでしょうか。

雨の事例で紹介してみたいと思います。

受:感受 

水滴が頭に落ちたことを知覚します。

想:表象

空から水滴が頭に落ちがことを知覚し、雨が降ってきたと判断します。

行:意思

雨を認識したので、雨に濡れたくない(という意思が現れ、次に行動へ)、傘を取り出し、傘をさします。

識:認識

この経験では、傘を持っていたので、雨に濡れずにすみました。そこで、「いつでも傘を持ち歩こう」と考えます。

一般的には、「雨が降ってきたので、傘をさした」と考えがちです。受想行識では、水滴の存在⇒雨と気づき⇒濡れないようにという意思があるから⇒傘をさすという行動を選択し⇒この一連の経験から「いつでも傘を持ち歩こう」という知識を形成する という風に、自分の内面で起きていることを、大きく4つに分類しています。

特に興味深かった所は、行は、意思であるという点です。意思を持つことは、同時に、行動することを意味するという点です。例えば、物事を他責で考えている時でも、そこには、「行」が常に存在することになります。

五蘊に出会い、お釈迦様の深い悟りから生まれた「メタ認知」の世界の奥深さに驚きました。自分の内面を深く理解することが可能になります。

知覚と判断

ユングの心理学を学んでいた際に、人間は生きているすべての時間において、知覚と判断を繰り返しているということを教わりました。そして、知覚と判断は心の機能であるという説明を受けました。五蘊の「受」と「想」が、知覚と判断に当たります。

私たちは、たくさんの経験を積み重ねると、この「受」と「想」を分けられなくなります。頭の上に、水滴が落ちたら、すぐに「雨だ」と気付きます。この水滴は何だろうと疑問に思う人はいないでしょう。私たちが、常識だと考えること、多くの人が当たり前と考える社会通念、無意識の偏見等は、すべて、知覚と判断、「受」と「想」が切り分けられていない状態です。

五蘊を知っていれば、自らの行動の前提には、「受」と「想」があると考えることができるので、「私は、何を知覚し、どのような判断を下し、今の行動を選択したのか」 と自分に問いかけることができます。

学習する組織論

学習する組織論は、MITのピーター・センゲ氏によって構築された理論です。この理論の背景には、西洋的なものの見方だけではなく、東洋的な要素がたくさん入っています。センゲ氏も、理論の構築に当たり、西洋の心理学の世界だけではなく、東洋の思想や哲学に学んだと述べていました。おそらく、メンタルモデルという手法を確立する際に、五蘊も参考にしたのではないかと思います。

メンタルモデルとは、人が物事を捉えるレンズです。人間は、誰もが、物事を捉える際に、過去の経験によって形成されたものの見方を活用します。これは、私たち人間が、危険から身を守るためには、大切な習慣です。ところが、仕事においては、この習慣が、逆に、危険を意味することになります。特に、変化の激しい時代には、過去の前例を踏襲することは、大きなリスクになっています。

そこで、学習する組織では、自分の内面を俯瞰するために、自身のメンタルモデルをメタ認知することを奨励しています。

自分のメンタルモデルは何か。(判断の尺度・価値観・ものの見方)自分はどのようなレンズ(判断の尺度・価値観・ものの見方)で物事を捉えているのか。そのレンズは、どのような経験により形成されたものなのか。

ピーター・センゲの弟子たちは、この問いに答えることで、次のアクションを見出す習慣を持ちます。私自身も、ずっと、メンタルモデルを意識する習慣を持ち、日々の生活や仕事に臨んできました。

五蘊は、今、この瞬間に自分の内面に起きていることをメタ認知する手法であり、メンタルモデルは、自分の判断を起点に、その背景を分析するアプローチを取ります。

認知の4点セット

メンタルモデルを参考にして生まれた認知の4点セットでは、意見、経験、感情、価値観とメタ認知の対象を、4つの要素に分解しています。

認知の4点セットでは、意見(自分の考え)と、感情(自分の気持ち)という、自分でも認識し易い事柄を中心に、それが、どのような背景によって生まれたのかを、経験(過去の経験を通して知っていること)と、価値観(意見や感情に繋がる判断の尺度やものの見方)の2つの観点で探求します。特に、ポジティブ/ネガティブな感情は、価値観と繋がっているので、感情をメタ認知することで、自分の内面を俯瞰し易くなります。

本来は、今、この瞬間の自分の内面を、受想行識で捉えられることが理想です。そのためにも、日々、自己の内面をメタ認知する訓練を続けてみたいと思います。

 

 

非認知能力と問題解決力

2021.04.26文部科学教育通信掲載

教育において、非認知能力の重要性が盛んに謳われるようになりました。人間教育において、社会情緒的能力の重要性は、今も昔も変わらないはずなのに、なぜ、非認知能力に注目が集まるのでしょうか。

国立教育政策研究所は、非認知能力を社会情緒的コンピテンスとして3つに分類しています。

  • 自分に関する領域(自己認識、自分の感情、自己制御等)
  • 他者に関する領域(他者の感情や思考の理解等)
  • 自己と他者や集団との関係に関する領域(人間関係、コミュニケーション)

そこで、今回は、非認知能力と問題解決力の関係についてお話してみたいと思います。

 

企業やNPOの方々を対象に、リーダーシップ開発や問題解決の支援を行う中で、改めて、問題解決には、認知能力と非認知能力が両方必要になることを実感しています。複雑な問題を解決する上で、高い専門性を有し、必要な情報を収集し分析することや、課題そのものを論理的に整理することは大切な能力です。高い認知能力は、この領域において大きな力となります。

しかし、現実社会の問題解決は、机上で受験問題を解くのとは異なり、課題を解くために必要な情報がそもそも存在せず、不確実な中で判断を迫られることもあります。また、課題解決のためには、多様なステイクホルダーと向き合う必要があります。不可能に挑戦するような課題解決に臨む際には、反対勢力の存在、現状維持を望む人々の抵抗、無関心な傍観者等に囲まれながらも、前向きな気持ちを持ち続け、時には、ビジョンを熱く語ることも必要になります。これらすべての行為は、非認知能力に支えられています。

リーダーシップと非認知能力

以前、ある大学生が、学生団体のリーダーに就任した直後に、「リーダーになったら、なんでも思い通りに出来ると思っていたのに、全くそうではなかった。リーダーになるということは、思い通りにならないことを引き受けることなのですね」と語ってくれたことがあります。

ヒエラルキーの長として、指示命令を徹底することで、物事が推進される世の中であれば、リーダーシップとは、自分の思い通りに、全ての事柄を牛耳れたのかもしれません。しかし、今日では、リーダーシップを発揮する際にも、多様なステイクホルダーの存在を前提とし、反対意見にも耳を傾け、粘り強く対話を行うことが期待されます。対立から逃げたり、決定事項だけを通達しても、人は付いてこず、孤立してしまいます。

リーダーとして、物事を前進させるためには、常に、みんながベストな環境で役割を果たせる環境を整備し、課題や障壁があれば、それを取り除く必要があります。今日のように、変化の激しい時代には、内的な要因だけではなく、外的な要因により、課題が生まれる場合もあります。リーダーは、心が休まる暇はありません。そんな中でも、リーダーは、常に、最良の決断を行うことが期待されます。そのために、リーダーは常に、どんな時でも、静寂な心でいる必要があります。ストレスを感じても、マインドフルな心を維持できることや、感情を制御することができ、心身共に健康でいられるためには、非認知能力を育んでおく必要があります。

コラボレーションと非認知能力

課題を解決する際にも、新しい価値を生む創造的な取り組みにおいても、コラボレーションが前提になる時代です。昔のコラボレーションは、阿吽の呼吸で物事が進められる同質性の集団によるものが主流でしたが、最近のコラボレーションは、専門性も、文化も、言語も異なる多様な構成員によるものが主流になりつつあります。メンバーが集まり、一緒にいるだけでも、ストレスを感じるような人々と、腹を割って話すことが期待されています。リーダーシップ同様に、コラボレーションにおいても、「思い通りにならない」ことが当たり前です。

多様性が化学反応を起こすためには、異なる意見を出し合い、相互に学び合い、新たな価値を創造することが期待されます。議論が、拡散したり、紛糾することも、想定内のプロセスということになります。ここでも、非認知能力が役立ちます。自分一人の頭で考え、決断できる時には、認知能力を頼りに、答えを見出すことが出来ますが、多様なメンバーと共に意思決定を行うのであれば、認知能力のみに頼っていても、最良の意思決定はできません。対立する意見に遭遇しても、落ち着いた心で、他者の意見を傾聴し、対話する力が求められます。

ワークショップと非認知能力

人生で1度だけ、誰もが、自分の想いを伝えることに夢中で、誰の話も聞けないワークショップに参加したことがあります。テーマは、教育で、参加者は、すでに、思いを持って教育に関する活動を行っていました。地方の教育を変える動きをしている人もいれば、子どもの主体性を育む教育プログラムを開発している人もいました。科学教育に関心のある人もいれば、グローバル人材の育成が大事だと考えている人もいました。みんな素敵な人たちで、子どもたちの幸せを願っているメンバーが大集合したワークショップでした。もう10年も前に、未来の教育を創るワークショップというタイトルに引き寄せられて集まったメンバーの中には、現在、教育改革におけるリーダー役を担っている人もいます。

未来の教育を創るというタイトルに合わせて、対話を通して、みんなで未来の教育の姿を描き、コラボレーションの道筋が見えるであろうことを狙って行ったワークショップなのですが、一人ひとりのこだわりが強く、中々、対話になりません。ファシリテーターが、学年で分けたり、教育観や教科等で分ける試みを行いましたが、中々、しっくりとしたグループワークに発展しません。だんだん、みんなのストレスも高まってきます。今思うと、一番のストレスは、「自分の話をもっと聞いて欲しいのに」というものだったように思います。

このワークショップで、私自身も、自分の非認知能力を試されました。みんなのストレスがピークになる中で、投げ出さず、不満を声にせず、我慢するのではなく、やすらかな気持ちでその場に存在することに尽力しました。私自身にも、聴いて欲しい教育のテーマがありましたが、これ以上、主張が増えるのは得策ではなく、私は、自分の意見をしまい込み、とにかく、他者が何を考えているのか、他者が何を目指しているのかを真剣に聴き取ることに尽力しました。それは本当に、修行のような場でした。

平穏な心を保つように、頑張って、頑張って、皆さんの意見を傾聴することに尽力した結果、大きなギフトがありました。それは、一人ひとりの主張は異なるけれど、全員が、子どもたちの幸せを願っているという点で、意思統一が出来ていることに気付けたことです。教育観や教育活動の主軸が違っていても、同じ目標に向かっていると気付けたら、緊張が解け、その場にいることもそれほど苦しくなくなりました。その場を立ち去らず、最後まで参加したご褒美です。

まとめ

未来の子どもたちが、世の中で問題を解決する際に、非認知能力が必要になることを、少しイメージしていただけましたでしょうか。

仕事においても、人生においても、不確実性が増し、リスクテイクの機会も増える中、幸せを手に入れるために、非認知能力を育む重要性は、今後益々増えていくと思います。

 

女性の活躍の色々

2021.04.12文部科学教育通信掲載

国際女性デーを記念して、今回は、女性活躍推進についてお話したいと思います。

日本が、もっと素敵な国になるために、教育を変えることと同じ位、エネルギーを注いでいるのが、女性の活躍推進です。

主婦もプロ

私自身は、1985年の男女雇用均等法の世代です。私の周囲を見回すと、私よりも100倍優秀だった女性たちが、ほとんど家庭に入り、主婦として人生を生きています。職業人の道を選んだ私が、主婦との接点を持つのは、ママ友と繋がりです。特に、幼稚園と小学校の時に出会ったママたちはプロの専業主婦で、子どもと家族のためにすべてを捧げ、また、自分自身も、美しくあることに努めていて、尊敬する方たちばかりでした。この時、「主婦にもプロがいるんだ」と思ったことを記憶しています。

子育てとキャリアの両立

主婦について、もう一つ忘れられないことがあります。それは、ハーバードビジネススールに留学するためにNYからボストンに移動する飛行機の中で読んだ雑誌の記事です。弁護士をはじめとするプロフェッショナルの女性たちが、子育てとの両立を目指し、フルタイムではない働き方を選んでいるという記事でした。アメリカは、日本よりも、女性の社会進出が進んでいると思っていたので、その記事に驚いました。当時の私は、まだ、未婚で、子育てがどんなに大変かも知らなかったので、余計に驚いてしまったのかもしれません。

一番優秀な女性が社会貢献

ビジネススクールの同級生のアメリカ人の中にも、クラスで一位、二位を争う優秀な女性が二人とも、専業主婦の道を選んでいます。一人は、大手コンサル会社出身の女性で、頭脳明晰で人柄もよく、いつもクラスの中心にいるような存在でした。もう一人は、学部もハーバードで、ロースクールとビジネススクールの両方に通っている才女。シェイクスピアの劇も上手で、ユーモアのセンスもある女性でした。ビジネススクールでは、5年ごとに、同窓会があるので、みんなが、今何をしているのかを知ることができます。最初に、彼女たちが、専業主婦の道を選んだと聞いた時は、「社会の損失ではないか」と、衝撃を受けました。しかし、彼女たちは、社会活動を辞めた訳ではありません。学校の理事会に入り、良い活動の資金調達イベントを企画したり、様々な形で、社会に貢献する活動を行っています。あの優秀さが、社会に活かされるのであれば、素敵なことだと感じました。

日本の進歩

私が、ビジネススクールから帰国した当時の日本は、まだ、完全なる男性社会でした。「○○社は、社屋を建てる時、女性トイレを設計図に入れるのを忘れたらしい」という話が、冗談ではない時代です。その当時に比べれば、日本に起きた進歩は、素晴らしいです。特に、2014年以降の女性活躍推進の動きは、とても前向きなものになっています。今では、結婚しても、出産しても、仕事を辞めないでよいという風に、社会通念も書き換えられています。「家庭にお母さんがいないと、子どもがかわいそうとか、子どもがまともに育たない」という言葉を口にする人は、ほとんどいません。優秀な専業主婦を母親に持つ女性の中には、全てを完璧にこなしたいと考え、自分を苦しめている人もいますが、そういう方たちも、周囲のママたちに勇気をもらい、変わりつつあります。

 

共働き社会

どうせ働くなら、楽しく働きたい。気持ちよく働きたい。やりがいを感じたい。成長を実感したい。そう考えるのは自然のことだと思います。ある種の緊張感は大事ですが、変に体に力が入っている不自然な状態では、よい仕事もできません。仕事もスポーツも、同じ原理なのではないかと思います。変に体に力が入ったスイングでは、ゴルフボールも、うまく飛ばすことができません。共働き社会に生きる子どもたちにも、親が、「働くって楽しいよ」と伝えられるような仕事の仕方を、みんなで実現して欲しいです。

女性の特性

ジェンダーバイアスを持ち込むつもりはありませんが、学術的なジェンダー論によると、女性の思考には、ヒエラルキー概念があまりなく、フラット概念が強いそうです。このため、階層を上がること自体に、男性ほど興味がありません。また、管理職になったとしても、ヒエラルキーの長としての振る舞いよりも、チームの長として振る舞う傾向があります。このジェンダー特性があるために、多くの女性たちが、管理職になることに、高いモチベーションを持たないのではないかと思います。理由は二つです。一つは、抑々、管理職になること自体に、男性のように魅力を感じなかったためです。もう一つは、男性上司の管理職のスタイルを見て、あんな風にはできないと考えたためです。

女性のリーダーシップ

昭和女子大学キャリアカレッジでは、2014年から企業で働く女性たちのリーダー養成を行っています。そこでも、女性の特性について解説しています。そして、女性たちが、自分らしいリーダーシップスタイルを開発する支援を行っています。ぶれない軸を持ち、反対意見に遭遇しても、真摯に対話できる強くてしなやかなリーダーになるために、スキルトレーニングも行っています。今も、1年に一度、同窓会で修了生と会うことが、とても楽しみです。

時代が求めるリーダーシップ

チームを大事にする女性のリーダーシップは、実は、イノベーションを生む創造的なチームを創る上で、とても魅力的なものです。フラットでオープンなコミュニケーションや、心理的安全な文化の醸成が、みんな、とても上手です。昨年より、男女半々位で、リーダーシップを学ぶ場を創っていますが、グループワークでは、女性が大活躍です。質問したり、意見を出したり、ファシリテートしたり、その場に必要な役割を柔軟に担ってくれます。また、最初に発言してくれることで、場にコミュニケーションの機会をもたらします。少し褒めすぎでしょうか。国際女性デーなのでお許しください。

女性の弱点

実は、女性にも弱点があります。その一つが、自信がないことです。女性は、99%できそうなことでも、1%のリスクを眺め、できないと考える、そんな完璧主義的な傾向があります。

女性たちには、いつも、「男性6割、女性100%。男性に学ぼう」と伝えています。男性は、6割ぐらいできそうなら、「できます」と云えるという意味です。実際に、海外で、採用の募集広告の要件に何割自分が該当していたら応募するかという調査を行った所、男性は6割、女性は一つでも要件が満たされないと応募しないという結果になったそうです。VUCA時代に、確実な成果物を最初から生み出すことはできませんから、女性も、男性に学ぶ必要があります。

これ本当?

もう一つ、これは、まだ私の中で未消化のことですが、ここで、皆さんに投げかけてみたいと思います。昨年、ハーバードビジネスレビューという雑誌が、女性の力というテーマで、様々な記事を紹介してくれました。その中に、コロンビア大学のトマス・チャモロ・プレミュジック教授が、男性が女性リーダーから学ぶべき7つのポイントを紹介しています。その中の一つに、「変革を通じてモチベーションを高める」という項目がありました。「えっ?! ということは、男性は、変革にモチベーションを感じないということなの?!」と私の頭の中には、たくさんの「?」が浮かびました。まだ、この真実は、解明できていません。これから、色々な場面で、確かめてみたいと思います。

最適化社会

2021.03.22文部科学教育通信掲載

2月22日に、元国会議員の二之湯武史氏が出版された「最適化社会日本幸せの国の作り方」をテーマに、最適化社会実現フォーラム第1回を開催しました。二之湯武史氏のミニ講演の後は、私を含めた五名の登壇者(共感資本主義の実現を目指し活動する株式会社eumoの岩波直樹氏と武井浩三氏、鎌倉に禅2.0を立ち上げた宍戸幹央氏、GCストーリー常務取締役の萩原典子氏)も参加して、最適化社会について語り合いました。

最適化社会とは何か、その実現に何が必要か 

テーマは、資本主義から教育まで多岐に渡り、1回でまとめることは不可能です。そこで、これから、当分、月1回、最適化社会実現をテーマに、ゲストを招聘し、対話を行うことになりました。オンラインなので、ぜひ、皆様にもご参加いただきたいです。

 最適化社会とシニック理論

今日は、最適化社会 という言葉の由来となるシニック理論を紹介したいと思います。シニック(Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution,)理論は、オムロンの創業者 立石一真氏が、1970年に構築し、国際未来学会で発表した理論です。シニック理論は、未来を指し示す羅針盤として、今もオムロンの経営を支えています。立石氏は、経営者の最大の仕事は、次の時代がどのような時代になるかをいち早く予測して、その時代に対応する商品を開発することと考え、この理論を創られたそうです。今から50年以上も前に、考えられた理論とは思えず、立石氏の先見性に脱帽します。

イノベーションの円環的展開

シニック理論は、日本語に訳すとイノベーションの円環的展開という意味です。立石氏がどのように、この理論を解説していたかを、『「できません」と云うな』オムロン創業者立石一真(湯谷昇羊著 ダイヤモンド社)から引用します。

「人類が地球上に現れてから今日までの歴史を見ると、科学と技術の間には、円環論的な関係があるんや。まず、新しい科学が生まれると、その科学にタネ(Seed)をもらって新しい技術が開発される。その新しい技術がイノベーションの形で社会を変貌させていくという、こういう一つの方向があるんや」

「そして、それとは逆に、社会からはニーズ(必要性、要請)がでてくるんや。そして、このソーシャル・ニーズを満足させるための新しい技術、商品、システムが開発される。もちろん、そういう商品やシステムは、確実にうれるわなあ。その場合、それまでの技術だけでは解決できないというんであれば、科学の分野に対して刺激(impetus)を与えて、新しい技術の誕生を促すんや。これが最初に云った正方向の相互関係に対して、逆方向の相互関係ということになる」

「こんな風に、科学、技術、社会の間には、二方向の相互関係が合って、お互いが因となり果となって社会が変貌し、発展していくんや。つまり、サイクリック・エボルーション、円環論的なツー・ウェイの関係が合って、常にサイクリックに流れている」

立石氏が、幹部にこう話した際に、ある幹部が、「なんで人間だけが、常にそういう新しい技術や商品、システムを求めて進歩を図ろうとするんですか」と質問し、「それはなあ、人間の一種の業や、常に進歩したいという意欲がもとになってるんや」と立石氏は答えました。

1952年の出会い

立石氏が、シニック理論を構築した背景には、20年前の2つの情報との出会いがあります。

1952年に、立石氏は、初めてオートメーションという技術革新の存在を知ります。当時、アメリカでは、すでにオートメーション工場が存在していましたが、日本では、オートメーションが何かもほとんど知られていませんでした。同年、立石氏は、マサチューセッツ工科大学のノーバード・ウィーナー博士によって提唱されたサイバネティックスにも、出会います。サイバティニックスとは、通信工学と制御工学を融合し、生物、人間、機械、社会のメカニズムを統一的に解明しようとする学問です。

アメリカでは、サイバネティックスの本が出版されると、もしこの科学が応用されると、機械化が進み、労働者が失業してしまうことを恐れ、本の流通が止められたという話を聞いた立石氏は、どれだけ科学技術が発展し高度化されても、それを駆使するのは人間であり、どれだけ優れたシステムでも、人間の介在をなくすことはおそらく不可能だろうと考えました。そして、機械化できる仕事は機械に託し、人間には、創造的な仕事が残ることが、人間にとっても幸せであると結論付けます。そして、翌年の1953年には、オートメーションに進出することを決めます。

AIと人間

モノが中心の時代に、機械化されるのは製造ですが、情報が中心の時代に、機械化されるのは事務作業です。AIに人間の仕事が奪われることを恐れる我々と、サイバティニックスに怯えた当時の人々の心情はとても似ています。立石氏の考えに見習い、機械と人間の役割の違いを意識し、人間である私は、創造的な仕事に喜びを得るよう心掛けたいと思います。

シニック理論の素晴らしい所は、技術だけが先行するのではなく、人間の進歩欲求が、技術、商品、システムを創造する原動力にもなっているという点です。環境問題がより深刻化する今日、技術と人間と社会と自然の4つの調和をどのように保つことができるのかも見極める必要があります。技術革新のスピードが増す今日でも、人間が社会と未来を創るという気概を忘れず、最適化社会から自律社会への移行に、ポジティブな影響を与える人間でありたいと思います。

経験から学ぶリフレクション【実践編】

2021.03.08文部科学教育通信掲載

21世紀学び研究所では、経験から学ぶリフレクションを広める活動に従事しています。そのために、様々なフレームワークを作成し、試行錯誤を繰り返し、最も簡単に、最も質の高い経験学習を行っていただくための「問い」を模索してきました。

最新版の経験から学ぶリフレクションの問いを、新入社員のリフレクションを事例にご紹介してみたいと思います。

明確なゴール

経験から質の高い学びをえるために大切なことは、行動する前に、明確なゴールを持っていることです。新入社員の事例では、オンライン上で行う自己紹介で好印象を持ってもらうことがゴールでした。

問い:想定していた結果は何ですか。

答え:自己紹介で、好印象を持ってもらう。

 

計画と仮説

ゴールの次に重要なもの、それは計画と仮説です。行動には、計画が必要ということは誰もが知っていることです。仮説とは、経験の前提となるものの見方のことです。誰もが、行動する前には、「こうすればうまく行く」という考えを持っています。過去の経験により形成されたものの見方を、私たちは常に活かしています。多くの場合、無意識に活かしているために、その存在に気付き難いですが、誰もが、うまくいくであろうという仮説を持って行動しています。ところが、実際に行動してみると、うまく行かないこともあります。新入社員の事例では、事前に、パワーポイントを準備し、プレゼンの練習を行うことにしました。その前提となる仮説は、パワーポイントを使うと、口頭だけよりも、たくさんの情報を伝えられ、練習をするとスムーズに話せるようになるというものでした。

仮説の前提には、過去の経験があります。それは、自身の経験の場合もあれば、他者の経験に学ぶ場合もあります。本やセミナーなどから学んだことかもしれません。私たちは、常に、経験に学び、次に生かすという習性を持っているために、いざ、何かのゴールを達成しようと思うと、過去の経験に基づき、仮説を立て、その仮説に基づき行動します。ところが、この仮説は、過去の経験に基づくものであり、未来のゴール達成を保証するものではありません。このため、うまく行く時と、うまく行かない時があります。いずれの場合でも、仮説を明確にしていれば、その経験から学ぶことができます。

問い:どのような行動計画を立てましたか。

答え:オンラインでの自己紹介なので、パワーポイントを準備し、発表の練習をして本番に臨む。

問い:計画の前提にある仮説(判断基準)は何ですか。(「こうすればうまくいく」等の持論、過去の成功・失敗体験から得た知恵・成功法則等)

答え:パワーポイントを使うと、口頭だけよりもたくさんの情報を伝えられる。練習をすることで、スムーズに話せる。

 

経験の振り返り

経験を振り返りでは、ゴールに対してうまく行ったこと、うまく行かなかったことを洗い出します。この際に、感情を振り返ることもお勧めしています。新入社員の事例では、うまく行ったことは、練習の成果もありスムーズに語ることができたことです。うまく行かなかったことは、少し緊張してしまい、硬い話し方になってしまったことです。

経験の振り返りでは、感情を振り返ることも大事です。プレゼン中はドキドキ、終了してほっとした、その後、ちょっと残念な気持ちと、気持ちの変化を追うことで、自分の経験を追体験することができるからです。経験の振り返りにおいて、最も難しいことは、経験という膨大な情報の中から、何を切り出して振り返るのかということです。経験と繋がる感情を思い出すことによって、この経験のどこに満足していて、どこに不満が残ったのかが解りやすく、振り返りのツボが見つけ易くなります。

問い:どのような経験でしたか。うまくいったこと、うまくいかなかったことは何ですか。

答え:・練習の成果もあり、スムーズに語ることができた。
・少し緊張してしまい、硬い話し方になってしまった。

問い:その経験には、どのような感情が紐付いていますか。

答え:(プレゼン中)どきどき  (終了後)ほっとした  (その後)ちょっと残念

 

経験からの学び

経験を振り返ったら、いよいよ学びの刈り取りです。成功しても、失敗しても、経験を通して人は賢くなるというのが、経験から学ぶリフレクションの理念です。うまく行ったことも、うまく行かなかったことも共に学びの材料になります。

新入社員の事例では、うまく行ったことは、練習の成果があり、スムーズに語れたことです。うまく行かなかったことは、少し緊張してしまい、硬い話し方になってしまったことです。また、終了後に、少し残念と感じたのは、普段、面白いと言われる性格なのに、その部分が、自己紹介で全く出せなかったことです。もう少し、自分の面白いキャラクターを知って欲しかったという残念な気持ちが残りました。

うまく行かなかったことについては、経験前に戻れるとしたら、何を変えるかという問いにしています。次のアクションにつなげ易いと考えたからです。新入社員は、練習とは違い、本番では緊張することを改めて認識しました。このため、普段の面白さを、自然に出すことはできませんでした。そうであれば、プレゼンの中に、面白さを盛り込んでおけばよかったという気づきに至ります。

問い:(うまく行った場合)なぜうまくいったのだと思いますか。

答え:〇 練習の成果があり、スムーズに語れた。

問い:(うまく行かない場合)経験前に戻れるとしたら、何を変えますか。

答え:△ 緊張すると硬い話し方になることを計算に入れ、普段のような「面白さ」をあらかじめプレゼンに盛り込んでおけばよかった。

法則の定義

経験の振り返りを基に、法則を定義します。経験から学ぶリフレクションのクライマックスです。この際に、計画当初の仮説と、経験を照らし合わせることも重要なポイントです。

仮説は役に立ったのか、想定外の何かがあったのかを確認します。新入社員の場合、パワーポイントの準備も練習も役に立ちました。しかし、仮説の段階で、本番での緊張は考慮していなかったので、そういう意味で、本番での緊張は想定外ということになります。そして、自分らしさを十分表現できなかったことも残念に感じ、準備の段階で、自分の面白いキャラクターを伝えようという意識を持っていなかったことに気付きます。プレゼンを実際にやってみたことで、改めて、自己紹介とは何かについても、振り返ることになります。

問い:リフレクションから明らかになったことは何ですか。仮説(判断基準)がアップデートされた法則を定義してみましょう。

答え:自己紹介では、情報共有のみならず、自分らしさを伝えることも大切。まじめな自己紹介の中でも、愉快な自分を、どう表現するかを工夫することが大事。

行動計画

経験で学んだことは、すぐに活かす!これも、経験から学ぶリフレクションの大切なことです。新入社員は、まじめな自己紹介で、どう愉快な自分を表現するかその方法を考える事にしました。自己紹介がどんな風に進化するのか楽しみです。

 

問い:明らかになった学びをどのように活かしますか。

答え:まじめな自己紹介の中で、愉快な自分を表現する方法を考える。

ぜひ、皆さんも、経験から学ぶリフレクションで、進化し続ける楽しさを味わっていただきたいです。

教えない教育

2021.02.22文部科学教育通信掲載

2018年に、東日本大震災・福島第一原発事故から7年ぶりに再開した福島県双葉郡の小中学校には、毎年、一人のプロフェッショナル転校生がやってきます。1月24日に、今年で、3年目となる「教えない教育」を振り返るオンラインイベントが開催され、私も、モデレーターとして登壇させていただきました。「教えない教育」を通して、子どもたちは何を感じ、何を学んでいるのかを探求する中で、たくさんの気づきを得ることが出来ました。

PnS(ピンズ)は、プロフェッショナル・イン・スクールの略で、各界のプロ、特にアーティスト、建築家、音楽家、職人などクリエイティブな職種の人が、「プロフェッショナル転校生」として、教室を仕事場としながら子供達と学校生活を共にするプロジェクトです。

3人の登壇者との対話を振り返りながら、「教えない教育」の可能性を考えてみたいと思います。

大工棟梁の林敬庸さん

転校生第1号は、岡山県西粟倉村を拠点に90年以上にわたり神社・仏閣、住宅などの建築物を創り続ける大工の3代目 林敬庸さんです。プロフェッショナル転校生 林さんのミッションは、台風で倒れた地元の樹齢350年の黒松を使って、大きな机を創ることでした。当時の教育長が、「証し」と半紙に筆で書き、なぜ林さんが学校にやってきたのかを子どもたちに説明し、林さんの転校生生活がスタートしました。林さんの職場は、校長室の隣にある教室です。

子どもたちは、林さんの職場が大好きで、みんな何かお手伝いをしたいと集まってきます。最初に、みんなでルールを決めようということになり、プロの仕事場で何を心掛けるかを、書き出してみると、あっという間に10以上のルールが出来上がりました。林さんや先生が指示をしたわけでもなく、子どもたちが自らの意志でルールを考えました。子どもたちなりに、ここはプロの仕事場であるということを理解したのだと思います。リストの中には、「棟梁の言うことを聴け」というものもありました。

大工が美しい仕事をするために、掃除がとても大切であるという林さんの職人としての哲学は、子どもたちの心を動かします。子どもたちが、いつも、掃除に来てくれたと、棟梁は思い出を語ってくれました。普段とは全く異なる姿勢で、誰もが一生懸命、掃除に打ち込む様子には、先生も驚いたようです。

子どもたちは、棟梁が真剣に仕事に打ち込んでいる時には、教室に入らず、廊下に立ち、窓の外から仕事の様子を眺めていて、棟梁が休憩に入ると、部屋に入ってきたそうです。子どもたちは、真剣に仕事に向かう棟梁の姿から、何を学び取ったのでしょうか。

完成した大きな机の裏側には、棟梁が、タイムカプセルのように、手紙を入れるスペースを作り、みんなの手紙をその中に締まっておいたそうです。富岡町の学校再開の証しとして作られた大きくて美しい机は、今も、学校で子どもたちと共に暮らしています。

 油絵画家の加茂昂さん

二年目の転校生は、油絵画家の加茂昂さんです。加茂さんは、3.11後、「絵画」と「生き延びる」ことを同義に捉え、心象と事象を織り交ぜながら「私」と「社会」が相対的に立ち現れるような絵画作品を制作されていることから、プロフェッショナル転校生2期生に選ばれました。

「鴨ではなく、加茂です」と白板に名前を書き、自己紹介する加茂さんに、子どもたちは興味津々です。加茂さんは、林さんの大きな机を見て、「大きな絵」を書こうと決めたそうです。完成した絵を飾るのは、大きな壁があり、子どもたちが登校したら必ず通る場所にある階段の踊り場に決まりました。加茂さんは、「最初から、どこに飾られるのかが決まっていて、その場所で絵を描くことはめったになく、移動で破損することを心配せず、たっぷりと、絵の具をキャンパスに載せることができた」とお話されていました。実際に、私も完成した絵を見せていただきましたが、そのせいか、作品の中央で美しく咲いている桜の木がとても立体的に見えます。

加茂さんが学校にやってくると、棟梁の仕事場が、アトリエに変身です。加茂さんの最初の仕事は、デッサン。町中を歩きデッサンを何枚も何枚も書き、アトリエの壁に貼っていきます。サッカーをしている子どもたち、遊んでいる子どもたちの様子も、何枚も何枚も書きます。そして、絵の構想が決まり、キャンパスに書き始めてからも、何度も、書いた絵を白く塗り、書き直す様子を、子どもたちは、驚きと共に見ていたようです。「あんなにきれいに書いてあったのに、なぜ、書き直すのかな」、「それがプロの仕事なんだ」こんな風に、先生と子どもたちは話していたようです。

絵の好きな子どもたちが、アトリエで加茂さんと一緒に絵を描く授業もあります。プロのアトリエで、小学生が絵を描くことを想像しただけで、ワクワクします。「教えない教育」なので、加茂さんも絵の指導は行いません。でも、子どもたちの中には、加茂さんに絵の指導をした子がいたそうです。厳しいダメ出しをされたと、加茂さんも苦笑しながら話していました。

加茂さんが行った「色の三原色の授業」は、石を写生することを通して、グレーという色にも、色々なグレーがあるということを体験学習するというもの。色に対して興味が沸く「教えない教育」に相応しい素敵な授業です。

加茂さんの作品「富岡に灯る桜」には、校舎と桜と共に、校庭で活動している子どもたちが描かれています。生徒全員が絵の中に、誰とはわからないように描かれているのだそうです。子どもたちが、躍動感のある姿で描かれている背景には、子どもたちの様子を観察し、何枚も何枚も書き貯めたデッサンがあることを知り納得しました。絵の中央には、大きな桜が描かれています。富岡町には、2キロ以上の桜並木があり、春になると「桜まつり」が開かれます。7年ぶりに避難指示が解除され、小中学校が再開した年には、「桜まつり」も復活しました。加茂さんの絵には、復興への願いと、子どもたちが、今、ここに生きている証し、そして、未来への希望が描かれているように見えました。加茂さんが転校生の任期を終えた今も、加茂さんの絵は学校に存在し、子どもたちの成長を見守っています。

先生の尾形泰英さん

もう一人の登壇者は、林さんと加茂さんをプロフェッショナル転校生として受け入れた学校の尾形泰英先生です。「最初は、えっ? 何?」という感じだったという率直なコメントから始まった尾形先生のお話もとても興味深いものでした。「プロフェッショナル転校生は、先生とは違う、安心できる大人の存在だ」と尾形先生は話されました。先生は、子どもたちを評価する存在なので、先生と生徒の関係には、何かしらの緊張感が存在しますが、プロの転校生と生徒の関係には、この緊張感が全くない様子でした。加茂さんにダメ出しをする子どもがいたり、林さんに人生相談する子どももいたという話にもつながります。

また、尾形先生が、「僕もプロの教員。林さんはプロの大工。加茂さんはプロの画家。異なる世界のプロと一緒に過ごせたことは、自分にとっても貴重な経験となった」というお話がとても印象に残りました。

「教えない教育」とは、子どもたちも、転校生も、学校の先生も、みんなが学び、成長するものなのかもしれません。

 

 

チェンジ・メーカー教育

2021.02.08文部科学教育通信掲載

ワシントンに本拠を持つ非営利団体アショカは、エブリワン・ア・チェンジメーカー(誰もが、みんなチェンジ・メーカーだ)というキャッチフレーズを掲げ、世界中の社会起業活動を促進する取り組みをおこなっています。創業者のビル・ドレイトンは、社会起業家という言葉の生みの親で、社会起業家の父と言われる人です。その日本事務所アショカ ・ジャパンから、新年に素敵なメッセージが届きました。15年に一度見直される国際バカロレアの教育内容に、新たにチェンジ・メイキング思考が加わるというニュースです。

チェンジ・メーカー大学

アショカは、チェンジ・メーカーを増やすために、小・中・高・大学生を対象に、チェンジ・メイキング教育を奨励しています。2008年には、大学に、チェンジメーカー・キャンパスというコンセプトを創り、社会イノベーションと高等教育の変革をリードする大学をチェンジメーカーキャンパスに認定し、学生とすべての大学の利害関係者が、チェンジメーカーとして地域および世界の課題に取り組むことを奨励し、キャンパス全体の文化と運営に、チェンジメイキングの思想が反映されることを目指しています。現在、チェンジメーカー・キャンパスに認定されている大学は、43校で、アメリカのみならず、世界の大学が参画し、アジアでは韓国の大学も、チェンジメーカー・キャンパスの認定を受けています。

国際バカロレア

国際バカロレアは、国際的な初等中等プログラムで、通称IBと呼ばれています。現在、150か国で5,500校以上の学校がIB認定を受け、国際バカロレアに基づく教育を行っています。

IBの使命と学習者像

【使命】

すべてのIBプログラムは、国際的な視野をもつ人間の育成を目指しています。人類に共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する人間を育てます。

【学習者像】

IBの学習者として、私たちは次の目標に向かって努力します。

探究する人
私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。

知識のある人
私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取り組みます。

考える人
私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理的な判断を下します。

コミュニケーションができる人
私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。

信念をもつ人
私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動します。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動します。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。

心を開く人
私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと努めます。

思いやりのある人
私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために行動します。

挑戦する人
私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合います。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑戦と変化と機知に富んだ方法で快活に取り組みます。

バランスのとれた人
私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成する知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解しています。また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依存していることを認識しています。

振り返りができる人
私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所を理解するよう努めます。(出典:文部科学省IB教育推進コンソーシアム)

日本でも、161校(令和2年11月時点)が、国際バカロレア校として認定されています。

システミック・チェンジ

アショカは、社会問題の解決方法として、システミック・チェンジを提唱しています。私たちは、食べるものがない人に、魚を与えるのではなく、釣りの仕方を教えてあげる方がよいと言います。しかし、アショカは、釣りの仕方を教えてあげるのだけでは十分ではないと言います。そして、食べるものがない現状を変えるために、その根本原因を探り、漁業システムそのものを変えることを奨励しています。そして、この根本原因まで遡り社会システムを変えることを、システミック・チェンジと名付けました。

困っている人がいたら助けるという、誰にでもできる直接的なチェンジ・メイキングはダイレクト・チェンジ・メイキング。たくさんの困った人を助けようと、その活動を拡大することもできます。この取り組みも素晴らしいものですが、このやり方では、いつまでたっても、困った人が減ることはなく、支援し続けなければなりません。勿論、最初は、身近な誰かを助けたいという思いからスタートするのですが、いつまでも、同じやり方で支援をするだけではなく、その課題の背景にある構造的な問題に目を向け、創造的な発想で課題を解決するシステミック・チェンジを実現することができると、社会を大きく変えることができます。

アショカは、現在、3500人の社会起業家をフェローと認定しています。彼らは、教育から医療まで様々な分野でシステミック・チェンジに取り組んだ実績を持つ人たちです。国際バカロレア教育に、システミック・チェンジの考えが盛り込まれることで、世界のIBスクール5500校で、システミック・チェンジを起こすことに、意欲を持つ学習者が育まれることを考えると、とてもワクワクした気持ちになります。

教育のシンクロシティ

私が、世界の教育改革に最初に触れたのは、2003年のことです。当時、ヨーロッパでは、OECDを中心に、VUCA時代の教育改革の推進が始まり、アメリカでは、アップルをはじめとするIT企業が中心となり設立されたパートナーシップフォー21という非営利団体が、21世紀スキルと教育を提唱し始めていました。OECDは、キーコンピテンシーを提唱し、パートナーシップフォー21はスキルを中心に、それぞれ教育指針を打ち出していたので、その内容は全く同じという訳ではありませんでしたが、両者の目指すところは同じであることがとても興味深かったです。

日本は、その頃、持続可能開発教育が導入され、2015年まで継続することになります。世界に先駆けて行われた日本の持続可能開発教育は、今日推し進められているSDGs(国連の持続可能開発目標)にもつながる取り組みです。

OECDは、2003年に打ち出した教育指針をさらに発展させ、現在、トランスフォーマティブコンピテンシーと名付け、変革を推進ための力であることを強調しています。また、学生エイジェンシーという言葉を用い、子どもたちは、社会を変革する主体であるという概念を明確に打ち出しています。

世界、そして日本の教育も、確実に、チェンジ・メーカーを育む方向にシフトし始めているのだと感じます。

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