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学習する学校 札幌新陽高校の取り組み

2022.05.23文部科学教育通信掲載

昨年より、札幌新陽高校で、学習する学校の実践を始めています。その活動が、先生の学校の発行する雑誌HOPE3月号に紹介されました。赤司展子校長と、株式会社リクルートでR&D組織HITOLABO(ヒトラボ)を創立し、「人と組織」に関わるプロジェクトに取り組む福田竹志さんと3人で、企画会議を重ね、1年間のプログラムを終えたタイミングで、記事にしていただけたことで、よい振り返りの機会となりました。

先生の学校の創立者三原菜央さんからが、「学習する学校」に関する全国の取り組みを取材する企画のお声掛けを頂き、私も、「学習する学校」のコンセプトを紹介し、並行して、札幌新陽高校も取材の対象になりました。また、システム思考を教育界に広めることに情熱を注いでいる福谷彰鴻さんも、記事を書かれていて、小さいコミュニティの知り合いが、季刊誌HOPEに大集合しました。この10年間は、試行錯誤の連続でしたので、「学習する学校」を取り上げていただき、感無量です。

 

学校「組織」は特別である

教員養成専門職大学院で、教員養成にかかわる以前は、企業組織しか知らなかったので、学校組織のあり方に始めて触れた時の驚きは、今も忘れることができません。大学院には、校長経験を持つ教授もいらしたので、正直にそのことを伝えたところ、「学校ですから」というお返事を頂きました。その後、多くの学校関係者に同様の感想を述べると、「学校組織ですから」と、似たような返事が返ってきました。そして、学校がいかに特別であるかを丁寧に説明して頂きました。

 

学校は組織とは言えない

私の違和感を一言で語ると「学校は組織とは言えない」ということです。組織は、一つの目的のために共に歩む集団です。企業の組織では、この考え方が当たり前でした。ところが、学校組織は、多くの場合、一体化しておらず、教員が学級単位で組織をつくり、学級に所属しているような風景に見えました。もちろん、学校の中には、校長先生のリーダーシップのもと、一つの組織として動いている事例もたくさんあると思います。しかし、多くの先生が、自分の学級に責任を持ち、他の先生の力を借りないで、学級を運営することを当たり前と考えています。先生方も、移動があり、学校への帰属よりも、学級とのつながりが強く、また、校長先生は、2年で変わられる場合もあるので、組織づくりが難しいという背景があることも知りました。

 

大学院で始めた講義

「次代の教育を創る」を創立理念に掲げた大学院では、学習する学校の理論に基づくチーム作りの方法についての講義を行いました。彼らが、卒業後に赴任する学校の組織では、すぐに実践できないかもしれないという不安を持ちながら、講義を進めていたことを思い出します。当時は、まだ、OECDのキーコンピテンシーに対する共通認識も確立されておらず、海外の教育に関する情報もとても限られていましたので、学習する学校の重要性を伝えることも、容易ではありませんでした。

 

札幌新陽高校での取り組み

2021年4月に、赤司展子さんが、札幌新陽高校の校長に就任し、学校改革を始めるにあたり、リクルートの福田竹志さんと3人で学習する学校の取り組みを始める事となりました。

札幌新陽高校では、学習する学校を実現するために必要な5つのツール(メンタルモデル、チーム学習、システム思考、共有ビジョン、パーソナルマスタリー)の実践方法を学ぶことから始めました。これらは、すべて、共に未来を創造するために必要なツールであり、学び続けるための手法でもあります。

月に1度、職員会議を、中つ火を囲む会と名付けて、2時間半の時間を、学習する学校のための時間としました。中つ火は、焚き火のことで、『一万年の旅路ネイティブ・アメリカンの口承史(ポーラ・アンダーウッド著、星川淳翻訳 翔泳社)』から来ているようです。中つ火を囲む会は、研修会という位置づけですが、実際には、「今、話し合うべきこと」にについて、学習する組織の5つのツールを使い対話を行います。外部のファシリテーターがいることで、通常の仕事を前に進める会議とは異なる場と、お互いの意見に学び、お互いの気持ちや大切にしていることを知り、時には、アンラーン(過去の経験に基づくものの見方を手放す)の機会にもなります。

2年目の中つ火を囲む会

今週、2年目になる中つ火を囲む会の第1回を開催しました。ファシリテーターは福田竹志さん、テーマは、札幌新陽高校の3つの「らしさ(自分らしさ、新陽の教員らしさ、新陽の生徒らしさ)」と、新陽2030ビジョン「人物多様性」について「大変なこと」、「わくわくすること」です。「らしさ」のワークでは、自分のこと、同僚のこと、生徒のことを、みんながどう捉えているのかを、ポストイットに書きながら共有しました。「人物多様性」については、画一性を前提とする学校文化を変えるビジョンでもあるので、「わくわくすること」と同じくらい「大変なこと」についての意見が出ていたことが印象的です。

 

学校生活規則の策定

札幌新陽高校では、「生活指導規定」を廃止し、新たに、「学校生活規則」を策定しました。新たな規則では、服装や髪型が自由になりました。その前提として、「学校生活規則」では、多様な生徒と教員が、お互いに自由かつ安心安全に学校生活が送ることを目的に掲げています。さらに、規則の前提として、教育方針、ビジョン2030「人物多様性」、周囲の自由を奪わない、安全を脅かさない、法律に違反しない等を掲げています。

昨年の中つ火を囲む会でも、校則について対話を行いました。これまでの慣習を変えるのですから、勿論、心配の声も聞かれました。それでも、自信を持って、「学校生活規則」の策定に取り組めたのは、教員同士が対話を通して培ったお互いに対する信頼があるからではないかと思います。

学習する学校が、2年目にどのような発展を遂げるのか、とても楽しみです。

隠岐島前高校ではじまるリフレクションの実践②

文部科学教育通信掲載2022.05.09

 

総生徒数158人の内、90名が留学生という隠岐島前高校で、2021年3月からリフレクションの実践が始まりました。3月に、隠岐島前高校を訪れ、2年生、3年生と、先生たちに、書籍で紹介しているリフレクションの手法を紹介する機会を頂きました。

前回は、生徒の皆さんのリフレクション講座の振り返りをご紹介致しました。今回は、先生と生徒のリフレクションの内容をご紹介致します。

 

プロジェクトの振り返り

意見、経験、感情、価値観の4点セットを活用した振り返りからご紹介します。

1年間の活動を終えて、プロジェクトを振り返り、最も印象に残ったことをテーマにリフレクションしました。

 

【生徒の事例】最終発表のための振り返りのリフレクション

最終発表のために、今まで逃げていたものに向き合った結果、プロジェクトの経験からたくさんのことを学んでいる自分に気づけました。うまくできなかったことやもっとできることがあったのではないかと、ネガティブな気持ちでいた自分が、振り返りを行うことで、前向きな気持ちに変わったという貴重な経験のリフレクションです。

(図1)

 

【先生の事例】担当チームの停滞期のリフレクション

リフレクション講座では、予め、先生にリフレクションを行っていただき、事例として生徒に紹介しました。問いは、生徒と同じく、最も印象に残ったことについてです。 自分が担当しているチームの活動が、停滞していた時の不安を語ってくれています。プロジェクト学習は、生徒の主体性を尊重することが前提です。よい学習経験をして欲しいという先生の愛情や責任感が伝わってきます。

(図2)

リフレクションは、人間の営みであり、そこに、立場の違いはありません。先生も人間です。先生だって、困惑したり不安になったりします。そういう気持ちや背景を、先生が、生徒に共有することで、先生と生徒の人間関係にも変化が現れるのではないでしょうか。

次に、先生と生徒が同じ出来事を振り返った事例を紹介します。

 

探究活動で実践の協力を予定していたお店を、生徒が訪問した際に、たくさんの意見をもらいました。先生も、生徒も、その出来事をリフレクションのテーマに選んでいました。

どちらも、心の動きがとても良く伝わってくるリフレクションです。生徒は、物事に対して共通認識を確立することが簡単ではないことを学びました。次回のプロジェクトでは、きっとこの学びが生かされ、上手なホウレンソウが行えるのではないでしょうか。

プロジェクト学習では、活動とその成果に意識が向きがちですが、一番大事なことは、「その経験から何を学んだか」です。学びを整理し言語化することで、リフレクションを友達と共有することもできます。

(図3 4)

 

経験から学ぶリフレクション

経験から学ぶリフレクションについても、先生と生徒の事例を一つずつ紹介します。

 

【先生の事例】

スポーツカーを所有する先生が、自動車を購入する際に重要な視点に気づいた事例です。

(図5)

 

【生徒の事例】

体験活動に満足してしまい、インタビューを行っていたのに、その情報が発表に活かせなかったようです。次回は、インタビュー直後に取りまとめることができるのではないでしょうか。

(図6)

リフレクションを共有すると、生徒が何を感じ、何を学んでいたのかを知ることができます。体験活動の後には、必ずリフレクションを行うことを習慣にしてみてはいかがでしょうか。

隠岐島前高校ではじまるリフレクションの実践

文部科学教育通信掲載 2022.4.25

総生徒数158人の内、90名が留学生という隠岐島前高校で、2021年3月からリフレクションの実践が始まりました。3月に、隠岐島前高校を訪れ、2年生、3年生と、先生たちに、書籍で紹介しているリフレクションの手法を紹介する機会を頂きました。1月から準備を重ね、実際に、生徒の皆さんの1年間の夢探求活動の振り返りを支援できて、とても楽しく、学びの多い時間でした。

 

高校魅力化

隠岐島前高校には、高校魅力化コーディネーターという制度があります。また、高校と連携した公営塾 隠岐國学習センターがあります。1月に開始した準備には、コーディネーターの山野 靖暁さん、学習センター長の竹内俊博さん、元コーディネーターであり現在は、地域・教育魅力化プラットフォームに所属されている奥田麻衣子さんが参加してくれました。オンラインでは、先生版ワークショップ、生徒版ワークショップを実施し、全生徒と一緒にリフレクションを行うための準備を行いました。

これまでも、たくさんの学校現場で活動をさせていただいた経験がありますが、今回のように、生徒の近くにいる教育関係者とじっくりと準備を進めた経験がありません。コーディネーターの学習センターの存在は、とても貴重な仕組みです。

隠岐島前高校は、90名の生徒が、島の外から留学しているとてもユニークな学校ですが、校長や先生の移動は、他の県内の学校と同じような仕組みで動いています。校長も、先生も、移動があるため、理念と特徴のある教育を定着させ、島留学生の包括的ケアを行うためには、コーディネーター、学習センター、寮マスターの存在が欠かせません。同時に、彼らと先生たちが上手に連携して、教育を創り上げているところがとても魅力的です。

4月からスタートする新学科「地域共創科」での探究活動に、リフレクションの実践が加わることで、仮説検証の質が高まり、活動の質にもよい効果が出るのではないかと期待しています。また、生徒が、自らの動機の源泉を見出したり、経験から学び、成長し続けることも、期待しています。

 

生徒は、なぜ振り返るのか

第1回のリフレクションセッションの後、生徒の皆さんに、リフレクションの振り返りを行って頂きました。その一部をご紹介します。大人か顔負けのリフレクションです。

 

【自分を客観視する】

これまでの私は、リフレクションは次にいかすためにするものと考えていた。

今の私は、次にいかすのも大切だけど、今の自分を分析するために必要と考えるようになった。そこで、私は、もっと客観的に自分を見ることに取り組む。

自分を知ること、メタ認知することの大切さに気づいた生徒のリフレクションです。

 

【仮説のアップデート】

これまでの私は、自分と向き合うことと考えていた。

今の私は、無意識であった仮説をしっかり持つように と考えるようになった。

そこで私は、仮説(過去)の自分と今の自分を比較すること に取り組む。

経験から学ぶリフレクションでは、行動の前提には「こうすればうまくいく」という仮説があるということを学びました。その仮説は、過去の経験に基づいています。これまで無意識であった仮説に意識を向けて、仮説の変化を言語化することの大切さに気づいた生徒のリフレクションです。

 

【行動前の仮説】

これまでの私は、失敗を見直すことを振り返りと考えていた。

今の私は、何かをやる前に自分が過去にやった事をリフレクションすることを振り返り と考えるようになった。

そこで私は、自分が何か行動を起こす前に振り返りをすることに取り組む。

無意識に仮説を持って行動していると気づいた生徒が、それはら、行動する前に、仮説の質を検証しようと考えました。リフレクションの習慣が、仮説の質を高め、その結果、行動の質が高まることに気づいた生徒のリフレクションです。

 

【行き詰まった時に】 

これまでの私は、振り返りをするのは面倒くさいし、しても変わらないから意味がない と考えていた。

今の私は、仮説の質をあげるためには振り返ってリフレクションをするのはよい と考えるようになった。

そこで私は、探求活動を進めていく上で行き詰った時に振り返ることに取り組む。

 行き詰まったら、仮説の質を上げるためにリフレクションを行えば良いと気づいた生徒のリフレクションです。

 

【書き出すこと】

これまでの私は、ぼんやりとだが大切なものだ と考えていた。

今の私は、出来事のあとに 頭と心の中にぼんやりと散らばっている学びを次に活かし、まとめるものと考えるようになった。

そこで私は、頭で考えて終わらすに紙に書くことに取り組む。

紙に書いてリフレクションすることで、自分の頭が整理されて、リフレクションからの学びが明確になることに気づいた生徒のリフレクションです。

 

【今の感情を大切に】

これまでの私は、振り返るということは過去の結果から未来につなげるイメージと考えていた。

今の私は、過去と未来を今の自分につなげるイメージと考えるようになった。

そこで私は、リフレクションする時に今の感情を大切にすることに取り組む。

リフレクションは、過去と未来と今の自分をつなげるものと気づいた生徒のリフレクションです。今の感情を大切にするという視点も素敵です。

 

【感情のリフレクション】

これまでの私は、感情を抜きにして振り返ると考えていた。

今の私は、その時の感情や思いも内省する上でとても大切と考えるようになった。

そこで私は、何かをしたから振り返るのではなく、日常の中から内省すべき点を見つける、自分と他人のリフレクションを比べてみることに取り組む。

日常の中から内省すべき点を見つけるために感情が役立つことに気づいた生徒のリフレクションです。

 

【キャリア形成】

これまでの私は、ただ考えて人に聞けば終わると思っていた。なんでもかんでも振り返りすれば良くなるとは限らないと考えていた。

今の私は、書きだしたり、問い次第ですごい学びが得られると考えるようになった。

そこで私は、自分のリフレクションの型を作って、これからのキャリア形成 に取り組む。

すごい学びを得ることができ、自分のリフレクションの型を作ろうと考えた生徒のリフレクションです。

 

【意思を育てる】

これまでの私は、自分のことを客観的に見ることは必要ないと考えていた。

今の私は、どちらもメリットはあるが、客観的にみて創造する方が大切だ と考えるようになった。

そこで私は、何かに取り組もうとする意志を育てることに取り組む。

 リフレクションを通して、ビジョンが形成できることに気づいた生徒のリフレクションです。

 

【落ち込む前に】

これまでの私は、ただ単に今までの振り返りの作業と考えていた。

今の私は、振り返るだけでなく自分自身の気づきを発見したり、感情からくる行動や気持ちの変化を知ることができる作業と考えるようになった。

そこで私は、何かにつまづいてしまった時、落ち込む前にリフレクションをして前に進むバネにすることに取り組む。

リフレクしションを行うと、前進するエネルギーが湧き出ることに気づいた生徒のリフレクションです。

 

先生も生徒から学ぶ

皆さんは、生徒の振り返りから何を学びましたか。皆さんは、なぜリフレクションに取り組みますか。リフレクションの魅力の一つは、先生も生徒から学ぶことができることです。

次回は、先生も、生徒も、素の自分になりリフレクションを共有する教室の様子をご紹介します。

 

隠岐隠岐島前高校と地域の魅力化の取り組みに学ぶ

2022.04.11文部科学教育通信掲載

隠岐島前高校の魅力化の取り組みをご紹介します。

隠岐島前高校の危機存続

昭和25年には、6500人いた島の住民は、平成17年には、2500人に減少し、高齢化率は40%になっていました。昭和40年代には在籍数が300人を超えていた隠岐島前高校も、平成9年には、77人(2学級)、平成20年には、28人(1学級)となり、平成25年には、島根県の高校統廃合基準である入学生21人を下回っていくという統廃合の危機に直面します。

地域が隠岐島前高校を失うと、地域の子どもたちは、中学を卒業すると島を離れなければならなくなります。島外の寮で暮らした高校生は、島に対する愛着も失い、島に戻る若者は減少していきます。その結果、地域の衰退は避けられなくなります。

島前3町村にとって、隠岐島前高校の存続は、島前3町村の存続に不可欠です。そこで、立ち上がったのが海士町副町長の吉元操さんです。2004年に高校の存続問題に取り組む重要性を盛り込んだ「自立促進プラン」を策定し、2008年から本格的に隠岐島前高校魅力化プロジェクトを立ち上げます。吉本さんを支援したのが、現在、地域・教育魅力化プラットフォーム代表の岩本悠さんです。岩本さんは、ソニーで人材育成・組織開発・社会貢献事業に従事されていた方です。岩本さん以外にも、現在プリマペンギン代表の藤岡慎二さん、学習センター長を務めら、現在は、海士町の大人留学に取り組む豊田庄吾さんが、地域と隠岐島前高校の魅力化の立ち上げに取り組んで来られました。

 

いけている大人たち

日本教育大学院大学では、隠岐島前高校魅力科プロジェクトが立ち上がった頃に、吉元さん、岩本さん、藤岡さんをお招きし、毎年、講演会を行っていました。島留学のスタート時には、生徒募集を兼ねたイベントを開催したこともあります。今では、日本中で地域創生の取り組みが行われていますが、その当時には、地方創生という言葉を耳にすることはほとんどなく、吉元さんの「自立促進プラン」に込めた思いに、心が打たれたことを思い出します。高校が消えたら、島が消える。だから、高校を絶対に存続させなければならない。吉元さんの強い思いが、岩本さんを始めとする「いけている大人たち」を魅了し、奇跡を起こすことができたのだと思います。

今日も、島前高校魅力化プロジェクトには、たくさんの「いけている大人たち」が関わっています。教育の専門家である大学教授、企業で活躍されたリーダー、探求教育の専門家、教育委員会の方々、学校の先生、先生と共に生徒の教育を支援するコーディネーター、学習センターの皆さん、寮で生活を見守る大人たち、みんなが、生徒の育ちをサポートしている様子に、心を打たれました。「いけている大人たち」という言葉で一括にするのは少し失礼かもしれませんが、いけている大人たちには、以下の5つの特性があります。①自分を知っている、②生徒の多様性を包摂できる、③生徒の過去ではなく、未来を見る、④願いを押し付けず、伝える、⑤待てる  いけていない大人は、この真逆の特徴を持ちます。

 

島留学

隠岐島前高校の総生徒数は、158人、そのうち留学生が、90人を占める高校です。スタートした当初は、説明会を実施できる大都市からの留学生が多かったそうですが、現在では、オンライン説明会も可能となり、日本全国から留学生が来るようになったそうです。このため、生徒は、とても多様です。島で育った生徒と、東京をはじめとする他県で育った生徒が、一緒の教室で学びます。

島親制度があり、すべての留学生には、島親さんが付きます。寮には、ハウスマスターがいて、近くには学習センターがあり、放課後に学ぶ場所もあります。

 

島前3島がまるごと学校

隠岐島前高校の魅力の一つが、学校と地域の境目が溶けてなくなっていることです。このため、学校、寮、学習センターだけではなく、学校のある海士町、漁業と観光を主な産業とする景勝地「魔天崖」のある西ノ島町、畜産を主な産業とし、国の名勝天然記念物「赤壁」を有する知夫村がすべて、生徒の学びの舞台になっています。地域の住民が、生徒を歓迎し、生徒が学びたいこと、やってみたいことを応援する地域文化が醸成されています。 地域の人々に歓迎され、暖かく見守ってもらえる生徒は、安心して行動することができます。

 

隠岐島前高校が目指す生徒像

隠岐島前高校は、「グローカル人材」の育成を目標に、以下の4項目を定義しています。

  • 真理の探求に向け、協働的に粘り強く挑戦する人の育成
  • 理想を追求し、自己を高め、地域社会に貢献する人の育成
  • 進取の気象をもち、主体的、意欲的に行動する人の育成
  • 心身ともに健康、情操豊かで、他人を思いやる人の育成

 

海士町にある隠岐島前高校の高校1年生と2年生に、「リフレクションの習慣」を届けに行きました。隠岐島前高校の生徒たちは、行動する高校生なので、リフレクションの題材をたくさん持っています。このため、驚くほど、リフレクションの価値をすぐに理解してくれたことがとても印象的でした。

隠岐島前高校で生徒と過ごしたのは、2日間だけでしたが、①から④の項目は、生徒の中に染み込んでいるかもしれないと思いました。リフレクションを行った際にも、一人ひとりが、自らの意思で取り組んだことがあり、振り返りのテーマも多様でした。進取の気象を持ち、主体的、意欲的に行動することを許可されていることは、高校生の成長において、とても大切なことです。行動力に、リフレクションの習慣が加われば、経験を意味づけ、経験から学ぶことができます。また、自分で決めて行動することが許されているので、リフレクションは、自分を知る大切な機会になります。

地域共創科のカリキュラム

この春から地域共創科がスタートし、値域共創科で学ぶ生徒は、毎週金曜日は、一日地域に出て学ぶことができるようになります。

【伸ばしたい資質・能力=人生の宝物】

新学科「地域共創科」では、意思ある未来を共に創っていくために、4つの観点を大切する。

主体性:未知なる物事に対して一歩踏み出す・踏み込むことができる・踏み込むことができる

協働性・自分を活かしながら、多様な人と協働することができる

探求性:適切に問い続けることができる、適切に振り返ることができる

社会性:小さな行動・小さな越境を粘り強く続け、周囲に貢献することができる

値域共創科で学ぶ生徒たちには、リフレクションの達人になってもらいたいです。そのために、先生たちとも、リフレクションの勉強会を行いました。

 

先生の勉強会

先生の勉強会でお伝えした一番やってはいけないことは、「評価のために振り返る習慣」を身に付けさせることです。

リフレクションの習慣は、人生の宝物です。答えのない時代に、答えを見つけるために欠かせない、とても大切なツールだからです。しかし、学校では、生徒のリフレクションを評価するという動きがあります。その際に、教育関係者にお願いしたいのは、評価のために振り返るという意思のないリフレクションを生徒に習慣化させないことです。かつて、関心意欲態度の評価のために、授業中に手を挙げる、授業後に先生に質問に行く等々、生徒は、見せかけの関心意欲態度にも価値があることを学びました。しかし、見せかけが通用するのは学校社会だけで、現実社会はそれほど甘くはありません。

次回は、生徒が行ったリフレクションについてご紹介したいと思います。

クエストエデュケーション

2022.03.28、文部科学教育通信掲載

クエストエデュケーションとは、教育と探求社が行う、学校の授業の中で、現実社会と連動しながら生徒が主体となって取り組む探究型の教育プログラムです。学ぶ内容、学び方、学ぶ目標を革新しながら導入校は着実に拡大し、小年度は、全国36都道府県320校が導入し、約61,000名の生徒が取り組みました。

2022年から、高校でも「総合的な探求の時間」が必修科目となりますが、クエストエデュケーションは、日本経済新聞社から、2004年に独立した代表の宮地勘司氏が、2005年に開始し、15年以上の試行錯誤を繰り返してきた探求型の教育プログラムです。

  • 4つのコース

クエストエデュケーションは、目指したい生徒像、身につけたい力、関心のあるテーマ等N合わせて、企業探求コース、進路探求コース、企業コース、社会課題探求コースの4つのコースの中から、プログラムを選択することができます。

進路探求コース

【ロールモデル】

日本経済新聞社「私の履歴書」を執筆した先人の人生を探求し、身分たちで制作したドキュメンタリー作品を発表します。

【マイストーリー】

自分の人生を、私の物語として執筆し、新たな視点で過去を捉え、探求した自分史を発表します。

【ザ・ビジョン】

社会で活躍する大人たちのビジョンから自分らしい人生を探求し、自分の中から見えてきたビジョンを発表します。

企業探求コース

企業が提示するミッションに取り組み、新しい価値創造や課題解決の提案を行います。

社会課題探求コース

生徒自身が、社会課題を発見し、その課題の解決について考え抜き、企画提案を行います。

起業家コース

日常生活の中からビジネスの種を発見し、ゼロから新商品の開発に臨み、ピッチ(短いプレゼンテーション)を行います。

 

  • クエストカップ

毎年、開催されるクエストカップでは、中高生が、自らの探求の成果を社会に向けて発信します。今年は、クエストエデュケーションに参加する約半分の学校に当たる154校から4098作品の応募がありました。

2022年2月26日に開催されたクエストカップ2022 企業探求コースの審査員を勤めさせて頂きました。中高生が、1年間、仲間とともに探求に取り組んだ成果を発表し、社会が、生徒の発想や成長した姿、決して簡単ではない探求活動の過程とアウトプット等々のすべてを、称賛するクエストカップの理念にとても賛同しました。

クエストカップ2022のテーマは、「あふるる、ゼロ」 です。

ゼロ。キミはこの数を見て、何を思うだろう。無であるからこそ、自由。

他にはない、唯一無二。終わりのない、始まりの地。

心を無にするといつの間にやら身体のど真ん中にあるエネルギーの貯蔵地が爆発寸前だ。

+と-の間にあるゼロ。可能性無限大。

 

  • 企業からのミッション

私が審査員を勤めた企業探求コースの特徴は、企業が、本物のミッションを生徒に提示する点です。審査を担当した12校のプレゼンテーションでは、アデコグループ、カルビー、博報堂、富士通、三菱地所、メニコンが、企業探求コースのミッションを生徒に提示していました。

アデコグループ

一人ひとりの「やりたいが目覚める瞬間」が溢れ出すアデコグループならではの新規事業を提案せよ!

カルビー

大自然と人間の「ドキドキな関係」をつむぐカルビーのシン・サービスを提案せよ!

博報堂

「君の疑う力」から世界をつくり変える新しい教科を提案せよ!

富士通

これからも変わり続ける「幸せのカタチ」を共に描く富士通らしい新しいサービスを提案せよ!

三菱地所

未来を生きる私たちが、「そこに集う喜び」を感じられる場と仕組みを提案せよ!

メニコン

人と人の「心の変化」を生み出す全く新しいみるに挑戦するサービスを提案せよ!

 

生徒たちは、ミッションを果たすために、企業のパーパス(存在理由)に立ち返り、企業の魅力を掘り下げます。また、その企業の提供している事業やサービス、商品が、どのような社会価値を提供しているのかを探求します。そのうえで、自らの原体験を元にアイディアを生み出し、仲間と一緒に話し合い、これまでにないアイディアで、ミッションに答えます。

企業から提示されたミッションを読むと、大人でもワクワクしますから、高校生たちも、同様の気持ちで、探求に取り組んだのではないかと思います。

企業探求コースでは、ミッションを提示した企業人が自ら、中高生にミッションを説明する機会を得ることができるので、この交流にもとても価値があると思いました。企業探求コースは、進路探求コースではありませんが、生徒にとって、仕事ってなにか?働くって何か?新しい価値を創造するって何か?を考える機会になっていると思います。

 

  • プレゼンテーション

企業探求コースで、最終プレゼンに選ばれたのは24チームです。1日の発表会なので、審査は、2つに分かれて行われました。私が担当した12チームは次の通りです。

岐阜県立増田清風高等学校

滝川第ニ中学校 (アデコグループ・チーム)

クラーク記念国際口頭学校横浜青葉キャンパス ★準グランプリ★

多治見西高等学校

常翔学園高等学校

千葉県立東葛西中学校(博報堂チーム)★グランプリ★

法政大学高等学校

福山市立城南中学校

滝川第二中学校(三菱住所チーム)

百合学院高等学校

千葉県立東葛西中学校(メニコン・チーム)

新潟県立津南中等教育学校

 

すべてのチームのプレゼンテーションにグランプリを渡したかったのですが、審査員に与えられたミッションは、12チームの中から、グランプリと準グランプリを選ぶことでした。

グランプリに選ばれたのは、博報堂のミッション「君の疑う力」から世界をつくり変える新しい教科を提案せよ!に対する企画提案を行った千葉県立東葛西中学校でした。アプリを使って、世の中を良くしていこうという教科です。いじめを始めとするさまざまな社会課題のテーマについて、アプリを活用し対話することができる教材の特徴は、バーチャル空間とリアルが融合です。

私たち大人が、直面している、気候変動等の課題について、すでに科学的な分析に基づき、我々が取り組むべきアクションが提示されているにも関わらず、多くの人たちが、日常の仕事や生活に没頭し、未来のための課題解決を先延ばしにしている様子も、彼らの教材のヒントなったのではないかと思います。

 

  • 利他の精神

グランプリ以外のすべての作品に共通の特徴として、よりよい社会を願う心、人々の幸せを願う心、人々を思いやる心等が土台にあることも、とても素敵な共通点でした。課題解決の第一歩は、共感であると述べたのは、社会起業家という言葉の生みの親であるビル・ドレイトン氏です。利他の精神や、誰かを思う気持ちが、良い発想が生まれる原動力です。そこに、学問で得た知識や智慧が加わると、解決策の可能性が広がります。

 

  • 探求学習の未来

探求学習には、教科学習では得られない魅力があります。何かについて深く考える機会は、探求するテーマについての理解を深めるだけではなく、自分を知る機会に繋がります。既知の情報を集めるだけでは、意味がなく、その情報に意味付けを行うことに探求の価値があるからです。その意味付けを行う際に現れてくるのが、「自分」です。自分のものの見方や、大切にしていることが、物事を評価し、優先順位付けを行います。

探求学習で自分を知る機会を持ち、自分の内にある利他の心と出会い、大人がその環境を創り見守る。これが、未来の教育の姿ではないでしょうか。

仮説の質を高めるリフレクション

2022.03.14文部科学教育通信掲載

経験から学ぶリフレクションの指導を繰り返す中で、新たな気付きが有りました。それは、リフレクションの質が高まると、仮説の質も高まるということです。

AARサイクル

OECDが提唱する学びの羅針盤2030は、子どもたちがトランスフォーマティブ・コンピテンシーを身につける敎育へのシフトを奨励しています。AAR(Anticipation, Action, Reflection)サイクルは、学びの羅針盤2030で紹介されたリフレクションのためのツールです。仮説を持って、行動し、リフレクションを通して学び、次の仮説に活かす。前例のない時代に必要なアジャイル思考や、プロトタイプ思考にもつながる、試しながら結果を創造するプロセスに、欠かせない思考習慣です。

 

経験から学ぶリフレクション

21世紀学び研究所は、経験学習サイクルを元に、経験から学ぶリフレクションを、5つのステップで行うことを奨励しています。経験学習サイクルは、皆さんのも御存知の通り、経験をしたら、経験を振り返り、法則を発見し、次の計画に活かすというシンプルでパワフルな経験学習のツールです。経験から学ぶリフレクションも、この経験学習サイクルを土台にしています。

 

経験から学ぶリフレクション 5つのステップ

  • 想定していた結果と、実際の結果を振り返ります。
  • 行動する前に考えていた行動計画と仮説を振り返ります。
  • 経験と感情を振り返ります。
  • 経験から学び、法則を見出します。
  • 法則を次の計画に活かします。

 

行動計画と仮説

経験を振り返る際に、行動は振り返るものの、行動計画を振り返る人は少ないかもしれません。また、その行動計画の前提となる仮説を振り返る人はとても少ないようです。しかし、実は、行動計画と仮説の振り返りが、未来を変える上でとても重要なものであることに、改めて気付かされています。

 

幸せになるために

経験から学ぶリフレクションを多くの方たちと実践する中で、「人は幸せになるために生きている」ことに確信を持つようになりました。それは、人生がすべて幸せで満ち溢れているという意味ではなく、私達は、幸せになるために行動しているという意味です。この気付きは、行動計画と仮説のリフレクションを通して得たものです。実際の結果が想定とかけ離れたものであったとしても、行動の時点では、「こうすればうまくいくはずだ」という前提で、人は行動を選択しています。

例えば、「これくらいでだいじょうぶだろう」とあるレベルを想定し、行動する時、人は、そのレベルで望んでいる結果を手に入れることができると考えています。そして、そのレベルの選定は、過去の成功体験に基づき設定されています。ヤマカンがあたって100点が取れた経験を持つ人が、次も、ヤマカンで90点は取れるだろうと、テストの準備に力を入れるのを止めるかもしれません。ところが、次のテストでは、ヤマカンが外れてしまった。そんな経験は、人生に付き物です。この2つの経験を経て、人生はそんなに甘くないと、地道に努力する大切さを学び、計画的に勉強することで、よい成績を取ることを目指すようになります。(ただし、人は幸せになるために生きているため、目の前に、ゲームなど、今の自分をもっと幸せにすることができる目的が現れると、勉強の習慣は後回しになってしまうかもしれません。これは、幸せの定義や人生の目的の話になりますので、また、別の機会で解説できればと思います。)

 

仮説に無自覚

「こうすればうまくいくはずだ」は、行動の前提にある仮説です。ところが、多くの人は、この仮説に無自覚なことが多いです。仮説を分析したり、評価したりする人はとても少ないです。もし、行動前に、行動の前提となる仮説をしっかりと点検することができたら、成功の確立が上がると思いませんか。

私達は、一日に3万5千回も決断をしているそうなので、一つひとつの決断の前提を自分に尋ねることは難しいです。しかし、自分が成功させたい、望む結果を手に入れたいと思う特別な決断に対しては、特別に扱ってもよいのではないでしょうか。その際に、計画や、シミュレーションなどを行うことも大切ですが、以外な盲点が、自分が立っている前提です。あなたが想定している「こうすればうまくいく」は本当ですかという問いかけをおすすめするのが、仮説のリフレクションです。

仮説の背景には、必ず経験を通して知っていることがあります。今日のように、変化の激しい時代には、過去の経験が通用しないこともありますから、更に、仮説の検証は重要になっています。

 

仮説のリフレクション

仮説はなにか。

仮説の背景には、どのような過去の経験があるのか。

例えば、自己紹介のプレゼンテーションを成功させるために、しっかりと練習することを計画した人には、どんな経験があるのでしょうか。

 

仮説の前提となる経験

大学の授業で行ったプレゼンで、資料づくりにエネルギーを使い果たし、発表の準備をせず本番に臨んだ。寝ずに準備したプレゼンの内容には自信があったのに、時間内にうまく説明できず悔しい思いをした。

この経験を通して、プレゼンテーションは、内容の準備のみならず、発表の準備も忘れては行けない事を学びました。また、発表は、時間の枠の中で収まるように準備しなければならないことに気付かされました。

この経験を経て、周到な準備には、プレゼンの内容やパワーポイントの準備に加えて、発表そのものを時間内に効果的に行える準備も大切であると意識するようになりました。そして、この気づきを、次のプレゼンに、その経験を生かしています。

 

AARサイクルと幸せな未来

OECDは、学びの羅針盤2030の中で、『計画的な行動と経験をリフレクションすることを通して、学習者は、物事に対する理解を深め、視野を拡大していく。AARサイクルは、個人と社会の幸福につながる学習方法』と説明しています。

AARサイクルは、前例のない時代に、未来を創造するプロセスでもあります。仮説を持って行動し、結果を検証し、軌道修正することの大切さは、今日、企業活動でも盛んに言われています。念入りな計画を作成し、計画通りに物事を推進することで成果が出る時代は終わりました。このため、一人ひとりに、より高い主体性が求められるようになりました。自ら、考え、行動し、経験から学び、仮説を組み立て行動し、必要なら軌道修正も行わなければならない。この新しい時代の仕事にも、AARサイクルは役立ちます。

 

生徒エージェンシーへの期待

学びの羅針盤2030では、生徒は、よりよい社会を創造する主体(エージェンシー)であると定義しています。誰もが、主体的に、自分と社会、今では社会は世界とつながっているので、合わせて世界を幸せにするために、様々な活動に参画し、寄与していくことになります。一人ひとりが、自分の判断と行動に意識を向けて、決断を下すことができるようになると、その結果、一人ひとりが願いを叶えることになり、また、社会全体でも、幸福度が増すはずです。

今日では、ESG投資やSDGs等 地球規模で同じゴールに向かって活動することが可能になりました。テクノロジーの進化により、生徒が、社会の一員として、よりよい社会に貢献しやすい環境も生まれています。

前例のない変化の激しい時代に生きる私たちが願いを叶えるためには、計画や行動の質に加えて、その前提となる『仮説の質』を高めるリフレクションが大切です。『PDCA&AARサイクル』の時代です。

社会起業大学

2022.02.28文部科学教育通信掲載

社会起業大学は、2010年に設立された日本初の社会起業家育成に特化したソ-シャルビジネススクールです。600人を超える卒業生が日本各地、世界各地で社会起業家として活躍しています。

学長の林浩喜氏は、商社で活躍されてこられたビジネスパーソンで、米国コーネル大学ホテル経営大学院に留学された後、日本初のベーグル専門店『ベーグル&ベーグル』を創業し、世界第4位のベーグル専門店の育てあげた方です。ビジネスど真ん中で活躍されていた林さんは、御自身の経験や知識を社会に還元したいという思いで、社会起業家大学の学長に就任されました。

社会起業大学のミッションは、『ソ-シャルミッションの普及、社会起業家の育成・支援』、ビジョンは、『卒業生が社会起業家精神を持って活躍し、次世代により良いバトンを渡す世界』です。その前提に、『人がもっとも深い喜びを感じるのは、自分の才能を生かして誰かの役に立った時である』 という思想があります。

1月26日に、学長特別対談でリフレクションをテーマに講演を行う機会を頂きました。講演後には、林学長との対談、参加してくださった皆さんとの対話を行いました。

 

社会起業大学と学びの羅針盤2030

リフレクションは、未来を創造する力です。OECDが2003年に発表したVUCA時代を幸せに生きる子どもたちのための敎育に関するガイドラインで、リフレクションは要であると記載されていることを知り、その重要性を広める活動をはじめました。

OECDの敎育に関するガイドラインも、その前提に、持続可能な社会の発展と、人々の幸福があります。OECDは、その後、このガイドラインを改定し『学びの羅針盤2030』を発表していますが、その前提には、社会企業大学のビジョン『卒業生が社会起業家精神を持って活躍し、次世代により良いバトンを渡す世界』ととても共通する部分があります。

学びの羅針盤2030には、生徒エージェンシーという言葉が登場します。生徒は、よりよい社会を創造する主体であるという考え方です。また、教員も、よりよい社会を創造する主体であり、生徒と教員が共によりよい社会を創造する仲間『共同エージェンシー』として、活動していくことを提唱しています。そこには、教える人、学ぶ人という主従関係はありません。子どもも、大人も、社会の一員として、社会をよりよくするために行動することができるからです。

トランスフォメ-ション

学びの羅針盤2030は、よりよい未来を創造する成人を育むために、トランスフォメーションを実現する力を育むことを目指します。

社会人の敎育に携わる中で、ラーニングには、トランザクションナル・ラーニングと、トランスフォメ-ショナル・ラーニングの2種類があると教わりました。知識の習得を目的とした学びが、トランザクソナル・ラーニングで、ものの見方や価値観の転換を伴う学びが、トランスフォメ-ショナル・ラーニングです。従来の学力向上を目指す学習は、トランザクショナル・ラーニングで、社会課題解決力向上を目指す学習は、トランスフォメ-ショナル・ラーニングです。このため、学びの羅針盤2030では、知識、スキル、態度、価値観の4つが学びの領域に含まれます。

学びの羅針盤2030は、よりよい社会・未来の実現に主体的に参画する地球市民を育むことを目指しており、『卒業生が社会起業家精神を持って活躍し、次世代により良いバトンを渡す世界』の実現を目指す社会起業大学のビジョンと「目指す姿」は同じです。

 

ウェルビーイング

学びの羅針盤2030の究極のゴールは、ウェルビーイング(幸福)です。それは、一人ひとりの幸福であり、また、人類の幸福でもあります。気候変動を始めとする地球共通の課題を解決するために、今、世界は、SDGsという共通目標を掲げて、活動を始めています。その取り組みには、国、組織、個人レベルで、濃淡がありますが、2030年のゴールに向けて、世界が共通の目標を掲げ、個人レベルでの参画を実感することができる共通目標の達成に向けた取り組みは、SDGsが初めてなのではないかと思います。そう考えると、SDGsは、学びの羅針盤2030の社会実装と捉えることができます。

 

 

ポジティブ心理学の父と言われているセリグマン博士は、幸福の主観的領域を5つ提示しています。5領域とは,P(Positive emotion,ポジティブ感情),E(Engagement,物事への積極的な関わり),R(Relationship,他者とのよい関係),M(Meaning,人生の意味や意義の自覚),および,A(Accomplishment,達成とそのための努力)のことです。

ポジティブ思考を持ち、よりよい社会を実現するために、信頼できる仲間と共に行動し、自分が社会や人々のために役に立っている事を実感し、社会がよりよくなるという結果自己の貢献を確かめることができれば、人は幸せに生きることができると捉えることができます。

社会起業大学の思想である『人がもっとも深い喜びを感じるのは、自分の才能を生かして誰かの役に立った時である』にも、共通する部分があります。

ウェルビーイングとリフレクション

リフレクションは、ウェルビーイングを実現するための手段の一つです。なぜなら、自分を知ることが、自分を活かす上で、大前提だからです。自分が誰と一緒にいると幸せなのか、自分が何をしている時に幸福を実感するのか、自分は何に貢献したいのか、自分にとって何が大切なのかを知ることで、自らの幸福度を高めることが可能になります。同様に、自分が、幸福を感じられないときはどんな時なのかを理解することで、幸せでない状態にならないように工夫することができます。

社会課題とリフレクション

同じ社会に生きながらも、人の興味関心は多様で、誰もが同じことを課題だと感じる訳ではありません。人が課題を発見するレンズは、自分の大切にしていることと密接に関わっています。敎育問題の解決に貢献したいと考える人も、実現したいテーマは、非認知能力開発、21世紀スキル、体育やスポーツ、プログラミング教育等様々です。

自分のレンズ(センサー)が課題を発見した際には、その瞬間を逃さず、リフレクションです。

なぜ、私はそのことが課題だと思うのか。

私は何を大事にしているから、そう思うのか。

私の願う「ありたい姿」はなにか。

そのために、私にできることは何か。

自分に尋ねてみることで、誰もが、社会を変えるために、今、自分にできることで貢献をする社会が実現するのではないでしょうか。

システムコーチング

2022.02.14文部科学教育通信掲載

皆さんは、システム・コーチングをご存知でしょうか。

通常のコーチングは、1対1で行われますが、システム・コーチングは、チームや組織単位でコーチングを受けるのが特徴です。チーム単位で行うコーチングなので、一般的には、ワークショップ形式でコーチングを受けることになります。

NPOラーニングフォーオールのリーダーと共に、システム・コーチングを受ける機会を得ました。コーチは、約10年前に、システム・コーチングを、日本に導入し、紹介してくれた森川有里さんです。

10年前に、日本で最初に行われたワークショップに私自身も、参加し、システム・コーチングについて学びました。それ以降、チームや組織が課題を抱えた時や、節目となるタイミングで、システム・コーチングを実施することにしています。

 

3つの現実レベル

システム・コーチングでは、3つの現実レベルを大切にしています。

1つ目は、目に見える、誰もが理解できる現実です。私達が、通常、現実という言葉で想像するのは、この現実のレベルです。

2つ目の現実は、ドリーミングです。ドリーミングは、まだ、人々の心の中に存在するものなので、一番目の現実のように目で見ることはできません。しかし、ドリーミングの多くは、時間の経過とともに、現実へと移行していきます。夢は、かなわないこともありますが、明確な願いを持ち、行動し続けることで、未来を変える力となります。

3つ目の現実は、エッセンスと呼ばれるものです。エッセンスは、ドリーミングのように具体的なイメージになっていない、心の奥に存在するものです。例えば、よくわからないけれど、なにかもやもやする、ザワザワする等 感情が先に、その存在を察知するのですが、認知レベルでは、言葉にできないものが、エッセンスレベルの現実です。

ワークショップでは、3つの現実レベルを同時に扱います。このため、コーチのスキルが問われます。

 

神話の起源

今回のワークショップでは、まず、神話の起源を深堀りました。スタートから今日までに起きた主要な出来事を振り返り、その時々に起きた出来事とともに、一人ひとりが、その時何を考え、何を感じていたのか。何に喜び、何に苦しんできたのかを振り返りました。

ラーニングフォーオールは、この10年間成長し続けています。その成長の過程には、いろいろな苦労があり、また、メンバーも新旧混在しているため、入職したタイミングによって、経験も異なります。強いチームでいるためには、そのすべてを全員が共有した状態であることが望ましいと考え、ワークショップを実施しました。

 

現実

私達が現実を創るプロセスは、感情から始まります。論理的思考を大事にしている方には、違和感を覚える意見かもしれません。しかし、この違和感も感情の機能によるものです。感情による選択が、思考に発展し、思考が行動につながることで、現実が現れて来ます。論理的思考を大切にしている人は、論理的に考えるという道を選び、その結果、行動計画が作成され、実行に移されることになります。しかし、多くの場合、私達は、この感情のパートを言葉にすることはなく、また、多くの場合、無意識に行っています。しかし、願いが叶わなかったり、思い通りにならない時には、感情が動き残念な気持ちになります。

 

認知の4点セット

昨年、リフレクションの本を出版し、認知の4点セットを紹介しました。認知の4点セットは、意見、経験、感情、価値観の4点セットです。自分の意見を、意見だけではなく、その背景となる経験、感情、価値観をセットで俯瞰することができるメタ認知のためのツールです。システム・コーチングでは、人と人の間にある関係性に注目を当てるため、感情と価値観レベルでの対話に焦点が当たります。私はなぜそう思うのか。私は何を大切にしているのか。あの人は何を思っているのか。あの人は何を大切にしているのか。私達は何を思っているのか。私達は何を大切にしているのか。私、他者、チームへと、問いが発展しています。

 

実践事例

企業では、例えば、部門間のかべを超え、一丸となって行動したいと考えているリーダーが、真のチームビルディングを実現するために、システム・コーチングを行います。ワークショップ形式で行われるシステム・コーチングの特徴の一つは、場を活用することです。実際に、部屋の中に、製造部、財務部、営業部など、部門のスペースをつくり、その部門のスペースに立って、そこにいる人達が何を考えているのかを想像します。その考えを、声に出してみることで、部門の様子が、その場に再現されます。例えば、製造部門の人は、いつも、良い商品を製造することを最優先していますが、営業部門は、売上を重視します。その結果、営業は製造に、価格競争力を高めるために、コストダウンの要求をすることがありますこのように、異なる価値観が対立をすることで、部門間に亀裂が生まれるということは、とても良くあることです。

こうした対立を、自分の立場だけを主張して、相手が理解しないのが間違っているというスタンスで捉え続けていても、良いチームになることはありません。お互いのニーズを理解した上で、何を優先するのかを一緒に決めて行く必要があります。システム・コーチングを行うことで、異なる部門の人たちが何を大切にしているのかを正しく理解することが、チームや組織を強くします。

 

ワールドワーク・氷山モデル

システム・コーチングは、コーチングを行うプロたちが、繰り返し現れてくるクライアントの悩みの多くが、人や組織との関係性に根付くものだという気付きから生まれたと聴いています。

システム・コーチングには、ワールドワークというアプローチが用いられています。ワールドワークとは、人との関係性の中で、あるいは組織や社会の中で起きている問題や課題を、プロセスワーク(深層心理学)の立場から紐解いて行きます。

システム・コーチングでは、氷山モデルにおける水面下の目に見えない部分を扱います。このため、ワークショップを行うと、どのような社会通念や、カルチャー、価値観などが、現実を創り出しているのかを俯瞰することができます。集団で行うため、一人の気付きが、他者に与える影響も活用できるので、集団全体のメタ認知力も高まって行きます。

 

場の変化

チームや組織に、第3者がコーチとして介入することによって、場に起きる変化は大変興味深いです。変化は、3つの現実レベルで起きるので、コーチは、小さいシグナルを広い、チームに揺さぶりをかける問いを投げかけ、場にゆらぎを起こし、場が自ら、出現したい方向に動いていく事を支援します。シグナルは現実レベルで目に見えるものですが、それ以外のドリーミングやエッセンスは、人々の内面に存在する見えないものです。

私は、システム・コーチングを通して場が変わる体験を何度もしています。その変化は、

一人ひとりの内面に起きる変化と、メンバー同士が相互に影響しあって起きる変化と、メンバー同士の関係性に起きる変化の大きくは3つあります。

 

目に見えないもの

システム・コーチングが扱う領域は、目に見えない現実であり、それは、人々の願いや潜在意識、感情や価値観です。また、目に見えない人と人の繋がりや、場に現れてくるエネルギーなどです。これらはすべて、私達が創り出している世界そのものに存在するものです。ぜひ、皆さんも、目に見えないものにも、意識を向けてみてください。

箕面市の子ども成長見守りシステム

2022.01.24文部科学教育通信掲載

こども庁創設の準備が始まり、こどもを中心に置いた社会づくりの第一歩が始まろうとしています。名称が、こども庁から、こども家庭庁に変更されたことは大変残念ですが、縦割り行政の弊害をなくし、すべての子どもたちの成長と発達を支援する社会を目指すことは、素晴らしいことです。

 

縦割り行政の壁

NPOラーニングフォーオールの活動を通して、子どもの学習支援を行う際にも、省庁や、自治体の部署の壁にぶつかることが多く有りました。例えば、学習支援事業を行う際も、福祉の予算の場合、学校での学習支援が実施できないなど、子どもたちの事情ではなく、大人の事情で物事を推進していかなければなりません。それは、まるで、一人の子どもの一日の暮らしを、福祉と教育で区分するような発想は、人間の営みから見ると、とても不自然な在り方です。また、縦割り行政では、妊娠期、小児期を経て大人になるまで、切れ目のない支援体制を実現することがとても難しいです。

こども家庭庁創立にあたり、子どもを中心に置いた取り組みのベストプラクティスの勉強会が行われています。そこで、ベストプラクティスの代表例である箕面市の「子ども成長見守りシステム」をご紹介したいと思います。

 

貧困の連鎖を断ち切るために

大阪府箕面市の人口13万8千人。そのうち、0から18歳が2万7千人います。箕面市では、貧困の連鎖を断ち切ることを目的とし、生活困窮世帯の子どもに対して支援を行っています。多くの場合、生活困窮世帯の子どもたちに対する支援は、「せめて学校についてこられるように最低限の手当をする」という考え方が一般的のようですが、箕面市は、最低限の手当をするだけでは不十分であると言い切っています。

  • 箕面市の役割認識

箕面市では、課題が健在化している子どもだけを対象に支援を行うのではなく、今、“健全”に見える子どもたちでも、「家庭の貧困」という今後課題を抱える危険をはらむ「環境因子」のある子どもたちに目を向けて、見守り続ける取り組みを行っています。

また、最低限の支援ではなく、社会に出でる選択肢の前に立つ18歳まで、子どもの能力・自信・気概を高いレベルにまで押し上げるために、継続して切れ目のない支援を行うことが大切であると考えています。そして、それは、子どもの義務教育を担い、住民の基礎情報を持つ継続的な組織である市町村だからこそできることだと考えています。

  • 教育と福祉の融合

箕面市では、組織改編を繰り返し、現在では、「子どもに関することはすべて教育委員会で」と、すべての子どもに関連する施策を教育委員会に一元化しています。福祉と教育の役割を明確に切り分けるのが、一般的な考え方なので、とても先進的な取り組みです。教育と福祉が融合することで、子育て支援と母子保健の融合が進み、就学前の子どもを一元化して、幼稚園、保育園、在宅保育のすべての0~5才児を教育委員会で一元的に見ることができる体制を整えることができます。また、その前提として、子どもの貧困の連鎖の根絶は、敎育大綱における方針に位置づけられ、組織全体の重点事項として取り組まれています。

  • こども成長見守り室

平成28の構造改革に合わせて敎育委員会の子育て担当部門に、新たに「子ども成長見守り室」が設置されました。子ども成長見守り室は、子どもに関する市役所内に分散している情報を集約するハブとしての機能を果たします。また、子どもに関する情報を定点観測し、支援の必要な子どもを見つけたり、支援をしている子どもの変化をおとなになるまで追い続けて、随時、必要な支援を行うために、市役所内の司令塔の役割を果たします。

こども成長見守り室が中心となり、市内の小中学校30校が、年2回のシステムの情報更新と、見守りシステム活用会議を実施し、子どもの状況のフィードバックを行うなど、情報共有と連携が進められています。

  • 子どもを支援するためのデータベース

子どもの支援を行うためのデータベースには、①親の経済的困難を想定できる情報、②経済的困窮を要因として発生している現象の2つがあります。

子どもの状況が見えるが根本にある貧困が見えない情報

  • 学力・体力調査結果
  • 生活状況調査結果
  • 日常の行動・衣服などの状況
  • 学校検診・乳幼児検診の結果
  • 虐待に関する通報・対応状況

家庭の困窮は推定できるが子どもの状況が見えない情報

  • 生活保護の受給状況
  • 児童扶養手当の受給状況
  • 保育料算定時の所得状況
  • 給食費の滞納状況
  • 就学援助の受給状況

子ども個人をキーに名寄せをすると、子どもを支援するために必要な情報が明らかになります。

  • 見守りが必要な子どもが見えてくる(経済的困窮)
  • 支援が必要な子どもが見えてくる(経済的困窮と子どもの変化)
  • 支援を受けている子どもの現状が分かる(親の状況と子どもの状況)
  • 支援を受けている子どもの経年変化を追跡できる(子どもの変化と集団の変化)

・子ども成長見守りシステムによる判定

子ども見守りシステムでは、生活困窮判定、学力判定、非認知能力判定の3つの判定を行い、3つの要素を統合して子どもの状態の総合判定を行います。判定は、年に2度行われ、それ以外にも、必要に応じて、個別に判定を行います。

2018年後半の判定では、0歳から18歳の子どものうち、4774人が見守り・支援の対象としてリストアップされ、そのうち462人の小中学生が、重点支援が必要と判定されました。しかし、そのうち116人(25%)は、学校などでは見守りの対象になっておらず、ノーマークの子どもたちだったそうです。

ノーマークの子どもたちは、学校で、低学力であることは認識されていても、特に目立つことがなく、特に気になることがない場合には、「おとなしい子ども」という認識で、学校現場では、特に支援が必要な子どもであることに気づき難いようです。

子ども成長見守りシステムでは、学力偏差値、非認知能力の一部の数値が乱高下している等の異常値を見つけることができるため、学力や気持ちが不安定であることがわかり、学校現場では気づけない、支援の必要な子どもを特定できたそうです。

最近では、政府もDXを奨励していますが、箕面市の子ども成長見守りシステムは、まさに、データ駆動型行政システムのモデルケースだと思いました。

 

  • 個人情報保護条例への対応

子ども成長見守りシステムを実現するためには、個人情報保護条例による「実施機関のかべ」と「収集目的のかべ」という2つの壁を取り除く必要があったそうです。そこで、平成27年度に条例を改正し、切れ目のない支援を実現するために情報共有ができる環境を整備しました。

また、平成24年度から、子ども達一人ひとりの状況を、学力、体力、生活の観点で調査し把握するステップアップ調査を実施し、見守りや支援を受けている一人ひとりの子どもの変化を把握しています。調査結果は、支援の効果を評価するために活かされ、支援の見直しにも活用されています。

 

箕面市のさらなる願い

高校との情報共有を、市町村単位で行うことが難しく、現在の仕組みでは、中学校を卒業した子どもたちの状況を把握することができないことが課題だといいます。

多くの自治体では、中学校を卒業するまでの子どもたちの情報は一元管理されておらず、支援を必要とする子どもたち全員にリーチすることが困難な状態です。箕面市の事例が、日本中に広がることを期待したいです。

ダイバーシティ経営

2022.01.10文部科学通信掲載

なぜ、ダイバーシティ経営が企業の持続的発展に欠かせないのか ~ダイバーシティ経営の真の価値とは~ というタイトルで、セミナーを実施致しました。その一部をご紹介させていただきます。

202030

昭和女子大学キャリアカレッジでは、2014年から本テーマに向き合い活動を進めています。2014年は女性活躍推進が、成長戦略に位置づけられ、企業における女性活躍推進が本格化した年です。

202030は、安倍前首相が、2012年に世界に向けて発信した宣言で、2020年には、女性管理職比率30%を達成するという目標です。その後、働き方改革関連法が制定され、長時間労働をなくす動きが始まり、女性が出産後も働くことができる環境が整備されつつあります。

世の中は、グラデーションで出来ているので、今日においても、この動きに全く気づいていないリーダーも企業も存在しています。一方、感度の高い企業は、2014年から地道な取り組みを行い、働き方を始め、企業風土の改革を進めています。

日本における女性活躍推進は、ポジティブアクションとしてではなく、労働人口減少対策として本格化しましたが、日本社会に大きな変化をもたらしました。一つは、長時間労働をなくし、ワークライフバランスを重視するという新しい働き方です。もう一つは、女性が出産後に時短で働くことが当たり前になったことです。

ワークライフバランス

2020年に女性管理職比率30%は実現しませんでしたが、女性活躍の取り組みは、共働き社会に向けて着実な変化を遂げる事になりました。その結果、若い男性にとっては、ワークライフバランスは家庭円満の前提条件と考えられ、企業側も、長時間働くことが優秀な社員の証という考え方を手放す必要が出てきました。

先日も、ある企業で入社3年目の研修を実施させていただきましたが、誰もが生産性を高める工夫をしており、無駄な仕事、意味のない時間の過ごし方に対してはとてもシビアな目を持っていることに感銘を受けました。勤勉で意欲の高い優秀な若者は、ワークライフバランスの本当の意味を知っているように見えました。

ダイバーシティ経営

経済産業省は、ダイバーシティ経営を、多様な人材が、その潜在能力を開花させることで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていく経営と定義しています。文章を読めば、おそらく誰も異論を唱えないとおもいます。しかし、現実はどうでしょうか。

女性活躍推進が進めば、イノベーションが起きるのか。現実は、単純では有りません。ダイバーシティ経営の第1歩は、多様性の尊重と多様な人材の登用です。しかし、これは、あくまでも第1歩です。その先に、2歩、3歩と取り組まなければならないことがあります。

起業家精神に溢れた組織文化

  • 答えのない時代に、立ち止まらず機敏に学習する組織
  • かつてないほど、アジャイルで起業家精神溢れる企業文化

そのような環境があれば、多様な人々が無限の可能性を引き出すことができると言われています。

そのために、心理的安全性、アンコンシャスバイアス、エンゲージメントが欠かせません。

心理的安全性

そのために、心理的安全性は欠かせません。心理的安全性とは、思ったことを口に出せる環境です。こんなことを言ったら、誰かに馬鹿にされるかもしれない等と心配することなく、思ったことを口に出すことができる環境であれば、人は、伸び伸びと自分を出すことが出来ます。イノベーションが生まれやすい組織では、ブレインストーミングも活発です。ブレインストーミングの特徴は、誰もが、アイディアを出すことに貢献しますが、そのアイディアが正解である必要はありません。正解ではないアイディアを出すことが大切なのは、お互いの脳を刺激し合うからです。アイディアを出し続けているうちに、みんなで正解を創造することも可能になります。

アンコンシャスバイアス

一人ひとりの潜在能力を開花させるために、一人ひとりが注意しなければならないのがアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)です。誰もが、気づかないうちに、誰かの能力を潰すような発言をしてしまうということはよくあることです。例えば、「新しいアイディアを生み出すチームを創りたいので、若い人を集めよう」等と言うことがあります。一人ひとりの潜在能力を開花させることに真剣に取り組むグーグルでは、この発言は禁止されています。

なぜだかわかりますか。この発言が、年をとった人たちが、自分には新しいアイディアは出せないと、自分を諦めてしまうからです。もちろん、男性だから○○、女性だから○○も禁句です。

エンゲージメント

エンゲージメントとは、仕事にやりがいを持ち、充実していると感じられる、仕事に対するポジティブな心理状態のことです。エンゲージメントという言葉を世界中に広めたギャロップ社が2017年に行ったエンゲージメント調査で、日本は6%という結果でした。6%の人達しか、仕事に対するポジティブな心理状態にいないという結果です。アメリカは、32%なので、かなりの差があります。

一人ひとりが、潜在的能力を開花させるためには、エンゲージメントが高い状態であることは必須です。エンゲージメントは、4つの視点で高めることが可能です。

  • 目的:何のために仕事をするのか。意味のある仕事だと感じられることが大切です。最近では、パーパス(存在意義)経営という言葉も使われるようになりました。
  • 強みと役割:自分の強みを活かせているか。組織の目的に貢献している実感を持つことと同時に、自分の強みを活かして貢献していることが大切であると言われています。苦手を克服することも大切ですが、人が本当に貢献実感を持てる状態とは、自分の才能を活かし役にたっていて、それを周囲が認めてくれていると実感できる時です。
  • 成長:自分は成長しているか。組織の役に立っていても、成長を感じられないと人は、幸せに感じることはできません。成長意欲が高くないという人でも、マンネリは嫌いなはずです。勿論、同じことに取り組んでいても、自分の意思で技を磨き続けることができますから、成長のための環境は、自ら創るものということもできます。成長することは、①の目的や、②の強みと役割にも繋がっていて、よりよい貢献、より大きな貢献ができるようになる成長を、潜在的には誰もが求めているのかもしれません。
  • 繋がり:人間関係は良好か。イノベーションが生まれやすい環境には、心理的安全性が欠かせません。このため、人間関係においても、トラブルがないというレベルではなく、友人同士のような関係、ラグビーやサッカーの強いチームに見られるような深い信頼関係に支えられた関係が理想だと言われています。

特権という議論

最近では、ダイバーシティ推進において「特権」という言葉を耳にするようになりました。子どもの教育の世界では、よく耳にしていたのですが、ダイバーシティ推進においても、特権という概念を使うと説明が楽になります。特権の議論では、マジョリティは、自分が、下駄を履いていることに気づいていないと指摘します。

最後に

企業のダイバーシティ推進に取り組む際に、最初に行うのが、学校教育で染み付いた画一性を重んじる心を手放すことです。その必要がなくなる日が待ち遠しいです。

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