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未来教育会議 マルチステークホルダーでのシステム思考ワークショップ

文部科学教育通信 No.342 2014-6-23に掲載された教育と学習のイノベーションを探す(2)をご紹介します。

2013年6月に「未来教育会議」という、未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を多様なマルチステークホルダーで考え、一緒に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトを、株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に立ち上げ、2014316日にキックオフシンポジウムを実施し、250 名を超える皆さまにご参加いただきました。

同年4月15日には、政策分析ネットワークとの共催で、教育シンポジウム「オランダ先端事例に学ぶ 未来の社会と教育の在り方」~未来教育会議設立の背景とビジョン~ を開催し、200名以上の参加者が集いました。

この度、企業・行政・学校・NPO・家庭・地域の方々とともに日本の今の教育システムを理解するためにシステム思考ワークショップを開催いたしました。

今回のワークショップのゴールは、「誰かを悪者にして終わるのではなく、それぞれのセクターの立場を共有し、現在の教育システム全体を俯瞰すると同時に、なぜそのような現状となっているのかを構造的に理解する」です。

そこでの学びや気づきについて、ご紹介いたします。

 

●未来教育会議の思想

ワークショップのはじめに、未来教育会議の思想についてお話いたしました。

当プロジェクトは、以下の3点を大切に活動しています。

  1. 枝葉ではなく、根っこを考え、扱う。
    現象や出来事だけにとらわれるのではなく、システムレベルの変容にチャレンジします。

  2. 自己の変容。主体的に関わり、挑戦し、行動する。
    主語は「自分」、主体的に考え、主体的に行動します。決して観察者にならず、自分も変わることを恐れません。

  3. 多様性を大切にする。安心の場。
    個人の立場、組織としての立場、異なるステークホルダーの立場を行き来しながら、本当に大切なことを見出していきます。


日本の教育や社会について考えるとき、図らずも他の組織や人を責めてしまうこともあると思いますが、誰かを責めていても状況を変えることはできません。
未来教育会議では、自分もシステムの一端を担っていることを念頭に、多様性から学び、自己の変容を大切にしています。そのベースがあってこそ、未来の社会や教育の在り方を描くことができると考えています。

 

●プラウド&ソーリー

当プロジェクトの思想を共有した後、プラウド&ソーリーという手法を使って、「教育について、あなたが誇りに思うこと、申し訳なく思うことはどのようなことか」を、各ステークホルダーで考え、他のステークホルダーの人たちに共有しました。

たとえば、誇りに思うことでは以下の意見があがりました。(一部を抜粋)

・日本人のほぼ全員が教育を受けることができる
・一定レベルの学力水準を実現している
・子どもや先生の変化に立ち会うことができる
・学校と教育産業が補完しあっている
・先生はみんな子どもたちのことを真剣に考えている

申し訳なく思うことは、以下の意見があがりました。(一部を抜粋)

・大学で学んだ内容と仕事が結びついていない
・大学合格、実績を重視してしまう
・本当にサポートすべき人にサービスを届けられていない
・限られたリソースのため、活動のスピードが限られてしまう
・現状の改善に終始してしまい、根本的革新に至っていない

このように、誇りに思い大切にしていることと、申し訳なく思っていることを正直に共有することで、普段はなかなか関わることのない異なるセクターのことを深く理解することができ、立場は異なっても、多くの人が「より良い社会と教育」をつくるために、日々活動していることが明らかになりました。

 

●ストーリーテリング

次に、各ステークホルダーから一人代表を選出し、プラウド&ソーリーでは語りきれなかった思いや考えを深堀りしていきました。
21世紀スキルといったこれからの時代に必要となる力を子どもたちに届けたいと思っても、今の構造ではすぐに届けることが難しいため常に歯がゆさが伴うとお話しされた方もいらっしゃいました。また、「生きる力」を育むことの大切さを理解している一方で、受験制度の枠内で仕事をしていることにジレンマを感じているという声もあがりました。
様々な教育プログラムが存在する今、教育の機会が増えすぎて、どのような基準で何を選択すべきか悩んでしまうという保護者の方もいらっしゃいました。
また、近頃、学校や指導の仕方、先生のマインドなどの変化を感じるといった声もありました。より良い教育を子どもたちに届けるために、積極的に新しい考えや手法を取り入れている学校や先生も増えていることも事実です。
日本の教育をより良いものにしたいという願いをもったメンバーの喜びや焦りなど、よりリアルな意見を伺うことができました。

 

●教室内スタディツアー

ストーリーテリングでより深く思いを共有した後、教室内での疑似スタディツアーを実施しました。ここでは、ステークホルダーごとのテーブルを用意し、一人代表になってもらいます。その代表以外の人は、自分が興味のある他のステークホルダーのテーブルに移動し、質問したいことを聞き、対話します。
学校と一般企業との連携について対話しているグループでは、企業側のニーズが学校教育に与える影響や、インターン制度やCSR活動について話していました。また、入社後にすぐに辞めてしまう社会人について、なぜそのような現象が起きるのかも話し合いました。
保護者のグループでは、保護者の学校への期待や、地域や家庭との連携、PTA活動について深掘りしていました。モンスターペアレントと呼ばれるのではなく、どのようにすれば学校や地域と上手に連携していくことができるのかに興味のある保護者の方が多かったです。

 

●システムシンキング

これまで、様々な観点から教育の今を探っていきました。ここからは、「現状の日本の教育について深く掘り下げたい問題だと思うこと」について、その問題がなぜ起きているのかを探るためにシステムシンキングを行いました。
一人ずつ、自分が関心のある問題を紙に書き出し、自分の関心と近い人でグループになりました。
問題だと思うことを深堀りして理解し、関連する事柄を洗い出して、つながりをシステム図で表していきます。テーマとなった問題である「教育システムと社会システムのギャップ」や「社会に出たときに必要な力を教育する仕組みがない」では、社会に出たときに求められる力がなぜ学校教育で培われないのか、どうしたら培うことができるようになるのかを追究しました。
時代の変化に対応するためのニーズの多様化がある一方で、変化への恐れや過度の負担などが要素として出てきました。また、多くのニーズが学校や教員に対する圧力となっていることもわかりました。

 

今回このようなワークショップを開催し、日本の教育の現状に何が起こっているのか、どこにアプローチすればより良い教育と社会を実現できるのかをマルチステークホルダーで考えることができました。
引き続き、未来教育会議では未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を、多様なマルチステークホルダーで共に考え、共に豊かな現実を創造していく活動を続けてまいります。

未来教育会議:http://miraikk.jp/


未来教育会議 教育シンポジウム「オランダ先端事例に学ぶ 未来の社会と教育の在り方」~未来教育会議設立の背景とビジョン~

文部科学教育通信 No.341 2014-6-9に掲載された教育と学習のイノベーションを探す(1)をご紹介します。

2013年6月に「未来教育会議」という、未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を多様なマルチステークホルダーで考え、一緒に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトを、株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に立ち上げ、2014316日にキックオフシンポジウムを実施し、250 名を超える皆さまにご参加いただきました。
同年4月15日には、政策分析ネットワークとの共催で、教育シンポジウム「オランダ先端事例に学ぶ 未来の社会と教育の在り方」~未来教育会議設立の背景とビジョン~ を開催し、200名以上の参加者が集いました。このシンポジウムでは、2月に未来教育会議実行委員会で訪問したオランダのピースフルスクールやスティーブジョブズスクールでの気付きや学びを共有し、参加者と日本の社会や教育の在り方を考えました。

今回はこの教育シンポジウムについてご紹介いたします。


●未来教育会議のビジョン

シンポジウムでは、オランダの教育視察報告に先立ち、未来教育会議設立の背景とビジョンについてお話しました。
未来教育会議が目指しているものは、大きく二つあります。
ひとつは、教育に携わっている様々な立場の人や活動を繋ぐプラットフォームとなることです。2008年以降、世界では教育改革が猛スピードで進んでおり、日本でも教育現場の方々だけでなく、様々な立場の方が教育に関わるようになりました。そのため、同じようなことを目指した異なる団体の活動やサービスが増え、それぞれが日々より良い結果につながるように活動を続けています。こうした現状を一歩進め、教育システム全体を大きく進化させるために、それぞれの活動や団体を繋ぐ必要があると考えています。
もうひとつは、マルチステークホルダーで共有ビジョンをつくり、そのビジョンに向かってそれぞれが活動を続けることができるようにすることです。ビジョンがあるというのは、未来の社会、未来の人、そして未来の教育の三点で語れるということです。これら三点は密に関係しているため、どれか一点だけから未来のあるべき姿を考えたとしても、一貫性を保てず、大きな変化を生むことはできません。三点のつながりを意識して共有ビジョンを打ち出すことで、新しい教育のシステムが創出されていくと考えています。

●今、日本の教育システムに何が起きているのか

未来教育会議設立の背景には、このような気付きがありました。
教育関係者、保護者、行政の方々、企業人。どなたとお話ししても、日本の教育に危機感を覚えていると感じたのが2011年のことでした。そこでわかったのは、教育に関わる全ての人は子どもたちの幸せや子どもたちにより良い教育を届けたいと願っているにもかかわらず、現実の教育は破壊的な方向に向かっているということでした。目指す社会のイメージやビジョンがバラバラであるため、対処療法での問題解決に終始し、結果的に教育現場や子どもたちに負荷が増え、システムが複雑化していることもわかりました。教育をより良くしたい、子どもたちに幸せになって欲しいと願い、良かれと思ってしていることが、先生にとっては過剰な要求となり、子どもたちからは主体性を奪う結果になっているのです。
日本の教育は教育に関わる人々が作り上げていると思っていましたが、必ずしもそうではなく、メディア、保護者、社会の声に応える形で教育は変容しています。教育は社会が作っているのです。直接に子どもたちと関わる機会のない人でも、一人ひとりにできることはありますし、やってはいけないこともある、ということに気付いたのです。そのため、社会を構築しているマルチステークホルダーと共に未来の社会と教育の在り方について考え、教育をシステムとして捉えないといけないと思い、未来教育会議を立ち上げることになりました。立ち上げて間もないプロジェクトではありますが、今後も日本の未来をより良いものにするために活動を続けてまいります。

 ●オランダの先端事例に学ぶ未来の社会と教育のあり方

オランダの教育視察報告では、次の2点を中心に具体的な事例を挙げながらお話しました。ひとつは教育に関わる社会システム、もうひとつは教育の具体的な方法論です。
まず、オランダの教育の基盤となっている「教育の自由」について説明しました。オランダでは1917年に憲法で「思想の自由、設立の自由、方法論の自由」が保障され、1970年頃から教育に対して様々な方法論を担保しようといった動きが出てきました。学習指導要領はありますが、それを逸脱しない範囲で、学校がどのような教育を行うかを決定して良いことになっているのです。
また、オランダでは学校をサポートする民間機関が多く存在していることも社会システムの特徴といえます。今日、日本の教育市場は約23兆円となっており、学校運営、補助学習(学習塾など)、教材・学校支援といった市場があります。日本、アメリカ、ヨーロッパを比較すると、日本は補助学習の市場が大半を占めています。アメリカは職能訓練や学校の運営を民間が担っているケースが多く見られます。ヨーロッパは、学校支援のマーケットに集中しています。今回オランダの学校を視察し、学校というコミュニティにおいて子どもたちは学習し、心を育み、様々なチャレンジをしていることがわかりました。日本では、勉強を学校だけでなく学習塾に頼っているケースが多いですが、オランダでは学校の時間に勉強を行っているケースがほとんどで、限られた予算をどのように使うのが一番良いかを考えているのです。
教育の具体的な方法論では、学校と地域でシチズンシップ教育を実施しているピースフルスクールと、授業を全てタブレットで行っているスティーブジョブズスクールについてお話しました。
スティーブジョブズスクールは、ITテクノロジーで発達段階の個別教育を高度にサポートしていることが特徴です。習熟度別に学習を進めるため、子ども毎に時間割を決め、異学年が同じ空間で学習しています。どの子どもも時間を持て余すことなく、自分にあったレベルの勉強に熱心に取り組んでいるのです。子どもたちはバーチャルなものとフィジカルなものから学んでいることが印象的でした。
ピースフルスクールは、建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸にした教育プログラムで、民主的な社会の担い手であり、平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。「自分で考える」「異なる意見を持つ者同士で対話する」「決定にコミットする」という教育において大切な三点を、学校や地域で学んでいるのです。自分の意見を相手に伝え、相手の話をしっかりと聞き、感情を理解し、合意形成している姿を見て、これらは日本の子どもにとっても必要な力だと感じました。
未来教育会議は、日本の教育が欧米の教育に比べて劣っていることを指摘したいわけではありません。日本の教育をより良いものにするため、世界の事例から学ぶ必要があることを伝えたいと考えているのです。

オランダ教育視察(5) 全ての人が幸せに生きる アムステルダム市の取り組み

文部科学教育通信 No.339 2014-5-12に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(48)をご紹介します。

20142月中旬、先進的な教育の取り組みを視察するためにオランダを訪問しました。

5回にわたりオランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

教育の自由が保証されているオランダは、日本とは異なる教育システムを導入しています。

オランダ教育視察シリーズ第5回目である今回は、全ての人が幸せに生きるために様々な活動を行っているアムステルダム市の取り組みについて紹介いたします。

 

●オランダの教育システム

日本では、満6歳の誕生日以後における最初の41日から6年間を小学校、小学校等修了から15歳に達した日以後の最初の331日までを中学校等に就学させる義務教育が定められています。4月生まれの子どもも、早生まれと呼ばれる翌年の3月生まれの子どもも、同じタイミングで入学するなど、子どもの発達に合わせた入学の制度は取っていないと言えます。
オランダにも義務教育があり、5歳から18歳の間は義務教育を受けます。4歳のお誕生日を迎えると学校に入学して良いという案内が届き、5歳のお誕生日までに入学します。このように、どのタイミングで小学校に入学するのかを、子どもの発達にあわせて決めることができるのです。
4歳は義務教育の期間には含まれませんが、多くの子どもは4歳の誕生日を迎えると基礎学校と呼ばれる学校に入学します。また、アムステルダム市では4歳から初等教育への入学を認める新しい教育政策が施行されています。
オランダでは4歳から12歳までの期間を初等教育と呼びます。保護者は自分の子どもをどの学校に通わせるかを決めることができます。子どもたちは、初等教育の最終学年である小学6年生の時に、CITOテストと呼ばれる全国共通学力試験を受けて今後の進路を考えます。このように、日本と比較して早期のタイミングで進路が分かれていくことになります。
初等教育終了後、12歳から16もしくは18歳までの期間を中等教育と呼びます。中等教育は進路別に分かれていて、大きく3種類の進学先があります。
大学進学の準備を行う6年制のVWO(大学進学中等教育)と、5年制のHAVO(上級一般中等教育)、4年制のVMBO(職業訓練中等教育)があります。
進学の割合としては、VWOHAVOに進学する子どもが40%、VMBOに進学する子どもが60%となっています。
落ちこぼれてしまった子どもは、教育のやり直しをするか、職業訓練の道を選ぶことができますが、いずれも23歳になるまでに義務教育を終えることが求められています。
中等教育終了後は、VWOに通う子どもはWO(大学教育)に進学します。HAVOに通う子どもはHBO(上級職業教育)、VMBOに通う子どもはMBO(中等職業教育)に進みます。今までは4年間のVMBO終了後に進むMBOは必須ではなかったところ、近日MBOのレベル2までは義務教育に組み込まれました。ゆえに、子どもたちはいずれの学校に進学しても5歳から18歳の間は義務教育を受けることになります。
また、例えばHAVOからVWOに進みたいと思った場合、途中で進路を変更することもできるので、中等教育のタイミングで全てが決まってしまうわけではありません。
進学のタイミングもあくまでも目安であるため、子ども一人ひとりの発達段階に応じた進学が可能となります。それを当然とするマインドを皆が持てていることが大切であると思います。

 

全ての人が幸せに生きるためのセーフティネット

移民が多いオランダでは、オランダ語を理解できる人とそうではない人とが共存しています。学校では基本的にオランダ語で授業が行われるため、初等教育が始まる段階でオランダ語をある程度理解できていないと、授業についていけなくなる子どもが出てきてしまいます。
そのため、アムステルダム市では、教育面や言語面で恵まれない2歳から6歳までの子どもに対する早期幼児教育を行っています。近年、アムステルダム市内に住む2歳半以上の子どもを対象に、プレスクールを開始するようになりました。プレスクールは、言語面で不利な状況にある移民の子どもたちなどを対象にした入学準備のための機関として機能しています。言語の壁を早期に取り除くことで、授業についていけずに落ちこぼれたり、周囲とコミュニケーションがうまく取れずによい関係を築けなくなったり、自己肯定感が低くなる子どもを少なくすることが狙いです。
初等教育においても「Ready to Start」と呼ばれる言語面に不利な点がある子どもを対象にしたプログラムが行われています。このプログラムは言語学習に特化していて、6歳から9歳の間は学校教育内での言語学習機会をつくり、10歳から11歳の子どもは学校外や休暇中にも学習を続けられるようサポートします。初等教育から中等教育に移行する期間である12歳から13歳の間も言語学習プログラムを受けることができます。
このプログラムで子どもたちを指導する教師のための研修プログラムも存在します。教師は、効果的な言語教育を行うための研修や、保護者との連携をはかるためのコミュニケーションスキル向上の研修を受けます。
また、アムステルダム市が運営している言語学習のためのウェブサイトがあり、家庭で保護者と子どもが一緒に学習することもできるようになっています。学校でカバーできない部分は市が担うといった役割分担がうまくできていることも特徴であるといえます。
アムステルダム市にあるアムステルダム公共図書館内にも、言語学習のためのコーナーがあり、家で学習することが困難な人たちも言語学習を続けることができます。オランダ語が不得意な大人も学べる機会が保障されているのです。
このように、言語の壁を取り除くためのプログラムが複数存在しているのは、全ての人が幸せに生きることを大切にしているからであると思います。たまたま言語が理解でき、家庭が機能していて、教育の機会に恵まれた人だけが幸せになるのではなく、困難な状況に置かれている人たちも共に幸せになっていくことが大事だとされているアムステルダム市から見習うことがたくさんあるのではないでしょうか。

 

保護者との関わりを強めるための取り組み

子どもの教育を学校だけに任せるのではなく、学校が担うことの難しい部分を市が担当するといった役割分担がうまく機能していることも特徴の一つであるといえます。
アムステルダム市は、子どもの成績に影響を与える要素として、クラスサイズが8%、教師の質が43%、家庭環境が49%であると分析しています。
そのため、子どもが初等教育に通っている家庭に対して、「Active parents」と呼ばれる保護者との関わりを促すプログラムを行っています。
子どもが結果を出すためには、家庭での保護者の関心とアドバイスが大切であるとの前提のもと、学校・家庭・地域といったコミュニティが一体となって関わる必要があると考えています。
具体的には、教育上のパートナーシップを築きあげるために、保護者への情報提供を行い、密にコミュニケーションをとっています。
子どもだけでなく、その保護者や家庭にまで視野を広げてサポートすることを、学校と市が共に担っていくシステムが機能していることは、オランダの強みであるといえます。
子どもから大人まで全ての人が幸せに生きることを目標として、各部分が連携していくことは、日本にとっても必要であると思います。

オランダ教育視察(4) 新しい時代への教育 スティーブジョブズスクールの挑戦

文部科学教育通信 No.338 2014-4-28に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(47)をご紹介します。

 

20142月中旬、先進的な教育の取り組みを視察するためにオランダを訪問しました。
5回にわたりオランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

初等教育の自由度が高いオランダで、20139月に”スティーブジョブズスクール”と呼ばれる学校が7校開校しました。この学校では、授業は全てi-Padで行い、子どもたちはそれぞれの理解レベルに合わせて勉強を進めています。

オランダ教育視察シリーズ第4回目である今回は、新しい時代の教育に挑戦する”スティーブジョブズスクール”についてご紹介いたします。

  

●合言葉はEducation for a new era!

2013年9月、”スティーブジョブズスクール”と呼ばれる学校が誕生しました。アップル社の共同創設者にちなんで名づけられていますが、運営母体はO4NTというオランダの非営利団体です。オランダではこのように、リスペクトしている対象の名前を学校につけることがあります。
この学校での授業は全てi-Padで行われています。子どもたちは、教科ごとに自分の理解レベルに合ったレッスンを選択し、勉強しています。i-Padはツールであり、端末を使用する目的はその子どもにあった学習を継続することです。様々なアプリを利用することで、子どもごとのマルチプルインテリジェンスにあった学びを提供することが可能となっています。
この学校では、それぞれの子どもが教科ごとに異なるレベルのレッスンを受けているため、学年分けやクラスルーム形式での一斉授業はなく、異学年で学習を行っています。すでにその単元の学習を完了している子どもが、理解に躓いている子どもに勉強を教えるといった、学び合い、教え合いが自然と生まれています。
学校は午前7時半から午後6時半まで開いており、午前10時半から午後3時までのコアタイムを守れば、いつ登下校しても良いという制度をとっています。
カリキュラムはオランダの文部科学省が定めた58の学習目標に基づいて定められていますが、子どもたちは教師の助言を受けながら、取り組む学習目標を自ら選び、自分のペースで課題をこなしています。そのため、小学生のうちからプランニングする力を身につけることもできます。選択する権利と責任があることも学べるのです。
また、この制度を導入しているため、一斉授業で頻繁に起こる既に理解している内容のレッスンを再度受けなければならないとか、理解できないままに授業を受けるといった、子どもたちの学習意欲を下げることにつながる状況が生じません。全ての時間が子どもたちにとって学びにつながる時間として使われていることが大きな特徴です。
この学校には子どもたちの進捗を把握するシステムがあるため、教師はいつでも手元の端末から、誰がどの授業を受けているのか、問題を何問解いたのか、正解した問題と間違った問題は何か、どれぐらいの時間をかけているのかを確認することができ、それをもとに子どもたちに助言やサポートを提供しています。また、データで進捗を管理できるため、保護者との面談でもより具体的な話をすることが可能になっています。

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子どもの声を受けとめ、学校の改善に取り組む先生の姿

今回私が訪問したのは、新設の学校ではなく、従来の教育が行われていた学校にこの制度を導入したスティーブジョブズスクールでした。
なぜこの制度を導入したのか、学校の先生に質問したところ、以下の回答がありました。
学校の子どもから、「先生は僕のできないところには目を向けるけれど、できるところは見てくれない」と言われたことがあります。その時、子どもたちのペースを大切にできていないこと、一人ひとりの成長を見逃していることに気が付きました。また、私たちが教えていることは過去のものであって、これから彼らが社会に出る上で必要となってくる未来のものではないことにも気が付きました。21世紀を幸せに生きる力を学校全体で教えられていないという事実を目の当たりにしたのです。そのような状況を改善するため、それぞれの子どもに合った進度で学習を進め、できるようになったところをしっかりと認め、褒めることができる環境をつくるスティーブジョブズスクールの制度を採用することを決めました。
この先生のお話を伺い、既存の体制を批判的にとらえ、子どもたちにとってより良いプログラムや制度を躊躇せずに取り入れることの大切さを実感しました。新しいことを始めようとすると、校内や保護者からの反対にあうこともあります。しかし、本当に子どもたちにとって何が必要なのかを突き詰めて考えていくと、その時に取るべき選択肢が見えてくるのだと思いました。そして、その考えや思いをきちんと伝え、お互いに理解することで、学校のフィロソフィーや文化に同意できるようになります。
また、スティーブジョブズスクールでは個別学習をベースに授業を行っているものの、教育は知識を高めるだけでなく、人とのコミュニケーションから学ぶものが多いという考えのもと、バーチャルな方法とフィジカルな方法とをバランスよく取り入れることも大切にされていることがわかりました。一斉授業はありませんが、25人の異学年からなるホームルームはあり、コーチと呼ばれる担任もいます。体育や音楽、芸術のレッスンを選択することもでき、異学年で協働しながら授業に取り組んでいます。全ての時間をi-Padと向き合って過ごしているわけではないのです。
子どもたちにとって何が必要なのか、どうすれば必要な学びを届けることができるのか。
この問いの答えを探し続けることが先生や保護者にとって重要であると再認識しました。

  

先生の在り方、学校と家庭との連携

私が訪問したスティーブジョブズスクールでは、コーチと呼ばれる先生とパートタイムの先生がいます。コーチは25人からなるホームルームの担任を担当していて、得意な科目の先生として子どもたちと関わります。一人の先生が全ての科目を担当することはなく、算数が得意な先生は算数のレッスンで躓いている子どもをサポートします。
パートタイムの先生は13人の子どもをサポートします。それ以上の人数を担当することはなく、13人をしっかりとサポートすることをミッションとして働いています。
このように、先生によって役割が異なり、先生が無理なく安心して働くことのできる環境を整備できていることも特徴です。
また、学校と家庭の連携にも力を入れています。先生と保護者が対話を重ねることで、保護者が学校のフィロソフィーや取り組みに賛同していることも連携のベースとなっています。6週間に一度、先生と保護者、子どもで、勉強の進捗を振り返り、これからの計画を考える機会があります。その場では、子どもごとの進捗を記録しているシステムを利用します。
発達段階における個別学習の機会を担保しながら、自ら計画を立て学習を進める力を身につけられるスティーブジョブズスクールの思想を学びました。日本の学校現場にも活かすことのできるポイントがたくさんあると思います。

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オランダ教育視察(3) 学校・地域・家庭の連携 子どもも大人も学習するピースフルコミュニティ

文部科学教育通信 No.336 2014-3-24に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(46)をご紹介します。

 

近年、ピースフルスクールプログラム導入校での子どもたちや教師の変化が、家庭や地域社会にも良い影響を与えることが知られるようになりました。プログラム導入校の文化が校外にも広がり、子どもから大人まで様々な人達が学ぶコミュニティが生まれているのです。

ユトレヒト市では、70パーセントの小学校がピースフルスクールプログラムを実施していて、市内10地域のうち9地域がピースフルコミュニティとなっています。

オランダ教育視察シリーズ第3回目である今回は、子どもも大人も学習するピースフルコミュニティをご紹介いたします。

 

ピースフルコミュニティ

「一人の子どもを育てるには、村がひとつ必要である」

この言葉は、ピースフルコミュニティの概念を表しています。

子どもたちは、家庭や学校、地域社会といった複数の共同体で生活しているため、その全ての場所で同じことを繰り返し学んでいくことが、子どもの学習にとって大切であると考えられています。例えば、学校では「対立した時は、落ち着いて話し合いで解決しよう」と習っているにもかかわらず、家庭や地域社会でそれが体現できていないと、子どもたちは「本音と建て前は違うようだ」と思ってしまいます。そのため、子どもがかかわる全ての場所で一貫した学びの機会を作っていくことを目指したピースフルコミュニティが注目されています。

 

 ピースフルコミュニティができるまで

現在、ユトレヒト市中心に広がっているピースフルコミュニティですが、どのようにして学校から地域社会へと学びが広がっていったのでしょうか。

元々ピースフルスクールプログラムは、学校をひとつのコミュニティと捉え、先生と子どもたちが一緒に考え行動する、民主的な共同体を実現することを願って開発されました。そのため、子どもたちはコミュニケーションスキルといった知識を身につけるだけでなく、プログラムを通して安心安全な文化を自ら創ることができるようになります。

また、子どもは学校だけでなく家庭や地域などでも活動しているため、学校で学んだことを校外でも実践するようになります。例えば、家庭で夫婦喧嘩をしていると、’仲裁’を学んだ子どもが「私が仲裁しましょうか?」と保護者に話しかけることがあります。また、地域で大人同士の対立が起きた場合も、’赤い帽子’(自分の意見を押し通すスタイル)ではなく’黄色い帽子’(話し合いで解決するスタイル)で解決することが大切だと学んだ子どもが、「黄色い帽子をかぶって対立を解決した方が良いですよ」と大人に対してアドバイスすることもあります。

子どもが実践していることを大人が知らないでいると、学びが途絶えてしまう恐れがあります。「学校では対立を話し合いで解決することが大切だと習っているのに、大人の世界ではそうではない」と子どもが思ってしまっては、元の木阿弥です。

また、家庭や地域社会をより安心安全な場所にしていくことは、子どもたちが学習し続け、チャレンジできる環境を整えるという意味でも重要です。これらのニーズにより、大人もピースフルスクールプログラムから学ぶ必要性が高まりました。

まずは学校から近い共同体である学童保育やスポーツクラブでプログラム導入をはかり、’ビッグスクール’という形で校外でもプログラムの学びを実践する機会が生まれました。

その後、家庭や地域社会を含めたより広範囲のコミュニティで実践されるようになり、’ピースフルコミュニティ’が誕生しました。例えば、保護者や警察官向けのワークショップを開催し、子どもたちが学んでいるピースフルスクールプログラムのメソッドを大人たちも学んでいます。

 

 ピースフルコミュニティで行っていること

安心安全な場をみんなで創るため、学校関係者・保護者・ソーシャルワーカー・放課後プログラム(スポーツクラブなど)・デイケアセンター・市議会議員・警察官などが、共に様々な活動を行っています。

まず、お互いのことを理解していないと、些細なことでいさかいが起きてしまうため、お互いをよく知る機会を多く設けています。例えば、イスラム教の方は肌が接触することを好みません。しかし、イスラム教の文化や規範を知らない人からすると、握手を拒まれたことが悲しいと感じてしまいます。このような相手の文化背景への理解不足から対立が起きないように、どのような人がコミュニティに存在して、何を規範としているのか、どんな考えを持っているのか、といったことをお互いに理解し合うことを大切にしています。

また、どのようなコミュニティを創っていきたいのかという「共有ビジョン」を、コミュニティに属する人たちと共に考えます。その際、誰かを批判するのではなく、子どもたちにどんな大人に育ってほしいのか、そのためにどのようなコミュニティをつくるのか、どのような教育を行うのかを、「願い」としてお互いに共有します。

そして、子どもを含むコミュニティに属する人達で、その共有ビジョンがどの程度達成できているのかを確認します。もし課題があるとしたら、それはどのような課題なのか、解決のためにできることは何かを考え、解決のためにそれぞれが貢献します。

立場が異なる者同士で協働して安心安全な場を創り上げ、子どもも大人も共に学んでいるピースフルコミュニティから学ぶことは数多いと考えます。

 

 オープニングセレモニーの様子

オランダ訪問時に、新しいピースフルコミュニティのオープンセレモニーが開催され、我々日本からピースフルスクールを見学にきたメンバーも同席させていただきました。

セレモニーには、そのコミュニティを創る担い手である様々な立場の人が参加していました。

どのような思いで新しいコミュニティが出来たのか、コミュニティのコーディネーターであるペイトラさんがスピーチされた後、赤ちゃんが写った写真を参加者全員で見て、その赤ちゃんがどのような大人に育ってほしいのかを、参加者が発表し、誓いのサインをポスターに書いていきました。

学校関係者や保護者、市役所の方、警察官、スポーツクラブの方などが、それぞれの願いを共有し、お互いの思いを尊重している姿は、まさにピースフルスクールプログラムでの教えを体現していると感じました。このセレモニーに参加した子どもたちも、学校での学びが社会でも生かされていることを感じているようでした。

「一人の子どもを育てるには、村がひとつ必要である」

この概念を日本にも広めるため、活動を続けていきたいと思います。

オランダ教育視察(2) ピースフルスクール採用校での学び

文部科学教育通信 No.335 2014-3-10に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(45)をご紹介します。



20142月中旬、先進的な教育の取り組みを視察するためにオランダを訪問しました。

5回にわたりオランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

第2回目である今回は、ピースフルスクール採用校であるマルクススコールを訪問した際の学びをご紹介いたします。

 

レッスンでの子どもたちの様子

211日にユトレヒトにあるマルクススコールを訪問しました。

この学校の教育方針は、以下です。

「全ての子どもたちに学ぶ意思があるという前提のもと、その力をより伸ばすための教育を行っている。社会の一員として貢献するために、集団生活の中で自分の価値と役割を見出すことができる子どもに育てる。」

ここでは、グループ7(小学5年生)のピースフルスクールのレッスンを見学させていただきました。レッスンは以下の構成で行われました。

  1. はじまりのゲーム

    子どもたちは二人組になり、質問の書かれた紙を持ちます。それぞれが質問に答えたら、二人は握手をして別れます。また新しい人とペアになり、それぞれが問いに答えます。クラスのお友達と積極的に関わることで、質問するスキル、質問に答えるスキル、人によって答えや意見が違うことを学びます。

  2. レッスンのアジェンダ共有

    子どもたちはレッスン内容や学ぶことを把握します。このアジェンダでレッスンが進むことに賛成かどうか、先生は子どもたちに確認します。

  3. レッスン

    今回のテーマは「対話を通して合意すること」でした。第45回写真.JPG
    4人グループに分かれ、「CITOテストの制度に賛成か、反対か」について、自分の意見を他のメンバーに伝え、対話を通してグループで一つの答えを出します。
    CITOテストとは全国共通学力試験のことで、オランダでは、毎年2月、政府教育評価機構CITOが小学6年生の子どもたちを対象にこのテストを実施します。テストの結果をふまえ、子どもたちは今後の進路を考えます。
    はじめに、自分の意見をまとめます。その際、先生や他のお友達の意見に左右されず、自分はどう思うのか、を大切にします。そして、その意見をグループのお友達に伝えます。伝える際は、良い・悪いだけでなく、なぜそう考えたのかという根拠となる理由も伝えます。ピースフルスクールでは、理由を伝えないと意見としてみなされません。
    私が見学していたのは、男子一人、女子三人のグループでした。その内、CITOテストに賛成であるのは男子一人と女子一人。残りの女子二人はテストに反対という意見でした。それぞれが自分の意見を伝えると、対話をはじめます。
    最初に、テストの制度に反対であるという意見を持っている女子が「せっかく長年勉強を頑張っているのに、たった一回のテストで進路を決められてしまうのはおかしいわ。緊張してしまうかもしれないし、体調が悪いことだってありえるもの。」と言いました。すると、テストに賛成であると答えた男子が、「そうだよね。僕も緊張してしまうから、テストは嫌だなと思うよ。」と言い、反対であるという意見に変えました。他の人の話を聞いて納得した場合、意見を変えることも自由です。
    10分間の対話を通して、このグループではテスト制度に反対である、という意見にまとまりました。レッスンの最後にそれぞれのグループがどの意見に落ち着いたのか、その理由はなぜかを発表します。6グループ中4グループがテスト制度に賛成、2グループが反対という意見でした。

  4. レッスンのまとめ

    子どもたちの様子をふまえて、先生が大切なポイントを共有します。意見を伝えるには根拠も伝えること、納得していないのに意見を変えることは良くないが納得したら意見を変えても良いこと、話し合いを通して合意形成できること、既存の制度やルールが本当に正しいのか考えること。これらの重要性を伝えていました。そして、子どもたちに対して、何を学んだのか、その学びをどのように活かすのか、といったリフレクションの問いも投げかけていました。

  5. おわりのゲーム

    ほめ言葉サークルというゲームでレッスンを終えます。
    まず、子どもたちは円になります。地球柄のボールを持った子どもは、クラスのお友達の素敵だと思うところを一つ発表して、そのお友達にボールを投げます。ボールをもらったお友達は、別のお友達の素敵なところを発表し、その人にボールを投げます。「いつも周りに優しく接していて素敵だと思うわ。」「走るのがとても早いのが素敵!」「色んな神様のことを大切にしていて、すごいと思うよ。」
    普段なかなか伝える機会のないことを、こういったアクティビティの中で伝えていきます。

1から5までのレッスンは約40分で終わりました。授業開始前よりも場の空気はあたたまり、子どもたちからは自信や前向きな力が伝わってきました。レッスンを見学して、子どもたちの自己肯定感や共感力が高まる理由がわかりました。

 

メディエーター(仲裁者)との対話

ピースフルスクールには、メディエーターと呼ばれる対立やけんかの仲裁を手伝う人がいます。メディエーターはグループ7、8(小学5、6年生)であることが多く、自ら立候補し、その資質が認められた場合にメディエーターとなるケースが多いです。

今回、この学校のメディエーターである子どもたちと対話する機会がありました。

先生からは、「ピースフルスクールを採用し、メディエーターという制度を導入したことで、校内の対立やけんかは大幅に減少した。今では、メディエーターが仲裁するまでに至らず、対立やけんかを子ども同士の話し合いで解決できることが多い。」と嬉しそうに報告してくれました。

仲裁をする上で難しいと感じることは何か、という質問に対して、「仲裁をすることは、対立している二人の意見をきちんと聞いて状況を把握すること、どちらかに加担するのではなくどちらの意見も尊重すること、対立している子どもが自ら解決策を導けるようにサポートすることなどが難しいが、とても勉強になる。」と一人のメディエーターが答えてくれました。また、日本でもこの制度が必要かどうかという問いに対して、「日本にもけんかやいじめがあると思うけれど、この制度を導入すると自分たちで問題を解決するようになるから、必要だと思う。」という意見を聞くこともできました。また、将来の夢は何かという質問では、人のために働きたいという理由で医者やエステティシャン、先生、といった職業があがりました。先生や保護者の望みに応えるために夢を語るのではなく、きちんと自分でなぜなりたいのか、どのような大人になりたいのかを語ることのできる子どもたちを目の前にして、子どもは幼稚な存在なのではなく、大人が幼稚な存在に仕立て上げてしまっているのだと感じました。確かにオランダと日本で異なることはたくさんありますが、オランダと日本では文化が違うから、日本の子どもたちには無理だ、といった考えは、日本人のメンタルモデル(偏見)であって、子どもたちの力を信じられていないのだと痛感しました。

今後ピースフルスクールを日本で展開する上で、今回の訪問での気付きや学びを活かしたいと考えております。

 

ピースフルスクールのウェブサイト:http://peacefulschool.kumahira.org/

 

オランダ教育視察(1) ピースフルスクールとピースフルコミュニティ

文部科学教育通信 No.334 2014-2-24に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(44)をご紹介します。


20142月中旬、ピースフルスクール、ピースフルコミュニティ、スティーブジョブズスクールといった今注目されている新しい教育を視察するためにオランダを訪問しました。

今回から5回にわたり、オランダでの気付きと学びをお伝えしたいと思います。

第1回目は、ピースフルスクールとピースフルコミュニティについてご紹介いたします。

 

ピースフルスクールとピースフルコミュニティ

ピースフルスクールとは、建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸にした教育プログラムであり、民主的な社会の担い手となる平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。

このプログラムを採用している学校で学んでいる子どもたちは、自分の意見を持つこと、その意見を相手にきちんと伝えること、相手の話をよく聞くこと、自分の感情を認識すること、相手の立場に立って物事を考えること、対立は意見が異なることが原因で起きるので悪いものではないと理解すること、対立をケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決すること、多様性を尊重すること、といった幸せに生きるために必要な力を身につけています。誰かからの指示でしか行動できないソルジャーではなく、自分の頭で考え、答えを導く人になります。 

このプログラムは、1999年、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標に、オランダのエデュニク社が、ユトレヒト大学のミシャ・デ・ウィンター教授の協力のもと、学校教育として開発されました。当時のオランダも今の日本と同様に、学級崩壊やいじめの問題を抱えていたのです。また、オランダ国内に移民が増えたため、共存し共生する力を身につけなくてはコミュニティが崩壊してしまう危機にも直面していました。開発者であるレオ・パウ氏は、当時のオランダは民主主義が姿を消し始めていた、と表現されていました。

プログラム開発後、最初の一校に導入する際に、2年間の教員のトレーニングを行ったそうです。このトレーニングでは、教員はピースフルスクールで子どもたちに教えることを学ぶだけではなく、子どもたちがどういう人間に育ってほしいのか、学校をどのようなコミュニティにしたいのか、どういった社会を実現したいのかといったことを何度も対話をとおして考えます。このプログラムの成功の鍵は、ピースフルスクールを学校文化として根付かせ、あらゆる場面で学習することにあります。そのため、教員全員がこのプログラムの本質を理解し、自らがロールモデルとなり、学習者となる必要があります。

その後、ピースフルスクールを導入する学校が増え、現在では、オランダ全土で700校以上の学校が採用しています。また、導入から10年以上経った今では、学校の文化としてこのプログラムが完全に根付いています。子どもたちは、単なるレッスンを受けるだけでなく、学校のあらゆる場面で学ぶことができるのです。

ピースフルスクールが教えていることは、子どもだけでなく大人にとっても必要な学習であるため、今では学校教育にとどまらず、地域社会におけるコミュニティ教育としても広がりをみせており、ピースフルコミュニティと呼ばれています。また、学校で子どもたちがこのプログラムを学び、体現できるようになると、学校以外の場所(家庭や地域の活動、登下校の道など)でもプログラムの学びを実践します。そのため、大人もこのプログラムを学ぶことができるようにと、保護者や様々な職業に就いている大人対象のワークショップが開発されています。 

日本では、学校・地域・家庭は分断して語られることが多いですが、子どもは学校だけでなく、地域や家庭でも活動しているので、一貫して学べる環境を整えることが大切です。家庭や地域社会は学校を批判するのではなく、理解して支えます。学校での子どもの成長は、家庭や地域社会に良い影響を与えます。国全体が子どもたちに大きな関心を向け、学びが循環している安心できる環境で、子どもたちは育てられるのです。

このように年々広がりを見せているピースフルスクールでは、何を教えているのでしょうか。

 

5つの学習目標とベースとなる2つの力オランダ教育視察①.JPG

ピースフルスクールには5つの学習目標があります。

  1. 建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶ
  2. コンフリクト(対立)を自分で解決する
  3. 社会の一員としての責任感を持つ
  4. 他者を思いやり、多様性を尊重する
  5. 社会の仕組みの中での自分の役割を知る

オランダ教育視察②.JPG子どもたちは、この学習目標に向かって設計された6つのユニットを各学年で学習しています。ひとつのユニットは、5~10レッスンで構成され、各レッスンには、「自分の意見を持つこと」や「感情を認識すること」といった具体的なゴールがとりあげられています。

また、これら5つの学習目標のベースとなる2つの力があります。

  1. リフレクション(内省)と学習
  2. エンパシー(共感)

子どもたちは自らを内省するため、成功からも失敗からも学ぶことが出来ます。そしてその内省を通して気付いたことや学んだことを次に活かすことが出来ます。

また、エンパシーを高めることで、他者の感情を理解し寄り添うことができるようになります。

このように、ピースフルスクールは心の成長に大きく影響しますが、学力の向上にも大きく寄与しています。子どもたちはプログラムを通して自ら安心できる環境をつくることで、勉強や課外学習に力を注ぐことができるのです。

それでは、学校で行っているレッスンを具体的に説明しましょう。

 

ピースフルスクールのレッスン

ピースフルスクールでは、5つの学習目標に応じたプログラムを、各学年で繰り返し学習します。小さなステップを反復して練習することで、社会に出るまでに、ベースとなる力と学習目標を自然と身につけることができるのです。 

学習目標のひとつである、「建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶ」に関するレッスンをご紹介します。このプログラムでは、いきなり建設的な議論の仕方や、民主的な意思決定の方法を教えません。それらの前提となる力を身につけることを重視します。例えば、建設的な議論をするためには、まず、自分の意見をしっかり持つことが重要です。ある事柄について、自分はどのような意見をもつのか。また、他の人はどのような意見を持っているのかをさまざまなアクティビティを通して理解します。自分の意見を持てるようになり、相手の意見にも落ち着いて耳を傾けることができるようになったら、何らかの意思決定をするために議論をします。意見を持って議論に参加することで、例え自分の思いが意思決定に直接反映されなかったとしても、決定したことに対しては責任を持って行動できるようになるのです。このように、「建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶ」という学習目標に対して、数多くのステップを重ねていきます。

次回は、ピースフルスクール採用校での子どもたち、先生の様子をお伝えいたします。

ピースフルスクールのウェブサイト: http://peacefulschool.kumahira.org/

 

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マルチステークホルダーで教育の未来をつくる 未来教育会議

文部科学教育通信 No.333 2014-2-10に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(43)をご紹介します。

 

2008年以降、世界では教育改革が猛スピードで進んでいます。

‘グローバル化”複雑化”相互依存性’がキーワードとなる新しい時代において、人々に求められる能力が従来とは異なるということがその背景にあります。

教育を改革するために、教育現場、企業、行政、NPO/NGOといった様々な立場にいる人々がそれぞれ教育や社会のあり方について議論しています。しかし、皆望んでいることや願っていることを突き詰めると非常に近いことを思っているにもかかわらず、立場や所属が違うがゆえになかなか協働することができずにいます。

そのため、時間をかけているにもかかわらず、学校教育と社会全体の連携がうまくとれておらず、飛躍的に教育改革が進んでいるという実感はありません。

このような状況を解決し、より良い未来に全員で向かっていけるよう、株式会社博報堂をはじめとする企業の方々と共に、マルチステークホルダーからなる多様な人々と未来について話し合い、より良い教育、より良い社会を実現することを目的とした「未来教育会議」を立ち上げました。

今回は、未来教育会議立ち上げの背景を追いながらその魅力をお伝えいたします。

 

未来教育会議とは

 未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を、多様なマルチステークホルダーで共に考え、共に豊かな現実を創造していくためのプロジェクトです。

急速にパラダイムシフトする社会の中では、教育のあり方と社会のあり方を同時に進化させることが大事です。この二つを別のこととして捉え、それぞれにおいて議論していては、子どもたちが受ける教育と社会において必要とされる力が大きくずれてしまう恐れがあります。実際、社会で必要とされるコラボレーション力やリーダーシップ、課題解決力などは、学校教育で教えていません。教育現場と社会に大きな隔たりがあることがわかります。

そこで、様々な立場の人と一緒に、私たちが創るべき未来の社会の姿とはどのようなものか、そこで生きる人々はどのような力を持っているのか、そのような人びとを育てるための教育はどのようなものか、といった論点で話し合って共有ビジョンをつくり、そのビジョンに向かってそれぞれの立場で前進することが必要であると考えています。

学校、家庭、企業、地域が共に連携して、豊かな未来の実現に向けたアクションを創造できるよう、未来教育会議は活動を始めています。

それでは、このプロジェクトを立ち上げた背景はどのようなものだったのでしょうか。

 

シフト化する社会と価値観

大きな時代のシフトの中で、社会システムとその社会を支える人の価値観も変容しています。20世紀に重視されていた’効率”画一性”確実性”規制”使い捨て’といった価値観は、21世紀の今では’効果”創造性”不確実性”開放”循環’に変化しています。

子どもたちが大人になった時、複雑化した課題を解決し、イノベーションを起こすために創造性や国境を越えた思考を求められるのにもかかわらず、いまだに教育現場は画一性や国内完結の思考から抜け出せていません。テストや入試の在り方も、いかに短時間で間違いなく高得点があげられるかが重視されています。そのため、子どもたちは小さな頃から自由に発想したり、コラボレーションすることよりも、一問一答式の問題をいかに早く、正確に解けるようになるかを繰り返し練習する傾向にあるのです。

高度経済成長期であれば、こういった効率や画一性を重視するやり方が合っていたのかもしれませんが、現代において本当にこのままで良いのでしょうか。

このような現実と向き合い、学校教育の領域の外にある知慧や経験を教育に取り入れる必要があると考えています。

 

現代の教育が抱える問題点現代の教育が抱える問題点

 大きく時代が変化する中、教育が迷走していることはお伝えしましたが、もう一つ残念な現象があります。

子どものことを思う大人たちの善意と懸命の頑張りが、結果として子どもたちを苦しめるという悪循環を生んでいることです。

どうしてこのようなことが起きているのか、システム図を書いて分析しました。

目指す社会のイメージが立場によって異なるため、課題に対して個別の対処療法をとっています。そうすることで教育現場への指示や圧力が増すため、現場に対する負荷が増加します。教育システムはますます複雑化し、教員や子どもに対する負荷が拡大します。結果として、子どもたちの本来の力である主体性や創造性の開花が損なわれてしまいます。

最初は個別の課題を解決するために善意で始まったにもかかわらず、最終的に教員や子どもたちといった教育現場に対する圧力となってしまっているケースが多いことをふまえ、部分最適を求めるのではなく全体で考えて動くために、マルチステークホルダーで教育の未来や社会の未来について話し合い、共有ビジョンを打ち出すことが必要であると考えています。

 

未来教育会議で私たちができること

 それでは、未来教育会議で何ができるのでしょうか。未来教育会議のあり方.png

もともと未来教育会議は株式会社博報堂が開発した「bemo(ベモ)」という手法を用いて立ち上がりました。bemoとは、様々なステークホルダーと一台のバスに乗り込み、「旅」をしながらリサーチをし、「システム全体」を見据えて、そこから解決策や未来へのアクションを創造していく手法を指します。

bemoの魅力は、多様な人々との話し合いや、様々な現場を実際に見ることで、自分たちに一番適した行先を決めることにあると思います。

そのため、未来教育会議が何かを必ず行うといったことは名言できないのですが、そこを参加する人々と一緒に考えていくことができます。

この活動の皮切りとして、2014316日(日)にキックオフシンポジウムを開催する予定です。シンポジウムでは、平田オリザ先生や米倉誠一郎先生をはじめ、高校生や大学生といった若者、新しい教育にチャレンジしている教育現場の方、企業の方によるスピーチを聞き、参加者も「私たちが目指す未来の社会とは」というテーマでダイアログ(対話)をします。誰かを責めたり、何かのせいにするのではなく、未来を見つめて「願い」について話し合う機会としたいと考えています。そして、その話し合いを通して、これからの道筋が見えてくることを信じています。

ぜひこの活動にご興味のある方は、こちらのサイトをご覧ください。

URL:http://miraikk.jp/

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未来を切り開くアントレプレナー ライフイズテック(Life is Tech!)の挑戦

文部科学教育通信 No.332 2014-1-27に掲載されたグローバル社会の教育の役割とあり方を探る(42)をご紹介します。

21世紀という複雑かつ難解な問題が山積する時代において、今までにない仕事を生み出し、新しいスタイルで働いている若者の姿が目立つようになりました。また、その仕事は単純なお金儲けのためだけではなく、社会における様々な問題を解決することに通じているケースが多いです。今回は、アントレプレナー(起業家)とその力について学ぶ機会としたいと思います。

 

アントレプレナー

今までにない仕事を生み出しているアントレプレナーとは、どのようなことを行っているのでしょうか。アントレプレナーを多く生み出しているアメリカで、起業に関するノウハウ本が多く出版されています。その中の一つRobert Toru Kiyosakiの著書『Rich Dad’s Before You Quit Your Job』に、以下のようなことが書かれています。

「起業とは、パラシュートが開くかどうかわからないのに、飛行機から飛び降り、下降しながらパラシュートを開くようなもの。パラシュートが開かなければ、地面に衝突し、跳ね上がる。」このように、アントレプレナーは正解だとわかってから動き出すのではなく、動き出してから出来事を振り返り、より良い方向へ走り続けるというリスクを取ります。

リスクを取って動き始めると、上手くいくこともあれば、困難な状況に陥ることもありますが、彼らは小さな成功で満足したり、壁を乗り越えるのを諦めてしまうのではなく、ビジョンを達成するために、創造的問題解決に取り組みます。

とても大変そうと思われる方もいるかもしれませんが、アントレプレナー本人は、そのことを大変だとは思っていません。夢や目標を実現することの方に夢中なため、大変さよりも、実現欲求の方が勝っているというのが、より正しい表現かもしれません。苦悩よりも、夢の方が、心の中で占める割合が多いのです。

アントレプレナーは自己マスタリー(自分が「どのようにありたいのか」、「何をつくり出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を創造的な力に変えて、内発的な同期を築くプロセスのこと。)を持っています。Appleの生みの親であるスティーブ・ジョブズは、「フォルクスワーゲンのようなPCがほしい!」という強い願いを持っていました。DELLの創設者であるマイケル・デルは、「IBMに勝ちたい!」と強く願っていました。ジョブズもデルも、どちらも素晴らしいアントレプレナーですが、ジョブズにはデルのように安価なPCを大量生産することはできないですし、デルにはジョブズのような美しいデザインのPCをつくることはできません。これは、能力的にできないのではなく、自己マスタリーが異なっているためです。このように、アントレプレナーはどのような世界をつくり出したいのか、何を生み出したいのかという明確なビジョンを持ち、対象に対して多大なエネルギーを注ぎながら、自己マスタリーに忠実に生きているのです。

 

今までにない仕事を生み出すために必要な力

それでは、アントレプレナーの「今までにない仕事を生み出す力」とは具体的にどのような力を指すのでしょうか。

私は、大きく3つの力が必要だと考えています。

 ①リフレクション(内省)力

率先して行動を起こし、その結果を振り返り、ビジョンや目標に向かうより良い方法を探し続けるアントレプレナーは、学習者そのものです。

学習し続けるという行為において重要なのは、新たな知識を増やすだけでなく、自らの行動や思考を内省することです。この内省も、ただ闇雲に振り返るのではなく、ビジョンやありたい姿と比較して現状がどうなのか、何を行えば目標に違づけるのかを考えることが大切です。

 ②コラボレーション力

新しい仕事を生み出す時に、自分と似た思考、経験を持っている人とだけ関わるのではなく、様々な考え方や経験をもった多様な人々と協力することが大切です。

目標を達成するために、どのようなメンバーのいるチームをつくるべきかを考え、多様な人々から学び、自分一人では考えつかないアイデアを出せることがアントレプレナーには必要です。 

③創造的問題解決力

前述した通り、新たなことに挑戦する時、前例のないことに挑戦する時には、実現に向けたステップは、どこにも存在しません。自分で、ステップを創るしかないのです。現状と有りたい姿とのギャップを埋めるために、解決策を創造することが大切です。システム思考やクリティカル思考など、さまざまな思考法が、創造的問題解決を支援するために用意されています。

 

日本のアントレプレナー ライフイズテック(Life is Tech!)の挑戦

日本にも素晴らしいアントレプレナーはたくさんいます。その中でも、ITの分野において新たなムーブメントをつくっているのがライフイズテックです。Life is Tech!1.JPGのサムネイル画像Life is Tech!2.jpg

ライフイズテックは、ITに興味を持つ人口を増やし、日本からもジョブズやデルのようなIT業界のスターを生み出すために、「中高生のためのプログラミング・ITキャンプ」といったアプリケーションやプログラミングに触れる機会を提供しています。

創設者である水野雄介氏は、「子どもひとりひとりが持つ可能性を、最大限伸ばせる社会をつくりたい。」と願い、ライフイズテックを立ち上げました。

水野氏はライフイズテック立ち上げ前に「野球だとイチローのようなスター選手がいるが、ITの分野だと日本にはスターはいない。なぜだろう?」と考えたそうです。考えをすすめていくと、野球は子どもの頃からクラブ活動などで取り組んでいる人が多いことに対して、プログラミングやアプリケーションの作成は大学で専攻しなければ触れる機会がほぼないということに気付きました。野球のように、プログラミングやITに対しても子どもの頃から慣れ親しむことができると、子どもの可能性を広げることができると水野氏は語ります。

ライフイズテックが開催するプログラミング・ITキャンプの参加者は年々増加しています。増加の要因は、子どもの頃からプログラミングを学ぶ機会の重要さに保護者が気付きはじめたということだけでなく、キャンプに参加する子どもたちの成長が他の子どもたちを惹きつけていることも大切なポイントになっています。

キャンプに参加する子どもたちは、様々な視点でどのようなアプリを開発すると良いか考え、他の子どもや大学生のインストラクターと共に学び、時に協力し、時に競いながら学習のサイクルを回します。キャンプに参加した子どもたちは、プログラミングの技術だけでなく、課題解決力やリーダーシップを身につけることもできます。このような力を身につけた子どもたちが、新たな時代を担うアントレプレナーとなっていくのだろうと考えています。

 

全ての方がアントレプレナーになることは難しいと思いますが、どのような場所においても、アントレプレナーの持つ力を意識して活動することが21世紀を幸せにいきるために必要であると考えます。

未来をつくるリーダーになるワークショップ 海陽学園での取り組み

先日、愛知県蒲郡市の海陽学園で高校生を対象としたリーダーシップワークショップを開催いたしました。
自己マスタリー(自分が「どのようにありたいのか」、「何を作り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間の緊張関係を創造的な力に変えて、内発的な同期を築くプロセスのこと。)に忠実に生き、周囲の人を上手に巻き込み、主体的に自らの人生を切り開いていく力を中高校生のうちに身につけることが、未来をつくるリーダーになる第一歩です。
終日ワークショップを行い、私も生徒や先生方からたくさんの気づきと学びをいただきました。

今回は、ワークショップの様子とそこでの学びをご紹介いたします。

 

海陽学園について

「将来の日本を牽引する、明るく希望に満ちた人材の育成」という建学の精神を掲げ、平成18年に設立された全寮制学校(ボーディングスクール)です。ウェブサイトには、「ここはリーダーの出発点。そして、社会への入口。」という文言が書かれており、まさに21世紀のリーダーを養成し、世の中に送り出す役割を担う学校であると言えます。
全寮制であるため、生徒はハウスと呼ばれる寮で生活します。ハウスには、ハウスマスターと呼ばれるベテランの先生が常駐していて、日々の生活や将来のことまで様々な面で生徒の相談に乗り、成長を全面的にサポートしています。また、日本を代表する各分野の企業から派遣されたフロアマスターと呼ばれる社会人の先輩も常駐しているため、生徒は身近な大人との交流を日常的に経験することができます。

私が訪問した際、フロアマスターが生徒達にコーチングを行っているところを見学させていただきました。生徒達は、将来やりたいことを中心に、なぜそれをやりたいのか、自分の強みや弱みは何かなど、真剣に語り合っていました。フロアマスターと生徒達も打ち解けあっており、具体的な質問やフィードバックが行われていることに驚きました。日頃、ハウスでの活動を通してこうした経験を積めるのは、自分のリーダーシップを磨く良い機会になると思います。

 

リーダーシップワークショップについて海陽学園ワークショップ

リーダーの土台を日常で身につけている生徒に、より体系だったリーダーシップを学ぶ機会を提供したいと願うハウスマスターの先生にお声をかけていただき、今回このワークショップを開催することになりました。

参加を希望する生徒から事前にエントリーシートを集め、面談を実施していただきました。エントリーシートには、今までのリーダーの経験をもとに、気づいたことや失敗から学んだことがぎっしりと書かれており、参加する生徒の望みや課題を知ることが出来て良かったです。

ワークショップに先立って、「ライフライン」という、今までの人生を振り返ってどのような時にモチベーションが上下したかを記したグラフを作成してもらいました。

当日は、以下のアジェンダにそってワークショップを実施しました。

  1. アイスブレイク(自己紹介)その日の気持ちを表す写真を一枚選び、他のメンバーになぜその写真を選んだのか、また、その写真が自分に「リーダーシップとは何か」問いかけていると思うかを共有します。
  2. リーダーの物語自己マスタリーに忠実に生き、対話を通して共感者をつくり、共有ビジョンに向かってPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回し、失敗からも成功からも学習し続け、課題にぶつかった時は創造的問題解決を行うリーダーの物語を共有します。メンタルモデル(物の見方、色眼鏡)や自己マスタリーといった大切なキーワードを説明し、理解を深めます。
  3. 学習する組織のリーダーに必要な力私たちが目指すリーダーは、「一人のリーダー」や「偉大な戦略家」ではなく、起こりうる最良の未来を実現するために、能力と気づきの状態を高め続けることのできるリーダーであることを共有します。学習する組織のリーダーは、自己マスタリーを持っていて、共有ビジョンに向かって進んでおり、メンタルモデルに縛られずに様々な人や出来事から学び、個人だけでなくチームでの学習を進め、部分にとらわれずシステムで物事を考えることのできるリーダーのことです。
  4. 自己マスタリーの探求事前に作成してきた「ライフライン」をもとに、ペアになって自分がどのような時にモチベーションが上がるか、何をしている時に充実していると感じるかなどを話し合い、自己マスタリーを探求します。

    また、「ビジネスモデル・キャンバス」を作成し、自分のキーパートナーや他の人に与えられる価値などを洗い出します。そのキャンバスをもとに、これから何を行えば良いかを考えます。

    ライフラインとキャンバスを参考に、「目的宣言文」を作成します。目的宣言文は、活動・人・支援というグループに分けて、最も楽しみながら注力できる活動は何か、一緒に時間を過ごしたい人は誰か、どのように人を助けているか、また具体的にどのように役立っているかを考えます。

  5. チームビルディング学習する組織のリーダーは、単独で行動するのではなくチームで活動し学習します。その際に必要なチームビルディングの方法や文化の作り方を学びます。また、良いチームをつくるためにはダイアログ(対話)をすることが必要になるため、話すことと聞くことのポイントも学び、実践します。
  6. 共有ビジョンとアクションプラン共有ビジョンの原点は一人ひとりの思い(願い)であること、その思いがダイアログを通して一つになる時に大きな力を持つ共有ビジョンが生まれることを学びます。

    また、生徒達は自身の短期的ゴールとその評価軸、主なアクションとアクションの結果(成功の評価軸)を考えます。

  7. リフレクション(内省)本日のワークショップを通して気づいたことや学んだことを振り返ります。

 

参加された生徒さん、フロアマスターの方からは以下の感想をいただきました。

・ 生徒1

リーダーシップワークショップという名称のもと、私は興味を惹かれて参加しましたが、リーダーシップについての様々な考え方とともに、自分を追求する新たな方法も同時に学ぶことができ、一番知っているようで知らない自分を追求することの大切さを改めて実感しました。

・ 生徒2

ワークショップでは頭の中でもやもやしていたことが晴れ、整理されたのですごく良かったです。自分のことを話し、それについて意見を言ってもらうことで、自分のこともわかっていき、自信を持てるようになった気がします。リーダーシップの説明では自分の課題がよく分かり、次からはどうすればいいかという希望も持てました。

・ フロアマスター

自分自身について深く考える時間を作ることが出来たと思います。特に2段階のワークを行なうことでより深く自分自身を知ることが出来たと思います。具体的にはライフラインシートを作る際に自分自身で振り返り、それをワークショップで共有化することで、他者からも多くの気づきを得られたと思っています。自分のことを知ることが、他者との関わりを深めていく出発点だと改めて感じましたので、今度も定期的に自分自身について考える時間を作っていきたいと思います。

 

今までを振り返り、自分の強みやもっと伸ばしていけるところを認識し、今後どのようなことに従事したいかを考え、そのために必要なリーダーシップを身につけるために何ができるかを考える機会となったと思います。

より多くの人が学習する組織のリーダーとなることを、わたしたちはこれからも応援し続けます。

 

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