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未来を創るリフレクションの力 F・コルトハーヘン氏のリフレクション学スペシャルワークショップに参加して

文部科学教育通信NO.352 2014.11.24掲載

「リフレクション」という言葉をご存知でしょうか。日本語で言うと、内省力。自らを振り返ることを指します。日本人の多くはその大切さを意識していませんが、未来が不確実である現代において、リフレクションできる人こそが、これからの時代を創っていけると確信しています。

OECDのキーコンピテンシーでも、様々な状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する能力だけでなく、変化に応じて経験から学び、批判的なスタンスで考え動く力が必要であるとして、リフレクションをキーコンピテンシーの核心であると定義しています。

より深くリフレクションの手法を学びたいと思い、2014年11月上旬、オランダのユトレヒト大学名誉教授であるF・コルトハーヘン氏のリフレクション学スペシャルワークショップに参加しました。

今回は、このワークショップで学んだことをもとに、リフレクションの重要性や方法をご紹介いたします。

 

正解を見つけてから動き出すのか、正解を探しながら動くのか

なぜ、リフレクション(内省力)が重要なのでしょうか。

それは、未来が不確実で正解のない時代だからです。私たちは、正解がなくても前進しなくてはなりません。正解を見つけてから動き出していたのでは手遅れなのです。

結果はどうだったか、もし想定した結果と異なった場合、どうすれば良かったのか。

ポイントは、悪かったことだけでなく、上手くいった場合でもリフレクションすることです。リフレクションを自分のものにするためには、良かったこと、悪かったこと含め、チャレンジした経験をとにかく振り返ることです。その経験をそのままにしておくのではなく、何かを学びとるのです。

そこで重要になってくるのは、何事も取り掛かる前に「意図」を持つことです。意図した通りの結果になったのかどうかを振り返り、それに対する答えがYESでもNOでも、なぜそうなったのかを考えるのです。

次に、何を変えればいいか、何を変えずにおくべきかという仮説を立てます。これが、次の行動における意図となります。その仮説をもって、新たな行動に向かう。これは自分の行動に関する「仮説→検証」のPDCAサイクルを回し続けることにほかなりません。

正解を探してからでないと行動を起こさないことと、多少大変であっても、正解を探しながら行動することのメリット、デメリットについて、ぜひ考えていただきたいです。

 

教育における国際的変化について

上記の通り、リフレクションが未来を創るために必要であることを理解し、日々実践しているのですが、より理論と実践を深く学びたいと思い、オランダのユトレヒト大学名誉教授であるF・コルトハーヘン氏のワークショップに参加しました。

そこでは、まず、教育における国際的変化について考えました。結論としては、教師が知識を伝達する指導スタイルから、教師がリフレクションを促し、小グループでの学びを促すスタイルに移行している、ということでした。そのためには、教師自身のリフレクション力を向上させ、教えることがメインであった快適な状態からの脱出を図る必要があります。学術的な知識が実践的であるとは限らないので、理論と実践を行き来することが大切です。そのために、リフレクションを行うのだと説明されていました。教育の現場ではなかなかリフレクションという文化が根付いていないのが現状ですが、これからの時代は教師も子どももリフレクションを行って学習を進めることが大切であると思います。

 

学術的に語られてきた、リフレクションを促す意義

リフレクションの重要性について、前段でも解説しましたが、コルトハーヘン氏曰く、以下の6つの意義があるとのことです。

  1. より効果的な学び/個人の成長につなげる

  2. 行為の背後にある「理由」がわかるため、責任をとりやすくなる

  3. 問題についての自分なりの見方を形作れるようになる

  4. 自身の行動に対して、環境や、自分自身が信じていることが及ぼしている影響に気付くことができる

  5. 自分自身の発達について、より主導的になれる

  6. よりイノベーティブになる

リフレクションを通して、自身の考えや行動を客観的かつ批判的に捉えることで、日常での問題の解決や、実践的な経験を深めることにつながるのです。

 

リフレクション・モデルについて

次に、リフレクション・モデルというリフレクションの流れについて学びました。

コルトハーヘン氏の解説では、以下の5ステップがリフレクションの流れとなります。

  1. 行為

  2. 行為の振り返り

  3. 本質的な諸相への気付き

  4. 行為の選択肢の拡大

  5. 試行

まず、行為に入る前に、その行為の「意図」を考える必要があると思います。その行為の結果、どのような状況になっていれば良いのか、何をもって成功と言えるのか。ここを詰めます。

行為を行った後、「何が起きたのか?」「意図していた結果になったのか?」について振り返ります。その際、以下の問いについてそれぞれ考えていきます。

    1. 私は何をしたのか。(Doing)

    2. 私は何を考えていたのか。(Thinking)

    3. 私はどのように感じていたのか。(Feeling)

    4. 私は何を望んでいたのか。(Wanting)

    5. 相手は何をしたのか。(Doing)

    6. 相手は何を考えていたのか。(Thinking)

    7. 相手はどのように感じていたのか。(Feeling)

    8. 相手は何を望んでいたのか。(Doing)

一人でリフレクションをする場合には、これらの問いを自らに投げかけます。また、自分が誰かのリフレクションを促す際は、より深いリフレクションにつなげるために、相手の感情を受容し、共感することが大切です。そして、相手の発言を具体的な言葉に置き換えて伝えることも効果的です。

これらを通して行為そのものについて振り返った後、本質的な諸相への気付きへつなげます。何が意図したことと一致していないのかを明らかにしていくのです。そのために、以下の6つを意識して進めます。

  1. 考えていることと、感じていることのギャップ

  2. 自己イメージと、他者から見た自身のイメージとのギャップ

  3. 自分として生きる中で体験して知っている自己と、他者に表現して伝わる自己とのギャップ

  4. していると言っていることと、実際にしていることとのギャップ

  5. 今の自分と、なりたい自分とのギャップ

  6. 言葉にしていることと、言葉にしない行動とのギャップ

これらの不一致に気付くことができると、単純な行為の振り返りにとどまらず、次の段階に進むことができるようになります。

本質的な気付きを得た後は、行為の選択肢の拡大に入ります。その際、以下のことに気をつけます。

  1. 学習者(リフレクションしている人)を巻き込む

  2. 学習者が選択肢を形づくる

  3. 選択肢を十分に具体的なものにする

  4. 能力や勇気などの観点からみて、選択肢は、十分にリアリスティック(現実に適合している)か

  5. 行為が何につながるのかを吟味する

  6. 別の場所にも適用できるように、一般化する

  7. 学習者が複数の選択肢の中から選択する

ここでは、解決方法を見つけ、選択するための支援が必要となります。せっかく行為を振り返り、本質的にどうしていけばいいのかに気付いたのですから、より現実的に実行に移せる選択肢を多く挙げることが大切です。

そして、行為を選択した後は、実際に行動をお越し、再度振り返りのステップを行います。この繰り返しにより、自ら正解に近づいていくことができるのです。

リフレクションが、ビジネスの世界だけでなく、学校現場でも普及していくことを願っています。

日本でのピースフルスクールプログラムの取り組み  佐賀県武雄市武内小学校 授業の様子

文部科学教育通信NO.351 2014.11.10掲載

第9回より連載している「日本でのピースフルスクールプログラムの取り組み」でも取り上げていますが、現在、オランダで開発されたシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の日本版プログラムの開発と展開を行っています。

2014年度より、佐賀県武雄市立武内小学校(代田昭久校長)にてプログラムの導入がスタートいたしました。今回は、10月29日に実施した第4回授業「批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう))」をご紹介いたします。

 

ピースフルスクールの授業を実施する背景

2014年度、武内小学校では、「共生、協働」というコミュニケーション力やチームワークを向上するユニットと、「感情、共感」という自分の感情を認め、相手への共感力を高めるユニットを実施対象とし、以下の授業を予定しています。

  1. 自分の意見を持つ(意見は人と違っていても良い)

  2. 相手の話をきちんと聞こう

  3. 自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)

  4. 批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)

  5. ほめ言葉 と けなし言葉(ほめ言葉を使って居心地の良いクラスをつくろう)

  6. 怒りをコントロールしよう

  7. 助ける と おせっかい の違い

  8. 意見をきちんと伝える、理解する

  9. ルール と 約束 の違い

第4回の授業テーマは「批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)」です。この授業を実施することに決めた理由は、学校での様々なシーンで、子ども同士が批判やけなし言葉を言い合うのではなく、アドバイスやほめ言葉を伝えあえるようになるためです。そうすると、子どもたち自身で安心安全な環境をつくることができます。

先生方のお話を伺っていると、子どもが自己防衛するために、誰かの失敗や良くない行動を批判したり、けなしたりすることがあるそうです。特に武内小学校ではスマイル学習(反転授業)を導入しているので、子ども同士の共同学習(学び合い)がさかんです。クラスの中には、理解が早く問題をすぐに解き終わる子どももいれば、時間のかかる子どももいるので、そのような時に、時間のかかる子どもを批判したり、けなしたりするのではなく、お互いに応援したり、サポートできるようになってほしいという先生方の願いがあり、今回の授業実施に至りました。ピースフルスクールの授業と日々の実践を通して、子ども同士がさらに協力し、ポジティブな話し合いが活発化すると、スマイル学習の効果も高まることを期待しています。

 

批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)

この授業のねらいは、批判やけなし言葉といったネガティブな表現でクラスの雰囲気や子ども同士の関係性が悪くなることを改善し、ポジティブで安全な環境を子どもたち自身でつくるところにあります。安心安全な環境の中でこそ、子どもたちは様々なことにチャレンジできるので、自己効力感や自己肯定感が向上します。また、それぞれの多様性を尊重し、共生できる心を育てます。

授業の流れは、以下の通りです。

  1. 挨拶、授業の流れの確認

  2. 前回の授業の復習

  3. 導入(サルとトラの劇)

  4. サルとトラへのアドバイスを考える

  5. 体験活動

  6. 振り返り

ピースフルスクールの授業では、必ずその時間に何を行うのかといった授業の流れを最初に共有します。そうすることで、子どもたちは、次に何をやるのかを意識しながら授業に臨むことができます。

授業の冒頭では、必ず前回の授業の復習を行い、授業で学んだことを日常生活で実践したかどうかを確認します。前回の授業は「自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)」でしたが、約半数の児童が実施したと答えていました。

授業の導入では、トラとサルのパペットを用いて劇を行います。ピースフルスクールの教師用マニュアルには、サルがトラを「シマウマみたいだね!」とからかい、トラが嫌なきもちになるという劇を掲載していますが、今回はこの劇を実際に学校で起きている問題を題材として実施しました。現在、武内小学校では週4回朝の15分間を使って「花まるタイム」を実施しています。この時間では、先生が提示した立体図形と同じ立体を木のキューブを使って作ったり、100ます計算などの反復学習を全員で行っています。この花まるタイムで行うキューブを用いた立体づくりを劇の題材としました。サルとトラがキューブを使って立体をつくろうとします。サルはすぐにできてしまい、奮闘しているトラに対して批判やけなし言葉を言い、挙句の果てにはトラのキューブを奪い、勝手に仕上げてしまいます。子どもたちには、トラがどんな気持ちになっているかを答えてもらいます。「かなしい」「ばかにされた気分」「楽しくない」といった答えがあがりました。次に、トラがその気持ちになっている原因となったサルの発言を発表してもらいます。「おそいなあ。」「ばかだなあ。」「へたくそ!」「僕がやってあげるよ!」といった発言があがりました。子どもたちには、これらのサルの発言を「けなし言葉」や「批判」といったネガティブな言葉であると伝えます。このような発言をすると、言われた相手は嫌な気持ちになるし、場の雰囲気が悪くなることを理解します。

次に、子どもたちにサルに対するアドバイスを考えてもらいます。トラが嫌なきもちにならず、頑張って立体をつくることができるよう、ポジティブな声掛けをするのです。子どもたちからは、「がんばれ!」「もう少しだよ!」「ヒントをあげようか?」「あせらなくていいよ。」といった発言がありました。この発言を受けて、再度サルとトラの劇を行います。今度は、サルはトラに対してポジティブなメッセージを伝え、トラはやる気がみなぎり、一人で立体を完成できました。

このように、子どもたちにとって身近に困っている題材を用いて劇を行い、具体的な改善策を考えることで、この授業が自分たちにとって必要なものであるという認識を持ってもらえます。

次に、体験活動を通してより身近に起きている問題を解決する方法を学びます。今回、1~2年生は「給食をがんばって配膳しているのに、うまくいかない」、3~4年生は「大縄跳びにチャレンジしているのに、うまく飛べない」、5~6年生は「太鼓の練習をしているのに、リズムが合わない」といった、実際に子どもたちの間で起きている問題を題材としました。いずれも、先生方が「頑張っているのにうまくいかない子ども」と「批判やけなし言葉を言う子ども」役になり、ロールプレイを行います。大縄跳びの例では、「早く飛んでよ!」「のろまだなあ!」といって頑張っている子どもを焦らせ、その子が飛ぶことに失敗したら「へたくそ!」「かっこわるい!」「あなたのせいで、負けちゃうよ!」と一斉にけなします。ロールプレイを見た後、子どもたちはポジティブなアドバイスを考え、自分たちでロールプレイを実施します。このように、子どもたちにとってリアルに困っていることを題材とすることで、どのようにすれば良いのかを考えられるのです。

最後の振り返りでは「今まで、私はけなし言葉を言ったことがないと思っていましたが、お友達に言っていることがわかりました。これからは、ポジティブな声掛けをしようと思います。」といった感想があがりました。学んだことを実生活で使えるようになることが、ピースフルスクールの一番の特徴であると言えます。

日本でのピースフルスクールプログラムの取り組み 佐賀県武雄市武内小学校でのケース

文部科学教育通信NO.350 2014.10.27掲載

第9回「日本版ピースフルスクールプログラムの取り組み」という記事でもご紹介いたしましたが、現在、オランダで開発されたシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の日本版プログラムの開発と展開を行っています。

2014年度より、佐賀県武雄市立武内小学校(代田昭久校長)にてプログラムの導入がスタートいたしました。今回は、武内小学校での取り組みについてご紹介いたします。

 なぜピースフルスクールプログラムを導入するのか

日本でのプログラムの開発と展開をスタートした2013年に、2014年度から佐賀県武雄市の教育監及び武雄市立武内小学校の校長に就任される予定であった代田昭久先生とお話する機会があり、ピースフルスクールの魅力をお伝えいたしました。

対立を恐れることなく自分の意見を伝え、話し合いで問題を解決する力を身につけるといったプログラムの特徴に共感していただき、2014年度から代田先生が校長を務められる武雄市立武内小学校に導入することが決まりました。

武内小学校を見学した際、好奇心が旺盛で、他者と関わることを前向きに捉えている子どもが多いと感じました。異質な人や事柄を排除し、誰かをいじめるといった課題も見受けられませんでした。しかし、先生方とお話していると、各学年10人程といった少人数の限られたコミュニティのなかで、同調圧力がかかりやすく、多様化しにくいという課題があることがわかりました。人間関係が固定化しやすく、異なる意見や考えを持っていても、それを相手に伝えることが苦手である児童が多かったのです。それぞれの地域や学校ごとに抱えている課題が異なることを、改めて知る機会となりました。

そこで、ピースフルスクールプログラムを通して、同調圧力に負けず自分の意見を伝え、意見が対立した時は話し合いでより良い答えを探す力を身につけるプロジェクトがスタートしました。

 

日本でのプログラムの導入方法

オランダのピースフルスクールでは、年間35回以上のレッスンを実施しています。学校のお休み期間を除き、ほぼ毎週1レッスンは行う計算です。日本でもこのように毎週レッスンを実施できると良いのですが、既に様々な教科で網羅されている時間割の隙間を縫うことは、容易くありません。そこで、日本でプログラムを実施する場合は、全6ユニットを3年間かけて実施することにいたしました。月に最低1回のレッスンを行うと、3年間で仕上がります。毎週レッスンを行うと、それだけスキルとマインドを磨く機会が担保されるのですが、月に1回のレッスンを行うだけでは、なかなか定着させることができません。そのため、日々の生活の中で学びを実践する機会を多く設けています。子どもと先生は、日常のリアルな場面でプログラムの学びを実際に使い、実際に使える力を身につけていくことができるのです。

このように、日本版のプログラムでは最低3年で仕上がるように開発し直しています。

初年度は、安心安全なコミュニティを創る力を身につけるレッスンをまとめた「共生、協働」と、ポジティブな感情もネガティブな感情も言葉にして相手に伝え、相手の感情を理解して受け止める力を身につける「感情、共感」のユニットを行います。

2年目は、クラスや学校の意思決定に関わり、決まったことに対してコミットする責任をもつ力を育む「意思決定」と、クラスや学校で起きる問題を”子ども同士の話し合い”によって解決する「対立/問題解決」のユニットを実施します。

3年目は、自分たちの似ているところと、違うところを認識し、共生する力を養う「多様性の尊重」と、デモクラシーの知識や考えに触れ、ピースフルスクールでの学びを社会で活かすことができるようになる「民主的社会の基礎知識」を学びます。

3年目には、高学年の児童のうち、仲裁のスキルをさらに伸ばしたい児童に対して、追加のレッスンを実施することも可能です。このように、毎年繰り返しレッスンを行うことで、ピースフルスクールプログラムが学校の文化として根付くことを大切にしています。

 

2014年度、武内小学校のケース

それでは、実際に武内小学校ではどのようにレッスンを行っているのでしょうか。

日本版のプログラムには、レッスンごとの指導案付き先生用マニュアルがありますが(オランダ版には指導案はありません)、プログラムを各校に定着させ、それぞれの課題を解決するためには、レッスンを学校ごとに具体的なワークをカスタマイズする必要があります。そこで、学校で実際にレッスンを実施する先生たちと、私の財団でピースフルスクールの開発、展開を担当している者がひとつのチームとなり、レッスンを見直します。レッスンのねらいやポイントは落とさず、その学校の子どもにより響く内容に変えることが大切です。そうすることで、子どもたちの反応はより良くなり、深くレッスンを記憶するため、学びが定着するのです。

2014年度、武内小学校では、以下のレッスンを実施しています。台風の影響で一回授業ができなかったため、全9回となっています。

  1. 自分の意見を持つ(意見は人と違っていても良い)

  2. 相手の話をきちんと聞こう

  3. 自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)

  4. ほめ言葉 と けなし言葉(ほめ言葉を使って居心地の良いクラスをつくろう)

  5. 批判をアドバイスに変えよう(ネガティブな表現をポジティブな表現に変えよう)

  6. 怒りをコントロールしよう

  7. 助ける と おせっかい の違い

  8. 意見をきちんと伝える、理解する

  9. ルール と 約束 の違い

レッスンの順番には特徴があります。前回の学びを次のレッスンで活かす必要がある場面を設けることで、どこができていて、どこがまだできていないのかを子ども自身で振り返ることができるのです。「自分の意見を持つ」といったレッスンを行うと、その後のレッスンでもきちんと自分の意見を持ち、根拠をあわせて相手に伝えることができる子どもが増えます。このように、限られた時間の中で、多くの工夫を取り入れることで、学びを最大化できると考えています。

 

子どもたちの反応

10月半ばの時点で第3回までのレッスンが終了しています。1回目のレッスンでは、そもそも何を学ぶのだろうか、といった緊張も見られたのですが、2回、3回と回を重ねるごとに、クラスメートの前で堂々と自分の考えを発表し、相手の話をしっかりと理解し、周囲と積極的に関わる子どもたちの姿がありました。武内小学校の先生からも、「確実に子どもたちに変化が起きている」といったお言葉をいただいております。

3回目の「自分と相手の気持ちを大切にしよう(嫌な時は「嫌だ、やめて」と伝えよう)」の授業では、以下の感想が寄せられました。

    • 自分の気持ちは、はっきりと相手に伝えたいです。

    • いやなことがあれば、ほかの人にわるぐちを言わずに、ゆうきをだして、「それはいやだから、やめて」と言おうと思いました。

    • 人の気持ちを大事にすることと、自分の気持ちを大事することは、どちらも大切なことだと学びました。これからは、自分の気持ちを言葉で伝えて、相手の気持ちにも耳をかたむけようと思います。

プログラムの効果を測定するために、今後も継続してレッスンと日常での取り組みを続ける予定です。

日本版ピースフルスクールプログラムの取り組み

文部科学教育通信 No.349 2014.10.13

第4回「未来を幸せに生きる力を身につけるピースフルスクールプログラム」という記事でもご紹介いたしましたが、現在、オランダで開発されたシチズンシップ教育「ピースフルスクール」の日本版プログラムの開発と展開を行っています。

オランダのプログラムであるため、そのまま日本で導入することは本質的ではありません。日本の特質や課題にあわせてプログラムを開発することが必要だと考えています。

ピースフルスクールプログラムとは、子どもと先生が、安心して存在できるコミュニティ(共生社会)を自ら創る力とマインドを身につけるための教育プログラムです。子どもも大人も学ぶ必要があるため、日本では、幼児・小学生・中高生・学生・社会人まで、広く対象としています。

今回は、日本での取り組みについてご紹介いたします。

 子どもと先生が安心して存在できるコミュニティとは

ピースフルスクールが定義する「安心して存在できるコミュニティ」では、以下のような環境が実現しています。

 

・異質な人や意見が排除されない

・いじめの傍観者はいない

・けんかしても、仲直りし、友達でいることができる

・話し合いに、個人が意見を持ち参加している

・クラスのために働いていない人はいない(誰かに仕事が押し付けられていない)

・孤独だと感じている人はいない

・問題解決に、みんなで取り組んでいる

 

日本の学校やクラスを想像した時に、上記の全てをクリアしているところばかりではないように思います。子どもたちは、安心できる環境でこそ主体的に学習することができるので、学校に関わる人全員で、この「一人ひとりが安心して存在できるコミュニティ」を創ることが必要です。この環境が実現できれば、いじめや学級崩壊、主体性のない子どもといった、現在の日本の教育が抱える課題が解決できると考えています。

 一人ひとりが安心して存在できるコミュニティを創る人になるために

ピースフルスクールでは、子どもたちは6つのテーマについて学びます。

 

  1. 共生、協働
    「ルールと約束」「ほめ言葉とけなし言葉」「助けることと干渉すること」など、クラスづくりやチームビルディングに関するレッスンを行います。子どもたちは、安心安全なコミュニティを創るために必要となる基礎的なマインドとスキルを学びます。

  2. 感情、共感
    意思決定やいじめなどの問題を解決する際、感情が伴っていないと実行に移すことが難しいです。いきなり「他者の感情を理解する」ところから始めるのではなく、「自分の感情を認識し、言葉で表す」「感情をコントロールする(怒りと付き合う)」などのレッスンと、「感情スティック」「感情バロメーター」などの日常でのコミュニケーションを通して、ポジティブな感情もネガティブな感情も言葉にして相手に伝えることの大切さを学びます。そして、「相手の感情を理解し、受け止める」ことができるようになります。

  3. 共生社会の意思決定

    民主的な意思決定を行うために必要なマインドとスキルを学びます。「自分の意見を持つ、根拠をあわせて伝える」「誤解と偏見」「ものの見方(視点)」「耳を傾けて、質問する」「説得する」「合意する」などのレッスンがあります。子どもたちは、クラスや学校の意思決定に関わり、決まったことに対してコミットする責任があることを学びます。

  4. 対立/問題解決

    「対立とけんかの違い」「3色の帽子(問題解決の3つの方法)」「ウィン‐ウィン解決」「対立の原因」「仲裁」など、クラスや学校で起きる問題を”子ども同士の話し合い”によって解決するために必要なマインドとスキルを学びます。

  5. 多様性
    「共通点と相違点」「判断と偏見」といったレッスンを通して、自分たちの似ているところと、違うところを認識し、違うところがある方が、学ぶことがたくさんあること、作業などがうまくいくことが多いことを学びます。自分もまた、多様性の一環であることを知り、いじめにつながる「自分とは異なる異質な人や意見を排除したい」と思う気持ちを育てないことにもつながります。

  6. 民主的社会の基礎知識
    小学校6年生では、「民主主義」や「規則と法律」といった、より社会と関係のある事柄を学びます。子どもたちにとっての社会である学校での学びが、社会でも生かすことができる実感を持つことができます。

 

これらの6つのテーマは、オランダ版プログラムとは異なっています。オランダ版プログラムをそのまま日本に適合することはできないと判断し、プログラムの要素を分解し、日本の学校や社会にとって必要な要素を加え、再分類しました。このようにプログラムをローカライズさせることが定着の鍵となると考えています。

 共生社会を支える主体性

ピースフルスクールプログラムで身に着く力を細かく分析していると、大きな軸が見えてきました。

一人ひとりが安心して存在できる社会を実現するために、最も大切なことは、一人ひとりの主体性を育むことです。ピースフルスクールでは、主体性を核に、自己肯定感、リーダーシップ、内省力、クリティカル思考を高めます。

現在、日本でも主体性やリーダーシップ、自己肯定感を育てる教育が必要だとされていますが、どれも異なる文脈で語られており、具体的にどのように育めばいいのか、といった答えは出ていないように思います。

自己肯定感やリーダーシップ、内省力、クリティカル思考は、主体性がなければ身につけることができません。自分の気持ち、考えを大切にし、選択、決断、行動をし、その結果に責任を持つことを「主体性」と定義すると、自らの意思でコミュニティを守り、発展させる力を「リーダーシップ」、自分の考えと行動に責任を持つために、自分の頭で考える力を「クリティカル思考」、自己の行動と結果を振り返り、学習する力を「内省力」、主体性を持ち、行動し、参画し、貢献を自ら実感し、他者から、存在や貢献を歓迎され、感謝されることを「自己肯定感」と定義できます。

これらを別々に身につけるのではなく、一つのプログラムを通して身につけることが大切であると考えています。

ピースフルスクールでは、レッスンと日々の生活の中で、これらの力を身につけることができるのです。

 安心して共生できる社会を実現するために必要なマインド

人々が安心して共生できる社会を実現するために、以下の8つのマインドを持つことが大切です。これらは、日本の社会ではあまり重要視されておらず、大人にも不足しているマインドですが、21世紀を幸せに生きるために、必要なマインドです。ぜひ一人でも多くの方に、これらのマインドの必要性について考えていただきたいです。

 

  1. 対立は民主的な社会にとって必要であり大切なものである

  2. 周囲と違う意見を持つことは悪いことではない

  3. 話し合いでは、一人ひとりが、意見を持ち、人に伝える責任を持つ

  4. 自分の感情を他者に伝えることは大切である

  5. 違いは悪いことではない

  6. 自分も、多様性の一部であると認識する

  7. 問題に言及する勇気が大切だ

  8. 問題は解決できる

 

次回は、日本での導入事例である佐賀県武雄市武内小学校でのピースフルスクールの取り組みについてご紹介する予定です。

小学生のファシリテーションに学ぶ「対話2.0」

文部科学教育通信Mo.348 2014.9.22掲載

ここ数年、日本全国で様々な「対話」を用いたワークショップが開催されるようになりました。今まで自分の気持ちや考えをオープンに伝える機会が少なかったところ、安心して自分の意見を話し、ありのままの自分でいることが許される場が普及してきたと言えます。

対話の目的が「自分の気持ちや考えを話す」や「自分の話を聞いてもらう」ことであれば、その目的は果たせていると思いますが、対話には、安心できる関係性を築く以上に、社会の様々な問題解決に直接寄与できる可能性があると考えています。

今の心地よい対話を「対話1.0」と名付けるならば、それを土台として、その先にある問題解決に寄与する対話は「対話2.0」と言えるでしょう。

現在、日本ファシリテーション協会の方々と共に、この「対話2.0」を実現するために必要な力を身につけるワークショップを開発しております。

今回は、この「対話2.0」の可能性と、どのようにしたら問題解決につながる対話を行うことができるのかについてお話いたします

未来を変える「対話2.0」

それでは、「対話2.0」とは、具体的にどのような対話のことを指すのでしょうか。

 

図は、「対話」を4つの階層に分類し、構造をまとめた図です。

今までの「自分の気持ちや考えを話せない」状態から、「話せる、聞いてもらえる」状態へと変化したことを「対話1.0」とします。

「対話2.0」の最初のステップは、「話せる、聞いてもらえる」状態から、「何かのトピックに対して自分の意見を持つ、その意見を根拠も併せて伝える、意見が対立する」段階に移行することです。対立を恐れていては、問題解決につながる対話はできません。

私は、「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)」というプロジェクトに携わっていますが、このプロジェクトの活動を通して、原子力発電所事故に関する対話を数回行いました。その際、原子力発電に対して賛成・反対といった意見を話す人はいても、その意見の根拠を伝えることができない人や、意見が対立した後、話し合いがどこにも向かえないケースがありました。

上記のような問題を解決するためには、対立した際に「自分の考えを内省する、相手の意見に共感する、今まで知らなかったことを学習する」ことが大切です。「なぜ、私はこの意見にこだわっているのだろうか?」と内省することで、自分の意見を一旦手放し、客観的に捉えることができるようになります。そうすることで、相手に対して「なぜ、そう思うのか?」と冷静に質問し、その意見に対して共感することができます。自分の意見に固執して、相手の意見を頭ごなしに否定するのではなく、どうしてその意見を持つに至ったのかを質問し、共感することで、今まで自分では思いつかなかったことを学ぶ機会にもなります。

問題の解決策を決定するためには、物事を判断する「評価軸」を明確にする必要がありますが、この内省と共感による学習を通して、冷静に「問題に対してどのような解決策を取るのか、評価し、決断する」ことができるのです。

このステップを経て決断に至ると、異なる意見を持つ者同士で、問題解決に向けてのアクションを起こすことができます。

このように、「対話2.0」のステップを解説しましたが、問題を解決し、未来を変える「対話2.0」を実現するためには、私たちは対立を乗り越える「対話力」を身につける必要があります。そのメソッドが、オランダで学校教育に導入されている「ピースフルスクールプログラム」にあります。実際、このプログラム導入校の子どもたちは、対話を通じて、自分たちの対立の問題を、自分たちの手で解決しています。プログラムの一部をご紹介いたします。

 自分の意見を持つ、根拠も併せて伝える

子どもたちは、ピースフルスクールプログラムを通して、安心安全な環境を自ら創る力を身につけます。その第一歩として、「自分の意見を持つ、根拠も併せて伝える」ことの大切さを学んでいます。

意見には、「賛成」「反対」「わからない」の三種類があり、そのいずれかの意見を持つ必要があります。学校やクラスといったコミュニティに所属する以上は、「私には関係ない」と言って意見を持たないことは許されません。

また、誰かに自分の意見を伝える際は、なぜそう思うのかという「根拠」や「事例」を挙げて伝えます。「賛成」や「反対」と言いっぱなしになると、それ以上の対話にはつながりません。理由をきちんと伝えることで、どのようなアクションを起こせるのか考えることができるようになります。

「対話2.0」の最初のステップに進むために、大人である私たちも学ぶ必要があります。

 自分の感情を言葉にする

私たちは、普段どれだけ自分の感情を言葉にして相手に伝えているでしょうか。

このプログラムを導入している学校では、ポジティブな感情もネガティブな感情も、言葉にして相手に伝えることを大切にしています。また、誰かと対立した時に起きる「怒り」の感情をコントロールする練習も行っています。このような日々の取り組みを通して、自分の感情も相手の感情も大切にできる人に育つのです。

「対話2.0」を行う際、意見が対立することがあります。その際も、怒りや悲しみの感情に振り回されて話すことを止めてしまうのではなく、落ち着いて自分の気持ちを伝え、対話を続けることが大切です。

普段感情について全く触れない人が、対話の際に感情を伝え、コントロールすることは難しいので、アクティビティを通して感情を話す練習を行うことが効果的だと考えます。

「嬉しい」「楽しい」「わくわくする」といったポジティブな感情を表す言葉を書いたカードや「悲しい」「悔しい」「頭にきた」といったネガティブな感情が書かれたカードを作成し、一番相手に話したいトピックに近い感情が書かれたカードを選び、その出来事と感情について話します。ネガティブな感情の方が話しにくいこともあると思いますが、いざ話してみると、気持ちが落ち着き、すっきりするといったケースも多くあるので、日常の中で、少しずつ取り入れられると良いと思います。

 批判をアドバイスに変える

子どもたちは、批判やけなし言葉を言われると、どのような気持ちになるのかを理解しているので、ネガティブなことを伝えなければいけない時に、批判ではなくアドバイスという形に変えて伝えることを学びます。

例えば、遅刻してきた友達に対して冷やかすのではなく、どう伝えれば相手が遅刻しなくなるかを考えるといったケース問題を通して練習します。このような練習と、日々の中でのやり取りを通して、子どもたちは批判をアドバイスに変えて伝える力を身につけます。

この力は「対話2.0」にも必要です。内省と共感による学習を経た後、判断基準を決め、解決法を決断する際、建設的なアドバイスをすることで、解決に向けてのアクションを起こしやすくなります。自分とは反対の意見を持っている人に対して、批判したくなる気持ちをコントロールできるようになると、「対話2.0」に近づくことができるのです。

 

このように、大人である私たちも、未来を変える対話力を身につけることができると、様々な問題に対して、前向きに解決することができるようになります。ぜひ「対話2.0」のステップで対話をしていただきたいと思います。

21世紀は女性の時代か?

文部科学教育通信No.347 2014.09.8掲載

今日、日本では女性の活躍を促進しようとする大きな動きがあります。

政府は、東京オリンピックが開催される2020年までに、25~44歳の女性就業率を73%(平成24年は68%)、管理職などの指導的地位に占める女性比率を30%とすることを目標に掲げています。OECD加盟国における管理職比率の平均は、30%を超えており、アジアにおいてもタイやマレーシア、ベトナム、中国、インドネシアに比べ、日本の比率は低いのが現実です。世界からは、生産年齢人口が急激に減少する中、女性の活躍促進が日本経済を救うという指摘もあります。女性管理職が著しく低いとう課題の解決は、日本の今後の経済成長のカギを握ると考える人々も増えています。

しかし、2013年度は企業の課長職以上に占める女性の割合が6.6%(2014年8月厚生労働省発表)と目標を大きく下回るなど、決して好調な滑り出しとは言えません。

 

世界における女性の社会進出においては、企業でのステップアップのみならず、起業という選択をする女性が多くいることに驚きます。世界では、女性起業家の比率は45%と高く、タイやシンガポールでは、女性起業家の方が男性起業家よりも多いそうです。

ビジネススクールにおける調査においても、柔軟に自分の都合に合わせて働くことが可能な起業は、時間の制約がある女性にとって望ましい働き方であるという報告が出されています。イノベーションが求められる日本において、女性の起業が世の中を変えるという時代の到来を予感させます。

 21世紀は女性の時代

多国籍企業を経営するグローバルリーダーや、社会問題を解決するチェンジメーカーが活躍する今日、エンパシー(共感力)が高く、物事に対して柔軟に対応することのできる女性の活躍に注目が集まっています。カリスマ的なリーダーが求められる時代が終わり、今日のリーダーにはチームビルディングやコラボレーションの力が求められます。

多様性を活かし、イノベーションを起こすために、リーダーに求められるコミュニケーションは、異質な人々の持つ違う考えや言語を前提としており、これまでとは求められるレベルが異なります。時代が求める共感力、チーム力、コミュニケーション力の高いリーダー像は、女性にとってとても親和性があります。

21世紀が女性の時代であることを象徴する3つの御話をしたいと思います。

 

一つ目は、ハーバード大学経営大学院(HBS)での取り組みです。2013年に共学50周年を迎えたHBSでは、女性入学者数を2014年には40%に引き上げました。HBSでは、女性の卒業生全員にアンケートを取り、これまでの女子教育を振り返り、女性の活躍促進のための教育の在り方を研究するプロジェクトがスタートしています。アメリカにおいても、フォーチュン500起業の内女性が最高責任者(CEO)の座に就いているのは、21社です。役員比率は14%、国会議員における女性の割合は18%です。女性の活躍が進んでいる米国においても、男女平等の社会は実現できていません。HBSでは、この事実を真摯に受け止め、女性のリーダー育成の在り方の何を変える必要があるのかを検討しています。

 

二つ目は、女性が本音を語れる時代の到来です。2011年2月に、アメリカ国務省政策企画本部長の要職を辞任したアン・マリー・スローターさんの「両立は無理」という発言がありました。この発言は、アトランティックという雑誌に、スローター氏が寄稿した記事の内容で、世界中で大きな反響を呼びました。プリンストン大学の教授として活躍されていたスローター氏は、「外交政策を司る仕事は、やりがいがあり好きだったが、思春期の2人の息子の母として、休みのない激務を続けることはできなかった。弁護士や投資銀行家、政府高官など、激務の仕事を持つ女性が、全て(キャリアと家庭)を手に入れることは不可能である」と言い、また、大切な子どもを優先することが信じられない社会はおかしいと断言しました。トップに上り詰め、輝かしいキャリアを持つ女性による「両立は無理」という発言は、1970年代に始まった女性解放運動に参加した、第一世代の女性たちが、口が裂けても言えない言葉であったことを知っている私にとっては、革命的な出来事でした。男女平等の社会は実現していませんが、女性の立場や声を、オープンに語れるところまで、女性の社会進出が進んでいると考えてもよいのではないでしょうか。

 

三つ目は、Facebookの最高執行責任者(COO)を務めるサンドバーグ氏が推進するLEAN INネットワークの存在です。サンドバー氏は、著書「LEAN IN」において、女性がキャリアを進める上で、社会が変わる必要もあるが、女性自身が心に持っている壁を克服する必要性があると語りました。女性は、自信に欠けていたり、必要な時に、前に出ることを躊躇したりする傾向があります。自分を売りこみ、相手に要求するということも、どこか遠慮してしまうことがあります。そのような女性の在り方を変えるために、サンドバーグ氏は、LEAN INという非営利団体を起ち上げ、積極的に行動する女性の支援を行っています。

サンドバーグ氏は、真の平等な世界が実現すれば、国家や企業全体としてのパフォーマンスが上がると主張し、女性自身の持つ心の障壁を取り除かなければ、女性が欲しいポジションを手に入れることはできないと、TED Talksでも語っています。

そのためには、女性がキャリアを積めるよう社会や組織の柔軟性を高めるだけでなく、女性自身が内面に作った壁を克服する必要があるとサンドバーグ氏は強調し、この精神的な壁は、社会的風潮によって成長の過程で自然に作られたもので、特に成功を手に入れる男性は周りから好かれる一方で、女性は敬遠される傾向があることが、女性が積極的にリーダーシップを取りに行きにくい大きな要因だと言います。(LEAN INより一部引用)
実際、フォーチュン500企業のうち、女性が最高経営責任者(CEO)の座に就いているのは21社となっており、女性の活躍が進んでいるとは言えません。

 社会にとってのメリット

日本と世界を比較するために、「The Global Gender Gap Report 2013」を見てみると、日本は105位で、前年の101位、前々年の98位に続いてランクダウンしています。1位は5年連続アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェー、4位スウェーデンとなっており、欧州が上位を占めます。このレポートは、経済活動の参加と機会、教育、健康と生存、政治への参画の4分野から男女格差を測定しています。日本の結果は教育と政治への関与においてスコアが前年より低下しています。
昨年2月に来日した、ビジネス書のベストセラー「ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図」の著者であるリンダ・グラットン氏が、プロモーションのために来日しました。その際に集まった人々から、未来の働き方について質問を受け、その返答として、帰国後、「日本企業と若者世代の未来」についてForbes誌に執筆した記事をご紹介します。「もし、日本の労働人口の半数が「大人対大人」として意見を聞いてもらえていないのだとしたら、これは日本企業で働く人々が「意思を持った大人」へと移行する妨げになります。」この移行をどう実現していったらよいかについて、「受け身のこども」から「意思をもった大人」へと移行するための私なりのアイディアを3つ記したいと思います。①視点を広げる②自分の意見を口にする③勇気を持って行動する

日本の若い世代が、入ろうとしているグローバルな世界では、視点を広げ、自分の意見を口にし、勇気を持って行動することが、ますます重要になってくるでしょう。日本の若者世代が変革を始めるのは今です。(引用翻訳: Lynda Gratton ”The Choices for Japanese Youth” (Forbes 2/11/2013))

 

 

 

学習する組織 Learning for All の活躍

 

文部科学教育通信 No.346 2014.08.25掲載

第5回の連載でご紹介した、「学習する組織」の5つの規律を体現しているNPO法人Teach For Japanの学習支援事業Learning for All(以下、LFA)についてお伝えいたします。

私は、2010年のLFAの活動開始時から、研修や組織開発の面で継続的にサポートしています。LFAの組織としての成長を見守るとともに、常にLFAの活動に携わっている学生からも学んできました。

今回、これまでの活動を振り返りつつ、LFAの魅力をご紹介する機会にしたいと思います。

 Learning for Allについて

LFAは、学習支援を通して困難を抱える子どもたちの可能性を広げるとともに、将来、教育現場や社会でリーダーシップを発揮する人材を育成する大学生向けのプログラムです。

子どもたちの置かれている状況に共感し、情熱を持って指導する人材を、子どもたちの前に教師として送り込むことで、子どもたちの学習遅滞解消、自己肯定感の向上を図ります。また、そのために独自の研修プログラムやサポート体制によって、参加する教師自身の成長、変容を実現します。大きく分けて、長期プログラム(春季、秋季、冬季:2~3ヶ月)と短期プログラム(夏季休業期:5日間)の2つが行われています。

団体のミッションは、

  1. 困難を抱えた子どもたちの可能性を最大化する
  2. 参加した学生のリーダーとしての成長を実現する
  3. 卒業生による”社会全体で教育を変える”システムを創る

です。

2010年夏より活動を開始し、今では関東・関西・東北に広がっています。

関東は葛飾区や墨田区、関西は東淀川区、奈良市、池田市。東北は、仙台市雄勝町、石巻市、南三陸町にて継続的にて学習支援を行っています。

LFAは、2013年度までに、延べ2,131人の子どもたちに学習支援を行いました。プログラムに参加した学生教師は延べ785名、LFAのスタッフとして活動している人は述べ389名となっています。

また、2014年度は既に春季のプログラムが終了し、現在は夏季プログラムの事前研修を行うと同時に、秋季プログラムの応募が開始しています。

LFAの学習支援を受けた子どもの中には、学力的に高校への進学が厳しいと言われていたけれど、学生教師がその子どもの躓いているところを一つずつ丁寧に指導し続けたことで、志望校に推薦合格した子どももいます。また、LFAの学習支援では、学生教師が丁寧に子どもたちとコミュニケーションをとるので、そのやり取りを通して将来のことを前向きに考えるようになり、留学ができる学校に進学し、夢に一歩近づいた子どももいます。

 持続可能な学習支援を行うために

LFAは学生が主体となって運営している組織です。採用や研修をデザインする際に、私のような社会人がアドバイスすることもありますが、組織を成長させ、子どもたちにより良い学習の機会を提供するために活動しているのは、情熱をもった学生たちです。

学習支援を持続可能な活動にするため、LFAは子どもたちの置かれている状況に共感し、誰も解決しようとしなかった課題を創造的に解決し、自ら学習し続けることのできる人材を仲間にしています。

学生教師とLFAスタッフの情熱や、子どもたちの変化を知ってもらうための説明会といった広報活動も、全て学生が行っています。説明会でのプレゼンテーションひとつを挙げても、初めてLFAに接した人々に彼らの思いが伝わるように、何度も練習し、フィードバックしあい、改善しています。

学生教師を採用する際にも、どのような思いを持っているのか、たとえ困難な状況に置かれても責任をもって子どもたちを支援することができるのか、教師自身が学び続けることができるのかを確認するために、エントリーシートの提出や面接を実施しています。指導の経験やスキルだけでなく、子どもの目線で物事を考えることができるかどうか、困難な状況に陥っても逃げるのではなく課題を解決するために前に進めるのか、といったところも重要な採用基準です。

LFAは、採用した学生に対して、指導を開始する前に20時間の事前研修、プログラムの期間中に20時間以上の中間研修を提供しています。また、指導期間中は教師に対して指導のフィードバックを行い、教師自身がPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Actサイクル)を回して、より良い指導ができるようにサポートします。

プログラム終了後には「大リフレクション大会」という、活動を振り返って次の行動につなげる機会を設けています。

このように、LFAは、子どもたちの成長のために個人と組織の学習サイクルを綿密にデザインしています。

 学習する組織としてのLearning for All

LFAの個人と組織の学習サイクルについてふれましたが、団体設立時からこのようなサイクルがあったわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、成功や失敗から学び続けた結果、現在のスタイルが確立されたのです。また、今でも常に子どもと教師にとってより価値のあるやり方を模索し続けています。

私はLFAを学習する組織であると考えています。LFAは、学習する組織の5つの規律(http://www.a-kumahira.co.jp/fifth/fifth.html)を活動全体で体現しています。

私がLFAの研修を担当する際、スタッフや学生教師に向けて「学習する組織」の話をしています。なぜこれら5つの規律が大切なのか、とLFAに携わる学生達が繰り返し考えることが、組織が成長していくための土壌づくりになると考えているからです。

LFAに参加している学生は、なぜLFAで活動するのか、どのような思いから参加しているのか、この先LFAでの経験を何に活かしたいのかといったパーソナルマスタリーをもっています。個人の願いを叶える手段が、LFAでの活動である場合が多いのです。

また、LFAの活動を通して個人が成し遂げたいことと、団体のビジョンが一致しています。研修では、LFAのスタッフが団体のビジョンを学生教師に共有する機会がありますが、この共有ビジョンに一人ひとりが共感し、自分事とすることを目的としています。

LFAに携わる学生は、メンタルモデルという色眼鏡が自らの学習を妨げる原因となることを理解しているので、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、反発するのではなく、歩み寄ってそこから学ぼうとします。

また、個人がそれぞれPDCAサイクルを回して学習しますが、チーム学習も盛んです。ナレッジと呼ばれる経験をお互いに共有し、自分の指導に活かせるものは進んで取り入れることもできます。また、チーム全体で課題を解決することも行います。その際、ダイアログ(対話)という手法で、お互いの意見を尊重しながら、より良い答えを求めます。

学習支援に力を注いでいると部分的な課題にとらわれることがありますが、システム思考を用いて、全体から眺めた時にどこが問題なのか、どのような因果関係でその問題が起きているのかを捉え、効果的にアプローチします。

このように、子どもたちの学習機会を最大化するために、LFAの学生教師やスタッフは、自ら学習し続けています。

 これからのLearning for All

事業モデルの標準化によって、どの事業部・どの拠点においても、一定の質の高いプログラムを提供することができるようになった今、今後は事業の拡大に向けて動いていきます。今後は、年間1,000名以上の子どもに対する支援を実施し、学生教師も年間400名以上を採用予定です。拠点数も東京と関西でそれぞれ9拠点へ拡大することを目標としています。

LFAが学習支援の対象としている子どもたちは、現在の拠点以外にも日本全国に存在しているのが現状です。より多くの子どもに機会をつくることができるよう、LFAはこれからも活動を続けます。

LFAのウェブサイト:http://learningforall.or.jp/

 

 

ピースフルスクールプログラムと「学習する組織」の学びを活かす

文部科学教育通信No.345 2014.08.11掲載

第4回の連載でご紹介した、子どもたちが自ら安心安全なコミュニティをつくるための教育プログラム「ピースフルスクールプログラム」を、学校や地域コミュニティに導入したいという声が集まっています。

2013年度より、品川女子学院では、「学習する組織」とピースフルスクールプログラムの授業を、教員と生徒対象に実施しています。

2014年7月より、相模原や相模大野を中心に活動されている「職子屋」というキャリア教育支援のボランティア団体とともに、ピースフルスクールプログラムと「学習する組織」の学びをどのように地域や学校に活かすことができるのかを模索する勉強会を開始いたしました。

今回は、ピースフルスクールプログラムと親和性が高く、導入に必要となってくる『学習する組織』の学びをご紹介いたします。

ピースフルスクールプログラムと『学習する組織』の親和性ピースフルスクールプログラムと『学習する組織』の親和性

ピースフルスクールプログラムは、学校や地域コミュニティにおいて、21世紀を幸せに生きるために必要なスキルとマインドを、子どもと大人が共に学び、日常生活でその学びを実践し体現するシチズンシップ教育です。

プログラムを通して、自尊心・自制心・共感力・内省力を高め、問題を話し合いで解決し、安心安全なコミュニティを自分たちの力で創りあげていくことが出来るようになります。

このプログラムの特徴の一つは、スキルとマインドを養い、実社会で応用していくところです。コミュニティの運営や対人関係を円滑にするためのプログラムはピースフルスクールプログラム以外にも数多く存在しますが、実際に学びを現実世界に適用し、学校やコミュニティの文化として根付かせるプログラムはあまり多くありません。

このプログラムを知識学習だけに留めることなく、多くの人が実践し、文化として根付かせることができるようになるために、「学習する組織」の教えと組み合わせていくことが大切だと考えています。

「学習する組織」は、ピーター・センゲにより統合された組織論で、起こりうる最良の未来を実現するために、個人とチームの能力と気づきの状態を高め続けることができる組織のことを指します。

洋の東西を問わず、教育の問題は政治や社会の重要なテーマとなっていて、「教育改革」「教育再生」など様々な取り組みが行われています。その中にあって、教育者たちの間で注目され、実践されているアプローチがこの「学習する組織」です。その概念と実践のための手引きは、MIT上級講師のピーター・センゲ氏が1990年に書いた『The Fifth Discipline』(邦訳『最強組織の法則』)に示され、その後『The Fifth Discipline Field Book』(邦訳:『フィールドブック「学習する組織」5つの能力』)などで実践の実際や事例などが詳しく紹介されています。

「規律」か「ゆとり」かを振り子のようにゆれる教育改革論議の中で、ビジネスの分野での研究や実践が教育界にも役に立つと考え、多くの教育界のリーダーや教育者たちがこの活動に取り組み始めました。子どもたちだけでなく、周囲の大人までも含めて、すべてを主体的な「学習者」として捉えるこの手法は、導入した企業や学校で目覚しい成果を遂げています。今では、「学習する学校」というコンセプトを掲げ、米欧中などで盛んに取り組まれ、国際学会などを通じてその進捗が共有され、また新しい実践者を増やす場が広がっています。

「学習する組織」では、チームや組織が起こりうる最良の未来を実現するために、能力や気付きを高め続ける組織には5つの規律が不可欠である、と定義しています。

「学習する組織」の5つの規律とは、以下の5点です。

 

  1. パーソナルマスタリー

    「パーソナルマスタリー」とは、自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」について明確なビジョンを持ちながら、ビジョンと現実との間のギャップや緊張関係を、創造的な力に変えて、内発的な動機を築くプロセスである。

    パーソナルマスタリーを持つ人は、己を知り、自らの意思でそこに立ち、ビジョン実現のために行動することができる。

  2. 共有ビジョン

    「共有ビジョン」とは、構成員それぞれのビジョンを重ね合わせて、組織として共有・浸透するビジョンを創り出すプロセスである。
    ひとたび、ビジョンが共有されれば、それが組織の行動、成果、学習の指針をコンパスのように示す。

  3. メンタルモデル

    「メンタルモデル」とは、マインドセットやパラダイムを含め、それぞれの人がもつ「世の中の人やものごとに関する前提」である。
    自らのメンタルモデルとその影響に注意を払い、物事がうまくいかないときには外にその原因を求めるのではなく、自らのメンタルモデルの欠陥を探求する。

  4. チーム学習

    「チーム学習」とは、チーム・組織内外の人たちとのダイアログを通じて、自分たちのメンタルモデルや問題の全体像を探求し、関係者らの意図あわせを行うプロセスのことである。中でも、「本音で腹を割って話す」ことに主眼を置き、集団で気付きの状態を高めて真の問題要因や目的を探求する一連の手法をダイアログという。

  5. システム思考

    システム思考とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉え、そのつながりの質や相互作用に着目するものの見方である。しばしば、全体最適化や複雑な問題解決への手法としても応用され、「生きているシステム」という考え方の根幹をなす考えでもある。

     

    ピースフルスクールプログラムを学校や地域で実践していく際に、この5つの規律をベースにすることが大切であると考えています。

    なぜなら、学校や地域には様々な考えを持った人が存在していて、その異なる考えを持った人同士がつながり、お互いを尊重して安心安全なコミュニティを創っていく必要があるからです。

    まず、人はそれぞれ過去の経験や大切にしている価値観が異なるため、メンタルモデルと呼ばれるものの見方(偏見や色眼鏡)があることを知ります。自分の考えに固執せず、異なる考えを持った人を理解し、共に学習する姿勢こそが、ピースフルスクールプログラムを文化として根付かせる重要なポイントです。

    また、プログラムの導入時には、「あなたの学校に通う子どもたちにどのような人に育ってほしいと願うか」や「あなたの学校や地域コミュニティをどのようなコミュニティにしていきたいと願うか」といったパーソナルマスタリーに近い思いをお互いに開示し、「みんなで何を実現するのか」を検討します。これが共有ビジョンにもつながります。

    このプログラムは、基本的に大人が子どもに教えますが、子どもと一緒に大人も学習します。また、個人の学びに終始することなく、学校や地域の日常で起きる様々な事象に対してプログラムの学びを実践するので、チームで学習することになります。

    プログラムの実施が進むと、本来期待していた効果が得られているのかを確認する必要がでてきます。子どもたち・教員・保護者・環境などにどのような変化が起きているのか、システムで捉え、より効果を上げるためにできることを模索することも大切です。

    このように、ピースフルスクールプログラムは体系立ったプログラムですが、「学習する組織」の学びと掛け合わせることで、より効果を発揮できると考えています。

    「学習する組織」について、こちらのサイトで詳細をご紹介しています。

    http://www.a-kumahira.co.jp/fifth/index.html

 

 

 

未来を幸せに生きる力を身につける「ピースフルスクールプログラム」

文部科学教育通信 No.345 2014.08.11 掲載

今日、世界中で教育改革が進められています。

21世紀という’複雑”変化”相互依存性’がキーワードとなる新しい時代において、子どもたちが幸せに生きる力を身につけるために、20世紀の教育では不十分だという認識がその前提にあります。

また、いじめや不登校、学級崩壊といった問題が子どもたち・教師・保護者を取り巻いているため、学校を安心安全な環境にしようという動きも見られます。

これらの根源的なアプローチとして、クマヒラセキュリティ財団では「ピースフルスクールプログラム」というシチズンシップ教育プログラムを展開しています。

今回は、このプログラムの特徴と日本での導入事例についてご紹介いたします。

 ピースフルスクールプログラムについて

ピースフルスクールプログラムとは、子どもたちが自ら安心安全なコミュニティをつくるための教育プログラムです。建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことと、コンフリクト(対立)を子ども自身で解決することを軸として、民主的な社会の担い手であり、平和な社会を構築する力をもつ人を育てます。

このプログラムを採用している学校で学んでいる子どもたちは、自分の意見を持つこと、その意見を相手にきちんと伝えること、相手の話をよく聞くこと、自分の感情を認識すること、相手の立場に立って物事を考えること、対立は意見が異なることが原因で起きるので悪いものではないと理解すること、対立をケンカやいじめに発展させるのではなく話し合いで解決すること、多様性を尊重することといった、幸せに生きるために必要な力を身につけています。誰かからの指示でしか行動できないのではなく、自分の頭で考え、答えを導き、主体的に活動することができるのです。

このプログラムは、1999年、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標に、オランダで学校教育として開発されました。当時のオランダも今の日本と同様に、学級崩壊やいじめの問題を抱えていたのです。また、オランダ国内に移民が増えたため、共存し共生する力を身につけなくてはコミュニティが崩壊してしまう危機にも直面していました。プログラムの開発者であるレオ・パウ氏は、当時のオランダは民主主義が姿を消し始めていた、と表現されています。

冒頭に記した通り、日本でもいじめや学級崩壊の問題はありますし、グローバル人材の育成やリーダーシップ、エンパシー(共感力)を身につけることの必要性がさかんに説かれています。部分的なアプローチは今までも実施されていますが、根源的かつ体系だったプログラムは存在しないと思い、オランダのプログラムを日本語に翻訳し、さらに日本の教育現場に合うように内容をローカライズしました。プログラムの内容も日本の子どもたちが学校教育で習っていないことや不得意なこと中心に開発し直しています。

プログラムの導入も特徴的です。導入前に教師のトレーニングを行います。このトレーニングでは、ピースフルスクールで子どもたちに教えることを教師が学ぶことはもちろん、子どもたちがどういう人間に育ってほしいのか、学校をどのようなコミュニティにしたいのか、どういった社会を実現したいのかといったことを何度も対話をして考えます。

このプログラムの成功の鍵は、学校文化として根付かせ、あらゆる場面で学習することにあります。そのため、教師全員がこのプログラムの本質を理解し、自らがロールモデルであり、学習者である必要があります。

現在、オランダではこのプログラムを導入する学校が増え、オランダ全土で700校以上の学校が採用しています。また、導入から10年以上経った今では、学校の文化としてこのプログラムが完全に根付いているケースが増えています。子どもたちは、単なるレッスンを受けるだけでなく、学校のあらゆる場面で学んだことを実践し、21世紀を幸せに生きる力を身につけることができるのです。

当プログラムが教えていることは、子どもだけでなく大人にとっても必要な学習であるため、今では学校教育にとどまらず、地域社会におけるコミュニティ教育としても広がりをみせており、「ピースフルコミュニティ」と呼ばれる地域コミュニティが増えています。

学校で子どもたちがこのプログラムを学び、体現できるようになると、学校以外の場所である家庭や地域の活動、登下校の道といったところでもプログラムの学びを実践します。そのため、大人もこのプログラムを学ぶことができるようにと、保護者や様々な職業に就いている大人対象のワークショップが開発されています。

日本では、学校・地域・家庭は分断して語られることが多いですが、子どもは学校だけでなく、地域や家庭でも活動しているので、一貫して学べる環境を整えることが大切であると考えます。家庭や地域社会は学校を批判するのではなく、理解して支えます。学校での子どもの成長は、家庭や地域社会に良い影響を与えます。国全体が子どもたちに大きな関心を向け、学びが循環している安心できる環境で、子どもたちは育てられるのです。

日本でもピースフルスクールプログラムの導入が始まっています。佐賀県武雄市の武内小学校での様子をご紹介します。

 日本での導入ケースについて

日本でのピースフルスクールプログラムの導入を視野に、2012年にオランダ語から日本語への翻訳を開始し、2013年には日本の学校や子どもたちに合うようにプログラムの内容を再開発いたしました。2014年度より、佐賀県武雄市の武内小学校(代田昭久校長)でプログラムの導入が開始しました。2013年以降、私立の中高などで部分的に導入したケースはあるのですが、公立の小学校への全面導入は武内小学校が初となります。

導入のきっかけは、武内小学校の校長である代田先生にピースフルスクールプログラムの目指す世界や特徴に共感していただいたことです。武雄市の小学校ではタブレットを用いた「反転授業」が行われているのですが、授業中の学び合いや話し合いを通してより効果的に学習するために、子どもたちのコミュニケーション能力を高める必要があると考えられています。子どもたち自ら、自分たちの学校をより安心安全なコミュニティにしていき、多様な人との関わり合いの中で学習し、対立や様々な問題を話し合いで解決できる力を身につけることを目標とし、年間10回のレッスンを行う予定です。

すでに3回の授業が終了しています。

第1回は、「自分の意見を持ち、相手に伝えよう」を学習目標として、意見には「賛成・反対・わからない」の3種類があること、たとえ「わからない」でも構わないので自分の意見を持つことが大切であること、お友達と意見が違ってもお友達でいることができることを学びました。

第2回は、「相手の話をよく聞こう」を学習目標として、話を聞いてもらえなかった時どんな気持ちになるのか、きちんと話を聞くときの態度はどのようなものかを学びました。

第3回は、「自分と相手の気持ちを大切にしよう」を学習目標として、自分の気持ちを言葉で表現して相手に伝えること、気持ちは変化すること、相手の気持ちを理解すること、相手が嫌な気持ちだと思ったら自分は楽しくても止めることを学びました。

武内小学校では、引き続き当プログラムのレッスンを行ってまいります。

ピースフルスクールプログラムについては、こちらのサイトでもご覧いただけます

http://peacefulschool.kumahira.org/


AMBITIONER’S LAB(アンビショナーズ・ラボ)ワークショップ

文部科学教育通信 No.343 2014-7-14に掲載された教育と学習のイノベーションを探す(3)をご紹介します。

2013年に、「未来を創る力を共に学びたい」という想いで、AMBITIONER’S LAB(アンビショナーズ・ラボ、以下ABL)を立ち上げました。

ABLは、OECDのキーコンピテンシーや『学習する組織』、U理論、デザイン思考、ビジブルシンキング、マルチプルインテリジェンス、Teaching as Leadershipなどを主たる理論としています。

これらの理論をもとに、未来を創る人にとって必要な力と価値観を「未来を創る8つの力と4つの価値観」としてまとめました。

2014年6月から12月にかけて、ABLではこれらの力と価値観を身につけるためのワークショップを全12回開催いたします。

今回は、AMBITIONER’S LABとそのワークショップについてご紹介いたします。

 

●未来を創る8つの力と4つの価値観

ABLでは、未来を創るために必要な力と価値観を以下のようにまとめています。

【8つの力】

  1. 真の自分を生きる力
    人は、自ら心から望むことをする時にとてつもない力を発揮します。これが未来を創る原動力となるのです。未来を創る人は、自らはもちろんのこと、多くの人たちが、真の自分を生きることができるように、使命を見いだすことを助け、その実現を後押しする力が求められるのです。

  2. 心を突き動かすメッセージ発信力
    未来を創るためには、ビジョンを発信し、共鳴する仲間を作り、力を合わせることが必要です。そのために、論理的かつわかりやすい説明をすることに加え、人の心に火をつけ、心と心を結ぶメッセージ発信力が必要です。

  3. 新しい価値を生み出す対話力
    新しいアイデアは異質なものが交差するところで生まれます。多様な経験や専門性を持つ人同士が、お互いを尊重し、安心して意見をぶつけ合い、学び合うことを通して、新しい価値が生み出されます。

  4. 創造的な問題解決力
    未来に向かう過程では、あらゆる分野の既存の秩序が、大きな変化を求められます。そのような中で求められるのは、論理的に考える力、複雑にからみあった全体像を把握する力、過去にとらわれない新しい解を生みだす力です。

  5. 自らの意志で動く強いチームを創る力
    未来をつくるためには、個を超えたチームの力が必要だからです。夢とビジョンと目標を共有し、一人一人が自らの役割を知り、自らの意志でその目標の達成にコミットしていく。強い信頼関係のもと、互いの意見の相違を恐れず、オープンな議論ができる。強制力ではなく、自らの意志で動く。そんなチームを創る力が求められます。

  6. 自ら学び進化する強い組織をつくる力
    未来をつくるためには、新しい未来を生みだす意志と、過去のとらわれから脱却し、常に新しいものを受け入れ、自ら変わる力を持つ組織をつくることが必要です。共有ビジョンを実現するために、個人、チーム、組織全体が、必要な気づきと能力を高め続ける組織を創る力が求められるのです。

  7. 学習する力
    未来をつくるためには、過去にしばられず、常に新しい見方を手に入れる必要があります。また、多様性から新しい価値を生みだすことが大切です。好奇心を持ち、異質なものから学び、自らの思考や行動を省みて、自らの枠を広げ、成長する。こんな姿勢で行動し、進化を遂げる力が必要です。

  8. 育成する力
    自ら学び進化する強い組織をつくるためには、学習する力を持つ人を育成することが大切です。ありたい姿に向けた成長課題を明確にし、伴走者として観察とフィードバックにより人々の成長を支援する。このような育成力が求められます。

【4つの価値観】

  1. 人間の創造力と無限の可能性を信じる
    人間が持つ潜在的な力、まだ見ぬものを創造し、未来を創り出す力は計り知れないものがあります。未来を創る人は、この人間の持つ偉大な創造力と無限の可能性を信じ、人を活かし、人を育てる気概をこれまで以上に持つことが必要です。

  2. 他者への共感を大切にする
    他の人が置かれた状況に、深く共感することができれば、企業部門も公共部門も含めて、よりよい社会の実現に向けて、様々な新しい価値を生みだすことが可能となります。

  3. 多様性を尊重する
    多様性を尊いもの、価値あるものとして受け入れ、多様性から新しい価値を生みだし、多様性が安全に存在できる環境をつくる力が求められるのです。

  4. 倫理観を大事にする
    自分たちのチームや組織の偏狭な利益だけでなく、社会の善にどのように貢献するかを考慮することが求められます。
    目的の正しさを常に考えて行動する力が必要となります。

ABLは、これらの力と価値観を実践的に身につけるためのワークショップを開発しました。
ハーバード教育大学院のプロジェクトゼロで学んだ「理解のための学習」などの理論をもとに、単なる知識だけで終わらないワークショップとなっております。

 

●AMBITIONER’S LABワークショップ

未来を創る力を身につけるために、ABLは全12回のワークショップを開発しています。
この場の狙いは、「人、組織、自然環境において希望と可能性に溢れた未来を実現するために、必要な力とは何だろう」ということを互いに学び合う場です。
参加メンバーには企業、NPO、学生など、様々な立場の人がいます。多様な視点、経験をもとに、共に実践しながら学ぶのがAMBITIONER’S LABです。
ワークショップのキーワードには、「願い、課題、パーソナルマスタリー、多様性、共感力、イノベーション、学習、メッセージ発信、問題解決、氷山モデル、知覚と判断、共有ビジョン、主体性、リーダーシップ、変革理論、価値観、倫理観、組織、個」などがあります。
ある回のワークショップでは、「真の自分を生きる力」を身につけるために、人の潜在的能力に着眼したワークショップを行います。例えば、『学習する組織』のパーソナルマスタリー(自己マスタリー)を探求し、理想(ありたい姿)と現実とのギャップを埋めるために何ができるのかなどを考えます。そのために必要となる、思考が停止している状況から自律的に思考すること、課題を分析し深掘りするだけでなく未来志向で考えること、効率を優先しすぎるのではなく本質は何なのかを考えること、知識学習にとどまるのではなく実践学習に向かうこと、責任問題にするのではなくリフレクション(内省)をして現状を改善し続けることなどの重要なマインドセットについても学びます。
単なる知識として学習するだけでなく、今の自分にとって何が必要なのか、何を行えばいいのかがわかる内容となっています。

 

●第一回目ワークショップ

第一回目のワークショップでは、テーマを「課題認識と願いの共有」としました。
個人・組織・社会あるいは地球の全体の在り様に対して、「どんな願いをもっているのか、どんな課題意識を持っているのか」を、それぞれの立場で考えました。
あるグループは、以下のアウトプットを出しました。
「社会・組織・家族の未来について考えました。突き詰めたところ、一人ひとりが受け入れられる、安心安全だと感じられる社会、組織、家庭を実現したいという願いが、チームメンバーで共有されました。そのため、個人がチャレンジしたいと思え、他人や周囲のことも考えられる前向きな思考になるためには、そもそも心無い批判のない環境や、再チャレンジ可能であるということが社会のベースとして必要なのではないか、という意見もあがりました。」
このような未来を実現するために、AMBITIONER’S LABで学び、社会において実践を続けます。

AMBITIONER’S LABhttp://ambitioners.jp/

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