未来を創るリフレクションの力 F・コルトハーヘン氏のリフレクション学スペシャルワークショップに参加して
文部科学教育通信NO.352 2014.11.24掲載
「リフレクション」という言葉をご存知でしょうか。日本語で言うと、内省力。自らを振り返ることを指します。日本人の多くはその大切さを意識していませんが、未来が不確実である現代において、リフレクションできる人こそが、これからの時代を創っていけると確信しています。
OECDのキーコンピテンシーでも、様々な状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定通りに適用する能力だけでなく、変化に応じて経験から学び、批判的なスタンスで考え動く力が必要であるとして、リフレクションをキーコンピテンシーの核心であると定義しています。
より深くリフレクションの手法を学びたいと思い、2014年11月上旬、オランダのユトレヒト大学名誉教授であるF・コルトハーヘン氏のリフレクション学スペシャルワークショップに参加しました。
今回は、このワークショップで学んだことをもとに、リフレクションの重要性や方法をご紹介いたします。
正解を見つけてから動き出すのか、正解を探しながら動くのか
なぜ、リフレクション(内省力)が重要なのでしょうか。
それは、未来が不確実で正解のない時代だからです。私たちは、正解がなくても前進しなくてはなりません。正解を見つけてから動き出していたのでは手遅れなのです。
結果はどうだったか、もし想定した結果と異なった場合、どうすれば良かったのか。
ポイントは、悪かったことだけでなく、上手くいった場合でもリフレクションすることです。リフレクションを自分のものにするためには、良かったこと、悪かったこと含め、チャレンジした経験をとにかく振り返ることです。その経験をそのままにしておくのではなく、何かを学びとるのです。
そこで重要になってくるのは、何事も取り掛かる前に「意図」を持つことです。意図した通りの結果になったのかどうかを振り返り、それに対する答えがYESでもNOでも、なぜそうなったのかを考えるのです。
次に、何を変えればいいか、何を変えずにおくべきかという仮説を立てます。これが、次の行動における意図となります。その仮説をもって、新たな行動に向かう。これは自分の行動に関する「仮説→検証」のPDCAサイクルを回し続けることにほかなりません。
正解を探してからでないと行動を起こさないことと、多少大変であっても、正解を探しながら行動することのメリット、デメリットについて、ぜひ考えていただきたいです。
教育における国際的変化について
上記の通り、リフレクションが未来を創るために必要であることを理解し、日々実践しているのですが、より理論と実践を深く学びたいと思い、オランダのユトレヒト大学名誉教授であるF・コルトハーヘン氏のワークショップに参加しました。
そこでは、まず、教育における国際的変化について考えました。結論としては、教師が知識を伝達する指導スタイルから、教師がリフレクションを促し、小グループでの学びを促すスタイルに移行している、ということでした。そのためには、教師自身のリフレクション力を向上させ、教えることがメインであった快適な状態からの脱出を図る必要があります。学術的な知識が実践的であるとは限らないので、理論と実践を行き来することが大切です。そのために、リフレクションを行うのだと説明されていました。教育の現場ではなかなかリフレクションという文化が根付いていないのが現状ですが、これからの時代は教師も子どももリフレクションを行って学習を進めることが大切であると思います。
学術的に語られてきた、リフレクションを促す意義
リフレクションの重要性について、前段でも解説しましたが、コルトハーヘン氏曰く、以下の6つの意義があるとのことです。
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より効果的な学び/個人の成長につなげる
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行為の背後にある「理由」がわかるため、責任をとりやすくなる
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問題についての自分なりの見方を形作れるようになる
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自身の行動に対して、環境や、自分自身が信じていることが及ぼしている影響に気付くことができる
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自分自身の発達について、より主導的になれる
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よりイノベーティブになる
リフレクションを通して、自身の考えや行動を客観的かつ批判的に捉えることで、日常での問題の解決や、実践的な経験を深めることにつながるのです。
リフレクション・モデルについて
次に、リフレクション・モデルというリフレクションの流れについて学びました。
コルトハーヘン氏の解説では、以下の5ステップがリフレクションの流れとなります。
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行為
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行為の振り返り
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本質的な諸相への気付き
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行為の選択肢の拡大
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試行
まず、行為に入る前に、その行為の「意図」を考える必要があると思います。その行為の結果、どのような状況になっていれば良いのか、何をもって成功と言えるのか。ここを詰めます。
行為を行った後、「何が起きたのか?」「意図していた結果になったのか?」について振り返ります。その際、以下の問いについてそれぞれ考えていきます。
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私は何をしたのか。(Doing)
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私は何を考えていたのか。(Thinking)
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私はどのように感じていたのか。(Feeling)
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私は何を望んでいたのか。(Wanting)
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相手は何をしたのか。(Doing)
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相手は何を考えていたのか。(Thinking)
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相手はどのように感じていたのか。(Feeling)
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相手は何を望んでいたのか。(Doing)
一人でリフレクションをする場合には、これらの問いを自らに投げかけます。また、自分が誰かのリフレクションを促す際は、より深いリフレクションにつなげるために、相手の感情を受容し、共感することが大切です。そして、相手の発言を具体的な言葉に置き換えて伝えることも効果的です。
これらを通して行為そのものについて振り返った後、本質的な諸相への気付きへつなげます。何が意図したことと一致していないのかを明らかにしていくのです。そのために、以下の6つを意識して進めます。
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考えていることと、感じていることのギャップ
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自己イメージと、他者から見た自身のイメージとのギャップ
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自分として生きる中で体験して知っている自己と、他者に表現して伝わる自己とのギャップ
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していると言っていることと、実際にしていることとのギャップ
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今の自分と、なりたい自分とのギャップ
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言葉にしていることと、言葉にしない行動とのギャップ
これらの不一致に気付くことができると、単純な行為の振り返りにとどまらず、次の段階に進むことができるようになります。
本質的な気付きを得た後は、行為の選択肢の拡大に入ります。その際、以下のことに気をつけます。
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学習者(リフレクションしている人)を巻き込む
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学習者が選択肢を形づくる
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選択肢を十分に具体的なものにする
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能力や勇気などの観点からみて、選択肢は、十分にリアリスティック(現実に適合している)か
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行為が何につながるのかを吟味する
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別の場所にも適用できるように、一般化する
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学習者が複数の選択肢の中から選択する
ここでは、解決方法を見つけ、選択するための支援が必要となります。せっかく行為を振り返り、本質的にどうしていけばいいのかに気付いたのですから、より現実的に実行に移せる選択肢を多く挙げることが大切です。
そして、行為を選択した後は、実際に行動をお越し、再度振り返りのステップを行います。この繰り返しにより、自ら正解に近づいていくことができるのです。
リフレクションが、ビジネスの世界だけでなく、学校現場でも普及していくことを願っています。