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2026.06.08 文部科学教育通信掲載
昭和女子大学キャリアカレッジで5月に実施した定期セミナーで、「部署単位から始めるDEIが根付く組織への第一歩 ~若手社員が重要視する「心理的安全性」とともに~」をテーマにお話し致しました。その一部をご紹介致します。
なぜ「違い」に違和感を覚えるのか
そもそも、私たちは、多様性になぜ困ってしまうのでしょうか。その理由は、自分のあたり前とは異なる、当たり前に出会うからです。「なんでそんな風に考えるのだろうか」、「それは非常識だ」等々、人は、自分の当たり前と異なる考えに出会うと、違和感を覚えます。特に、これまで、同質性の中で、同じ当たり前に対する共通認識が確立していた組織で長く生きてきた人ほど、異なる「当たり前」に出会うと、ストレスを感じるはずです。これまでの居心地の良さを失うことは、決して簡単なことではありません。
当たり前の根拠
では、私たちが「当たり前」と考える根拠は、どこにあるのでしょうか。
その大きな土台となっているのが、「過去の経験」です。私たちは、自分がとった行動の結果を、その時に味わった感情と結びつけながら、「うまくいったこと(知恵)」と「うまくいかなかったこと(愚行)」として脳内に蓄積しています。そして、それらを次に意思決定を行う際の指針として活用しています。また、行動の結果を想像した時に生まれる感情も、判断に大きな影響を与えます。「不安になるから避けよう」「楽しそうだから挑戦してみよう」といった感覚も、私たちの意思決定を方向づけています。
つまり、私たちの「当たり前」は、過去の経験によって形づくられているのです。だからこそ、経験が違えば、「当たり前」も異なります。これが、「当たり前」が人によって異なる根拠です。
異なる経験を持つAさんとBさんの事例を見てみましょう。
Aさんの過去の経験
会議でみんなが自由に発言することが奨励され、発言をしないと「存在する理由がない」と指摘される組織で長く働いている人の「当たり前」
Aさんの当たり前
自分の意見を根拠を添えて分かり易く伝える
Bさんの過去の経験
意見を聞かれたので、率直に自分の意見を述べたら、周囲から冷たい視線を浴びた人の「当たり前」
Bさんの当たり前
本音は話さない方がよい。
「当たり前」はメンタルモデル
メンタルモデルとは、一人一人が持つ世の人や物事に対する前提です。メンタルモデルは、経験を通して形成されます。
人は、経験を通して、あらゆる事柄に「メンタルモデル」を持っています。
その結果、以下のような違いをもたらします。
- 同じことを、同じように捉えない
- 同じことを、同じように感じない
- 同じ意見を持たない
- 用いる判断の尺度が異なる
このため、「違い」と共に生きるためには、行動や発言の違いに目を向けるのではなく、その背景にあるメンタルモデルを理解する必要があります。
新しいキャリア観のメンタルモデル
これまでのキャリア観では、ライフとワークは、2つの独立した輪で、おそらくワークの方が、ライフよりも大きな比重を占めていました。しかし、最近では、ライフの中にワークがあると言われるようになり、ワークはライフの一部と考えられるようになりました。また、共働き社会になり、出産や子育て等のライフイベントによりワークの比重が変わることも多いです。パパも家事子育てに参画することが「当たり前」になり、ライフイベントによりワークの比重が変わるのは、女性だけの話ではなくなりました。
また、若者は、働く意義に報酬以外の価値を見出しており、組織の存在理由や自己成長の機会等、エンゲージメント調査の対象となる項目は、若者のキャリア観を投影しています。「仕事なんだからやるのが当たり前」という考え方では、若者と意思疎通が困難になります。
心理的安全性への貢献
最近では、職場における心理的安全性の重要性に注目が集まっています。心理的安全性には、大きく二つの条件が必要です。一つは、周囲の人に対して「素の自分」を見せることを、自分自身が受け入れられることです。もう一つは、素の自分を見せても、周囲から拒絶されたり否定されたりしないという安心感があることです。
長く職業人として働いてきた人の中には、「自分たちの職場には以前から十分に心理的安全性がある」と感じていたり、「なぜ今さら、改めて心理的安全性が強調されるのか」が実感として理解しにくい人も少なくありません。それは、これまでの職場では、同質性の高いメンバー同士が、共通の「あたり前」を前提として働いてきた場合が多かったからです。そのため、大きな違和感や対立を経験することなく、一定の安心感を持って働くことができました。
しかし、多様な価値観や背景を持つ人々が共に働く時代になると、これまでの「あたり前」が通用しなくなります。だからこそ今、違いを前提にしながらも、安心して意見を言い合える心理的安全性が、改めて重要になっているのです。
心理的安全性が必要になった背景
心理的安全性が重要視されるようになった背景には、多様性による「違い」の顕在化に加えて「働くことに伴うリスクが高まったこと」があると考えられます。その背景には、求められる仕事の質や、キャリア観そのものの変化があります。
職業におけるリスクの高まり
まず、求められる仕事の質が大きく変わりました。
- 答えのない時代には、試行錯誤を重ねながら正解を見出していく必要があり、失敗の可能性も高まります。
- 計画通りに物事を進めるだけではなく、状況に応じて軌道修正しながら進むことが求められるようになり、仕事にはこれまで以上に主体性が必要になりました。
- また、創造的な活動が増え、部門・専門性・組織の枠を超えたコラボレーションが不可欠になったことで、多様な価値観や「あたり前」と向き合う機会も増えています。
個人のキャリア観の変化
さらに、個人のキャリア観も大きく変化しました。
- 自己責任・自己決定によるキャリア形成が求められるようになり、キャリア選択そのものにリスクが伴うようになっています。
- 転職が一般化し、市場価値を高めるためには、新しい挑戦を続けることが必要な時代になりました。
このような時代に生きる若者が、職場に心理的安全性を求めるのは、ごく自然なことではないかと思います。
一方で、組織のヒエラルキー上位にいる人たちは、異なるゲームのルールの中で若い時代を過ごしてきました。そのため、現在の若者が置かれている状況や、日常的に感じているリスクを十分に実感できていない場合もあるのではないでしょうか。
また、組織の上位層にいる人たちは、若者ほど大きなキャリア上の不確実性や挑戦のリスクを抱えずに済んでいることも少なくありません。そのため、「なぜ心理的安全性がそれほど重要なのか」が、感覚として理解しにくいのではないか、そのような仮説も成り立つように思います。
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Z世代に学ぼう!
Z世代には、以下のような特徴があると言われています。
- 真のデジタルネイティブ ITリテラシーが高い。
- 社会問題への関心が高く、社会に貢献したいという意欲が強い。
- ジェンダー問題への意識が高い。
- 「モノ」より「体験」に重きを置く。
実は、Z世代の価値観は、社会の変化を先取りしていると言えます。その発想や価値観を尊重し、組織の中で活かしていくことが、若者の自信や心理的安全性につながるのではないでしょうか。