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ザ・アムステルダム・シティドーナツ
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2026.05.11 文部科学教育通信掲載

アムステルダム市は、2050年までに100%循環経済を実現するという野心的な目標を掲げ2020年は、都市戦略としてドーナツ経済学を採用しました。

 

アムステルダム市

オランダの首都アムステルダムは、165以上の運河が流れることから「北のベネチア」とも称される、美しい水の都です。人口は約93万人で熊本市と同規模ですが、面積はその約6割にあたります。17世紀の黄金時代に築かれた歴史的な街並みや寛容な文化、そして世界屈指の美術館を有することでも知られ、ヨーロッパを代表する人気観光都市の一つです。

 

ドーナツ経済学

ドーナツ経済学とは、イギリスの経済学者であるケイト・ラワースが提唱した新しい経済の考え方で、「人々が人間らしく暮らせる社会」と「地球環境の限界」の両方を同時に満たすことを目指す枠組みです。従来の経済学がGDPの成長を重視してきたのに対し、ドーナツ経済学は「どれだけ成長したか」ではなく、「人と地球にとって望ましい状態に収まっているか」を重視します。

この考え方は、ドーナツ状の図で表現されます。内側の円は「社会的基盤」を示し、食料、教育、医療、住居、平等といった、人が尊厳をもって生きるために欠かせない条件を表します。この内側を下回ると、人々は貧困や不平等といった問題に直面します。一方、外側の円はプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を示し、気候変動や生物多様性の損失、資源の過剰消費など、地球環境が耐えられる範囲を意味します。この外側を超えると、環境破壊が進み、持続可能性が損なわれます。

プラネタリー・バウンダリーは、地球というシステムが安定して機能し続けるために、人類が超えてはならない「環境の限界」を示した概念です。2009年に、ヨハン・ロックストロームらを中心とする研究チームによって提唱されました。

この考え方の出発点には、「地球は無限ではない」という前提があります。人間の経済活動や社会活動が、地球の許容範囲を超えてしまうと、気候や生態系といった地球のシステムが大きく変化し、元に戻れない状態(不可逆的な変化)に陥る可能性があります。プラネタリー・バウンダリーは、そのようなリスクを避けるための「安全な活動範囲」を科学的に示そうとするものです。

現在、この枠組みでは主に9つの領域(地球システムのプロセス)が示されています。代表的なものを挙げると、まず気候変動があります。温室効果ガスの排出が増えすぎると、地球の平均気温が上昇し、異常気象や海面上昇を引き起こします。次に生物多様性の損失で、種の絶滅が進むと生態系のバランスが崩れます。さらに、窒素やリンの過剰な使用による生態系への影響、森林破壊などの土地利用の変化、淡水資源の過剰利用、海洋酸性化なども重要な領域です。これらの中には、すでに限界を超えてしまっていると指摘されているものもあります。特に生物多様性の損失や、窒素・リンの循環の乱れは、危険な領域に入っているとされ、地球の持続可能性に対する大きな警告となっています。

2015年にスタートしたSDGsも、プラネタリー・バウンダリーの考え方を基礎の一つとしています。経済学者のケイト・ラワースは、人類の幸福を支える持続可能な経済は、プラネタリー・バウンダリーを超えない範囲で活動する必要があると同時に、すべての人の基本的なニーズを満たすものでなければならないと考えました。こうした考えに基づいて新たに提唱されたのが、ドーナツ経済学です。

アムステルダムでは、循環型経済や脱炭素政策を進める際の指針としてドーナツ経済学が採用され、廃棄物の削減や資源の再利用、社会的包摂の強化といった具体的な取り組みにつながっています。

 

ドーナツを実践に移すための原則

ドーナツ経済アクションラボは、ドーナツを基礎的な概念として用いるすべてのプロジェクトや取り組みが、ドーナツ経済学の中核となる原則を体現することを目指し、設計・実施されることを求めています。

 

21世紀の目標を受け入れる

生きている地球の範囲内で、全ての人のニーズを満たすことを目指す。自組織の目的、ネットワーク、ガバナンス、所有、資金をこの目標と一致さえることを求める。この取り組みは、困難であり、革新的であり、変革的であることを前提とする。

 

全体像を見る

家庭、コモンズ、市場、国家のそれぞれの役割と、それらが経済を変革する上で持つ多くの相乗効果を認識する。金融は主導するものではなく、この取り組みに奉仕するものとなるようにする。

 

人間の本質を育む

多様性、参加、協働、相互性を促進する。コミュニティのネットワークを強化し、高い信頼の精神で働く。チームのウェルビーイングを大切にする。

 

システム思考で考える

実践し、学び、適応し、進化し、継続的な改善を目指す。動的な影響、フィードバックループ、転換点に注意を払う。

 

分配的である

オープンデザインの精神で取り組み、共創したすべての人と価値を共有する。権力の偏りに気づき、それを再分配してステイクホルダー間の公平性を高める。

 

再生的である

生きている世界の循環の中で、また、それと共に働くことを目指す。共有者、修復者、再生者、管理者となる。移動を減らし、飛行機の利用を最小限にし、気候とエネルギーに配慮する。

 

成長ではなく繁栄を目指す

成長そのものを目的にしはい。規模を拡大するのではなく、他者を通じて取り組みが広がるべきタイミングを見極める。

 

アムステルダムの都市ポートレート

ドーナツ経済学に基づく目標設定は、「シティ・ポートレート」を作成することから始まります。「私たちの都市が、すべての人々のウェルビーイングと地球全体の健全さを尊重しながら、真に繁栄する場所となるためには、どうすればよいのか」という問いを起点に、その枠組みが構築されました。アムステルダムでは、このポートレートを作成するにあたり、4つのレンズが用いています。

  • アムステルダムの人々が繁栄

このレンズでは、4分類された16項目を目標にしています。

健康の観点:健康、住宅、水、食料

エンパワーメントの観点:平和と正義、社会的公正、政治的発言権、多様性における平等

つながりの観点:デジタル接続性、コミュニティ、モビリティ、文化

仕組みや制度の観点:雇用、所得、教育、エネルギー

  • アムステルダムの人々の自然環境の中での繁栄

このレンズでは、7項目を目標にしています。

水、大気質、森林、エネルギー、炭素、浸食、生物多様性

 

  • 地球全体の健全性の尊重

このレンズでは、プラネタリー・バウンダリーに対するオランダやアムステルダムが与える負のインパクトを可視化し、改善を目指します。

 

  • 世界中の人々のウェルビーイングの尊重

このレンズは、アムステルダムの購買と調達に焦点を当て、多様なグローバル・サプライチェーンで働く人々の労働条件は、しばしば搾取的であり、彼らの権利やウェルビーイングを損なっている現実を可視化し、改善を目指します。

 

シティ・ポートレートは、変革的な行動の出発点です。チェンジメーカーのネットワークを通じて、政府・企業・学術機関を結びつけるとともに、中小企業やスタートアップ、コミュニティネットワークのイノベーターを巻き込みながら、変革が推進されていくことが期待されています。現在も進化を続けるアムステルダムの取り組みから、目が離せません。

(Doughnut Economics Action Labを参考に作成)