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2026.02.09文部科学教育通信掲載
教育政策アドバイザーをしている静岡市の総合教育会議でお話する機会を頂きました。
前半では、幼保小連携について紹介しました。後半では、不登校と多様性の包摂についての講演内容を紹介致します。
不登校の子どもたちの声
日本財団が行った子ども1万人意識調査の結果から、学校に行かない代表的な理由として、①友だちのこと、②勉強のこと(プレッシャー、難しすぎる・簡単すぎるなどのレベルの不一致、人生に役立つと感じられない等)、③クラスの人数の多さ、④先生のこと、の四つが明らかになりました。
また、不登校の子どもたちが希望することとして、オンライン学習、少人数のクラス、メンタルサポート等が挙げられています。家族に対する要望としては、経済的な心配が大きいことに加え、家族に内緒で相談したいという声も見られました。
友だちと共に幸せに生きる基礎力
不登校の理由は様々ですが、とりわけ「友だちと共に生きること」に難しさを感じている子どもが、再び学校に通いたくなるために役立つ事例として、ここではオランダの実践を紹介したいと思います。
子どもたちが安心して学校に通うためには、心理的安全性が不可欠です。心理的安全性には、次の二つの条件が必要です。
① 素の自分を見せることを、自分自身が受け入れられている状態
② 素の自分を見せても、周囲の人に受け入れてもらえるという安心感
この二つがそろったとき、人は心理的に安全な状態になります。
日本社会には同調圧力があり、「人と同じであること」がよいと考えられる傾向があります。そのため、自分を出すことができず、窮屈さを抱えたまま学校に通っている子どもも少なくないのではないでしょうか。
そこで重要になるのが心の教育です。幼児期から、自分の気持ちをメタ認知し、その理由を添えて他者に伝える練習を繰り返すことで、子どもたちは「人の気持ちは同じではない」ということを理解できるようになります。その結果、他者の気持ちを評価するのではなく、理解し共感しようとする態度が育まれます。
さらに、意見の違いや対立が顕在化した際にも、「相手はなぜそう考えるのか」「どのような気持ちなのか」を想像する共感力が育ちます。誰もが自分の気持ちだけでなく、相手の気持ちにも意識を向けられるようになれば、学校は子どもたちにとって、より生きやすい場所になるのではないでしょうか。
オランダで見た子ども同士の対話
オランダを訪れた際、私が感動した児童同士の対話の一例を紹介します。
男の子A
「僕は、小学校卒業試験という一回の試験で進路が決まってしまうと思うと、ドキドキして不安な気持ちになるんだ」
女の子B
「ふーん、そうなんだ。私はその気持ち、あまりないみたい。もう少し、どんな感じか教えてくれる?」
不安な気持ちを率直に話しても否定されることなく、理解しよう、共感しようとする友だちがいる学校であれば、子どもたちは安心して通うことができるのではないでしょうか。
多様性の包摂
近年、学校において児童生徒の多様性を包摂する必要性が強く認識されるようになりました。どの学校にも、多様な個性や特性をもつ子どもが在籍している実態が顕在化し、学校も対応を迫られています。
文部科学省が公表した「論点整理」においても、多様性を包摂し、一人ひとりの意欲を高め、可能性を開花させる教育の実現が喫緊の課題であると示されています。
従来の一斉授業は、すべての子どもが同じ内容を同じように理解し、学ぶことができるという前提で行われてきました。しかし学級には、塾に通いより高度な学習に挑戦している子もいれば、授業についていけない子もいます。算数が得意な子もいれば、国語が得意な子もいます。子どもたちは一人ひとり異なります。
学ぶ意欲は本来、誰もが持っている
ハーバード教育大学院の「教育の未来研究会」に参加した際、赤ちゃんの学ぶ意欲について話を伺う機会がありました。赤ちゃんは「学ぶ意欲の塊」であるという指摘です。
「赤ちゃんは誰から指導されなくても自ら、ハイハイを始め、やがて立ち上がり、一人で歩こうとします。また、自分の手やスプーンを使って食べ物を口に運ぼうと挑戦します。最初はうまくいかず、テーブルや口の周りを汚してしまいますが、失敗を恐れず挑戦を続けます。これが本来の人間の学習意欲です。もし目の前にいる子どもや大人に学ぶ意欲が見られないとしたら、それは本人の問題ではなく、学ぶ環境に課題があると考えるべきです。と教授は語りました。
研究会では、発達理論と脳科学を専門とするレクティカ研究所が提唱する「学ぶ意欲の法則」についても紹介されました。学習意欲の鍵は、最適なゴール設定にあります。最適な学習ゴールに向かって楽しい成功体験を重ねることで、オピオイドが分泌され、ドーパミンが学び続ける意欲を高めるとされています。
これは、ヴィゴツキーの最近接発達領域「一人ではまだできないが、他者の支援があればできるようになる領域」において、学びと成長が最も起こりやすいという理論とも通じるものだと感じました。
すべての子どもに合った学習ゴールを
これらの理論から導かれるのは、特性の有無にかかわらず、すべての子どもが一人ひとり自分に合った学習ゴールを設定し、そこに向かって学ぶことこそが、望ましい学びの姿であるということです。
一方で、学校には様々な困難を抱えた子どもたちがいます。NPO活動を通して、困難は経済的な困窮に限らず、複数の不利や課題が重なっているケースが多いことを知りました。日本では、子どもの約9人に1人が貧困状態にあり、どの学校にも困難を抱えた子どもが存在しています。
学校は、家庭が子どもを育てる環境であることを前提としていますが、現実には、家庭そのものが子どもにとって大きな負担や課題となっている場合もあります。例えば、生活保護を受給している6人兄弟の家庭で、ネグレクトの疑いがあり、両親とも病気で働けず、欠食が多く、本人も学力不振というケースがあります。
このような環境で育つ子どもは発達の遅れを抱えやすく、学力不振に陥りがちです。たとえ教室に座っていたとしても、必ずしも学力を伸ばせる環境がそこにあるとは限りません。
支援の現場から見えたこと
NPOが運営する寺子屋で、私は初めて九九も割り算もできない中学生と向き合いました。ケースワーカーからは「15分机に向かえれば十分です」と聞いていましたが、その子は3時間学び続けました。その経験を通して、彼も本当は「勉強ができるようになりたい」と強く願っていることに気づきました。しかし、周囲の大人たちは、その子が勉強ができるようになることをあきらめています。割り算ができない中学生にとって、学校の教室も学ぶ場所ではなく、自己肯定感を下げるになっています。
おわりに
多様性を包摂する学校が増えることで、不登校の減少も期待できます。一人ひとりが自分に合った学習ゴールに向かい、学び、成長できる教室の実現に向けて、私自身も貢献していきたいと考えています。異なる立場の関係者が協力・連携し、子どもの声と現状を起点に、必要な支援を検討・実行していくことが大切だと思います。今、何が必要なのかを問い続けていく必要があります。