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2026.4.16
教育の未来
共同体の一員になる
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2025年12月22日文部科学教育通信掲載

オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールでは、子どもたちが「共同体の一員となる」ために役立つマインドやスキルを習得します。アドラー心理学における共同体感覚と合わせて、レッスンの一部を紹介します。

 

ポジティブな雰囲気づくり

ピースフルスクールでは、ポジティブな雰囲気づくりを大切にし、心理的安全性のある学校づくりに取り組みます。このため、褒め言葉や感謝の気持ちを伝える習慣を大事にし、けなし言葉を使わないことを約束にしています。例えば、今日のスターは、一日中みんなから褒められたり、逆に、今日の褒める担当者に選ばれると、一日中誉め言葉をみんなに伝える役割を担います。また、友達のよい行為を見つけたらいつでも掲示板に褒め言葉のメッセージを掲載することができます。

アドラーは、褒めることを奨励していないのですが、ピースフルスクールは主体性と共生力を育む中で、ポジティブな雰囲気づくりにみんなで貢献するという目的で褒めるので、アドラーが指摘するような褒めることによる弊害は少ないのではないかと思います。

 

助けになる

誰かの役に立ちたいという想いは大事ですが、時に、相手のために行った行為が、相手にとって迷惑になることがあります。例えば、誰かが、ジグゾーパズルに挑戦している時に、なかなかうまく進まなかったとしても、誰かに助けて欲しいと思っているとは限りません。そんな時に、相手の意志を確認せずに、パズルに手を出してしまうのは、「おせっかい」であり、助けになる行為ではありません。ピースフルスクールでは、幼児から、助けになることとおせっかいは違うというレッスンで学んでいます。

人の助けになりたいと思った時には、相手に「お手伝いしましょうか」と尋ねてから手伝うことも大事です。このような小さなコミュニケーションを一つひとつ子どもたちは学びます。

勉強を教えてあげる時も、答えを教えるのではなく、本人が答えを見つけられるようにガイドすることを奨励します。相手のために問題解決をするのではなく、本人が問題を解決できるように支援することが「人の助けになる」という意味だと学びます。

 

人の気持ちは同じではない

気持ちについて話し聴き合う習慣は、自己受容と他者信頼の土台となります。自分の気持ちをメタ認知し、言語化することで自分がどういう人間なのかに気づくことができます。また、お友達の気持ちを知ることで、他者理解も深まります。感情のレッスンを繰り返すことで、クラスのみんなの気持ちは、同じ事柄に対して同じではないこと、他者の気持ちを評価することにまったく意味がないことを子どもたちは当たり前のように考えるようになります。

 

人の意見は違う

「意見が違ってもお友だち」を合言葉にしているピースフルスクールでは、人の意見は違うことを子どもたちは学びます。だから、対立は当たり前に起きると教わります。対立は当たり前に起きるのだから、悪いものではなく、対立がけんかになると悪い事だと教わります。このため、対立したら話し合う責任を誰もが負います。また、自分の意見を持つことが前提なので、お友達の意見に対して、自分の意見が賛成なのか、反対なのか、解らないなのかを意思表明しなければなりません。

 

協働の練習

ピースフルスクールでは、違うお友達とグループやペアになり、お互いを知り合う機会を増やします。服の色や、誕生日、アルファベット順、背丈の順などいろいろな理由で整列し、ペアやグループになる手法で、たくさんの組み合わせが生まれる工夫をしています。仲の良いお友だちだけではなく、あまり話をしたことのないお友だちと知り合う機会を増やし、クラス全体が信頼関係を高めていくことを狙いとしています。信頼関係は、知らない人とは構築できない、だから知り合うことが大事と先生は子どもたちに伝えます。

 

共同体への責任とは

共同体のレッスンの中に、妹に対する責任と、クラスメイトに対する責任の違いを扱うものがあります。両親が働いていて、同じ学校に通う妹に責任を持っているお兄ちゃんが、妹からいじめを受けているという話を聴いて、妹の担任の先生に話に行きます。お兄ちゃんは、妹のいじめ問題を解決するために尽力します。ところが、自分のクラスの中で起きているいじめについては、同様の行動をとりません。子どもたちは、この事例を基に、共同体に対する責任について話し合い理解を深めます。

 

アドラー心理学における共同体感覚と4つの感覚

アルフレッド・アドラーは、人が幸福に生きるためには「共同体感覚」を育むことが不可欠だと説きました。共同体感覚とは他者の存在を認め、自分は他者に何ができるかということに関心を持つことです。人間は社会的な存在であり、個人の幸福は孤立したところにはなく、他者とのつながりの中にあるという考え方です。

アドラーは、この感覚を育てる過程こそが、自己成長と幸福の鍵になると強調しました。

共同体感覚を支える要素として、アドラーは「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」「所属感」という4つの感覚を重視しました。これらは互いに関連し合い、螺旋状に高め合うことで、人はよりよい社会の一員として主体的に生きることができるようになります。

 

1 自己受容――“ありのままの自分を受け入れる力”

自己受容とは、「私はありのままで価値がある」「未完成の自分でも努力し続けていい」と感じられる感覚です。アドラーは、人が成長するためには、自分の弱さ・限界・失敗を含めて受け入れることが重要だと述べました。自己受容とは自分を甘やかすことではありません。変えられないものは受け入れ、変えられるものは勇気を持って改善していくという「課題への前向きな姿勢」が含まれています。

2 他者信頼――“人は基本的に信頼できる”という見方

他者信頼とは、「周りの人は私を傷つける存在ではなく、信頼できる仲間である」と感じる感覚です。他者信頼は無条件の善意の受容ではありません。相手を盲目的に信用するのではなく、人は「基本的には協力しようとする存在である」という人間観に立つということです。

3 他者貢献――“誰かの役に立っている”という実感

他者貢献とは、「私は誰かの役に立っている」「自分の存在が社会に意味を持っている」と実感できる感覚です。アドラー心理学では、人が行動する最も強力な動機の一つは「貢献したい」という欲求であると考えます。貢献感は、承認を得るために行うものではなく、誰かの幸福や社会の改善に対して自分が影響を与えられているという内的な実感に基づきます。

4 所属感――“私はこの共同体の一員だ”という安心感

所属感とは、「私はここにいていい」「私はこの共同体の一員だ」と感じられる感覚です。人は孤立しては生きられません。他者とのつながりの中で認められ、受け入れられる経験は、心の安全基地になります。アドラーは、所属感が満たされていない人は、自分を守るために攻撃的になったり、逆に過度に迎合したりしてしまうと指摘しました。

ピースフルスクールの学びを通して、子どもたちは、自己受容、他者信頼、他者貢献、所属感の4つの感覚を育んでいます。また、コミュニケーション力を磨き、オープンに話し合うために必要なスキルも磨いています。多様な子どもたちが共に幸せに生きる練習は、共同体感覚を確かなものにしてくれるのではないかと思います。