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2026.4.16
リフレクション・対話・学習する組織
今こそ「対話」を組織の力に
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2025年12月8日文部科学教育通信掲載

連合総合生活開発研究所が発行する連合総研レポート「DIO」10月号に、対話のついての寄稿を掲載されました。今回は、その一部ご紹介致します。

今、なぜ対話なのか

VUCA時代を生き抜き、持続可能な発展を実現するために不可欠なのは、絶えず学びを重ね、変化に適応しながら自己と組織を変容させていく力です。そのための理論的指針として注目されるのが、ピーター・センゲが提唱した「学習する組織論」です。センゲは、未来を自ら切り拓く個人や組織にとって、「対話の技術」が不可欠であると強調しています。

私は、日本企業の変革を支援する過程で、「対話の技術」が著しく不足している現実に直面し、強い危機感を抱きました。この背景には歴史的な事情があります。戦後の高度経済成長期、日本企業は進むべき方向がはっきりしており、成果は実行力によって確保されました。そのため管理者には指示・統率・管理の徹底が求められ、社員には従順さと成果が期待されました。上下関係の厳しい組織では、上司の言うことが「正解」とされ、部下が自分の考えを述べる場はほとんどありません。結果として、「対話の技術」は必要とされず、育まれることもありませんでした。

しかし現代の経営環境は、日本経済が成長モデルを築いた時代とは大きく異なります。将来は予測困難で、変化のスピードはかつてなく速く、前例の踏襲では成果を保証されません。こうした状況下では、ヒエラルキー型組織が得意とする「上意下達による指示命令」だけでは、生産性を高めることが難しくなりました。

一方で、近年は「上意下達型」の組織から脱却し、上司不在でも自律的に動く「ティール組織」という新しい組織論も登場しています。また、人的資本経営の観点からも、優秀な人材が力を発揮するためにはエンゲージメントを高め、心理的安全性を確保することが「よい企業の常識」と言われるようになりました。こうした変化のなかで、「対話の技術」の必要性はますます高まっています。

しかし、「対話」という言葉が飛び交う一方で、本物の対話が実践されている場面は極めて少ないです。政治家は有権者との直接的なやり取りを「対話」と呼び、ビジネスパーソンも「対話しましょう」と口にします。だが実際にそうした場に参加してみると、表面的なやり取りに終始し、対話の本質に至っていないことがほとんどです。

 

対話の5つの基礎力の実践方法

ここからは順を追って、対話の5つの基礎力の実践方法を解説します。

基礎力1:メタ認知

第一に挙げられるのは、メタ認知である。メタ認知とは、自分が認知していることを俯瞰してとらえる力であり、自分の考えがどこから生まれたのかをリフレクションを通して理解し、意見の背景にあるメンタルモデル(が頭の中でつくっている世界の見え方・考え方の枠組み)を把握することで自己の内面を見つめ直す営みである。

自己の内面をメタ認知することは対話の基礎力の要である。他の4つの実践が難しいと感じる人は、まずはメタ認知にだけ集中してもよい。メタ認知の実践に慣れれば、残りの4つの基礎力も自然と身についていく。一方で、メンタルモデルを俯瞰できなければ、他の基礎力を実践するのは難しい。

したがって、自分の考えを「当たり前」とみなさず、「なぜ私はそう思うのか」と自分に問いかける習慣を持つことから始めるのが望ましい。

 

基礎力2:評価判断の保留

第二に重要なのは、評価判断の保留である。価値ある対話を実現するためには、自分の意見を持っていたとしてもそれを一時的に脇に置き、他者の意見に耳を傾ける姿勢が求められる。つまり、評価判断を保留にする必要がある。

自分の意見に固執したまま対話をしても、鍛えられるのは忍耐力だけであり、創造性は高まらない。評価判断を保留にしてこそ、多様な意見から学ぶことができる。もし、自分が「そんな考えは間違っている」と決めつけながら相手の話を聴いていると気づいたら、その瞬間に評価判断を保留へ切り替えることが、対話を続ける秘訣である。

基礎力3:傾聴

第三に挙げられるのは傾聴である。メタ認知と評価判断の保留が自らのメンタルモデルに意識を向ける営みであるのに対し、傾聴は他者のメンタルモデルに意識を向ける行為である。他者の考えがどこから生まれたのか、どのような価値観やものの見方を判断の尺度にしているのかを理解しようとすることが傾聴の核心である。

自分の内面をメタ認知するように、相手の内面を理解できるようになると、相手に共感することが可能になる。ただし、傾聴し相手の内面を理解しても、必ずしも賛成する必要はない。相手の世界を、感情も含めて正しく知ろうとすること、それが傾聴の目的である。

多くの場合、人は相手の「意見」だけを聴き取り、それで理解したつもりになってしまう。

自分の経験に結びつけて解釈し、その解釈を「理解」と錯覚してしまうのである。しかし、相手の意見の背景にある経験が、自分の経験と同じであるとは限らない。多くのコミュニケーションは、この「理解したつもり」に基づいて進んでしまう。

相手の意見を聴き、「さっぱり理解できない」と感じるのは、その意見を解釈するために必要な経験を自分が持ち合わせていないからである。だからこそ、自分にとって異質な意見に出会ったときほど、その背後にある経験や価値観を丁寧に傾聴することに、大きな価値があるのである。

基礎力4:学習と変容

第四に重要なのは、学習と変容である。対話を通して自分が何を学び、どのような変化を経験したのかを明らかにすることは、対話の核となる技術である。対話は「他者の見ている世界を知る」学びの場であると同時に、「自分を知る」機会でもある。

学習と変容は、「想像」「共感」「変容」の三つの過程を経て実現する。傾聴を通して得た情報から相手の世界を想像し、相手の靴を履いてみるように共感する。そして、その結果として、相手の世界から学んだことを自分の中に取り込み、自分自身の世界を再認識したり、新しい視点を加えることで変容が生じる。

学習と変容は対話から得られる最も大きな成果物の一つである。しかしそれは自己の内面に生じるものであり、意識を向けなければ自覚できない。だからこそ、対話の後だけでなく、対話の最中にも自分の内面を振り返り、学習と変容をメタ認知することが不可欠である。

基礎力5:リアルタイム・リフレクション

第五に挙げられるのは、リアルタイム・リフレクションである。対話の最中に自分の内面に起きていることをその場で振り返ることで、対話から得られる学びは一層深まる。対話の5つの基礎力は順番に実践するものではなく、複数を同時に働かせるものである。そのため、リアルタイム・リフレクションを通して自己をメタ認知する習慣が欠かせない。

対話の潜在的な可能性が開花するのは、多くの場合、驚きや違和感といった異なる見方に出会ったときである。しかしその瞬間、油断するとネガティブな感情が生じ、相手や意見に対して安易な評価判断を下してしまいやすい。感情が動くのは自然なことだが、対話を続けてその果実を得るためには、評価判断をしている自分に気づき、速やかに保留へ切り替える習慣を持つことが大切である。

DIO10月号に掲載された寄稿の全文はは連合総研HPでお読み頂けます。ぜひ、皆様にも対話を楽しんで頂きたいです。