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2025.10.15
教育の未来
子どもの主体性を育む大人の姿勢
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2025.09.22文部科学教育通信掲載

学校や家庭で、大人が子どもにどのような姿勢でかかわるのかは、子どもの主体性を育む上で無視できない大きな影響を持ちます。オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールは、自立と共生力を育むために、教師に期待する姿勢を明確にしています。日本でも、2022年に生活指導提要が改訂され、子どもたちの主体性を育む学校教育へのシフトが始まっています。しかし、残念ながら、学校現場には、この情報はあまり届いておらず、誰もが自分のスタイルで子どもたちに接しており、今の学校現場では、生徒指導提要に沿った指導を行う教師と、過去からのスタイルを踏襲する教師が、混在しているのが現実です。

4つの子育てのスタイル

ピースフルスクールが教師に期待する姿勢は、アメリカの発達心理学者ダイアナ・バウムリンドの子育てに関する理論に基づいています。バウムリンドは、親の「要求性(ルールやしつけの厳しさ)」と「応答性(子どもの気持ちを受けとめる姿勢)」の2軸から、子育てを3つのスタイルに分類しました。その後、この分野での研究が進み、新たに「無関心型」が加えられ、現在は、次の4つが基本的な枠組みとされています。

 

権威主義的 服従型 要求性が高く応答性が低い。厳格なルール重視。

放任的 寛容型 要求性が低く応答性が高い。自由度が高く友達のような関係

権威的 民主型 要求性と応答性のバランスが取れている。理想とされる関係

無関心型 要求性も応答性も低い。関与が乏しい。

この4つは、親がどれだけ子どもに期待やルールを課すか、そして子どもの気持ちにどれだけ寄り添うかによって分かれます。夫々の特徴を見ていきましょう。

 

権威主義的 服従型

権威主義的は、「服従型」とも言えます。子どもには、指示通りに従うことを求め、理由を説明せず「言う通りにしなさい」といった姿勢を取りがちです。規律や罰則を重視するため、ルールを守る子に育ちやすい一方で、次のような課題もあります。

子どもに与える影響

  • 規律を守る習慣は身につきやすい
  • ただし、自主性や判断力が育ちにくい
  • 自信が持ちにくく、自己表現が苦手
  • 怒りや不満をためこみやすく、反抗や消極性につながることもある

親が子どもの意見を取り入れ難いため、関係が上下的になりやすいことも特徴です。

 

放任的 寛容型

寛容型は「友達のような親子関係」を大切にします。ルールはあっても厳格的には守らせず、子どもの要求に柔軟に応じる姿勢が見られます。「子どもだから仕方ない」と許してしまう場面が多く、結果として一貫性に欠けることがあります。このような育て方は、子どもが安心感を得られる反面、次のような傾向が生じることがあります。

子どもへの影響

  • 愛されている感覚は得やすい
  • ただし、我慢や自己コントロールが苦手になりやすい
  • 責任感や計画性が育ちにくい
  • 勉強や課題への集中力が弱まりやすい
  • 周囲からのルールや制約に対応する力が不足しがち

「子どもに嫌われたくない」という親の不安が子どもに影響することも指摘されています。

 

権威的 民主型

最も理想とされるのが民主型です。ルールと自由のバランスを大切にし、子どもの感情を重視しながら、必要な境界線を示します。ルールの理由を説明し、子どもの質問にも答えます。失敗を責めるのではなく学びの機会と捉え、褒めることでよい行動を強化するのも特徴です。民主型で育った子どもには、以下のような良い影響が多くみられます。

子どもへの影響

  • 自己肯定感や自信が高い
  • 親との信頼関係が強い
  • 感情をコントロールできる
  • 責任感があり、自立心が育つ
  • 学業や社会生活でも成果をあげやすい
  • 友達との関係も良好で、社会的スキルが豊か

 

研究によっても、民主型の子育てが子どもの社会的スキル、責任感、回復力を育てることが示されています。

 

無関心型

無関心型は、親が子供の生活に関わらず、ルールや期待も少ないスタイルです。親自身の健康問題や多忙さが背景にある場合もあります。しかし、子どもへの影響は少なくありません。

子どもへの影響

  • 自己肯定感が低くなりやすい
  • 問題行動や反社会的行動が出やすい
  • 学業不振に陥りやすい
  • 不安や孤独を抱えやすい
  • 感情表現や人間関係に困難を感じやすい

 

ピースフルスクールの教師

子どもに発言権や参加を許可する民主的な学校は、子どもに対して何の境界線も引かない放任的なアプローチと混同されることがあります。そこで、ピースフルスクールでも、バウムリンドの3つのアプローチを活用し、教師の子どもへの関与の仕方を説明しています。

放任には、フランス語で経済学や政治学の文脈でよく使われるレッセ・フェール(為すに任せよ、放っておけ)を使い、教師の姿を、レッセ・フェール(放任的)、権威主義的、権威的の3種類に分類しています。

 

レッセ・フェール的な教師

レッセ・フェール的なアプローチでは、子どもたちは、何をしてもよく、境界線がないことになり、子どもたちは不安になります。特に小さい子どもは、まだ人間同士の日常的な付き合い方を良く知らず、大人の指導とガイドが必要です。レッセ・フェール的な教師は、忍耐強く子どもたちに向き合う傾向があります。しかし、教師が忍耐強く子どもたちに向き合っても、それが、子どもたちの育ちによい効果をもたらすわけではありません。子どもの発達に応じて必要な指導とガイドを行うことは、教師の大事な役割です。

 

権威主義的な教師

権威主義的な教師は権威を持ちます。それが子どもたちにとってよいという意見もあります。断固とした態度を示すことで、子どもたちはいうことを聴きます。しかし、上下関係で、子どもたちが指示に従う学校は、民主的な社会の担い手を育てる学校の姿ではありません。子どもたちは、権威には従わなければならないことや、自分の意見を持つことは許されないことを学校で教わります。

 

また、厳しいだけで、子どもたちに対する思いやりが少ないと、子どもたちの攻撃的な感情を引き起こすことになります。その気持ちは、権威主義的な教師に対してではなく、同級生や他の教師に向けられることがよくあります。厳しい担任の前ではいい子にふるまうのに、代理の教師や同僚の教師の前ではそうしない子どもがいることはよく知られています。すると、そのクラスは「やりにくい」という評判になり、さらに教師の厳しさが増していきます。悪循環です。権威主義的なアプローチは、子どもたちに従順さを植え付け、責任が求めらないので、責任感を十分に発達されることができません。

 

権威的な教師

権威的なアプローチは、子どもたちが民主的な社会生活を送るための準備に最も適したアプローチであると考えられます。権威的なアプローチを選択する教師は、はっきりと境界性を示しますが、その際に説明をたくさん行い、子どもたちが自ら選択する責任を持つよう促します。子どもたちは、質問し、意見を述べる機会を持ちます。教師は、権力的な手段をあまり使わず、民主的に子どもたちを導きます。その結果、子どもたちは、自信をもって行動し、自分の行動に責任を負います。

 

日本でも、生徒指導提要の改訂により、子どもの主体性を育む権威的な教師が増えることが期待されています。権威的な教師は、学習する組織が目指すリーダー像とも共通点が多く、「学習する学校」の取り組みが広がることも期待したいです。