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2025.08.25文部科学教育通信掲載
日本の学校教育においても、子どもたちを画一的な存在として一斉に授業を行う工業化モデルから、子どもたちの多様性を前提とする個別最適な学びが注目されています。自由進路学習や探究学習など様々な手法が話題になっています。そこで、今回は改めて、マルチプルインテリジェンス理論に目を向けてみたいと思います。
私がこの理論に出会ったのは、2010年に、ハーバード教育大学院で開催された第1回 フューチャーオブ ラーニング(学習の未来) 研究会に参加した時です。研究会の主催者は、マルチプルインテリジェンス理論の提ハワード・ガードナー教授でした研究会には、米国を筆頭に、アジア・ヨーロッパ・南米などの各国から約200名の教育関係者が参加していました。主な参加者は、現職の教師、教師育成者、教育監督者、教育カリキュラム作成者、教材開発者、情報教育現場で働く専門家などです。おそらく、私以外のすべての参加者は、マルチプルインテリジェンス理論を知っていたと思います。 世界的に有名な理論なのに、「なぜ日本ではそれほど知られていないのだろうか」と疑問に持ちました。
マルチプルインテリジェンス理論とは
マルチプルインテリジェンス理論は、1983年にアメリカの発達心理学者ハワード・ガードナーによって提唱されました。この理論は、それまでの知能観を根本的に問い直すものであり、特に教育分野において大きなインパクトを与えました。
従来、知能とは主にIQ(知能指数)に代表されるように、論理的思考力や言語能力を中心とした「一つの能力」として捉えられてきました。しかし、ガードナーは、知能は単一の能力ではなく、人間には複数の独立した知能が存在すると主張し、それぞれが異なる形で認知的な課題を解決したり、世界を理解したりするための手段であると定義しました。
この考え方は、子どもの学び方や才能の見方を根本的に変えるものであり、「誰もが何らかの知能において優れている」という前向きなメッセージを持つことから、現在でも世界中の教育現場で注目されています。

ガードナーの提唱する8つの知能
ガードナーは、当初7つの知能を提唱し、のちに8つ目を追加しました。それぞれの知能は独立しており、人によって強みや発達の仕方が異なります。以下に8つの知能の概要を紹介します。
言語的知能
言語を用いて考え、表現する能力。
論理数学的知能
論理的推論や数的処理、問題解決に優れた知能。
空間的知能
物体を空間的にイメージしたり、再構成したりする能力。
身体運動的知能
身体を巧みに使って自己表現をしたり、目標を達成したりする能力。
音楽的知能
音の高低、リズム、旋律などの音楽的要素を感じ取り、創造する能力。
対人的知能他人の感情、動機、意図を理解し、良好な人間関係を築く能力。
内省的知能
自分自身の感情や価値観を理解し、自分の行動を内省・調整する能力。
自然理解的知能
自然界の事象、生物の分類、環境の違いなどを認識する能力。
ガードナーはこの8つの知能に加え、「実存的知能」という第9の知能の可能性にも言及しています。これは「人間存在の意味」や「死」など、抽象的・哲学的な問題に関心を持ち深く考える力です。ただし、これは現段階では正式には理論に含まれていません。
多くの人は、8つのインテリジェンスのどれか一つを持つのではなく、複数のインテリジェンスを組み合わせたインテリジェンスを有しています。また、どれか1つや2つのとても強力なインテリジェンスを持っている人もいます。
多くの人は、8つのインテリジェンスのうちのどれか一つだけを持っているのではなく、複数のインテリジェンスが組み合わさった形で備わっています。また、中には特定の1つまたは2つのインテリジェンスが特に優れている人もいます。そして、こうしたインテリジェンスが顕在化するためには、環境も重要な役割を果たします。子どものインテリジェンスの可能性を引き出すためには、まず8つのインテリジェンスがあることを知り、子どもの持つ多様な可能性に目を向けることが大切です。そして、自分自身や周囲の大人が、その子どもがどのようなインテリジェンスを持ち、どのように伸ばせるのかをメタ認知することから始める必要があります。
マルチプルインテリジェンス理論の実践
「知能」への多様な視点を提供
MI理論の本質は、「人間の能力は一元的ではない」ということです。従来の学力観では、テストで高得点を取る子どもや、言語・数学に強い子どもが「頭が良い」とされ、それ以外の能力は評価されにくい傾向がありました。しかし、MI理論は、芸術や運動、感情理解や自己認識なども「知能」であると再定義した点で革新的です。
個別最適な学びの支援
この理論は、すべての子どもが「何かの知能においては得意分野を持っている」という前提に立っています。同時に、それは学び方の特性にもつながると考えられており、子どもの学びの扉は6つ(説話的、理論/数量的、協働的、根拠的、経験的、審美的)に整理されます。子どもたちは、自分の得意なインテリジェンスにつながる学びの扉を通して学ぶ方が、より効果的に学ぶことができます。6つの学びの扉は、6つの学習活動(創造する、考える、相互に関わる、概念や哲学的問いに向き合う、動く、創造する)と連動しています。この理論を知り、学校の授業がIQにつながる2つのインテリジェンス以外のインテリジェンスを持つ子どもたちにとって、楽しく学べる環境ではないことを理解することができました。実は、多くの子どもたちは、勉強が苦手なのではなく、苦手な学びの扉からの学びを強いられていることにより、自分に合った学び方を見いだせていないだけなのだと言えます。
自律型学習者は、自分の学びの特性を知り、効果的に学ぶ実践方法を身に着けており、その結果、楽しく学ぶ経験をたくさん持つ人だと思います。自律型学習者を育てるためにも、マルチプルインテリジェンスはとても役立つのではないかと思います。