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2025.09.08文部科学教育通信掲載
2025年7月に、『イラスト版システム思考 子どもの問題解決力が身につく24のワーク』(合同出版)を出版いたしました。コンセプトは、大人と子どもが一緒に学ぶシステム思考の入門書です。難解なシステム思考を、ゼロから簡単に学べる書籍を見つけることができなかったので、システム思考の専門家の力を借りながら3年かけて執筆しました。今回は、その背景に触れてみたいと思います。
ジョン・フォレスター教授の研究会
2011年7月にボストンで開催された初等・中等教育向けのシステム思考教育に関する会議に参加し、システム思考教育の重要性を学んでから、14年が経過してしまいました。当時、『学習する学校』の実践を学校に広める方法を模索していた私は、MITスローン経営学大学院の名誉教授であるフォレスター氏が、1991年から隔年で開催しているCreative Learning Exchangeという研究会に参加しました。
ジョン・フォレスター先生は、システムダイナミックス(複雑なシステムの構造と動きを、時間の経過とともに理解・分析・シミュレーションするための方法論)の産みの親で、その手法は、1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」レポートを作成する際にも使用されました。現在でも、経営・社会・環境・教育など幅広い分野で活用されています。
ジョン・フォレスター先生は、1956年にスローン大学院でシステムダイナミックスの研究を始め、子どものK-12 Education(初等・中等教育)にシステムダイナミックスとコンピューターモデリングを導入する方法を開発してきました。研究が進むにつれわかったことは、幼少期からシステムダイナミックスに触れてこそ、子どもたちは、システムダイナミックスの本当のパワーを活用できるということでした。こうして生まれたのがCreative Learning Eschangeという研究会です。
研究会には、ジョン・フォレスター先生、ピーター・センゲ先生も参加者と一緒に研究会に参加されていました。参加者の多く先生です。研究会では、幼児教育から高等教育まで幅広くシステム思考教育の実践が紹介されていました。また、システム思考の専門家や21世紀スキルの専門家のお話も伺いました。
ピーター・センゲ先生は、学習する組織の第一人者で、『学習する組織―システム思考で未来を創造する』(英治出版)の著者です。
フォレスター先生とセンゲ先生は、参加者とともに研究会に参加し、質問をしたり意見を述べています。参加している先生たちも、それが普通という様子で、自然な対話がはずみます。日本から始めてこの研究会に参加した私にとっては、この光景は信じられないもので、一人だけ緊張していたことを思い出します。
ジョン・フォレスター先生の言葉
今日の学校は工業化社会の黎明期のニーズに合わせて設計されたものです。工業化社会には、画一化した製品を大量生産する工場システムにおいて力を発揮できる人材を輩出する学校が必要でした。時代は変わり、今日の学生は問題解決能力、チームワーク、コミュニケーション能力、生涯学習などの様々な幅広いスキルを身に付ける必要性が出てきました。私たちの目的は、社会・経済・物理的システムがどのように機能し、自分たちの行動をどのように改善していったらいいか、ということを学生や社会人に深く理解してもらうことにあります。
世界の子どもたちと共に
システム思考教育の学校教育への導入は、世界中に広がりを見せています。今年の研究会には、中国南京からも8名の教育関係者が出席し、南京におけるシステム思考教育の実践例を紹介していました。南京では、9年前から南京ノーマル大学(南京師範大学)と連携して100万ドルの予算で教材開発を行い、高等学校においてシステム思考教育を始めているそうです。会議では、その推進責任者、開発責任者、そして、高校の先生方が、その成果を報告していました。
過去30年に亘り行われてきたシステムダイナミクスとシステム思考教育の初等・中等教育における実験的な取組みが、草の根レベルで勢いづいてきました。システム思考は人間の関心事のほとんどすべての領域に亘り、時間とともに物事がどのように変化していくかという事を問題にしています。システムダイナミックスはコンピューター・シミュレーションモデルを使って一つのシステムの構造や方策がどのような行動を生み出しているかを明らかにします。複雑なシステムのシミュレーションも中高生の理解の範囲内であることが証明されています。
ワシントン州では、理科の学習指導要領にシステム思考が盛り込まれていることも知りました。その後、訪問したオランダでは、システム思考を教えている小学校もあると聞きました。ジョン・フォレスター先生と、ピーター・センゲ先生の活動に共感する教育関係者は世界に広がっているようです。
経済産業省 未来の教室とEdTech研究会
ボストンで研究会に参加し、システム思考教育の重要性を理解した私は、この経験を多くの方々に紹介し、日本で同様の活動に取り組む方法がないかを模索しました。その中で、我々の歩みを少し進歩させる機会になったのが、経済産業省の未来の教室とEdTech研究会の実証事業です。2018年に実施した実証事業では、幼児向けにシステム思考教育を行う機会を得ることができ、書籍の執筆を一緒に行った福谷彰鴻氏、風間紗喜氏と三人で取り組みました。
ソーシャルイノベーション
昨年から青山学院ビジネススクールで、ソーシャルイノベーションの授業を始めています。社会変革にはシステムへの深い理解が欠かせないため、この授業でもシステム思考を使います。授業に参加する学生の多くは社会人ですが、システム思考を使うのは初めてのようです。私も、大人になってシステム思考を学び、その実践に今でも苦労しているので、小さい頃からシステム思考に馴染んでいればどれほど楽だったろうかと思います。
書籍の事例
書籍では、子どもが直面する日々の出来事をシステム思考で捉える練習ができるよう工夫しました。例えば、からかいが喧嘩に発展する時に、システムにどのような変化が起きるのかをループ図で表すことに挑戦します。

書籍が、システム思考が広がる一助になれば幸いです。