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2025.7.31
リフレクション・対話・学習する組織
学習する組織
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2025年7月28日 文部科学教育通信掲載

今回は、「学習する組織」について、5つの規律と2つの重要な概念を合わせて紹介致します。

学習する組織とは

「学習する組織(Learning Organization)」とは、個人と組織がともに成長し、変化に柔軟に適応し続ける力を持つ組織のことです。単なる知識の蓄積ではなく、「学び続ける力」そのものを組織の中核に据える考え方であり、変化の激しい時代において注目されています。

この概念を広めたのは、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・センゲです。彼の著書『学習する組織 ―システム思考で未来を創造する』(英治出版)では、組織が持続的に成功するためには、メンバーが主体的に学び、組織全体がその学びを活かせる仕組みを持つ必要があると説いています。

 

学習する組織をつくる5つの規律

  1. 自己マスタリー(Personal Mastery)
     個人が自身の理想と現実のギャップを意識し、継続的に成長しようとする姿勢です。主体的な学びが組織全体の力になります。
  2. メンタルモデル(Mental Models)
     私たちの思考や行動に影響を与える「暗黙の前提」や「思い込み」を認識し、更新していく力です。これに気づくことが変革の第一歩です。
  3. 共有ビジョン(Shared Vision)
     組織の目指す方向性を、メンバー全員が共感をもって共有することです。外発的でなく内発的な意欲を高めます。
  4. チーム学習(Team Learning)
     対話を通して個人の視点を統合し、グループ全体で学びを深めるプロセスです。集合知が生まれることで、質の高い意思決定が可能になります。
  5. システム思考(Systems Thinking)
     全体のつながりを見渡し、原因と結果の複雑な関係性を理解する力です。問題の本質にアプローチするための中核的思考です。

 

ダブルループラーニング:前提を問い直す力

学習する組織では、「ダブルループラーニング」と呼ばれる学習を実践します。ダブルループラーニングは、問題が発生したときに単に行動(手段)を修正するだけでなく、その行動を導いた「前提」や「目的」「価値観」そのものを問い直す学習法です。物事がうまくいかないときに、「行動」を見直すことを、「シングルループラーニング」と呼び、2つの学習方法の違いを明確に区別しています。

例えば、会議で意見が出ないという問題に対して、発言のルールを変えるだけでは「シングルループラーニング」の対応にとどまります。一方、なぜ発言しづらいのか、その背景にある組織文化や上下関係の前提を見直すのが「ダブルループラーニング」です。このような深い学習は、変化そのものを生み出す組織づくりの原動力となります。

 

クリエイティブテンション:変化を生む張力

もうひとつ重要な概念が「クリエイティブテンション」です。クリエイティブテンションは、「現状」と「望ましい未来(ビジョン)」とのギャップから生まれる“健全な緊張感”です。

多くの人は、現実と理想のギャップに対して「無理だ」と諦めたり、実現可能性のある小さなビジョンに「ビジョンを再設定する」ことでバランスを取ろうとします。しかし学習する組織では、現実と理想のギャップを創造のエネルギーとして活かします。理想に向かって現実を前進させようとする姿勢こそが、組織における「学習の原動力」です。

重要なのは、ビジョンが「押しつけられた目標」ではなく、自分たちの心からの願いであること。そのとき初めて、テンションは前向きな力に変わります。

 

クリエイティブテンションと「ビジョンの質」

「現状」と「望ましい未来(ビジョン)」のギャップが、「学習の原動力」であるクリエイティブテンション(健全な緊張)につながるためには、「望ましい未来(ビジョン)」を達成する強い意志と信念が必要です。

ジム・コリンズの著書『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』(日経BP出版)は、飛躍的な成功を遂げた企業を11社に絞り込み、共通の特性を明らかにしています。その中で、「望ましい(ビジョン)」に関連する以下のような記述があります。

  • 偉大な実績に飛躍した企業はすべて、偉大さへの道を発見する過程の第一歩として、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視している。
  • 自社がおかれている状況の事実を把握しようと、真摯に懸命に取り組めば、正しい決定が自明になることが少なくない。厳しい現実を直視する姿勢を貫いていなければ、正しい決定をくだすのは不可能である。

出展『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』(ジム・コリンズ著 日経BP出版)

ジム・コリンズは、本物のビジョンを持つ企業は、厳しい現実を直視することでクリエイティブテンションにつながる「望ましい未来(ビジョン)」を見出すと言います。

 

厳しい現実を直視する事例

2016年に訪れたドイツで、日本の経団連に相当するBDIを訪問しお話を伺う機会を得ました。ドイツが、国家戦略としてインダストリー4.0(第4次産業革命)を推進について説明をしていただきました。

日本から訪れた団体に対して、彼らが見せたのは、世界のトップIT企業のリストです。そのリストには、EUとアメリカの旗が表示されており、旗の数は、EU5に対してアメリカ26とEUの敗北を紹介してくれました。パワーポイントを見せながら、経団連のスピーカーは、「これが、国家戦略インダストリー4.0が生まれた背景です」と語りました。

国家戦略を決める議論には、すべての産業団体が参画し、大学も労働組合も参画しています。誰も、政府の決めた方針だから、様子を見ようという態度ではありません。夫々が、自分の立場や役割を明確に持ち、貢献しています。

国家レベルでクリエイティブテンションを持つことができる前提には、経団連、商工会議所、産業団体、研究機関、労働組合、自治体、各省庁等々のリーダーたちが、EUの敗北を振り返り、10年以上にわたって対話を重ねる忍耐力があったからだと思います。

2016年当時、インダストリー4.0を推進するに当たり、最も大きな挑戦は、ドイツの産業の99.6%を占める中小企業がインダストリー4.0を実現する力を持つことでした。中小企業の実態を調査したところ、6割近い企業が、インダストリー4.0に向かう用意ができていないという結果でした。日本では、これは難しいかもしれない(無理だ)と、目標を下降修正してしまいそうですが、ドイツ人にはその様子が全くありませんでした。リフレクションを通して課題を直視した上で形成されたビジョンは揺るがないという事例です。

前例のない時代に、正解を創造するためにも、仮説検証を繰り返す学習力が成功の鍵を握ります。最近では、学習の深さに加えて学習のスピードを重視する「学習機敏性」(新しい経験から素早く学び、その学びを別の状況に応用できる能力)のある組織づくりの重要性も語られるようになりました。学習する組織の5つの規律と2つの重要な概念は、学習機敏性のある組織づくりにも役立ちます。望む未来を実現するために、学習機敏性を組織の文化にしていただきたいです。