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2025.05.26 文部科学教育通信掲載
今年から青山学院ビジネススクールでスタートした授業「パーパス経営」では、国連のSDGsにおいても、その知見が活かされた言われるユニリーバ・サステナブル・リビング・プランを授業で取り上げました。
ユニリーバは、ユニリーバ(Unilever)は、イギリス・ロンドンに本社を置く世界最大級の消費財メーカーであり、190カ国以上で事業を展開しています。世界に12万人を超える従業員が働き、売上は9兆円を超える企業です。
ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(以下USLPと省略)は、2010年~2020年にかけてユニリーバが取り組んだサステナビリティ戦略です。
SDGsがスタートして以降は、多くの企業がサステナビリティに取り組むことが一般的になりましたが、2010年に、サステナブル・リビング・プランのような精緻な計画を持ち、サステナビリティに取り組む企業は他に存在しなかったのではないかと思います。ユニリーバが、全社を挙げて持続可能性に取り組む背景には、事業の持続可能性に対する強い危機意識があります。
アトランティック・コッドの資源危機
ユニリーバが事業の持続可能性に対する深刻な危機感を抱いた出来事の一つに、1990年代初頭のカナダ・グランドバンクにおけるアトランティック・コッド(マダラ)の資源枯渇があります。
ユニリーバは当時、ヨーロッパ市場を中心に冷凍フィッシュスティックを大量に販売しており、その主原料であるコッドをカナダ東岸のグランドバンクから調達していました。しかし、乱獲の影響により1990年代初頭にはこの地域のコッド資源が壊滅的な状態に陥り、漁業が停止される事態となりました。この資源危機により、ユニリーバは主要製品の製造が困難となり、冷凍事業は、深刻な持続可能性の課題を抱えることになります。
この危機を受けて、ユニリーバは世界自然保護基金(WWF)と協力し、1997年に海洋管理協議会MSC(Marine Stewardship Council)を設立しました。海洋管理協議会MSCは、持続可能な漁業を推進するための認証制度を提供し、環境に配慮した漁業からの水産物にエコラベルを付与することで、消費者が持続可能な選択を行えるよう支援しています。 この取り組みにより、ユニリーバは自社のサプライチェーンを持続可能なものへと転換し、同時に業界における持続可能性を担保するための意識改革を促進しました。
ユニリーバの原点とUSLP
ユニリーバの原点には、創始者ウィリアム・H・リーバ卿の存在があります。ユニリーバ社が生まれた1884年当時のイギリスでは、衛生的な生活習慣が当たり前ではありませんでした。創始者リーバ卿は、最初の製品として「サンライト石鹸」を販売し、「からだをきれいにする」「家をきれいにする」という新しい価値を人々に届け英国の暮らしを大きく変えました。ユニリーバ卿は、石鹸工場が稼働する前に、採用した従業員のための住宅や学校、娯楽施設などを建築し、従業員の生活の質の向上にも取り組みました。これからご紹介するUSLPにも、この創業の精神が大きく影響しているように思います。
USLPは3つの目標を中心に構成されています。
目標1 すこやかな暮らし
2020年までに10億人以上がより衛生的・健康的な習慣を身につけられるよう支援します。
目標2 環境負荷の削減
ビジネスを成長させながら、製品の製造・使用から生じる環境負荷を2020年までに半減させることを目指します。
目標3 経済発展
ビジネスを成長させながら、2020年までに数100万人の暮らしの向上を支援します。
健やかな暮らし
ユニリーバは、自社の事業を通して人々の健やかな暮らしに貢献できる領域を以下のような課題認識に基づき選択しています。
- 年間200万人以上の子どもが、下痢や肺炎などの予防・治療可能な病気が原因で、5歳未満で命を落としています。
- 20億人以上が安全な水への十分なアクセスを持っていません。途上国の疾病の80%以上が安全ではない水に起因しています。
- フッ素入り歯磨きで朝晩を磨くと虫歯のリスクを最大50%減らせにもかかわらず、世界の多くの人々が今日でも、歯磨きの習慣を持っていません。
- 自分を“美しい”と思う女性はわずか4%です。10人のうち6人の少女が、外見が理由で自分の好きなことを諦めています。
環境負荷の削減
ユニリーバは、事業を通して生まれる環境負荷を削減することに取り組みます。
- 気候変動が加速している中で、世界の人口は70億人を突破し、私たちは、地球5個分の資源を消費しています。水資源が不足しており、28億人が水ストレスのある地域で生活しています。
ユニリーバは、自社の製品のライフサイクル全体が環境に与える負荷を分析し、廃棄物の削減、水利用の効率化、温暖効果ガス排出量の削減に、数値目標を設定し取り組んでいます。石けんなどの製品では、環境負荷の68%は消費者が製品を利用する際に生じており、消費者側の課題も存在します。
持続可能な調達
- 地球規模で増加する人口に対応するために、農業による生産量を70%増やす必要があります。
- 農業・林業は、気候変動の大きな原因になっています。世界の温暖効果排出の15%を森林破壊がしてみます。
- ユニリーバの製品原材料の50%が農業・林業由来です。
- 世界で飢餓・栄養不足に苦しんでいる人の半分は小規模農家です。
サステナブル・リビング・プランの成果
ユニリーバは、2020年にサステナブル・リビング・プランにおける成果を祝いました。その際に発表された成果の一部をご紹介しましょう。
- 健康と衛生プログラムを通じて13億人に支援を提供。
- 製品の消費あたりの廃棄物総量を32%削減し、すべての工場で埋立廃棄物ゼロを達成。
- 自社の製造過程における温室効果ガス排出量を65%削減し、全拠点で電力網からの電力を100%再生可能エネルギーに切り替え。
- すべての加糖茶系飲料の糖分を23%削減し、食品ポートフォリオの56%が公認の高栄養基準を満たす。
- 234万人の女性が、安全の確保、スキル向上、機会拡大を目的としたプログラムに参加できるよう支援。さらに、管理職の51%を女性が占めるジェンダーバランスの取れた職場環境を実現。
子どもの命を救うキャンペーン
ユニリーバは、この期間、石鹸で手を洗う習慣を広める活動にも取り組みました。世界では、15秒に一人の子どもが下痢や肺炎により亡くなっています。インドで実施した手洗い促進キャンペーン『Help A Child Reach5』を通して、子どもの下痢発生を36%から5%に引き下げることに成功しています。この成功モデルは、世界14ヵ国に広がり、1億8300万人に手洗いの習慣を伝えることにも成功しました。ユニリーバは、このキャンペーンから利益を生むことはできませんが、ユニリーバの石鹸ブランドは、子どもたちの命を救った手洗いの習慣とともに、インド、バングラディシュ、ブラジル、エジプト、インドネシア、ケニア、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、南アメリカ、スーダン、ウガンダ、ベトナムに広まりました。
ユニリーバは、2021年から新たな目標を掲げ、「持続可能な暮らしを当たり前のものにする」ために、更なる挑戦を続けています。