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多様性の時代と髪色

2025年2月24日文部科学教育通信掲載

変化する時代の中で、様々な領域で社会通念にも変化が見られます。これまでの常識が非常識になり、常識が更新される時代の中で、自分の常識に対してもクリティカル思考で向き合う必要があると感じます。日経のある記事を読み、髪色についても、自分のメンタルモデル(過去の経験を通して形成された物事に対する前提)を疑う必要性を感じました。

 

企業の規定にも変化

日本でも、最近、髪色の自由度が高まり、特に明るい髪色や個性的なカラーリング、いわゆる”派手髪”の人気が高まっています。リクルートの調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー」の報告によると、2023年の女性のヘアカラー利用率は52%であり、2016年比で6.9ポイント上昇したそうです(田中, 2023)。

このような時代の変化の中で、日本航空(JAL)や三菱UFJ銀行など、これまで髪色に厳しかった企業でも規定の緩和が進んでいます。JALは2023年に客室乗務員の髪色規定を7トーン(栗色)から9トーン(やや明るめの茶色)まで拡大し、三菱UFJ銀行は2022年に髪色規定を撤廃しています。また、輸入雑貨店「PLAZA」を運営するスタイリングライフ・ホールディングスは2023年に店舗スタッフの髪色規定をなくし、社員の個性を尊重する姿勢を明確にしました。

 

派手髪の流行の背景

派手髪の流行にはいくつかの要因があります。その一つが、ハイトーンカラーの人気の高まりです。近年、髪の傷みを抑えつつ明るい色に染められる薬剤が登場し、特に2017年頃からハイトーンカラーが広く受け入れられるようになりました(田中, 2023)。

また、新型コロナウイルス感染症の影響による在宅勤務の増加も大きな要因の一つです。職場での見た目の規制が緩和されることで、個性的なヘアスタイルを楽しむ人が増えました。さらに、髪の内側だけを染める「インナーカラー」の流行も、派手髪の受け入れを促進する要素となりました。特に若年層を中心に、「隠せる派手髪」として人気を集めています。

さらに、SNSの普及も派手髪の流行を後押ししています。インフルエンサーや有名人が鮮やかな髪色を披露することで、特に若者の間で「自己表現の一環」としての派手髪が受け入れられるようになりました。カラフルな髪色がトレンドとなり、一種のファッションステートメントとして捉えられています。

 

 

企業における髪色の制約

一方で、日本企業における髪色の自由度は依然として低く、日本ロレアルが2023年に実施した調査では、勤務先で髪色について「明確な規定がある」と答えた人が28%、「明確にはないが、暗黙のルールがある」と答えた人が46%にのぼり、自由な髪色を許可されている会社員は3割未満であることが明らかになりました。

企業が髪色を制限する理由の一つは、顧客に与える印象や企業イメージの維持です。例えば、ANAホールディングスは「地毛の色を尊重しつつも、ブランドの価値を損なわないよう配慮している」と説明しています。また、大手メガバンクでも「清潔感のある髪色」という一定のガイドラインが存在します(日本ロレアル, 2023)。

 

消費者の意識の変化

一方、消費者側では派手髪に対する抵抗感が薄れつつあります。日経MJが行った調査では、「5年前に比べて派手な髪色に対する許容度が上がった」と答えた人が29%に達し、その理由として「多様性についての意識が高まったから」という回答が78%でトップとなりました(日経MJ, 2023)。

また、接客スタッフの髪色が派手であることについて、「気にならない」と答えた人は69%にのぼり、「不快」と答えた22%を大きく上回りました。さらに、「好ましい」と感じる人も6%おり、「雰囲気が明るくなる」「店員が生き生きしている」といった理由が挙げられています。

 

今後の動向

今後、髪色自由化がさらに広がることで、企業にとっては採用市場の多様化が進み、より幅広い人材を確保できる可能性があります。従来の保守的な規定から脱却し、個人の自由を尊重する姿勢を打ち出すことは、企業のブランド価値を向上させる要因にもなります。

また、学校教育においても髪色の自由化が進むことで、個性を尊重する文化が形成される可能性があります。すでに一部の私立高校や大学では校則を緩和し、生徒が自由に髪色を選べる環境を整えています。

 

多様性と判断軸

「髪を染めてはいけない」という画一的な判断軸が存在する時代には、「何が正しいのか」について議論する余地はなく、深く考える必要性もありませんでした。決められたルールに従うことで、間違う心配もありません。

一方、「髪を染めてもよい」時代になると、どこまでの自由が許容範囲なのか、職業や場所、状況に合わせた自由度とは何かを判断する必要があります。その際にも、多様性の尊重という判断軸もあれば、顧客の期待という判断、その場に集う人々の心理的安心や心地よさ、職業観との関係の有無等々、判断軸も多様です。多面的多角的に捉え、総合的な判断を下す必要性があります。

多様性の時代に正しい判断を、一人で行うことは難しいと感じます。多様なステイクホルダーの立場に立って、多様な判断軸を用いた意見に触れる中で、自分の過去の経験に縛られない最適な判断に到達できるのではないかと思います。また、変化する時代の中で、変わる通念を理解する思考の柔軟性を持つことも欠かせません。髪色の自由についての記事を読み、自分と異なる意見やものの見方に出会うことができる対話の重要性を再確認しました。対話を通して、思考の柔軟性を磨く訓練を続けたいと思います。

(2025年5月18日日本経済新聞電子版を参考に執筆)

 参考文献

田中公子(2023)「ホットペッパービューティーアカデミー調査報告」 日本ロレアル(2023)「#髪色自由化プロジェクト」 日経MJ(2023)「派手髪に対する意識調査」 PPIH(2023)「髪色規定撤廃後の影響」 JAL(2023)「客室乗務員の髪色規定変更」

 

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