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多様性の心得

2024年11月11日 文部科学教育通信掲載

多様性をイノベーションの原動力にするための心得を紹介したいと思います。

【7つの多様性の心得】

  1. 自分も多様性の一部であることを理解する
  2. 決めつけない
  3. 違いを称賛する
  4. 共感する
  5. 意見の背景を共有する
  6. 認知的多様性を活かす
  7. フラットに対話する

【1】自分も多様性の一部であることを理解する

私と違うあなたを尊重します。これは、誰もが実践していると思います。しかし、これは、D&Iではありません。自分を多様性と捉えておらず、相手のみを多様性と捉え、相手の多様性を受け入れるというスタンスだからです。D&Iの目指す姿は、自分も多様性の一部であることを認識し、多様性の全体を俯瞰する視点を持ち、多様性に向き合うことです。あなたも多様性の一部であり、私も多様性の一部です。特に、マジョリティの立場において、自分たちも、多様性の一部であるという認識を持つことが大切です。

【2】決めつけない

多様性と正しく向き合うために、「決めつけない」ことがとても大切です。決めつけない習慣を持つためには、いくつか大切なことがありますので、順を追って説明していきます。

①認知の限界を理解する

人は毎秒 1,100 万ビットの情報を受け取っています。しかし人が意識して処理できるのはわずか 40 ビットに過ぎません。このため、私達は、受け取る情報の 99.99%は無意識に処理しています。多様性を活かす上で、自分の認知の限界を知っておくことが重要です。

②メンタルモデルを理解する

メンタルモデルとは、一人ひとりがもつ世の中の人や物事に関する前提のことです。メンタルモデルを理解するために役立つのが認知の4点セットです。意見の背景には、経験があり、経験の記憶は感情に紐づいており、意見の背景には、かならず、判断の尺度が存在しています。認知の4点(意見、経験、感情、価値観)セットは、自分の意見を頼りに、自分がどのようなメンタルモデルを持っているのかを確認するためのツールです

D&Iの推進において、撲滅することが大事だと言われている無意識の偏見も、メンタルモデルです。お父さんが育休を取るのはおかしいと思っている人にはどのような経験があるのでしょうか。事例を見てみましょう。

「お父さんが育休を取るのはおかしい」という意見の背景にある経験

お母さんは、専業主婦でいつも家にいました。お父さんは、仕事が忙しく、家にいることはほとんどなく、お父さんとゆっくり話をするようになったのは、二十歳を過ぎてからです。この経験から、子育てはお母さんの仕事という判断の尺度が形成されたようです。

どのような意見にも、経験、感情、価値観が存在します。自分の意見に付いても、「なぜそう思うのか」と問いかける習慣を持つことで、無意識の偏見にも気づきやすくなります。

③評価判断を保留にする

決めつけないためには評価判断を保留にする必要があります。

自分の考えを持っていたとしても、一旦、評価判断を保留にし、「なぜそう思うのか」を自分に問いかけ、自己のメンタルモデルを点検する習慣を持ちましょう。

多様性との出会いは、違和感との出会いでもあります。違和感を覚えたときに、自分が正しく、相手が間違っていると決めつけてしまうと、多様性から学ぶ機会を失ってしまいます。評価判断を保留にして、自己のメンタルモデルを点検する習慣を持つことで、違和感の先にある未知の世界に出会える可能性が高まります。

【3】違いを称賛する

多様性を生かすためには、心理的安全性があり「意見の違いを賞賛する文化」が鍵を握ります。

同質性を活かす文化では、多様性の中にある共通点に焦点を当てます。

「私もそう思っていました!」

「お話を伺って、たくさんの共通点があることに気づきました」

このようなコミュニケーションでは、多様性を活かすことができません。

「その発想は、私には全くありませんでした。もっと教えてください」

「私の考えとは真逆です。その意見の背景を説明してください」

このように、違いを称賛するコミュニケーションを行うことで、初めて、違いを活かすことが可能になります。多様性を眠らせないために、コミュニケーションのあり方を変える必要があります。

 

【4】共感する

共感とは、自分と置かれた状況やバックグラウンドが異なる他者の気持ちや立場を理解し、よい変化を実現するために行動することです。

他者の意見の背景にある経験、感情、価値観を理解し、共感する習慣を持つことで、共感力を高めることが可能になります。異なるバックグラウンドを持つ人との対話では、同じ言葉が同じ意味を持たないことがあります。たとえば、対話という言葉は共通でも、対話の経験は、育った国や働いている場所によって異なります。自分の当たり前や前提を問い直す必要があります。他者の意見の背景にある経験、感情、価値観を理解し、共感するよう心がけてください。自分とは異なるバックグラウンドを持つ他者を理解することが上手にできるようになり、多様性を包摂する力も高まります。 

【5】意見の背景を共有する

対話のポイントは、自分の考えを客観視する自己内省と、相手の意見だけではなく経験、感情、価値観に焦点を当てる共感の聴き方です。多様性の心得Ⅳでは、共感力を高める方法として、他者の意見の背景を聞き取り理解することの大切さを紹介致しました。ここでは、対話における自己内省の重要性を強調したいと思います。自分の意見に対しても、俯瞰し、意見のみでなく、その背景も共有するコミュニケーションを心がけましょう。

【6】認知的多様性を活かす

認知的多様性とは、メンタルモデルのことです。イノベーションに繋がる多様性として注目されているのが認知的多様性です。

認知的多様性を活かす事例を一つご紹介しましょう。デザインのコンサルティングを行う米国の企業 IDEOでは、誰かの満たされないニーズを見つけるために、認知的多様性を活かしています。

テレビ番組でも紹介されたシッピングカートを開発するプロジェクトに集められたメンバーの多様性に注目してください。エンジニア、心理学者、MBA、マーケティングの専門家、言語学者、生物学先行の学生が、スーパーマーケットで、ショッピングカートがどのように活用されているのか、顧客や、スタッフには、どのようなニーズがあるのかを調査することで、多面的多角的なニーズを見出すことが可能になります。

対話は、認知的多様性を可視化する手段でもあります。人は、同じ事実を拾わないし、同じ事実を拾っても、その解釈は人によって異なります。対話を通して、事実と、事実に対する解釈を共有することで、多面的多角的な視点を自分のものにすることができます。認知的多様性に意識を向けたコミュニケーションを増やすことで、新しいアイディアや発想につなげてください。

【7】フラットに対話する

多様性を活かす上で大切なことは、違いを尊重し、多様性に優劣の概念を持ち込まないことです。優劣の概念を持ち込むと、相互に学び合うことができないからです。優は劣から学べませんし、劣は優を超えられません。相互学習を実現するためには、フラットに対話を行う必要があります。

多様性の心得を実践することで、お互いの存在を尊重することができます。多様性をイノベーションにつなげるために、7つの多様性の心得を実践してみてください。

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