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ファッション業界に変革をもたらす環境保護団体

2024年11月25日 文部科学教育通信掲載

青山ビシネススクールで、毎年、ソーシャルアントレプレナーの授業を行っています。ソーシャルアントレプレナーとは、社会課題を解決することを目指す起業家のことで、アショカ創立者ビル・ドレイトン氏が提唱した新しい概念です。社会問題の解決に、起業家マインドを持つ人々が参画することで、社会が大きく変わることを確信したドレイトン氏は、世界中のソーシャルアントレプレナーを発掘し、支援するためにアショカという団体を立ち上げました。アショカフェローと呼ばれるアショカが選出したソーシャルアントレプレナーは、4000名です。ノーベル平和賞を受賞したモハメド・ユヌス氏も、アショカフェローの一人です。

今回は、アショカフェローで、環境保護団体カノピー創立者ニコール・ライクロフト氏の取り組みをご紹介したいと思います。

カノピーのミッション

私たちは、協力、革新、そして弛まぬリーダーシップを通じて、世界の古代森林と絶滅の危機に瀕した森林を保護することに尽力しています。

カノピーは、生物多様性の喪失と気候変動という2つの危機を解決することを目的にブランド、意思決定者、イノベーター、NGO、最前線のコミュニティ、地方自治体と連携して、サプライチェーンを変革する活動を行っています。

 

ネクスト・ジェンの拡大

繊維市場で世界的なファッションブランドと、ブランドに繊維を提供しているメーカーと連携して、古代森林を伐採することなく、廃棄された布等から繊維を製造する手法を開発し、ネクスト・ジェンという名称の地球に優しい繊維を生産するメーカーを世界中で増やすために活動しています。

世界の15%以上のシェアを有するアディティア・ビルラ社がネクスト・ジェンの生産に従事しており、現在、世界のレーヨン生産者の71%が、この活動に参画しています。これは、生産量の54%に当たります。

カノピーのHPには、世界中の主要なレーヨン生産者が、現在、古代森林および絶滅の危機に瀕した森林から木材を調達しているか否かを調査した結果が、詳細に渡り開示されています。日本の企業では、三菱ケミカルグループが、比較的良い成績でランクに表示されています。

H&Mやアディダス等著名なブランドの多くが、カノピーの取り組みに共感し、ネクスト・ジェンを素材として活用することを表明することで、世界中のブランドが、ネクスト・ジェンを活用する大きな動きがあります。

 

寄付の力

カノピーの活動を支えているのは大規模な寄付です。「広める価値のあるアイディア」のキャッチフレーズで知られるTEDは、オウデイシャス・プロジェクトという活動に取り組んでいます。この活動では、TED トークイベントで、世界の緊急性のある課題に大胆なアイディアで挑む団体と寄付者を繋ぐ目的で、TEDトークイベントを行っています。カノピーは、このプロジェクトで、寄付の対象に選定され、約90億ドルの資金を獲得しています。その結果、カノピーの活動は、急速に世界に広がり始めています。2024年には、中国のレーヨン生産者たちにもアプローチを始めています。また、繊維のみならず、包装素材においても、同様の取り組みを始めています。

 

自然は半分を必要とする

気候の安定性、真水、動植物の生息地を提供し、38億年かけて進化してきた他の機能を確保するには、既存の森林生態系の少なくとも50%を保護または修復する必要があります。カノピーは、世界の科学コミュニティと共にNature Needs Half(自然は半分を必要とする)を呼びかけています。カノピーはすべての生態系の半分を保護および修復することで、人間を含め、森林に依存するすべての種の保護を目指しています。

カノピーは、世界の森林の保護のために、ファッションやスポーツ等のグローバルブランド、ブランドに繊維を提供する生産者とともに、サプライチェーンを変革する道を選択しました。このアイディアが、「広める価値のあるアイディア」として評価され、TEDのオディシャス・プロジェクトに選ばれたことで、多くの関係者の目に止まり、計画は次々と実行に移されているようです。

彼らの計画では、2028年には、ネクスト・ジェンの生産量は、2023年の約4倍になり、同時に、古代森林の伐採は、半分以下に減少します。また、2033年には、ネクスト・ジェンの生産量は7倍になり、古代森林の伐採によるサプライチェーンは、ゼロになる予定です。

 

森林伐採の現実と可能性

毎年34億本の木が、レーヨンと包装素材の生産のために伐採されています。世界全体では、森林破壊と森林劣化により、年間の二酸化炭素排出量の10分の1を生み出しています。また、世界の残存森林のうち、最大82%が、伐採、都市化、農業、インフラ開発などの人為的な活動の影響を受け、劣化しています。

森林は炭素貯蔵の重要な拠点であり、地上に貯蔵される炭素の45%が森林に蓄えられています。中でも、古代森林は、優れた炭素貯蔵能力を持っています。熱帯地域の手付かずの森林は、全熱帯森林面積の20%に過ぎませんが、地上の炭素の40%を蓄えています。このため、これらの森林を保護することは、気候変動の影響を緩和する効果的な方法であると言います。

伐採された木も、炭素を保持する機能があります。しかし、スカンジナビアのボレアル森林の調査では、伐採された木の50%しか木材として使われず、残りは、パルプやバイオマスとして消費されることが示されています。バルブは、短命な紙やセルロール製品(レーヨンなど)に変わり、その多くが最終的に埋立地で分解されメタンガスを放出します。全体として、伐採された木のわずか20%が長期間炭素を保持する木材製品になるというのが現実のようです。

 

カノピーの願い

カノピーのHPには、ブランドや生産者と共にサプライチェーンに変革をもたらすための情報と共に、環境保護団体の思いに溢れたメッセージが共存しています。

Nature誌に掲載された科学者たちの手紙では、「原生林は、熱帯の生物多様性を維持するためにかけがえのない存在である」と宣言されています。森林伐採は、過去50年間にわたる生物種の急激な減少の主要な要因であり、1970年代以降、野生動物の個体数は、60%減少しているそうです。

ニコール・ライクロフト氏は、古代森林や絶滅の危機に瀕した森林を保護するために、その根本原因となるファッション業界の人々とコラボする姿には、頭が下がります。一般的な環境保護団体であれば、ファッション業界は、コラボレーションの対象ではなく、敵とも言える批判の対象です。しかし、ニコールは、ファッション業界を協働するパートナーと捉え、彼らの変革を支援する役割を担っています。

カノピーのオンラインセミナーに参画すると、ニコールは、必ず、この成果はカノピーのものではなく、みなさんの力によるものと話します。これも、アショカフェローの特徴と言えます。

 

アショカフェローの特徴

アショカは、アショカフェローを選出する際に以下の5つの評価基準を使用します。

・新しい視点から生まれた発想

・創造性と想像力

・アントレプレナー精神と気質

・拡散性および模倣可能性

・倫理観と共感力にあふれる人格

ニコール・ライクロフト氏は、古代森林・絶滅に瀕する森林と、生物多様性を保護する目的で推し進めているファッションやスポーツ業界のバリューチェーンの変革には、アショカフェローの特徴がすべて生かされています。

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