ダイバーシティ推進について(パート2)
2025年1月13日 文部科学教育通信掲載
今日では、大学においてもダイバーシティの推進が重要なテーマになりました。ある大学のダイバーシティ推進のために映像動画を作成しました。この度は、その内容をご紹介したいと思います。パート1では、ダイバーシティ推進の取り組みについてご紹介しました。パート2では、ダイバーシティ推進がもたらす価値についてご紹介いたします。
カルチャーの大切さ
D&Iの推進においては、多様性を活かすカルチャーを形成することも大切です。同質性を重んじるこれまでの時代には、ヒエラルキー型の組織カルチャーが主流でした。ヒエラルキー型組織の強みは、決められたことを集団で実行する行動力や徹底力です。このため、同質性に基づく、ヒエラルキー型の組織カルチャーが、組織を強くしました。しかし、多様性を重んじる組織のカルチャーは、ヒエラルキー型の組織カルチャーとは少し異なります。
D&Iを推進するためには、多様性に優劣の概念を持ち込まないフラットな組織風土が望ましいです。ヒエラルキー型組織の特徴である優劣の概念を用いると、多様性を活かすことができません。想像してみてください。もし、あなたが「優」の立場なら、「劣」の人の意見に真剣に耳を傾けるでしょうか。また、あなたが、「劣」の立場なら、「優」の人に、本音で意見を述べることができるでしょうか。
今日では、一人ひとりにより創造的な仕事が期待されています。多様性が化学反応を起こし、イノベーションを生み出すことが期待されています。D&Iをイノベーションにつなげていくためには、誰もがオープンに話すことができるフラットなカルチャーにシフトすることが大切です。
ここからは、D&Iに取り組む意義について解説します。
大きな価値につながるブレイクスルー
経済産業省は、ダイバーシティ経営を以下のように定義しています。多様な人材が、その潜在能力を開花させることで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていく。D&Iを推進した結果、価値創造に繋がることが期待されています。
図2は、多様性とイノベーションの関係を示しています。ハーバード大学の研究によれば、専門分野の多様性が高いチームの方が、大きな価値に繋がるブレイクスルーが起きる可能性が高いという結果になっています。同質性の高いチームからブレイクスルーに繋がる成果は生まれないようです。大きな価値に繋がるイノベーションを生むために、D&Iを推進する必要があります。
図2
画一性は危険
多様性に関するバイブルとも言える「多様性の科学」では、画一性がいかに危険であることを数多くの事例をもとに解説しています。VUCAと呼ばれる、不確実で変化が激しい時代に生き残るためには、組織の多様性を高める方が良いとも言われています。時代が求める人材像が変化する中で、画一性が高いと、全滅する危険があると言います。D&Iは、イノベーションを支えるだけではなく、組織の生き残りのための戦略であると捉える必要があります。
心理的安全性
D&Iの推進が成功すると、組織の心理的安全性が高まります。その結果、組織の生産性を高めることができます。心理的安全性には、2つの要素があります。一つは、周囲の人に対して、素の自分を見せることを、自分自身が受け入れられること。もう一つは、素の自分を見せても、周囲の人に受け入れてもらえる安心感。 この2つの条件を満たした時に、人は、心理的に安全であると感じることができます。グーグルは、チームの生産性について調査を行い、良い成果を出しているチームに共通しているのは、心理的安全性があることを突き止めました。心理的安全性のあるチームでは、誰もが意見を述べる機会を得ています。一方、心理的安全性の低いチームでは、特定の誰かだけが意見を述べていて、全員が議論に参加することが出来ていないと言います。D&Iを推進することで、心理的安全性の高いチームを実現することができます。その結果、チームの生産性も高まります。
関係性と結果の質
組織開発では、定番となっている成功の循環モデルでは、関係性の質が、結果の質に繋がると解説しています。D&Iに取り組むことで、相互理解を深め、お互いを尊重し、協働する関係性ができることが、業績や成果にもよい効果をもたらします。
エンゲージメント
最後にエンゲージメントについて触れておきましょう。エンゲージメントの高い人は、自分が所属する組織と、自分の仕事に熱意をもって自発的に貢献します。このため、どの組織でも、社員のエンゲージメントを高めることに懸命です。D&Iの推進は、エンゲージメントを高める効果をもたらします。エンゲージメントを高める方法は、大きく4つあります。
一番目は、関係性です。エンゲージメントを高める上で、多様性を尊重し、相互理解と信頼関係を構築することが、欠かせません。二番目は、存在の承認です。強みを活かして組織に貢献し、そのことを、他者からも認めてもらっていると感じられる時に、人のエンゲージメントは高まります。一番目も、二番目も、D&Iと密接に関わります。三番目は、パーパスの自分ごと化です。仕事の意義を実感できることが大事です。多様性を活かす組織では、組織のフラット化が進みます。このため、パーパスの存在は、とても重要なものになります。ボスはパーパスという言葉もありますが、誰もが、組織の存在意義と繋がることで、一人ひとりが自律的に動ける強い組織が実現します。4番目は成長です。成長し、自分らしいキャリアを形成することで、人のエンゲージメントは高まります。このように、D&Iの推進は、エンゲージメントの向上を支えます。
D&Iの取り組みを通して、誰もが自分らしく生き生きと働ける居場所を感じられる組織を実現し、多様性をイノベーションと価値創造につなげていただきたいです。