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メンタルモデル

2024.05.27 文部科学教育通信掲載

最近、メンタルモデルに関心を持つ人が増えています。そこで、今回は、メンタルモデルをテーマにお話してみたいと思います。
私は、学習する組織について学ぶ中で、メンタルモデルという概念に出会い、日常的にメンタルモデルを活用しています。このため、最近、メンタルモデルに関心を持つ人の視点は大変興味深く、メンタルモデルに対する新たな発見につながっています。

 

メンタルモデルとは
メンタルモデルとは、私達がどのように世界を理解し、どのように行動するかに影響を及ぼす、深く染み込んだ前提、一般概念であり、あるいは想像やイメージである。メンタルモデルは、経験を通して形成される。〔学習する組織-システム思考で未来を創造する ピーター・M・センゲ/英治出版より引用〕
私達は、家族を持ち歩くことも、社会を持ち歩くこともできないのですが、心の中に、家族や社会のイメージを持ち歩くことができます。私達が、心の中に持つイメージは、私達が物事を捉える際の前提でもあります。これをメンタルモデルと呼びます。
皆さんは家族という言葉で、何をイメージしますか。実は、私達一人ひとりが心の中に思い浮かべる家族のイメージは、夫々異なっていて、自分の子どものことを一番に思い出す人もいれば、パートナーのことを思い浮かべる人も、父親や母親を思い出す人もいます。その背景には、異なる経験があります。誰とどんな経験をしたのか、どんな家族の思い出があるのかにより、家族という言葉で連想するイメージが変わります。
メンタルモデルが一旦形成されると、メンタルモデルは我々の思考や行動に影響を与えます。なぜなら、メンタルモデルが判断の基準を指し示すことになるからです。
ところが、多くの場合、私達は、メンタルモデルに意識を向けることがなく、無意識にメンタルモデルを活用し、判断を下したり、行動を選択したりしています。

【メンタルモデルが、行動を規定する図】

認知の4点セット
リフレクション-自分とチームの成長を加速させる内省の技術(ディスカヴァー・トゥエンティワン)でも紹介している認知の4点セットは、自己のメンタルモデルをメタ認知するための手段です。自分に鏡を向けて、自己の内面を掘り下げることで、自己の用いているメンタルモデルを言語化することが可能になります。

自分の意見の背景にどのようなメンタルモデルがあるのかを、意見に紐づく経験を思い出すことで言葉にすることが可能になります。例えば、犬が嫌いな人が、過去の経験を掘り下げることで、どのようなメンタルモデルが、その考えの背景にあるのかを探り当てることができます。「そういえば、小さいときに、自分と同じくらいの大きさの犬に追いかけられて、食べられてしまうのではないかと思ったとても怖い経験があった」こんな風に、過去の経験を思い出すことで、犬に対する自分の思考の背景にあるメンタルモデルに気づくことができます。

【犬に追いかけられた事例】

 

アンガーマネジメント
最近、アンガーマネジメントにも、認知の4点セットが活用できると、その実践をお話くださった方がいました。アンガーマネジメントは、怒らないことを目指すのではなく、違いを受け入れて、よい人間関係を実現するために行う思考のトレーニングです。
例えば、いきなり、「部下の指導がなっていない」と怒鳴り込んできた隣の部署の部長さんに対して、「なんでそんな言われ方をしなければならないのか(心の声)」と頭に来たときにも、認知の4点セットで自分に起きていることがわかると、心を落ち着かせることができます。

【感情は?】頭に来ている

【経験していることは?】隣の部署の部長さんに、部下の指導がなっていないと怒鳴られ、一方的に文句を言われ続けたことで頭に来た

【では、なぜ、自分は頭に来るのだろうか?】 と自問すると、「部下の批判をみんなの前でしたこと」、「背景を聞こうとしないで、自分の思い込みで、人の評価を決めつけていること」が自分は嫌なんだということが理解できます。

怒り等のネガティブな感情は、このように自分を理解するための扉のような役割を果たします。自分に鏡を向けて、リフレクションを行うことで、心も落ち着くので、とても有効なアンガーマネジメントのやり方だと思います。

上級者になると、相手への共感も生まれます。

【相手の感情は?】怒鳴っているのだから頭に来ているのだろう

【なぜ起こったんだろうか?】部下の言動の何がそれほど部長さんを怒らせたのだろうか。礼儀に問題があったのか? コミュニケーションが噛み合わなかったのか? 仕事のやり方だったのか、仕事の質だったのだろうか? 普段の部長さんの様子から、彼が一番嫌なことは、計画性のない仕事だから、もしかすると、納期ギリギリの進め方が気に触ったのかもしれない。。。。 こんな風に、相手にも、相手の世界なりの理由があることを想像することができるようになります。

誰もが、物事に対してこだわりを持っており、そのこだわりは、過去の経験を通して形成されます。怒りは、このこだわりが満たされいないときに起きる感情なので、怒りの感情が表出したら、「私は何にこだわっているのか、今何が満たされていないことに不満を抱いているのか」を問いかけると、自分がどのようなこだわりに支配されているかを理解することができます。

 

部下育成
メンタルモデルは部下育成にも、活用できます。物事がうまくいかないとき、私達は、人の能力のせいだと思いがちですが、実は、メンタルモデルに原因があることが多いです。例えば、リーダーに昇格したばかりの人の多くが、他者に仕事を任すことができないのは、それまでの成功体験で培われた強い責任感というメンタルモデルを手放すことができないからだったりします。自己のメンタルモデルに気づくことができれば、メンタルモデルを変えるためのアプローチを考えることもできます。

ぜひ、皆さんも、自分のメンタルモデルに意識を向ける習慣を試してみてください。

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