生徒の主体性を育む学校
2024.03.25
学習する学校づくりの支援を行っている札幌新陽高校は、2022年4月より、新たな『学校生活規則』を定め、生徒の多様性と自主性を重んじる教育に取り組んでいます。
札幌新陽高校で月に1度行う教職員の対話の2月のテーマは、「校則が変わったことで生徒と先生に起きた変化」でした。
生徒エージェンシーの重要性が強調される今日、学校現場では、指示や命令を中心とした生徒指導から、生徒の主体性を尊重する生徒指導へのシフトが求められています。このパラダイムシフトは、生徒の自由意志に基づく正しい判断能力を前提とした生徒指導であるため、生徒にとっても、先生にとっても新しい環境といえます。
札幌新陽高校の新しいルールとは
新しいルールメイキングに関して、札幌新陽高校のHPを参考に、その内容と意思決定のプロセスについてご紹介します。
【新しいルールの内容】
新陽高校では、この度『生活指導規定』を廃止し、新たに『学校生活規則』を策定します。現在の生活指導規定は、創立当初からの規定をベースに改定してきたもので、これまで大幅な見直しはされていませんでした。そこで今年度、本校の教育理念とビジョン2030を踏まえて、一から見直しを行いました。
生活指導規定から学校生活規則へ
以下が本校の新しい学校生活規則になります。根本的な見直しに伴い、「多様な生徒が自由に、安心安全に学校生活を送るためのルール」として名称も変えました。まず前文で、目的、前提となる考え方、そして規則の運用に関する位置付けを明確にしています。(これまでの規則には目的等は明示されていませんでした。)
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1. 規則の目的
本規則は、札幌新陽高校の多様な生徒および教職員が、お互いに自由かつ安心安全に学校生活を送ることを目的として定める。
- 規則の前提
◎ 新陽の教育方針に沿うものとする。
・すべての生徒の「教育を受ける権利」を守ることを大前提とする
・「本気で挑戦し自ら道を拓く人の母校」として、グラデュエーション・ポリシーを踏まえた生活指導を行う
・ビジョン2030「人物多様性」の観点を大切にする
◎ 自分および周りの自由を奪ったり迷惑をかけたり、安全を脅かすことはしない。
◎ 法律違反または、法律違反に関わることをしない。(風営法及び道条例によって禁止されていること等) - 規則の位置付け
◎ 本規則は、本校の生徒としてひとしく守るべきものとする。
◎ 定期的かつ継続的に教職員および生徒により見直し(追加・削除・修正)を行う。 - 本規則は2022年4月1日より実施する。
●制服について
指定された制服を着用する。
なお、式典等には正装で参加することとする。
※正装については別紙参照
●通学用靴について
通学用靴は非常時の避難に支障をきたすため、サンダル、クロックス系は禁止とする。
●運動着・上靴について
運動着・上靴は本校で指定したものに限る。
●持込物について
危険物など学校生活に必要ないものの持ち込み禁止
●自転車通学について
自転車通学は学校が定める期間内で認める。
●運転免許について
生徒の自動二輪及び四輪免許取得に関しては在学中認めない。
ただし、四輪免許に関しては進路指導の一環として認める場合がある。
●アルバイトについて
次の条件を満たす場合に認める
・学業が優先であること。
・事前に学校に届け出て指導を受けること。
・22時までに帰宅できる時間内であること。
●外泊について
旅行を含めた外泊は保護者の承認を得ること。
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なお、新しい学校生活規則には身だしなみに関する項目がありません。ルールではなく、本質的な対話の中で生徒自身が整えていくものと考えているからです。
【校則見直しのプロセス】
今回の校則見直しにおけるプロセスは、教員が新しい案を提案し生徒と保護者の方々へ代案等のコメントを募る、という形で進めました。
2月7日:生徒指導部より新案提示
2月18日:新案の生徒・保護者への公開&代案の受付開始
2月21日:評議委員会(生徒)
2月24日:校則カフェ(生徒)
2月25日:校則カフェ(生徒)
2月28日:代案受付締切、評議委員会(生徒)
3月7日:代案コメント等を反映した新規則の完成
3月10日:管理職決裁
3月14日:確定した新規則の教職員への共有
3月16日:確定した新規則の生徒・保護者への公開
4月1日 :新規則の運用開始
新陽高校が目指すのは、「持続可能な社会を目指して、生徒・教職員・社会が協創する」学校です。校則についても、生徒や保護者の皆さまそして地域の方々と「協創」していきたいと思っています。今後ともご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします。
札幌新陽高校のHPを参考に作成
ルールと約束の違い
規則の振り返りの中で、生徒から、マナーが気になる生徒がいるという意見が出たそうです。しかし、これは、規則とは別の問題かもしれないという結論になりました。
オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクール」では、ルールと約束を分けています。ルールは、集団生活を安全安心して行うために必要なもので、先生が決めることができます。ただし、先生には、理由を説明する責任があります。約束は、共同体の構成員が自ら創るものです。約束を破ったときのことも決めておきます。
マナーは、ルールというよりも、約束の方に近いものです。一緒にいる誰かが不快になることはやらない という観点から、生徒にも、マナーについて考えてもらえると良いのではないかと思いました。
先生の関与
生徒の主体性を育む学校では、「生徒の育ち」を確実なものにするために、先生の関与の仕方と、生徒と先生が協働し作り出す学校文化がカギを握ります。このため、先生は、以下の2つの問いに対する答えを持つことが期待されます。
(1)いつ見守りから介入に移行することが大事ですか? (2)自律を促す介入にはどのような特徴がありますか?
放置と見守りは異なります。介入と過保護も同じではありません。生徒の自主性を尊重し、同時に必要な時に必要な介入を行うことができるために、生徒を観察し、理解することもより重要になります。先生にも、新たなスキル開発が必要になります。
生徒に持って欲しい判断基準
この対話を通して、改めて、生徒にどのような判断基準を持って欲しいと考えているのかを自問しました。
自由を手に入れる生徒は、自律していなければ困ります。そのため、○○について正しい判断基準を持ってもらうことが必要になります。皆さんは、○○をどのように考えますか。
生徒は、個人の自由と、共同体における責任の両面から物事を考える必要があります。共同体における責任には、どのようなものがありますか。
このような議論を先生と生徒と一緒に行ってみたいと思いました。
私はどうしたいのか? 何を選択するのか?それはなぜか? これらの問いに答えを持ち、行動してほしいです。
【吟味する視点の例】社会通念では、どう考える? 新陽の論理では、どう考える? その行動の責任は、どうとるのか? その選択の先にはどんなリスクがあるか? それはとってよいリスクなのか? その行動と結果の先にある「誰か」にどんな影響があるか? ・・・・・・・・・
札幌新陽高校には、「今の自分」だけではなく、「未来の自分」、家族、学校、社会と幅広い視点で、生徒が、吟味する力を育む学校であって欲しいです。