女性のエンパワメント
2023.04.24文部科学教育通信掲載
今年から、ファッションブランド ケート・スペード ニューヨークと共に、女性のエンパワーメント活動を開始します。昭和女子大学キャリアカレッジで、社会の女性活躍やダイバーシティ推進を支援して10年目になります。この活動を通して、多くの女性たちに出会う中で、女性の潜在能力の大きさを実感しています。一方、女性は、完璧主義で責任感も強いため、自信が持てなかったり、様々な役割を担う中で、一歩踏み出すことを躊躇する様子も、多く見てきました。
共働き社会への移行
1985年以降、全く、道が開かなかった女性活躍の流れも、労働人口の減少により、経済成長の一環と位置づけられた2013年以降、本格化し、その勢いが止まりません。世の中は、グラデーションで出来ているため、未だに、1985年と変わらない様子の社会や企業も存在しますが、先進事例は、確実に積み上がっており、共働き社会への移行が着実に進行しています。
共働き社会への移行が始まり、社会は、女性管理職比率3割を目指し、女性に期待を寄せています。保育園が整備され、産休から復帰しても、時短で働ける環境も整備されました。もう、結婚、出産というライフイベントで会社を辞める女性はいません。一方で、家庭における女性の仕事量は、以前と変わらないというケースも多く、女性には、会社でも、家庭でも、頑張ることが求められているという様子も、多く見られます。そこで、男性の家事・育児への参加を呼びかけるために、昨年から、産後パパ育休制度が始まりました。出産直後に、パパが子育てに参画することで、その後のパパの育児参加の可能性が高まることが期待されています。
サウジアラビアの女性たち
昭和女子大学キャリアカレッジで、女性活躍支援を行うきっかけとなったのは、2012年に訪れたサウジアラビアの女性たちとの出会いでした。ジェトロ主催の「サウジアラビアの女子教育」を視察する企画に参画し、サウジアラビアの大学や教育機関を訪問し、たくさんの女性たちと交流しました。そこで、改めて、自分自身の姿を客観視する機会を得たことが、女性を応援しなければと思ったきっかけでした。
サウジアラビアは、イスラム教徒の国ですが、女性教育に関しては先進的で、1960年代から、女性にも教育の機会が与えられており、多くの女性たちが大学に進学しています。イスラム教徒の国なので、女性はアバヤという黒い服を纏い、女性は、親族以外の男性と話すことはありません。このため、多くの女性たちは、女子大に通います。しかし、最近では、科学技術革新で、国力を高めていくことを目指す国が、女性の科学者を増やすことにも力をいれており、男性中心の理工系の大学にも、女性が通い始めています。私達が訪問した理工系の大学では、教室が2階建てになっており、1階に男子学生が座り、スクリーンで覆われた2階に女子学生が座っています。女子学生は、2階の席から、活発に意見を述べていましたが、女性たちの顔は、先生からも、男子学生からも見えません。イスラム教徒の社会を保ちつつ、同時に、女性の潜在能力を活かす社会を実現するために、様々な工夫がされていました。
男性社会にお邪魔する生き方
サウジアラビアでは、黒いアバヤを纏い、男性と話すことができない女性たちは、私達よりも、ずっと生きにくいはずだと思い込み、サウジアラビアを訪れた視察団が、実は、生きにくいのは我々日本の女性たちの方だと気づいたのは、ある大学に設置された保育園を見学したときのある対話がきっかけでした。
「大学に、保育園があるのは素晴らしいこと」と、ある女性が発言しました。私も、他のメンバーも、その言葉を聴いて、「本当にその通り、素晴らしいです」と賛同した所、「あなた達は、何を感動しているのですか???」と、大学を案内してくれていた女性の教授が、驚きの表情を見せました。その様子に、こちらも、驚きました。彼女は、更に、言葉を続けて、「私たちは、女性ですよ。女性は、勉強もするし、出産もする。保育園があるのは、当たり前で、感動する理由などありません」そのように、解説してくれました。
このコミュニケーションを通して、私たちは、自分の境界線の外にでることができました。そして、始めて、自分たちを、外から眺める機会を得ました。視察に参加した女性たちの多くは、日本社会が特に女性を歓迎していない時代に、社会に進出した女性たちでした。当時は、ビルに女子トイレを設置するのを設計段階で忘れたというような笑い話が有るくらい、男性中心の社会でした。このため、保育園など、女性の社会進出に伴い必要になった施設は、少しずつ整備されていきましたし、整備されると、ありがたいことと感じていました。
サウジアラビアでは、女性は黒いアバヤを着ていますが、日本と大きく違う所は、男性社会と同じ大きさの女子社会がある所です。例えば、結婚式も、男性、女性が別々に祝います。学校の保護者会も、お父さんの会と、お母さんの会が別々に開催されます。男性社会が存在すれば、同じように女子社会が存在します。日本では、女性はアバヤを纏うことはありませんし、男性と話をすることも許されていましたが、その結果、男性社会しか存在しない中で、女性が社会に進出するので、男性社会に女性が進出することになりました。
サウジアラビアを訪れなければ、一生気づくことがなかったと思いますが、この視察を通して、我々が男性社会にお邪魔する生き方をしていることに気づきました。このような生き方を、後輩の女子たちに継承して欲しくありません。
幸い、日本でも、労働人口の減少をきっかけに、共働き社会への移行が始まり、同時に、多様性を包摂する社会づくりも、始まったため、社会全体が変わり始めています。しかし、社会通念や、人々の心の中がすべて刷新されている訳ではなく、まだまだ、すっきりしない気持ちで、活躍している女性たちもたくさんいると感じます。そこで、押し付けにならない、誰にとっても心地の良い支援ができるとよいのではないかと考えています。
私達が、サウジアラビアで自分たちの姿を俯瞰することができたように、自分の内面をメタ認知することは、自分を幸せにするために、とても大切なことです。一方、自分の枠を、自分だけの力で捉えることは難しく、自己内省(リフレクション)と共に、他者との対話が欠かせません。このため、私が主軸においているリフレクションと対話を広める活動と、女性のエンパワーメントは、とても親和性が高いと感じています。
ケイト・スペードニューヨークは、女性と女の子のエンパワーメントとメンタルヘルスに関する取り組みを、世界中で開始しています。メンタルヘルスは、3つのカテゴリーに分類されています。一つは、メンタルの病気です。これが、日本では一般的なメンタルヘルスに関するイメージかもしれません。2つ目は、メンタルウェルビーイング、3つ目は、メンタルフィットネスです。メンタルヘルスに対する正しい理解を持つことで、心のケアを正しく行うことができます。世界のアプローチに学び、日本に合った女性のエンパワーメントに取り組んでいきたいと思います。