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環境保護と企業活動

2023.01.09文部科学教育通信掲載

今年も、青山ビジネススクールで、ソーシャルアントレプレナーの授業に取り組んでいます。社会課題の解決に取り組む個人や企業、団体のことを学び、ソーシャルアントレプレナーが、何を考え、どのようなアクションに取り組んでいるのかを研究します。最近では、営利企業においても、気候変動に対する取り組みが盛んになり、ビジネススクールの授業の特徴でもありますが、授業の内容を毎年アップデートしています。この授業で、今年、特に注目しなければならないのは、パタゴニアという企業です。

パタゴニアの起源

パタゴニアは、アメリカのアウトドア・スポーツ用品のメーカーです。パタゴニアは、自らもロッククライマーであるイヴォン・シュイナードが1973年に創業した会社です。イヴァンは、ロッククライミングを行っている時に使っている道具が、岩をキヅつけている事に気づきました。そこで、自ら岩をキヅつけない道具を作り始めたのが、創業の起源です。このような創業の起源を持つパタゴニアが、自然環境保護に力を注ぐアクティビズムに力を注ぐようになるのは、自然の摂理かもしれません。創業して間もない頃、パタゴニアのオフィスの近くにあるベンチュラ川の河口のサーフィンスポットに開発計画が浮上します。その開発計画に反対する活動に参加していた社員を応援するために、パタゴニアは、オフィスのスペースを提供することになります。こうして、パタゴニアは、自然環境保護活動を支援する取り組みが始まります。

1%フォー・ザ・プラネット

1985年以降、パタゴニアは、売上の1%を自然環境保護/回復のために使うことを宣言し、自然環境保護活動を行う草の根運動に寄付してきました。パタゴニアは、この1%は、地球に支払う税金と考えています。その後、この取り組みは多くの個人や企業から賛同を得て、今日では、世界85カ国6000社以上の団体が参加する基金に発展しています。パタゴニアと共に、自然環境保護に取り組みたいと考える人々が、世界中から集まる時代です。

創業者の決意

今年、パタゴニアの創業者イヴァンが、その株式の多くを、環境危機との戦いと自然保護を目的とする非営利団体ホールドファースト・コレクティブに譲渡したことが、大きな話題になりました。今後は、議決権付きの株式を保有するパタゴニア・パーパス・トラストが、パタゴニアの経営を行い、ホールドファースト・コレクティブを通して、パタゴニアの利益は、自然環境保護のための資金として活用されることになります。このような株式保有のあり方は、これまでに例を見ないものですが、パタゴニアのこれまでの取り組みを振り返れば、創業者の思いは、ずっと自然とともにありましたから、創業者にとってはあたり前のことなのかもしれません。

以下に、イヴァンのメッセージを引用します。https://www.patagonia.jp/ownership/

地球が私たちの唯一の株主

事業の繁栄を大きく抑えてでも地球の繁栄を望むならば、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要があります。これが私たちにできることです。

イヴォン・シュイナード

 

私は、ビジネスマンになりたいと思ったことはありません。クライミング用具を友だちや自分ように作る職人から始めて、後にアパレルの世界に入りました。世界中で温暖化や環境破壊が広がり、自分たちのビジネスが及ぼす影響を目の当たりにするようになったことで、パタゴニアは、自分たちの会社を活用して、これまでのビジネスのやり方を変えることに取り組んで来ました。ただし日行いをしながら生活に十分な資金を稼げるならば、顧客や他のビジネスにも影響を与えられるし、そうしている間にこの仕組も考えられるだろう、と。

まず製品に環境負荷が少ない素材を仕様することから始めました。毎年売上の1%を寄付しました。Bコーポレーション認証を受け、カリフォルニア州のベネフィット・コーポレーションとなり、私達の価値観を保持するために会社定款にこれを記載しました。最近では2018年に、パタゴニアの目的を「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に変更しました。

 ”本当のところ、優れた選択肢はなかったのです。だから自分たちで作りました。“

 選択肢の一つはパタゴニアを売却してその売却益をすべて寄付すること。しかし、私たちの価値観や世界中で雇用されている人材を維持してくれる新たなオーナーを見つけるという確信はありませんでした。

 もう一つの選択肢は、会社の株式を公開することでした。とんでもない失敗になったでしょう。どんなに素晴らしい志のある公開会社でも、短期的な利益を得るために長期的な活力や責任を犠牲にしなければならないという過剰なプレッシャーに晒されます。

 本当のところ、優れた選択肢はなかったのです。だから自分たちで作りました。

 私たちは、「株式公開に進む(Going public)」のではなく、「目的に進む(Going purpose)」のです。自然から価値あるものを収奪して投資家の富に変えるのではなく、パタゴニアが生み出す富を全て富の源を守るために使用します。

その仕組みは、会社の議決権付株式の100%を会社の価値観を守るために設定された、パタゴニア・パーパス・トラストに譲渡し、無決議権株式の100%を環境機器と戦い自然を守る非営利団体ホールドファースト・コレクティブに授与とする、というものです。また、毎年、事業に再投資を行った後の剰余利益を配当金として分配することで、パタゴニアから環境危機と戦うための資金を提供します。

 私達が責任ある事業という試みを始めてから約50年になりまり、それはまだ始まったばかりです。事業の繁栄を大きく抑えてでも今後50年間の地球の繁栄を望むまらば、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要があります。これが、私たちが見つけたもう一つの方法です。

 地球のリソースは、莫大ではありますが無限ではありません。そして、私たちがその限界を超えてしまっていることは明らかです。しかし、まだ回復可能です。私たちが最大限努力すれば地球を救うことができるのです。

 

リフレクション

1972年にローマクラブが、「成長の限界」という報告書を発表して、50年が経過しました。私たちは、同時期に、安くて良いものを大量に生産する企業活動を発展させ、大量生産・大量消費社会を発展させてきました。それは、同時に、地球環境破壊社会を突き進んできた50年とも言えます。ベルリンの壁が崩壊し、地球全体が資本主義社会に塗り替えられ、大量生産・大量消費社会は地球全体に広がっています。

パタゴニアの創業者イヴォンは、ロッククライミングを始めとするアウトドア・スポーツを通して、自然とつながる心を持っており、地球を株主と捉えることが出来たのだと思います。しかし、多くの人たちにとって、自然は、それほど身近な存在ではないかもしれません。

ローマクラブは、「成長の限界」を発表した後に、「限界なき学習」という報告書を発表しています。その当時、このまま経済成長を続けると自然資本に限界がやってくるという事実を世の中に発表しても、誰も、イヴォンのように行動しようとしなかったからです。どうすれば、人間は、将来の危機を想像し、そのために行動することができるのか。その答えが、人間の学習する力の持つ可能性でした。

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