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WCCE2022

文部科学教育通信2022.10.10掲載

WCCE 2022 (World Conference on Computers in Education 第12回教育におけるコン ピュータに関する国際会議)が、8月に広島で開催されました。

WCCEとは

WCCE (World Conference on Computers in Education)は1970年より数年(現在では4年)間隔で開催され る、〈コンピュータと教育に関わる研究および教育実践の国際交流 〉を主題とする国際会議です。2022年広島開催による WCCE 2022 は日本およびアジア地域における初めての開催であり、 1970年第1回アムステルダム開催より通算して第12回目の開催 となります

 

会議のテーマ

今回の会議テーマは Towards a Collaborative Society through Creative Learning (創造的 な学習を通じた協働社会に向けて) です。教育とICTとの距離、そして教育分野における世界と日本と の距離を一気に縮め、創造的な学習を通じた協働社会へのシフトを促進することを狙いとしています。

開催母体

開催母体である IFIP (International Federation for Information Processing 情報処理 国際連合)は1960年4月に UNESCO の提案で組織された情報処理関連学会の国際的な連合 組織で、日本は、一般社団法人情報処理学会が代表学会として加盟しています。 一般社団法人情報処理学会は、コンピュータとコミュニケーションを中心とした情報処理 に関する学術および技術の振興をはかることにより、学術、文化ならびに産業の発展に寄与 することを目的に1960年に設立されました。WCCEの日本開催は、情報処理学会と日本学術会議の共催での実施となりました。

 

日本開催の意義

WCCE では ICT分野の最先端技術の教育利用、ICT理解の普及に向けた情報学および情報科学教育、ICTと教育による開発途上国支援などに関わる知見が世界各国から集められ、研究者はもとより教育者、UNESCOほか各国の政策立案者、ICTと教育が関わる民間企業・ NGO・NPO 関係者、など幅広い背景を持つ参加者により議論や情報交換が行われます。

日本で開催することにより、当該分野の持続発展に対する日本からの貢献がより明確に認識されるとともに、 UNESCO を始めとする世界の教育政策動向により深く関与するための人的交流のチャネルが強固なものとなることが期待されます。この会議では毎回、 教育、ICT、そしてSDGsに代表されるグローバルな政策課題に関して各国の最前線で活躍 する専門家が多く集まり、オープンな雰囲気の中、情報や意見交換を行う場が随所に生まれます。参加国は、約40カ国です。

日本のICT教育に関する教育政策の展望

私も、パネルディスカッションに参加し、意見を述べる機会を頂戴しました。久しぶりの英語でのプレゼンテーションに、ドキドキしながら、日頃から大きな課題だと思っていることを伝えました。

 

  • 教育と社会は双子

教育と社会は双子です。教育と社会は、鶏と卵の関係にある。このことに気づいたのは、オランダに教育視察に訪れた時でした。強い市民力を体現している大人たちのいるオランダでは、誰もが社会を変えることができると信じています。一方、日本では、日本財団の調査が示す通り、自分には、社会を変える力が無いと思っている子どもたちが多い。しかし、これは、子どもだけの話ではなく、大人の話でもあります。多くの大人が、社会だけではなく、自分が務める会社も、自分の部下も変えることができないと思っています。

 

日本のDXが遅れてしまう背景には、縦割り構造にあると思っています。日本中の市町村のサービスには、多くの共通項があるにも関わらず、日本は、大手ベンダーが、二分する形で市町村のサービスを受注しており、共通化するという発想はありません。しかし、日本全体で、付加価値の向上を目指すのであれば、共通化し、普遍的なサービスの向上を図る方がよいのですが、それでは、過去から積み上げた売上を守ることができない。テクノロジーの進化は、世界中で平等に進んでいるのに、人間が進化を拒んでいる。これが、日本でDXが進まない理由だと思います。

世界中が、SAPのシステムを使用していますが、日本企業だけが、最後まで個別最適化を望んだという事実も、日本の特性をよく表しています。世界は、SAPの標準機能に合わせる選択を早期にしました。その方が、バージョンアップにも対応し易いからです。しかし、日本企業は、自社のこれまでのやり方を変えることに抵抗し、SAPの標準機能への移行が、世界で最も遅れた国になりました。

本当の利益、本当の付加価値は、標準化の先にあるという視点を持つためには、実は、リフレクションが欠かせません。一見、個別最適化されているようにみえるシステムにある、普遍的で共通化できる要素を抽出するために、これまで、そして現在のシステムを振り返る必要があります。それができると、共通化してもよいことと、個別最適化すべきことを仕分けることが可能になります。

 

  • 自律分散型組織への移行

企業では、今、管理型組織から自律分散型組織への移行が始まっています。指示命令に素直に従う従順な社員では、前例のない時代を生き抜くことが難しくなったからです。また、IT企業では、リモートワークとオフィスワークの併用が進み、上司の指示なしに働くことができる社員でなければ、仕事ができないという現実もあります。

学校教育においても、OECDが提唱する学びの羅針盤2030では、生徒エージェンシーという言葉で、子どもたちの自律を促す教育の重要性を明らかにしています。生徒エージェンシーには、子どもたちが、社会に参画するだけではなく、社会を変える力を持つ個人であるという、子どもたちへの期待が込められています。子どもは、学校で学び、大人が社会を動かすという、これまでの子どもと大人の役割分担の考え方にも、変化が見られます。

自律分散型組織の思想は、テクノロジーの進化がもたらした新しい哲学でもあります。インターネットが世の中に生まれた時から、技術者が願っていたのは、誰かに支配される世界ではなく、一人ひとりが、主体的にテクノロジーを謳歌する世界でした。グーグルも、創業期には、インターネットの世界では、真の民主的な社会を実現することが可能であると考えていました。

残念ながら、グーグルも、アマゾンも、アップルも、世界を支配するプラットフォームに成長し、彼らが持つデジタル情報によって、個人が支配される世の中になりました。しかし、技術者たちは、真の民主的な社会を諦めている訳ではありません。暗号資産(トークン)に、大きな期待が寄せられているのは、このためです。

学校現場で、生徒エージェンシーを育むためには、大人の社会が、エージェンシーを育む必要があります。私も、企業が、管理型組織から、自律分散型組織に移行する変革を、微力ながら支援していきたいと思います。

 

  • 多様性・公正・包摂

多様性を公正に扱い、包摂する社会の実現に向けて、世界中がその取組を本格化しています。テクノロジーの進化により、個別最適化が可能になり、学校教育でも、一人ひとりの生徒が、個別最適な学びを実現するためにICTを活用するという考え方が広まっています。

しかし、日本では、公正ではなく、平等という思想が強く、学校は、日本全国どこに行っても同じ教育を受けることができることを大事にしています。生徒の学力や、背景に関わらず、同じ教育を受けることができる、これが平等の思想です。一方、多様性を尊重する国では、結果の平等のために、提供する教育は変えてよいという思想になります。学校でも、子どもたちは、進度に合わせて個別最適な学びを得ることが可能になります。

テクノロジーの恩恵を得ることができる人間を育てる教育へのシフトが期待されます。

 

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