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人材育成に取り組むリーダーたち

2021.12.27文部科学教育通信掲載

自律型人材を増やし、自律型組織を創るビジョンに賛同してくださる企業と共に、リーダーが育成力を高めるために研修に取り組んでいます。リーダーの皆さんは、約半年かけて、5回の研修で手法を学び、現場で、試行錯誤を通してスキルを磨きます。

 

成人発達理論

成人発達理論では、子どもだけでなく、大人も成長に支援が必要であると述べています。また、年齢が高くなるほど、支援の有無による成長度合いの差は大きくなります。仕事の難易度が上がり、複合的な視点で物事を捉え、判断することが迫られる一方で、過去の成功体験を手放し、新たな視点や行動様式で物事に向き合う必要もあります。クリティカル思考を持つことや、自分自身を俯瞰するためにも、他者の支援が欠かせません。時には、弱音や不安を言葉にすることが許される環境で、本音を口にすることも必要です。

飲みニケーション

コロナ禍で、飲みニケーションの機会が減ったことで、多くのリーダーが育成の機会を失ったと感じているようですが、本当にそうでしょうか。最近の調査では、飲みニケーションはどちらかといえば不要または不要と答えた人が全体の6割を超えたと報告されています。これからは、飲みニケーション以外の場で育成に取り組むことが期待されています。

部下育成において最も大切な力の一つが、フィードバックを提供する力です。気づきを与えることができるフィードバックが提供できなければ、育成を成功させることはできません。

観察のメタ認知

フィードバックは、正しい事実の把握から始まります。部下の様子を観察し、正しく事実を把握した上で、何をフィードバックするのかを考える必要があります。上司は、部下の言動や成果に不満を持つことがあります。しかし、この不満をそのまま、部下に伝えても、気づきを促すことは難しいです。そこで、不満に感じたことを、観察した事実として伝える準備を行う必要があります。

 

私は、何に不満を持っているのか。

それは、部下のどのような言動なのか。

それは、どのような結果なのか。

それは、どのような状況なのか。

不満の原因を理解し、その上で、不満の原因となる事実に目を向けます。事実の中でも、特に注目する必要があるのが、「行動」です。

 

私が不満を持っているのは、部下のどのような行動なのか。

なぜ、その行動が望ましくないのか。

その行動が、どのような結果をもたらしているのか。

理想の行動は、どのような行動なのか。

 

フィードバックは、実際の行動、行動の結果、理想の行動の3点で行うことがポイントです。そのためには、まず、部下の様子を観察し、課題をメタ認知することから始める必要があります。

感情に訴えるコミュニケーション

部下の行動変容につながるフィードバックの使命は、部下に気づきを与えることです。そのためには、部下の感情に訴えるコミュニケーションが期待されます。観察した事実を俯瞰した後は、いかに、その事実を効果的に伝えるかを考える必要があります。

フィードバックの3点セット

実際の行動、行動の結果、理想の行動では、行動の結果が、感情に訴えるコミュニケーションの鍵を握ります。なぜ、その行動が望ましくないのかを実感できるメッセージを考えます。

 

事例:感情に響かないメッセージ

実際の行動

依頼した資料が、締め切りを過ぎても提出されない。何の報告もない。

行動の結果

会議の開催が延期された。

理想の行動

計画的に仕事に取り組み、納期を守る。

納期が遅れる場合には、早めに相談する。

 

事例:感情に響くメッセージ

実際の行動

依頼した資料が、締め切りを過ぎても提出されない。何の報告もない。

行動の結果

資料の準備が遅れたため、予定していた会議が延期になった。複数の部署の関係者が集まる会議だったので、日程調整に時間を要し、会議の開催が2週間遅れてしまった。会議の遅れにより、全体スケジュールの見直しが必要になった。その結果、プロジェクトの納期が迫る中で、残業を強いられるメンバーも出てしまった。

理想の行動

計画的に仕事に取り組み、納期を守る。

納期が遅れる場合には、早めに相談する。

行動変容の気づきにつながる暖かく、鋭いフィードバックを与えることができるリーダーが増えることを期待したいです。

 

褒め貯金

ネガティブなフィードバックをストレートに行うためには、褒め貯金を行うことが大切です。ネガティブなメッセージは、ポジティブなメッセージよりも、3倍大きく心に残ると言われています。このため、3回褒めておくことで、始めて、ネガティブなフィードバックを1回できると言われています。

現在のリーダーの皆さんは、誰からも褒められないで育った世代です。このため、褒められることにも、褒めることにも慣れている人が少ないです。このため、褒めることも、ネガティブなフィードバック同様に、新しいスキルセットとして習得する必要があります。

小さいことでも、日頃から、見つけたら褒める、気づいたら褒めるという習慣を心がけることが大切です。 人は、人柄を褒められるのが一番嬉しいそうです。褒める際には、思いやりがある人、誠実な人、勤勉な人等々 人柄に注目し、具体的な事実を添えて伝えることがポイントです。2番目に嬉しいのが、業績を褒められることです。具体的な成果物や実績などを褒めます。

オランダのシチズンシップ教育ピースフルスクールでは、幼児期から、ポジティブなメッセージを伝える練習をしています。お友だちのよいところを見つけて褒めることは、日常生活の一部になっています。例えば、「今日の人」に選ばれた子どもが、バッチを付けて一日を過ごします。「今日の人」は、その日一日中、みんなから褒め言葉のシャワーを浴びることになります。小さいうちから、このような練習をしておくと、おとなになっても、苦労なく上手に褒めることができるようになるのではないかと思います。

フィードバックの受け止め方

リーダーが育成に取り組み始めると、受け手側にも、フィードバックを正しく、前向きに受け止める力が必要になります。前提として、自分を成長させたいという意思があること、そして、リフレクションの習慣があることが大切です。フィードバックを受け取った後に、気づきを行動変容に繋げるためには、自己内省が必要になります。

なぜ、その行動をしてしまったのか。

自分は、その時何を優先していたのか。

自分は、なぜ大切なことに気づけなかったのか。

この出来ことから自分は何を学べるのか。

同じことを繰り返さないために、何に気をつければよいのか。

自分に問いかけなければ、わからないことがあります。

フィードバックをきっかけに、リフレクションを行い、根本原因を把握することができれば、大きな成長の機会となります。

ものの見方

人材育成に関与すると、課題となる行動の背景にある思考と感情に目を向ける重要性を感じることが多いです。人が行動する際には、その前提に何らかの判断があります。その判断の前提には、ものの見方があります。ものの見方は感情と繋がり、判断を支えています。このため、行動を変えるためには、ものの見方を俯瞰する必要があります。自己成長においても、メタ認知力が大切なのはこのためです。

部下のメタ認知力を高めるリーダーが増えることを願って、人材育成力の向上に貢献して行きたいと思います。

 

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