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子供の成長に寄与する小学校の先生たち

2021.08.23文部科学教育通信掲載

日本では、新学習指導要領、GIGAスクール構想がスタートし、世界では、学びの羅針盤2030が発表され、時代が求める教育の姿が、より明確になっていう実感があります。

一方で、学校現場の現実については、メディアの偏った報道を通して理解することが多く、教育現場のリアルを正しく理解できていないのではないかと感じています。

 

現実は?

どんな改革においても、それを成功させるためには、ありたい姿と、現実の2つを正しく理解することが欠かせません。改革を望む人々は、ともすると、ありたい姿にばかり目を奪われがちです。しかし、ありたい姿を実現するために最も大切なことは、現実の中でも最も厳しい現実を直視することであると、ビジョナリー・カンパニーの著者ジェームス・C・コリンズは述べています。

そこで、教育現場の現実を理解するために、先生へのヒヤリングを始めることにしました。今回の記事は、首都圏の公立小学校の先生に伺ったお話を中心に、書かせていただきます。

 

仮説

10年前に、教員養成に従事していた際に、「授業の準備のための時間が取れない。子どもたちと向き合うための時間がない」という声をよく耳にしました。この環境は、今もそれほど変わっていないのではないかという仮説を持ち、お話を伺いました。

 

市場ディマンドの原理

親が期待する「我が子」へのサービス → 先生の仕事が増える

先生が多忙になる理由の一つに、親の存在があります。最近の風潮として、学校に対する要求が、市場ディマンドと同じようになってきているという先生は多いです。特に、インターネット社会になり、大量生産大量消費の時代が終わり、個別最適化されたサービスに慣れ親しんでいる親世代が、学校にも同様の要求を求めるようです。

例えば、学校に電話をかけ、「家の子を、○○ちゃんの近くに座らせないでください」と要望を伝える親もいるそうです。子どもが嫌いなお友達とは距離を置けるように、親が先生にお願いをすることで、子どもは、快適な環境を手に入れることができるのかもしれません。しかし、本当は、社会人になるまでに、少し苦手だと思う人とも交流する練習をしておいた方が、幸せになれるのではないかと思います。それでも、先生は、保護者の期待に答えることを求められています。

放課後は、職員室で、先生たちが電話を奪い合うという話にも驚きました。学校で起きた出来事を親に報告するために、先生たちが電話を使用するのだそうです。ちゃんと報告をしておかないと、逆に、親から電話がかかり、「うちの子のかすり傷のことを、先生は知っていましたか」と追求されたりするのだそうです。

20年前に、息子が小学生だった頃にはなかった様子です。親が携帯を持つようになったことも、蜜な情報共有を求める背景にあるのかもしれません。

学校に対する苦情を、教育委員会に連絡する親もいるそうです。教育委員会は、電話を受けた以上、責任を持って対応する必要があります。このため、親の苦情は、教育委員会から学校に降りてきます。そのような苦情については、真実は何か、何が本当の課題だったのかを確かめるということにはならず、手続き的な対応が迫られます。その内容がどうであれ、苦情に関係している先生は、その対応に時間を割かなければなりません。

 

子どものストレス

子どものストレス → 先生の仕事が増える

首都圏に暮らす子どもたちは、ストレスを抱えています。塾やおけいで、お友達と遊べなかったり、昼も夜も、勉強しなければならない等 子どもたちも多忙です。先生は、子どもが、塾に通い始めると、すぐに解るそうです。疲れていたり、何か、いつもと様子が違うそうです。学力だけでは充分ではない時代、英語やプログラミング等、子どもへの期待は増大し続けています。子どもにとっても、親の期待に答えるのは、容易なことではありません。子どものストレスは、子どもの問題行動に繋がることもあります。

 

厳しい指導

厳しい指導ができない → 子どもの問題行動の指導が難しい

企業でもハラスメントが問題となる中で、部下との接し方に悩む上司がいますが、学校でも、体罰禁止が厳しく徹底されるようになり、厳しい指導も、やり難くなったといいます。厳しい指導に対して、「先生、教育委員会に言いますよ」と、冗談なのか本気なのかわからないような発言をする子どももいるようです。その結果、子どもの問題行動の指導も、難しくなりました。

 

調査・報告・アンケート

調査・報告・アンケート → 先生の仕事が増える

健康診断も、各種の調査報告も、子どもたちに関するものは、すべて先生が取りまとめているのが現状です。健康診断等 同じテーマでも、国と自治体でフォーマットが異なるため、同じような質問に、複数回入力が必要な調査もあるようです。子どもたちも、類似した目的の複数のアンケートに、何度も答えなければなりません。データ駆動社会を実現するのであれば、まず、教室で行われている調査・報告・アンケートの一本化から始めるとよいのではないかと思います。

 

教育改革による多忙化

教育改革 → 準備から実施まですべて先生が担う

GIGAスクール構想で、一人1台のパソコンが支給さえると、パソコンに番号を振り、パソコン管理棚に設置するのも、先生の仕事です。それが、どれほど子どもたちにとって良い取り組みでも、なんでも先生任せという考えは違うのではないかと思います。新しい取り組みを導入するにあたっては、学校現場の工程表を作成し、工数を計算し、必要なボランティアを募る等の配慮が必要なのではないかと思います。

 

休憩のない1日

学校には、先生の休憩時間はない

先生には、休憩がありません。給食指導があるため、昼食時に、先生が休憩を取ることが出来ない日本の学校では、午後に別途45分間の休憩時間が用意されているようです。しかし、多忙な一日を過ごす先生方は、いつのまにか、この45分間も仕事をするのが当たり前になっています。オランダに教育視察に訪れた際に、先生たちには、休憩室があり、お昼時間には、先生がお昼休みを取ることができるように、保護者が子どもたちを当番で見ていました。

 

先生にとって一番大事な仕事

目指すべきは、子どもたちに向き合う時間の最大化

先生が、その使命を果たすために最も大切なことは、子どもたちと信頼関係を構築することです。子どもたちとの信頼関係が土台にあることで、学習指導も生活指導も、効果的に行うことができます。当然ですが、先生が、子どもたちとの信頼関係を構築するためには、一定の時間を要します。また、信頼関係を構築するために必要な時間は、子どもたちの状況によって異なります。過去に、先生との信頼関係を気づけなかった子どもは、新しい担任の先生に対しても、すぐに心を開くことはなく、信頼関係を構築するのに時間を要します。先生にとって、いちばん大事な仕事の一つが、子どもたちと向き合うことであるにも関わらず、その時間を充分取ることができないというのは、先生にとってストレスの原因となっているのではないかと思います。

子どもたちとの信頼関係を構築し、日々、子どもたちに必要な学習指導、生活指導を行い、子どもたちの成長に寄与している実感を持てることができれば、間違いなく、先生は、やりがいのある素敵な職業だと思います。そのために、親、企業、社会、行政が協働する社会を実現したいです!

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